第39話
『12.24の真実』
(挿絵:ピーターパン隊員)
「クッリスマス~♪クッリスマス~♪」
本日、OFFレンジャーの本部には一般家庭並みのクリスマスツリーが3本も飾られていた。
3本に特に理由は無いのだが、今までのクリスマスよりももっと豪華に行きたいという趣向の下こうなったのだ。
「今日も来るかな~。あの人」
「マジックてるてるさんですか~?」
ピンクが嬉しそうにテーブルクロスをかける。真っ白なテーブルクロスだ。
てるてるの肌(?)の色と同じく汚れの無い真っ白な布。梅雨の時期にも一度会ったが、やはり去年同様クリスマスに会うのが一番いい。
「今年は、タイガくんのお誘いは無いんですか?ピンク」
「意地悪ですね……グリーン」
グリーンがイヤミっぽく言うとピンクは少し機嫌を悪そうにして別のテーブルクロスをかけ始める綺麗にかけると、ピンクが言葉を続ける。
「でも、別なお誘いならあると思いますよ」
「別な誘い……?」
ピンクは後ろを指差した。
振り返ると後ろにはバラの花束を持ったホランが恥かしそうに横を向いて立っていた。
「(ゲッ!?)」
「や、やぁ、グリーン♪……こんな所であうなんて……奇遇だね♪」
「私はずーっとここにいましたが……?」
「じゃぁ……クリマスの奇跡って奴かな……♪」
ホランはそういうと花束と共に2枚のチケットをグリーンに差し出した。
チケットには『クラシックコンサート』という大きな文字が見える
それを2,3度グリーンの前でチラつかせて気づかせようとしたのだがグリーンは会えてそれを見ないようにする。
「……グリーン♪クリスマスコンサートっていう催しがあるらしんだけど……行かないかい?」
「…………用事はそれだけですか?」
「……フッフッフ」
そんなグリーンの言葉を予測してか、ホランは新たにもう一枚別なものを取り出す。
「もちろん。夜景の素敵なレストランも予約済みさ♪今日はクリスマスイブだからとびきり綺麗だよ♪」
「悪いですけど……私は今晩ピンクと出かける約束がありまして」
そういってチラッと横目でピンクを見つめるとピンクは不思議そうな顔で。
「え、今晩は隊員みんなでクリスマスパーティーの予定じゃ……?」
「らしいよグリーン……。今夜のキミはオレの物さ♪」
「ななななな、何とおっしゃるうさぎさんですよピンク!忘れたんですか!?」
嘘でも約束があると言えば、良い物をピンクは気づかずにバカ正直に答えていく。
「グリーン♪照れなくてもいいんだよ。大丈夫。今晩は優しくするから……♪」
「私にはどうもその言葉が正しい意味に取れないんですけど……(汗)」
「フフフ。今日の計画は完璧さ……♪二人で互いに愛を語ろうじゃないか……」
《ホランくんの妄想》
夜景の綺麗なレストラン。窓辺の特等席に突くホランとグリーン。ワイングラスを片手にホランはグリーンの顔を見る。
「乾杯しようか。グリーン」
「そうですね……。でも何に?」
「クリスマスイブの夜に……そして……」
「そして?」
「キミとオレの……永遠の愛に♪」
グリーンも微笑んでワイングラスを片手に持つ。
「乾杯♪」
カチンと透き通った音がその場に響く。グリーンがワインを飲むのを見届け、後からホランもワインを飲む。
「さてと、プレゼントをあげないといけないね」
「プレゼント?」
「プレゼントは2つ用意してあるんだ……♪気に入ってくれるといいんだけど」
そう言ってホランは2つのプレゼントの小さな箱をテーブルの上に置くグリーンはそのプレゼントを見て受け取れないといった風に首を振る。
「そんな、私はホランがいてくれるだけでいいのに……そんな事まで」
「遠慮しなくていいんだ。プレゼントは気持ちの入れ物なんだから」
「じゃ、じゃぁ……お言葉に甘えて……」
プレゼントを明けると小さな棒状の物が3本入っていた。
よく見るとクレヨンのような物で、全部黒色をしていた。
「これは……?」
「ドウランだよ♪……これでいつでもオレとお揃いの虎柄になれるからね」
「ほ、ホラン……」
グリーンは急いでドウランの包みを開け、一本それを取り出すと鏡も見ずに顔や腕を虎柄に塗っていく。
とても綺麗な線とは言えず全部曲がっているがニコッと笑ったその笑顔がなんともホランには嬉しかった。
