第38話
『再び!再び!再び!』
(挿絵:レッド隊長、シェンナ隊員)
第1話『侵入者再び!』
OFFレンジャー指令本部のドアの前に立つ一人の男。彼の名前は上村章吾。かつて殺人容疑で刑務所から脱走した過去を持つ男である
そんな男が何故、この本部にやってきたのかお解かりだろうか?
「(帰って来たよ……みんな)」
ご存知だと思う人はご存知であろう。彼こそが以前本部に勝手に侵入して勝手に出て行った侵入者さんなのだ。
詳しくは『侵入者さんの巻』を参照していただきたい。
その殺人容疑の犯罪者が何故こんな所に来ているかというと、いろいろあったと言う事でご理解いただきたい。
「(みんな……覚えているかな……俺のこと)」
そんな犯罪者が部屋の前にいた時、ロビーでは大規模な衣替えが行われていた。
特に深い理由は無かったのだが、隊長の思いつきでしぶしぶ実行された物だった。
部屋のあちこちにはダンボールが積み上げられて誰が何処にいるのかさえも解らないほどだった。……1年と数ヶ月の年月は物まで増やす。
「あー?なんだこりゃ?」
そんな衣替えの最中に一人の隊員が壁に書かれた伝言を見つけた。
何か尖った物で壁に汚く『ありがとう』と彫られている。観葉植物の陰に隠れて今まで気づかなかったようだ。
「誰がこんな落書きを……全く」
「ライトブルー。こんにちわですー♪」
シェンナが遅れてロビーの方へとやってくる。
学校の補習か何かだったか忘れたが遅刻していたため掃除をしている人たちにかなり怨まれていたりする。
本人はそんな事はいざ知らず、元気に段ボール箱の中身をのぞくだけ。
「ホラ、シェンナ。みんな掃除してるんだから自分の部屋でも掃除したら?」
「えー。でも他のみんなはこっそりどっか出かけてましたよー」
「え?」
ライトブルーは廊下に出て辺りを見回すが足音一つしていない。
先ほどから妙に静かだと思っていたのは間違いではなかったようだ……。
「……やられた」

他のみんなが逃げたのを知った瞬間。何やら自分のしていた事がバカらしくなり始めてきた。
「ねぇ、シェンナ。オイラ達もどっか出かけない?」
「シェンナお掃除するですー」
「なら仕方ないね。オイラは家に帰る。みんなが帰ったらこれ渡しといてこの前のイベントの景品集めるんでしょ」
そう言ってライトブルーが小さなペンダントをテーブルの上においた。
そのまま玄関を出て行ったがシェンナは一人元気に掃除に取り掛かり始めた。
しかし、ライトブルーと入れ替わって侵入者さんが入ってきたのは言うまでもない。
「まずは、ダンボールの整理ですねー。綺麗にしたら褒めてくれるかもしれないですー」
シェンナは早速段ボール箱をあさり始めると、中からいろいろなガラクタがでてきた。
多分メカの整備に使った物だと思われるがそれだけでもシェンナの興味を引くには十分だった。
片づけにも飽きて、次第にシェンナはガラクタで遊び始めた。
「このネジがグリーンで、こっちの丸いのがOFFレンボールですー」
「おじょうちゃん……?」
侵入者は早速側に居たシェンナに話しかけた。
ここは堂々と話しかけるに限る。小さい子だから警戒心もそんなにないだろうし。
「はいー?おじさん誰ですかー?」
「他のみんなは何処に行ったのかな?」
「知らない人とはお話しちゃいけないんですー」
「でも、おじょうちゃんとおじさんは今知り合ったから知らない人じゃないよね?」
「あ、それもそうですー。危ない危ない。シェンナちょっと警戒心過剰でしたー」
「いやいや、わかればいいんだよ」
シェンナの手にポケットに入っていた飴玉を渡すと嬉しそうに口に含んだ。
そんな様子を見ると少し彼にも母性本能が目覚めてきたような気分になった。
