第13話
『秋桜』
(挿絵:ホワイト隊員)
その日はふとアルバムを見返していた。そしてふと、思い出したことがあった。
コンコン……。
「誰だ?」
「あの。タイガ様。お申し付けどおり買ってまいりました」
「あ、ありがとな」
「なにをされるので?」
「お前には関係のないことだ。カードも用意してあるな。よしよし」
「誰かに何か贈るつもりなのですか?」
「まぁ……な。あいつとの約束だし」
「あいつ……?」
「……もういいだろ。出ろ」
「あ、はい。それでは」
オオカミが部屋を出るのを確認して、再びアルバムを開く。
もうどれくらい前になるかな。あれから……
その日は確か、資金集めに忙しかった日だ。
朝から曇り空で空気が湿っていた。
「はあ? なんで知らない奴に金貸さなきゃいけないんだよ」
「そんな事いわないで貸せよ!」
「ダメだダメだ。あっち行け!」
「……ウ~……」
「な、なんだよその目は……」
「ウガァッ!!」
「お、オイ!ちょっと待てって!!」
「……いやー貸すだけじゃなくてくれるんだもんな~♪」
気が付いたら男は財布ごと金をやると言い出した。
オレの熱意が通じたんだなきっと。
「さて、このまま食料を……」
ちょうどスーパーの近くに差し掛かったときだ
電信柱の何処かから聞こえる小さな鳴声。
「みゃぁ」
ゴミ箱の奥でよくわからなかったが白い子猫。
ダンボールには【メスです。かわいがってください】の文字。
小さいが結構可愛い。

「みゃぁ~……」
拾って欲しいのだろうか。でもこの近所保健所だよな。保健所
「うーん……悪いんだけどオレの許容範囲12~18歳なんだよな……」
「みぃぃ……」
うぅん……非常に良心が痛む。良心なんてちょっとしかないけどさ。
「みぃ」
「まぁ、オスよりいいか……こいよ連れて帰ってやる」
「みぃ」
「おっと、まだ小さいんだったな。ホラ、このカゴに乗れよ」
カゴの中にひょいと飛び乗ると子猫は小さく泣いてオレの方を向いた。目ヤニがついている帰ったら顔も洗ってやらないとな。
「子供にも惚れられるのか?やっぱ魅力的なんだなオレ♪」
アジトまでは結構距離はあったが、子猫がいたおかげで帰りがあっという間に感じてしまった。
アジトの前に立つと子猫をカゴの奥に行かせてゆっくり扉をあけた。
「おーい。帰ったぞ」
「おかえりなさいませ」
いつものように感情のこもったようなこもってないような挨拶をされるこいつらにかまっていられないな……
「みぃ」
子猫が突然騒ぎ出すた、頼むから黙っていてくれ……。
「なんでもないぞ」
そんな期待も虚しく猫は激しく鳴き出した。
「みぃみぃみぃみぃ」
オオカミが何か言いたそうだったが無視して急いで部屋に駆け込んだロックをかけてチェーンもかけてこれで安心だ……。
やっぱりなんとなく恥ずかしかった。オレが子猫を拾ったなんて。ロリコンじゃあるまいし……。うん。
「みぃみぃ」
「可愛いなぁ……って!ダメだダメだ!クールなオレが台無しだ……」
「みぃみぃ」
「さてと……オレが拾ったからにはワルの基礎を徹底的に叩き込まないとな!」
「みぃ……」
「よし!今からオレがお前の育て親だ。オオカミに言って飯を作ってもらおう」
子猫は5ヶ月ちょっとで思ったよりすくすくと育ってもう人間で言う12~4歳くらい。
オレは悪者のアジトで育っているからには彼女にもいい悪者になってもらおうと思った。
だけど……。
「お兄様。夕飯が出来ました」
「あ、うん。ありがとな」
「今日はお兄様。の好きなお刺身にしておきました♪ 是非食べてくださいね」
「そ、そうか。すぐいくよ……」
つい、親バカと言うか何と言うか……かなり過保護に育ててしまった
しかも自分の好みに育ててしまったから仕方が無い。しかもオレをお兄様なんて呼ばせてしまった
でも……可愛いから許す。うん。親っていつもこんな感じなんだろうな……オレの親も……ってそうだオレには両親がいなかったんだった……
「あ、オオカミの皆さん。夕飯作りました。ここにおいておきますね」
「あ、でも俺達タイガ様から贅沢は禁止されてて……」
