第20話

『謎の白虎隊』

(挿絵:ホワイト隊員)

『前回、男子達を呼び出し、まんまとグリーンの洗脳に成功したホラン。そしてついに他の男子達にもその魔の手がせまる』





「オイ!グリーン……や、やめろ!」
「しっかりしろ!」

グリーンとオオカミたちが彼らに迫る。抵抗しようとする物の相手はグリーン。赤子の手をひねるが如く簡単に取り押さえられてしまった。

「なんだ。もう終ったのか……。OFFレンジャーもあっけないな」
「モガモガ……」

ブルーがホランを睨みつけて何か叫んでいた。しかし、ホランは表情一つ変えずにオオカミに指示を伝える。

「オオカミ。こいつらを研究室へ。例の処理を」
「例の処理……ですか?」
「そう……。白虎隊のな」

ホランは邪悪な顔をしてにやりと笑った。

「か、かしこまりました……」

見慣れたはずのこの顔が今回に限って何故かいつも以上に邪悪なオーラを帯びている気がして、ついおどおどとした返事になってしまう。

「……解れば早く行け」

ホランはそう言って部屋の扉を1人で開けた
早く行けということなのだろう。オオカミは丁寧に礼をすると、颯爽と出て行く。

「……」

オオカミが数名男子達を連れ出した後ホランは1人残ったグリーンの体をぎゅっと抱きしめる。
眼を閉じて彼のぬくもりを感じながら誰もいない部屋で彼は1人呟いた。

「キミもみんなも……オレだけの物だよ……グリーン」

グリーンも静かに何も無い一点を見つめたまま頷いた。











一方そんなことが怒っているとは夢にも思わず。
タイガと「青虎」ことライトブルーは医務室を漁っていた。

「イエローちゃんはいないのかぁ……くそ……」

タイガがさっきから5分おきに文句を垂れている。

「イエローはただでさえ多忙だしね」
「せっかく医務室でイ・ケ・ナ・イ研究なんて♪……やりたかったのになぁ~」

ライトブルーにはタイガのいっている意味がよく解らなかったが多分AVの変な影響だろうと思った
タイガは「秘密のアイテム」を探そうとしている意志がさっきから見られていない。さっきからイエローのロッカーばかりを引っ掻き回している。

「あ~。これがイエローちゃんの匂いなんだな~。オレ様幸せ~♪」
「……しっかり探しなよ」
「わかってるよぉ~♪さっきからしっかり探してるじゃんかよ~♪」

そういいながらさっきからタイガは白衣を手にとって顔にすりすりしている。
イエローが見たらもう溶かされているだろうな……。

「何々?イエローの解剖ノート?」
「勝手に見たら怒られるよ」
「いいのいいの。オレは女子たちのことをいっぱい知らないといけないんだぜ♪」

そういってタイガはVサインをライトブルーの顔に近づけてきた。

「何々?○月×日……?」
「オーソドックスな書き方だね」
「今日は、シルバーを観察。彼は体内でよく育っているようだ……彼?彼って何だ?」
「さぁ……」

挿絵

またシルバーを使って何かの実験をしているのだろうとライトブルーはさほど気にしなかったが、タイガは何か驚愕している。

「……よ、翌日……実験失敗。やはりシルバーじゃまだ弱いので彼をタイガに移植……」

タイガはノートをぽとりと落として頭をガッ!と押さえ込みうずくまった。

「お、オレの中に誰かが……い、イエローちゃんも恥ずかしがりや何だなぁ……」
「いくら肯定しようとしてもそれ肯定になって無いから……」

なにやらカッターを持って頭に向けてプルプル震えている。
しかし、勇気が出ないのか、そこで動きは止まったままだ。

「あー。うー。オレの中に誰かいるんだー。うぁー」

タイガをよそにライトブルーはロッカーの中を探す
彼に構っていてこれ以上自分を窮地(というか不幸に)追い込みたくはない。
まだお食事会にいけなかったことを嘆いているのだ。

