第3話
『女子隊員情報を奪取せよ!』
(挿絵:シェンナ隊員)
この日、ボスからオオカミ宛に電報が届いた。
【ボス ブジトウチャク アンシンセヨ】
「古いなぁ……いつの時代だよ」
「ボスの田舎はど田舎だからなまぁ、仕方ないさ」
「なんだ? この30年くらいずれている電報は。だれかのじいさんからか?」
ちょうどそこへやって来たタイガは、オオカミから取り上げた電報をまじまじと見つめた。
「いえ、ボスからです」
「ボス……だと?」
タイガは電報を破り捨てると、ボスの使っていた椅子の上にドカッと座った。
「お前達!わかっているだろうが今のボスはこのオレだぞ」
「わ、わかっておりますよ……タイガ様」
「フン」
そうして、タイガは不機嫌そうに自室へ入っていった。
「お、オレ。タイガ様怒らせちゃったかな……!?」
「お前気をつけろよ。そのうち背後からあの鋭い爪でブシャー……とか」
「原子分解されて痛みもなく消されるとか……」
「そ、そんなぁ……」
「いや、そうじゃない」
と、一匹のオオカミがぽつりと漏らした。
「タイガ様は昨日OFFレンの女に教えてもらった電話番号のメモをなくしちゃってイライラしてるんだよ」
すると、タイガの部屋から普段の彼からは考えられないような貧弱な声が聞こえて来た。
「ないよぉ~……あそこかなぁ……ここにもないよぉ……」
「……な?」
オオカミたちは、大きく溜息をついた。

「なんですとーーーっ!?」
突然グリーンが本部中に響きそうな大声をあげる。グリーンの前にはしょんぼりしている女子隊員たちがいた
「だってぇ……あの上手い口調についつい乗っちゃって……」
「だからって……住所やら学校の出席番号まで詳しく教えてしまうなんて……」
女子隊員たちは先日のタイガのしつこい聞き込みにより、個人情報をこれ以上無いというほど教えてしまったのだった。
「とりあえず。個人情報がオオカミたちの手に渡ってしまっては女子たちが危ない! なんとか奴らから取り返しましょう」
グリーンの緊急出動命令を受け、隊員たちはすぐさま本部を飛び出して行った。
「ない……ない……何処にもない!!!!」
その頃。タイガの部屋から漏れてくる彼のイライラした声と激しい物音を聞きながら、オオカミ達は困惑していた。
「タイガ様ずいぶん荒れてるなぁ……」
「そりゃぁ俺達だっていい女からの電話番号を無くすとキレるだろうけどな」
そんな時、タイガの部屋からものすごい声が聞こえてきた。
「ウガァァァァァッ!! ガォォォォーッ!!」
突然のタイガの咆哮に、オオカミ達は飲んでいた水やらコーヒーやらを噴出した。
「ど、どうしたんだ!?タイガ様は!?」
オオカミが部屋に飛び込むと、荒れに荒れた部屋の中でタイガがものすごい形相で暴れまくっていた。
四つん這いで走り回り、散らばった衣類に噛み付いては振り回す。まるで本物の虎のようだ。
「た、タイガ様!落ち着いてください!」
「ウガァァァァァァッ!!!!!」
オオカミはタイガを止める事ができなかった。というより止めれば大変になる事は明白だった。
「こ、こういうときは説明書!タイガ様の取扱説明書だ!」
「そ、そうだな……えーと……」
「ここに書いてあるだろ。タイガ様は怒りが頂点に達すると虎の本能が目覚めてしまう為注意」
「……つまり今は理性が切れて完全な野獣になってるってことか……」
「なら当分この部屋に閉じ込めておくしかないな」
荒れ狂うボス代理を遠めに、オオカミたちはそっと扉を閉めた。その時である。
「オオカミ!」
ちょうどOFFレンが突入。もちろんオオカミは気づいていたが、とても立ち向かう気になれなかった。
「なんだ……OFFレンジャーか……」
「っと、なんか気が抜けますねぇ……どうかしたんですか?」
「タイガ様が……な」
そんな時、グリーンは何やら物音の聞こえる奥の部屋に気がついた。 オオカミ達がわざとらしく部屋から目を逸らしている。
きっとあそこに隠してあるのだろうと、グリーンはそこへ向った。
「あぁ、待て!そこは!」
グリーンはオオカミが必死になって止めるのを見てさらに確信した。
「やっぱりここですね!」
グリーンが扉を勢いよく開けると、タイガがやっぱり暴れまくっていた。
「虎を飼いはじめたんですか? オオカミ軍団は」
「いや、これが今度新しくボスになったタイガ様だ。ちょっとある事情で野獣化してるがな」
「ま、まぁいいでしょう。とりあえず女子隊員の個人情報を探さないと……」
タイガの暴走に邪魔されながら、隊員らがメモを探して既に数時間が経過。全くそれらしき物は見つからなかった。
「みつからないなぁ……」
「あ、そういえばあの後自分のペンダントにしまいこんでたような!」
ホワイトが手を叩いて声をあげる。そういうことはできれば早く言って欲しいと傷だらけの男子隊員達は思いつつ彼の方に目をやった。
鋭い牙をむき出しにしながら、衣類の山を引っ掻きながら吠えているタイガ。その首元に何か光る物が確認できる。
「とりあえずタイガの暴走を止めるには!女子隊員のみんなしかないっすね」
「えぇ~!?私達が!?」
「とりあえずセクシーポーズでも熱い吐息でもなんでいいからやっちゃってください」
「何でグリーンそんなことしか思いつかないわけぇ……」
「何でもいいから!!」
男子達の圧力に、女子隊員はしぶしぶとタイガに歩み寄った。
「はーいタイガく~ん。いい子だからそのペンダントみせてくださいね~♪」
ホワイトが今まで聞いた事のない優しい声を出したので男子隊員は鳥肌が立つ。
後ろを向いているにも関わらず、ホワイトが振り返り、彼らをキッと睨んだ。
「にゃ~ん♪」
すると、タイガは先ほどまでの凶暴さが消えうせ、ホワイトのひざでゴロゴロと甘え始めた。
「(ぶ、ぶっ殺す……)」
このときブルーは彼に殺意を覚えたが、誰一人それに気づくものはなかった。

「よしよし……いい子だからねぇ……」
「にゃーん♪」
ホワイトはタイガの首元の蝶ネクタイに手をやった。その中央の金属部分を開くとそこにはメモの束が。
「……取った!」
ホワイトは30枚分はあろうかと思われるメモの束を取り出した。
「よし!ホワイトよくやった!」
「じゃそういうわけで私らは帰りますんで」
OFFレンは、そのままそそくさと退散していった。
「ハッ!オレは一体……」
それから5時間後。タイガようやく我に帰って荒れ果てた部屋を見回した。
「だ、誰だ!! オレの部屋をこんなにした奴は!! おい、オオカミ!!」
まったく暴れていた時の事は覚えてないらしく、タイガは再び顔を真っ赤にして怒りだす。
オオカミもさすがにどっと疲れて、うなだれてしまっている。
「くそー! メモ無くすし、部屋はめちゃくちゃだし、どうなってんだよー!」
「た、タイガ様。もう諦めてみてはどうでしょうか? ないものは仕方ないし。また聞けばいいですよ」
「そうするかなぁ……ぉ! そうだ! 確か覚えている電話番号が一つだけあるぞ! そこからまた他のを聞き出せばいい!」
タイガは嬉しそうに携帯を取り出してボタンを押し始める。
とりあえず機嫌が直ってくれて、オオカミ達はほっと胸をなでおろした。
【……ガチャッ……ハイ、川崎食堂です】