第28話
『てるてる坊主とカタツムリ』
(挿絵:ピーターパン隊員)
郵便がやってきた。
なんでも麻薬が隠されているという疑いをかけられて半年分の手紙が貯まっていたようだ。今日それが届いたのだ。
「……あ、星さんから手紙が来てますね」
「で、何ですって?」
裏面には星のマークが大きく書かれている。
「うーん……。元気そうですよ」
グリーンは手紙を机の上におき次の手紙を手に取る。
「……こっちは端子夫婦からですね。まだ新婚旅行中だそうです」
「こっちの手紙は雪だるまからだねー。第2子が生まれたって」
「今までいろいろな人を助けてきましたからね……しみじみ、しみじみ」
腕を組んでグリーンは感傷にふけった。
あんなこともこんなことも……命を懸けた闘いばかりだった。
「……こっちはマジックてるてるさんからですねー」
ピンクが嬉しそうに言った。
「……誰?」
「マイナーキャラですから。あんまり知らないでしょうね。で、何ですって?」
「えーと……」
『OFFレンジャーの皆様。お元気ですか?
私は今、フランスに来ています。某フランス料理店のシェフのお願いをかなえている最中なんですよ。
こいつがまた遅くてですね~。まだ2つしかいってくれてないんですよ。なんていうか石橋叩いてわたります派?
でも、この男の作るエスカルゴがまた美味しいんです。ご希望でしたら食べ残しの殻差し上げますよ
あぁ、そうそう。ちょっと日本で全日本美てるてる坊主コンテストが行われるそうなので日本に寄ります。
その時は、ピンクさんにまた会いたいですね。ではでは。 PS.『PSって「プリンの酢漬け」の事って本当ですか?』
ピンクはマータに手紙の文面を見せながら嬉しそうに微笑んだ。
「てるてるさん来るんですねー♪」
「再び、お願いかなえてくれると良いんですけど」
「エスカルゴってなんですかー♪?」
グリーンとピンクがアットホームに会話している最中にシェンナがひょっこりと間に入った
「エスカルゴっていうのは、カタツムリ料理の事ですよ」
ピンクがマータの右手をくにくに動かしながら答えた。
「わー。シェンナもエスカルGO!たべたいですー♪」
「シェンナにフランス料理はまだ早いと思いますよ」
「それって私が味もわからない馬鹿みたいじゃないですかー」
シェンナは残念そうにグリーンの顔を見る。
グリーンは内心「うんそうだね」と答えた。
「……シェンナが食べられそうなものはフランスパンくらいしか無いわよ」
クリームもさり気なくシェンナの熱意を消火にかかる。シェンナは負けじとどこからかスプーンを取り出す。
「だいじょぶです!シェンナ好き嫌いしません!」
そういうとシェンナは、そばの観葉植物にいたカタツムリをつかんでテーブルの上に置いた。
カタツムリはうねうねと慌てふためいていた……良くわからないがきっとそうだろう。
「いただきまーす♪」
「……馬鹿ね。食べられるわけが……」
シェンナはカタツムリの殻を掴むと『じゅるじゅるっと』(←ここがミソ)カタツムリを吸い込んだ。
「!!!!!」
クリームが持っていた文庫本を放り出してシェンナの頭を叩いた。
「馬鹿!病気になっちゃうでしょ!」
シェンナは雨にも風邪にもゲテモノにもマケズもごもごと口を動かした。
「ぺー!しなさい!ぺっ!しなさい!」
焦ったクリームはシェンナを洗面台に抱え込んで連れて行き、口を開かせて嘔吐するように迫った
「……ごっくん」
その飲み込む音は……この地球上で最も残酷なメロディーに思えた。
クリームは「や、やりやがったぜ……こいつ」と言わんばかりの顔でその場に座り込んだ。
「おいしーですっ♪」
「ば、馬鹿っ!病気になるわよ」

「病気になるですかー?」
クリームに言われてシェンナが側に居たイエローに問いかけた
イエローはふと考えてから……以前見たテレビのことを思い出した。
「……そういえばカタツムリを触った手でご飯を食べて……中にいる寄生虫かなんかで狂い死にしたって事件があったような」
「怖いですー」
「昔、200Xでチーフが言ってたから……間違いないと思うけど。ま、OFFレン小説で死んだ人はいませんから」
