第27話

『イエローの妊娠』

(挿絵:ピンク隊員)

その瞬間は唐突に訪れた。そう、まるで津波のように。

「シルバーのバカ!!」

イエローが突然ロビーに飛び込んできた。
シルバーは黙って手中にある小さなメカをカチャカチャいじっていた。

「どしたの?イエロー」
「シルバーが!シルバーが解剖させてくれないんだもん!」
「……シルバー。解剖くらいさせてあげようよ……」

イエローのメスを持った右手がぷるぷると震え始めた。

「あああ……!発作が始まったわ!は、はやくシルバーを解剖しないと……無差別に解剖を……」

オレンジの肩をイエローはガッとつかんだ。メスにオレンジの恐怖の顔が映る……。

「……い、イエロー!はやまっちゃだめだ!」
「シルバー。解剖なんていくらでもしてあげたらいいじゃん!」
「……」

その日。オレンジの悲鳴だけがその場に響いた。







イエローはソファの上にわざと重く座った。

「……シルバーの奴……もう嫌い。大嫌い」
「まぁ、まぁ、イエロー。シルバーも照れてるんだってばー」

いつの間にかジュースを片手パープルが横に座っていた。イエローはパープルからジュースを奪い取ると一気に飲み干した。

「ぷはぁ。……第一、いつも解剖されてる分際でシルバーに断る権利なんて無いのよ」
「そうだねー。っていうかジュース後で返してね」
「……シルバーも最近私に反抗的になったのよ。ここらで一発ギャフンと言わせないと」
「今時本当に酷い目にあってギャフンなんていう人いないと思うけど」

パープルが側にあったリモコンでTVをつけた。
横にはいつの間にかシェンナがスナック菓子をつまんで座っている。

「(はぁ……私の周りには子供ばっかり……こんなオトナの悩みなんて……)」

TVは何の他愛も無い恋愛物。
最近ちょっと話題になったけど、内容が平凡すぎてつまらない。



『毒々笑華 -第20話-』

「おい、夕飯は?」
「……人骨でよろしいかしら」
「あぁ、そうしてくれ」
「はい、どうぞ」
「こ、このポジティブな第三臼歯の形は……ま、正男!?正男ーーー!!!」
「ウフフフフフ……正男は私が内臓もろとも食ぁぁべてしまったわぁぁ!!」
「き、貴様ぁぁぁぁ!!!!」
「あぁ、怖い!あぁ、怖い! でも貴方は私から逃げられないのよ。ウフフウヘヘ……」
「ま、まさか……次は……」
「グヒャヒャヒャヒャ……ウシャシャシャシャ……」



「わー。このお姉さん怖いですー♪」
「牡丹も薔薇も顔負けだねー」
「……これ面白い?」

挿絵

イエローは何気なく左右の視聴者に問いかけた。しかし視聴者は両目にフォークが突き刺さってもがいている男を見て騒いでいて聞いていない。

「(……つまんないなぁ……)」



「うげうげ……」
「ウフフアハハ……次はここをもぎとっちゃいましょうかねぇ」
「うげうげ……ウグッ!?」
「オホホホ……苦しみなさいもがきなさい!そして貴方は私の残虐さを泣いて苦しむのよ!」
「う……ガクッ……」
「すべて子供のせいなのよ……あんたがあの女にも子供を産ませたから……」

『那津子はついにあの女のマンションへと向った。そこで那津子が目にしたものは!?次回もお楽しみください』



「わー。どろどろ展開ですー♪」
「次回も目が話せないねー」
「(子供……子供ねぇ……)……!」

突如イエローの脳内に物凄い火花がバチバチと音を立てて巻き起こった。

「……そうだ、子供産んじゃお」
「は!?」
「わー♪イエローお母さんになるんですねー♪」

イエローは早速行動を移しに自分の部屋へと足早に入っていった。
残ったパープルは心配しつつ再びTVに目をむけ、シェンナはお菓子が底を突くとすたすたと冷蔵庫へと向った。

