第22話

『お花見のすすめ』

(挿絵:シェンナ隊員)

……春。もう春なんです。春といえば桜。お花見です。
公園にもやっと桜が咲きました。1年ぶりの桜です。でも……。

「今年のお花見はしません!」
「え~~~~~~~~~~~~~~~!?」

すべてはグリーン隊長が突然放ったこの宣言から始まった。

「『お花見をしない』って聞こえたけど……」
「えぇ、聴力はいいみたいですね」
「え?お花見しないの?」
「しません」
「何で?」
「……買出しは全て私がするからですよ。以前かかったお弁当代が約5000円」

そういえばレッドの頃もすべてレッドが出してたからってことでグリーンに出させてた気がする。
しかし、日本の心をそんなことで失わさせてはいけない。

「じゃぁさ。各隊員でそれぞれ出すってことでどう?やってもいいでしょ?」
「でもサラリーマンじゃあるまいし場所取りやら色々大変で……」
「じゃぁさ。山の方の人通りの少ない公園でどう?あそこならきっと空いてるよ」

グリーンは数秒間黙った挙句しぶしぶとうなづいた。とりあえず『日本の心』は守られようだ。








一方オオカミ本部でもお花見の話題は耐えなかった
といっても彼らは桜や日本の心というよりも酒と美味い物が食べられるだけでいいのだが。

「タイガ様。今年はお花見されるんですかー?」
「やりましょうよ~是非是非」

タイガはむすーとした顔でオオカミに雑誌を投げつけた。

「オレはまだその頃っ!ボスになって居なかったんだぞっ!っていうか生まれてもいないっ!!」

どうも機嫌が悪い。以前ホランにちやほやしていていたせいもあるのだろう。

「あ、それなら。お花見行きましょうよ。楽しいですよ、やったことないででしょ?」
「……お、お花見って何をするんだ?」

挿絵

下を向いて恥ずかしそうに小声で聞いてきた。だから不機嫌だったのか。

「え~お花見知らないんですか~?」
「うぅ……」
「しょ~がないですね~教えて差し上げましょうか~?」
「……早く教えろよっ!!」

タイガが爪をむき出してきた。そろそろからかうのを辞めないと危険だ。

「お花見っていうのは桜の花を見ながら美味しい物を食べるんですよ」
「……ピクニックみたいなものか?」

タイガが素直に聞いているのを見てふと、オオカミはいい事を考えた。せっかくの花見だから良い思いをしたいと。

「いや、ちょっと違うんですよ。……上司が部下に感謝の気持ちを込めていっぱい美味しい物を食べさせるんです」
「そ、そうなのか……」
「えぇそれがお花見なんですよ」
「(そうだったのか……変な行事だ……)」
「場所は極秘という事で、いい場所選んで置きました。山奥の公園です」
「あ、あぁ……わかった」

オオカミは背後に並ぶ仲間に向けてOKサインを出すと、皆はニヤリとほくそ笑んだ。









【4月某日 尾布ど田舎公園】

「えいちおー!えいちおー!」

OFFレンジャーが掛け声を合わせながら登ってきたこの山は本部からかなり遠く。
『転送装置を使おう』という声が多々上がったのだが「足は歩く為にある」という意味のわからない隊長の一言で、4時間かけてみんな歩いてきた。

「お花見」より「長距離遠足」に近い
「お花見って……ぜぇぜぇいいながらするもんじゃないよね……」
「だよねー……ぅ……でも着いたからいいじゃん」
「はいは~い!みなさん集合してくださいよ」

グリーン隊長がカビが生えて少し緑色になっているすべり台の前で集合をかける。

「なんで隊長あんな元気なんだ……?」
「さぁ、若いからね……歳は取りたくないよホント」
「年寄りにはきついのぅ……」

疲れているのも手伝ってか、みんな動かなかった。
いくら呼んでも誰も来ないのでグリーンはランチマットを敷き出した。

「……もーしかたありませんねー。じゃぁ、早速お花見にしましょうか」
「ちょ、ちょっとその前に休憩入れさせて……疲れてるから……」
「じゃぁ、休んでてくださいよ。その辺見てきますから」

