第5話
『雪だるまの御殿』
(挿絵:ブルー隊員)
ここはいつものOFFレンジャー指令本部……。
「最近暑いよねぇ……。夏はまだ先だというのに……」
「それはいいけどさぁ……。ここに涼みに来る人多いよねぇ」
「まぁ、いいじゃん金払っているのはこの真上の通天閣なんだから」
「っていうより市民の税金だよね」
「税金は有効活用しなきゃ~」
OFFレンジャーはここのところ一人として休んでいない。
なぜならここにはクーラーがあるからだ……。
「どうでもいいけどさぁ。冷蔵庫の前で涼んでる雪だるまどうにかしてくんない?」
ホワイトがうちわで顔を仰ぎながら男子隊員の溜まり場に声をかけた。
男子隊員は君がいけよとばかりの素振りを見せたが、従ってしまうのが男の性だ……
「雪だるまか……。この前は誰だっけ?」
「昨日は外回りの営業さんでしょ、その前はエイリアンの団体さん……」
ここはかなりの冷涼ポイントなのかは知らないが、ここ最近様々な人がやってきていた。
もしかして、どっかの雑誌にでも紹介されたのかな……?
「あのぉ~……?」
仕方なくグリーンが冷蔵庫前の雪だるまに声をかけた。『隊長だから』というレッドも受けた事のある納得のいかない決定方法だ……
「雪だるまさん。こっちもボランティアで涼ませているわけじゃないんですが」
「……だって暑いんですよ?」
雪だるまは訴えかけるような目でグリーンの言葉に答える。
言葉を発するたびに寒い吐息が出るためグリーンはくしゃみを何度もした。
「あなた雪だるまさんでしょ? 雪だる……くしゅん!……雪だるまはもう季節外れなのでは?」
「雪だるまは冬にしかいちゃいけませんか?」
「いや、そういうわけでは……」
グリーンが雪だるまのペースに巻き込まれていくことは周りからも見て取れた。
そして長々と話を聞いた後グリーンが上手くまとめてみた。
「……つまり、雪だるまの冬の帰省ラッシュに遅れてしまい冬まで帰れないと……」
「はい」
「で、暑がりなんでここで涼んでいると……」
「はい」
雪だるまは淡白に答えた。グリーンの困惑の目が隊員に向けられたが、みんなは目をそらす。
「どうすれば帰っていただけますか?」
「……じゃぁ冬まで耐えられるように何かしてくださいよ」
雪だるまの急な物言いに困惑してしまったグリーンは、ふとそばの本に目をやった。
日本の四季の姿が書かれているこの本には大きなかまくらの絵が描かれていた。
「そうだ。かまくらを作りましょう」
「かまくら? 雪なんてないじゃないか」
「雪はないけど……氷とかあるじゃないですか!」
「氷なんて……どうやって作るのさ」
「あ、そうですね……」
せっかくの良い考えだと思ったが、隊員たちのツッコミでまたも振り出しに戻ってしまう……。
「あ、でもアイスクリームならあるじゃないですか」
雪だるまがクーラーの前で勝手にアイスを食べながらOFFレンに提案した。何様だこいつは?