イエローは笑顔でシェンナの肩を叩いた。クリームは慌ててそれに反論する。
「良いわけ無いでしょ!?シェンナにカタツムリを食べささせる筆者よ!?気まぐれで死なせても不思議じゃ無いわ」
「まぁ、登場から4話目で死にはしないでしょう、あのタイガくんでさえ……」
「とにかく、この馬鹿は何するかわかんないんだから!」
「馬鹿馬鹿言いすぎですよ!シェンナ馬鹿じゃないですよー!」
シェンナが、珍しく怒っていたが、その口の中には2匹のカタツムリがひょっこり見えていた
クリームがついに切れてシェンナの方を掴んでがくがくゆすった。
「あれほど言ったのに!この馬鹿は! 食べたら病気になるって言ったでしょ!!」
「クリームも食べますかー?」
「聞いてんの!?」
「シェンナ聖徳太子じゃないからいっぱいの言葉はわからないですー!」
何故か腰に手を当ててシェンナがそう言い切ると、にとどめを刺されたクリームはめまいを起こしてその場に倒れた。
それをオレンジとグレーがわっせわっせと自室に運ぶ。
自分を抑える圧力を倒したシェンナは早速口の中に居たカタツムリ夫婦を噛み潰した。
「噛めば噛むほど味が出るですねー♪」
最初は、気持ち悪く思っていた隊員だが。シェンナのその料理人が泣いて喜ぶような笑顔を見ているうち、1個なら食べても良いかも。と思い始めた。
「し、シェンナ……ホントに美味しいの?」
「美味しいですよ!」
「ど、どれくらい?」
「うーん。すっごくおいしいですー」
……良くわからないのでもう一度聞いてみた。
「……もっと、解りやすく」
「うーん。そうですねー。カタツムリのこのぷにぷに感と粘液の甘辛さが絶妙に相成って素晴らしい食感ですー」
シェンナは他の隊員が食べたそうにしているのだと悟るとカタツムリを一匹前に差し出した。
「……どうぞー!」
一同はシェンナのか細い指のなかでうねうねと動いているカタツムリを見て、一番手に名乗りを上げにくかった。
「やっほー♪女子達元気~?」
そこへ案の定と言うか、思う壺と言うか、被害者確実となるタイガがやってきた。
軽く、女子達に無意味なくどき文句を2,3発すると、ごそごそと小さな小包を取り出した。
「あぁ、そうだ。はいこれ。女子達にプレゼント~♪」
適当な包装の包みを開けると、中にサラダオイル一式が入っていた。しかも、脂肪の付きにくい健康的な油だ!
「……なんですか?これは」
「ちょっと遅いけどお中元♪ 女子達が太ったら困るもんな~^^」
「……悪者の癖に正義の味方の健康とスタイルを心配するとはなんて律儀な奴」
「さてと。じゃぁ渡す物も渡したし、オレは早速帰るね~♪」
すると、タイガの手をシェンナが掴んで引き止める。シェンナは首を激しく振りながら帰ってほしく無い素振りを見せた。
「帰っちゃダメですー!タイガくんもご飯食べていってくださいよー♪」
「ご飯?んー……まぁ、オレも朝から何も食べて無いしなぁ」
何も知らなさそうにタイガはシェンナの横に座る
「もぐもぐ」
「所で、シェンナちゃんなに食べてるのー?」
「かたつむりー♪」
シェンナの言葉にタイガが引いたのは顔を見なくてもわかった。
「にゃははーw 面白いジョークだね~。何?流行ってんの?」
「……」
シェンナは黙ってお皿の上のカタツムリをスプーンを使って『じゅるじゅると』吸い始めたタイガは引きつった笑顔のまま動かなくなった。
「ぷはー♪……タイガくんもどうですー?」
「えぁ!?おおお……オレ!?」
『オイオイこいつどうなってんだよ~』とい言いたそうな顔でタイガは女子隊員を見た。イエローは黙って答える。
「……実はそれは古来から不老不死の薬と言われているかたつむりの踊り食いですよ」
「そ、そんなの聞いたこと無いけど……」
「とりあえず。毒見……じゃなくて、食べてみてください」
「ぇぇ……」
タイガは目の前のカタツムリに目を落とした。くにくにとテーブルの上に粘液をくっつけながらあっちへこっちへうねうねと……。
「うげー……気持ち悪りぃ……」
