第6話

『根性のある虎猫』

(挿絵:シェンナ隊員)

「ハイ、イエローですけど……」
「ハイ、ホワイトです」
「ハイ、ピンクですけどぉ……」
「ハイ、もしもし?ピーターパンです」
「ハイ、パープルです」
「ダメです!」

いっせいに電話に出たかと思えば一斉に切る女子隊員。何だ何だ!?

「誰からの電話?」
「タイガ君から……もうこれで18回目です」

そう言って女子達はうんざりした顔で携帯を閉じる。
まったく何処から調べてきたのやら……あの女好き虎小僧は……。

「で、用件はなんですって?」
「遊園地行かないかと……」
「喫茶店でお茶したいって……」
「ドライブしようって……」
「映画見に行こうとか……」
「温泉行きたいって」
「なんでパープルだけランクが上なわけ!?」
「そ、そんなこといわれたってぇ……」

女ってどうしてこうも自分の位置づけを気にするんだろうなぁ……なんて思いつつグリーンは苦笑い。

「まぁ、とりあえず。私からタイガに注意しておきますよ。ちょっと携帯貸してください」

グリーンはピーターから電話を借りると、タイガからの電話を待った。案の定すぐにかかってきた。

「ハイ、ピーターパンです」
「ピーターちゃん?オレだよタイガだよ~ねぇねぇ映画行こうよぉ!」

グリーンが似てない裏声を使っているにもかかわらず、タイガは相手をピーターと勘違いしているらしかった。
「え~……でもぉ……私ぃ映画嫌いだからぁ~……」
「いいじゃんか~!ねー行こうよー!あ、オオカミ?あいつらは大丈夫置いていくから!」
「いや……そういわけじゃぁ……」
「あいつらノミいてさぁ痒くなるしなんていうか獣臭いんだよなー。だからいこ?」
「う、うーん……(そうだ!」)」

グリーンは、何かを思いついた表情でみんなのほうを向いてOKサインをしてみせると、咳払いをして電話に話しかけた。

「じゃぁ~……富士山の上で待ってるから。かならず徒歩で来てね!」
「えぇ!? 徒歩で富士山!?」
「うん、もし……徒歩で来てなかったらぁ。私タイガ君嫌いになっちゃうかもしれないから!それじゃ」

グリーンはタイガの返事も聞かずに電話を切った。

「さ、あとは富士山の上で待つだけですね。ピーター行きましょうか」

グリーンはピーターの肩をぽんと叩いて転送装置のスイッチに指を乗せた。

「……?」







早速隊員たちは転送装置を使って富士山の山頂にやって来た。さすが日本一の高さだけあってやっぱり眺めが凄い。
とりあえずピーターだけをその場に残し、他の皆は陰に潜むことにした……。

「ここで待ってろったって……来る訳ないじゃん……」
「まぁ……みてなよ……来なかったら良い口実になるし。来たら来たで……ね?」

「ぴ、ピーターちゃ~ん!」

向こうから歩いてきたのは棒切れを杖代わりにしながら歩いてくるタイガだった。
富士の樹海あたりで迷ったらしく全身汚れきっている

挿絵

「た、タイガくん!?」

ピーターが「オイオイ嘘だろ?」の如く驚いている。まぁ、そりゃそうだろうけどさ……

「さ、さぁ……行ったとおり徒歩で3日かけてきたよ……じゃ映画行こうか」
「え、あ、うん……」

困惑気味のピーターはそのままタイガに手を引っ張られ、可哀相なことに徒歩で山頂を降りていった。

「あいつ見上げた根性してるよな……」
「なんかあれだけで映画1本作れちゃいそうだよね」







その夜。

「でね、タイガくんたらさぁ。時々幽体離脱しちゃってまいったのよ」
「へぇ~……」

再びそこで電話が鳴る。ホワイトの携帯だ。グリーンは彼女に出るように薦めると、すぐさま紙切れを渡した。

「はい、もしもし。ホワイトですけど」
「ホワイトちゃん? オレだよ~♪ ねぇねぇ。喫茶店でお茶しない?」
「え。えーと……グリーンここなんて書いてあるの?」
「? グリーンがどうかしたの?」
「え、あ、なんだハイハイ……あ、タイガくん? うぅんなんでもないの」
「あっそ……じゃぁさ! 駅前の喫茶店! どぉ?」
「え?えーと……私お茶を飲むならイギリスでって決めてるのだからイギリスに来てくれない?」
「えっ!? イギリス!?」
「ダメなの? そう……やっぱりタイガくんはそんな男だったのね」
「わ、わかったよぉ……ホワイトちゃんがそういうなら……」
「あ、そうそう必ず徒歩で来てね♪」
「徒歩ぉーっ!? そんなぁっ!」
「嫌ならいいのよ。タイガくんが私にもう二度と口聞かないって約束するなら」
「……わかったよ。オレ、イギリス行くよ」
「うん。じゃぁね」

