カツ、カツ、カツ……

薄暗い部屋の向こうから規則正しいリズムでこちらに向かっている足音。
彼の姿はその暗闇の中と一体化しているような真っ黒い服。その黒い服の男の頭には青い帽子が。それもまた異様な印象を与えている。

「……」

思わず息を呑んでしまう圧倒的な威圧感。この男は何者なのだろう?

「……いらっしゃいませ」

男は口元をゆるませて好意的な態度で話しかけてきた。

「……この世界の言葉で、事実は小説よりも奇なりという言葉があります。
小説やTVの絵空事のような出来事よりも、現実に起こる出来事の方がより『奇妙』なのです。
そう、我々の生活している日常、その日常で起こる出来事は誰も考える事の出来なかった『奇妙』が生まれているのです……」

男は一方的に話を終えると5つのドアを指差した。どのドアも古めかしいようだがどこか新しい……そう、今さっき出来たばかりのような……。

「ここに5つのドアがあります。5つのドアは全て……日常的で、かつ不思議な世界に続いているのです」

男は一方的に話を終えると鍵を5本差し出して再び笑みを浮かべた。



挿絵

「さて、どのドアからお入りになりますか?」



第31話

『OFFレンの怖い話 -04夏の特別編-』

(挿絵:ブルー隊員)



──誤解。

誤った解釈によって、人は奇妙な行動をする事があるのです。
しかし、厄介なのは人目に奇妙な行動に見えても、本人にとっては……。



──2002年 某月某日 土曜日。

試作品14号、15号の最終調整段階に入った。2体とも、順調に生長している。

このままいけば、来週にでも完全な人型を形成するだろう。

私自身も、もう何度も繰り返しやってきているせいか、妙に気持ちが落ち着いている。

きっと素晴らしい隊員になってくれることだろう。

レッドも、さぞかし喜んでくれるに違いない。








第1夜

「7月13日の誤解」







私がこの本を見つけたのは、イエローの部屋に薬品を借りに行ったときだ。

薬品を取ろうとした際に、一緒に落ちてきたのだ。

真っ白い表紙に見たことも無い言語で何かが書かれていた。少し縁まわりが擦り切れていた。

それが余計に私の好奇心を仰いだ。こう見えても私は、結構好奇心が強い方なのだ。

幸いイエローも誰もいなかったので、こっそり覗いてみることにしたのだった。

今思うと、あんなもの見なければよかったと思っている。

どうして見てしまったのだろう――



挿絵


某月某日 月曜日
どうやら14号、15号とも性別は女のようだ。

何度も繰り返し作ってはいるものの、どうしても性別だけは操作が難しい。(女性が増えるのは私にとっては好ましいことなのだが)