思えば中学生の頃の初恋の相手は今頃どうしただろうか、そして上司の娘の由美子さんは……そんな考えが頭をよぎった。
──いつか子供を作ろう。
少し涙が出そうになった。その頃には既にシェンナの口の中では飴玉が溶けていた。
「おじさん。所で何のようですかー?泣いてるですかー?」
「え、う、うぅん……いやなんでもないんだよおじょうちゃん」
「おじさんOFFレンジャーに助けてもらった人ですかー?」
「え、あ、いいや……その……うーん。そうかもなぁ……」
彼はそばの壁に以前彫った『ありがとう』の文字を見つけた。『まだ残っていたのか』と少し嬉しくなって掘った部分をゆっくり摩った。
「……他のみんなはどうしたんだい?お嬢ちゃん。お礼が言いたいんだよ」
「えー。みんなはもう帰ってこないんですー」
「……そ、そんな!?」
彼は驚愕した。せっかく更正出来た御礼をしようとここまで来たのにみんなが帰らぬ人になっていたという事に。
「それで、シェンナは帰ってきたらこれを渡したいんですー」
シェンナはテーブルの上を指差した。先ほどライトブルーが置いていった腕時計だ。彼はこの腕時計をそっと手に取った。
「お嬢ちゃんはまだ小さいから死んだって事がよくわからないんだね……」
「はいー?」
「これはおじさんがちゃんと渡しておくよ。だからね。お嬢ちゃんは早く帰りなさい」
「えー?でもー」
「おじさんはね……決めたよ。みんなの優しさを無駄にしちゃいけないんだ」
侵入者は腕時計をぐっと握って外へ飛び出していった。
せっかく掃除を手伝ってもらおうと思っていたのが無駄になってしまった。そして男が出て行ってから数分後玄関の方で音がした。
「シェンナー?いるのー?」
「クリームー!変なおじさんが腕時計持って言っちゃったですー」
「はぁ?なにそれ……。あ、それより今度の学校のプリントなんだけど……」
「信じてくれないですー……」
それから数日後、彼は山奥のお寺にいた。
「(……彼らが救ってくれたように私も恵まれない子供を救おう……)」
OFFレンジャーが見知らぬ間に一人の男を地域の人々から尊敬される住職に仕立て上げた事は誰も知らない。
かなり後の事になるが、彼が天命を全うするまで肌身外さず腕時計を持っていたことも……。
第2話『トンピャラポン再び!』
その日、ホランはグリーンに無性にあいたくなっていた。
特にこれといって理由は無いのだがある一定期間が来ると会いたくてたまらないわけだ。
今日も、どんな言葉をかけようかと時折顔を赤らめながら、妄想を繰り広げながら本部へと向う。
「ふぅ」
本部の目の前に来るとホランは深いため息をつく。
落胆を意味するわけでなく自分を落ち着けるための行為であるのだが、なかなか落ち着く事が出来なかった。
一目惚れとはいえ、世界で一番好きな人に会う訳であるからそう簡単には落ち着く事など出来ない。
「何か用?」
玄関の前でブラックと出会う。表情一つ変えずにじっと見つめるその目からはなんだか怖いものを感じるが、ホランはそんな事はあえて思わない。
『小さくてなんて可愛いんだ……』と思うことによって恐怖心も消え去ってしまうという物だ。
「い、いや。グリーンに……会いたくなってね♪」
「ふーん。物好きなのはいいけど今日はみんなと会わないほうがいいと思うけどなぁ」
ブラックが溜息交じりに言ったが、ホランはそこであきらめる事など出来なかった。
自分の労力と引き換えに絶対的に何か見返りがないと気が済まないのが彼の心情なのだ。
「いや。オレはそれでも会うよ♪せっかく来たんだ♪」
「それならいいけど……後悔……いや、苦悩しても知らないよ俺は忠告したんだから」