「お兄様には……秘密です。いつもお仕事ご苦労様です^^」
彼女がオオカミに内緒で優しくしてあげているのはもちろん知っていた。
オレが小さい頃からかかわらないように言っていた。変な知識を教えられたら困るからな。
すこし嫉妬心はあるものの。育てた親の何とかで……知らぬふりをした。

「いいなぁ~……あの子」
「可愛いよな。ついこの前までオムツ変えてたのに」
「タイガ様より親密な事は俺達がやってるのかもな」
「ピンクのエプロンだもんなぁ」
「名前も可愛いよな」
「うん、名前も……って名前なんかついてたか?」
「そういえば今までずっと「あの子」で通してたからな……そういえばつけてない」
「何かいい名前ないかな」
「ブルース。とか」
「男だろそれ」
「そうだな……白猫だからしーちゃんとか」
「ダサいな」
「じゃぁ……こんなのはどうだ?」
ガチャ。
「あの。お兄様?ちょっといいですか」
「ん。何だ?」
彼女は悩んだような顔をしてオレを見た。いつもは明るい子のこんな姿を見るとオレはちょっと不安になる
「あの……こんなことを聞いて失礼かもしれないですけど……」
「何だ。言ってみろよ」
「お麩レンジって何ですか?」
「……お麩レンジ?」
「お兄様の……その……好敵手と言いますか……以前から言ってる」
「あぁ、OFFレンジャーのことか。どうかしたか?」
「今日。その方たちとお会いしたんです」
「!?」
オレは思わずソファから立ち上がった。オレが一番恐れていることは彼女とOFFレンジャーの接触だ
OFFレンジャーのことだ……きっと何かこいつに酷いことをするに違いないと思っていたオレが手塩に書けたこいつをあいつらの手なんかには……
「あ、あの……ごめんなさい!」
「い、いや……お前が謝る必要は無いよ。で、何かされたのか?」
もしこいつの毛を一本でも抜いたらあいつらをボコボコにしてやると思ったあ、もちろん男子だけ。女子はそんなことしないもん
「えーと……自家農園の野菜を戴きました。トマトときゅうりとじゃがいもです」
「あ、あっそ……」
「これでポテトサラダでも作ろうかと思って」
「そうか。じゃぁりんごも入れておいてくれよ。あれ入れたら美味いから」
「はい」
彼女が立ち去ろうとすると
「……そ、その……お兄様には内緒だと……言われたので……」
「なんだ……!?」
「その。恋文を……」
「こいぶみ?」
「ラブレターです……ブラックさんと。オレンジさん。あ、こっちは隊長さんから」
ちょっと彼女が嬉しそうにしているのを見て少し、いや、かなりムカついた
な、なんなんだ……こいつはオレだけの物なのに……。
「あのやろー!!ぶっ殺す!!」
今までに無いくらい腹が立った。やっぱり親ばかなんだなとフッと思った。
「お兄様!ごめんなさい!私、この手紙返してきます」
彼女が急いでドアノブに手を掛けようとしているところを手で止めて首をおもいっきり振った。
「待て!オレが返す。お前はここにいろ。いいな?」
「……でも。こういうことは私が」
「いいから。お兄ちゃんに任せろ」
ホントは親だけど。あえてオレはお兄さんなのだ。彼女をオレのベッドの上に座らせてからオレはOFFレン本部に向かった
OFFレン本部の玄関口に来るとちょっといい匂いがした。オレは手紙をぎゅっと握り締めるとドアノブをゆっくり回した。
(オレ、こんななんでもないことで怒るなんてことなかったよな……うーん)
本部内に入るといい匂いが漂っていてロビーから声が聞こえる多分そこみんないるはずだ。オレが顔を出すとすぐにみんなは気づいた
「タイガくんだ。あ、おでん食べる?」
「今はがんもどきがしゅんでて美味しいよ」
「そんなのいらねぇよ!」
「ずいぶんきてるねぇ~」
「カルシウムが足りないんじゃないの?イエローあげれば?」
「今、きらしてて……他の薬物なら全然OKですけど」
「違う違うちがーう!!」
OFFレンは親切心で言ってくれたのだろうがオレはただの嫌味にしか聞こえなかった
「オイ!オレの大事な子猫ちゃんにラブレター渡しただろ!」