「……なんだこれ?」

ロッカーの奥に不思議なレバーを青虎は発見した。
レバー付近にはお決まりの「危険」とか「さわるな」とかいかにも人間の精神構造を逆なでするような文句が書かれてある。

「……それ、触らない方がいいわよ」

突然イエローがロッカーの下から這い上がってきた。
こんな所に隠し扉なんて入れた覚えは無い……。

「わっ!」

驚く間もなく、イエローはまるで井戸から這い上がる白い服の女のようにもぞもぞと現れる。
彼女は当前のように床下の扉をバタンと閉め、白衣のホコリを軽く払うと、ライトブルーとようやく目が合った。

「……どなた?」

この返答に一瞬ライトブルーは焦った。
正直に言ってもいいだろうが、何故こうなったか説明するのが大変困る。

「えと、あの……オイラ……じゃなくて俺……タイガ……様の子分の……あの、えー。青虎……です」
「……何やってるんですかライトブルー」

所詮、彼女の眼力には所詮勝てないのだ。

「ちっ!違うよぉ!俺はああ、青虎!ガオー!!ってね!ホラ!」

しかし、この姿を認めたくない一心でつい、オーバーな動きをしてなりきってしまう。

「そうですか……まぁいいでしょう。男子が帰ってくるまでには着替えておいたほうがいいですよ」
「あ、イエローちゃん……」
「あ、いたんですか。タイガくん」


ようやくタイガもイエローに気づいたようで彼女の白衣にすがって涙を浮かべ始めた。

挿絵

「……彼って誰なの……?オレ中で喰われて死んじゃうの……?」

まだ気にしているようだ……。
そんなタイガを見かねてかイエローはすがるタイガの頭をポンポン叩いて微笑んだ。

「大丈夫です。タイガ君の中にいるのはサナダ虫ですから全然気にしなくていいんですよ」
「サナダ虫……?」

そういえば、ライトブルーは以前イエローが寄生虫の本を気持ち悪いと連呼しながら呼んでいたのを見た覚えがある。

「本来は寄生虫で……腸の中に住んでます。うまく行けば物凄く成長するんですよ」
「オレ……食い破られない?」

タイガがイエローの顔を真剣に見つめていると彼女は笑顔を崩さず。

「サナダ虫は、体を綺麗にしてくれるんですよ。上手に育ったらデートしてあげますから住まわせてやってくださいね」
「ホント!?」

急にタイガの顔が明るくなる。単純な奴だ。まったく……。

「……それはそうで、イエロー。レッドから秘密のアイテムについて何か聞いてない?」

早速青虎がイエローに問いかけると彼女は腕組みをした。

「秘密のアイテム……?そんなの初耳だけど……」
「オレの部屋の中で医務室に行けっていうメモを見つけたんだけど……」

タイガがイエローの白衣を掴んだまま弱弱しい声で問いかける。

「……そういえば……グリーンの隊長就任パーティーの後に……」
「何かあった!?」

さっきとは打って変わってタイガが急に飛び上がって叫んだ。
現金な奴だ。イエローは何も動じず言葉を続ける。

「レッドが医務室に来たんです。で……伝言を」
「伝言!?」
「えぇ、確か……『ロビーにあるサボテンをよろしく』って」
「……サボテンなんて……あったっけ?」

青虎はふとロビーの中を思い出してみるがサボテンなんて物は見た覚えが無い。
いや、よく考えたら秘密のアイテムに関する(かもしれない)伝言なんだからダイレクトな表現だとは限らない。
サボテンだから……例えばトゲトゲの物……栗……ウニ……様々な深読みが出来るが結局結論はでない。

「サボテンってあれか?ロビーの中央のでっかい奴か?」
「いえ、あれはソファです」
「じゃぁ、あれか!電話の横の銀色のくねくね回りながら動く奴か!」
「……あれは返答に困りますけど少なくともサボテンではないですね」

青虎が必死に深読みをし、イエローとタイガが変な掛け合いをしている頃。

どかぁぁぁぁぁぁぁ……ん!