そういってブラックはホランの来た方向へと出て行った。
一応ドアの向こうから中の様子を伺うが、特に異変は感じられない。
「……特に変わった様子もない……。ううむ」
さっそくドアノブに手をかけようとしたときホランは重大な事に気が付いた。
「しまった……プレゼントを忘れてしまった……」
必ず手土産を持ってグリーンに会うのがここ最近の常識となっていた。
別に、物で気を引こうということは考えてないのだが彼のポリシーでもあった。
しかし、ここ最近多忙だったためグリーンに会いたくてたまらない心の方が勝ってしまった。
「仕方ない……後で花屋の方で宅配してもらおう」
決心を固めて、ホランはドアノブをギュッと握りしめた。
中に入ると特にブラックが言っていたほど変わった様子もない。
『それでさぁ……凄いのなんのって』
『あぁ……なるほどぉ』
『ですですー』
ロビーの方から隊員の話し声が聞こえるよーく耳を澄ますと愛しいグリーンの声も聞こえてきている。
「(あぁ……グリーン……なんて可愛いんだ……)」
何週間ぶりのグリーンの声に思わず興奮してしまうホラン。
ロビーへ向う足取りも思わずせかせか急いでしまう。
「グリーン!会いたかったよ!」
思わずバッとドアを開けるなりホランは叫んでしまった。
ここで冷たい目がホランをさすはずなのだが今日は違ってみんな穏やかな目をしていた。
「ホラン……?」
きょとんとしているグリーンの顔がまたホランに何か作用したらしく再び彼は顔を赤らめる。
それだけで1年分の元気を貰ったような気分になる。すでにあちこち元気になっていたりするのだが。
「えと……あの……グリーン!」
「ちょうどよかった。ホランみたいな頭に切れる人に協力してもらいましょう」
「ん。なんだい?オレで良かったらなんでも協力してあげるよ♪」
長居の出来る口実が出来たようでホランは内心天にも昇るような気持ちでグリーンの横に座った。
「さぁ、なんでも言っていいよ♪専門的なことは少々しか解らないが……」
「大丈夫ですよ。簡単な事ですから」
「ん、じゃぁなんだい?」
グリーンは一枚のメモを取り出してホランに渡した。
「実は、我々の戦闘力を有利にするために何かいいものはないかと考えまして」
「あぁ」
「それでいくつか検討した結果、トンピャラポンを使う事にしたんですよ」
「うんうん」
「それでどのように使えばより効果的か、敵のことを良く知るホランに考えていただきたいわけです」
「うんうん……で、なんだっけ?」
「トンピャラポンです」
ホランは一瞬訳がわからなくなった『トンピャラポン』聴いた事のない単語だ。
いや、言葉の響きからして英語ではない。かといってフランス語でもロシア語でもない。
人名にしてはずいぶんと可笑しいし、何より戦闘に使うのだから何かの『物』という事だけは解った。
『え、その……トンピャラポンって……なんだい?』
……などと口が避けても言う事など出来ない。
もし言ってしまえば『用無し』の烙印を押されて本部から追い出されるかもしれない。
さらにはグリーンのホランに対する愛情も信頼も何もかも潰しかねないのだ。
せっかく本部に来たのだ。グリーンの横に座れたのだ。自分を頼りにしてくれているのだ。
仕方がない。そのトンピャラポンとやらを会話の中から気づかれないように聞き出すしかない。そうホランは考えた。
「それでですね~。シェンナ的な意見としては美味しく食べて健康的にという……」
「う……む……そうだね。美味しいしねあれは」
トンピャラポンとはどうやら食べ物の部類だと考えた。
名前の感じからしてお菓子。そう、シェンナのような子供が大好きな甘いお菓子である確率が高そうだ。