「タイガくんのモットーは、『虎こそ最強』ですよね~?タイガくんは臆病じゃないですよね~?」
横にはカタツムリを食べる女。前には挑発してくる愛しい人。愛と悲しみの板ばさみ。
「……えーい!オレは強い虎だぜっ!」
タイガはそこにいたカタツムリを一匹殻ごと口の中へ放り込んだ。
彼の牙でくだかれる殻の音と、聞こえるはずの無いカタツムリの断末魔の叫びが部屋中に響いた。
「……ごっくん」
一瞬その場の時間や空気がピタッと……止まった。おそるおそる、イエローがタイガに聞いてみた。
「……どう?」
タイガの顔が明るくなる。
「……いけるかも」
タイガはもう1個カタツムリを放り込み、口をもごもごさせながら頼んでもいないのに解説を始める。
「この粘液の良い感じの辛さと……殻の中から染み出す。まるで……××××(自主規制)のような……」
タイガの解説に耳を貸さず、隊員達は思い思いに自分の理性と戦っていた。
カタツムリはいままでまずいと思っていたのに、今こうして2名の勇気ある男女がおいしそうに食べているのだ……!!

「(き、きになる……カタツムリってそんなに美味しいのかしら……)」
「(な、なんだ今オレの口の中に広がる唾液の量は……食べたい!食べてぇぇぇ!!!)」
「(カタツムリ……何故か食べたい、この気持ち……あ、一句出来た)」
「結構美味しいですよね~♪」
「うん^^今度はバターでもかけて食べようか」
タイガもカタツムリの味覚に取り付かれたのか、ただ単にシェンナの馬鹿が移ったのか美味しそうにカタツムリを平らげていく
次第にカタツムリは底を突いていった。
「げふー。美味しかったですー♪」
「まさか最高の食材がこんな近くにあるなんてなー♪」
結局カタツムリの味はわからずじまいで、満足げな2人だけがその場に残っていた。
タイガはまだ残った殻までバリバリと尖った牙で噛み砕いている。
解りやすく例えると、エビフライのしっぽを良く食べる人だ。そうだ。我ながら良いたとえだ。うん。
「もっとたべたいですー」
スプーンを口にくわえたまま口寂しそうにシェンナは呟いた。
「オレが来る途中、外にいっぱいあったよ♪」
「えー!じゃぁいきましょ~!」
有無を言わさず、タイガの手を引っ張ってシェンナは外へと飛び出した。
いつの間にかクリームが執念で玄関まで這いってきていた。
「い、いっちゃだめでしょ……シェンナ……」
クリームが小さく、しかし、凄みを利かせた声でシェンナを制止する。シェンナはムッとしてタイガの手をブンブン振りながら怒った。
「シェンナの好きな事をいつもさせないクリームなんて嫌いです!あっちいけー!」
「そういう意味じゃなくて……シェンナに何かあったらおばさんになんていったら……」
「すぐ家族を持ち出してくる人には良い人はいないです!もうシェンナいきますからね!」
「ちょっと待ちなさい……シェンナ……シェンナー!」
息絶え絶えのクリームをオレンジとグレーが担架で再び部屋へと運ぶ。
「……どう育てたらあんなふうになるのかしら……」
クリームの悲痛の叫びでさえ、オレンジたちには聞こえなかった。
「どうもこんにちはー!」
慌しい二人が去ったと思いきや、懐かしい声にピンクがすばやく反応した。ピンクは辺りを見渡しだが、まったく『谷間のウグイスだ』
……つまり、『声は聞けども姿は見えず』と言うわけだ。うん我ながら上手い例えだ。
「ここですよ」
ピンクの真上に彼は浮かんでいた。
「てるてるさん♪早かったですね!」
ピンクが真上に手を伸ばすとその上に彼はすとんと乗った。相変わらず夏だと言うのに黒いコートを身に着けている。
「いや~今願いかなえてる人まだ1つしか願いをかなえて無くて~。おや、なんだか見知らぬ顔がたくさん……」
帽子を取って礼儀正しくあいさつをしようとしててるてるは他の隊員に気が付いた。
そっちの方にもてるてるは帽子をすっと横に切って挨拶をしなおした。挨拶を終えると、てるてるはピンクの手から離れて側にテーブルに上がった。
「こちらはつまらない物ですが、お土産です。みなさんでどうぞ」
ごそごそと暑そうなコートの中からステッキを取り出して軽く頭上に円を描いて振った。
