第32話

『夏風邪タイガ様』

(挿絵:ピーターパン隊員)

本日、タイガは電話の前でもう1時間も待っている。

「……」

カチカチと進んでいく時計を気にしながら、タイガは電話を待っている。

「ピピピピピ……」

突然鳴り響いた電話にすかさずタイガは受話器を手にとる。

「来たっ!!ピーターちゃんだ!」

2,3回深呼吸をすると落ち着いて受話器を耳元に当てる。

「タイガくん?」
「そう!オレだよっ!ピーターちゃん!どう?どうなの?」
「もちろんOKだよ♪じゃぁ。明日ね^^」

タイガは受話器の向こうで密かにガッツポーズを取る。このようになった経緯は1週間前にさかのぼる。







猛暑、この暑さでOFFレンの活動意欲は通常の30%にパワーダウン
TVも野球観戦ばかりで飽き飽きしていた。といっても、ピーターだけは野球観戦を楽しそうに見る。

「ピーターは阪神が好きなんでしたっけ?」
「そうですよ♪家族ともよく見ますから」
「確か……あいつも阪神ファンでしたよね~……」
「タイガくんですよね?OFFレンに阪神ファンなんていないですから、一緒に観戦いきたいなぁ……」

突然ロビーのドアが開いて、タイガがゴロゴロ転がりながら現れた。なんとなく息が荒くて、興奮気味のようだ。

「ピーターちゃん!じゃ、じゃぁ……オレと一緒に行かない!?」

挿絵

盗み聞きをしていたらしく、ピーターの下へとタイガはずかずかと近づく。ピーターは笑顔で悪くはないような顔をした。

「ん~……。でも時間があるかどうか……」
「オレがチケット買う!オレが優しくする!だから行こうよ!ね!?」

タイガの熱烈なアプローチにピーターは少し考えていった。

「じゃぁ、予定調べるから、また電話するね……」









以上、回想終了。そういうわけでタイガはうれしそうに部屋に入っていった。

「あー♪ピーターちゃんとデートかぁ♪野球見た後はオレの部屋に連れ込んじゃお
うっかなー♪まてよ!?そろそろ……ラブホテルなんかもいいかもなー♪」

タイガの妄想は尽きない。
密かに、明日持っていくものになにやら大人の道具を入れていたりする。

「よぉし!準備は整ったし。寝るかなー♪」

予定の時間の3時間も前に、目覚ましをセットした。彼は、身なりを整えるのに長いこと時間を使うからだ。

「汗かいたら臭くなるから、クーラーもつけて、タイマーは……いいや。朝までつけとくかな」

室内温度を14℃に設定してタイガは布団に入った。ここ最近、電気の使用料金がこの部屋だけ3倍近くかかっている。

「あー♪明日が楽しみだぜー♪」









タイガが寝静まったあと、OFFレン本部では深夜の夜鍋大会が行われていた。
適当な大きさの鍋に、不可思議な食物を多数入れて、煮込んで、匂いもなんともいえないに出来に仕上がっていた。

「それでは、電気を消しますね。何が入っているかはお楽しみです♪」
「なんだか、紫色に泡立ってますけど……」
「多分、ソーダかなんかだと思いますよ」
「心なしか息苦しいんですけどっ……」
「それは多分……まぁいいでしょう」

グリーンが電気を消すと、部屋は真っ暗になった。これがもしTVだったら放送事故になっているだろうと思われるくらい真っ暗だ。
……小説でよかったね。

「それより……みなさんおはし持ちましたかー?」
「多分持ったと思いますー」

所々から同じような声が聞こえる。

「では、闇鍋開始です。一度おはしで持った物は食べてくださいね」

そういうと、グリーンから時計回りに闇鍋が始まった。グリーン隊長はまず一番無難そうなやわらかいものをつかんだ。

「隊長?ちゃんと食べましたか?」
「今から食べますよ」

口の所まで謎の物体を持ってくるとなにやらアンモニアっぽい刺激臭がして本能的に隊長は危険を感じた。

「食べましたー?」
「……もぐもぐ……ごっくん。あーじゃがいもでしたー」

適当に擬音をつけて隊長は誤魔化した。
掴んだままの謎の物体を隊長はそっとティッシュに包んで机の下に置いた。

「何か嘘臭いですね……」
「何を言うんですかw次はイエローの番ですよ」

同じようにイエローもおはしで一番無難そうなやわらかいものをつかむ。
口に近づけるとスライムみたいなぶよぶよしたものがくちびるに当たった。そのぶよぶよからは蛇の舌の様な物がチロチロとイエローの顔を嘗め回した。