「それでですね……。イエロー的には冷暖房がきちんと完備しているものが良いと」
「えぇ!?」
「……何か?」
「い、いや……そ、そうだね冷暖房は……ひ、必要だね……」
冷暖房という事は機械化何かである可能性が高いがそれでは先ほどのお菓子という仮定は見事に崩れてしまう。
いや、しかしひょっとしたらお菓子のオマケなのかもしれない。最近のオマケは手の込んだ物だって増えてきている。
冷暖房というのは暖かくなったり冷たくなるおまけか何かなのだろう。少し苦しい所もあるが……。
「それで、オレンジが言うにはやっぱり3日で大きくなるものですからね。小屋も必要だし」
「こ、小屋……!?」
「えぇ、小屋が手ごろだなぁと思いまして」
「み……3日で大きくなるんだっけ……?その……トンピャラポンは」
「え?」
グリーンが不思議そうな顔をしてホランを見た。
ホランは返事を聞く前にさっさとメモにいろいろと適当な事を綴った。
「そ、それより他の隊員はなんていってるんだい?」
「えーと。オレンジは時速80キロ物が希望。OFFレンボックスの包装に使いやすいのがピンクで……」
「あ、あぁ……」
「ピーターは、キャラメル味。ライトブルーがそれに反応してサイダー味を」
「あぁ……あぁ……あぁ……」
「そしてですね~。やっぱり雪解け水で3年くらい透かした物が手ごろかと」
「あぁ!あぁ!あぁ!あぁ!あぁ!」
ホランが机をバシバシたたき始めたのを見てグリーンがホランの顔を覗き込む。
「あの。ど、どうかしました?」
ホランは青白い顔をしてソファから立ち上がった。
「す、すまない……グリーン。ちょっと……忘れ物があるからとってくるよ」
「あ、はい……」
フラフラした足取りでホランは花屋へと向った。
とりあえず、花屋に帰りに近くのネット喫茶などへ行って詳しく調べればいい。
「いらっしゃいませ」
「バラの花を……いつもの数で」
花屋の側にある書店で調べるか、それとも少しい遠いが会社へ戻るか。
あまり長い間本部に帰らないのも怪しまれる。ホランの頭は混乱してきていた。
「お客様」
「え、な、なんだ?」
「あの、現在キャンペーンを実施しておりまして、粗品をお付けいたしましょうか?」
「あ、あぁ……かまわない」
「そうですか……では……トンピャラポンでよろしいですね?」

まただ……とホランは思った。そう思った瞬間なにか体中の力が抜けて行った。
気が付けば空が見えた。その側を通り過ぎていく聞き覚えのある声が耳に残ってなかなか離れなかった。
「だから言ったのに……トンピャラポンにはかかわらない方がいいよ……ね」
第3話『ボスオオカミ再び!』
ここまで来て、ふとあの方のことが思い出されるようになったのはつい先日のことである。
ふとオオカミ軍団の中から次第に声があがってきていたのだ。それに伴い長までもがやっと彼の存在を思い出した。
「ボスオオカミかぁ……」
今の今まですっかり忘れていた彼。
ボス代理という地位すら忘れて完全にボスの座だと思い込んでいたタイガにとっていまさら旧ボスを思い出されても困ってしまうのである。
しかし、こちらが何もしなかったわけではない。向こう側から回復を知らせる便りすら一通もよこさないのはいささか不思議に思っていた。
と、いうわけで……。
今回、ボス代理であるタイガくんとホランくんの2人がボスオオカミの現状を調べにボスの故郷へと向かったのであった。
タイガは最初あまり乗り気ではなかった為、旅費代もかねてホランに付き添ってもらうこととなった。
野宿をしなくていいわけだからタイガもしぶしぶ承諾した。
と、ここまで話したところで2人はすでに駅の前。