「今日はずーーっとこの姿でいます♪ありがとうホラン」
「いっ……いや……も、もう一つの包みも開けてもらえるかな……?(/////)」
グリーンが別の箱を開けるとそこには一枚の紙切れが入ってあった。
「……自室招待券……?」
「今日は……二人で……お、オレの部屋に……その……」
「ホラン……」
グリーンの目には嬉し泣きか、大粒の涙が貯まっていた。グリーンはその招待券をギュッと握り締めると小さな声で呟いた。
「ホラン……今日は……私を帰さないで下さい……」
「うん……ずっと二人で……♪」
「ハイハイハイハイ!変な想像しないで下さいよ。ホラン」
「む。そ、そうだねグリーン……ずっと二人でいようね♪」
「違うでしょう!クリスマスパーティーするんですから帰ってくださいよ!」
グリーンは荒々しくホランを突き飛ばす。
ホランは側の壁に背中を当て、すこし悲しそうに下を向く。
「で、でも……キミの為に色々用意したんだよ……?」
「じゃぁ、さっきの妄想に出てきたドウランなら戴きましょう。パーティーで使わせていただきます」
有無を言わさずグリーンはホランの持っているプレゼントの片方を雑に取り上げる。
「しょ、招待券は……?」
「リサイクルボックスにでも持って行ったらどうですか?」
「え、じゃぁさ……夜景の素敵なレストランや、コンサートは……?」
「他の人と行けばいいでしょう?」
「だ、誰と!?グリーン以外の人といくなんて考えられない!」
そういってホランはグリーンの方をガシッと掴んでじっと顔を見つめる。
思わず顔の近さに驚いたグリーンだが、なんと言おうとも今年はパーティーをしたいのだ。
「グリーン……キミは……オレと一緒に過ごしてくれるよね……?」
そう言うとだんだんホランの目が赤くなっていく。彼、お得意の催眠術である。
「(あ、あれ……?なんだか……今日はホランと一緒に一夜を過ごしたくなってきた……ような)」
「どうするんだいグリーン……?」
「あーそのーえーと……ぅぅ……今日は……ほ、ホランと……」
突然グリーンを腕をイエローがグイッと引っ張る。
いつまでたっても準備が終らないのでいい加減苛立っているようである。2,3回顔を叩くとグリーンがやっと正気になる。
「ホラ、ホランは帰ってくださいよ。いっときますが駄洒落じゃぁないですよ」
「で、でも……そうだ!グリーンがこないのならオレは損害賠償を請求するぞ!」
「はぁ?」
イエローは深くため息をつくと思いっきり皮肉を込めて聞き返した。そこへ間髪をいれずにホランはベラベラと喋る。
「コンサートのチケットもレストランも後、夜にも色々しようと計画したんだぞ!」
「フンフン。そうなんですか」
「訴訟するぞ。訴訟!……グリーンがくれば取り消すぞ!」
クリスマスだという事もあってかいつもより強気になっているためなかなか引こうとしない。仕方ないので、最終手段を使うしかない。
「じゃぁ、代わりのものを持ってきますからそれで我慢してください」
「か、代わりのもの……?」
イエローが地下室へと降りていく。カンカンカンと階段を降りる音がしなくなってから数分。
再び階段を登ってきた時にはイエローの手には縄があった。その縄をずーっと辿って行くと一人にたどり着いた。
「ハイ、さっき仕留めたタイガくんです。彼で手を打って頂けません?」
そういえばさっき玄関の方で何かうるさかったなぁとグリーンは思い返した
多分女子を誘いに来てイエローの逆鱗に何か知れ触れてこうなったのだろうとグリーンは推理した。
「ば、バカ言え!オレが何故タイガとクリスマス・イブを過ごさねばならないんだ!」
「目を回していますけどじきに起きると思いますから」
「人の話を聞け!」
首元(首元!?)を掴もうとするホランの手を振り払ってイエローは耳元で囁いた。
「ホランくんは本当はタイガくんが好きなんでしたよね……?」
「ば、馬鹿な!オレは、タイガなど……」
「でもって、グリーンが嫌いなんでしたよね……?」
「え、そ、……そうだったかな……」
ホランの様子が急変する。
イエローがどんな術を使ったのか知らないがホランはタイガを見てうっとりしているのだけは解った。
「それで、今日はどうなさるんですか?」
「決まってるじゃないか……タイガと一緒にクリスマスを過ごすのさっ!」