「…………もぐもぐごっくん……あー。イチゴのようですね」
「イエローも嘘臭いですね……」

同じようにイエローもティッシュでぶよぶよをくるんで机の下に忍ばせた。
2人とも捨てるというより、何を食べようとしたのかが気になって仕方がなかった
「ささ、次はオレンジですよ」

オレンジはなにやら嫌な予感がした。しかしとき既に遅くおはしで掴んだ物はなにやら左右に動いているのが解った。

「……つかぬ事を聞くけどさ。生き物は入れてないよね?煮込むんだよね?」
「闇鍋ですから何が入っているかはわかりませんよ」
「まぁ、死にはしないでしょう。煮込めば堅いサボテンも食べられたんですから」
「うーん……」


オレンジはパクッと一思いに左右に動く物体を口の中で軽く転がす。爬虫類のような細さでヤモリのようなトカゲのような……。
しかしかめばかむほど甘いアップルパイのような味がして後味はワインのように喉越しが良く、一体それはなんなのか全く解らなかった。

「ごっくん。…………なんだかわかんなかったけどおいしかったよ」
「(一体なんだったんだろう……)」
「さ、次はピンクね」


このローテーションで闇鍋は続き、20周した所で闇鍋は終了した。
しかし、鍋の後片付けをしている時それは起こった。

「……痛い」
「は?」
「お腹痛い……」

オレンジがお腹を押さえながら涙目でうずくまっていた。

「何食べたんですか?」
「……闇鍋」
「まさかオレンジ、ホントに食べたんですか?」
「え、だって……みんな食べてるし」

呆れた顔でグリーンはオレンジをおんぶする。

「バカですねぇオレンジ。こっそり食べた振りして隠して後で食べれそうなものを食べるのが闇鍋攻略法言うですよ」」
「だ、だって……みんな食べたって言うから……」
「オレンジ、人生バカ正直にいかないほうがいいですよ」
「シェンナだってこっそり隠してなまこ食べたですー」

OFFレンの真実を告げられたオレンジは涙しながら部屋へと戻った。
ベッドに横になるとグリーンがオレンジに体温計を手渡しながら言う。

「オレンジ、仕方が無いですからみんなで看病しますよ。何かしましょうか?」

グリーンの意外な一言にオレンジは気を良くした。
病気の時は誰でも優しくしてくれる物だ。

「え、えっと……えっと……TVがみたいなぁ」
「テレヴィジョンですか?」

本部ではロビーにのみTVが付いていてなかなか独占できないのだ。

「ボク暇だもん。TV見たいよ」
「……仕方ありませんね。シルバー!TV持ってきてください」

グリーンが部屋をるとオレンジは少し布団にもぐってなにやらワクワクし始めた。

「はー。TVを1人で独占できるなんて病気の時っていいなぁ」

グリーンは部屋を出るとすぐピーターに会った。

「あ、ちょうどいいですピーター。明日オレンジの看病ちょっとで良いですからしていただけませんかね?」
「あ、えーと……ごめんなさい隊長。明日はタイガくんとタイガース見に行くんです」
「タイガースとタイガとオレンジだったらどれが一番大切なんですか?」
「そりゃぁ、タイガースですよ。大阪人の優先順位は何時もタイガースが一番なんです」

挿絵

そういうとピーターは朝に備えて早く寝る為部屋に入って行った。

「大阪人はタイガースに洗脳されてますよね~……絶対」







翌日、オレンジの隊長も良くり始め、TVが撤去されようとされていた。

「オレンジ、まだお腹痛いですか?熱も無いようですし顔色も少しいいですし」
「……え、えーと……まだジリジリ痛むな」

オレンジはとっさに嘘をついた。

「痛いんですか?」

グリーンは疑わしい目でオレンジを見る。
実際痛いといってもかゆい程度でベッドで寝込むほど痛くは無いのだが、オレンジは快適空間をもう少し満喫したかった。

「顔色だって、オレンジは蛍光色だからそう見えるだけでまだ赤みが足りないんだよ」
「……そうですかねぇ?」
「じゃ、じゃぁブルーはどうなの!?あれは顔色悪い以外の何者でも無いでしょ!パープルとかなんてもっと酷いよ!」
「ハイハイハイハイ……。わかりましたわかりました。他の隊員の顔色の事はよ~くわかりました」
「わ、わかればいいんだよ」