急になにか大きな音がした。
まるでトラックが壁に激突したような……隕石が墜落したような……。

「……爆発音ですね」

そうだ、爆発音だ。どこかの壁かなんかが爆発したようない音だ。

「……やっぱり定番ロビーからですね」
「まさか……ロビーはどこの壁も外側から面して無いのに……モンゴルに海が無いのと同じだよ」
「青虎!イエローちゃんの事に文句つけんな!」

タイガがイエローの隣で青虎を怒鳴る。あくまでイエローの前では、今日は、タイガの子分の『青虎』なのだ。

「それより、ロビーへ行かなくて言良いんですか?タイガ様」

少し皮肉った言い方で青虎は反論した。
そういえばそうだとイエローが同意するとタイガも「そ、そうだな……」と静かになった。








『ロビー』の扉の前に来るとなにやら扉が外側に曲がっている。
この曲がり方はあきらかに中で爆発があった事を示している。決して立て付けが悪くなったわけではない。

「この匂いは……プラスチック爆弾だな」
「ホントですかね……」

中をゆっくり開けるとそこにはホランが立っていた。
よくよく見るとロビーの中でなにやら探しているようだ。

「(まさか……秘密のアイテムの情報をあいつらが……)」
「(誰かに喋ったんですか?)」
「(いや、オレと青虎しか知らないはず……)」

こそこそと中の様子を探っているとホランの他に別の声がした。でもどっかで聞いたような声……。

「こっちに居たピンクとパープルを捕まえました」
「生意気に爆薬などを持ってたぞ。この娘」

さらにもう1人。ホランが目線の中に入ってきた。部屋の中にはホランが計3人。

「誰だっ!?」

3人のホランの内1名がこちらに気づいたらしくドアに向かって大声を上げたしかし、その振り返ったホランはよく見ると……


「……お前……グリーンか……?」

突如タイガが唖然とした声色で呟いた
ホランだと思われたのは実はホランの模様のグリーンだった……らしい見事な白虎柄、赤く鋭い目、ホランのようないかにも悪者顔。ホランに瓜二つだ。
ただ、マフラーだけはそのままだ。なんとも親切。

「……そうだ」

グリーンは淡々とした表情で応える。

挿絵

「何だその格好は……!?っていうか……他の2人も……ブルーとブラックか!?」

3人とも模様以外は今までの面影を残しているが……やはりホランと瓜二つ。

「何してんのみんな……。ハッ……まさかオイラと同じくホランに弱みでも……」

ライトブルーの言葉はあっさりとスルーして3人は女子数名を連れ出そうとする。
愛しい女子達を意味不明のコスプレトリオが連れ去ろうとしているのを見てタイガは3人に飛びかかってそれを跳ね除ける。

「やめろっ!オレの可愛い恋人に手を出すなっ!」

タイガの言葉に3人は黙ったままタイガを見ていた。
そこでグリーンが顎で合図すると2人がタイガに襲いかかろうとする。

「何だ!お前らっ!!」
「タイガくん。私が思うに3人は操られているのかと……カービィにも似た話がありましたし」
「何!?じゃぁ、ホランの奴……」

そこで急に3人から一喝が入る
「ホラン様を呼び捨てにするな!!」

3人はまるで親の敵でも見るかのような目つきでタイガ達3人を睨みつける。どうやら心からホランの事を想っている様だ。

「我々白虎隊の偉大な総統……ホラン様を悪く言う物は……許さん!」
「白虎隊……?」
「そうだ。現世で最も偉大な栄光のある団体……それが白虎隊だ」

綺麗に並んだ中央で淡々とした口調で白虎隊を説明する。
それにしても……『白虎隊』とは、堅いホランの人格そのものだなとタイガは納得した。

「そ、その色はアタ○クで染めたんですか!?」
「何でイエローちゃんそんな興奮してんの……?」

白虎隊はイエローの質問にカチンと来たようで、急に3人は大声を張り上げる。

「このホラン様から与えられた聖なる模様を……なんという無礼!」
「ホラン様への冒涜だ!!」
「この女……生かしてはおかないぞ!」

鋭い爪を立てて3人はその手をイエローに向ける。

「そ、それなら……」

負けじとイエローはメスを構える。しかしいっこうに3人は動かないいや、動かないと言うより、動けないといった方がいいかもしれない。

「……。な、何故だ……体が動かない……」
「何だ……あいつに恐怖心が芽生えてしまうぞ……」

どうやら、本能的にイエローの恐怖を覚えているようである。

「凄いよイエロー!」
「イエローちゃんの迫力はオレのお墨付きだからな!」
「何か嬉しくないんですけど……」

3人は軽く咳払いをして体制を整えなおすと女子を担ぎ始める。この隙に連れ去る気だ。

「待て!白虎隊!ピンクちゃんとパープルちゃんを離せ!それが高貴な白虎のすることか!?」

なんとか挑発しようとして憎い白虎側を『高貴』等といってしまう自分に気づいてタイガは少し後悔した。
白虎隊はそんな挑発に屈せず高飛車な態度でタイガの挑発を切り返す。

