第40話
『ドキッ!虎だらけのお正月』
(挿絵:パープル隊員)
2005年元旦!OFFレンも結成2周年も迎えますます元気になっていく。ただ、イマイチ奮わないのがこちら側……。
「どういうことだっ!!」
モニターから怒鳴り声が響く。そのモニターを見つめながらオオカミとタイガは困っていた。

「タイガっ!貴様という奴はなんのためのボス代理だと思っておるのだ!」
「す、すいませんっ……!」
「後、オオカミっ!教育係は何をしていたのだ!」
「は、はぁ……」
モニターの向こうにいるのは久々に姿を見せた公共料金。
いままで何をしていたのかは知らないが今日になって急に連絡をよこしてきたのだった。
実際、2,3ヶ月に一度報告を送る程度だったのだが今年は向こうも気合が入っている。
「まったく……遊び呆けているボス代理とその部下。首にするところだぞ」
「も、申し訳ございません……今年こそはOFFレンジャーを倒せるようがんばります」
「たわけっ!そのOFFレンジャーがアジトに出入りし、しかも仲良くのほほんとした話を1年以上もかけてやっているとはっ!メルマガを見て驚いたわっ!」
公共料金の説教は止む事がなかった。しかし、何度かタイガとオオカミを叱り飛ばした後多少すっきりしたようで口調が落ち着いてきた。
「……で、タイガ。貴様は自分が何の為にそこにいるのか知っているんだろうな?」
「え……オレは……(な、何のためだ?)」
タイガは横のオオカミを軽く肘でつついた。
「(OFFレンを倒して、そのついでに世界征服ですよ)」
「えーと、OFFレンを押し倒して、世界征服!」
「アチャー……」
「馬鹿者っ!!そういう所だけ賢くなりおって!」
タイガの言葉にせっかく落ち着きを取り戻していた公共料金が再び怒りだした。
当のタイガはなにを間違ったかわかっていない。
「……まぁ、良い。今年から気持ちを入れ替えて頑張ってくれたらそれで良いのだ」
「お、お任せを!」
「今度の報告書は一週間後に送るようにな。早くアジト内で改革を進めたかすぐわかる」
「は、はっ!」
モニターが真っ暗になるとオオカミはタイガを小脇に抱えて急いでホールに向った。
ホールには既にアジト内でも有数の実力派が勢ぞろいしている。主に研究員が多いのだが。
「公共料金様はなんだって?」
「それが、かなりご立腹で……改革を進め、その結果を1週間後報告書にまとめて送れとのことだ」
「まぁ、現在の状況を診れば仕方がないな……」
オオカミはタイガを中央の座席に座らせるといっせいにそばの椅子に着席した。
「なぁ、お雑煮まだか?」
タイガの暢気な発言にオオカミは一切耳を傾けなかった。タイガがボス代理に就任してからと言うもの確かにまともな悪事をしたことはごくわずか。
「タイガ様。いい加減ボス代理としての自覚を持ってください」
「何?じかくってなんだ?」
「……要するに『ボス代理』らしい事をしてくださいと言う事です」
「ちゃんとやってるだろ。OFFレン本部に乗り込んだりとか女子隊員から情報を聞き出したりとかさぁ~」
実際行動をどうひいきめに見ても、女子隊員に会いに本部へ通っているとしか思えない。
「そうやってニコニコしながら本部へ行くから女子隊員にもなめられるんですよ」
「そうかなぁ……。そんな事するような子には見えないけどな~」
「タイガ様……本当に頼みますよ。やはりここはタイガ様から率先して何か事を起こさなければ」
「事ねぇ……」
タイガは自分の爪の汚れを取りながら曖昧に話を聞いている。
「……もっとやる気が出るような作戦だったらさぁ。オレも気が向くかもな~」
「気が向く作戦ですかぁ……例えば?」
「例えば?そうだなぁ……女の子とイチャイチャできたり……そういうの~」
「も、もっと他には……?」
「うーん……。女の子がオレの言う事なんでも聞くようになるとかぁ……」
オオカミ全員がタイガの意見を切り捨てて話を始めようと思った時、一人の研究員の脳裏に名案が浮かんだ。
「そうだ!それだ!OFFレンを仲間に引きずり込めば……」
「はぁ?そんな無理な事……」
「忘れたのか?あれがあったじゃないか」
「あぁ……オオカミドリンクだな」