1年以上前ここでボスオオカミを見送ったのが最初で最後の出会い。ホランはボスオオカミの顔すらみたことない為特に期待も不安ももたない。
「……で、ここから何処へ行くんだ?」
駅の前で地図を見ながらオロオロしているタイガの後ろでホランが呟いた。
「ちょ、ちょっと待てよ……?えーと……こっちが北だよなぁ……?」
「オレの覚えている限りキミは北を既に17回も確認しているぞ。オレに見せてみろ」
ホランが地図を見ようとタイガに近づくとタイガはキッと睨みつけて地図を見せないように地図を閉じた。
「うるさいっ!文句があったら勝手に一人で行けよっ!」
「キミが野宿をそうしてもしたいのなら一人で行くが?」
「……くそぉ。えーと北がこっちだよな?」
「……18回だ」
そして何分かが経過した頃、ようやくタイガが北を理解しボスの実家へと歩き始めた。
道を歩いていくに連れ民家は少なくなり畑や田んぼが増えていく。タイガもホランも思った以上のど田舎でだんだん心配になってきた。
「……ホテルか、最低でも民宿があればいいな……」
「オレはTVが見えれば何処でもいいー……」
タイガは祈るような気持ちでこれからまだまだ歩いていく道を見た。
──長い長い一本道。本当にこの先に人、いやオオカミすらいるのか不安になってくるほど何もない道だ。
しかし、そう思った矢先だんだん道の真ん中に茶色い物がポツンと落ちているのが見えた。
自動販売機か何かかと思い次第に歩いていくとそれはどうやら人のようだった。
「オイ、ホラン。人がいるぜ」
「あぁ……そうだな……オオカミそっくりだ」
「あぁ、そうだな……ってオイ!ひょっとしてボスオオカミじゃないか!?」
よーく目を凝らしてみてみると確かにオオカミらしき男がこちらの方へ歩いているのが見えた。
慌ててホランはタイガから地図を奪い取って位置を確認するとどうやらボスオオカミの実家のすぐ近くの道を歩いていたようである。
「オーーーーーイ!!!ボスーーーー!!」
タイガの声に気づいたのかボスオオカミもこちらに手を振った。
実に1年と半年強ぶりの感動の再会である。
「まぁ、あがれ」
ボスオオカミの実家は田舎でよく見る古いタイプの家で3人は縁側から中に入った。
カビ臭いというか古い家に良くある条件の全てをこの家は網羅していた。庭では何故かニワトリが数羽右往左往している。
「お茶でも飲んでゆっくりしろ。遠路はるばるご苦労だったな」
「いや~♪オレもやっぱりボスの代理だからな!部下に行かせる訳には行かないだろ」
「……フン。嫌がってたくせに良く言うな」
お茶をすすりながらホランはボスを見た。見た感じはオオカミとほぼ変わらないが確かになにかボスらしいオーラが出ていて少し納得できた。
しかし、どうしてこんな人がタイガなんぞに代理を任せたのか不思議でならなかった。
すると、こちらの視線に気づいたのかボスがホランを見た。
「ん。何だ?俺に何か……?えーと……」
「……ホランだ」
「ホラン……か。話は聞いているぞ。これからも迷惑をかけると思うが部下をよろしく頼む」
少し拍子抜けしてしまったが部下思いの所は少し感心したホランだった。すると次はタイガがボスの体をマジマジと見始めた。
「……ところで、ハゲは治ったか?」
「ハゲと言うな。円形脱毛症と言え」
「そ、そんなことよりも……治ったのか?治っていないのか!?」
心配そうにタイガが尋ねた。
「そうだなぁ……俺も田舎に帰ってからずいぶん落ち着いたしなぁ」
ボスは庭のニワトリを見た。
数羽のニワトリが縁側に上ってあちこち歩き回っていた。そこへ近所の人らしき人がやってきてなにやら入ったカゴを縁側の方へそっと置いた。
「畑で取れた野菜置いとくかんね。……おやまぁ、お孫さんかぇ」