「フン。高貴だからこそ、低俗なお前達の相手などしておれんのだ」
「何だと!?……お前らぁ!秘密のアイテムを見つけたらぶっ潰してやるからな!!」
「秘密のアイテム……だと?」
「そうだ!お前らの基地ごと吹っ飛ばすぐらいの凄いアイテムだ!……とオレは思ってる!」

タイガが勢いである事無い事を喋ると、白虎ブルーが何かを思いついたようでグリーンに耳打ちをし始めた。
グリーンはニヤリと笑って体勢を立て直すとタイガたちに向かってこう言った。

「よし、ではこうしよう。我々はこいつらを戴いていく、返して欲しくばそのアイテムをとやらをもってこい!」
「何!?」
「早く持ってくることだな……」

そういうと白虎3人は女子を担いで颯爽と去っていった……。
すると残された物たちの話題は自然にタイガへ集中する。

「タイガくん……また1騒動起こしてくれましたね……これでアイテム探しもしなきゃいけなくなったじゃないですか」
「だって……オレ……さぁ……」

すがるような目でタイガはイエローを見つめるが彼女の冷ややかな目付きは安易に変わらない。

「オイ!青虎!お前も何とか言えよ!この馬鹿!」
「な、なんでオイラなの~……」
「うるさいうるさい!お前のせいだ!この馬鹿!」

「……そんなことをしてる場合に女子がつらいめにあってるんですよ!タイガくん!あ、あと、青虎さん」

青虎が謂れの無い八つ当たりを受けている最中にイエローが場を仕切ろうと鶴の一声とも言える発言を下す
イエローに怒られたと悟ったタイガは急にしょぼくれた声で謝る
「う、ご、ごめん……イエローちゃん」
「わかればよろしい……とにかくまず秘密のアイテムを見つけないといけません」
「サボテンだっけ?」
「えぇ、このロビーのどこかにあるサボテンを探すのです。そして敵基地に侵入、女子隊員の救出ですね」

3人は黙ったまま静かに頷く。これで自分達のすることが決まった。

「では、ロビーの探索と行きますか」
「だな!」
「……っていうかメルマガの容量制限足りるかな……」







一方白虎隊総本部。もとい、オオカミ軍団アジト、ホランの部屋


「お、おかえり!グリーン」

白虎隊の最前線3人が部屋の中に入ってくるなり、ホランは赤い顔をしてグリーンに飛びつく。
グリーンはそんなことにも動じずただ「任務完了です」と呟く。
あたりをみまわすと3人の他の男子も白虎隊として人質の管理や身の周りの世話などをしてくれている。洗脳状態とはいえ、ホランにはまるで夢心地だ。
ホランはグリーンと2人ベッドの上で座ってグリーンの頭をそっとなで始める。

「グリーン♪……キミは白虎隊のいいリーダーだ。これからもよろしく頼むよ」
「……おまかせくださいホラン様」
「さて、そろそろタイガたちが来てもいい頃だな……準備しておいてくれ。あ、あぁ……グリーンは残っててくれ」
「ハッ!」

ホランはこの機会に前々からやりたかったこと、それを実践しようともくろんでいたのだ。
グリーンを残した白虎隊が退室した後ホランはグリーンに微笑みかけた。

「さ、グリーン……こっちにおいで……」

挿絵










「サボテン~……サボテン~……」

OFFレン本部では未だサボテン捜索に精を出している。しかし、何処を探してもサボテンなど見つからない。

「サボテンなんてないじゃねぇかぁぁぁ!!!」
「……ひょっとしたら暗号なのかもしれませんね……」
「暗号?」
「えぇ、よくあるじゃないですか。意味のわからない言葉は実は暗号だったとか」