「何々!?何だ!?オオカミドリンクって!」
さっきまでつまらなさそうにしていたタイガが急に食いついてきたのを横目に研究員はサンプルのドリンクを机の上に置いた。
「オオカミドリンクとは、飲んだものがオオカミになり我々の忠実な手下になるドリンクです」
「へー!」
「これをOFFレンに飲ませればオオカミ軍団も安泰だ」
「いい報告書が作れそうだな」
オオカミの口調にだんだんと熱がこもり始め、ああでもないこうでもないと騒ぎ出した。
しかし、タイガはイマイチ乗り気でない。
「なぁ。そのドリンク虎化とかできないのか~?」
「は?オオカミ専用ですが……」
「そうかぁ……虎化するんだったらオレももう少しやる気が出るんだけどなぁ~」
チラッとタイガは研究員を見る。
「……ホントーに、虎化ドリンクを造ればやる気が出るんでしょうね?」
サングラスの奥の目が疑わしい目付きでタイガを見る。
「…………多分な~」
「……わかりました。まず試作品を作ってみてから試してみましょう」
「あ、実験台ならオレが用意しとくから~♪」
研究員達はドタバタと部屋を出て行き早速ドリンクの改良に取り掛かった。
タイガは完成を楽しみに待ちながら電話を書けることにした。
「あ、もしもし?ピンクちゃん?ちょっとライトブルー呼んでくれるかなぁ?」
のどかなお正月。去年はみかんやら初夢やらいろいろあったけれど、今年は平和にお正月を過ごしている。
みんなコタツに入ってのほほんとTVを見たり眠ったり思い思いのお正月を過ごしている。
「いや~。今年はタイガもホランも尋ねてこないし」
「もう来てたりするけどね♪」
こたつの真横で頬を赤らめながらホランもやってきていた。
「出て行ってくださいよ……」
「静かにしてるから……このままいさせて……♪」
ホランが寄り添ってくるのをそっとよけながらグリーンはTVに目を移す。
なんといってもSP番組のこの多い事。それだけでも、この祝日が只者ではない事を再認識させてくれる。
「ただいま~」
さっきまで出かけていたライトブルーがロビーに帰って来た。
入り口の側でゲームをしているオレンジとグレーを書き分けながらグリーンの真横へと移動する。
しかし、なにやらライトブルーの様子がいつもと、いや、かなり違う事に気づく。
「どうしたんですか?ライトブルーその……虎柄は」
ライトブルーの顔から足にかけて全身虎柄になっている。心なしか表情もいつもより悪意に満ちているような気がしないでもない。
「え、ちょっと羽付きやってて……罰ゲームかな~? なかなか落ちないし」
「全身とは酷い罰ゲームもあったもんですね」
「そうなんだよねぇ。オイラも参っちゃって……」
グリーンの真横に座るとライトブルーチラチラと横目でグリーンを見ていた。
その逆方向も人が違うだけでやっていることは同じ。違うのは好意を持った見方をしているか否かと言う事。

「ね、ねぇ。グリーンのど渇かない?ジュース買ってきたんだけどさ」
ライトブルーがビニール袋に入ったたくさんの缶ジュースを机の上に置く。
コタツにずっと入っていたせいもあって喉が渇いたのか数人興味を持ったように机の上の缶ジュースを見ていた。
「(フッフッフ……タイガ様の言いつけどおりこれをOFFレンに飲ませれば……♪)」
話は1時間前にさかのぼる。
「よっ!ライトブルー。相変わらずエロビデオ見てるかー?」
「ちっ!違うってば……まだそんなこといってるなんてしつこいよ?」
「まぁまぁ♪以前はお前も子分だったわけだし固いこと言わない♪」
タイガはライトブルーを個室に招き入れると、椅子に座らせた。
どうも入ってきた当初からタイガのにやけた顔が気になった。
「それで……オイラに何の用?」
「……まぁそれは後でいいじゃん♪ ジュースでも飲めよ」
タイガはレモンのような色をしたジュースがコップに注ぎ、ライトブルーに差し出した。
ライトブルーは落ち着かない様子でそれを飲み一息ついた。
「……なんともないか?」
じろじろとライトブルーの顔を見ながらタイガは聞いた。
「は?何が? 別になんとも……ってあれ?なんか……変な気分に……」
ライトブルーはフラフラと椅子から崩れ落ち地面に手を突いた。