もう外の部分は出来上がっているようだ。あとは、脳などの中身を作るだけ。


今朝気付いたことだが、15号の右目が極端に小さかった。どうしたことだろうか。

大きな支障を来たすほどの問題ではないが、可哀想なことをしたかなと、反省している。



右目がもう少し大きかったら、もっと可愛い娘になっていたと思うから。

――――――


私はその本をざっと目を通すように読んでいた。
どうやら、イエローが携わった実験の経過報告のようなものみたいだった。

生物実験のようだった。私はそういうのが大好きだから、わくわくしながら読んでいた。




しかし、この文を見つけて私はゾクッとした。
右目が小さい―― 私の右目も小さかった。

何故だろうと、鏡に自分を映すたびに思っていた。生まれつきだから仕方ないか、と諦めていた。

しかし、今はその些細な疑問が大きな疑問へと変わった。

私の右目が小さいのは、イエローのせい――……。

いや、そんなことよりもっと大きな疑問が私の頭に生まれた。



――私はイエローに作られた――



そんな馬鹿な。そんな容易く人を作り出せるわけが……。

初めはそんな考え、鼻で笑っていたのだけど、どうも経過報告の中に出てくる「15号」が私に似ている気がしてならなった――


自然と、私はその経過報告に吸い込まれていった。

――――――

某月某日 木曜日

そろそろ14号と15号にも、名前をつけなければならない。
しかし、名前といってもそんなに深く考える必要は無い。

体毛も、もうしっかり生え揃ってきた。14号が茶色で、15号がクリーム色。

その色で名前を決めてしまえば良いのだ。今までもそうしてきたように。


14号が「バーントシェンナ」15号を「クリーム」と命名した。


それにしても14号の名前は困ったものだった。「茶」という名前、というわけにもいかない。

散々悩んだ私を救ってくれたのは、机に転がっていた画材セットだった。

茶色はバーントシェンナとも言うらしい。絵が遠い存在にある私には、もう縁のない知識だろうけど。

――――――


ついさっき頭に浮かんだ大きな疑問に、もう答えを突きつけられてしまった。

やっぱり私は、イエローに「作られた」存在だったのだ。
この報告書を見る限り、シェンナも私と同じ「作られた」存在みたいだ。


いや、もしかしたらイエロー以外みんなそうなのかもしれない。


でも、まだ私は信じられなかった。すがる思いで、報告書のページをめくった。

――――――


某月某日 日曜日
彼女達を溶液から出すことにした。もう完璧に、彼女達は完成したのだ。

溶液から出すと、すぐに両方ともその体に命を宿した。つまり、目を開いたのだ。

これが、私の実験の成功のサインなのだ。何度成功しても、この実験は遣り甲斐のあるものだと改めて感じた。


彼女達は、急な環境の変化のせいか泣き出してしまった。
姿は立派なお姉さんだけど、心は真っ白な状態、赤ちゃんの状態なのだ。


次回は彼女達の、記憶の構成の作業から入ろう。

今日のところは彼女達を寝かしつけて終わりにしよう。グリーンにも報告をしないと。

――――――


某月某日 火曜日
記憶の方は大体書き込み終えた。まだ不安定な状態だが。

記憶はCDにファイルを保存するような作業だから、私でも簡単に出来る。

こんな素晴らしい機械を作ってくれたシルバーに感謝しなければならない。


今日は知能訓練をした。知能ばかりは、本人の努力で補ってもらうしかない。

研究に研究を重ねても、初期知能指数は70後半までが限界なのだ。
丁度反抗期の年頃の子供と同じなため、少々苦労してしまう。

反抗期の兆候は、クリームのみに伺える。バーントシェンナ(以下シェンナ)の方には、まだ見られない。


知能訓練だが、クリームは与えられた課題を順調に消化している。

問題はシェンナだ。図形の仲間わけの問題をしていても、図形のブロックで遊びだしてしまう始末だ。

基本的な知能は一応備わっているものの、もう少し高めないと感情まで低下してしまうことになる。

どうにかして知能訓練をこなせる様になってほしい。

クリーム知能指数:76 シェンナ知能指数:70.5


――――――
……
――――――

2003年 5月8日 木曜日

いよいよ明日、彼女達が正式にOFFレンジャーの隊員となる。

知能も感情も、もうほぼ大人にまで成長した。シェンナの方が少々不安だが、明るい良い子だと思えば安心だ。

入隊については、グリーンの方で上手くやってくれるそうだ。

彼女達の記憶は、溶液から出したあの日以降の物は削除して、新しいものを書き加えておいた。

もうそろそろ私が派遣しておいた、彼女達の家族役の研究スタッフの家へと着いている頃だろう。

彼女達が「作り出された」事に気付かないようにするには、家族の用意は当然の配慮だ。



勿論周りの友達も、学校の先生も。近所の人間だってその配慮の一部だ。

彼女達の周りのみんながみんな、私の雇ったスタッフなのだ。
これもひとえに、OFFレンジャーという組織があるおかげだ。


あとは彼女達がOFFレンジャーの存在に気付けば、万事が上手くいく。

どのように知らせるかはグリーンの管轄だから、私はよく知らないが彼のことだ。上手くやってくれるに違いない。

1年以上も一緒に過ごしてきたせいか、彼女達と別れるのは少し寂しい気がした。

――――――


もうそれ以上、私は読む気にならなかった。だから、静かに本を閉じた。


やっぱりクリームは私で、シェンナは私の知っているシェンナだった。


ついさっきまで、自分は18年間ずっと喜怒哀楽を感じ、両親に温かく育てられてきたものだと思っていたのに。

様々な人に支えられながら、でもそれに反抗しながら、私なりに今まで生きてきたつもりだったのに――

なのに、本当はたった2年前に人の手によって作られたんだって思ったら急に悲しくなった。

私の記憶の中にある過去は全て、イエローの手によって作り出された偽りの物なんだって思うと私の中が空っぽになる気がした。

全部が全部、偽物だった。偽者だった。全部イエローによって定められていたものだった。


悔しくて、悲しくて。私は傍にあったイエローのデスクを、何度も何度も殴りつけた。



指の骨が変な音を立てて折れた。けど、そんなのお構いなしに私は殴り続けた。


こんな作り物の体、壊れたって構いやしない。むしろそれを望んでいるんだ。
もっと壊れてしまえ!――



なんか、とても急なことだったから信じたくなかった。受け入れたくなかった。

イエローに対して強い憤りを感じた。しかしどこかで、育ててきてくれたことに感謝する自分があった。

そんなことを一瞬でも考えた、自分の愚かさを呪った。そして、激しい自己嫌悪に襲われた。


自分は産声を上げて生まれてきたわけでも、母親の体温を感じて育ったわけでもない。



冷たい溶液に浸りながら、得体の知れないモノから生み出された生命体なんだ。

急にこの世に生を受けて、気が付けばOFFレンジャーに所属していた。




そう考えると、なんか自分が凄く下らない存在に感じた。


そう。所詮、自分はツクリモノ。






















気付けば目の前には、青ざめて腰を抜かしているイエロー……。


どうやら自分はナイフを握っているらしい……。



そして、イエローをこれからそれで刺そうとしているみたいだ……。




けど、これは正義のためにやることなんだ……。


私みたいに、可哀想な作り物がまた作られないためにも……


イエローには死んでもらわないと



そしてその後、私と同じように「作られた」彼らも、自然の摂理に反する存在だからやっぱり殺す……。



そして当然、私も命を絶つつもり……


もう躊躇いなんて、なにもない









さぁ、神を超越してしまった人間を土に返さなければ……。






















イエローの血は、とても温かかった。




そして、とても綺麗な赤色をしていた。






けど、他のみんなの血は妙に黒ずんでいた。





そして、すごく冷たかった。感情なんてもの、微塵も感じないような冷たさだった。




温もり――



それはきっと、オリジナルにしか備わっていないものなんだろう。






これだけは、決して人の手では作れないものなんだろう。






神様にしか作ることの許されない、素晴らしいものなんだろう。







やっぱり、私の血も冷たかった。









――どうして神様は、私にそれを与えてくれなかったの?




































