第12話
『小さな紳士!?』
(挿絵:クリーム隊員)
その日、部活帰りのホワイトは汗だくのまま本部にやってきていた。
「暑い暑い……部活でもうベトベト……」
暦の上ではもうすぐ冬でもいっぱい動けばその分暑い。
さすがにみんな忙しいようで誰も本部には来てないようだ。
「誰もいないか……」
あまりにも汗でベトベトするので本部のシャワー室に入る事にした。
「どうせタダだしね……えーと……温水温水」
本部のシャワー室はどうも温度調節の加減が難しく、被害者が続出している。
しかし、初めてシャワーを使用したホワイトはそのことをまったく知らなかった。そして彼女も同じく……。
「熱っ!熱つつつつつつつっ!!!!」
熱湯を頭からおもいっきりかぶってしまった。これは熱い……早くしないと全身やけどになってしまう!!
「ダイヤル……ダイヤル……」
熱さでダイヤルをゆっくり合わせられない……。
「あっ!」
足元に石鹸があるのに気づかず、ホワイトの身体はつるりと宙へ飛んだ。
「……姉さん……姉さん……」
誰かが私を呼んでいる……。姉さんなんてセンスない呼び方だなぁ……
「んん……ん……」
気が付くとそこに人の姿は無し。空耳かな……
「姉さん。気づかれたようですね」
まだ声が聞こえる。空耳にしてはリアルだなぁ
「ん……誰?グレー?オレンジ?」
「違いやす」
「まさかグリーンとか?」
「違いやす」
「……じゃぁ誰?」
「足元でさ!姉さん」
足元……タイルがびっしり敷き詰められているタイルが喋っていたのか
「タイルさん。何か用?」
「違いやすって!あっしですよ。姉さん」
「あれ、違った……」
声のする方向を向けばそこにあるのはシャンプーの容器……こいつか!
「シャンプー?」
「当たりです!姉さん。姉さんとようやくお話しすることが出来やした!」
「……なんで?」

「おっ!覚えてないんすかっ!姉さんはあっしの命の恩人じゃないですか!」
「命の恩人……?」
日本国民を数名救った事があるかもしれないがこんな見たことのないようなシャンプーを救った覚えはない。
いや、まてよ……どっかで見たような……ん~……どこだったっけ……。
「ホラ、先月。スーパーの売り場で!」
「売り場……あ!あぁ!あれかぁ!」
先月。本屋に行くついでに買い物を頼まれた。
買うものはシャンプー。ところがお金を貰ってなかった為に自費で払うことになった
どうせなら安いのでも買ってあとでちょっと高めの代金請求してお小遣いにしようかなどと考えていた。
「えーと……安い奴……安い奴……」
【ワゴンセール 処分品大放出!500円均一】
「……これにしよう。どうせ私が使うわけじゃないし……ね」

……という安易な理由で決めたのだった。
「あっしは人間をあれほど尊敬したことはありませんでした!あっしはあの時……」
シャンプーは自分の生い立ち(?)を語りだした。
スーパーの高級シャンプーの並ぶ棚。シャンプーの世界は厳しい物でした……。
「在庫……このシャンプーだけ売れてないな……」
あっしらの種類のシャンプーは当時若奥様の間で密かなブームだったんです……そして急にブームは去りました……
「あ、これ最近話題のマイナスイオンが含まれている奴でしょ」
「そうそう、海洋深層水も73%配合だったわよね」
「ローヤルゼリーも豊富なのよね」
そう、別なライバルの登場です。あっしは一人棚の隅でお客さんを待ち続けました……
「でよーさっきの客が」
「ギャハハそうなんだ~それってウザくね?」
そうしている間に若いシャンプーがどんどんと……同期もみんないなくなりやした……
「これ、どうします?店長」
「在庫処分セールでワゴンに入れとけ」
酷い扱いですよ……40年真面目に勤めた挙句リストラされる正社員の心境でした……
そんなときです!
「売れませんね。このシャンプーだけ」
「じゃぁいいや、返品できないしゴミに出しといて」
「わかりました。ゴミ袋とって来ます」
あっしはもう捨てられるんだと思いました……そこですよ!そこ!よく聞いてくださいよ
「あ、これ安い。これにしよ」
あっしは思いました……あと12秒ほど遅かったら……と
そして命の恩人の姉さんに一生この身を捧げようと……
「ふ~ん……」
「わかっていただけましたか?姉さん」
「ようするに……恩返しがしたいわけ?」
「そう!そうです!姉さん!」
「で、でもぉ……」
「あっしにすべておまかせを!」
「じゃぁ早速お願いしちゃって良い?」
「へい!なんでしょ?」
「今、裸なんだから出てって。馬鹿!」
というわけで頼りないお供を持ってしまったのであった……。
上に上がると少し涼しい風が吹いてきた。階段の上り口にグリーンが立っていた。
「おはよ~ホワイト」
「姉さんにさわるんじゃねぇぇっ!!」
バシッ!というものすごい音とともにグリーンに平手打ちを食らわせたシャンプー
どこかの国の映画のようにソファーの向こうに飛んでいったのはグリーンだった
「うぅ……痛い……」
「ゴメン!ゴメンね!グリーン!」
「姉さん!?お怪我はありやせんか!?」
「あんたも謝んなさいよ!グリーン腫れてる腫れてる……氷水持って来るね」
ほっぺたが赤く腫れたグリーンは目にうっすら涙を浮かべつつシャンプーを見た。
シャンプーは「自分はガンをとばされているのだ」と早合点し、グリーンの胸倉を掴んだ。