「いや、親戚みたいなもんです」
「ほぉ……ずいぶんハイカラ色をした子をじゃねぇ。僕、飴玉いるかい?」
タイガが少しムッとして飴玉を手から奪い取った。
「(腹を立てているのに何故あめを食うんだこいつは……)」
「美味しいかい?」
「……フ、フン!貧乏臭ぇ味だな」
「おぉ、そうかいそうかい。じゃぁそっちの僕にもあげようね」
ホランも飴玉を受け取って口に含もうとしたが少し子供っぽい気がして飴玉を再び包み。
「……後で頂く事にします」
「はいはい。それじゃぁ野菜ここにおいておくから」
ニワトリがトマトを突いていたのを払ってボスはカゴを取って冷蔵庫に入れ始めた。
「……まったくオレを誰だと思ってるんだ。強い虎のタイガ様に向って飴玉なんてよ」
「なら何故食うんだ」
「ぇ。だって……くれるんだから貰っとかないとさぁ?」
素で不思議そうな顔をするタイガをみてホランは彼自身のプライドのいい加減差に少々あきれ返った。
その隙にタイガがホランの飴玉をこっそり盗って口に含んだ。
「タイガ!勝手に人のものを盗るな!」
「だってほしいんだも~ん♪欲しい物は盗んでも奪えってボスに教わったしー♪」
「……貧乏臭い味だといってなかったか?」
「でもマズイとは言ってないぜ~♪」
『ボーン。ボーン。ボーン。ボーン。ボーン』
柱時計の音でホランは大事なことを思い出した。既にもう5時。早く旅館でもなんでも予約をしておかなくてはならなかった。
「早く、泊まる所を探さないとな……」
「俺の家に泊まってもいいんだぞ?」
ちょうど野菜をしまい終えボスは帰って来ていた。
「それでは迷惑をかけてしまうからな……この辺に民宿や旅館はないのか?」
「そうだな……この辺には民宿も旅館もないなぁ……」
「残念だったな……オレの財布としてついてきたのによぉ。オレはボスの所に泊まるぜ」
ボスの腕をギュッと掴んでタイガはホランに向って舌を出す。ボスがいるせいか少しタイガも子供っぽくなってしまっているようだ。
「だが、オレの家の裏に豪華国際ホテルがあるからそちらに泊まるといい」
「なにーーーーっ!!」
窓を開けてみると確かに物凄く大きな国際ホテルがボスオオカミの家の真裏にでーんと建っていた。
「では、オレはそちらへ泊まるとしよう。タイガはいいんだったよな?」
「……ふ、フン!オレは元々こっちに泊まるはずだったんだからな……ケッ!」
窓からホランがホテルに入っていくのが見える。
「ボス。この家テレビはあるよなぁ……?」
「あるぞ。白黒だが」
今更ホランに頼むわけにも行かずしかたなくタイガはボスと夜をすごすことになった。
晩御飯はなにやら豚汁みたいな野菜のゴロゴロしている汁物がメイン。

「(はーあ。魚が食べてぇ……。肉でもいい)」
「……タイガ。正直オオカミ達はどうだ?」
急に箸をおいてボスはタイガに詰め寄った。
「え、どう……って?」
「お前もいろいろ大変だろう……。俺がボス代理としていろいろ悪事を教え込んだとはいえ」
「大丈夫大丈夫!ちゃんとボスに言われたとおり悪いこともやってる♪この前も宝石店を襲ったんだぜ……オレは指示しただけだけど」
実際、その後OFFレンにボコボコにされたのだがボスにそれはいえなかった。ボスも薄々は感じていたのだが。
「オレは一応ボスの事はちょっとは尊敬してるんだぜ。悪い事一杯教えてくれたし」
「そうかそうか……。じゃぁ、ボス代理は楽しいか?」
「ん~……どうかなぁ……。オレはボスやってて……楽しい♪」
「そうか……安心安心。よし、今日はもう寝るか」
ボスは食器を流しに放り込むと早くも布団を敷き始める。
タイガも慌てて汁物を流し込むとリュックからオオカミから預かった手紙の束を取り出した
