第18話
『うるう年の流星シャワー』
(挿絵:グリーン隊員)
……その日。ホランは空を眺めていた。
「……まさか……OFFレンにあんな素敵な人がいたとは……」
前号でも紹介したがホランは実は同性愛者なのだ。そう、しかも少年が好きなのだ。
女好きにしないように頑張ったオオカミたちの奮闘が裏目に出た結果がこれ。
しかし、彼はタイガほど恋愛に積極的ではない。それだけが救いだとオオカミ達は思っている。
「……はぁ……」
異性愛者の我々(だと思われる)にはわからないだろうが彼は彼なりに苦労している。
「……早くOFFレンを倒してグリーンとお付き合いしたい……」
ホランの心はいろんなことが渦巻いて滅茶苦茶になっていた。……が、しかし、彼がここへ来たのは物思いにふけるためではない。
インターネットで調べ上げたある計画を実行しようとしているのだ。
「……北5時の方向……。あれか」
その頃OFFレンはちょうどホラー映画の鑑賞会。
こんな季節に何故こんな事をするのかというとタイガがどうしてもと暴れまわった為に実施されたイベントである
「じゃぁ、次はどっちにしますか? 多分あった怖い話? 血みどろ小学校2?」
「どっちが怖いんだ?」
「さぁ?」
「じゃぁ……。後の奴でいい」
「あ、でもこれR-18ですよ?」
「いいのいいの。みんないいよねー?」
あちこちから「えー」とか「嫌だー」とか言う声が聞こえてくるタイガが声を太くしてもう一度聞くと満場一致で決定になった。
再生されると男子達はタイガの座っているソファから3m離れる。女子達はタイガのソファの前で1列になる。
「怖くなったらいつでも抱きついていいからねー♪」
一同は彼に見えないように首を振る。
そしてTV画面に目をやるとこのビデオの試聴は~といいった定番の画面が出る。本編が始まるといきなり悲鳴が巻き起こった。
「せ、せんんせぇ~……せんせぇ……」
「こ、こないで……こないで……」
「こっちのせんせぇがおいしいよぉ……」
「キャーッ!!」
……話は滅茶苦茶だがスプラッタな描写がそんなことを気にしないほど凄かった。
オレンジという尊い犠牲を出してしまったがようやくビデオは終了した。
「怖かったねー。タイガくん」
「……え?何が?」
「あの子供たちが教頭先生にかぶり付く所とか。ハラワタで首を絞められるのとか」
「お、オレは全然怖くなかったぜ♪」
「ずっと笑いながら見てたもんねー」
「タイガくん男らしいね♪」
──笑顔のまま気絶していたなんて口が裂けても言えねぇ……──
ひゅるるるるるるるるるるるるるるる……
「タイガくんって勇気あるんだー♪」
「ちょっと惚れ直しちゃったかも」
「惚れてたの?」
「ううん別に」
ひゅるるるるるるるるるるるるるるる……
「でもねー。よく考えるとあのビデオB級臭さ丸出しだよね」
「そっかなー」
「でもB級じゃないとは言えないね」
「はいはい。もう夜も遅いですから皆さん部屋に帰りましょ」
ちょうど隊員たちが部屋に帰って寝ようとしていた時
ひゅるるるるる……ドカッ
……何かが墜落した。
「隕石だー」
「タイガの部屋に落ちたぞ!」
一同が廊下に出るとタイガの部屋からは煙が漏れていた。
心配した隊員たちがドアを開けようとするとブルーが呼び止める
「待ってくださいっ!危険っすよ!!」

「危険って……何が?」
「隕石が落ちた時は大抵……。エイリアンっすよ。きっとタイガは餌食になってるに違いないです!」
「映画の見すぎじゃないの?」
「わかりませんよ?事実は小説よりも奇なりといいますしね」
ブルーの言葉でみんな顔を見合わせたまま黙り込んでいた。
「うぅ~ん……」
中からうめき声が聞こえた。
「あぁっ!さっきの声はタイガがエイリアンに取り込まれてエイリアンになっている時の声っすよ!」
「うそぉ……タイガくん……」
「寝起きっぽい声でしたけど……」
外でわいわいがやがやと騒いでいる時。タイガの部屋の扉がゆっくりと開いた。
「……うるせぇな……お前ら」
アニメのようなでっかいたんこぶがタイガの頭上にそびえていた。
たんこぶの上には小さなお星様が乗っていた。
「みなさんこんにちはですー」
星が喋る。まぁ、ここまではよくあるパターンだ。
みんなOFFレンジャーに入ってから些細な事では驚かなくなったなとふと思った。