キラキラとテーブルを囲んだ光は一つの形をだんだん形作っていく……。
「わー!なんだー!今の!?」
オレンジが1人興奮しててるてるに駆け寄る。急に迫られて迷惑そうにしているてるてるをグリーンがカバーする。
「オレンジ、そんなに驚かなくても良いじゃないですか、魔法ですよ魔法」
「魔法!?驚かないわけ無いよ~!なんでみんなそんな平然としてるわけ?」
オレンジ以外に驚いている隊員は1人もいず、みんな状況を素直に飲み込んでいた風だった。
「……今の日本を見てくださいよ。魔法なんかで驚いていたら身が持ちません」
オレンジの方をグリーンはポンポンと叩く。
「まぁ、世の中なんてそんな物でしょう」
てるてるもオレンジに声をかけた。
ふと気が付くと、すでに上部に突起のある小型サイズの物がたくさんテーブルの上を埋め尽くていた。
よく見ると、有名なエッフェル塔のミニチュアが人数分。
「わー。可愛い置物ですね」
「エッフェル塔のぶんちんです♪ やっぱ日本人だとこれかなって」
「あ……ぶ、ぶんちんですか……」
グリーンは苦笑しながらエッフェル塔文鎮を手に取った。文鎮なだけあってエッフェル塔の土台がかなり重かった。
「……さてと、みなさん気に入ってもらったようですし♪」
「もう、全日本美てるてる坊主コンテストに行っちゃうんですか?」
「いえいえ、大会は午後からです。優勝すれば日本の印刷物なんかのミニイラストが私風になるんですよ」
「じゃぁ、今は一体……?」
ステッキをぶんぶん振りながらてるてるはグリーンの頭を小突いた。
「ピンクさんとこの方の発展を見ようかなと思いまして♪」
グリーンとピンクは恥ずかしそうに下をうつむいた。その様子を見ててるてるはニコニコする
「うん。仲は大丈夫なようですね」
「じゅる……じゅる……」
尾布市の一角にその音は響いていた。
目を光らせてアジサイやら軒下にやら這っているカタツムリを片っ端から捕まえては食べている2人組がいたのだ。
「美味しいですー。やっぱりこの辺が一番……じゅるじゅる……」
「うんうん。塩加減が何とも……じゅるじゅる……」
粗方食べつくした2人組は次の目的地を探す為のそのそと歩き始めた。
「クリームはいつもいつもシェンナのやりたい事をダメダメ言うんですよ。酷いですよね」
「うんうん。クリームちゃんも正しいし、シェンナちゃんも正しいよ♪」
「そういう曖昧な答えはシェンナは求めていませんー!国民の反感かいますよ」
「あ、じゃぁシェンナちゃんが正しいよ♪……あ、ここに一匹いるよ!」
雑談の合間もカタツムリを見逃さない。
タイガはすかさず無言の叫びを上げるカタツムリに飛び掛ろうと両手を地に付けてゆっくり近づく、
こういう、獲物にゆっくりと近づく行動は、やはりタイガが少なからず虎だという証だろう。
タイガはカタツムリがなかなか逃げない事を確認するとすかさず飛び掛った。
「……捕まえたっ!捕まえたよ」
「はー。タイガくんカッコいいですー♪」
「ん~♪では早速……『」
「……このクソガキがっ!」
さっそくタイガがカタツムリに口をつけようとした瞬間誰かがタイガの頭をおもいっきり引っぱたいたタイガは勢い良く叩かれて前のめりに倒れた。
「いっ……痛てぇ……誰だ!?オレの頭を叩くとは良い度胸じゃねぇか!馬鹿になったらどうするんだ!」
「……もうすでに馬鹿だろ」
タイガはキッと後ろを睨みつけるとタイガよりもずっと背の高い男達が太陽を瀬に並んでいた。
黄色いジャージに黄色い服、そして頭にぐるぐるマーク。見た感じ怪しい団体だ。
「……なんだ?お前らは……」
再び男はタイガの頭を思いっきり引っぱたく。タイガは今度は後ろ向きに倒れた。
「年上になんて口の利き方だ!まったく……」
「だ……誰ですか?」
タイガがかすれた声で慣れない敬語を使うとようやく向こうは名乗り始めた。
「我々は……そのシュールなカタツムリたちの姿に魅せられたカタツムリ命の団体……」
「カタツムリ同好会!!!」
ポーズを決めると誰かが掛け声をかける
「ちょっぴり可愛い!」