「……渡したよ」
「当然じゃん。あんな可愛い子」
「タイガだってあの子が大きくなったらHなことしよーとか思ってるんじゃないの?」
「ありえるありえる!」
「ハハハハハハハハハハ!!」
オレはそばにあった本をおでんの鍋におもいっきり投げつけた
本があたった鍋は綺麗にひっくり返りあいつらは熱いおでんを丸ごとかぶった
「なにするんだよ!!」
「あぁぁ~!!産地直送大根がぁぁ!!」
「卵たべてたのにぃぃ~!!!」
「オレの大事なあの子に触るんじゃねぇ!!いいな!絶対だぞ!」
それだけ言うと乱暴にドアを閉めて地上へと上っていった
「……お兄様」
外に出るとあいつが立っている
しょんぼりして下をうつむいていた。

「お前。こんなところで……ったく」
オレは拳を振り上げた。すると彼女は目をつぶって頭をこっちに向けた
「……!」
コツンと軽く頭を叩いた。彼女は何も言わないままオレの手を握って一言だけ喋った
「お食事……用意してます」
「あ、あぁ……」
あいつは家に帰るまでじーっとだまったままオレの手を握っていた。
もう手紙のことなんてどうでもよくなった。なんか最近のオレって情緒不安定……。
「タイガ様。お帰りなさいませ」
「ん」
いつもどおりオオカミが帰りを迎える。
「コホコホッ……」
「どうした?風邪日引いたか?」
「い、いえ……ちょっと夜風にあたりすぎたみたいで……」
「何?じゃぁ早く寝ろ。食事はオレが食べておくから」
「……ハイ」
「オオカミ、あいつにおかゆ持っていっとけ」
「は、ハイ」
実はさっきの咳。声がとても小さかった。気を使ってくれるれるのは嬉しいが……。困った奴だ。
ガチャ。
オオカミが空っぽのお皿を手に持って部屋から出てきた
ふぅ。どうやら食欲はあるみたいだな。
「あ、タイガ様」
「悪いのか?あいつ」
「熱があるみたいですね。彼女」
「そ、そうか……」
オレはその晩部屋には入ろうとしなかったが。部屋の前に立っていることにした。用心棒って奴かな。
それから数日。あいつは花畑を作りたいと言い出した。
まだ病み上がりだが……。少しでも元気になるだろうと花壇を全てあいつに貸したもうすぐ夏も終る。そうかもうすぐそんな時期なんだな
「……どうするんだ?そんなもの」
「コスモス……」
「ん?」
「風邪を引いている時にお兄様から戴いた本の中に。コスモスの花が載っていまして是非この目で見たくて」
「そんなの。オレが買ってきてやるのに」
「私が育てたいんですお兄様が私を育ててくれたみたいに」
「……そうか」
こいつも大きくなったのかと、娘を手放す父親の心境になった。
「いっぱい咲いたら……。OFFレンの方々にも差し上げてください」
「……。何故だ?」
「お兄様がお世話になっている御礼です」
「フン。じゃぁいっぱい咲いたらな。花束にして送ってやる。ほんとにいっぱい咲いたらだぞ」
「ハイ」
土を耕して笑っている彼女を見て少しドキッとしたこいつにも女の魅力が出てきたのだと思うと胸が熱くなる。
それから彼女は毎日花壇に水をやっていたついでに野菜や果物も植えた。
彼女は平等に世話をしてくれた。ちょうどオレの部屋から見える花壇毎日花壇を見るのが日課になった
いや、ひょっとしたらあいつを見るのが日課だったのかも。
「お兄様……」
「ん?なんだ」
オレが部屋から覗いているとあいつは時々話しかけてきた
「コスモスの花言葉ってご存知ですか?」
「花言葉?」
「花には全て隠された意味があるんです。それが花言葉です」
「うーん。そうだな……可愛いとか」
「フフ。違いますよ 乙女の真心です」
「乙女の……真心?」
「私も。真心こめて育てようと思っているんです。このコスモス」
「そうか。いい花が咲くといいな」
「咲きますよ。お兄様の部屋の前なんですから」
「ん。でも……一輪咲いてるじゃないか」
「あ、あれは、側の草むらに咲いてたのを、持ってきたんです」
「……。何故だ?今から育てるんだろ?」
「あのコスモスは私です」
「……?」
「お兄様がいつでも私を見えますでしょ?」