「私、早くお空に帰りたいですー」

状況も何も説明せずに用件だけ言う人。本当に最近多い。
「はぁ……。でもそういうのはNASAとかそっちの方が」
「早く帰りたいですー」
「僕らただの一般人ですから……変身しますけど」
「帰りたいですー」
「落ちてきたのなら永住してはどうです?」
「帰るですー」
……話の通じない星だ。過去の擬人化無生物の中で一番手ごわいと思われる。
「今日の夜の12時までにかえるですーじゃないと困るですー」
「12時ってまだ24時間後じゃないですか」
「だから早くかえるですー」
『バタンッ!!!』
突然誰かが入ってきた。
真っ暗な中でもその白い体はタイガの部屋の天井から漏れる月光に当たってかっこよく見えた
「何しに来たんだ?ホラン」
「……。ここに星が落ちてきただろ?」
ホランが天井の大穴を指差してグリーンに聞いてきた。
クールに決めているつもりだか知らないがグリーンを見つめたまま目がキラキラしている。
「こ、これは……タイガが空けたんです。信じてください」
いくら自分に気がある ―気持ち悪いけど― とはいえ。
わざわざこちらに来たからには何かこの星には秘密があるのではないかとグリーンの勘が働いた
「オレは空けてねぇよぉ……そこら辺の星が……」
うつぶせになったまま息絶えていたと思われていたタイガの声もホランには聞こえなかったようで、
ただ彼の頭の中はグリーンの言葉が渦巻いていた。
──信じてください……大好きなホラン……信じてください── (←ホランにはこう聞こえる)
「わ、わかった……信じる……」
ホランは赤面したまま何も言わず部屋から駆け出て行った。
「……これは使えますねw」
グリーンはあくどい笑みを浮かべていた。
「所でさ。なんでホランがこの星さんを捜してるんだろ?」
「まさか凄い力を持ってるとか?」
星にいわれのない期待がかかった
「……そんなの知らないですー」
「じゃぁ、なんでホランは貴方を捜してるんですか?」
「私はただ旅行に来ていただけですーあんな白黒テレビさん知らないですー」
「旅行?」
「はい、今日は2月29日じゃないですかー」
「えぇ、4年ぶりですね」
星はそういうと何処から取り出したのかでっかいトランクをがさごそと探り小さなパンフレットを差し出す。
パンフレットは何重にも折りたたまれていてぐしゃぐしゃになっていたが徐々に開けてくると★形をしている凝った物だった。
そこには大きく「地球オリンピック観戦ツアー2004 ~燃えろ地球人~」の文字が書かれている。
「オリンピック……?」
「ハイ。我々は4年に一度の周期で地球に近づくんですー。オリンピック観戦は恒例の行事なんです」
「我々?」
「私のほかにも200億ほど。星団なんですー。今真上にいますでしょ?」
外に出て空を見ると確かに星がたくさん集まっていて天の川みたいになっていた。星は戻りたいらしくぴょんぴょん跳ねていた。
「か、帰れないですー」
「でもこうして見える位置にあるわけだし。オリンピックはまだ先だしさ?」
「そ、そんなことしたら大変ですー」
そういうと星は無言でタイガの頭によじよじと登って行った。
「ここでご説明しますねー」
「なんでオレなんだよっ!」
「うるさいですー。この縞々怖いですー」
「縞々じゃねぇよ!虎柄だよ!」
「いい加減にしないと殺しますー。星だから罪にも問われないですー」
「それはこっちの台詞だ。っていうか!お前ら!止めろよ!」
「はいはい……。それで、何が大変なんですか?」
星はやっと本来の目的を思い出したのかタイガの上でわやわやしていた。
「わやわやですー。わやわやですー」
「何がわやわやなんですか?」
「今日は星の人数確認の日なんですー。もし一人でも足りないと……」
「足りないと?」
「星が全部地球めがけて落ちてきますー。ナウい言い方だと木っ端微塵ですー」
「こっぱみじんねー……。うそ臭せー」
星はタイガの頭の中にずぶずぶと嫌な音を立てて入っていった。半分だけひょっこり突き出している。
ここで言う嫌な音とは黒板を引っかく音とかではない。
「いててててて!!!やめろー。ヒィィィィィィィィィィ」
タイガが奇声を上げながら転げまわっていた。彼には悪いが結構面白いこの面白さを伝える技量が未熟な筆者にはまだ無い。