グリーン隊長は荒縄で作られたブランコの奥の坂道をえっちらおっちら登っていきました。

「えっちらおっちら……ふー。山も疲れますね……」

すると、坂の上からタイガと鉢合わせ。

「……よぉ」
「……どーも」

タイガは何だか元気がない

「お前もえっちらおっちら山登りか……」
「……タイガもお花見ですか?」
「あぁ……。あいつら楽しそうに上で色々やってるよ」
「上?」

耳を澄ますと上からカラオケの声や花火の音が聞こえてくる。

「……豪華そうですね」
「だって、お花見ってそういうもんなんだろ?野外にカラオケにバーやクラブとか作ってさ」
「カラオケはともかく……バーやクラブは……」
「日本酒の老舗の池田屋酒蔵 他25社呼んでさ。もう金がかかるのなんのって……ホランの金があってよかったぜ」
「……タイガは楽しまないんですか?せっかく来てるのに」
「だって、お花見ってさ。上司は部下の楽しんでる姿を指をくわえて待つルールだろ?つまんねーもん」

グリーンは、はは~ん。こいつはなにやらオオカミに違うお花見の意味を吹き込まれたのだとようやく理解した。
できれば突っ込んであげたいが後のオオカミのことを考えて黙っておいた。

「は~……。オレすることねーや……。あ、女子のみんな来てる?」
「来てますけど……。よかったら。一緒にお弁当食べますか?」
「……でもお前らもお花見なんだろ?」

タイガは心配そうにこっちを見ていた。

「いえ、僕らは上司と部下とかの関係じゃないですから。王様と下僕に近い感じです。……ってレッドが言ってました」
「……そっか!じゃぁ、ご馳走させてもらうなー♪」

タイガには白虎隊との時に一応世話になったからこれはある意味ささやかな恩返しなのだ。
そういうわけで真面目に山の少し下へ降りてくるともうみんなは元気に走り回っていた。

「はいは~い。みなさんご飯食べますよ~」
「あと、オレも~」

幼稚園のおやつの時間のようにわーわーとみんなが集まってきた。タイガも嬉しそうにみんなからおかずを少しずつ貰っている。
以前いろいろと助けて貰ったから以前よりも少し親しくなってるみたいだ。

「はい。玉子焼きあげるー」
「ありがと。ピンクちゃん♪」
「じゃぁ、私はサンドイッチ1つあげる」
「ありがとーホワイトちゃん♪」
「じゃぁ、僕もメロンを」
「男のはいらない」

……タイガは相変わらず。お弁当箱のふたという丸秘アイテムのおかげでようやく人並みのお弁当が出来上がる。

「お花見がこんな風にみんなで桜見ながらお弁当食べる行事だったらいいのになー」
「……何のこと?」
「あぁ、なんでもないですよ!」

タイガは桜の花をじーっと見たまま目がうるうるしていた。
悪人らしからぬ桜の花に感動しているのだろうか……。

「綺麗だな……桜」

挿絵

「桜、初めて見るんでしたっけ?タイガは」
「うん……。なぁ、おみやげにさくらの枝持って帰ろうぜ」
「ダメだよ。タイガくん。桜の枝折っちゃ」
「でもさー。どうせ誰も見てないしさー♪」
「いや、僕らが見てるんですけど……」

聞いていながらもタイガは桜の枝を折り始めた。

「もう折っちゃったもんねー♪」
「……折ったって言うよりぶった切ってるじゃないですか」

タイガは素手で一番枝の太い部分を折っている。さすがボス代理だけあって凄い力だ。

2mぐらいの長さを折ってしまっている。

「はい!これピンクちゃんにプレゼントー♪」
「あ、ありがと……」

普通に庭に刺しても違和感が無いこの枝。ピンクもさすがに困惑している。

「よし、今度はもっと小さいのを一杯集めてこよ♪ピーターちゃんどう?」
「い、いいよ……別に」
「ホワイトちゃんは?」
「……もってこられるもんなら持ってきて見てよ」
「よぉし。枝をいっぱい集めてホワイトちゃん達にプレゼントしてあげるねー♪」