彼女はまたニコリと微笑んだ。
どうもこの笑顔にはなれていない……顔を赤らめてしまった。

オレはこの会話の後ふとある考えが思いついた。
うん。コスモス……乙女の真心……これはいいかもしれない
「オイ、お前の名前まだつけてなかったよな?」
「え?」
「これ見てて思いついた。お前の名前。コスモスってのはどうだ?」
「コスモス……ですか……?」
「そ、元気に咲いて欲しいならお前も早く元気になるんだな同じコスモスだろ?」
「コスモス……お兄様がそれでよろしいと思うのなら……私も賛成です」
「そうか……お、オイ、コスモス」
「は、ハイ……」
彼女──コスモスは相変わらず可愛かった。ただ、頑張りすぎたのかまた体調を崩してしまった。
「入院された方が……よろしいですね」
病院で主治医の奴がこんなことをほざきやがった。
「……3日で治せ。じゃないとオレの爪でお前を引き裂くからな」
「ご冗談を」
「オレは本気だ」
「では無茶な相談ですね。少なくとも1週間は必要です」
「ふざけやがって……」
「文句があるなら結構です。お帰りください」
「……」
こう来られると仕方がない……コスモスじゃなくてオオカミだったら
「あぁ、もうこんな所こねぇよ!」というのだが……まぁ仕方ないだろう
「わかった。入院費はこっちで払うから医療ミスなんてしてみろ。ぶっ殺す」
という捨て台詞をはいて置いた。
「あそうだ……あいつがいない間花に水やらないとな」
病院の電話を借りてオオカミに連絡しようとした
ところが話中だ。ん。オレのとなりでも電話している奴がいる……なんださっきの医者か。
「……私たちではどうも……えぇ」
しかたないから医者が話し終わるまでコスモスの所に行くことにした。長電話する奴だ……。
「よっ」
コスモスの部屋は大きな窓のある病室。後ろでは枯れ葉がヒラヒラと落ちている。わざわざ医者に直談判して個室に入れてもらった。
変な虫がつかないようにしないとな。オレはこいつに親であり、兄だから。
「お兄様でしたか」
あいつは病室でも綺麗だった。
読書中だったみたいでしおりを挟んで横の棚に置くとオレの方を向いて、
「過労みたいです」
口元が微笑んでいた。
「そうか、お前頑張りすぎだぞ。少しは休まないと、オレが居たからいいものの!」
「……。コスモスは枯れていませんか?」
「まで芽が出始めているばかりだぞ。安心しろ」
「そうですか……」
「心配しすぎると体に毒だぞ。オレのことを信用しろ。……さてと」
椅子から立ち上がり部屋を出ることにした。もう電話が空いている頃だろう。
「お兄様。どちらへ?」
「電話してくる」
「……。いってらっしゃい。お兄様」
「うん。お前もよく寝とけ」
「ハイ」
部屋の扉が少し重くなった気がした。
プルルルルルルルルルル……。
「ガチャ」
「は、はい。どうかされましたか?」
「……?オレだぞ」
「あ、あぁ、タイガ様でしたか……いえ、なんでもございません」
「……そうか。ならいいんだが、今日はオレ病院に泊まるから水やりは任せたぞ」
「え、そ、それはちょっとご勘弁を……」
「何故だ?」
オオカミの声が怯えている。なんだ?オレが怖いのか?
「あ、あの、コスモス様の病気は……感染すると厄介だそうなので……」
「感染?過労じゃないのか?」
「え、あ、あぁ……いえ、過労です……けど……」
「どっちなんだ!過労なのか、病気なのか」
「あ、電話がかかって来たのですいません……。とにかくお帰りください」
「……ガチャ」
「アジトの電話……キャッチホンじゃないはずだけどな……」
とにかく、今日はオオカミの言うとおり帰ることにした
看護婦に手紙を届けさせて置いたから心配ないだろう。
外に出るともう8時くらいだろうか暗くなっていた
秋の夜長ってやつかな……。
あいつの病室の明かりを気にしながらゆっくりと帰っていった
あの明かり……アジトでも見えたらな……。
そんなことを考えているともうアジトの前に来ていた。
ふぅ~……。何だか今日は疲れたぜ……。
「お~い!オオカミ!」
ガチャン!