失敗かとタイガと監視カメラで見ているオオカミが心配しながらその様子を見ていると、ライトブルーの体にうっすらと虎柄が浮き出てきた。
だんだんその虎柄が濃くなっていき2,3分するとその色は、はっきりした。
「……お、オーイ……ライトブルー……?」
虎柄が完全に現れるとライトブルーはゆっくり立ち上がって顔を上げた。
「え、えーと……お前はオオカミ軍団の一員ライトブルーだ。わかるよ……な?」
「……はい」
どうやら実験は成功。早速人数分のサンプルを持たせて本部に侵入しドリンクを飲ませてくるように命じた。
「おまかせください!OFFレン全員を仲間にしてやりますよ」
「あ、あぁ……まぁ、がんばってな」
……というわけでオオカミ軍団のスパイ的位置づけとなっているライトブルーなのであった。
「ライトブルー?これボクらも飲んでいい?」
そうこう回想しているうちにオレンジが缶ジュースを一本取り出して尋ねてきた。
まさに、飛んでジュースを取るオレンジかな。
「いいよいいよ。みんなも遠慮しないで飲んだら良いよ」
ライトブルーの言葉に他の触発されてみんなもにジュースの缶を取り始めた。
あっという間に一本を残して缶ジュースはみんなの手元に行きわり、そして飲んで行った。
「(フフフ……飲んでる飲んでる。楽な仕事だったな)」
安心したのも束の間、グリーンがまったくジュースに手をつけてなかった。
「……グリーンは飲まないの?美味しいよ?」
「あ、いえ……私はのど渇いてませんから」
「そ、そんなこと言わずに……せっかく買ってきたんだし……」
一人でもこの計画から外してしまうことはすなわちこの計画の終了を意味していた。
なんとしてでもグリーンにこのドリンクを飲まさなくてはならない。
「じゃぁ、冷蔵庫でも入れておきましょう。また後で頂く事にしますよ」
「そ、それじゃ駄目なんだって!オイラの計画が……」
「計画?」
「あ、いや、その……えーと……じゃぁ、ホランに口移しで貰えば?」
ライトブルーホランの顔が一気に真っ赤になる。
チラッと横目で『オレはそれでも良いよ』といった目つきになったのが見ないでもグリーンはわかった。
「わかりましたよ……飲めば良いんでしょう……飲めば」
グリーンがプルタブを開けて飲むのを確認してライトブルーはホッと胸をなでおろした。
これで全員に虎化ドリンクも飲ませ、作戦の成功は約束されたも同然。
「ねぇ、ライトブルー?オレにはくれないのかい?」
「えっ!?ホラン様……いや、ホランの分は持ってこなかったな……うん」
「じゃぁ、グリーンに分けてもらおうかな♪」
ホランはグリーンの缶を奪い取ってまだ飲みかけのジュースを口にした。
「あーっ!!」
「(夢にまで見た間接キス……♪)ん。このジュース結構美味しいな……なんかオレの好みだ」
そのままジュースとその他諸々を味わいながらあっという間にホランの手元には空き缶だけが残った。
ホランは満足そうだがライトブルーの方は予想外の事態に動揺を隠し切れない。しかも、そろそろ効果が現れて来る頃でもあった為彼の不安は計り知れない。
「……なんか変な気分だな……」
「う、うん……ちょっと……」
次々とジュースを飲んだ隊員に虎模様が現れてきた。
「なんだ!?なんだ!?だ、男子がみんな虎になってるー♪(//////)」
ホランも予想外の事態だったのか興奮しながら男子を見回している。
ホランには少量だったのか元々悪者な為かは知らないがどうやら効果は現れないようだった。
グリーンにもうっすら虎柄は現れ初めてきてはいるが問題は中身である。
「ぐ、グリーン……?えーと……キミはオオカミ軍団……だよね?」
「え?あ……は、はい……」
グリーンが不思議そうな顔で答えたのを見てライトブルーも一安心。
全員見も心もオオカミ軍団となったようである。早速持ってきていたトランシーバーでタイガに連絡を取る。
「あ、タイガ様ですか?たった今OFFレン虎化大作戦完了しました」『そうか!よしよし……所で……女子はどうだ?可愛いか?』
「は?えぇ、まぁ……オイラ的には可愛いと思いますよ」『よ、よし!今そっちへ行くから待ってろ!手を出すなよ!?』