オレンジは掛け布団を顔の半分まで持ってくる。

「じゃぁ、仕方ないですね。少しは良くなったようですし……何か食べたいものあります?」
「……え、いいの?」
「食べられそうなものでいいですよ」
「え、えーとね。チーズバーガー食べたいな」

今一番食べたいものをパッと口に出した。

「チーズバーガー……ですか?もっとあっさりした物の方がいいのでは?」
「チーズバーガーを食べれば治りそうだな……なんて」
「……仕方ないですね。チーズバーガーですね。行ってきますよ」
「ポテトもね」
「ハイハイ、ポテトもですね」
「シェイクはSでいいよ」
「ハイハイ。シェイクはSですね」
「シェイクはバナナ味ね」
「…………」

グリーンは黙って部屋を出た。誰もいない部屋の中でオレンジはただ権力を手に入れたばかりの王様のような快感に酔いしれていた。







そんなオレンジの部屋をピーターは横切りながらタイガの待つアジトへと向った。
約束の時間までは随分早いがそれまでデートしようと誘われていたのだ。

「お財布持った。ハンカチ持った。阪神への愛持った」

アジトへ行く最中持ち物の確認もする。今日の試合は随分面白い物になりそうだしかし、事はそう上手くはいかなかった。

「くしゅん!」

アジトに入るなり聞こえた大きなくしゃみ。タイガの部屋に入ろうとするとオオカミに止められる。

「ピーターパンか。悪いが今日タイガ様は野球いけないぞ」
「え、何で!?」
「……夏風邪だよ。クーラーのかけすぎで」

ドアの向こうからタイガの咳き込む声が何度か聞こえてくる。がっかりしてピーターはタイガの部屋に入る。
相変わらず黄と黒のコントラストの色合いは目がチカチカする。

「あっ、ゴホゴホ……ピーターちゃん!……ケホケホ」
「タイガくん……風邪なんだって?」

顔を赤らめてしゅんとしているタイガの横にピーターは座る。額に手を当てると確かに熱い。

「風邪じゃないよ!オレ元気だよ……コホコホ」
「無理しないでくださいタイガ様。野球観戦はまた今度にしてくれないか?ピーター」
「えーー!?」

タイガはガバッと起きて首を力いっぱい横に振る。

「そ、そんなの嫌だっ!!オレ楽しみにしてたのにっ!!やだやだっ!!」
「風邪ですから仕方なないじゃないですか」
「オレ元気だよ!ホラホラ……ゴホゴホ」

タイガはベッドの上に立ち上がって体操のポーズをとってみるもののフラフラとしてしりもちをついた。

「……悪いが帰ってくれないか?ピーターパン」
「そ、そうするしかないのかなぁ……」

オオカミに押されてピーターは帰ろうとするがグイッと何かに引っ張られた。

「そんなぁ……ピーターちゃぁん……帰っちゃ嫌だよぉ……」

挿絵

ピーターのポシェットを掴んでタイガは泣き出した。真っ赤な顔にうるうるした瞳をしたタイガは何故だか妙に可愛く見えた。
可哀相にピーターはカバンの中からマスコットを取り出してそっとタイガの枕元に置いた。

「タイガくん……わかって当分いてあげるから、あとトラッキー置いてあげるから元気出してね」
「……待ってピーターちゃん」
「ん?」
「……オレ、トラッキーよりラッキーの方がいいなぁ」

ピーターは黙ってトラッキーのぬいぐるみをしまった。







ちょうどその頃、ちょうどグリーンが帰って来た。
良く考えれば転送装置を使えばよかったのだから息をつかせて走っているグリーンがバカらしく思えた。

「ホラ、チーズバーガーですよ!オレンジ」
「わー♪ありがとね~。隊長」

すっかり味を占めたオレンジはもう少し仮病で居ようとグリーンの居ない間様々な練習をしておいた。
シェイクを渡されたオレンジは早速実行する。

「う!お腹が痛いような気がしないまでもないような気がする!!」
「そ、それは大変じゃないですか!!トイレ行きます?」
「う、うん……そうするよ……」

オレンジはポテトを隠し持ったままトイレに行く、ここからがオレンジの作戦だ。
まず、トイレットペーパーを軽く丸め水で固め便器の中に落とす。これでサウンドの点は安心。
特にここでトイレットペーパーのカランカランという音を出さないのがポイント。
次はポテトを中で美味しく戴く、時折苦しそうな声を2,3回出しておけばOK
これで時間の点も安心。そして食べ終わって数分後トイレットペーパーをわざとらしくガチャガチャと鳴らす。そしてここで一言。