オレが帰ってくるなり
急いで電話を切る音がした。
「お、おかえりなさいませ……タイガ様」
「長電話禁止だぞ。まったく……あいつが病気だとか言いやがって……」
「そ、それより水をやり忘れましたので……タイガ様おやりになってきてはいかがでしょう……?」
「……そうか。わかったじょうろ何処だ」
「い、いえ、ホースがありますので……」
【明日頃関西地方に台風が接近しております】
水をやっているとTVからニュースが聞こえてきたそうか。ビニールシートを被せておかないとな
そう考えているとオオカミが20名ほどよってきた
「あの……タイガ様」
「なんだ……?」
「彼女の入院。な、長引くそうです……」
「そうか……じゃぁ心配だな」
「え、えぇ……そのようで……あの……これ」
「?」
オオカミはオレに一枚のチケットを差し出した
「花の世界展?」
「ハイ。是非ご覧になってきてください」
「……なんでまたオレにこんな物」
「こ、コスモス様からのプレゼントです。心配ばかりさせていられないので少し旅行に出られてはと」
「でも水やりは……」
「私たちがやっておきます……タイガ様はご旅行に……」
「だが、アイツが心配だ」
「コスモス様なら大丈夫です……ですからなにとぞ……ご旅行に」
いやに旅行を勧める……。なんだこいつら
「だから!あいつの側にいてやらないと……」
「……本当にお願いします!!!!!!」

耳が痛くなるほど大きな声でオオカミはオレの手にチケットを押し付けたすこししわがよっている。オレはその迫力に押されて「あぁ……」と了解した
な、なんだこいつらは……
夜。ベッドで寝ていると何処からか嗚咽が漏れてきた。うるさくて眠れないぜ……。
翌日。空港に行ったが誰も付き添いには来てくれなかった。全員用事があるんだと。
仮にも俺はあいつらのボスだって言うのに……仮だけど
「……えーと。世界の花展への搭乗員は……っと」
ピンポーン。
【現在台風が接近中のため本日10時からの便を欠航いたします。誠に申し訳ありません。なお……】
外を見るとたしかに激しい風が吹き付けていた雨もいっぱい降っている。これじゃぁ無理だろう
外に出るのも無理なようで空港の係員がなにやら忙しく何かやっている
でも欠航したのなら仕方がない。よし、これくらいの台風ならオレでも……帰れるな
ガチャ……。
「そうですか……もう……あの。ホントに……」
「……そうですか……では今夜」
なにやらまた長電話して嫌がる……ったくあいつらは……
「えぇ、本日の便で……って、タイガ様!」
「ど、うしてお戻りに!」
いやに切羽詰った顔で聞いてくる。答えるのがめんどくさい
「台風で欠航だ」
「な、なら、今晩は何処かに行く用事はありませんか?」
「台風だぞ。いくらオレでもこれ以上外を出歩くのは……」
「で、では本日は近くのホテルにでも……」
「……何だお前ら。オレに隠し事か?」
「っ……」
オオカミが言葉を詰まらせた。やっぱりな……
「どうした?借金でもしたか」
「い、いえ……」
「……コスモスか」
「……」
「入院長くなりそうなのか?」
「は、ハイ……」
「ふぅ。そうならそうと早く言え。回りくどいことをしやがって」
「た、タイガ様……」
「全くお前らは……。オレは寝る。言いたいことはまた明日だ」
内心心配していたが、どうもプライドが許せなく強気な態度で自室に帰っていった。
たしかに、あいつは病弱だからな……。一瞬最悪の事態を騒々しそうになったがすぐ寝た。こういう時、寝るのが一番だ。
それから何日かたった日。嫌にすんなりと起きられた。花壇にはコスモスが少し伸びていた。もうすぐ花が咲きそうだ。
なんだかあいつと対照的になっていっているのは気のせいだろうか……。コスモスが咲いてゆくたびに、あいつが……
「タイガ様。我々が花壇見ておきますから、どうぞ病院へ」
「ん。気が効くな。オレにここにいられちゃ困るみたいじゃないか」
「い、いえ。そ、そんなめっそうもございません……」
「フン、まぁいいか。蝶ネクタイを出せ。あとブラシもよろしくな」
「は、はい。かしこまりました……」
その日の病院は妙に静かだった。
病室に行くまでに患者を誰も見ていない。今日はお休みか?
