第34話

『タイガ豹変 -動乱編-』

(挿絵:シェンナ隊員)

聖獣という大御所を迎えた翌朝。
OFFレン指令本部は壁を銀色に模様替えしていた。

「……模様替えじゃないよ……。烏龍茶の缶で壁がメタリックなんだよ」
「聖獣って烏龍茶好きなんですね。一日何本も飲むんですから」

少し触れるだけで空き缶の波に飲み込まれるかと思うほどの烏龍茶の缶。
捨てようとするのもいいが、こんなにいっぺんに空き缶を何処に捨てればいいのだろうか?

「……後で烏龍茶代請求しないと……えーと……1人で300本飲んだとして」
「1200ですね」
「1200でスーパーで98円だから……約100円として……12万円!?」
「よくそんなお金ありましたよねぇー」

グリーン専用の座席にドサッとのっかかると、何も知らずに聖獣さんたちが会議室に入ってきた。

「本部もいい香りになりましたね。まるで烏龍茶のにおいだ」
「……えぇ、烏龍茶がいっぱいありますから?」

少し皮肉っぽくグリーンは言った。

「あぁ!そうですね。そうでした。……で、おかわりしていいですか?」

しかし寛大といえばいいのか鈍感なのか皮肉は通じなかった。
青龍はそのまま机の上に一缶だけ置かれた烏龍茶を飲み干す。
その瞬間、後ろから野次が飛ぶ。

「ずるいぞ青龍!オレも喉が渇いているんだ!」
「僕も飲みたいけど後でも良いや……」

「烏龍茶は後でしょ!?」

朱雀は荒れている白虎と玄武を押しのけてグリーンに言った。

「グリーンさん。私達にもそのタイガくんとやらの場所を教えていただけませんか?」
「あ、そうだった……!ちょっと彼と話し合ってみます」
「では、地図を渡しますんで……えーと」

グリーンの取り出した地図を白虎は急に取り上げた。

「オレが行く!こういう事は虎同士のほうがいいだろ」
「わぁ。白虎。危ないよぉ」

ゆっくり間延びした声で玄武が止める。白虎はグリーンの判断に求めたようでキッとグリーンを見た。
模様は多少違っても白虎は白虎……。某少年と被って見えて嫌な感じがした。

「えと。白虎さんはお止めになった方がいいですよ。彼白虎が嫌いですから」
「何!?」
「そういうことなら仕方がないじゃないか白虎。私たちが行くよ」

青龍は朱雀の肩を叩いて言ったが、朱雀はそれを不機嫌そうに振り払った。

「何で私が入っているのよ!?」
「私だけで行かせるつもりか!?相手は闇虎だぞ!」
「いけばいいじゃない……。虎と竜は昔から良いライバルでしょ?」

朱雀は髪飾りをかき上げながら高慢に言う。
確かに虎と竜といえば好敵手が現れると何処からとも無くバックに現れるライバルの代名詞。

「大体な!朱雀は昔からいつもそうじゃないか!520年前の雨漏りの時だって朱雀は何もしなかった!」
「そういうなら青龍だって、260年前の地震の時も1人だけ安全地帯に逃げ込んだじゃない!」
「まぁ、まぁ、朱雀も青龍も仲良く仲良く」

玄武がのんびりした足取りで二人の間に割って入ろうとする。グリーンの経験上彼は仲裁に適した人物ではない。

「うっさいわね!玄武。あんたはいつも隅っこでおはぎ食べてたでしょ!」
「そうだ!玄武。おまえは小亀と孫亀でも乗せてろ!」
「うぅ……なんで僕怒られるのかなぁ……」

ほら、案の定といった所か。
しかし、このまま聖獣たちの痴話喧嘩を聞いていても仕方がないのでグリーンは烏龍茶を置いてこの場を取り持った。
案の定朱雀も青龍も黙って烏龍茶を飲むと、落ち着いたようで結局朱雀と青龍が行く事となった。
白虎が勇ましく何度も名乗りを上げたが、タイガを余計に刺激するだけだからと不満げに本部に残った。