「シルバー!」

地下の暗い部屋に1つのまばゆい光が差し込んできた。イエローだった。

「……なんですか。解剖はお断りですよ」
「違うわ。これよ」

イエローは机の上に白い紙をバン!と置いた。薄暗い中シルバーはまじまじと紙に書かれた文字を見つめた。

「……婚姻……届……?」

フッとシルバーはそれを笑いとばした。
また何かよからぬことを企んだのだと特に相手にしようとはしなかった。

「……冗談じゃないわよシルバー」
「……」
「だって、私のお腹の中にはもうシルバーの子供がいるんですもの」
「!」

シルバーは前のめりに倒れた。
ドライバーがぐにゃりとまがってしまっている。

「なななななな!!!!」
「……2ヶ月らしいの。ここの所生理も来てないんだから」
「じょじょじょじょ……ご冗談でしょ!?」

イエローは静かに首を振り、少し膨らんだお腹をシルバーによく見えるように指差した。

「ででで、でもですよ!?子供と言う事はですね……ワタシがイエローに……」
「そう、思えば3ヶ月前のあの日……。酔っ払ったシルバーがいきなり私を押し倒して♪」
「よ、……酔っ払った事なんてありましたっけ?」
「というか、某小説でもいろいろありましたし♪ 生まれても不思議は無いわけで♪」
「(そ、そうか……ついにワタシも……イケナイ過ちを……犯してしまったのですね)」

シルバーは気分が悪いと言って自分の部屋に入って行った。イエローは白衣の中から座布団を引っ張り出して側の椅子の上に置いた。

「……これで少しはシルバーも、大人しく私のいうことをきくでしょ♪」

これがイエローがシルバーに対するささやかな復讐だった。
自分に責任を感じる=イエローに優しくする=なんでもイエローの言う事を聞く=解剖改造し放題。と言うわけだ。

「シルバー?ちょっと改造をしてみたいんだけど?」

翌日、早速やつれているシルバーにイエローは声をかけた。
シルバーは嫌そうな顔をする。そこで例の一言
「私、平然としてるだけど……実はあの時結構傷付いたのよ……」
「何~?傷ついたって」

ホワイトが興味深そうにシルバーに聞いた。

「あのねぇ。実は……」
「わっ!わかりました……わかりました……」

シルバーは胸の前で十字を切ると、イエローに付き添って医務室へと向った。
そんな様子を見ながら女子達は騒ぐ。

「イエローもうまくやってるねぇ」
「何々?パープル」
「イエローがシルバーをからかってるらしいよ。子供が生まれたって」
「えー。なにそれ」
「で、シルバーはイエローの言いなりなんだって」
「シルバーお父さんなんですよー♪」
「でもさー。子供産んでみたいな。ホントに。可愛いんだろうな」
「その前に好きな人見つけないと♪」
「そうだよねーw」
「……そうだよねー。シルバー自分の過ちは自分で償わないと」

手術台の上にいるシルバーの顔をメスにうつしながら、イエローは呟いた。シルバーは潔く目を閉じている。

「……シルバー?やってもいいですか?」
「……どうぞ。ワタシの傷なんて……イエローの心の傷に比べれば……」
「そうそう♪そうですよねー」

イエローは麻酔をかけないままメスを入れそうになった。

「(危ない危ない……ついつい先走りすぎたかな♪)えーと。麻酔麻酔」

イエローは机をごそごそとさぐった。
麻酔が見つからない。麻酔麻酔…………。









麻酔を見つけるとすぐさまシルバーの元へと帰って来た。

「今日は何するんですか?」
「肋骨に作りかけの彫刻があったから、今日、どうしても完成させたくて。イエローって彫ってるの」
「はぁ……」

早速麻酔が効いてきたようで、手っ取り早くメスを入れる。久々の感触にイエローの興奮は高まる。
早速肋骨が姿をあらわにし、肋骨の上を丁寧に彫刻等で「イエロー」の「ろ」の字で仕上げにかかる
意外と彫刻は早く出来上がり、シルバーの肋骨にはイエローの文字がうっすらと見える。