「アイスクリームでかまくら?」
「かまくらはダサいんじゃない? いっそアイスクリームの御殿でも建ててみる?」
「アイス御殿かぁ……いいんじゃないかな?」
「アイス御殿!?それいい!すっごくいい!是非お願いしますね。あ、それと内装の事なんですけど……」
アイス御殿計画を聞いてはしゃぎだす自己中な雪だるまを前に、OFFレンジャーは苦笑するしかなかった。
「暑い暑い暑い暑い暑い暑い暑ぃぃぃぃい!!!!!!!!」
その頃、オオカミたちのいる狭い部屋の中でタイガが暴れていた。
「クーラーはないのか!クーラーは!」
「2年前に壊れちゃいました」
「扇風機は!?」
「去年壊れました」
「……団扇は?」
「今壊れました」
タイガは暑さで暴れだした。怒りで虎の本能が目覚めてしまったのだ。
「ガォォォォォォォォっ!!!」
「タイガ様ーっ!お気を確かに!!」
【アイス御殿建設予定地】
とりあえず手ごろな土地を見つけて勝手に建設予定地にしてしまったOFFレン一同。
「さて……建設予定地も決まったし。あとはアイスだね」
「アイスなら僕らで作った方が」
「あ、それダメです」
雪だるまが団扇をパタパタ仰ぎながら止めに入る。
「市販のアイスのほうが私の好みなんです」
「好みたって……資金は……?」
「正義の味方が金を出し惜しみするのはダメですよ?」
「つまり出せってことね」
雪だるまはこくんとうなずいた。
「はじめからこうすりゃよかったんだよなー♪」
暴れていたはずのタイガは、さっきとは打って変わって涼しげな顔をしていた。
「大変だったんすよ……タイガ様」
「わかってるわかってる。お前らにも少しだけ分けてやるからさ」
タイガのご機嫌の理由。それは、オオカミが町中の氷という氷をかき集めてきたからだった。
もちろんアイスクリームもすべて買い占め……いや、盗んできた。
「やっぱオレのかき氷の好みとしてはレモンかみぞれか……しかしメロン味も捨てがたいぜ……」
「あの、タイガ様、俺達の分け前は……?」
「ん?そうだな……オレの嫌いな抹茶とか宇治金時やるよ」
「そ、そんなぁ……」
タイガはオオカミの声を無視して、アイスの山の上でねっころがった。
「オレ様幸せ……」
【アイス売り切れ】
町中どこへ行ってもこの張り紙が目立つ……。まぁ大体原因は予測できるけど。
「あいつらのことだからなぁ……もうアイスは全部食べちゃっているかもしれないしぃ……」
「そうだよねぇ……。雪だるまさんどうします?」
「いや、作ってくださいよ」
「作ってくださいよって……アイスが売切れなんすけど……」
「じゃぁ取り返しにいってくださいよ常識でしょう?」
……というわけで。緑、黒、黄、水の4人はオオカミたちの基地にやってきていた。
「何で雪だるまに常識人ぶられなきゃいかんのだか……」
「まぁ、いいじゃん……。あ、ついたぞ」
【時々猛虎注意】と書かれたドアを開けるとオオカミ達が集まってなにやら騒がしい……
まぁこの基地に限って珍しい事ではないけど。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いーーーーーーーーーっ!!!!!!!」
グリーンがひょいとジャンプすると、どうやらタイガが騒いでいるようだ
「腹が痛い!!すげぇ痛てぇよぉぉぉぉ!!!」
隊員たちがオオカミの間を割り込んで行くと、タイガが腹を抱えて苦しんでいた。表情はまるで5歳児だ……。
「タイガ様!今薬を買いに行ってますから」
「薬!? ヤダヤダ! 薬嫌いだーっ!」
「そんな文句を申されましても……なら注射は……」
「注射!? ダメだダメだ!! オレは痛いのは嫌いなんだーっ!!」
オオカミが困り果てて慌てふためいている。グリーンが紛れ込んでいる事は誰も気づかない
「ハイハイどいて!ハイどいて!」
イエローがかっこよくタイガに近寄り、聴診器を当てる。ほ、本格的だぁ……。
「……食べすぎですね。冷たい物たくさん食べたんでしょ?」
「あ、あぁ……かき氷やらアイスクリームやら数十個をタイガ様は一気にペロリと」
「なるほどね……」
イエローの診察風景はいつにもましてかっこよく見える……。普段は般若のように恐ろしいのに……
「とりあえず……その子……押さえてて」
イエローの言葉で全てを悟ったオオカミは目をつむりながらタイガの両手両足を押さえた。
「や、やめろ。……ォィ!オオカミとその黄色いの!!!(←恐怖で気づいてない)」
「タイガ様……お許しを……」
「やめてくれぇぇぇ!!!!!」
イエローは、手にした注射器からぴゅるると液体を飛ばした。キラリと光る針がゆっくりタイガに近づく。
「……ではお薬はいりまーす♪」
タイガの黄色い体が不気味なほど真っ青になると「もう安心です」と言いながらOFFレンは退散した。
多分、治ったんだろう……多分。
「……アイス御殿かんせ~い!!!!」
ついでにオオカミの所から拝借してきた大量のアイスを使い、3日かけてアイス御殿はようやく完成した。
「これでやっと私も冬の帰省ラッシュまで安心ですよ」
「それじゃぁがんばってね~♪」
それから数日後、尾布市で蟻の異常発生が社会問題となった。