「あのー……一体……」
「よるなグリーンっ!タイガに近づくなっ!」
グリーンの手を軽く叩いてホランはタイガに近寄った。
あんなに嫌っていたタイガに嬉しそうにほお擦りしている。
「イエロー……あれは一体……?」
「さっき催眠術中にこっそり鏡で。ま、彼は自分で自分を操っているわけですよ」
「へぇ……。じゃぁ」
『夢にまで見ていた平和なクリスマス』
「……が、ついに味わえるんですね?」
「えぇ、そういうことです。……だからとっとと準備手伝ってください」
イエローはニッコリしながら買出しの準備をするためのメモを渡す。
さすが、粗品だけあって書き味が抜群(当社比)細かな字で物凄い数の品物が書かれている
タイガもホランも本部から出て行ったようだし、早速商品を買い求めなくてはっ!グリーンの意気込みも1,5割増しだ。
「むにゃむにゃ……イエローちゃん……」
「目覚めたかい?タイガ♪」
全身に悪寒が走ったタイガは眠気すら吹き飛んで起き上がった。
見知らぬ場所にいるようだが、よくよく見るとどうやら車の中にいることがわかった。
ふかふかなシートはタクシーのような真っ白いカバーがかけてあり、座席の前にはモニターやら見にドリンクサーバーまで揃えている。
「こ、ここは一体……?」
「タイガ♪これから何処へ行きたい?どこでもいいんだよ」
声のした方向を見るとシートと同じ真っ白い体に黒い模様。上に行くにつれ少し赤みが増しているホランが座っていた。
どうやら、ホラン専用の車のようだ。運転手も一応いるようだし。
それよりも、ホランはいつもの冷たくあしらうような目ではなく、心のそこから好意を持っているような目でタイガを見ていたのが気になった。
タイガの寒気も1,5割増しだ。
「(な、何故だ!?何故オレが……ホランの車に?……っていうかいつもと様子が違……)」
「タイガ。まずは映画にするかい?レストランが良いかい?それとも……オレに」
「わ、わかった!わかったからちょっと待て!」
ただならない雰囲気にタイガは恐怖さえ感じた。
あれほど敵意を抱いていたホランからこのように好意というより愛情までも感じられると言うのは異常事態なのだ。
なにか企んでいるのかもしれないと考えはしたが演技でここまでするものではないことがタイガには良くわかっていた
白猫が赤猫になるのはちょっとやそっとではできるものではないのだから。
「(罠かもしれないなぁ……。い、一応用心して様子を見てみるか)」
「タイガ。どうするんだい?」
「え、えーと……じゃぁ、映画がいいな。……ちゃんとしたヤツだぞホモ映画とか見せるなよ」
「わかってるよ♪」
ホランがタイガの手を優しく握る。嫌なオーラを感じずにはいられなかった
「こんにちわー♪半年振りですねー」
ポンッ!という音と共に真っ黒なコートに身を包んだてるてる坊主が現れた。
彼の名はマジックてるてる。毎年世界中を駆け回り見た感じかわいそうな人の願いをかなえているのだ。
日本に来るのはちょうどクリスマスの時期。6月にも一度来た事があるがここではあえて省くことにした。
「てるてるさんですー」
真っ先にシェンナが気づくとそれまで準備に追われていた隊員たちもぞろぞろと集まってくる。
相変わらずほとんどの隊員に変化はみられない。もちろんてるてるも。
「今回はどのような方を助けてるんですかー?」
「田舎でほそぼそと暮らしている青年ですよ~。いや~これがまた不幸を絵に描いたような奴でしてね~」
「そ、そんなことよりも、てるてるさんのコート新調しました?」
「あ、わかりましたかこれは……」
「てるてるさんこんにちわですー」
「あぁ、はい。こんにちわ」
「今回はどのようなご用件で?」
「えーとですね……」
「今日パーティーするんですよいかがですか?」
「あぁ……あのー……」
「てるてるさん!貯金あげますから俺に強大な力を……」
『あぁ、もう!静粛にっ!!』
マシンガンの如く次々と質問攻めにされては叶わないと、てるてるはステッキを軽く引っ張った。
キラキラした光と同時に隊員の口はチャックのように端から端へとしまっていく。
「お一人ずつ話してくださいよ。私は徳川家康じゃないんですからね!……織田信長でしたか?」
真っ先にオレンジが手を上げた。
「はい、あなた」