古典的な方法だがたしかに可能性が高い。
何よりレッドの事だからそこまで入り組んだ暗号でもないはずだ。

「じゃぁ、ロビーにあるサボテンをよろしく……だったよね?」
「えぇ、一字一句間違ってません」
「別に何も変哲の無い文字っぽいけど……」

青虎が頭を抱え込んでホワイトボードに文章を書き込んでいくそれをタイガやイエローが案を出していくのだ。
ローマ字にしろ!ひょっとしたらさかさまから読むのかも!じゃぁ文字のどこかを抜いてみろ!
……など様々な案が出されたがしっかりしたような解読結果はでなかった。


「こうなったら……解読した中で一番それっぽい『くすらゃゎんぇっとばすらんばぁ』でいきましょう!」
「イエローちゃん!やけを起こしちゃダメだよ」
「じゃぁ……なんなんですかぁ……サボテンて!」
「サボテンて……所で何だ?まだ教えてもらってないよ」

突然タイガが呟いた。
ガランとしたロビーだから結構あちこちに響いてこだまする。

「サボテンて……トゲトゲした奴ですよ。ウニの様な栗の様な!」
「緑色しているのか?」
「えぇそうですよ」
「なんかひらっぺたくなってて花が咲いたりしているか?」
「えぇそうですよ」

いやに、的確な質問をしてくるなとイエローが感心しているとタイガが自分の真後ろの柱を指差した。

「なんですか……一体」
「タイガ……様なにをしてるのさ」
「いや、この柱が……サボテンじゃないのか?」

タイガの後ろの柱は電話番号やら伝言板、写真や新聞受けなど便利な取っ手がいっぱいついているから重宝していた柱だった。
よく考えれば部屋の構造上こんな所に柱があるのは変なのだが誰も指摘しなかったので特に気にしなかった

「ちょっとどいてください!」


イエローが立ち上がってメモ帳やらガムなど突き刺してある邪魔な物を全て取り払うと、


そこには少し薄汚れた緑色の表面が姿を現した。間違いない。装飾だと思っていた飾りは花で、不思議な取ってはトゲだったのだ……。



「デカイ……中に何か入っているとしか……ハッ!中に……アイテムが!?この大きさからすると……凄そうですね」

イエローが突如大きな斧を取り出してきて自分のひざ下くらいの位置へ叩き込んだ。しかし、キィンと鈍い音がしただけでサボテンは無傷だった。

「鉄……!? なわけないですよね……どうみても植物……」

青虎とタイガが後ろでオロオロとしているのをよそにイエローはあの手この手でサボテンに戦いを挑む。
薬品をかけてもまったくびくともしない。水分を吸い取ろうとしても吸い取る術が無い。


「……食べちゃえばいいのに」

青虎がシンプルな口調でイエローに問いかける。なるほど、サボテンは食べられると聞いたことがある。
トゲが邪魔だが花もなかなか美味しいとか……。って
「馬鹿か青虎」
「でも、昔からよく言うじゃん『なせばなる、無理なら食える、何物も』」
「なるほど……一理ありますね……」
「そうだな。青虎!いいアイデアだ!」


さっそく以前おでんパーティの際に買って置いた大きな鍋を準備する。
しかし、よく考えれば切る事も出来ないのだから食べられるはずはないのだ。

「やっぱ……青虎じゃダメだな」
「大丈夫ですよ。タイガ……様。『なせばなる煮込めば食える何物も』です!」
「なるほど、煮込めばいいんですね」
「いいアイデアだな!青虎」

さっそくトゲをなんとか取り払い鍋の中へと放り込む。
何故放り込めるかは話の都合上そうするしか仕方が無いのだ。イエローの鍋奉行を筆頭にさっそく箸を構え始める。


「では、いただきます」
「いただきます」

挿絵

サボテンがお腹の中へたまるに連れ、サボテンの中に秘められたアイテムはだんだんと姿を現し始めた。












……白虎隊本部。
ホランの部屋の前にはグリーンをのぞいた男子全員が均等の間隔をあけて並び通路をしっかりと見張っている。
彼らには「退屈」といった感情はなく、ただホランに言いつけられた使命を全うしようと全力を尽くしているのだ。
一方、そのホランだが、ベッドの中でグリーンと一緒に横になっている。