「あれ?トイレットペーパー足りるかなぁ?あ、足りた足りた」

こうして流して出れば見事完全犯罪達成。

「大丈夫でしたか?オレンジ」
「うん。もうだいじょう……ぐ、ぐぅぅ……」
「どうしました?」

オレンジは脈ありと予感すると全身をガクガク震わせながら再びグリーンを見る。

「あががががが……発作だぁ!ピザが食べたい!ピザ!慢性のピザ発作だよぉ!」
「ピザぁ!?さっきチーズバーガー買ってきたばかりじゃないですか」
「あがががががががが……早く食べないと……あががが……」
「……仕方ないですねぇ」

グリーンはお財布の中を見ながらため息をつく。

「Sでいいですよね?」
「ポテトとベーコンの奴ね!」
「ハイハイ……」
「あと、ポテトとアイスクリーム!アイスはバニラね!」
「ハイハイ……」

グリーンはオレンジを背負いながら部屋に帰ろうとすると女子達がちょうど帰って来たところだった。
シェンナがトコトコとオレンジの側によって顔を覗き込む。

「オレンジ大丈夫ですかー?」
「えっ!?あ、……あがががが……」
「オレンジあががーいってますー。クリーム」

やってきたクリームがオレンジの顔を真顔でじーっと見る何故だかクリームのオーラに緊張して発作の声も小さくなる。

「……フッ」

クリームは鼻で笑うとシェンナの手を引いて行った。

「(クリームは誤魔化せないか……(汗))」
「……メス新調したんで、いつでも連絡してくださいね」

イエローがオレンジの髪をなでながらいつもらしくないしんみりとした表情で見ていた。
本人にとっては同情しているつもりなのだろうか。

「ところで、ピーターはどこ行ったんですか?ドーナツ買ってきたんですけど」
「あ、タイガと野球観戦に行くそうですよ」
「え、でもそこでオオカミと会って……タイガくん風邪だって言ってましたよ」
「じゃぁ、ピーターまだいるかもしれないですね……。迎えに行っていただけますか?私あの、部活の用事があるんで……」

グリーンはオレンジの部屋へ向う。随分我慢していたらしくフラフラしている後姿が印象的だ。
残った女子達は仕方なくタイガへの手土産を持って敵アジトへと向った。外はやっぱり暑く、転送装置を使おうという隊員は1人もいなかった。

「バカは『なんとか』引かないって言いますけどねー」
「『なんとか』の場所が違ってますよ」
「夏風邪は結構危険なんですよ。バカに出来ません」
「シェンナは風邪引かないです!」
「ハイハイ……」
「すいませ~~ん♪あの今からどちらへ行かれますか?」

突然角の所から若々しい女性とカメラマンが女子隊員に寄ってきてマイクを突き出す。
何のことか良くわかっていない隊員に気づいた女性はマイクについている『大阪テレビ』の文字を見せる。

「えー。実はですね。中高生の夏休みの過ごし方っていう特集なんですけどよろしいですか?」
「え、えーと……」
「シェンナTV映ってるですー♪」

シェンナがカメラマンの近づいてレンズをむやみに触りまくるとクリームが慣れた手つきで捕まえる。
そんな様子を見ても動じずリポーターはシェンナにマイクを向ける
「そうよー。キミは幼稚園かなー?お姉さん優しい?」
「あははー。(乾いた笑)シェンナとクリームが姉妹に見られてますよー。無知すぎて呆れますー」
「え、あぁ……いえ、すいません」

クリームがまだ言い足りなさそうなシェンナの口を押さえる。しかし、さすがリポーター。上手くこの場を切り抜ける。

「これからどちらへ行かれるんですか?」
「あ、あの知り合いのお見舞いに」
「え~!そうなんですかー!カメラもっと引いて!……私たちも同行宜しいでしょうか?」
「いや、あの……」
「ありがとうございます~!!それでは!行ってみたいとぉ~~~~思います!!!スタジオどうぞっ!!」

決めの台詞でカメラマンは一旦撮影を終了し、リポーターも愛想笑いを取りやめる。
そんな気まずい雰囲気の中リポーターは打ち合わせといわんばかりにイエローに声をかける。