「……そうだそうだ」

ついでにその下に文字を彫っておく事にした。
『ごめんね。シルバー』と。軽く彫るだけだから楽だった。

数日後。イエローの欲求は全て解消され、シルバーも黙って付き合ってくれているので気分もいい。

「シルバー♪今日はこの無包装のどす黒い丸薬買ったから飲んでみてよ」
「……そろそろ危ないんじゃないんですか?」
「危ないって……何が?」

シルバーはイエローの座布団が詰まったお腹を指差した。

「そろそろ妊娠の不安定期ですよね」
「え?あ、そうでしたっけ?」
「この1ヶ月が一番重要なんですから、大人しくしてください」

そういえば、自分は妊娠していると嘘はついたが、それは進行していることをすっかり忘れていた。

「とりあえず、ワタシはここまで育ったせっかくの命を死なせたくないので下ろせとは言いません」
「は、はぁ……シルバーも結構紳士的なのね」

作りかけのメカを机の上においてシルバーは椅子から立ち上がった。

「この時期は、夜更かし禁止、犬猫にもなるべく近づかないようにしてください」
「ね、猫くらいはいいんじゃないの?別に危険なわけじゃないし……」
「病気が赤ちゃんにうつることがありますから、特に素手でフンを触らないでください素手でフンを」

そんなことしないよ。などとイエローは考えたが、シルバーのマジな目を見る限りでは嘘だと言いづらかった。

「……とりあえず、これからはその赤ん坊の親として、私が厳しく監視しますから」
「え!?そ、そこまでしなくても……」
「イエロー……。とりあえず、ネットで妊婦がしてはいけないことをここにリストアップしておきましたから」

●飲酒喫煙
●高いジャンプ、屈折運動
●コーヒー、紅茶、緑茶などの刺激物
●ワープロ、パソコン作業。

「いいですね?」
「は、はぁ……ぱ、パソコンも出来ないんだ……」
「最低2ヶ月はダメですよ」
「2、2ヶ月……」

イエローはその日、医務室でなんとか嘘を誤魔化す為の案を考えた。途中、他の女子隊員もやってきてくれた。

「イエロー。シルバーずいぶん優しいね」
「それが困ってるのよね……」

イエローはそばにあったコーヒーカップに口をつけようとした。

「あ、刺激物はいけないんだっけ……」
「やだなイエロー。ホントに妊娠してるわけじゃないんだから^^;」
「そ、そうだよね」
「このお腹パンパンですー♪」

シェンナ1人が状況をつかめてないようで白衣の中の座布団を大事そうになでた。

「それはね。シェンナ……」
「いいのよイエロー。シェンナはほっといていいから」

イエローはコーヒーをぐいっと飲み干すと大学ノートにびっしり書き込まれた言い訳をペン先で指した。

「言い訳考えてるんだけど……良い案ない?」
「事故っちゃって、母子もろとも……ってのはどう?」
「……それは私自身危ないでしょ」

みんな一生懸命考えているようだ。
シェンナはさっきから座布団に語りかけているのは勘弁して欲しい。

「今更、嘘だってのも言いづらいしね~シルバーああみえて根に持つタイプだから」
「うーん……」

イエローは仕方なく大学ノートを閉じて座布団の位置を整える事にした
「その時がくれば、なんとかなるでしょ」









再び数日後。本部にタイガ君が遊びに来た。

「やっほー♪ホワイトちゃん。今日はオレと大人のお付き合いでもしない~?」
「はいはい、良いですねー」

いつもの調子で言葉を交わされたタイガは1人はなれて音楽を聞いているイエローに気が付いた。

「イエローちゃんクラシック好きなんだ~^^オレもねよく聞くんだよ!」
「そうですか……」

イエローの落ち着いた姿勢と口調にタイガは違和感を感じた。音楽もよく聞くと、クラシックと言うより……ヒーリングミュージックに近い。

「タイガ!イエローからはなれて下さい!」

慌ててシルバーがタイガの手を引っ張って後ろに引き寄せた。
タイガはバッとシルバーの手を振り払う
「痛ぇな!何するんだよ!」
「イエローは今、胎教に良い音楽を聞いてるんですから」
「胎教?妊娠してるわけでもあるまいしさー」