タイガはそういうと一目散に上に上がる道を駆け上っていった
「ホワイト。ダメじゃないですか。あんなにはりきらせちゃ」
「私が折るわけじゃないですから……」
「……そういうもんかな」
「そういうもんです」

とりあえず今は桜を見ながらお弁当を食べ続けようと思ったOFFレンだった。










一方タイガはその持ち前の元気さであっという間に山の中腹。
後ろにはボロボロと落ちている桜の枝。

「これもダメ。ホワイトちゃんの魅力に勝ってない……あーダメだこれも」

タイガがふと気が付いてみると目の前にさっきはなかった大きな桜の木が立っている確かさっき見たときはこの先にまだ道が続いていたはず……。
しかし、枝振りがこれまた見てきた中で一番良い。

「これなら最高なプレゼントになるぜ♪よしまずは適当な所を……」

タイガが桜の木に手をかけようとすると
「やめてください」

と声がした。良く澄んだ春らしい暖かい声だった。

「……?」
「お願いです……やめてください……」

どうやら声は桜の木の中から聞こえる。
タイガは軽くノックをすると中からまるで桜の妖精みたいな女性が現れた。

「お願いです。桜の枝をこれ以上折るのは辞めてください」

桜の妖精(容疑)の目が潤んでいるのを見てタイガは胸を打たれたOFFレン女子のような幼い魅力よりももう少し上の「麗」な魅力だ。

「わかった。辞めるよ。それよりオレとお茶しない?」

早速彼は口説きにかかる。すでに桜のことは忘れてしまっているほど魅力的だったのだ。

「私は桜の妖精です……ここから動く事は出来ません」
「じゃぁ、ここでお茶しよう!」
「そういう問題ではありません……」

桜の妖精(確定)はタイガの後ろの枝の散乱した道を悲しそうな目で見ながら呟いた。

「……桜たちが痛い痛いと泣いております……。あなたは酷い人です」
「だって、桜じゃん。綺麗じゃん」

タイガに反省の色が無い。それを見て妖精は桜の枝のようなステッキを取り出してタイガの顔へと向ける。

「貴方がここへ来るまでに何本の桜を痛めつけたことでしょう……」
「ね~。その話もういいからさ~早くお茶しようよ~」
「貴方には責任を取っていただきます」
「責任~?それやったらお茶してくれるの~~?」

妖精はステッキをタイガの頭の上で2,3回くるくると振り回すとタイガの頭からにょきにょきと凄く小さな桜の木が顔を出す。

「なんだこれー♪プレゼント?」

タイガは満面の笑みで桜の木をなでなでする。

「あなたには桜になってもらいます」
「サクラ?あの……店の前で客のふりをする……?」
「いいえ。植物の方です」

妖精はそういうと何処からかチェーンソーを取り出してきた。

「よく言うじゃありませんか。桜の下には人の死体が眠っていると」
「へー。そうなんだ~。 そんなことよりさ。オレお金あるからさ~近くに良い店あるらしいんだ!」
「ですから、あなたにはとりあえず死んでいただきます。あとで埋めれば立派な染井吉野になるでしょう」
「死ぬほど愛してくれるって奴!?うわ。お姉さん……積極的~w」

妖精はおもいっきりタイガの頭の上にめがけてチェーンソーを振り回すがタイガはさっとよけるまだ状況がよくわかっていない様子。

「危ないよ~。死んじゃうじゃん!……ま、まさかそういうプレイ!?……でも過激な女性オレは嫌いじゃないよー♪」

と、話している最中にタイガの右手がボトッと落ちる。

「!?」

挿絵

妖精はやれやれといった表情でチェーンソーの紐を何度も引っ張る。
そのたびにチェーンソーはゴォゴォとその体を震わせる。

「あぁ……始まってしまいましたね。せっかくショックを受けずに即死させてあげようと思ったんですが……」
「そ、それより腕が!!オレのカモシカのような腕がぁぁ!!!」
「頭上の物は種です。それがある以上あなたは運命には逆らえません」
「なんだよ!お前!!わかったぞ!ホランの手下だな!まだあいつはこんなことを!!」
「次は左腕、右足、左足、首の順番で落ちていきます。あ、痛みはありませんから安心してください」
「な、なんでそんな挿絵の人が困る表現上危ない事を!!」
「……枝を折られた桜たちの気分を味わって死んでいってくださいね。後はちゃんと埋めて桜になってもらいます」