出発する間際にオオカミ達から手渡されてたのをすっかり忘れていたのだった。
「これ!オオカミ達から」
「これはまた……ずいぶんと多いな……今日じゃ読みきれないぞ……」
ボスは手紙の束を枕元に置いて懐かしそうにそれを撫でる。
『ボーン。ボーン。ボーン。ボーン。ボーン。ボーン。ボーン。ボーン。ボーン。ボーン。ボーン』
時計が11時を指していた。
ボスが電気を消して、布団にもぐりこんだ。タイガも蝶ネクタイを外して布団にもぐるが眠れなかった。
「なぁ、ボス。起きてるか……?」
起きてなかったらどうしようか少しタイガは不安になる。
「んー?」
「オレも……そっち行って良い……かな……?」
「どうした?怖くなったのか?」
「ちっ!違う!その……ちょっと寒いんだ!」
タイガはボスのとなりに布団を敷きなおした。
ボスがそっちを見ようとすると少しだけタイガの手がボスの布団に入っていた。
「タイガ……。俺の方にはみ出してるぞ」
「……ちょっとくらいいいだろ」
「まさかお前、俺に甘えたいんじゃないんだろうな……?」
「べ、別に~。誰が男になんか……」
タイガは布団をすっぽり被って黙ってしまった。ボスは素直じゃない所が我が子のように可愛く思えてしまった。
「タイガ……実はお前にいたいことがあるんだ……」
「?」
「実はお前は……」
「オレが……何?」
『ボーン。ボーン。ボーン。ボーン。ボーン。ボーン。ボーン。ボーン。ボーン。ボーン。ボーン。ボーーン』
既に時計は12時を指していた。ボスは何か言いかけて言うのをやめてしまった。
「なんだよ~!気になるじゃんかー!」
「い、いや……間違いだ間違い。実はな。オレももうすぐボスに復帰できると思うんだ」
「え!?」
「円形脱毛症も治ったし……そろそろ復帰できるかなぁ……ってさ」
「そ、そう……なんだ……」
「ま、そういうことだ!おやすみ。子供は早く寝ろよ」
タイガは急に嬉しい反面少しだけ怖くなってしまった。
ボス代理という立場だけにザコオオカミが尽くしてくれているわけだが、ボスが帰れば当然『ボス代理』の立場から外れてしまう事になる。
そうすればオオカミの態度が急変し、ひょっとしたら用済みになって……。
「(……)」
ボスの方からいびきが聞こえてきた。タイガは決断し、頭の中でいろいろと腹の立つ言葉を繰り返した。
「(タイガって猫じゃないんですかねー?)」
「(タイガ様って生ゴミの日に出すしか処理方法がないような気がするんすよねー)」
「(虎とかいいながら猫っぽいですよ)」
だんだんイライラしてきて急に意識がプツリと切れたのを最後にタイガは何も覚えていなかった。
「ギィャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」
──次の日。
「タイガ様~♪ボスの様子はどうでしたか?」
「ん~。もうほぼ完治してたんだがな~。どうやら昨日暴漢に襲われたらしいんだ」
「えっ!?本当ですか」
「怪我は大した事ないんだがな~……精神的ショックで毛が全部抜けたらしいぜ」
「そ、そんなぁ……」
「だから、また当分復帰は出来ないそうだから!オレも当分はボス代理だな~♪」
タイガは嬉しそうに部屋に帰って行ったのをホランは見た。
また、昨日タイガの唸り声とボスの悲鳴もホランは聞いていたりする。
「ボスお可哀想に……」
「まぁ、タイガ様が確認してきてくれただけよかったじゃないか」
「あいつに様付けなんかするな」
ホランが呆れた顔でオオカミを見た。
「は?と申しますと……?」
小さな笑い声が聞こえてくるタイガの部屋へ、ホランは呆れた顔を向けた。
「……あいつほどの悪魔は見たことがない」