「……ぶっちゃけ。てるてるさんって何から生まれたんですか?」
有無を言わさずてるてるはオレンジの口を再びチャックする。それと入れ替わりにピンクが手を上げる。
「はい、ピンクさん」
「今日は何の御用ですか?」
てるてるは『こういう質問だよ』というように笑顔でうんうんとうなづき答えた。
「一緒にサンタクロースに会いに行きましょう!という用で来ました」
どうだ凄いだろうと、てるてるが自信満々に答えるがどの隊員も呆れたような顔をしている。
チャックの魔法が解けたのかボソボソと隊員が話し始めた。
「今時サンタクロースぅ~?」
「おや……?日本にはサンタクロースの風習があるはずですが……?」
「あるけど……ねぇ?」
「どうしました?」
隊員がちらちらとシェンナを見ている。何かに気を使っているような目付きだ
『シェンナの夢を壊してはいけない』という心遣いなのだが当の本人は気づいていない様子。
「シェンナさんはサンタクロース知ってますよねー?」
てるてるがシェンナに聞いてみるとシェンナはフッと鼻で笑った。
「サンタクロースが実は親だって事シェンナだって知ってますよー。まったく呆れて失笑って感じですー」

「し、シェンナ!」
「そんなストレートに言わなくても……」
すっかりシェンナが高校生の乙女だと言う事をすっかり忘れていた事に隊員は気づいた。
そう、OFFレンジャー隊員のほとんどはすでに現実を知っている方々ばかりだったのである。
「フフ。みなさん。サンタがいないことを知っているのが現実を知っててカッコイイとか思ってるんじゃないですか?」
「はぁ?」
「サンタクロースは実際存在してるんですよ。ただ、日本には実際来てないですがね」
てるてるは呆れた様子で話し始めた。
「昔はサンタクロースは近所の方々にプレゼントを届ける優しいおじいさんでした。
所が世界中の子供にもプレゼントを配りたいと多角経営を始める事にしたんです。
1年に1つの国を増やす割合でね。それで日本も1940年代にプレゼント配達範囲内に入ったのです」
隊員の顔が胡散臭そうな顔つきになっていくのがわかる。
「じゃぁ、なんでサンタクロースは日本に来ないんですか?」
「……ちょうどクリスマスの時期でした。サンタクロースじきじきに日本の上空にやってきたときのことです。 日本はもちろんまだ戦時中。敵機と間違えられてサンタクロースのそりは追撃されてしまったのですよ。なんとか、ボランティアの方々の協力で他の国々にも贈れるようになった物のサンタさんは激怒したわけですよ。その後、戦争も終わり高度成長期。政府はこの事実を知りひたすら隠し通しました。そして毎年サンタクロースに謝罪の意味も込めて賠償金を払っているのです。これが、日本の借金の真実なのですよ」
「では、どうして、政府はサンタクロースが来ているかのように工作しているのですか?」
「先ほども申したとおり、サンタクロースを襲ったなんて事が知れれば世界大戦に突入してもおかしくありません。その為、政府はサンタクロースは空想上の人物だというように仕向ける事にしたのです。それに、イベント好きな日本人です。おもちゃの売り上げが飛躍的に延び経済効果も上がります。例えば、TVやアニメの中でサンタクロースを取り上げる。アニメのほとんどは結局サンタさんはいる的結論に落ち着いていますがそれをわざとらしく見せる事によって、『サンタを信じるのは子供』という考えを思春期の大人びたい子供たちに植え付けます。そうしてあなた方のような『サンタなんて信じてるの~?うわダッセー』世代を生み出してるのですよ」
「は、はぁ……」
「要するに、あなた方は政府の策略にまんまとはまっているのですよ。お解りですか~?」
喋りつかれたのかコートの中からドリンクを取り出し美味しそうに飲み干した。
隊員はいまいち信じきれてないようで曖昧な顔をしている。
「要するに、サンタが日本を嫌ってるって事でしょうか?」
「そうですねぇ……。計7発撃たれたと自伝にも書いていますから」
「で、そんなサンタさんに日本人の僕らを会わせて大丈夫ですか?」
「ノープロブレム!私、こう見えても結構人脈広いんですよ。サンタの家なんて顔パスですもん」
偽造されそうな顔のくせに自信満々にてるてるは語った。
「じゃ、行きましょうか」