「やい!姉さんに手出ししたら容赦しないからな!この緑野郎!!」
「馬鹿っ!何やってんのよっ!」
ホワイトはシャンプーを足で蹴り上げるとグリーンのほっぺたに氷水の入った袋をそっと当てた
「なんですか……このシャンプーは……」
あまりの痛さの為だろうかすこし暗い声でホワイトに言いかかった。
「えっと、その……用心棒の押し売りって言うか……」
「あっしは今!恩返し中なんだ!わかったこの緑野郎!」
「あんたはうるさいのよ!黙ってなさい!火ぃつけるよ!」
「す、すいやせん……」
グリーンはすこし考え込むとホワイトにこう言った
「私は、腫れが引くかその乱暴なシャンプーがいなくなるまで!ホワイトの側から消え去るまで!ここに来ませんから」
「え!ちょっと、隊長……」
「私が来なくても貴方にはブルーがいるでしょうが!ブルーがぁぁ!」
そういうとブツブツ文句をたれながら帰っていった。こういうときのシャンプーの態度が非常にムカつくのであった
「おととい来やがれ!……グエッ!!」
足でシャンプーを踏みつけたら少し中身が出た
「あんたねぇ……OFFレンジャーを崩壊に向かわせているんじゃないの!?ねぇ……」
「あっしは……あっしはぁぁっ!あっしはぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
「何よ」
「あっしは……姉さんに惚れてしまったのかもしれません……」
「はぁ!?あんた何言ってんの?」
オイオイよしてくれよと言わんばかりにホワイトは大きくため息をついた。
今出来る事はこいつが変な事をしないように見張る事と崩壊を招かないように祈る事だけ。
「……邪魔だなぁ……もう」
「あっしは!姉さんにまとわりつくゴミをとにかく払います!払いますぜ!」
「払えなかったらどうするわけ……」
「命を懸けて戦う……それっすよ……姉さん……男の生き様ってぇのは!」」
「ん~……ぉ!」
ホワイトは一番身近で、手ごわくて、まぁシャンプーよりかは強いのではないだろうかと思われるゴミを一匹思いついた
「そういえば……一番ひどいゴミが……よく私にまとわりつくんだけど……」
「なんですって!許せん!あっしが息の根を絶ってさしあげやしょう!!」
これでシャンプーは自分の元から消えるかもしれない。万が一こいつが勝ったとしても、
ゴミが一掃排除できればそれでいいやと思っていた。ちょっと酷い考えだが、悪者と悪質ストーカーだと考えればこれは正義だと思えた。
敵のアジトに着く前からシャンプーははりきっていた。
さて、オオカミから排除してもらおうかしら……などと考えていると早速一匹のオオカミがこちらに気づいた。
「ぉ!ホワイトだ!お~い!女だぞ~!汝じゃねぇぞ~!」
「マジか!」
「どれどれ!」
予想通りオオカミがたくさん湧いて出た。ホワイトがお願いする間もなくシャンプーは1人戦場へと突っ込んで行った。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!姉さん!見ててくだせぇっ!!」
ドカーン……
ドカーン……
ドカーン……
聞こえるはずの無い爆発音がたくさん響き渡った。
どこかのドラマのヒロインになった気がしてホワイトは思わず涙してしまいそうだった。

オオカミが全滅した後、近くのドアが開いた。と思ってよく見れば虎少年のお部屋であった。
「うるせーなぁ……」
「あ、タイガくん。生きてたんだ」
「ん?ホワイトちゃん?さっきベッドで遊んだばっかりでしょ……」
「はぁ!?」
「あ、なんだ……あれは夢か……生きてるよ~……なんとか」
「まったHな夢見たたんだね……。最低」
「……ぐ……ぎぎぎ……」
「なんだ?オオカミの集団自殺か……?」
「うぅん。みんなやられちゃった」
「死んじゃったの?」
「安心せいみねうちじゃって感じかな。まぁ黒く焦げてるけど」
「あ、姉さんに……」
「そうだ。せっかく来たんだからオレの部屋に来ない?」
「なんで?」
「お茶でもどうかなと思ってさ」
「う~ん……どうしよっかな」
「来なよ来なよその後、一緒にデートしよ♪」
「触るんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!」
タイガがホワイトの手をつないだ時。シャンプーは最後の力を振り絞って彼の急所にアタックした。
「だっ!……ぅぉぉぉ……」
彼はすこしうめき声を上げながらゆっくり倒れていった。
その倒れ方といったらまた見事でおもわず録画したいほどであった
「ムービーメールにしとけばよかった……。 タイガくん大丈夫かなオーイ!」
棒切れでつついてみたが彼は全然起き上がらなかったこれが再起不能って奴か……
「あ、姉さん……大丈夫ですか……」
ついに中身が全て出切った様で、シャンプーはボロボロになっていた。
「だ、大丈夫……でも……シャンプー……」
「姉さんを守れただけで……幸せです……」
「シャンプー……ありがとね。あのまま部屋に入ってたら私何されてたか……」
「姉さん……すいやせん……あっしもう喋り疲れました……」
「そ、そんな……シャンプー……」
シャンプーはにっこり笑ったような気がした。
「ダメっ!死んじゃだめ!!」
「大丈夫……あっしはシャンプーです……詰め替えパックさえ買っていただければ……OKです」
「あ、なんだ」
「ガクッ……」
シャンプーは静かに(というか一時的に)息を引き取った
パチパチパチパチ……
あれからグリーン隊長も仕事に復帰。タイガくん達も当分活動を自粛。タイガくんはなんでも入院中らしいけど……
パチパチパチパチ……
詰め替えパックもちゃんと購入。これでシャンプーも安心して……
天国にいけるよね……クスッ。