タイガが馬鹿笑いをしたものの、誰一人、笑う隊員はいなかった。

「……ま、まさか……」
「その通りです。出産予定は1月中旬を」

タイガは腰を抜かして床に座り込んだ。
その表情からは物凄いものが垣間見える
「ななななな……!?何だと!ああああ……相手は誰だ!?コラ!」

一同は一斉にシルバーを指差す。途端にタイガはシルバーに掴みかかる。

「お前がイエローちゃんを!!オレが先に狙ってたのに!!!」
「はぁ。ワタシの知らないうちに事が運びまして……」

「私も知らないうちに事が運んでるわ……」とイエローは退屈な音楽にうんざりしながら彼らの会話を聞いていた。

「(あ、待てよ……?タイガくんが絶対非協力的だから……何か良いきっかけが作れるかも)」

タイガ半泣きのままシルバーの体を激しく揺さぶった。

「お前の遺伝子がイエローちゃんの中にあると思うだけでオレは鳥肌が立つぜ!!貴様ぁ!!」
「タイガ。いい事を教えてあげますから話してください」
「いい事ぉ!?」
「今、イエローの中に居るのは胎児では無いんですよ。生まれて3ヶ月の赤ちゃんの状態を「胎芽」っていうんです」
「たいが……?」
「えぇ。つまり、タイガもイエローの体の中に居るわけです」

タイガは目を腕に上げて考えたように静かになるとまんざら悪くないようで手を離した。

「そうかそうか♪じゃぁイエローちゃんの中に居るのはオレな訳だ~♪」
「……単純ですね」
「よーし♪イエローちゃんにオレも協力するぞ!」

期待も虚しく、タイガもあっさりとシルバー側に寝返ってしまった。
胎芽のままでいる期間はそろそろ終わりだというのに……。







数ヵ月後。長かった不安定気が終わりいよいよ安定期へと入っていった。
この時期になれば多少の制限は許されるようになる。いつの間にか座布団も少し多目に入れていた。

「イエロー。酸っぱい物食べたくありませんか?」
「そうねお腹がすいたけど」
「わかりました。じゃぁみかんどうぞ」

みかんを食べると手が黄色くなると言うけれど、イエローは体中真っ黄色になってしまった。
1日に何個ビタミンを取れば良いのだろう……。おかげで肌のつるつるだ。

「イエロー。まだ続いてるの?」

横に座っているピーターがミカンをむきながらイエローに話しかけた。イエローはうんざりした表情でただうなずいた。

「……シルバーが安定期に入ったからいいもののまだ安心できませんよ。って……」
「……もうそろそろ嘘だって言わないと危ないんじゃないかなぁ?」
「それはそうだけど」
「……他の人の子供ってことにすれば?」

悪く無い素振りを見せた物の、イエローはそれを拒んだ。

「それじゃ私が誰とでも付き合うふらちな女に見られちゃう」
「そっか。難しいね」
「しっしっ!ピーター!今危ないんですから離れてください」

シルバーがピーターを手で追い払うと机の上にマタニティ関連の雑誌を2冊置いた。
どちらの表紙にも「初めてのママの子育て特集」といった文句が書かれている
「?」
「イエローは初めてママになるわけですから、良く勉強した方が良いですよ」
「う、うん……」
「産婦人科ちゃんといってます?赤ちゃんの状態は?」
「え、あ……」

ここ最近定期的に産婦人科へ行くふりをして本屋などを巡っていたのだが、そのうち、シルバーが付き添う付き添うとうるさくなり始めた。
赤ちゃんも何もないこの体のまま病院に言ったって、馬鹿にされるだけだ。