通信を切ってから数分してバタバタと慌てている音が向こうから聞こえてきた。どうやら既に本部の近くまで来ていた様だ。
「女子は!?女子のみんなは何処だーーー!?」
乱暴にドアを開けタイガが飛び出してきた。その後を追って研究員が数名入ってきた。
「タイガ!?こ、この素晴らしい事態は何なんだ!?」
顔に赤みを残したままホランは入ってきたタイガに尋ねた。
「お、ホラン……だよな?ホワイトちゃんじゃないよなぁ……?」
「は?何を言っているんだ。……オレはホランだが?」
「……だよなだよな。っと、それよりも女子女子♪ 虎になったみんなはさぞ可愛いんだろうな~♪」
タイガはホランを押しのけるとそのまま奥へ進んみ、女子を探し始めた。
「タイガ様!お待ちしてました!女子はこちらですー」
タイガを女子のいる部屋へ案内するとなんどもドアノブを握っては辞め、握ってはやめとそわそわしていた。
そしてやっと決心がついたのか一気にドアを開けるとそこには虎化した女子がタイガの元へ集まっていた。
「タイガくんですー」
「待ってましたよタイガくん」
「早くアジトに帰りましょうか」
タイガの周りを女子が取り囲み笑顔でタイガを迎えた。巷にあふれている女の子がいっぱいのゲームのようだ。
そして研究員が2,3チェックを行いどうやら完全にドリンクの期待していた通りの効果がもたらされていたようだった。
「タイガ様!作戦は完璧ですよ!さっそく連れて帰って我らの戦力に加えましょう」
「さ、タイガ様!」
タイガは女子の中心でぼーっとしたまま動かなくなっていた。そして突如物凄い勢いで彼の鼻から大量の血が噴出し、床へと倒れこんだ。
「た、タイガ様!?お気を確かに」
「タイガ様には刺激が強すぎたか……?」
なんとも情けない姿ではあるが表情はホランを髣髴とさせるようなにやけ具合だった。
「というわけでして……」
アジトに帰ってくると男子隊員と共に勝手についてきたホランに研究員は簡単に説明した。
「フン。タイガにしては……なかなか素晴らしい作戦じゃないか……」
「多分タイガ様のことですから、女子にばかり目をいかせると思います。そこでよければホラン様にもご協力を」
「よければだと……?こんな話……断るオレではない!!」
「では、こちらへどうぞ」

研究員はホランを男子部屋に案内すると早速研究データを持って『報告書対策会議特別室』へと向った。
なんといっても期日は一週間。長いように思えても意外と短いこの期間に出来ればさらなることをやってみたいものだ。
「……どうだ?タイガ様は」
「……興奮状態が以前続いているようだが心配ない。ホラン様にもご協力いただいた」
「大丈夫か……?ホラン様もタイガ様同様かなり……その」
「まぁ、男子女子平等に統制が取れるということで3日ほど様子見の状況で続けようと思う」
あらかた現在の状況を報告書に書き込むと次に今後の予定を考えなければならなくなった。
何事も最初から大きな事を予定してはならない。できるだろうと言う範囲内からまずから考えるのだ。
「では、3日の様子見の間は何をする?」
「そうだな……まずはドリンクの効果が切れない間にだんだん悪人に移行させていこう」
「効果が切れるのはいつ頃だ?」
「そうだな……一応予想では2週間ほどは持つだろう」
「その間、連日洗脳教育を続け各部屋にも洗脳用電磁波を放射しておこう」
「では、次だな……」
次々とホワイトボードに案が書き込まれ、そして消され……オオカミたちの議論は続いた。
ホワイトボードの文字数が増えるたびに今までとは違う何か熱い物がオオカミたちの胸にともり始めた。
『できる!今の俺達なら……なんでも出来そうな気がする!』
……約2年以上お待たせいたしました。
ようやくオオカミたちの苦労が報われる時がやってきたようです。
……しかし、その一方でタイガもホランも思い思いに楽しんでいた。
部屋の中央にソファを置いて前後左右に女子を配置し夢にまで見たハーレム気分を味わっていた。
「にゃははーw やっぱ女の子と虎。オレの好きなものが一つになるっていいよなぁ……」
「タイガくん。ジュース飲む?」
「飲む飲むー♪」