「えーとですね。病院前で一旦撮影しますんで、そこで何か心配するような喋りをお願いします」
「あの、病院にいくんじゃないんで」
「あ、じゃぁ部屋の前でちょっと視聴者の興味引くようにしますんで」
「いや、あの……」

アジトの中に入ると早速部屋の前に立つ。場所は極秘という事で入って頂いたが、まったく動じないのはさすがプロ。
オオカミさえもどっかのスーツアクターだと思っているのだ。

「えーそれでは、目的の部屋にですね!入りたいとぉ……思いますっ!!」

カメラに押されるように女子達は部屋に入るとピーターがびっくりしたようにカメラを見る。

「(何あれ……?)」
「(……ちょっと成り行きでこうなっちゃって)」
「(……まぁいいけど)」

リポーターは黙って室内で待機、カメラマンからは『いろいろやってください』との指示。

「えーと……。タイガくん大丈夫?」
「……うん」

タイガはみじめな姿を女子に見られたくないのか布団にもぐりこんでいた。
変な所にはプライドが高いのはこういうときでも変わらない。一番初めにシェンナが場の沈黙を破った。

「シェンナ。風邪を治すためにお土産もってきたですよー♪」

シェンナはそういうとタマネギを取り出してタイガの頭の上に置いた。

「風邪の時はタマネギをおでこに載せるといいんですよー」
「シェンナ、それは違うわ……それはネギの間違いよ」

とそこでイエローのツッコミが入る。

「え!?ネギは首に巻くんですよ。じゃがいもじゃありませんでした?」
「カレーじゃないんですから……。ふくしんづけですって」
「それこそカレーじゃないですかぁ!タクワンですよ。白い方の」
「……梅干ですね」

収拾の付かない一同にリポーターから訂正が入る。
そこでリポーターはタイガの布団をめくってマイクを向ける。が、タイガは枕で顔を隠す。

「それでは……タイガくんっ!!! 元気かなーーー!?」
「……」
「あれーーー!?元気がないぞぉ!?やっほーーーー!!!!!!」

病人に元気かどうか聞くまでもないと思うのだがリポーターは枕を剥ぎ取ってマイクを向ける。

「は~~い!!タイガくんです!お見舞いに来てくれて嬉しいですか~?」
「……え。えっと……」

タイガは突然マイクを向けられて緊張してるのか、それとも風邪の為か顔を赤らめたままもじもじしている
なんだかキャラが違うような気もするがたまにはそんな彼も可愛い。

「……オレ……女の子いっぱいで嬉しいなぁ……って思う」
「そう!そうだよね~!男の子だもんね~!?うんうん!お姉さんもう読めちゃった!」
「……うん」

タイガが可愛くうなずいた。ふとリポーターは時計で時刻を確認し、

「それでは!中高生の夏休みのぉ~~~~~~過ごし方でしたっ!!!!!!」

突如リポーターがコーナーを終らせるとあっという間に謝礼金を置いて脱兎の勢いで去っていった。
謝礼金をそっと枕元に置くとピーターはタイガの顔を覗き込んだ。覗き込んだらタイガは静かに目を閉じた。

「…………キスしてくれないの?」

タイガは少し残念そうに寝返りを打った。
女子達は半ば呆れながらタイガの周りを取り囲む
「……風邪の時もあんまりかわらないんですね」
「にしてもやっぱタイガくん顔は良いんですよねぇ……可愛いというか何と言うか」
「ちょっ……パープル……何言うんですか。これ敵ですよ」
「ホワイトこそお見舞いに来てるくせに~!」

とはいうものの……何故かタイガの顔に皆は注目してしまう。
シェンナの置いたタマネギが少々邪魔だがこうしてみるとキリリとした顔立ちで確かにかっこいい事はカッコいい。
模様も計った位きちっとしており、瞳の赤がまた気の強さを表している。そんな彼が顔を赤らめて布団に顔を半分うずめているのだ。
まるで小さな子供が恥ずかしがっているかのよな顔が女子達の母性本能をくすぐるのだ。