「グリーン……。ずっとオレの側にいてくれるよね……?」
「もちろんです……ホラン様」

グリーンはハッキリとした口調でホランに答える。
その言葉を聞いただけでホランは興奮してしまう自分を抑えようと努力する。
ホランはグリーンを寝ている女の子が抱くぬいぐるみのように抱きしめると白虎らしくない熟した赤い顔で目を閉じる。
彼の鼓動を聞きながらホランは自然と口元が緩んだ。

「グリーン。ちょっといいかな……?」
「なんでしょうか」
「キミは……オレの事が……好きか?」
「はい」
「……愛……してるのか!?」

なかなか『愛』以降の言葉が出てこなかった。しかし、グリーンは感情を込めない言葉で「はい」と答える。
ホランにはそんなことはわかっていたが、それでも嬉しかったのだ。

「じゃ、じゃぁ……」

ホランは目を閉じてグリーンの唇へと顔を寄せる。近づくたびに心臓がリズミカルに鼓動し始めた。
あと5cm……4……3……2……


「ホランっ!!!」



突如、ホランの幸福を打ち破ったのは……タイガの声だった。グリーンはすぐさま爪を尖らせホランの前に飛び出す。

「この変態野郎!ピンクちゃんとパープルちゃんは何処だ!?」
「タイガ……なんて事をしてくれたんだ……キミは」

ホランの顔にうっすらと狂気が満ちてくる。もう少し遅く来てくれたらと思うとタイガを恨まないわけには行かない
しかし、不思議なのだ。タイガが来ているのに白虎隊の騒ぎ一つも聞こえなかった。

「!……白虎隊はどうした!?」
「倒したさ。廊下で延びてるだろ?」

タイガの後ろを覗き込むと倒れている白虎隊をイエローと青虎が外へ運び出している。

「……フン。女子隊員は別室に閉じ込めてある。……グリーン後は頼んだよ」
「かしこまりました……」
「フン!そんなの全然平気だぜ!オレにはこれがある!」


タイガ自分の頭上に不思議に輝く物を突き上げる。
それは紫に近い青色をした小さな結晶のような
「これが、秘密のアイテムの正体さ♪」
「フン……オレにはガラス細工にしか見えないな」
「チッチッチ♪これはな。レッドが特注で作らせたOFFレンボールを越えるアイテムなんだぜ」
「何?」
「願った物が出るという非常に都合のいいアイテムだ。ただ……充電に時間がかかるがな……って説明書に書いてあった」

タイガがふと水晶に目をやった隙にホランがタイガに体当たりをする。
落ちてしまった水晶をタイガが拾おうとするとホランが彼の顔に蹴りを入れる。

「……キミには不必要なアイテムだろ?これは我々が戴く。女子隊員もそのうち返してやる」
「何やってんですか!タイガ……様!」
「タイガくん、早く取り返さないと体中を切り刻みますよ!」

顔を抑えて転げまわるうちにだんだん彼自身の怒りが募っていく。
何故、こんな奴にいつまでも馬鹿にされないといけないのだろうか……?何故、強い自分がこんな奴にやられてばかりなのだろうか……?
そして……何故、こんな変態にいい思いばかりさせてしまうのか?だんだん怒りに任せて体が勝手に動く気分になってくる。

「……ゥゥ……」
「フン。覚醒しようと言うのか……良いだろう。では……虎と白虎……どっちが強いか決着をつけようじゃないか」

ホランはニヤリと笑うと自分の首輪をゆっくりと外す。それを、イエロー達のいる方へ放り投げる。

「……まさか80㌔の重りが入っていたとか!?すごい!すごいわ!本気なのね!ホラン」
「でも、これ軽いよイエロー……」

タイガが理性を失った表情でホランに飛び掛る。ホランは軽々しい身のこなしでそれを巧みによける。

「それでは……オレも本気でいかせてもらう」

ホランはタイガと同じく四つん這いの姿勢を取った。
そして、唸り声をあげながら、タイガめがけて走り出す。
グリーンやイエローは手を出そうとせずただ見守るばかり。騒ぎを聞きつけてどこへ行っていたのやらオオカミまで駆けつけた。

「何の騒ぎだ!?」
「あぁっ!オイ!イエローが持っているのホラン様の首輪じゃないか!?」
「そうですけど……これ重くないんですよね……不良品?」
「タイガ様みたく覚醒しないように作って付けて頂いていたのに……」