2004年 7月12日 月曜日。

このノートの存在をすっかり忘れてた。
一応小説を書くためのネタ帳だったんだけど……結局使わなかったなぁ。


もう捨てちゃおう。クリームやシェンナが見たら気分を悪くしちゃうかもしれないからね。

自分で改めて中身を読んでいても、ちょっと気味が悪い。
早めに処分しておこう。








日本には古い迷信がたくさんあります。
黒猫が前を横切ったら不吉、猫が顔を洗ったら雨など……本当に様々です。

しかし、それを気にしすぎるあまり『恐怖』の世界に入り込んでしまうのは、意外によくあることの様で……」










「お、お、お、おぉーーーーっ!!」



ある朝急に緑茶が飲みたくなったのが正解だった。
まさか、まさかこんなにラッキーな事が起こるなんて……。








第2夜

「茶柱」







そう、この日オレはついに茶柱の仁王立ちに出会えたのだ。
嗚呼……このまっすぐ立ち泳ぎしているこの茶柱……。こういう迷信は全く信用していなかったけど、やっぱり実際に起こると嬉しい♪


「はー♪ 今日は……いいことがあるんだな」

1人優越感を味わうオレ……さて、次は茶柱の立った幸運のお茶を味わうとするかな……。
と、その時都合よくTVでは血液型占いをやっている。オレはA型だから……えーと



『A型のあなた♪今日はとてもラッキー! 茶柱が立ったりといったささやかな幸せが訪れるかも!』

オレはもう立ってるもんね♪やっぱり今日はオレのラッキーデーなんだ。
ひょっとしたら、女子隊員にデートをお願いすると告白されたりして!いや、でもわかんないな。今日のオレはついてるんだから!
なんて浮かれている頃画面はスタジオ内の風景へ、TVを消してゆっくり飲もうかと思っていた。

『茶柱と言えば、誰にも見られずにひっそりと飲むとより良いそうですね』「何!?」

オレは、茶柱さえ立てば良いかと思っていたのに……誰にも見られず飲むと【さらに良い】!?
こ、これは聞き捨てならねぇな……。いまはオオカミもいないし……飲んでやるぜ!茶柱!

「あのー」

そこへオオカミがやってくる。ま、一般的なパターンだとこうなるわけだな。

「なんだ?」

オレはそれを、丁寧に聞いてやる。ま、パターンだしパターン。

「OFFレンジャーが現在総出で買い物に出かけています!今本部を狙ってみては!?」
「そ、そうか!なにか掘り出し物があるかもしれないな!!」
「そうではなく……極秘書類を盗んだり、武器を使用不能にしたち色々ありますでしょう!」

オオカミはオレに何をしようというのだろう……?
確かにOFFレンの中に侵入できるのは魅力的だが、オレはどっちかというともう少しこの幸せなときを感じていたい……。

「おや、タイガ様そのお茶……」
「!」

オオカミが近づいてきた!ヤバイ!「誰にも知られちゃいけない」のに!!
オレはオオカミをぶん殴った。オオカミはぐったりとしてオレのベッドの上で延びていた。ちょっと……強く殴りすぎたかな……?

「……許せオオカミ。オレの幸せのためだ!」

さてと、オオカミが延びている間にゆっくりと湯飲みを口に付ける……。
さぁ来い!!茶柱!!このオレ様が飲んでやるからありがたく思えよな!



『ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ……』


突如鳴り響く非常ベル!なんだ!?オレ何かまずい事したか?

「緊急事態!緊急事態!最近問題の液状化現象により水没する危険性あり!早急に非難すべし!」

部屋の向こうではバタバタとオオカミたちが逃げる音……オレも逃げなきゃ!!おっと、……湯飲みを忘れちゃダメだな。



誰もいない路地にやってきた。ここなら誰も気づかれずにお茶が飲めるだろう!うん、天才的な発想だ。
しかしなにやら騒がしいな……。やっぱあちこちの音が反響してくるのかな?
『……日本の裏路地100選。尾布市3番地どろどろヶ道です』

なにやらカメラをつんだクルーが無理に路地から突っ込んできた。リポーターが10人ほどぞろぞろとやってくる。

『ごらんください。このどろどろした暗さ!汚さ!まさに市制のいい加減さが現れているようです!』
『テレビ日本開局50周年記念番組。【大阪の裏の裏】記念すべき100番目はこちらです』『こちらが、ツチノコが目撃された場所です』

なにやら日本のテレビ局が一気にこの路地に集まってきた。な、なんだ!?なんなんだ!?

『おや……?あの人は原住民でしょうか?ちょっとインタビューしてみたいと思います』
TV局がオレに気づいた。
生意気にオレを囲んで……オレを写す
『現地の方ですか?』「あ、あぁ……まぁそうかなぁ……?」
『そちらはなんでしょう?』
オレの湯飲みをカメラは写そうとした。ハッ!誰にも知られちゃいけないんだ!!!

『お茶……ですか?こちらの名品?』
オレはカメラのレンズを思いっきり殴った。
力が強すぎたか思いっきりカメラのレンズを貫通させた。火花が飛び散った瞬間、脱兎の勢いでオレは走る!


「くそぉぉぉー!!!オレを一人にしてくれよーーーーー!!!」








「あっ!そうだ!ホランのところはどうだ!?」

ホランの会社は確か名刺をもらっておいたはず。そこに行けばホランしかいないわけだし
ホランを適当に誤魔化せば1人になれるし、TV局が来る心配もない!!よしよし!



「……で、なんのようだ?」

来るなりホランは冷たい目でオレを見る。

「グリーンがお前に会いたがってたぞ!」
「……嘘は辞めてもらおうか」

チッ……免疫が付いてしまったか。まぁいい。ホランの社長室のロッカーか何かにでも入ってお茶を飲めば良いや。

「……なんだ?その湯飲みは」
「ん。ちょっとな」
「お、オレに湯をかけるなよ……今日のペイントは念入りにしたんだ」
「ハイハイ……」
「ちょっとトイレに行ってくる。荒らすなよ」

ホランが部屋を出た。これはチャンス!このまま飲んでもいいけど監視カメラがありそうだから、
オレはホランのロッカーに入った。せまいけど……さて……飲むぞー!!!