「……あれ?タイガくんってこんなに可愛かったっけ?」
「……うーん……。確かに」
「ちょっと!あんまり近づかないでくださいよ!タイガくんと野球行くんですから!」

ピーターは覗き込もうとする女子達を手で払った。
その気持ちの中には野球観戦に対する思いがあったのは確かなのだが、少々嫉妬していたのかもしれない。

「……タイガくん。興奮して余計熱が上がっちゃうんですよ!」
「……そ、そうですね。じゃぁ帰りましょうか?みなさん」

タイガのおでこにタマネギを擦り付けているシェンナの手を引いて、OFFレン達は部屋を出た。
その際寂しそうにタイガの言った一言が何故かみんなの胸に引っかかった
「うぅ……帰っちゃやだよぉ……寂しいよぉ……」








某TV局の電話はその日鳴りやまる事がなかった。
FAXの束を抱えて局内を走るものまで現れた。TV局中が一斉に唸った。

「……視聴率。……よ、40%です」
「40%!?バケモノじゃないか!!!」

朝、某リサーチから届けられた視聴率グラフは必ずある一定の所でかなりの伸びを見せていた。

13:00 番組開始(10.2%)13:15  ニュース(8.6%)13:30  電話悩み相談(13.2%)
13:40  夏休み特番開始(11.4%)13:50  風邪引き少年お見舞い(11.3%)13:55  風邪引き少部屋(28.7%)
13:58  風邪引き少年インタビュー(40.8%)14:00  星座ランキング(15.1%)14:15  番組終了(4.1%)

……以上の結果から昨日のインタビューの所が物凄い伸びを見せている事がわかる。


何故ここまで人気が出たのか……TV局は頭をひねった。しかしその疑問はTV局に寄せられたメールで全て判明する

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昨日の夏休みのヤツすご~~~くよかったです!!(≧∇≦)ノ特にあの虎猫の子がすっごーく可愛かったです!!(10's 女 小学生)
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昨日の特番を見ていて思わず叫んでしまいました。やはりTV局はこのようなほのぼのとした企画をするのが最高ですね
特にあの虎猫の子のお見舞いのシーンは涙者でした。彼可愛いですよねー。(20's女 薩摩藩)
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タイガくんがよかったです(病)(10's 女 隣人)
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あの虎猫の子すっごい可愛いですーー!! 彼でドラマ作ってくださいー!!(30's 女 有機物)
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……つまり、彼に人気が集中した為にこのような結果になったのだと局は判断した。
そして企画部からは今回の番組を彼の特集で行く事に急遽決定した。

その名も『虎猫少年のお見舞いレポート!』本日昼のワイドショー全てを中止して編成された大きな賭け番組だ。
それが放送されたとき、OFFレンジャーはロビーで不思議そうに見入っていた。番組開始からいきなり何処で調べたのかタイガくんの基本情報を紹介する。
そして次は10人のコメンテーターをスタジオに招き入れてこの番組の編成の理由を10分間述べる。何がどうしてこうなのか全くわからない……。
すると昨日のレポーターより少し大人しい感じのレポーターが知らない家の前に立っている

『え~。こちらがですね。そのタイガくんのお家なんですね~』

レポーターは白い2階建ての大きな家の玄関の門を開いた。
アジトとは似ても似つかないこの家に何故タイガはいるのだろう?……多分。アジトをばらしたくないからこういう場所にオオカミが移したと考えられる。
そう決断したという事はTV局から相当な金額を受け取ったと思われる。

『わ~。これがタイガくんの部屋なんですねー』

いろんなことを考えているうちにリポーターは、タイガの部屋に入っていた。
部屋の中はまったくアジトのものと同じで多分研究員か誰かがドアを通り抜ける事により部屋にワープできるようにしたのだろう。
タイガは昨日よりも少し風邪をこじらせたようで寒そうに布団をかぶっていた。
カメラはそんなタイガの様子を一定時間撮影すると画面をリポーターの方に戻して

『では、皆様から戴いたメールの質問をタイガくんにぶつけちゃいますっ!まだ間に合いますので質問はこちらから!!』

と画面下を指差すとTV局の専用アドレスが写された。
OFFレンも、「誰も送るわけないじゃんね~?」「TV局もよっぽど暇なんでしょう?」などとバカにしていたが、
急に画面が少し小さくなり下に何やら文字が流れていき始めた。
どうやらタイガへの励ましのメッセージを流しているらしくアドレスも時折流されていた。そのほとんどが女性から……時折男性も混ざっている。