「行ってる行ってる!元気だって!」

シルバーは突然床にひざを着いてイエローのお腹に耳を当てて目を閉じた。一瞬ドキッとして、引き離してしまいそうだった。

「……なんかイエローのお腹堅いですね」
「え、あ、あぁ……そうですか?」
「……赤ちゃんの鼓動は何も聞こえませんね……というかなんだか……綿のような……」

イエローは椅子から立ち上がって反射的にぐいっとお腹をシルバーの見えないほうへと向かせた。

「ちょ、ちょっと皆が見てますから……」
「そうですか?いいじゃないですか近々できちゃった結婚~♪するわけですし」
「ま、まぁ……そうですけど……」

シルバーはイエローを再び椅子に座らせると優しく彼女のお腹をなでた。

「赤ちゃん……ちゃんと二人で育てて行きましょうね。ワタシは浮気なんて大それた事出来る柄じゃないですから安心ですし」
「う、うん……」






医務室に帰ったイエローは、机の上で頭を抱え込んだ。

「もう、こうなったら言っちゃうしか……」

いつしか心配して女子達が医務室に待機していた。
影ながらイエローと同じく言う機会を伺っていた物のとうとうここまで来てしまった。

「言う?言うって何を?」
「妊娠の事。こうなったら下ろしてきたって言ったほうが……」

イエローは顔を手で押さえて急に泣き出した。
これまでの我慢からやっと開放されるので嬉しいんだ。よしよし……などと気を使って女子が背中をさすってあげた
「うん。うん。辛かったね」
「これ以上我慢しちゃうと発狂しちゃうでしょ?ね?」

イエローは黙ったまま顔(というか頭)をブンブンと振った
そして、涙ながらにらしく無い声でイエローはつぶやいた
「……私……シルバーの為にも産む」
「えぇ!?」
「何言ってるの産めるわけ無いでしょ!ホラ!」

パープルがお腹の座布団を引っ張り出した。
その勢いでイエローも椅子から落ちてしまった。イエローはパープルから座布団を奪い取って再び白衣の中に詰め込んだ。

「私……シルバーとできちゃった婚してもいいかな……なんて」
「産めないんだってば!」
「人工授精とか代理出産とかいろいろあります!」

女子達は呆れたまま声も出なかった。









1月某日……ついにこの日が来てしまった。

「変ですねぇ……そろそろ産気づいても良い頃なんですけど……」

シルバーがイエローのパンパンに膨らんだお腹を摩りながら不思議そうに言った。
イエローもただ、その返事にうまく返していたが、時間までは誤魔化す事が出来ない。

「……そ、そういえば……もうそろそろ……産気づくような……気が……しないことも……無い……かも……しれないような……」
「ずいぶんあやふやな返事ですが、イエローがそういうなら仕方ありませんね」
「そ、そうですよね……」

イエローはホッとしたが、ここでいらぬ茶々が入るのはお約束。

「俺が思うに……遅すぎるよなぁ……シルバー?」

ブルーの上にいるブラックが自分の人生経験から判断した疑問をシルバーに投げかけた。

「(……余計な事言わないでよ……!!)」
「そうですよねぇ……もうすぐ2月が来ますよ……」
「だろ?やっぱり変だよなぁ……病院にいったほうが……」
「……ですねぇ。じゃぁ、行きましょうか?」