オオカミ達は頭を抱え込んで困り果てていた。
しかし、お互い覚醒した以上決着がつくまで誰も手出しが出来ない。というか手出しするのが恐ろしくて出来ない。

「ウガッァァッッ!!!」
「ガォォーー!」

嗚呼弱肉強食とはこのようなものなのだと実感せずにはいられない戦いぶりに一同は見入ってしまっていた
一方が爪で相手を引っ掻けばもう一方は相手の手首に噛付く。彼らは本当にさっきまで2本足でたって言葉を流暢に話していた者とは到底思えない。
本場の野性でも見られないような戦いぶりはますますエスカレートしていく。

挿絵

「凄い……」


その一言以外の言葉がなかなか見つからない。ただ、己のプライドの為に戦う姿のカッコよさに見とれてしまう。


「クッ……」

突如タイガが息を荒くしてひるんだ。
さきほどかまれた右腕が痛むようで相手を威嚇しながらじりじり後方へ後ずさりする。


ホランもそれに気づいたのかタイガに勢いよく飛び掛ると渾身の一撃を彼の右肩に打ち込んだ

「グッ……」

タイガがバタンと倒れるとホランも目が覚めたようでゆっくりと立ち上がる。

「ハァ……ハァ……どうやら……決着はついたようだな……タイガ」
「ゥゥ……」

タイガも悔しそうな顔をしていたが痛みが激しいようで声がでないようだった。
イエローがタイガにしぶしぶ治療を施し、少しふらふらしているホランの背中をグリーンが支え、首輪を手渡す。

「さすがですホラン様……ホラン様は我々白虎の誇りです」
「ありがとう……グリーン」

ホランは水晶を取り出して水晶ごしにタイガを挑発的な目で見る。

「どうやら……最終的に最強なのは白虎だったわけだな。タイガ」
「ま、まだだ……」
「負け犬は黙っていろ……。あとはとどめを刺して……白虎の勝利をより確実の物にするだけだ」
「あーはいはい。治療中は静かに」

ホランは治療中にもかかわらず水晶をタイガのほうに向ける。

「では……とどめといこうか……そうだな……水晶に何を出してもらおうかな」
「あの私!いくら解剖してもへっちゃらなシルバーが欲しいです」
「……そうだな。オレとグリーンの家庭を作って奴隷としてタイガをこき使うのもいいな」
「無視ですか?」

ホランが何を出そうか悩んでいるとタイガは今だと隙をついて水晶を最後の力を振り絞って奪い取る。
つい、『オレとグリーンの家庭』の所で妄想にふけてしまったのだ。水晶を奪い取るとタイガは部屋の壁に手を突きながらホランを睨みつける。

「まだだぜ……。ホラン」
「ば、馬鹿……返せ!タイガ!勝ったのはオレだぞ!」
「ま、まだオレは負けて無いんだ~!!!白虎なんかにオレが負けるはずが無いんだ!!!」

タイガはまるでちいさな子供のようにごね始める。
わがままな彼はプライドか高いというより、融通が利いてないホランはタイガに飛びついて一生懸命取り返そうとする


「返せ!タイガ!キミは負けたんだぞ!キミには虎のプライドが無いのか!?」」
「うるさい!うるさい!うるさい!!」
「ふ、フン!お前なんか……お前なんかこの水晶の力で……」
「グリーン!!」

ホランがグリーンを呼び後ろからタイガを羽交い絞めにする。
タイガが暴れる中ホランはじたばた動くタイガの手に握られた水晶に手をかけようとする
このままでは再び奪われてしまう!と察したタイガは無我夢中で叫んだ。






「な、なんでもいいからホランの苦手な物ーーーーーーーーーー!!!!!」」






叫んで数秒……突如天井に穴が空くと、




『バシャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!』



滝のような大量の水が3人の真上に降り注ぐ。どれくらい水の中でもがいただろうか?