早速有無を言わさずに魔法でそりを出し隊員を片っ端から上に載せる
……なんだか何かを忘れているような気もするがいちいち気にしていてはサンタクロースになど会いに行けない。
「(……でもちょっと気になるんだよねー……)」
ピンクはマータの表情が呆れ返っている様に見えた。
「じゃ、飛ばしますよ」
気が付けばそりはいつの間にか大阪上空。大通りを走っていく一人の影が見えた。
高級レストラン。何がどう『高級』なのかは解らないがとにかく高い事だけは大まかに解っている。
最後にこんな所で食事をしたのは盗んだ金で豪遊しようと思いついたとき以来だから半年以上も前だ。
「何を考えているんだい?」
夜景を見ているふりをしてなるべく会話をしないようにしていたのだが、ついに声をかけられてしまった。
しかし、だからといって声の方を向く事は出来ない。どうぜワインのように真っ赤な顔をした少年がうっとりしてこちらを見ているのに変わりないのだから。
「タイガ、せっかく2人きりなんだから……何か話をしようじゃないか」
「……」
だが、無視ばかりしていても逆に危険だ。
「……まさかタイガ……フフ。大丈夫だよホテルを予約してあるから。タイガも我慢の限界かな?」
……こうなるわけだ。
これが女性だったら納得したかもしれない。しかし相手は男。朝からずっとこの調子で付き合われてはたまらない。
罠かと思って油断しないように用心しても相手はまったく動じない。
まさか、本当にタイガのことを好きになったのかもしれないと思ってきた時、なんとも言いがたいもやもやした気持ちがあふれ出してきた。
「……何を企んでるんだ?」
今日で7回目のこの台詞もすでにため息混じりになっている。
「何を言ってるんだタイガ……♪ オレとキミの愛の証を今日まとめて贈っているだけさ♪」
「……グリーンはどうすんだ?」
「グリーンだって?フン。あんな嫌な奴の名前なんて忘れて料理を食べないか?」
『明らかに異常だ』何度も確認してわかっているはずなのに再確認しないではいられない
相手もかなりシツコイ。こうなったら本当にタイガのことをすきなのか試してやろうと決心した。
もし、できなかったらそれを理由に別れられるし、出来たら出来たで……まぁ、一応行ってみる事にした。
「そ、それよりさー。ホラン。オレは、実はオス猫が大嫌いなんだよな」
「何を言っているんだタイガ。オレもキミも虎じゃないか♪でもキミほどの虎はいないけどね♪」
「じゃぁ、オレの事が好きなら猫の真似をやれよ」
「え?」
「で、できないのか?お、オレの事嫌いなんだな!?」
ホランは険しい顔をしてしばし考え込んでいる。
お互い性格は違えど主軸は似たもの同士。要するにタイガの嫌な事がホランの嫌な事。
タイガの嫌な事と言えば猫扱いされる事なわけだから、ホランもそれが嫌いなのだ。
タイガを騙すために自分のプライドを捨てることができるはずがない!とタイガは踏んだのだった。
タイガだったらもう、外に出られないくらい屈辱的なこと。絶対出来るわけがない。
「ど、どうしても……やらなきゃだめなのかい?タイガ」
「あ、あぁ……やれよ」
「う、うーん……」
ホランも嫌そうな顔をしているがタイガがいるせいかあまり露骨にそれを表さない。
どうやら『脈あり』のようだ。
「早くやれよ~♪できないならオレはもう帰るし、一生絶好だからな!」
「……う、うむ……」
「出来ないのか?残念だなぁ~してくれたらオレなんでもしてやるのにさぁ~」
『なんでも』と口にしたときタイガは気づいた。
ホランの耳がピクピクとそのワードに反応していると言う事に。うつむいていた顔が上がるとその顔は決心したまさに『漢』の顔。
「わかったよ……タイガ!ね、猫の真似だな!」
予想外の状況になってしまった事にタイガは焦る。
「ほ、ほんとにするんだな!?さ、30分間だぞ!地面でごろごろしたりニャーニャー言うんだぞ!」
「……いいだろう」
「と、虎柄の模様も落とすんだぞ!?顔にネコヒゲとか、か、描けよな!?ねこじゃらしとかにも反応するんだぞ!?」
「……わかった」
ホランの決心した表情は依然変わることなく、早速ホランはハンカチで顔や体の模様を落とした。
そしてドウランを取り出して顔に3本づつヒゲを描いて地面に4つんばいになった。
