第4話
『私を野球観戦に連れてって』
(挿絵:グリーン隊員)
【野球中継の為。7時放送の番組は中断させていただきます】
このテロップが出た瞬間チャンネルを変える家庭も多いはず。例にもれずOFFレンもそうであった。
「7時からのアニメ期待してたのにぃ~(涙)」
「ちくしょぉ……」
OFFレンがぶつくさ文句を言っているちょうどその頃、オオカミたちは野球中継を見ていた。
「タイガ様~。他の番組見ていいですかぁ?」
「ダメだっ!今日は阪神巨人戦だぞっ!今度こそ阪神には勝ってもらわないとな!」
小さなTVのまん前で、オオカミ達のボスであるタイガは興奮していた。
手にはメガホン。頭にハチマキ なにもかも野球観戦スタイルだ。
「そこだっ! 行け行け! あっ! 打った! 打った! よくやった!」
狭い部屋の中でタイガが叫びまくる。だがオオカミは誰一人として喋らない。
白熱しているタイガからしてみれば、そんな彼らが信じられなかった。
「どうしたお前ら!? 野球嫌いか?」
「嫌いです。大昔に延長されて深夜のエロ番組のビデオ予約を失敗して以来大嫌いです」
そう言って、オオカミたちはゾロゾロと部屋を出て行き、部屋に残ったのはタイガ一人。
「何だよあいつら……つまんねぇの……」
一人ぼっちのタイガは、TV画面を向いた。6回の裏、1-2で巨人が有利だった。
大好きなタイガースでも、一人で応援するのはやっぱり何だかつまらない……。
「タイガ様は、俺らのボスにふさわしいのかなぁ~……」
「以前のボスのほうが……よかったかもしれないなぁ……」
あれからオオカミたちはずっと大広間でゴロゴロしていた。何十人もいるので非常に動物臭い……。
その時、乱暴にドアを開けてタイガが入ってきた。
「オイ!お前ら!今度の巨人×阪神戦見に行こうぜ!」
「タイガ様~俺達野球嫌いだって言ったじゃないっすか」
「野球観戦はいいぜ~!きっとお前らも好きになる!じゃそういうわけでチケット人数分」
タイガはそう言って、チケットの束をオオカミたちに見せ付けた。ざっと数百人分はある。
「こ、こんなにですか!?」
「大丈夫大丈夫! コネでただで貰ってきた! オレはS席な! お前らは適当にどっかいけ」
「は、はぁ……」
「試合はあさってのナイターだ。まぁしっかり準備しろよな」
ドンッ!とばかりに札束のようなチケットを床に投げ捨てると、タイガは鼻歌を歌いながら部屋を出て行った。
「このチケットところどころ焦げてたり血がついてたりするけど……?」
「怪しいもんだな」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
その頃、本部では早めに来ていたブラックが大声を上げていた。

「昨日遠征行ってたのに!録画できてねーっ!!」
「昨日野球なかったんじゃないの?」
「急に入れたんだよ試合」
「ふーん……フジテレビが良くやってる奴だね」
「これで3回目だぁ……ムカつくぜ。ったく!!」
「どっかの悪役みたいな台詞回しは良いから。諦めなよ」
「こういう時野球嫌いだぁ……」
「またあさって野球あるよ?」
「またかぁ……雨乞いでも誰かしてくれないかなぁ……シルバー?」
「なんでワタシなんですか……」
そんなこんながあって野球観戦当日。タイガは朝からやけに張り切っていた。
「よぉし!今日は待ちに待った巨人阪神戦!!!お前ら気合入れていくぜぇ!」
ハチマキやらメガホンやら一見危ない少年だが本人はかなりやる気だった。

「タイガ様。ユニフォームは着ないので?」
「何言ってんだ。サッカーじゃないんだぞ! それに……オレの姿だけで応援になるじゃないか」
よくよく見るとタイガの毛並みはつややかになっていた。昨日お風呂が長かったのはこのためだったのかとオオカミは思う。