ホワイトがメモ用紙を読み終えるとグリーンに向かって少し笑った。

「なるほど……そういうことか♪」
「そういうことですよ、ホワイト」







それからタイガがどこかへ旅立ったという噂を聞きつけた、数日後。
隊員達は転送装置を使ってロンドンに来ていた。

「あれがビックバンって奴ですかぁ……初めて見ましたよ」
「ビッグベンです。グリーン」
「ベイカー街は!?ベイカー街はどこ!?」
「3日たったけどまだ来ないね」
「ホワイトは優雅にお茶飲んでるし。何杯目?」
「まだ5杯目だよ」

初めてのロンドンに、隊員もついついはしゃいでいたその時、聞き覚えのある声が遠くから聞こえた。

「ほ、ほ、$¢£#*§¥℃♀※○★▲‡†∝⌒∂……」

向こうからタイガと思しき猫が、やはり棒を杖代わりにしてやってくる。
今度の棒切れはずいぶんと磨り減っているな……

「タイガくん?やっほーっ あれ?どうしたの?」

ホワイトが手を振って元気にタイガに話しかけた。知ってるくせに。

「お、お、オレ……やっと来たよ……お茶飲もうか……?」
「あ、ゴメーン!私もう5杯飲んじゃってもういらないから帰るね。じゃ♪」
「そ、そんなぁ……待ってよ!オレ頑張ってきたんだぜ!?」

すがるように手を伸ばすタイガの方を見る事もなく、ホワイトはフッと笑った。

「……しつこい人は嫌いよ……じゃぁね」

挿絵

ホワイトと一同は転送装置で帰っていく。タイガはぼろ雑巾のようになったままだ。

「ホワイトちゃん……そんな冷たい所もオレ好みだぜ……」







あそこまでの仕打ちにもかかわらずまだタイガは電話をかけてきていた。
てっきり、先の2件で懲りたかと思えばずいぶんとしつこい。こうなれば、とことん懲らしめるまでだ。

「じゃぁ私エベレスト山頂でまってるから。かならず倒立しながら来てね」

挿絵

猫は寒さに弱いから無理だろうと思えば、シモヤケで座布団みたいになった手で倒立しながらタイガがやって来てしまった。

「い、イエローちゃん……来たよ」
「じゃぁ遊園地であそぼっか?」
「うん」
「あ、ちょっと待って電話……え!?シルバーが大怪我!?」
「……?」
「ゴメン。私の大事なモルモットが今危ないらしいの。ってなわけでゴメンね!」
「そ、そんなぁ……」
「あ、迎えのヘリ来たからじゃぁね」







「……こ、今度はピンクちゃんだ……!」

全身シモヤケになったくせに、続いてピンクにかけてくる。今度はさらに厳しく。

「えっと、地球の島のどこかにいるからかならず自転車で来てね」

さすがにもう来れないだろうと思えば、海を自転車で突っ切りながらタイガがやってきてしまった。

「ぴ、ピンクちゃん……」
「ゴメン。急に用事が! またね!」
「そ、そんなぁ……」







「最後はパープルちゃんだ……!今度こそぉ!」

こうなればOFFレンとしても最終手段に出るしかなかった。

「それじゃぁ良い温泉が冥王星にあるからそこで待ってるね」







「タイガ様!おやめください!!」
「えぇいっ!うるさい!行くと言ったらオレは行く!」
「いくらなんでもこれは罠です!タイガ様!」
「美人は嘘をつかないんだ!オレは行くからな!」
「タイガ様ーーーっ!!!!」


オオカミの制止を振り切り、とうとうタイガはロケットに乗り込んで冥王星へ向けて旅立ってしまった。

挿絵

そんなロケットが飛んでいくのを買い物帰りのパープルとグリーンが目撃するが、

「あ、見てロケットが飛んでる(←忘れてる)」
「ホントだぁ。どこへいくんでしょうね?(←張本人)」

まさかタイガが乗っているとも知らず、二人は家路を急ぐ。ロケットはだんだん見えなくなってしまった。







それから幾月経って……。

「くそぉ……パープルちゃんが見つからない!な、なんか苦しい……宇宙船も溶けちゃったし……」

冥王星に到着したタイガだったが、当然パープルどころか生物らしき物すら見当たらない。
さすがのタイガも太陽系の果てで泣き喚くことしか出来なかった。


「パープルちゃーん! 何処なのーっ! オレ約束どおり来たのに~~~!」