『……ごく……ごく……ぷはぁー!!!上手い!ちょっと冷めてるけどうまい!』

あぁ、なんだか安心したらすーっとしたぜ!オレはこれで世界で一番幸運な男だ!よぉーし!まずはOFFレンを誘ってみるかな!?


「……タイガ?帰ったのか?」


ホランが帰って来た。まぁいい!オレは今幸せなんだ!!やったぜー!

「まぁいいか。オイこのロッカーを運んでおいてくれ新しいロッカーを買うからな」
「かしこまりました!処理場にまわしておきます」
「あぁ♪こんどは緑色の素敵なロッカーにするぞ。なんて素敵なんだ……」


ん?なんだかロッカーが動いた気がしたがまぁ、いい。
宝くじを買ったら当たるかな?懸賞に当たるのかなぁ?まぁそれはいずれわかる!




なんてったってオレは世界一幸せなんだからな~♪

挿絵







──人形。
古来から、願いや呪いを移す形として人形は作られました。
人の形はしているのですから……粗末にしてはいけないわけで……。










ピピピピピ…………。

「うるさいなぁ……まだ9時じゃ……9……9時!?ち、遅刻だぁ!!」








第3夜

「人形」







「ひいぃー!! 遅刻だ遅刻ー!」

狭い通路を猛スピードで走っていく黒い影。よく見ると、ソレはOFFレンジャー副隊長・ブルーだった。

「はやく行かないと、またグリーンに怒られる…! ん?」

急に、ブルーが立ち止まる。そこにいたのは、乞食の格好をした中年の男だった。男は、ブルーの顔を見ながら、ニヤニヤとして言った。

「いらっしゃい」
「…おっさん、こんなとこで何してるの?」
「何って…ここでおもちゃの商売さ。今日は値打ち品がたくさんあるよ。プレゼントに一つどうだい」

男は懐から電卓機と空の缶詰を取り出し、缶詰をブルーの前に置いた。そして、「お薦め!」と書かれている紙を貼られた人形を、ブルーにさし出した。

「…あ!!」

ブルーが目を輝かせる。よく見ると、それはブルーにそっくりの人形だった。服装も、髪の長さも一緒だ。

「兄ちゃん、その人形、100円でどうだい?」
「…」

ブルーの手が、財布のチャックを開けていく。そこから100円を取り出すと、男の前に置いてある、缶詰の中に入れた。
チャリンっと、100円玉が缶詰の中に入る音がした。

「毎度あり」

男は不気味に笑い、人形を、丁寧に青い紙で包んだ。

「大切に扱えよ」

ブルーはそれを受け取ると、また猛スピードで走っていってしまった。男はブルーがいなくなった事を確認し、小さな声でこう言った。

「…大切にな」











「ちぃーっす!」

OFFレン秘密基地のドアを開け、ブルーは元気よく入ってきた。

「ブルー、遅い!!」

OFFレン隊長・グリーンが大声を上げる。「会議が始められないじゃないですか! さっさと座って!」

「すいませーん……」

グリーンに怒鳴られたのにニコニコ顔のブルーは、自分の席にゆっくりと座り、隣に座っていたオレンジに話しかけた。

「なぁ、なんかグリーン、いつもよりイライラしてない?」
「…うん、なんか虫歯が痛いみたいで……。それで」
「そこ!!」

グリーンの怒鳴り声が、ブルーとオレンジの耳に飛び込んだ。

「会議前に内緒話しない! …ふぅ、それじゃあ会議をはじめましょう。今日の議題は…『カレーライスとライスカレーの違い』について」
「どっちもかわらないと思います、終わり」
「ブラック! そんな答えはダメ! ったく、誰ですか。こんな議題考えたのは…」

グリーンは、隅においてある箱を睨みつけ、ため息を付いた。
会議の議題は、緊急の時以外は箱の中に入っている紙から選ぶ。くじ引きのように箱に手をつっこみ、紙を一枚取り出す。
箱から取り出した紙に書いてある議題で、会議を始めるのだ。

「あー…」

ブルーが恐る恐る手を上げる。「多分、それ俺が書いたんだとおもう」

ブルーの顔を見て、グリーンはため息をつきながら言った。

「…ブルー、正直なのはいい事なんですが…。もうちょっと真面目な議題書いて頂きたい」
「ゴメンなさい」

ブルーは軽く頭を下げると、手に持っている謎の包みを大事そうに持ち、また自分の席に座った。
…少し時間が経ち、会議が終了した。
グリーンは、相変わらずイライラとしているようだ。

「…大丈夫かな、グリーン」
「なぁ」

オレンジが、ブルーの背中を突いてきた。くすぐったくて、ブルーは思わずオレンジの方に振り向いた。

「急に背中つつくなよ…で、何?」
「その手に持ってるの、何?」

オレンジは、ブルーが持っている包みを指差した。だいぶ長い時間持っていた様で、包みは既にくしゃくしゃになっていた。

「あぁ、これ? ここに来る途中で変なおっさんが店やっててさ」


ブルーは自慢げに包みを開け、その中のものをオレンジに見せた。
中に入っていたのは、ブルーにそっくりの人形。服装から、髪の長さまで全部一緒だ。




「俺にそっくりだったから、ついつい買っちゃったんだ」
「おぉ、すげぇ!! そっくりじゃん!」
オレンジは歓声をあげる。「いいなぁ…。なぁ、俺に似た奴はなかった?」
「さぁ…。俺のしか見てないから知らない」
「なんだぁ…」