白虎と玄武の2人はロビーに座って隊員に声もかけずじっとしていた。せいぜい喋ったとしても。

「……オイ、烏龍茶くれないか?」
「そんな、失礼だよぉ」
「……じゃぁ、お前は飲まなくても良い」
「そんなぁ。……じゃぁ僕もください」

このパターンのみ。
さすがのグリーン隊長も気まずくなってきてトランプをしないかと持ちかけた。
ついでにそこら辺に居る暇そうな隊員も数名連れてきて場の雰囲気の向上という名の小規模なトランプ大会が始まった。

「では、何しましょう?大富豪とかポーカーなどは?」

とりあえず聖獣を優先にして協調しようとグリーンは話しかける。
聖獣は声をそろえて言った。

「神経衰弱!」











タイガくんのお家訪問。というわけではないのだが、聖獣はタイガの住むアジトを目指してただ黙々と歩いていた。
聖獣ぐらいの器になるとひとっとびくらい出来そうな物なのだが猫の体系ではそのような能力は難しいのだろう。

「日本も変わったな……。唐の時に来た時はもっと草だらけだったのになぁ」
「置物になってからは……外の世界なんて見なかったのにね」

見るもの全てが珍しいようで、2人は少々遠回りだとわかっていながら大阪の街を歩き回った。
携帯電話をなにかの呪術札だと思ったり、グ○コの看板ですら巨大埴輪に映った。

「闇虎を封印したら、一度世界を回ってみないか?」
「……そうね。青龍が良いなら」
「玄武はともかく、白虎は変に聖獣の活動に真面目だからな……賛成するかどうか」
「大丈夫よ。そういう時は私がなんとかするわ」

そうこうしている内に、2人はアジトの入り口へとやってきた。
ただものならぬ空気に、首元にかけた勾玉を握り締めるとゆっくり入っていった。
ある程度降りたところでオオカミに止められたが『OFFレンの使いです』というとあっさり通してくれた。
知らず知らずのうちにオオカミたちがこちらに深々と頭を下げて2人を見送った。

オオカミの数も徐々に減っていき、それがタイガの部屋の距離に比例していた。
近づくたびに邪悪なオーラを感じながらも2人は進み続け、部屋の前についた。

「……緊張するなぁ。2回目とはいえ」

緊張をほぐすように青龍は笑った。

「あの時は白虎ががんばってくれたわね」
「あぁ、あいつは戦う動物だからな」
「玄武も居たわ」
「……さぁ、いたっけな……?」

青龍がドアのノブをひねってゆっくりと部屋に入っていった。
朱雀も軽く深呼吸をして後に続いた。
中に入るとベッドの上で銅像をゆっくりと撫でながらうつろな目をしているタイガに気が付いた。