「早く夜空に返さないと半身不随にするですー」
「だから何でオレなんだよ~!!ヒィィィィ」
「うわぁー。この縞々みだらな事しか頭にないですー。エロ坊やですー」
「ヒィィィィー」
面白さで気づかなかったがどうやら脅迫されている模様。作戦会議を緊急で行う。
「あ、タイガならいいです。いらないですから」
「可哀相だけど地球の為だし」
「タイガくん来てから部屋の物よくなくなるしー」
グリーンがみんなの意見をよくまとめてから結果を報告した
「えっと。いらないですその縞々。でも地球が危ないんで。こっちに提案があります」
「なんですかー?」
「人が死ぬと星になるって言いますよね?」
「はいー」
「ですからタイガを半身不随じゃなくて殺っちゃってください」
「はいー」
「そうすれば星が1個増えます。どうです?」
グリーンの提案に拍手が巻き起こった。
「……馬鹿か!!!オレはどうなるんだよ!」
「聞いて無いんですか?星さんに殺られて戴くんです。そうすれば地球が救われます」
「ダメだそんなの!!」
「いい作戦だと思うんですけどねー」

再び自体は振り出しに戻ってしまった。タイガは星を抜こうと思ってもなかなか抜けずイライラしていた。
思いっきり引っ張ってもよいのだが脳みそまで出てきそうで怖くなった。
「しかし、ホランが星さんを狙っているとすると大変ですね」
「星の追突で地球が木っ端微塵だからね」
「とにかく早く星さんを返さないと……どうしましょう……」
「何か簡単に帰る方法は無いの?」
星にそう問いかけてみると、
「うーんですー」
と、少し唸った。
すると星はタイガの頭の上をぺしぺしと叩いてこう言い出した。
「あ。流星シャワーですー。あれがありましたー」
「流星シャワー?……ってか叩くな」
「今年は29日ですー。人数確認の前に数万個ほど星が調査にやってくるんですー」
「調査?」
「質問が多い方々ですねー。4年ぶりの地球のデーターを収集するんですー。その際いっぱい流れ星が見られるですー」
「ということは?その調査星に助けてもらえばいいわけだな?」
「はいですー。でもタイミングを逃すと……ですー」
どうやら地球の未来は自分にかかっているようなのだと認識するにはまだ彼らは幼かった。
とりあえず大変という事だけは実感できるようだ。
「で、その流星シャワーはいつ頃?」
「えっとですー。今日の12時5分前ですー」
「という事は11時55分」
「えぇーっ!!これは大変だ!なんとかしなきゃ!!」
あと1時間。OFFレンジャーは地球を救う事が出来るのか!?
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~次回予告~
流星シャワーまで残す所あと1時間。僕らは地球を救う事が出来るのか!?
次回、ぐるぐる戦隊OFFレンジャー「流星シャワーを逃すな!」お楽しみに!
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「……とか言ってる場合じゃないよ!次回をお楽しみしてたら1時間越えちゃうよ」
「とうことは……次回までに続きを考える事は出来ないわけですね」
「厳しいね……とりあえずどこか高い場所へ行かないと」
この辺で高い所というと山かビルの上。しかしそこまで行くには時間がかかる。
「そうだ。上だよ上!」
「上?」
「ここを何処だと思ってんの?通天閣の地下だよ!」
そう。すっかり忘れていそうな設定だがここは通天閣の地下だったのだ。
通天閣のてっぺんならせいぜいがんばれば20分でいける。
「……残念だがそれは無理だな」
いつの間にかホランが気絶したタイガを抱えて立っていた。
「嘘ついたんだね……グリーン。オレはキミを信じてたのに」
ホランの顔は悲しそうだったが。それに同情できる隊員は可哀相な事に1人もいなかった。
「み、妙な言い方はやめてください。敵なんですから仕方が無いじゃないですか」
「て、敵でも……オレはグリーンが……す、好き……」
真っ赤な顔で一生懸命言った。もし自分がホランだったら自分に拍手を送りたい。
「悪いですが……私にその気は……」
「オレがオオカミに頼んで男好きにしてあげてもいいよ……?」
「いや、ですからね……」
グリーンが困惑していると騒ぎでタイガがふと目覚めた。