オレンジは少し残念そうに、ブルーにそっくりの人形を見つめた。

「おい」

誰かがオレンジとブルーの肩を軽く叩いた。2人が振り向くと、そこにはグレーとブラックが立っていた。

「今からみんなでゲーセンいこうって話してたんだけど…2人で何してたんだ?」
「え…い、いや、何でもない! 何でもないよ!」
ブルーは苦笑いをしながら、後で人形を素早く包みに戻し、ソレを机の上に置いた。




「…で、お前らも行く? ゲーセン」
「あ、あぁ。そうさせてもらうよ。オレンジは?」
「俺も行く! 新しいゲーム入ったらしいし!」
「グリーンは?」


グレーはグリーンの方に振り向いて聞いたが、彼はグレーを睨みつけながら、「僕はいいです」と小さな声で言った。
ブルーが、グレーの耳元で小さく囁いた。

「今はグリーンに近づかない方がいいよ、俺らみたいに怒鳴られるから」
「うん…そうだね。明日になったら、機嫌治ってたらいいんだけど…」

そんな事を話しながら、ブルー達は秘密基地を後にした。…包みを忘れて。













皆が帰った後、グリーンは基地の見回りをしていた。

「見回り終了…っと。後は日誌を書いて終わりですね」

見回りを終わらせたグリーンは、基地の入口前にかかっている「日誌」と書かれたノートと鉛筆をとり、椅子に座り込んだ。

「えーと…今日は『カレーライスとライスカレーの違いについて』皆で話しあって…ん?」

グリーンが日誌から目をあげた時、机の上に何かの包みが乗っていることに気が付いた。ブルーが忘れて言った、人形の包みだ。

「これは……?」

グリーンは椅子から立ち上がり、包みを持ち上げた。 …その時。




「あっ」

包みの中に入っていた人形が下に落ちてしまった。グリーンが気づいた時には、既に人形は、床に落ちて、人形の両腕と首がバラバラになってしまった。

「あぁっ!!」

レッドは急いで拾い上げる。幸い、腕と首以外に損傷はなかった。

「良かった…。でも壊れちゃいましたね。明日、誰かに直してもらいましょう」

グリーンは、人形を大事そうに包みに戻すと、急いで基地を後にした。


















翌日。

「おはようございますー♪」


レッドが、元気よく基地に入って来た…が、今日はまだ誰も来ていない。

「あれ…まだ皆来てないのか。人形直して貰おうかと思ったのに…、誰かが来るまでテレビでも見てるか」

グリーンは包みを机の上に置き、テレビのスイッチを入れた。

『…のニュースです。昨日の午後6時、大阪のゲームセンターにて、少年のバラバラ死体が発見されました』
「うわっ…恐いニュースですね……」
『死体で発見されたのは15歳の少年で……』
「…え?」

『警察は、現場に居た少年の友人と思しき数名を重要参考人として検挙。3人は『自分たちの前で、突然彼がバラバラになった』と、話しているということです』

グリーンの顔が、サっと青ざめる。

「そ…そんな…」

挿絵

『また、この少年の所属していたという団体にもなんらかでこの事件に関係しているのではないかということで、捜査を…』

プツンッ

グリーンは青ざめた顔のまま、テレビのスイッチを切った。 その直後だろうか。誰かが入口のドアをノックする音と、低い男の声が聞こえてきた。

「すみません、大阪府警の者ですが―」











─―だから、大切に扱えっていったんだ。










……遠き日の思い出、今思い返してみると美しい思い出の数々……。
しかしよく思い出してみてください。ほんとに美しい思い出ばかりだったのでしょうか?
私達は、『美しい思い出』というベール越しに思い出を見ているのかもしれませんよ……。










「……早く掃除でもしないとね~……えー……っと」








第4夜

「さとり」







明日は彼氏が来る日なもんで、お掃除しないとみっともない。
でも、ちょこっとやるつもりがどんどんハマってこだわってしまうのが玉に瑕。
押入れのダンボール2箱目、小学校の時の荷物がぎっしり……。
教科書やノートもお母さん良く取っていたなぁ……。
そんな時、小学校の時の絵日記を見つけた。
懐かしい~!まだあったんだぁ、こんなの。

挿絵

ふと思い浮かぶ懐かしい想い出の数々……先生、今私はこんな女になりました。
……なんて感傷にふけっている場合じゃない……でもついつい見たくなる好奇心。

ベッドに座ってページをめくる私、大胆なタッチの絵と少々読みづらいカラフルな字。

こんな時があったんだなぁ……私。



《4月10日》

わたしはきょうで4年生になりました。
先生もクラスもかわってちょっとふあんです。



ついついクスッと笑ってしまう。私なのに……なんか可愛いなぁ。



《8月1日》

夏休みはいろいろな所へ行きました。
プールでいっぱい泳ぎすぎて日焼けをしてしまいましたとっても痛いです。
大きくなっても、まだ痛かったらいやだな。



私は自分の腕をさする。うん、痛くない。
……って痛いわけ無いんだよね。人間には自然治癒力とか言うのがあるし。
あ、次の日記は今日の日付と同じ。



《12月24日》

あしたはクリスマスです。
大きくなったわたしはもう好きな人が出来てるかな?
わたしはクリスマスの日はゼッタイいっしょにクリスマスをむかえたいです。
でも……。



プルルルルルルルルルルルル……

と、電話が鳴る。

「もしもし?」
「……あ、オレだけど」
「ん。どうしたの?」
「……明日さぁ、ちょっと一緒にどっか行こうよ」
「いいけど……。何処行くの?」
「明日迎えに行くから^^」