妖精はそういうとニコニコと微笑んだ。足元にはさっきまで枝を折りまくっていたタイガの右腕が落ちている。

「と、とりあえず。こういう時は……OFFレンだ。うん!……流れ的に」

早速タイガが右腕を拾い上げると四足になって走り出そうとする。タイガは体質上こっちのほうが走りやすいのだ。
だが、腕が一本無いので走れないことに気がつく。

「うぅ……しまった。オレとした事が。走れねぇ……」
「大丈夫ですよ。今追いかけますから」

後ろでチェーンソーの電源をつける音がする。

「(ここは仕方が無い……2本で行くか)」

タイガは右腕をしっかりつかんで走り出す。
しかし、左腕からぺりぺりとなにかがはがれている音が聞こえているのを彼は気づかない。







一方山の上のほうでそんな世にもおぞましい物語が展開されているとは知らず。
毎年恒例の第1回「1人ずつ宴会芸」をやっていた。

「さくらーさくらーやよいのそらはーはなよりだんごのにじゅうはちー」
「なんですかそれ」
「桜の歌だよ」
「……ハイハイ。オレンジは25点。次は……グレーの紙斬りですか。渋いですね」

グレーがしずかにうなずくとそばにあった竹刀をびりびりと破った。

「竹刀じゃ紙は斬れないので真剣で」

すると竹刀の中から立派な日本刀が姿を現した。
グレーがそれを高く突き上げると日光に当たってキラキラと光った。

「それじゃぁ。この1枚のティッシュが2枚に。2枚が4枚に4が8で8が16に」

無理してかっこをつけた声でお決まりの台詞を語るとグレーは頭上にティッシュを放り投げ、
剣道の手つきでティッシュをぶった斬る。

「まず2枚!」

そしてもう一刀
「次は4枚!」

さらにもう一度
「そして8枚!お次は16枚!」

……ヒラヒラと斬られたティッシュは綺麗に床に舞い落ちた。
グレーのピンと張った声はまだ山の中でこだましている。

「……ハイ。素晴らしい80点です。しかし子供が日本刀持ってはいけません危ないです。25点」
「うぅ。今年も洗剤セットはお預けか……」
「銃等砲剣類所持等取締法違反になるから辞めようっていったのに……グレーってば……」
「次は~……勝手にタイガになってますけど。まだ戻ってこないのでー。ブルーの南京玉簾を先に」
「えと……読めませんっす」
「『なんきんたますだれ』です。あの木の棒でがーってやる奴ですよ。若い子にはマイナーすぎて読者が知ってるか不安ですけど」

ブルーは早速玉簾を手に取ると慣れない手つきで芸を始める。

「えーと。さてさて、さてさて、さては南京玉簾ー♪」

ドカッ!!

いきなりブルーが前のめりに倒れた。
簾はそのまま床に散らばってしまい、お弁当の上に線香のように一杯刺さってしまった。

「うげ、縁起悪い……」

ちらと目をそらすとご飯の上にピンと人の足がそびえたっていた
「ぎぇぇぇーっ!!!バラバラ殺人だー!」

オレンジの狂気に満ちた叫びで場はまるで地震時に逃げ惑う人の如く、慌てて逃げ出す。
しかもブルーの後ろの小道からはさらに手足がゴロゴロと転がってくる。

「つ、ついにマンネリなOFFレンにもスポンサーサイドからテコ入れが入ったのですねー!!」

グリーンが先行きを哀れんで逃げ出している頃。目の前に生首が墜落した。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!!ジャンルも変更ですかぁぁーーー!?」
「……違う。オレだ……オレ!」
「あぁ……ごめんなさいぃ……私はサスペンスは嫌いなのですぅぅ……」
「オレだオレ!」
「ぇ?」