「お、オイ……ホラン……」
時計の秒針がちょうど12を差した時ホランは人が変わったかのように猫の真似をし始めた。
最初は「出来たら笑ってやろう」という気持ちも少なからずあったのだがこの状況はさすがに笑う事ができなかった。
「ニャー。ニャー」
「お、オイ……やめろよぉ……お、オレが悪かったからさぁ……」
タイガの言葉にもホランは全く反応を示す事がなかった。
何かのスイッチが入っているとしか思えない
「ニャーニャー」
みるみるうちに時間は進む。それはタイガの顔が青ざめていくのと見事に比例していた。
「さ、ここですよ♪」
ソリといえどもやはりオープンな為ここまで来る最中に数人が凍死寸前だった様だが何とかサンタの家に到着した。
外はいたって普通の成りで絵本なんかで紹介されているのとほぼ同じと言っていいだろう。
ただ、絵本と少し違う所と言えばその家の裏に物凄く大きな工場が建っていることだろう。
「ささ。こちらですよぉ」
てるてるが工場の中へ入っていった。そばにはなにやら外国語で書いていたがさすがに隊員の誰も読めなかった。
『出て行けこの野郎!邪魔すんな!』
てるてるが丸められてドアから出てきた。どうやら顔パス失敗らしい。
雪のついた部分を手で払っててるてるは起き上がった。
「むぅ。困りましたねぇ。ちょっとインドへ行った時に肌を美白させすぎたでしょうか」
「いやいや、それは違うような気が……」
「では、サンタの部屋の直通させた方がいいでしょうかね」
てるてるはステッキを振ってどこかへワープしていった。外で待たされる方の身にも成ってほしい物なのだが……。
「うぅ……オイラ南国生まれ(?)だから寒さは……なんだか眠くなってきたぁ」
「わ、私は道産子ですから全然平気ですよ。えぇそりゃぁもう」
日本の北と南のカルチャーショックも軽くスルーされながら隊員はてるてるの帰りを待った。
『この腐れ外道が!』
今度は上の方の窓からきれいな弧を描いててるてるが落ちてきた。
「むぅ。やはりコートを新調したのが……」
「……ないない」
「なら、強行突破その2ですねっ!」
再びてるてるは大きくステッキを振って隊員ごとサンタのいる部屋へとワープした。
「おぉ、てるてるさんではないですか」
ワープするなり、サンタクロースらしき人がてるてるに気づいたようだった。
何故、サンタクロースの言葉がわかるのか云々はあえて割愛させていただく。
「やぁやぁ。サンタさん今日はプレゼントを持ってきたんですよ」
「おぉ、これはこれは子供達!よくきたね」
サンタクロースは隊員にも気づいたようでとりあえず一番前にいたオレンジの頭を撫でた。
見た感じは町中によくいる仮装のサンタと良く似ている為別段嬉しさを感じない。
「で、これはどこの国の子供なんだい?」
「日本ですよ」
『バシッ!!』
オレンジの頭をサンタクロースは思い切り叩いた。
「日本の子供か……。まったく。てるてるさんも意地悪ですぁ。ホッホッホ」
「な、なんでボクばかりこんな目に……」
「てるてるさん。この人ホントにサンタさんですか~?」
隊員の中でも冷静であるイエローとクリームが疑わしい目でサンタを見ている。
いかにも絵本そのままの格好なのでいささか出来すぎている印象を与えないまでもない。
「モノホンですよ」
てるてるもキッパリと応えるのだが2人の疑いはまだ晴れない。
「クリームも馬鹿ですねー。シェンナはサンタ信じてるのにー」
「あんたさっき失笑がどうとか言ってたでしょうが」
「シェンナはサンタさん好きですよー」
シェンナがサンタに近づこうとするが犬を追いやるようにシッシッ!とやられてしまう。
「ではですねー。そのサンタの信じられない部分を言ってみてくださいよ。答えてあげますから」
てるてるは2人の前に立って(?)そう言った。
「では、サンタクロースは聖ニコラウスという人がモデルだといわれていますけど?」
『その人のやり方にヒントを得てサンタクロースが経営を始めたんですよ』
「トナカイでどうやって空を飛ぶんですか?」
『そら飛ぶてるてる坊主がいるんですから空飛ぶトナカイだっていますよ』
「そうやって世界中の子供たちにプレゼントを配ってるんですか?」