「へぇ~……綺麗になってますね」
「コラ触るんじゃない!お前らのノミが感染るだろ!」
「いや……綺麗だなぁっておもって」
「フン、あたりまえだ。お前らとは格が違うんだ格が」
「とりあえずそろそろ準備しましょうよ」
「オレはもう準備万端だぜ!チケットもあるだろ?」
「ハイハイ。ちゃんとあります」
「よしよし。オレのチケット出せ」
チケット係のオオカミがカバンの中をごそごそと探し始める。しかし、その顔はだんだん青くなってくる。
「…………あれ?」
「まさか……ないのか?」
「オオカミ全780人とタイガ様で781枚のはず……1枚足りませんね」
「オイオイオイオイオイオイオイオイオイオイィィィィィィ!!!!!」
タイガの顔つきが危なくなってくる……。覚醒しないようにオオカミたちはタイガを慰めようとしてみた。
「大丈夫ですよタイガ様!オイ!誰かタイガ様のチケット知らないか?」
「知らないなぁ……お前じゃないのか?」
「違うよ。お前か?」
「なわけねぇだろ。お前か?」
「違うって。お前じゃないの?」
「いや……違うぜ。お前だろ」
「違うよ。お前か?」
「なわけねぇだろ。お前か?」
「違うって。お前じゃないの?」
「いや……違うぜ。お前だろ」
「違うよ。お前か?」
「なわけねぇだろ。お前か?」
「違うって。お前じゃないの?」
「いや……違うぜ。お前だろ」
「違うよ。お前か?」
「なわけねぇだろ。お前か?」
「違うって。お前じゃないの?」
「いや……違うぜ。お前だろ」
「もういいっ!!!お前ら全員ぶっ殺ぉぉぉぉぉす!!!ガオーッ!!!!」
タイガが暴れだすと、オオカミは手馴れた動きで周りを取り囲んで壁を作った。なかなかナイスな対応である。
「覚醒したぁーっ!!!」
「誰だ!タイガ様のチケット触ったの」
「あ、そういえば昨日OFFレンの本部に女子の下着盗む為に忍び込んだ時……」
「オオカミ286号。何か知ってるのか?」
「チケット持って行っちゃって俺いらないから捨てたんすけど……あれかも」
「きっとそれだ。よし。OFFレンに見つからないうちに早く取り替えそう」
そして、本部ではしっかりチケットが見つかっていた。
「うわっ!!!誰だこんな所に野球のチケット捨てた奴」
「オレじゃないよ」
「僕も違う~」
「ワタシも~」
運悪くOFFレンに見つかった瞬間に、オオカミたちが部屋の中に飛び込んできた。
「あぁっ!それだ!チケット!それ俺達のなんだ」
「早く返してくれればお前達に危害は加えない」
しかし、取り返すより先に、オオカミの開けたドアから突如スキマ風が吹き、チケットは窓の向こうに飛んでいった。
「あぁーっ!!チケットが追いかけろぉ!!!」
オオカミは慌てて退場する。
「って言うかなんでここ地下なのに窓があるんだ……?しかも窓の向こうは町並み並んでるし……」
「ミステリーだな」
それからオオカミの努力も虚しく、チケットはふわふわ飛んで行き、運悪く海の藻屑へと消えて行った。
「あ~ぁ……タイガ様……怒るだろうな……っていうかもう怒ってるけど」
「とりあえず……帰ろうぜ……ってあぁっ!これがS席チケットだった」
オオカミ394号が取り出したのはまさしくタイガのチケットだった。
「ポケット(?)に入れたまま忘れてたんだな」
オオカミ達は急いでタイガの所へと帰ってくると、タイガはチケットを手にするなり、頬ずりするほど喜んだ。
「はぁぁぁーっ!チケット!もう離さないぜっ!」
「よかったっすねタイガ様。さぁいきましょうか」
「あぁ……」
そして野球場では……。
【本日の阪神巨人戦は雨により中止いたします】
日本はその日、記録的な大雨を迎え、洪水や床下浸水なんかが起こったそうだ。
でも、一番酷い水害は……やっぱりタイガの目のなか……かも
「オレの……タイガース(涙)」