「カタツムリ同好会!」
ポーズを付けて全員叫ぶ。
「最近はなんにでもファンがいますねー」
「んで?カタツムリ同好会が何のようだ!?」
ポーズを付けて満足した後、リーダーらしき男はタイガの首根っこを掴んで上に引き上げた。
「うにゃぁぁ!!辞めろぉ!」
「……猫の癖にカタツムリを食べるとは不届き旋盤!言語道断横断歩道!」
「オレは虎だぞっ!どいつこもこいつも間違えやがって!」
「どっちも同じ事!そこの幼稚園児も同罪!」
シェンナはすでに他の男に捕まえられていた。
「……同好会本部に帰ったら……とことんおしおきだ」

「所で、例の彼は?」
てるてるはクリームソーダーを飲み干すとピンクに再び質問した。
……半年の年月は人を質問マシーンに変える。
「例の彼……ですか?」
「あのタイガくんですよ。三角関係だったんじゃないんですか~?」
「そ、そういう話はやめてくださいよ……」
「あぁ、すいませんね♪」
てるてるはソーダの中のクリームをパクッと一口で食べた。その横でピンクが困ったようにマータの手足をくにくにと動かす。
「そういえば……シェンナとタイガどこまでいったんでしょう?」
「なんですかなんですか新たな展開ですか!?」
ストローで氷を突付きながらてるてるは声の調子を強めて聞いた。グリーンは笑っててるてるの質問に応じる。
「違いますよw ちょっとご飯を食べに」
「ご飯ですか~?私はおフランスにいましたから結構味にうるさくなってしまいましたよ」
「まぁ、てるてるさんも食べた事のあるものと良く似ているようで似ていないというかですね……」
てるてるは良くわかってないようで、首をかしげて再びソーダを飲みむ。
「まぁ、当分帰ってこないと思いますよ」
グリーンはあまり話したくなかったので、軽く答えた。てるてるはソーダを全て飲み干すと静かにうなづいた。理解を示してくれたようだ。
「そういえば、てるてるさんは、なんでお願いをかなえて回ってるんですか?」
話題をガラッとピンクは切り替えた。
グリーンを助ける為だったのか、特に何も考えてなかったのかは解らない。突然の質問にてるてるはふと考え込んだ末、答えた。
「……そうですね。それはまたいづれお教えてあげますよ。そろそろ、準備しないといけないですし」
「あ、コンテストの」
「えぇ。今回は実技中心だそうで、私も2ヶ月前から頑張ってるんですよ!」
そういえばてるてるのコートが心なしか膨らんで見える。
「そうだ。ピンクさん。2ヶ月の成果見ていただけますか?」
「いいですよ♪」
ピンクが素直に応じるとコートの中からてるてるは2,3道具を取り出した。
そのうちまずスケッチブックを手に取ると、軽くお辞儀をして何やら始めた。
「えー。じゃぁ、行きます!『こんなてるてる坊主は嫌だ』」
てるてるは一枚目の紙をめくった。
2枚目の紙には、さかさまに書かれたてるてる坊主が小さく書かれていた。
「えーと。『てるてる坊主の癖にさかさまになっているー!』」
無反応なギャラリーをよそに、てるてるは3枚目をめくる。そこには、てるてる坊主の顔に某有名人の顔写真を貼っている。
「て、てるてる坊主なのに、なんかアイドルみたいだー!」
ピクリとも動かない人々の視線を撥ね退けて次々とてるてるは紙めくっていった。結局、この調子で15枚目まで続いた。
「なんですか!なんですか!? ヤングに馬鹿受けだって言うから2週間も考えたのに!」
まったく表情を変えない隊員に明らかに不満そうにてるてるはスケッチブックをしまった。
「……なんか、聞いたことあるようなネタですね~。「今更感が強いっていうかぁ……」
てるてるは負けじと次のネタ、もとい、実技に入る。
何度も手帳を見ながらブツブツネタを反芻すると早速テーブルの上に立って(と言うか浮かんで)実技を始めた。
「次は自信あるんですよ!『てるてる坊主の話!』」
なんだか嫌な予感がしながら隊員は実技を恐々見る。
「『てるてる坊主さん明日天気になりますように』……って言ってる子供は大抵天気予報を見ないんだ!間違いない!」