『各国にボランティアの方々がいるんですよ。サンタは毎年一部の地域をローテーションで回っているのですよ全世界はさすがにね』
「煙突のない家庭とかはどうするんですか?」
『玄関からですね。主に、ボランティアの方々が家にプレゼントを送り届けています』
「でも、それじゃぁサンタクロースが配った事に鳴らないのでは?」
『全世界の玩具会社を統治しているのはサンタクロースなのですよ。ですから間接的にサンタのプレゼントな訳ですね』
「○ンダイやタ○ラやト○ーもですか?」
『えぇ』
2人の質問が急に止まった。
これ以上何を言っても仕方がないと思ったのか納得できたのかは知らないが兎に角2人はサンタだと素直に認めることにした。
「納得してくれるのはいいが……。ワシは日本人が嫌いでな。早く帰ってほしい」
「まぁまぁ、そんなこと言わずに。今日彼らをつれてきたのは友好を深めてもらおうと思ったからですよ」
「友好~?」
「追撃されて以来一度も日本に訪れず、日本のおもちゃ会社に投資しているだけに留まってはいけないでしょう?」
サンタクロースもてるてるの言葉に少しだけ納得しているようだった。意外とてるてるは人徳があるのかもしれない。
「フム……。もう50年以上たったしな。一度くらいは……行っても良いか。金ばかりもっても仕方がない」
「そうでしょうそうでしょう♪」
「だが、1つ条件がある」
「なんでしょう?」
サンタクロースは窓の外を指差す。
外には、──あまり雪で見えないが──トナカイ小屋らしき物がそびえ立っていた。いや、誇張した表現ではなくたしかに小屋がそびえたっているのだ。
「トナカイがどうかしましたか?」
「トナカイがあそこには十頭いるのだが、見事ワシのトナカイ8頭を連れてこられたら日本へ行こうじゃないか」
てるてるは「簡単簡単♪」という顔でサンタの話を聞いていたが、まだサンタの話は終ってなかった。
「だが……挑戦権を持つのはこの日本の子供たちだけだ」
「大丈夫ですよ。みなさんトナカイの名前なんて常識ですよねー♪」
「日本の子供がどれほどワシに詳しいか見せてもらおうじゃないか。てるてるさん手出ししてはいけませんぞ」
勝手にそんな成り行きで決められてしまった隊員は仕方なくトナカイ小屋に入ることにした。
先ほども行ったとおり小屋というよりマンションのような構造になっており一部屋に一頭のトナカイがいるという物の様だ。
ドアには名前が書いてあるからまず間違う事はない。
「えーと……トナカイの名前なんて知ってる?ピンク」
「えー。私は……そういうの……全然……」
「フッフッフ。シェンナ知ってますよー」
「困ったわねー。日本の子供たちを裏切る事になっちゃうし」
「シェンナ知ってるんですよー!」
シェンナが手をピンと上げて自信満々に答えたがっている。
気を使おうと隊員が何か言おうとしてもクリームが「いんですいいんです」と静止する。
シェンナもシェンナで当てられなくても自分から言えばいいのだが……。
「あ、そういえば、10頭中、8頭ですからね。確率は五分の4……まぁまぁの高さですよ」
「名前が一頭でもわかればいいのですが……携帯型PCもちょっと凍っちゃってて検索も出来ませんねぇ」
「真っ赤なお鼻のトナカイさんの名前はルドルフです!シェンナ物知りなんですよー」
ルドルフといっても某NHKの番組のキャラクター名ではない。
あの有名な赤鼻のトナカイの名前は確かにルドルフとして有名な話だ。
「ルドルフっと。シェンナも意外と役に立つんですねー」
「シェンナ偉いですよ。いい子いい子」
「もー。そんな褒められるとシェンナ調子に乗っちゃうですよー」
早速5階のルドルフの部屋に到着してトナカイを下へと引っ張ってくる。
ルドルフの世話はオレンジに任せて残る7頭を連れてくる事にした。しかし、もう既に当てはない。
「こうなったらやはりOFFレンボックスですね」
「出たっ!最近無かったですからね」
ブルーが早速ボックスを用意して思いっきり地面にたたきつけた。何かに当たってから十数秒しか制限時間は無い。
「ど、どうします?」
「そうしますって……さぁ?とりあえず……本物トナカイ探知機」
なんとも情けない煙と共に小さな小型の探知機が飛び出した。ピコンピコン!と本物のトナカイのいる部屋を点滅して示してくれる。