『え~。では質問① お風呂で体を洗う時何処から洗いますか?』
「え、えーとね……み、右腕かなぁ……」

その瞬間下のスクロールバーは同じような文字で埋め尽くされた
【可愛い~!!!!】【萌え萌えですぅ~!】【キャーーーー!!!】

唖然とするOFFレンをよそに質問はさらに続いていく。

『質問②タイガくんの好きな女性のタイプは?』
「う、うーん……。可愛くて、甘えられて……いっぱいあるなぁ……」

再び先ほどと同じような文字が画面下に映される。

『質問③タイガくんはタイガースが好きだそうですがどの選手が好きですか?』「オレ……?オレは……金本と赤星が好き」

「わー!ピーターも好きですよ!」

ピーターが嬉しそうに画面を指差す。が、他の隊員の好奇の目に気が付くと静かに座りなおした。

『質問④です。タイガくんは自称虎だそうですが何故虎にこだわるんですか?』
「……オレは自称じゃなくて虎だ!虎ってのはな……世界で一番強い動物なんだぞ!オレも強いんだ」

下の文字群がますます激化する。横の女子達も「うぁ~可愛いかも」などと呟く声が聞こえる。

『質問⑤!今一番食べたいものはなんですか?』「……女の子……じゃなくて。も、桃缶かなぁ」

OFFレン女子が顔を両手でバッ!と押さえた。正確にはピーター1人が何もしていない。

「ふ、不覚にも……可愛いと思ってしまいました」
「右に同じ」
「左に同じ」

そんな光景を呆れながら見ているうちに質問はついに最後になってしまった。

『では、最後に今一番してほしい事は何!?』
「……お、女の子達に優しく看病されたい……」

急に女子が立ち上がって同時に叫んだ。

「すいません!タイガくんの看病行ってきていいですか!?」
「はぁ!?」

グリーンの返事も聞かずにピーターを残して女子達はあっという間に部屋を飛び出して行った。
地上の方からは何やらバタバタと足音がする。嫌な予感だ……。

「ねー!ちょっとー!お腹すいたんだけどー!」

それとは別にオレンジが部屋から大声で叫ぶ。いまはオレンジに構っている場合ではない!そうグリーンは感じた。

「緊急事態です!全国の女性の母性本能をくすぐって何かする計画ですね!」
「タイガにそんな力があったとは……」
「風邪ってやっぱ危ないねー」
「とりあえず!アジトへ行きましょう!」

必死に空腹を呼びかけるオレンジを差し置いて、OFFレンは部屋を飛び出していった。
1人残ったピーターはTVを見ながらつぶやいた。

「……何よタイガくん……野球はどうなったの……」

部屋でもつぶやいた隊員がいた。

「……なんだよみんな……お腹空いたって言うのに……」







OFFレンが到着するや否や、アジトではオオカミがわいわいがやがやと騒いでいた。
OFFレンを見るなりオオカミは一斉にぐったりとする。『あぁ、めんどくさい奴がまた来た』とでも言いたそうな顔だ。

「あぁ……まためんどくさい奴が来たなぁ……」
「タイガは!?」
「あぁ、部屋に入るな。圧死しちまうぞ」

ドアノブを掴んだグリーンの手をオオカミはパッと払った。

「TVで放送したのがまずかったな……良い金が手に入ったけど」
「日本中から女子が詰め掛けてきて部屋がぎゅうぎゅうだ」
「タイガ様が風邪をこじらせちゃったらなぁ……。酷くなりそうだ」

OFFレンは部屋のドアに耳をつけて中の様子を伺ってみる。

「タイガくん!好きな色は?」『……黄色と黒』

急に耳に響く甲高い声がこちら側まで突き抜ける。声を聞いた感じでは年齢層は幅広いみたいだ。

「タイガくん。大丈夫?おばちゃんが来たからにはもう安心していいよ!」
「うぅ……やめろぉ……近づくなぁ……」
「タイガくん!OFFレンを代表してパープルがやってきました」
「うぅ……も、もっとこっち来て」
「ずるいですー。シェンナがタイガくんとゴホゴホするですー」
「あぁ、なんて可愛いの!?解剖したいっ!」

女子隊員たちの声も聞こえてくると同時に人の波にドアが内や外に曲がったりする。オオカミ達は頭を抱えてその場に座り込む。
入室を拒否すれば良い、とグリーンが言ってもオオカミは首を振るだけ。
何でも一度その方法を試したらしいのだが大量のカミソリ入りの手紙が舞い込んできたらしい。

「いっそのこと捨ててみては……?」
「はぁ!?」
「タイガはもう助かりません人気の無い『尾布峠』に埋めてくるんですよ」
「バカか……貴様」
「しかしですねぇ……女子隊員が帰ってこないことにはどうしようも……」