ピンクから渡されたジュースから延びるストローをくわえながらタイガは自分の今居る状況を何度も確認してはそれを満喫していた。
何度でもジュースを飲んでも飽き足りないほど体の芯から熱くなっていくのが自分でもわかった。新年一日目からなんとも嬉しいお正月の過ごし方だ。
一方ホランのほうも男子共々よろしくやっていた。
タイガとは対照的にじつにつつましく男子を一列に並べさせてそれと向かい合いながら赤面していた。
「あ、あの……」
「しっ……黙って……」
男子の方も声をかけるわけにも行かずただただそんなホランの様子を見るより他ない。
「(困った事になりましたね……)」
グリーンが横に居たシルバーに小声で話しかけた。もうかれこれ30分もホランはもじもじしていたのだ。
「(まぁ、そうですが……ホラン様のことですし仕方ないでしょう)」
「(……はぁ。そうですか……)」
試しにシルバーの様子を伺ってみたがやはり完全にドリンクの作用が効いている様子。
グリーンはあの時仕方なく「はぁ」と答えたが実の所外見しか変わっておらず中身は元のままだった。
本来ならばホランに感謝するべき所なのだがジュースを飲む時の様子や今の状況を考えると感謝していいのかどうかさえ疑わしくなった。
「なんとかしてみんなを元に戻さなければ……でもどうやって……?」
考えられる方法は2つある。
①ドリンクの効果が消えるまで待つ。②なんとかしてOFFレンを戻す薬を作らせる
①の方は自分から事を起こさなくても大丈夫という利点がある反面いつ効果が切れるのかがわからないという欠点がある。
それに、本部に来ていた研究員の様子から今回の作戦はかなり力を入れているようでドリンクの効果が切れる前に再びドリンクを飲まそうとすることだってないとは言えずあまり理想的ではない。
となると残す方法は②だが、もし自分がドリンクの効果が現れてないと解ればお終い。さらにそう簡単に薬を作るような雰囲気ではない。非常に危険を伴う方法である。
「ねぇ。グリーン?キミはどう考えるんだい?」
……と、そこまで考えていた所でホラン達は何か離していたようで急に話題を振られて来た。
「え、な、なんでしょうか?ホラン」
キッ!と横に居た男子隊員たちがグリーンを睨んだ。どうやらホランに様をつけなかった事が睨まれた原因らしい。
「あ、えーと……なんでしょうか?ホラン様」
「……実はね。こうしてみんなオオカミ軍団に入ったことだし再び白虎隊を結成しようかななんて思ってるんだ」
「はぁ……」
「もちろん引き続きグリーンが隊長という事でオレの身の回りの世話とか……あ、いやお風呂はさすがに……うん。ハハ、グリーン……困ったなぁ」
ホランが妄想モードに突入したのを見届けてからグリーンはこれからの事を再び考える事にした。
白虎隊の隊長となればアジトの中で動きやすくなり情報の入手も安易。多分ホランに必要以上にベタベタされるだろうがまぁ、我慢できる範囲だった。
「ホラン様。先ほどの話ですが……」
「えっ!?な、なんだいグリーン」
「白虎隊の隊長任せていただけませんか?」
グリーンの言葉に喜びを隠し切れないよう様子でホランはグリーンの首に自分と同じ首輪をつけ、丸い玉の部分を指ではじいてニッコリと笑った。
「隊長就任祝いだよ これで……お揃いだね♪」
他の隊員からも拍手が起こった。
なんだか変な雰囲気の中早速ホランは隊長に命令を下した。
「じゃぁ、早速……一緒に寝ようかな……♪」
「えっ……嫌です」
翌日。隊員、オオカミ共々、とある部屋に集められた。
題目は『オオカミ軍団の一員としての心得』といういかにもな題目で話が進められた
研究員達が主に挨拶を数回繰り返し、長々といろんな機材を運び出しようやく本題に入った。
『えーテステス……。聞こえてますかー?』
「聞こえてまーす」
『えー、この度我らがオオカミ軍団へ入団ありがとうございます』
多数の研究員が小さな腕輪を一人ずつ隊員の座っている座席の前に置いて行った。
腕輪は全て黒い色をしておりなにやら小さな機械が埋め込まれていたのが見た感じ解った。
『えー。それは入団記念です。オオカミ軍団に入った証としてどうぞお付けになってください』