嫌いな奴に抱えられているのが嫌な様で暴れまわっていた。
「オイ!放せ~!!!馬鹿ホラン!」
「あ、すまなかったな。タイガ」
そう言ってホランはタイガの頭の星をつかんでぐりぐりと押し込んだ。
するとタイガは面白いように白目を向いて気絶する。脳みそがちゃんと形になっているか心配だ。
「馬鹿な奴……ムードがぶち壊しだ」
さっきまで忘れていたがホランは実は結構残酷だ。
「グリーン。オレの恋人になってくれるならタイガを返してあげようじゃないか」
ホランがバラの花束とタイガを差し出した。タイガとグリーンへの愛をどちらも受け取ってくれという事だろう
「キミの歳の数だけ包ませた。い、いい返事を期待しているよ……」
ホラン心臓の鼓動がこちらまで聞こえてきた。まさに捨て身。
グリーンは何と言われても男に興味はそこまでないのだしかし、地球か自分の未来を犠牲にするか。究極の選択だ。
「……グリーン。あと30分しかないよ?」
「早く、婚約宣言しちゃいなよ。地球には代えられないでしょ?」
「人事だと思ってみなさんはまったく……」
「じゃぁ、はっきり断っちゃえば?」
「で、でもそうしたらひょっとして地球が……」
「……じゃぁさ。こうしようよ♪」
オレンジの助言でようやくとるべき行動が決定した。早速実行する為ホランに歩み寄っていく。
「ほ、ホラン……」
「ぐ、グリーン……」
「……ごめんなさい……」
「え?」
「メルマガ初のOFFレンボールいきますよ!!」
グリーンはこれでもかというくらい思いっきり叫んだ。
その合図でいっせいに隊員がボールに飛び掛る。
「ていやぁっ!」
「とぉ!」
「そりゃ!」
「うりゃ!」
「えいぃ!」
「ぐぉりゃぁ!」
「せいっ!」
「えいっ!」
「いきます!」
「まだまだっ!」
「いくぞぉ!」
「くらえっ!」
ホランは高鳴る期待のせいで普段なら予測できていた事態も推測できなかったようで。
彼のど真ん中へボールは突き進んでいった。隣にタイガもいるが……まぁ、これくらいなら彼でも大丈夫だろうと誰も心配はしなかった
そして爆音と共に時計は11時30分を知らせていた。
「……縞々動かなくなったですー」
2つの黒こげ物体の中から金ぴかの星が顔を出した。
「あ、星さん。時間が無いですよ」
「はいですー。うんしょ。うんしょ」
どうも星は奥に入りすぎたようでなかなか抜け出せない御様子であった。
「抜けないですー。仕方ないですー偵察の人たちに引っ張ってもらうですー。つれてって欲しいですー」
「しかたない。みなさん。この黒こげを担いでいきましょ」
その黒こげの何処からどこまでがタイガなのか判別できなかったので一応まるごともっていくことにした。
一部が消失している為ずいぶんと軽かった。
「うんせですーうんせですー」
「グレー、今何時?」
「えっとえっと。11時45分」
「あと10分ですか……急ぎましょう」
やっと上までたどり着くと通天閣のてっぺんのフロアに出る。
そこからさらに上へと鉄骨をよじ登る。高所恐怖症がどうとかは最早問題ではない。
時計を確認するとあと1分。いよいよ星とお別れだ。
「ハッ。オレは一体……」
黒こげじゃなかった。タイガとホランが目を覚ました。
ホランは目の前にいるグリーンを見ながら寂しそうにうつむいた。
タイガはそんなホランをみて心の中で嘲笑う。
「55分きた!」
グレーの声と共に流れ星がいっせいに地球に流れてくる
墜落はせず。途中でカーブして飛んでいく。
「そろそろおわかれですー。さよならですー」
と、2つの流星がタイガの頭上を掠めた瞬間、物凄く嫌な音と共に星がタイガから離れた。
その勢いで彼の身体は下へと落ちていったが……まぁ、多分大丈夫だろうと誰も心配はしない。
「バイバイですー」

星の声が聞こえたと思うといつの間にか流星シャワーは終ってしまっていた。
「あっ。流れ星にお願いすればよかったなぁ……消えないんだし」
「そ、そうだったね……」
「あ、あの。グリーン」
少々焦げた白虎がグリーンに声をかける。
「オレ、いつかキミを絶対物にして見せるから」
「……もうなんでもいいですよ」
「とりあえず。このバラの花束だけでも受け取ってくれ……」
「はいはい……」

そして12時。何とか地球は救われたようだ。とりあえず今の僕らはまず元気に通天閣を降りなければ。