「こ、コスモス?元気か?」
「お兄様……。いらしたんですか」
「入院が長引くそうだが……大丈夫なのか?」
「ハイ。コスモスは……まだ元気ですか?」
「あぁ、ちゃんとオレが面倒見てる」
「よかった……。有り難うございますお兄様」
「ホラ、写真だ。結構育ってるだろ?」
「……そうですね」
コスモスは少し弱弱しい笑顔を見せた何だか胸が痛くなった。
「もうすぐ、花が咲くぞ。枯れても種を落とすだろ?そしたらまた花が咲くから大変だ」
「……輪廻という奴ですね」
「む、難しいが……そういうことだ!」
「フフ。それじゃぁ、お兄様。そろそろ診察の時間なので……出ていただけますか?」
「い、一緒にいちゃダメなのか?」
「お願いします」
「わかった。じゃぁまた来るからな」
「あ、お兄様……できれば、退院するまでこないでいただけませんか?」
「何故だ?オレがいると迷惑なのか?」
「いえ、た、ただ……」
「ガチャ」
「コスモスさん。そろそろ薬を……」
「あ、お医者様。ご苦労様です」
「……?何だこの薬は……。抗……」
「栄養剤ですお兄様」
「え……?」
医者がなにやら驚いている。変な奴だ
「栄養剤ですよね?」
「は、はい……そうです」
「それじゃぁお兄様。気をつけてお帰りください」
「あ、あぁ……」
何故か哀愁に満ちた喋り方だった。
部屋に帰ると窓からコスモスを見る
もうすぐだな……。つぼみがひらいている。
「オオカミはちゃんと水をやっただろうな……」
あいつらだからいささか不安だ……。まぁ、いい。花が咲いたら一本あいつのところに持って行ってやろう。
明日、明後日には咲くだろうから……な。
「ガチャ」
オオカミが数名オレの部屋にやってきた。
今度は何の用だか……
「た、タイガ様……。今夜は我々は出かけますので今夜はお1人でよろしいでしょうか?」
「……。病院にいくんだろ?」
「え、えぇ……そうです」
「何でオレはダメなんだ?」
「ですからそれは……」
いつまでたってもはっきりしないオオカミにキラリと光る爪を見せながらもう一度問いただしてみた。
「……なんでオレだけいっちゃだめなんだ?」
「も……申し上げたくありません」
オオカミは丁寧な口調ではっきりと断言した。オレは何だか馬鹿らしくなりドアを乱暴に閉めてベッドに入った
普段はすんなり眠れるのだが、今日はなんだか寝付けなかった
眠るまでオオカミたちのささやきを聞いていた。
何を話しているかは解らなかったけど……
翌日。花壇の中の5本ほどコスモスが咲いていた。
嫌に早く咲いた。あいつに持って行ってやろう。
(……オオカミはまだ帰ってないのか……)
なんだかオレだけ仲間はずれだ……もういい。どれか一輪持って行ってやろう。
「えーと。どれがいいかな……一番綺麗なの……これか」
しわくちゃにならないように大事に抱えて病院までゆっくり歩いていった。
病院までの道のりはやけに静かで、オレを導いているかのように静かに道が続いてゆく
オレの手でコロコロといじっているコスモスを気にしながら、アスファルトの上を歩いていく
「コンコン……」
「……」
いつもなら……「どうぞ」と言ってくれるのに……今日は言ってくれない
「入るぞ」
──部屋には見慣れたベッド、大きな窓、オレが買ってやった本、全部揃っていたあいつの姿はなかったけど……。
「あいつがいないと……殺風景だな」
そっとベッドの上にコスモスを置いた。
ぽーっと。部屋が明るくなった気がした。

「じゃぁ、オレ帰るから」
あいつは何処に行ったか知らないけれど……。あいつはコスモスになったと思うことにした。
さよならとは口が裂けても言わない。絶対言わない。
バタン……とそこで、オレはアルバムを閉じた。
前のことになんてこだわっていられない。オレにはあいつとの約束がまだ残っているからな
【OFFレンジャー一同様へ。 今年もいっぱい咲きました。少しおすそ分け コスモスより】
さて、これを届けた後、また花壇を手入れしないと。
今日は何だか……。女の子達に会う気分じゃない。