気が付くとたくさんの水たまりの中で全員放心していた。

「ハッ!オイラの虎メイクが落ちてる!これで開放されるんだね」
「走馬灯が見えました……」
「何だ!?何がどうなったんだ!?」

ふと一同が3人の方へ現状を確かめる為に視線を向ける。

「ホランの苦手な物っていってたよね?それって……水?」
「カナヅチなんでしょうか?」

よく見ると3人は放心状態のまま固まっていた。滝の中心部だったので凄い衝撃だったのだろう。

「ハッ!オレは一体……ほ、ホランは……?」
「ホラン様!?」

タイガとグリーンの目の前にいるホランへ目線を集中させると、そこにいたのはオロオロとしているホラン。
ホラン……なのだが、いつもと少し違う。……模様がない白猫になってるのだ

「あーっ!!」

ホランは慌てて手で顔を隠してその場にうずくまる。グリーンもタイガも状況がイマイチ把握できなかった。
オオカミはしまったという顔でお互いの顔を見合わせる。

「……ホラン様……そのお姿は……」
「聞くなっ!聞かないでくれグリーン!!!」
「お前……どこに模様を落としてきたんだ?」
「うるさいっ!黙れ!タイガ」

そこへ研究員のオオカミがホランの元へやってきてホランに黒い物を手渡す。

「……ホラン様はこちらの不手際で模様が白いままになったんだ」
「何?」
「言うなっ!オオカミ!」
「こっちで保管していたホワイトタイガーの遺伝子に一部異常があったようで……」

研究員はチラとホランのほうを見る。ホランに手渡された物は黒いドーラン。
その黒いドーランでホランはうっすら涙を浮かべながら自分の模様を描いていく。
額の縞々、次は頬の模様、そして手足の模様……ホランは無言で黙々と自分の体に色を塗っていく。

「フェイスペイントだったのか……ギャハハハハハハ!!!」
「……」

挿絵

タイガの笑い声に一生懸命こらえながらホランは模様を書き終える。

「模様が無いなんてお前は白虎なんかじゃねぇ!ただの虎ぶってる白猫だ!」
「……違う!中身はれっきとした白虎だ!模様は……模様は仕方の無いことだ!」
「フン♪模様がなけりゃ~虎じゃない!つまり、白虎の勝ちなんて物は無効だ!」
「……違う……違う!!」
「違わない~♪お前の負け~白猫の負け~♪」
「白猫なんかじゃない!!!」」

ホランが泣きながらグリーンにすがりつく。

「グリーン……キミは……キミはわかってくれるよね?」
「いや……私なんでここにいるんですか?」

総統が白虎でないというショックでどうやらグリーンも元に戻ってしまったようだった。
これに一番傷ついたのはホラン。ついに我慢できず涙がボロボロとこぼれる。
流れ落ちている涙が彼の頬の模様をうっすらぼかしている。

「どうやら……最後に笑うのは最強の虎!タイガ様だったわけだな!ハッハッハー!!ざまぁみやがれ!」

タイガがホランに皮肉を込めて大声で叫んだ。ホランは目をゴシゴシこすると。

「覚えてろよ!タイガ!!いつか……いつか復讐してやるからな!!!」

と言って部屋を飛び出していった。
タイガは「いつでもきやがれ!」といわんばかりに仁王立ちをしてホランの後姿を眺めていた。
こうして、長かった因縁の対決の決着はついたのである。











そして……。

「オイ!お前ら、しっかり運べよな!」

以前の出来事から数日。オオカミたちを引き連れタイガがOFFレン本部にやってきた。
そして、タイガの部屋から荷物をどんどん外へ運び出していく。

「タイガ!なんですか?これは」
「オ!グリーン!オレもうOFFレン辞めるから!」
「はぁ!?」
「ホランもいなくなったことだし。オレは悪者に戻る!」」
「そ、そんな急に……」
「やっぱさー。女子達が居るのはいいけどやっぱりオレは悪いことをするのが似合ってるんだよな~。じゃ!そういうことで!」

荷物全部運び終えたようでタイガとオオカミはさっそくアジトに帰ろうとする。
今のタイガの顔はうっぷんを全て晴らせたおかげか物凄くご機嫌だった。逆にこころなしかオオカミの顔にはどことなく影があった。

「それじゃぁ、最強極悪タイガ様の出陣だぜー♪」
「あ、ちょっといいですか?タイガ」
「なんだ?」






「パープルとピンク。早く返してくださいね」







「……………………チッ」