「キミがタイガくんかい?」
「…………」

タイガは黙ったまま銅像を撫でている。
聖獣はこの状態を「中」の段階だと判断した。

「……闇虎。彼は関係ないだろう開放してくれ」

青龍はタイガの持っている銅像に語りかけた。しかし銅像も何も答える事も無くただタイガの手の中で何度も撫でられていた。

「はじめからこうすればいいでしょっ!!!」

そんな様子に痺れを切らしたのか朱雀はタイガの持っている銅像を有無を言わさず取り上げた。

「!?」

銅像が奪われた瞬間タイガの全身の毛が逆立った。タイガはキッと朱雀を見つめるとベッドの上で四つんばいになって虎のように唸った。


囲郭、いや威嚇しているのだ。

「それを……返せぇぇっ!!」

タイガはいつもよりも凶暴そうな目付きで朱雀に飛び掛った朱雀はタイガの身を交わして銅像を高く突き上げた。

「闇虎!いいかげんにしてその子から離れなさい!」

しかし、タイガは何も答えず床に爪で引っ掻きながらじりじりと朱雀に近づく
最初は「返せ返せ」といっていたのが次第にただの獣の唸り声に変わっていった。

「……ダメだわ。この子自身が闇虎を受け入れている。この子自身も悪なのね……」
「ガルルルルルルル……」

タイガは物凄く延びた爪で朱雀の手元を引っ掻く。寸前で朱雀は飛び上がり、爪は空を切っただけだったが思わず銅像を離してしまった。

「しまっ……!」

タイガは人並みはずれた速さで銅像を奪い取ると再びベッドの上に飛び乗り、静かに撫で始めた。
青龍はどうしようもない状況にただ困惑していた。

「……彼が闇虎を拒まない限り私たちにも手の施しようが無い」
「……長期戦になりそうね」

二人は仕方なく出直すこととなった。帰り際、朱雀はタイガの口元が邪悪に歪んだのを見た。







好きな人とは一日中居ても飽きないが、神経衰弱を一日中しているとさすがに飽きる。
しかし、辞めようにも聖獣の2人が熱心すぎて誰もやめるタイミングを見計らえないのだ。
さすが闇虎を見張っている間ずっとトランプをやっていただけの事はある。

「……ここは4だな」

白虎が自分の膝の所にあるカードをめくる。カードはハートの4。当たりだ。

「ずるいよ白虎。僕がめくれないじゃないか」
「ウルサイな。当たりなんだから仕方がないだろう」

もうすでに神経が衰弱しきっているOFFレンとは違って、聖獣コンビの優勝総圧船が繰り広げられている。どちらかというと白虎の方が優勢だ。

「第一白虎はすぐカードを寄せてくるじゃないか。あれでわからなくなるんだ」
「あれはカードの数が減ってきたから取りやすいように寄せているだけだ!」
「寄せている隙に自分の取りたいカードは自分の近くに持ってくるじゃないか!」
「何だと玄武!お前はいつもそうやってだなぁ!」

穏やかそうな玄武もすこし怒った表情で白虎と睨みあっている。白虎もこういうすぐ怒る所はあの虎コンビと一緒だ。

「しゃー」

玄武の尻尾のへびくんも可愛い顔をしながら小さく口を開けて相手を威嚇している。

「玄武はいつも文句をつけてくる!400年前もオレに無実の罪をなすりつけた!」
「びゃ、白虎だって!僕のへびくんを噛みつかせるじゃないか!」
「あれは、お前が噛付かせているんだろうが!」

その瞬間尻尾のへびくんが白虎の喉元に噛付き、白虎は泡を吹きながら無言で倒れた。


へびくんは表情一つ変えずに酷な事をするので怖いのだそうだ(玄武談)。

「白虎、玄武。ちょっと来てくれ」

ちょうど青龍が帰ってきた。青龍は泡を吹いている白虎を見て「またやったのか」と呟いた。

「あの、タイガは?」

やっと久しぶりにOFFレンの台詞。青龍は静かに首を横に振っただけで、それが失敗に終ったのだと判った。

「そうですか……。あのこれからどうなさる気で?」
「もうすぐ彼は完全に支配されるでしょう。それを何としても阻止しなければ……」

いつになく深刻なムードなのに何故か隊長の心は躍る。
なんだろう、この劇場版か1時間SPのような展開は。(まぁ、実際3部作なのだが)