恐る恐る他の隊員のつけた様子を伺いながらグリーンは腕輪を手に取った。
「グリーンもつけなさい」
側に居たオオカミがいまだ腕輪をつけていないグリーンに気が付いていた。
少々ためらったがこれ以上怪しまれると危険なため腕輪をグリーンも装着した。
『……全員つけましたね。それでは、説明に移りたいと思います』
オオカミの後ろにある大きなモニターになにやらいろいろな図面が映し出され、それをステッキで事細かく説明を始めた。
『みなさんには正義の味方を辞めて貰い、悪者へとなっていただきます。そこでまずは初歩的な銀行強盗から始めてみましょう』
すると研究員オオカミの横にオオカミが並びその手にはいくつかの機械が持たされていた。
『えーまず……。右から女性にも使いやすい撹乱銃、金庫破りに最適な自動錠前……』
解りやすいように一人一人説明にあわせて機械を頭上に持ち上げた。
『では、次に詳しい使い方をお教えいたしましょう……』
2時間に及ぶ説明を延々と聞かされた隊員達はようやく部屋へと返された。
女子の部屋も男子の部屋もつまらなさそうにしているタイガとホランが居た以外変わりない。
「ねーねー♪オレ退屈だったよ。 みんなでなんかして遊ばない?」
「ごめんなさいタイガくん。逃走ルートの復習をしておかないといけないので」
「え?何?」
「近々銀行強盗をするんですー。だからシェンナたち忙しいんですよー!」
その会話を最後にタイガと女子の会話は途絶えてしまった。一方ホランの方も同様、男子が一生懸命に今回の説明で習った部分を復讐していた。
「ブルー♪ちょっとお願いが……」
「あー、ちょっと今立て込んでるんで」
「……ブラック……?」
「何か用?忙しいんだけど」

結局、誰からも相手にしてもらえなくなったホランの行き着く先はグリーンだった。
「グリーン……みんな忙しいみたいだね……」
「えぇ、そうですね……みんな早くオオカミ軍団の一員として認めてもらいたいんでしょう」
「そうか……まぁ、仲間になった事だから……ね」
「私も早くオオカミ軍団の一員として今度の銀行強盗は頑張らないと……」
と、そこまで言いかけてグリーンはふと気が付いた。自分の意志と反した言葉をしゃべっている事に。
考えられるは多分あの時つけた腕輪なのだろう。何か特別な装置で徐々にドリンクの効果が切れる前に洗脳を始めようと言う計画なのだろう。
「(このままでは近いうちに私も……仕方がありませんね)」
先ほどのグリーンの言葉に少々残念がっているホランを部屋の隅まで連れて来るとグリーンはOFFレンボックスをホランにそっと手渡した。
比較的タイガよりは利口でグリーンの言う事も多少聞いてくれるであろうホランならもしかしたら良いようにしてくれるかもしれない。
もし、洗脳されずにすんだら取り返せばいいだけの事。こういうときに限って一人用のボックスを持ってこなかったのだけが惜しまれる。
「ホラン様。いいですか?もし我々に何かあればすぐにこれを使って元のOFFレンジャーに戻してください」
「えっ!?そ、それは困る……せっかくみんな可愛くなったのに……」
「もしもの場合です!いいですね?ホラン様」
「……わ、わかった」
ホランの方は仕方なくボックスを受け取ったがホランのほうはグリーンたちを戻すつもりはこれっぽっちもなかった。
せっかく新年から最高の境遇。無駄にするわけには行かなかった。
翌日、仮設演習場にてOFFレンジャーは訓練の真っ最中。
グリーンの方もずいぶんと洗脳が進んでいるせいかごくたまに記憶が途切れ途切れになり始めていた。
完全な手先になる日がいよいよ近くなってきているようだ。
「……よし、グリーンOK。その調子だ」
「はい。ありがとうございます。白虎隊の隊長としてがんばります」
「……フフ。そうか。では次ホワイト」
その演習場の様子をタイガはじーっと見ていた。
朝方からOFFレンの姿が見えなかったのもあるがどうもなんだか腑に落ちない表情をしている。
「……キミも来ていたのか」
すぐ横にはホランが立っていた。同じように演習の様子をじっと見ていたようだった。
「……ずいぶん寂しそうな顔をしてるな」
「そ、それはお前も同じだろっ!……オオカミ達がオレと女子の時間を邪魔するんだから」