扉の曲がり具合がさらに激しくなる。仕方なくOFFレンもオオカミとともに扉の前に座っていると、
だんだん乱暴な足取りで近づいてくる奴がいるのに気づいた。

『そこどいて!!!』

なにやら物凄い形相をしたオレンジがOFFレンボックスを抱えて猪突猛進の如く走っている。
OFFレンはその勢いに押されて思わず身を避けた。
オレンジは乱暴にドアを突き破ると中の女性群を押しのけてタイガのベッドの元へとたどり着くなり彼の蝶ネクタイを引っ張った。

「お前のせいでみんな相手にしてくれないじゃないか!こんな時に限ってちやほやされてぇぇ!!」
「な、なんだよぉ……」

いつに無く弱気なタイガをオレンジはベッドから引き摺り下ろしてボックスを近距離から投げつけた。

「OFFレンボックス!中華なべー!」

突然現れた中華なべに火をかけるとタイガを鍋の中に放り込んだ。
起き上がろうとするタイガの頭をオレンジが押さえつけてぐりぐりとゆすっていく。

「にゃー!やめろぉー!ゴボゴボ……」
「こうやって!こうやって風邪のだしをとってやるぅ!病人の怨みっ!」
「おっ……オレの方が……病人なんだぞ……っ!!!」

だんだん、鍋の中からいい匂いがしてくる頃にはタイガはもとのタイガに戻っていた。
そして、女子もいつの間にか少しずつ数を減らしていた。

「あの……私たちOFFレンの見せ場は……?」








「……あーあ。今日も野球中継。今日の試合はなんか見る気しないなぁ……」

ピーターは薄暗くなった部屋に1人留守番をしている。野球中継……。
昨日はこの中にピーターもいたかもしれなかったのに。

「ピーター……ちゃん?」

ドアの向こうからタイガの声が聞こえてきた。
居留守を使おうとして思わず息を殺してしまおうとしたが、すでにドアノブに手をかけていた。

「……何か用?」

わざと口調を強めてピーターは聞いた。

「ちょっと来て!」

タイガはピーターの手を掴んで走った。
理由も聞かずにピーターはタイガに身を任せて走った。

着いたのはタイガの部屋。
一瞬嫌な予感がしたが、タイガの顔を見るとそんな思いも相殺された。
タイガに手を引かれて中に入ると虎柄の小物に身を包んだ部屋の中に大きなTVモニターが置かれていた。

「さ、座って♪」

綺麗なベッドの上にピーターを座らせるとタイガもその場に座ってピーターの手を握った。

「昨日はゴメン……お詫びしたいんだ」

タイガはこちらの顔色を窺いながら真剣な顔で言った。
画面には大きく映し出された野球中継。

「行けなかった代わりに、今日はずーーっとオレと……野球見ようよ」

柄にも無く少してれた顔でタイガは言った。

「…………うん。見ようか」

ピーターはそっとタイガに寄りかかる。
すこし変な気を起こしそうだったが、タイガもそっとピーターに寄りかかった。

「CSで最後まで見られるからいいよね♪」
「……うん♪今日は帰えさないよ♪」

挿絵







一方OFFレン本部。

「お腹すいたー!!トイレ行きたいー!連れてってーーー!!」
「もう治ったんじゃないんですか?」
「えっ!?いや……その……まだ結構痛くて……」

グリーンが仕方なく部屋を出たのを見てオレンジは嬉しそうに布団にもぐった。一方扉の向こうでは緊急会議が行われている。

「オレンジは?」
「……まだ治っていないそうです……もう復帰は無理ですね」
「じゃぁ……」
「えぇ、準備してください」

グリーンは再び部屋の中に入ってうとうとしているオレンジの肩を叩いた。

「あ!買ってきて来てくれた!?」
「いえ、ちょっと今から出かけませんか?」
「……どこへ?」
「楽しい所ですよ。そこで遊べば病気も治るかもしれませんよ?」
「え!じゃぁ、行くー♪」

オレンジはそこそこ元気な風に立ち上がってグリーンに続いて部屋を出た。外に出るとスコップを持った隊員たちが立ってオレンジを待っていた。

「あれー?みんなも?」
「えぇ、そうです」
「ふーん。なんてとこ?」

グリーンは振り返って答えた。







「……尾布峠って言うんですよ」