「最終的には彼はどうなるんですか?」

側に居たイエローが青龍に質問した。

「……最終的にはタイガくんの体を使って闇虎が復活します」
「となると本来のタイガくんは……」
「……残念ですが。闇虎の体へと変化を……」
「そ、そんな!」

グリーンは驚愕した。一度言ってみたかったのだこんな台詞思わず笑みがこぼれそうになる。

「そ、それでこれからどうするんですか?」

顔の歪みを阻止しつつ、グリーンはさらに青龍に聞く。

「そうですね……あ、烏龍茶いただけます?」
「あ、ハイ……」

青龍はゴクッと一口烏龍茶を口につける。

「……あの段階では普通に立ち向かっただけではまず無理ですね」
「はぁ」
「その為にはやはりOFFレンジャーさんの力をお借りになければなりません」

再び青龍は烏龍茶を一口飲んだ。

「まず……えーと。烏龍茶をお願いします」
「あぁ、それならいっぱい買い置きをしてますので」

使い走りになるのは嫌なので実は隊長、烏龍茶を箱買いをしてあるのだ。

「いえ、その烏龍茶ではなく、幻の烏龍茶です」
「幻の……?」

他の聖獣も黙って青龍の話を聞いている。いつになく真剣なムード再び笑みがこぼれる。

「中国の唐の時代。中国の山奥の1年に数本しか取れない最高級の茶葉で作った。烏龍茶……」

青龍の言葉に他の聖獣が後を続く。

「絶妙なタイミングの発酵期間を超えて使われた茶葉の素晴らしい香り……」
「何度も手揉みし高級炭火で一気に乾燥させたあの感触……」

聖獣の顔がうっとりしている。聖獣はそんなに烏龍茶が好きなのか……。

「ん?でもですよ。その烏龍茶がどうかしたんですか?」
「闇虎を封印する際に我々はかなりの労力を強いるのです」
「はぁ」
「で!その為には我々の力の源である烏龍茶の中でもすこぶる美味しい物が必要なのです」

OFFレン隊員疑わしい目で聖獣を見る。
なんだかんだ言って聖獣の様子を見るとどう見ても烏龍茶を飲みたいだけのような気がするのだ。

「疑ってますね?」

すでに向こうにこちらの思いは筒抜けだ。

「安心してください。コップ4杯分があれば十分ですから」
「はぁ……」
「日本でも購入できない事はないと思いますのでよろしくお願いしますね。じゃぁ私はこれで!」
「え、ちょっ……」

聖獣はそのままどこかへ足早に去っていった。……泡を吹いたままの白虎を残して。






「さて、これからどうしたものか……」

グリーンは泡を吹いたままの白虎を目の前にして腕を組んだ。かと言ってネットでもこれといって有力情報が見つからない。
最高級の烏龍茶といっても素人が簡単に手に入る代物ではない事が明らかだ。

「まずは白虎さんを起こさなければいけませんね。えーとグレー」

はい!と元気良くグレーが返事するとグレーは竹刀を持って白虎の体を突付き始める。
ある程度探りを入れて、とある一部を一気に突く。物凄い音がして白虎は飛び上がった。

これが噂の『秘功突き』あえてその一部の名称は割愛させていただく。

「お目覚めですね白虎さん。所でですねぇ」

白虎は一部を押さえてその場にうずくまりながらかれた声で言う。

「う、烏龍茶だろ……」

ペッと口の中のア泡を吐き出すと白虎はよろよろと立ち上がった。

「えぇ、そうなんです。それで白虎さん烏龍茶ですがねぇ」
「頼むから何事もなかったかのように話しかけるのは辞めてくれ……」」
「えぇ、そうですね。で、ご質問の件なんですが」
「……好きにしてくれ」

グリーンの気になる点は2つ。

①幻の烏龍茶と言うがPCで検索した所似たようなものがいくつかヒットした。
種類は関係ないのか?②絶対烏龍茶がなくてはダメなのか?

白虎はその質問を考えるまでもなくあっさり答えた。

「①だが、別に種類は問わない。要は原材料と完成への過程だな」

つまり、~茶とか、~烏龍茶とか甘くて美味しい!とかほんのりさわやかなどうたい文句は何でもいいのだ。
良い材料で、美味しく作っていればいい。

「②だが……なければオレ達が危険になる可能性が高い。まぁ、そういうことだな」
「となると……彼に頼むしかないですね」
「そうです……ね。少々不服ですが」
「?」

白虎をつれてグリーンを先頭に5名はとあるビルの前にやってきた。

『(株)ホワイトタイガーエンタープライズ』
そう、現在若干15歳にして一企業の社長であるホラン氏の会社。
基本的には総合商社であるが現在は海外事業に力を入れて行っており、年収は何億とも言われている。
10代だからと言って馬鹿には出来ない。現在とある宇宙なんとかプロジェクトを進行中という噂のある大手会社だ。

「……またビルの高さが増えているような気がしますね」
「……また社長室まで10分もかけなきゃいけないんですか?」
「シェンナ高い所好きですよー♪あ、でもバカだからじゃないんですよー」

玄関の自動ドアには薄くホワイトタイガーの顔が描かれている。
これが会社のマークになっていて、社員もこの顔がプリントされたバッチを見につけている(らしい……)

グリーンの顔を見るなり案内嬢は関係者専用のエレベーターへと一同を案内する。このエレベーターの豪華な作りも何度見たことだろう……?