シルバーは早速保険書を持ちだして、イエローに産婦人科へ行くよう告げた。

「(黒猫め……ほとぼりが冷めたら夜道を歩けなくしてやる……)」
「さぁ、行きましょうか?イエロー」
「わ、私一人で行きますから……大丈夫ですよ」

立ち上がった瞬間座布団がずり落ちそうになると、慌ててイエローはシルバーの手を跳ね除ける。

「そうはいきません。ワタシにも悪気があった以上は」
「(……絶体絶命……)」

女子たちも冷や冷やしながらイエローを見つめる。前方にはイエローの手を引こうとするシルバーの手。

「(こうなったら……後は野となれ山となれ!)……うっ!」

イエローはお腹に手を押さえその場にしゃがみこんだ。
多分、ここまでの熱演、今後の人生ではもうしないかもしれない。

「どうしました!?イエロー!」
「なんだか……赤ちゃんが……生まれそうで……要するに出産半ばで……」
「そいつぁ大変だぁ!電話電話!」

グリーンが慌てて救急車に電話をかける。……上手く呂律が回っていない。

「(た、隊長……こういうときだけ積極的に行動しないでくださいよ……)」








バタン……

分娩室のドアが重い音を立ててしまった音がした。
中からイエローの苦しそうな声が聞こえる。

「なんか長いですね……4時間もかかってますよ」
「そ、それは……」

女子達は互いに顔を見合わせる。この無意味な時間をどうするか、どう誤魔化すか、知らない間に冷や汗が頬を伝わる。

「あ、あのね。シルバー……」
「はぃ?」
「実は……イエローの妊娠……」
「オギャァ……オギャァ……」

突如、赤ん坊の泣き声が廊下側まで聞こえてきた。

「!?」

シルバーと共に女子達が一斉に立ち上がった。

「おおおお……女ですか!?男ですか!?」

シルバーが分娩室に入って看護婦さんが抱え込んでいる物を指差した。看護婦さんは静かに微笑んだ。

「……元気な男の子ですよ」
「男……ですか」

毛布に包まれた赤ん坊をシルバーはそっとのぞきこんだ。
シルバーの様に虎模様で、イエローのように黄金色をしていた。

挿絵

「(……タイガみたいですが……まぁいいか)……よくやりました!イエロー!」
「……や、やりましたよ……」

イエローは出産により体力を消耗している為、通常通り入院するのだが、病室へ連れて行く最中、
イエローがVサインをしたのを見て女子隊員たちは思った
「(き、気合で産みやがった……)」

……女は強い。

今回の教訓『死ぬ気でやればほんとに何でも出来る』







「わぁーwオレとくりそつだ~♪」

数日後タイガがイエローの出産祝いにタイガースの帽子を持ってきた。しかも子供用サイズだ。

「あんまり、覗かないでくださいよ。タイガの馬鹿が移りますから」
「何だと!?オレの子供だぞ!?」
「違うでしょう。なんとなく似てますがれっきとした私の子です」
「え、そうなの!?」

タイガが聞いてもイエローは聞こえないふりをした。今はそれより、子供の名前……!そう、子供の名前なのだ。

「どうしましょうかね~。名前」
「はいはい!オレの名前の一部を取って『タイガ』が良いと思うな!」
「一部じゃないじゃないですか。っていうか嫌です」

初めは和気藹々としていた物の。だんだん皆も真剣になってきた。
子供の名前なん一生使う物。適当に決めてはいけない。うんうん
「やっぱり『虎』っぽい名前は確実だよな~♪」
「……あ、そうだ。シルバーとイエローの子供ですから。ゴールドくんで」

グリーン隊長が安易に名前を思いついた。
どうせ、脳内で黄色と銀をまぜただけなのだろう。

「ゴールドかぁ……。なんか漢方薬みたいな名前だし……」
「いいんじゃないですか?以前そんな話した事あったでしょう?」

確かに、シルバーと以前「子供が生まれたらゴールドに云々……」いっていた気がする。

「じゃぁ、ゴールドで♪これで全て決まりましたね」
「まだ、あるじゃないですか」
「え……?」

シルバーはパンフレットを取り出してイエローにすすめた。表紙には華やかなドレスに身を包んだ女性の姿が印刷されている。

「……ワタシ達の……結婚についてまだ」
「シルバー……」







ふとイエローの視界が真っ白になる。だんだんハッキリしてくると医務室の天井の白だった。

「……えっ、夢?」

麻酔を探している最中に寝てしまっていたらしい。
後ろの手術台には麻酔をかけないまま寝てしまったシルバーがいる。
イエローはメスを握ってシルバーの胸に近づけた。

「……ま、夢にしてはかっこよかったですね。シルバー」

イエローはメスを置き、シルバーにタオルケットを一枚被せて医務室を出た。
彼女の顔は少し嬉しそうだった。

「子供……まだまだ先の話ですよね」