そっと目を開けるとタイガの首が足元にでん!とばかりに置かれてある。

「ごめんなさいごめんなさい……タイガなんて生首になっちゃえばいいのにって願かけてたのは私です……許してください……成仏して下さい」
「てめぇ!そんなことに願かけてたんだなっ!」

タイガの声はグリーンに届かず。ただ数珠を持ってなにやら念仏を唱えていた
しかし、今彼にグリーンの念仏を見ている余裕はなかったのだ。

「オイ!それより!オイ!オレを……早く!手足も拾って!!」

首だけのタイガは動く事が出来ずそこら中で震えている隊員に大声で呼びかける。

「あ、ホワイトちゃん!お願い!オレの手足拾ってよ!」
「タイガくん……私が桜の枝をとってきてなんていったから……」

ホワイトはうっすら涙を浮かべてタイガの生首をさすり始めた。

「違うんだよ!ホワイトちゃんってば~!」
「自分まで切っちゃったんだね……だからあれほど薬はやめようよっていったのに……」
「違うんだってばぁ~!!早くしないとあいつが!あいつがぁぁ!!」

タイガが一向に叫んでも皆は彼の死をそれとなく嘆く事に専念している。

「ホワイト、貴方のせいじゃありませんよ……」
「グリーン……。私……」
「ここは私に任せてください……みんなで仲良く死体遺棄をしましょう。今なら誰も見てません」
「肺が無いのに何で喋っているか気になりますが仕方ありませんね……」
「……ありがと……グリーン……」

ホワイトはグリーンの腕の中でこらえ切れなくなった涙を思う存分流した。
グリーンもそれに感化され感情が出てしまいそうだったが、タイガの前では涙はしないと決心した







「オーイ!!違うだろ~!!何でそういう話になってるんだよ!!」

自分の世界に入りきっているOFFレンたちを遠めで見ていると、ふと急に目線が高くなった。

「見つけましたよ。虎猫さん」

桜の妖精に頭を鷲掴みにされているのだった。その瞬間、彼の顔色はサーッと血の気が引いていく。

「お、お前らぁ……ぉぃぃ……」

声にならない声でOFFレンに呼びかけるが未だ彼らは別世界。

「さ、いきますか。虎猫さん」
「い、嫌……っていうかオレは虎……」

断固拒否を続けるタイガに桜の妖精はあたたかく微笑んだ。その笑顔を見て一瞬自分の置かれている状況を忘れてしまうくらい。和んでしまった。

「……すぐ済みますから」

タイガの頭を掴んだまま妖精は坂の上へと消えていった。

「い、嫌だぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!!」









タイガが去りし後、OFFレンはその一部始終を見てようやく殺人事件じゃないことに気がついた。

「あぁ、あれがタイガのかくし芸だったんだね……」
「あのアシスタントの女性上手い演技するね」
「タイガは人体切断でしたか……。そして僕らのドッキリと……素晴らしいかくし芸でしたね」
「今年の優勝はタイガだね」

優勝も決まったことでそろそろ帰宅の準備を始めた頃、オオカミがちょうど坂道を降りてきた。
彼らも酒臭かったり寝ているオオカミを別のオオカミが負ぶっていたりとかなり騒いでいたようだ。

「なぁ、お前達。タイガ様知らないか?」
「タイガですか?さっき人体切断マジックした後女性とお帰りになりましたよ」
「そうか……」
「今頃、喫茶店にでも寄ってるんじゃないの~w」
「まぁ……そうだろうな」

その時オオカミの頭に小さな花びらがふわりと乗ったと思うと、山の上からたくさんの花びらが舞い降りてきた。
山の上のほうから風に乗ってこんな所にまで飛んできているのだ。

「あ、桜吹雪ですよ」
「ホントだ……綺麗だね」
「よし、持って帰って桜餅にしよう!」

隊員たちが花びらをそっと掬う。と、中に変な物が混じっているのに気がついた。
それは確かに桜に違いないのだが、何故か花びらが黄色に染まっていて──。