「どんな奴だ?その……ホランって」

白虎がそれとなくグリーンにホランの事を聞く。
正直に言って良いのかいけないのか悩む所だ。

「えーと。白虎さんと同じホワイトタイガーなんですよ」
「ほぅ」
「そ、それで……なんともプライドの高い方でもあり……熱心なといいますか」
「……白虎同士オレと似てるな」
「そ、それでもっともの特徴は……です……ね」
「なん……」

「なんだ?」と白虎が言いかけた時エレベーターが最上階の社長室へと到着した。
ぞろぞろとエレベーターを降りると白の絨毯を歩き遥向こうにある扉へと目指す。

「オイ、これはお前じゃないのか?」

白虎が歩いている最中に所々にあるグリーングッズに気が付いた。
エレベーターを降りたところでは銅像でかたどったグリーンの等身大の像があるし、
さらに進んでいくと、写真や有名画家に作らせた絵画などを至るところに飾ってある。

「なぁ、やっぱりこれお前だよなぁ?」

白虎が再びピカソとシャガールの中間の様な絵を指差しながら言った。……それにしても何とも言いがたい絵だ。

「そうですよー♪ホランくんはグリーンが大好きなんですよー♪」
「シェ、シェンナ!」
「ふーん。お前が好きなのか。時代は変わったなぁ」

白虎は特に表情一つ変えることなく歩き出した。
グリーンの考えは結局杞憂に終ったみたいだ。さすが聖獣様全然気味悪く思わないとは寛大というか鈍感なのか。

「あ、そろそろ社長室が見えてきましたよ」

パープルの声にグリーンは心の準備をする。
そろそろ最後の関門であるグリーンの使用したらしきマフラーを入れたガラスケースが見えてきた。これを過ぎればあと7歩ほどで社長室の扉の前だ

1,2,3,4,5,6、……7。
社長室のドア。中央上部に白虎の顔を描かれた見慣れたドア。
グリーンを先頭にゆっくりと中に入ると真っ赤な絨毯の敷き詰められた部屋の奥の机。

そこにコーヒーを飲んで座っているのがホラン。

「やぁ。グリーン……来てくれて嬉しいよ♪」

ホランはグリーンを見つけるなり喜んで走り寄ってくる。
ここで肩に手を置こうとするがあえて振り払う。

「フフ♪照れなくてもいいんだよグリーン。まぁ……今日は他の子もいるしね……♪」

ホランはそういいながら社長椅子に腰掛け飲み掛けのコーヒーを飲み干す。

「……それで何か用かい?あいにく今日はお客様がいらしてね。長居は出来ないんだ」
「それは好都合ですね。私もそんなに長居するつもりはありませんでしたから」

前半部分を皮肉っぽくグリーンは言う。しかしホランに皮肉は通じない。嗚呼、愛は盲目。

「悪いねグリーン。今度の人工衛星を木材で作る計画にはわが社の社運をかけているんだ」
「ハイハイ……それよりお願いがありましてね」
「お願い?……フフ。グリーン♪キミの婚約指輪の事かな?心配は要らないよ実はもう用意してあるんだ」