電話を切る。何処へ行くかくらい言ってくれたっていいのに。
まぁ、いいやさっさと日記を読んで片付けの続きをしますか。
えーと……。



でも……。



わたしは次のページをめくった。
ページには大きくこう書いてあった。



明日殺されるのだけは嫌……。











二人の人間がいて、互いにひとつのものを欲しがっている場合、どうしますか?
こういう時、通常は互いにとってベストな解決を考えるのが正しいやり方でしょう。
例えばそう……「半分こ」とかね。










スナック菓子を買いすぎた。ジュースのボトルも多すぎた。どうして一人用ってなかなかないんだろう……。








第5夜

「半分こ」







1人部屋でポテトチップスをかじる私。
1人サイズが見つからなかったからちょっと量が多いんだよね~。かといって置いておくと湿気でふやけちゃうし……困った困った。

「シェンナもポテチ食べたいですー」

ひょこっとシェンナとクリームが部屋に入ってきた。
私は足元にかけていた毛布を折りたたむと2人をソファに座らせた。

「なんの用?」
「……ホワイト今日の」
「わー!シェンナもジュースとお菓子食べたいですー」

クリームの話をさえぎるようにしてシェンナはお菓子とジュースを物干しそうに見た
このままじゃ私一人で食べきるわけじゃないからちょうど良い機会だと思った。

「シェンナ。私一人じゃ食べきれないから半分あげよっか?」
「わーい!半分こですねー♪」
「……悪いわねホワイト」

クリームはそういうとお菓子を食べるシェンナを尻目に一枚のプリントを手渡した。

「……『ショッピングセンター尾布?』」
「昨日オープンしたらしいの。女子はみんな行くんだけどホワイトもどう?」

ん~。ほしい服もあるし明日はちょうど約束が無いから私は即OKした。

「シェンナも行くですー」

すでにお菓子を食べ終えたシェンナがクリームのひざの上に乗ってはしゃいだ。クリームは呆れて流すようにハイハイと答えた。

「じゃぁ、また明日ね」
「ホワイトご馳走様ですー♪」

2人が帰った後ちょうど1人分になったお菓子とジュース。
食べ過ぎる事も無いから私は清々しい気分でTVに目をやった。



ショッピングセンター尾布。
食料品、衣料品、書籍映像、果てはペットまで様々に扱っている凄いお店は駅前の大きなビルだった
買い物に興味のない男子隊員は誰一人来なかった。今日は女子だけで楽しんじゃうのだ。

「じゃぁ、私とピーターはちょっと本を見てきますからね」

早速エスカレーターの前でイエローとピーターは書店へと向った。
パープルとピンクは買出しをするために一旦食料品売り場へ行くそうで、残った3人で服を見に行った。
来るなり早速良い服を見つけたからクリームと一緒に見た。

「クリームシェンナフードのついた洋服がほしいですー」
「そうねそうね……。ハイハイ」
「ホワイトー。シェンナ帽子がほしいですー」
「んー。ハイハイ……あ、クリームこれ似合うと思う?」
「……そうね」
「シェンナの服はどれがいいですかー?」
「……ちょっと黙ってなさい。シェンナ」

さっきからうるさいシェンナに500円を渡すと3階へ行くエスカレーターを指差した。

「シェンナはゲームコーナーで遊んでなさい」
「え~!!シェンナ小さな子供となんて恥ずかしくて遊べないですー!」

そうはいいながらも3階から聞こえるゲームの音にシェンナの耳がピクピクしている。

「大丈夫大丈夫。シェンナは幼児にすぐ順応するから」
「う~……。クリームのバカー!嫌いですー!」
「……ホワイト。ちょっと小銭貸してくれない?」
「あ、ハイハイ」

無視されたシェンナは怒ってどこかへ走っていった。
そんなシェンナを見て少しホワイトは罪悪感を感じて、シェンナを追いかけていった。

「ごめんクリーム!ちょっとシェンナ追いかけてくるね」
「……待って。私も行くから」

クリームも追いかけてくれて、シェンナにすぐに発見した。あっさりと書店のコーナーで漫画雑誌を読んでいたのだ。

「ホラ、シェンナ。私が悪かったから……」
「シェンナクリームなんて知らないですー」

シェンナはそっぽを向いて雑誌を再び読み始める。仕方ない……。私が何とかするしか。

「……シェンナ?服ほしかったんでしょ?一緒に買おうか?」
「……お金ないですー」
「……じゃ!半分こ……じゃなくて私の服時々貸してあげるから……ね?」

シェンナは雑誌を置くと小さくうなづいた。
クリームもふぅとため息をつくとシェンナの手を引いて
「……せっかくここまで来たんですからちょっとそこへ行きません?」

と、書店の横のお店を指差した。最近人気のアイスクリームショップだ。シェンナも喜んでクリームの手を引っ張ってさっさと入っていく。
正直私もちょっと食べたかったんだけどね。

「シェンナはバニラがいいですー」
「じゃぁ私はチョコチップっと」
「じゃぁ、私はチョコ&キャラメルブラウニー」

早速アイスを注文すると3人で一番景色がよく見える窓際の席に着く。
ひんやりとしたチョコチップのアイスをバクッと食べる。ペロペロと舐めるのはちょっとはしたない。

「美味しいですー。……でもシェンナチョコも食べたいですー」
「……ダメよシェンナ。2個も食べたらお腹壊すでしょ」

とは言うもののシェンナは物ほしそうに私のアイスを見る。……しかたない。

「じゃぁまた半分こする?」
「……いいのよホワイト。シェンナのわがままなんだから」
「半分こならまた買う必要もないし。2つの味が楽しめるじゃない?」
「シェンナも平和的解決で賛成ですー」