オレンジが予想通りだったのか、面白かったのか知らないがうつむいて笑いをこらえ始めた。
それに気を良くしたのか、てるてるは満足げに次のネタに入る
「あ、あの……もういいです」
ギターを抱えてなにやら歌おうとしたてるてるをグリーンは止めに入った。
「伝説」か「斬り」をやるのかは知らないが、これ以上こんなてるてるを見るのは非常に心苦しかった。
「せっかく練習したのに……」
てるてるはステッキを振って道具を消すと、不満げにピンクの手の方へと飛んでいった。
そんなてるてるをピンクは何とか励ます。
「本番はきっと受けますよ」
「……だといいんですけど」
てるてるはグリーンのほうをチラっと見た。グリーンは目のやり場に困ったように後ろを向いた。
「……」
「コンテストって、てるてる坊主ばっかりが集まるんですか?」
グリーンへのてるてるの不満を少しでも発散させる為、ピンクは話題を切り替えた。
てるてるは、なんとなくそんな気がしたのか特に何も言わず答えた。
「いえ、人間の団体さんもいらっしゃいます」
「団体さんですか?」
「カタツムリ同好会さんです。私たちのコンテストの後はカタツムリのコンテストなので、互いに特別審査員として出るんです」
「カタツムリ……あ、シェンナ達何処へ行ったんでしょう?」
「あ……!」
グリーンはカタツムリの一言ですっかり忘れていた2人を思い出した。もう尾布市の半分のカタツムリは食べてしまっているかもしれない。
もし、そのカタツムリ同好会なんぞの団体に見つかったら恐ろしい事になってしまう。
「早く見つけたほうがいいですかね……」
「早く見つけてくれー!!」
タイガとシェンナは縛られてドラム缶の中に放り込まれていた。
その中には、コンクリートでも、ガソリンでもなく、カタツムリがめいっぱい詰められていた。
「ふはははは……。カタツムリの虐待は我々が許さん!」
「こ、こうやってカタツムリを押し込むのもカタツムリじゃねぇのかよ!」
「…………オイ、こいつの中にカタツムリ追加だ」
「はぃ」
「ぎぁぁぁ!!!」
もがき苦しんでいるタイガをよそにシェンナの方からはしゃぐ声が聞こえる。
「いっぱいで楽しいですねー♪」
「(シェンナちゃんは強いなー……)」
うねうねとカタツムリが体中に張っていると次第にタイガは限界を通り越して意識が薄れていった。
「(あ……もう快感になってきたかも……かも……かも……)」
「そこまでです!」
タイガの意識が飛んでいった瞬間、グリーン隊長が光と共に現れた。
「何奴!?」
「OFFレングリーン!」
「OF……隊長、長くなるから辞めましょう」
「そ、そうですね。OFFレンジャー参上!……不埒な悪行三昧はやめるのです。早くシェンナを返しなさい!」
「何をこしゃくな!この娘はカタツムリを300匹以上も食べつくしたのだぞ!」
「では、その謝罪もこめて、いきせていただきます」
グリーンはOFFレンボックスを取り出すと早速ブルーに手渡した敵が何もしてこない今がチャンスなのだ。
「OFFレンボックス!スタート!」
「それっ!」
「てぇい!」
「うりゃぁ!」
「せいやっ!」
「かっ!」
「ぐぉりゃゃ!」
一通りボックスが回った所で、赤色のドラム缶から誰かが叫びながら顔を出した。
「……シェンナのですー!取っちゃダメですー!」
カタツムリを2,3匹加えながらシェンナが現れた。
「……あそこですね。では……!」
グリーンの元にボックスがやってくると、グリーンは高く飛び上がった。
バレーのアタックのように思いっきり下に箱を打ちつける。
「マジック!……オーバーアクションの若手俳優!」
気が付くとシェンナのドラム缶の近くに、少々古めかしい顔つきのスーツを着た男の人が立っていた
男は、何も言わずシェンナからカタツムリを奪い取るともぐもぐと食べ始めた。
「わー。シェンナの取っちゃ嫌ですー」
「ハハ。すまないね。つい美味しそうだったから……ぐ……ぐ……」
突如男が口を押さえてうめき始めた。
「ぐぐ……グハァ!」
さらに吐血した。
「ゲボッ……グェェェ!!!!!!か、カタツムリが!俺の体を食い尽くしてるぅぅぅ!!!