ホランは顔を赤らめ椅子の背を向けた。気のせいか声が上ずっている。

「……いいえ。そうではなくてですね」
「オイ、オレに話させてくれ」

ひょいとグリーンたちの後ろから白虎が顔を出した瞬間。ホランはガバッと椅子から立ち上がった。

「そ、その人は!?だ、誰何だい!?ぐ、グリーン!!」

ホランがいつになく興奮して赤面している。
白虎はホランの机を歩み寄り手を差し出した。

「聖獣、白虎です。よろしく」

目が点になっている赤面ホラン社長。
白虎が完璧本物の白虎に出会っているわけだから衝撃という物は凄まじいのだろう。

「あ、えっと……その……よろしく……(/////)」
「ん。白虎同士お互い頑張ろうな」
「はっ!はい!」

熟しすぎたリンゴとかけてホランの顔と解く。その心は『赤くなりすぎている』
よくもまぁ、赤虎にならないものだとつくづく感心する。彼の方がレッドの座に適任かもしれない
「す、素敵な虎柄ですね……」
「んー。……そうか?」
「えぇ……もう……とっても素敵で……(/////)」

ホランの体が小刻みに震えている。
好みなのかは知らないがやはり虎は虎同士のほうが惹かれてしまうものなのだろう。

「あのー。ホラン。私のお願いはどうなったんです?」
「えっ!?あっ!?そ、そうだねグリーン……キミが先だったね」

ホランは再び席に着くと、腕を組んで再びさっきの台詞をリピートする。

「……それで何か用かい?あいにく今日はお客様がいらしてね。長居は出来ないんだ」
「実は、高級烏龍茶を購入していただけないでしょうか?」

途中で何故自分がこいつに敬語を使っているのかが疑問に思えたが、そんな事を気にしている場合ではない。

「高級烏龍茶?……それはまた……どういうことだい?グリーン」
「聖獣さんにどうしても必要なんですよ。我々じゃ手が出せなくて……お願いします」

しぶしぶグリーン一同は頭を下げる。

「……グリーンの頼みなら断るわけにも行かない……」
「ありがとう。ホラン」
「白虎さんにもそういわれたら……」

ホランは真っ赤な顔でゴホンと咳き込むと内戦へと電話する。

「あぁ……オレだ。うん。烏龍茶をだな……あぁそう。あぁ……頼む」

粗方の言葉を交わした後、ホランは再び腕を組みグリーンの方を向く。

「本場から高級烏龍茶を取り寄せる事にするよ。……何、お礼は一晩オレと寝てくれさえすれば……」
「そうですか!それでは烏龍茶が出来たら呼んで下さい。シェンナが取りに来ますから」
「え、ちょっ……グリーン!?」

ひとりぽっち。
『あの、社長、ジェームス氏がいらっしゃっておりますが?』
その時内線。
社長は静かにため息を突く。

「……帰る様に言ってくれ。良いものを見た後に汚い物を見たくないのでね」

挿絵










日暮れ……
黄色と黒のコントラストに彩られたこの部屋も電気をつけていなければ色も無意味になる。
この部屋の近辺には人もオオカミも近寄らず、聖獣が来た時と何も変わらない。ただ少し変わったといえばタイガの顔つきが変わったことぐらいだろうか?

「闇虎様……闇虎様……」

暗闇の中で1人呟くタイガ。
最初は無言でいた彼は今、何かと対話しているかのような独り言を呟いている。
その独り言を一つ呟くたびに彼の自慢という虎縞が何故か別な邪悪な柄へと変貌していく。

「……闇虎様……オレ……」


しだいに目の色が変わった。というより、目付きが変わった。彼は闇の中で1人の獣と退治しているのだ。
黒、いや暗い紫……そんな色をした虎がタイガに問いかける。
──お前は強い虎になりたいか?

挿絵

「闇虎様……オレは……」

タイガは答える。なりたい!その言葉に闇虎は静かに笑う。なら我と同化せよ。

「闇虎様……オレ……は……貴方……」

タイガは答える。
ほんとになれるのか!?もう猫だとバカにされないような虎になれるのか!?
闇虎は静かにタイガの前に手を差し出す。

──なれるとも……。

「闇虎様……オレ……は……貴方……貴方に……」

タイガは差し伸べられた手にそっと手を触れる。その時、タイガは別な物となり、その証を彼はタイガに告げさせた。

「闇虎様……オレは貴方のおっしゃるままに……」

タイガ……いや闇虎は静かに口元をゆがませた。