またもクリームはふかぁいため息をついて小刻みに首を縦に振った。
私はアイスを半分食べるとシェンナとアイスを交換する。うん……意外とバニラもいける。

「……シェンナ。お礼をちゃんと言いなさい」
「ありがとー!ホワイト」
「はいはい^^;」

……また半分こ。でもこれが一番良い方法かもね。
結局食べる量も変わらないわけだし損どころか2倍楽しめるんだから。

「ね。次は何処いく?」

半分この便利さにふけっていた私の肩をクリームは軽く叩いた。次?次……次……。

「シェンナ動物さん見たいですー」

急にシェンナが思い出したように言った。
そういえば服を見る前にペットショップを通った気がする。

「じゃぁ、ペットショップ行こうか?」
「……そうね。悪くは無いけど」
「じゃぁシェンナ行きますねー」

シェンナがまたもや椅子を降りてトコトコとペットショップへと向う。
やれやれ……。といった感じで私達は後を追う。その時他の女子達とすぐに合流ちょうどアイスを食べるところだったらしく……みんな考えは同じだ。


犬、猫、ハムスター。そんな動物のみを扱っていると思えば大違い。マイナーどころではウーパールーパーやマリモまで売っている。

「あれー?まりもって売っちゃいけなかった気が……」
「シェンナうーぱぁるーぱぁほしいですー」
「……ダメよ」

みんなでそんな風にわいわいやっていると突然『コンニチワコンニチワ』と誰かが喋った。
そばにいたインコだ。青色と白が綺麗に混ざっていて可愛い。

「わー。インコですねー」『コンニチワコンニチワ』
「1500円か……買っちゃおうかなぁ」

最近、暇な時が多く動物でも話し相手がほしいなぁ。なんて思っていたのだ。

『ウーミーハシロイナー。オオキイマー』「わーお歌も歌いますー。シェンナもほしいですー」
「可愛いね」
『ヤメテ、カチョウセクハラヨー』
……店員の一面も垣間見えそうで少々面白そうだった。
九官鳥よりは小さいし教え込めば楽しい話し相手になるかもしれない。

『シ、シチジのニュースヲ……オシセマスー』
「ん~。買っちゃおう」
「シェンナも欲しいですー。クリーム~!」
「でも……一羽しかいないわよ」

そういえばこのインコのカゴの上には『店長のお勧め!』シールが貼ってあって結構人気商品のようだ。
……まぁ、在庫整理の為にわざとつける店もあるけど。

「シェンナも欲しいですー!」『シェ……ホシイデスー』
「うーんでもなぁ……」『ウーミーハシロイマ。オオキイマー』
インコとの会話が妙に腹が立つ。とはいうものの……。

「……じゃぁ、半分こですー」

シェンナがインコをじっと見て言う。そんな物騒な事……できないってば。

「……無理よ無理。じゃぁこうしましょ1週間交替で飼う」
「長いですー。3日です。3日!」
「そう……ね。半額で済むし」
「わー♪やったですー最初はシェンナからでいいですねー?」
「うん」

インコをレジに持って行く、いつの間に覚えたのかインコは

『ハンブンコ、ハンブンコ』
と言った。



「あ、おかえりなさい。ホワイトを含めた皆さん」

本部に帰るなりグリーンがぺこりと礼儀正しく頭を下げた。

「タイガが来てますからなんとかしてくれませんか?暴れて邪魔なんですよ」
「あ、ハイちょっと私お願い事をしてましてね」

ここ最近タイガくんにいろいろと手伝ってもらっている。
手伝いといっても掃除とかその辺なんだけどタイガくん優しいからなんでもしてくれるんだよねー。

「あ、ホワイトちゃ~ん♪オレちゃんと来たよ~?」

タイガくんは私の部屋のドアにもたれかかって私を待っていた。
来るなり満面の笑みで私に馴れ馴れしく触って来る。

「ねー♪今日はオレ何手伝えばいいのー?」
「え、えっと……今日は良いや」
「え~~~~!?せっかく来たのに……」

私がそういうとタイガくんは露骨に嫌そうな顔をして下を向いた
仕方ないから何か用事を言いつけようとふとシェンナが真横を横切った。

「あ、タイガくんですー」
「やー♪シェンナちゃん。相変わらずチャイルドしてるねー♪」
「そうですよーシェンナは茶色ですー」

シェンナの手にはさっき買ったばかりのインコのかごが。そうだ。3日後には私が飼う番になるんだからタイガくんに頼んでおこう。

「あ、タイガくん。じゃぁ鳥のエサとかいろいろ買ってきてくれない?」
「え、何?」

シェンナの話に夢中になっていてタイガくんは何も聞いてなかった様だった。

「買って来て」
「ん?いいけど……後じゃダメかなぁ~?」
「早く買ってきてくれたら、私のいらなくなった物ならなんでもあげるから」
「!?……ゴホッ!!ゴホッ!!」

急にタイガくんは咳き込みだして床に手を着いて苦しそうに咳をする。

「ゴホッ!ゴホッ!そ、それはヤバイよ~!ホワイトちゃん!そ、も、え、『なんでも』なんてさぁ~!!」
「……いいから行ってくれるの?くれないの?」
「行く行く!!!」
「シェンナと遊んでほしいですー」

シェンナが鳥かごをタイガくんの目の前に見せてゆさゆさと降る。

「悪いけどシェンナ。今日は私が」
「かわりばんこにすればいいですー」
「シェンナちゃん♪また今度にしてくれないかな~?」
「嫌ですー。ホワイトー。独り占めはダメですよー」
「シェンナ。タイガくんは半分こにできないでしょ?また明日ね」
「うん。じゃぁまたね♪シェンナちゃん」

そういうと物凄いスピードでタイガくんは本部を飛び出す。
ちゃんとしたエサを買ってきてくれるのか少々不安。

「……」

シェンナは黙ったまま鳥かごを抱えて部屋に帰っていく。……わるいことしたなぁ。







タイガくんは物の15分で帰って来た。
あれー?ここから遠い所までは車で15分かかるのになぁ……車と同じ時速で帰って来たことになるよねぇ……。

「ホラ!エサだよ!間違いないでしょ~!?」
「……うん。ありがとうタイガくん」
「うんうん!!」

タイガくんは嬉しそうに手を前に出して『頂戴』の真似をする。そういえば何か約束したような……?