「えーと、1階のヴィクセン、コメット、2階のプランサー、ドンダー3階のキューピッド、ブリッツェン、ダッシャーです!」
探知機を持ったイエローの指示どおり、隊員はトナカイを下に連れてきた。
ちょうどいい頃を見計らってサンタクロースが小屋までやってきており、8頭をじっと見た。
「どうです!日本の子供もやればできるんですよ」
「……残念。ダンサーがいない。ルドルフは間違いだ」
サンタはルドルフを指差しながら厳しい顔で言った。
「だ、ダンサーですか!?踊り子がいたなんて……気づかなかった……」

「いやいや……そうじゃなくてだな。ルドルフは歌にあるだけでワシの直属のトナカイではない」
「え~!?」
「ま、残念だな。また来年まで待ちなさい。ま、来年は気が変わるかもしれないが」
サンタが指を小屋のほうへ指すとトナカイが自室へと帰っていく。
意外とこういうところはしつけられているんだなぁと妙な所で感心した。
しばらくその様子を見ていたがそれよりも大事なことがあった。
「そ、それよりも……シェンナプレゼントがほしいですー……」
「お、お願いしますサンタさん!一度で良いんです!」
背を向けるサンタに懇願してもサンタは心変わりした様子は無く深くため息をつくだけ。
「いいかい。キミ達。大事なのはワシにプレゼントをもらう事じゃないだろう」
「……?」
「プレゼントなど誰から貰っても同じだ。大事なのは目覚めるとにプレゼントがあるという喜びだと思わないかね?」
「……」
「まぁ、そういうことだ。……また気が向いたら来年きなさい」
サンタはそう言って工場へと帰って行った。
「あのおじさん何もっともらしいこと言ってるんだ?」
「さぁ……?」
「タイガ……素敵な夜景だね♪」
「あ、あぁ……そうだな……」
2人のいくついた先は豪華ホテルの最上階。大きな窓からは綺麗な夜景が見え、それが2人(片方?)のムードを引き立たせている。
「(あぁ……あの時なんでオレは……)」
「タイガ……?」
「なっ!なんだ!?」
ホランはタイガのほうを向いて目を閉じる。だいたいアニメやドラマではキスを求めてきているのだろうがさすがにそれはできない。
「……タイガ……。オレキミとここにいられて嬉しいよ」
「あ、っそう……(くそー。ホントならオレの横にいるのは女の子なのにぃ)」
「オレタイガが好きだってやっとわかったんだ。同じトラ同士仲良くやろうじゃないか」
ホランの手がタイガの顔に伸びる。
ずいぶんと色っぽい目付きでタイガを見る。突然の未経験な出来事にタイガの頭は混乱するばかり。
「(ななな……なんだ!?これはマジ告白か!?で、でも……ホランカッコイイといえば……って違うぞオレ! いや、でもホモは女性ホルモンが多いとかどうこう言ってたよなぁ……ってことは男っぽい女なのか?って違うってオレ!)」
「タイガ……」
「(あぁ、こいつは寄って来るしオレは訳わかんねぇし!!ウガァァァァァァ!!!)」
タイガのイライラが限界地を越えた瞬間タイガはホランに飛び掛った。
「た、タイガ……大胆だね♪」
「こうなったらヤケだぁぁぁ!!」
その時窓の向こうに小さな光が見えたのに2人は気づかなかった
隊員を乗せたソリは本部の側へと戻ってきた。
「さて、到着ですよ。お疲れ様でした。そしてこれは……サンタからです」
ソリの後ろの大きな袋からてるてるは小さな包みを隊員に渡した。
「『一応子供だから』ってことで戴いておきましたよ」
「あと、こっちは例のタイガくんへ。どこにいるかわかんないんで適当に送っておきましょう」
「サンタさんもニクい演出するんですねー」
てるてるはその後、ステッキを軽く空に向けてぐるぐる回した。少し経ってから空から光が降りてきたがだんだんそれは雪へと変わっていった。
「こっちは私からのプレゼントです。それでは良い聖夜を」
「えっ、てるてるさんもう帰っちゃうんですか……?」
「残念ですがまた来年ですね。ピンクさんもみなさんもお元気で」
てるてるがいなくなった後もまだ雪は降り続けていた。
雪に包まれた大阪。賑やかな町並みが少しだけ静かに見えた。
「さ!本部へ帰りましょうか」
手をつないだり寄り添ったりする隊員も出始めていた……。
そしてその後、彼らは酷く落ち込んだ隊長を慰めながら冷えた料理を頬張るのだった。