さらに、頭をおさえてひざを突いた。声もずいぶんとかすれてハスキーボイスになっている。
「苦しい!苦しい!か、カタツムリさえ食べなければこんなことには……ゲェェェ……!ギャャャ!!!!」
さらにスーツを突き破ってでっかいカタツムリの目が飛び出した。
「かぁぁたぁぁつぅぅむぅぅりぃぃさぁぁえぇぇたぁべぇぇなぁぁけぇぇれぇぇばぁぁ!!!!!!!」
男は白目をむいて血を吐きながら倒れた。突然シェンナはドラム缶から飛び出した。
「……こ、怖いですー!シェンナも死んじゃうですー!」
泣きながらシェンナはクリームに飛びつく。
「クリーム!シェンナ死んじゃうですー!ゲロゲロなっちゃうですー!」
「よしよし……シェンナ。これにこりたらもうカタツムリなんて食べちゃダメよ~」
「はいですー……グス……」

さっきの男は軽くほこりを払って立ち上がった。
「ありがとうございました」
「いえいえ」
男は煙と共に消えた。さっきの血は何とか残っているが……。
「……ごめんなさいですー」
シェンナの頭をクリームはグイグイと押さえつけて何度も同好会の人たちに謝らせた。
タイガは……どっかへ行ったんだろう。気にしないことにした。
「……まぁ、カタツムリを食べてしまっては仕方が無い」
「慰霊碑代を後で請求させていただく」
「……本当にすいませんでした」
起き上がろうとしたシェンナの頭を再びグイグイ押してクリームは再び謝ったとたんに同好会が騒ぎ出す。
「大変です。そろそろコンテストが……」
「間に合うか!?」
「……急げば何とか……ですが準備がまだ」
「なら私が送って差し上げましょう♪」
ここまで皆を連れてきてくれたてるてるがステッキを高く上げて同好会に言い寄った。
「おぉ、貴方は前年度のコンテストの時の」
「私、魔法が使えまして、皆さんを送って差し上げますよ♪」
「それはありがたい!」
「いえいえ、お礼は優勝で結構です」
てるてるは軽く同好会の方にステッキを振った。うっすら消えていく同好会を背にてるてるはピンクの元へと来た。
「それでは、ピンクさん。私はこれで」
「もう行っちゃうんですね」
「寂しがらず。また冬にお逢いしましょう!」
「……はい」
てるてるは自分の帽子をステッキで軽く叩いて、すぐいなくなってしまった。
「……てるてるさん」
『……それでは、今週のお天気です』
高額な慰霊碑代を請求されてシェンナとクリームは涙がとまらず今も部屋にこもっている。
同好会も今はどこにいるのかわからない。少し寂しいけど、てるてるにはまた会える。
「クリスマスが楽しみだねー。マータ」
マータは少し不機嫌そうに見えた。
その時、ピンクはTVに目をやると、おかしなことに気が付いた。
「あれ?……なんか……」
……天気予報に挿入されているイラストが、夏だと言うのに黒いコートに身を包んでいた事に。