「何でもいいんだよね!?」
「え、うん……」
「飲みかけのペットボトルとか!?まさか下着……いや、それはヤバイよ~ww」
「え~っとね……」

私は机の上に置いてあるさっき買った時のレシートを手に取って手渡した
タイガくんは「え?」と期待はずれな声を上げた。

「これ、私いらないの」
「……オレにはこれがレシートに見える」
「レシートだよ」
「……下着に挟んだ。とかお風呂の時に使うとか逸話はないの?」
「ただのレシート。じゃぁありがとね」

タイガくんは不服そうにレシートを小脇に抱え(?)部屋を出た。
ちょっと可哀相な事をしたような気もするけど彼に生半可な気持ちで物はあげられない。








3日後。いつの間にか部屋にインコが置いてあった。
シェンナは家の都合出来てないみたいだ。多分私が来る前に気を利かせて置いてってくれたんだと思う。


『シェンナチャンシェンナチャン……タマゴタマゴ……ナマネギナマネギ』

挿絵

ずいぶん教え込んだらしくいろんな言葉を喋っている。……にしても何を根拠に教えたのかが皆目見当もつかない。

『ナマヌギ……ナマモネ……ナマタマゴ。シェンナチャンナマネギ』「はいはい。エサあげましょうね~」

タイガくんの買って来てくれたエサをかごに入れてそっと鳥かごの中に入れる。

『シェンナチャンシェンナチャン。ナマネギナマネギ。トウモロコシ』「私はね~。ホワイト。ホワイトちゃん」
『ホワ……ホワ……ホワホワチャン。ナマネギナマネギ』「ん~。やっぱ教え込まないとダメかなぁ……」

何か他にいい物がないかと探すうちにコツンと足が段ボール箱に当たった。
私の背丈よりも少し小さい大き目のダンボール。こんな所にダンボールなんてあったっけ……?
ふと見ると上に一枚の手紙が置いてあった。手紙の封筒には一言

『半分こ』


ふと気になって封筒を空けて中身を見た。

『次はシェンナの番だから好きな方とりました』


……ダンボールの隅には赤い染みが見える。よく見るとこのダンボールの大きさは彼よりすこし小さい気がする……。
私はカッターを取り出してガムテープに切れ目を入れる。

ダンボールのフタを開いた瞬間。急にインコが羽ばたいた







『ハンブンコ。ハンブンコ』














「……おかえりなさいませ」

その男は深々と私に頭を下げた。5つのドアは全て見終わったのだ。

「……もう、終ったのですか?」
「……さぁ?それはあなたが決める事……またのお越しを」

男はそのまま深い闇へと消えていった……。


……本当にすべて終わったのだろうか?
いや、そうとは言い切れないかもしれない。
私の前には先ほどとは違う扉がまた3つ……悪戯な笑みを浮かべて手招きしているのだ。



『まだ、続くんですよ。終わりの無いこの世界では……ね』













ストーリーテラー:レッド







第1夜『7月13日の誤解』






クリーム




脚本:グリーン

演出:グリーン

挿絵:ブルー









第2夜『茶柱』






タイガ



オオカミ

ホラン




脚本:レッド

演出:レッド

挿絵:ブルー









第3夜『人形』






ブルー



グリーン

グレー

オレンジ

ブラック




脚本:ピンク

演出:ピンク

挿絵:ブルー







第4夜『さとり』






パープル



レッド




原案:木原浩勝、中山市朗
(メディアファクトリー刊『新耳袋』より)

脚本:レッド

演出:レッド

挿絵:ブルー









第5夜『半分こ』






ホワイト



シェンナ



クリーム
ピーターパン
ピンク
イエロー
パープル



グリーン

タイガ



レッド (インコの声)




原案:村上修
(世にも奇妙な物語『半分こ』より)

脚本:レッド

演出:レッド

挿絵:ブルー
















【スタッフ】






企画:レッド、グリーン



音楽:レッド

技術:レッド
撮影:レッド
照明:レッド
音声:レッド
映像:レッド
編集:レッド

音響効果:レッド
美術制作:レッド
デザイン:レッド
美術進行:レッド
特殊効果:レッド

装飾:レッド
持道具:レッド
衣裳:レッド
メイク:レッド
スタイリスト:レッド

CG:レッド
タイトル:レッド
演技指導:レッド

制作主任:レッド
制作進行:レッド
記録:レッド
広報:レッド

シリーズ監修:レッド

ストーリーテラー構成:レッド
ストーリーテラー演出:レッド
ストーリーテラー挿絵:ブルー

スタント:タイガ

《ロケ協力》
OFFレンジャー指令本部
オオカミ軍団アジト
ゲームプラザO・F・U
ショッピングセンター尾布
尾布市のみなさん



主題歌『行け行け OFFレンジャー!』

作詞:OFFレンジャー一同
作曲:ブラック
編曲:ブラック
歌:ぐるぐる☆オールスターズ




EDテーマ『ガラモン・ソング』

作曲:蓜島邦明





演出補:グリーン
制作補:グリーン






プロデューサー:レッド









製作・著作

ぐるぐる戦隊OFFレンジャー
OFFレンジャー通信編集部














この作品はフィクションです。