「……だが、オオカミ軍団に入った以上それも仕方のないことだろう。報告書もあることだしな」
「……。そういうお前は朝方『グリーンがいない』とか騒いでなかったかぁ?」
「フ、フン。そんな事もあったかな……」
『おや、タイガ様にホラン様。いかがなさいましたか?』
向こうからやってくる研究員が2人に気づいた。
じっと演習場の方を見ていたので少し気分が良かった。
「……お二人も積極的にこういうのを見られるようになったんですね。よかったよかった」
「オイ、女子達とはまだ遊べないのか?」
「何を言ってるんですタイガ様。いい戦力が手に入ったんですよそろそろ真面目にボスとして行動してくださいといったでしょう」
「……だ、だって……この作戦はオレが考えて……」
「確かにそうですね。……ですが時間はないのですよ。早くOFFレン達み教え込まない事がたくさん……」
「……ちょっとそれ見せてみろ」
研究員の持っていた資料をホランが奪い取って目を通してみた。
「……何だこれは!?こんな過密スケジュール……さすがに酷いんじゃないか?」
半日以上の休みなし。後は全て訓練・演習等々……。
日ごろからの社長業の為か労働条件の悪さが明らかにわかるほどだった。
「そんな事いってられません。今年から我が軍団は変わるのですから!お二人も恋愛感情なんて持たずにしっかりしてください」
……と、研究員は資料を取り上げて冷たく言い放った。
「それからタイガ様、自分の部屋くらい掃除してください。今年から心機一転ですよ」
「えぇ~……散らかってる方が便利なんだけどな……」
「そして、ホラン様、会社からお電話でしたよ『すぐ帰れと』の事です」
「そ、そうか……」
いつになく強気な研究員が去った後もOFFレン達は訓練に勤しんでいた。
「……こんな事ならあんな作戦立てるんじゃなかった」
タイガの計画ではどうせオオカミの事だから失敗に終ると思っていた。
そして残された女子と一緒に日々を過ごすという楽天的な物だった。ホランも似たようなものだが。
「……やはりOFFレンを元に戻すしかないな」
「方法はあるのか?」
「……一つだけだが」
2人は互いの顔を見合わせ頷いた。
2005年1月3日。ついに銀行強盗のシュミレーションが行われる事となった。
あえてここで本番を迎えさせないことがいままでのオオカミとは少し違う。
「この仮設銀行に店員に扮した数人のオオカミを配備してある。後は演習どおりだ」
簡単な説明を終えるとオオカミ達はさっそく配置に付く。
金庫周辺担当は女子が、主に銀行内の人間の撹乱担当が男子である。
「では、グリーン。頼んだぞ」
「……お任せください」
すっかり洗脳されてしまったグリーンの後を男子がついて回った。まずはグリーンが銀行に入り催眠ガス等を使って銀行内の人間を撹乱する計画だ。
「……ここまで長かったな。俺達」
「あぁ、あいつらを見ろ。完全にオオカミ軍団になっているぞ……報告書、毎週でも良いかもしれないな」
「まぁ、待て。まだ予行演習だ」
オオカミ達も期待に胸を膨らませ彼らの様子を伺っていた。
そんなオオカミ達にもOFFレンにもまったく相手にされなくなっていたタイガとホラン。
グリーンから貰ったボックスを手にとある場所にこっそり集まっていた。
「それは……OFFレンボックスじゃないか?」
「グリーンから貰ったんだ……これで……そうだな。いっぺんにもとに戻したいから元に戻るガスかなんかが良いだろう」
「そんなにうまくいくかぁ……?」
「一か八かだ。今のオオカミたちではいくら言っても聞いてくれないだろうからな」
「そ、そうか……じゃぁ。まずオレが投げて、お前が打ち込め」
「……いいだろう」
演習開始のサイレンの音を聞いて2人は声を潜めた。
「あーぁ……虎柄の女子達。すっごく可愛かったのになぁ……」
「まぁ、元に戻るのは残念だが……。やはり今までの生活が一番いいということだ」
その後演習は順調に進み、グリーン率いる男子部隊が予定通り店内を黙らせると女子達は金庫室へと向った。
その後ろからカバーするように男子達がついていく。
「えーと……ここは……」
ガチャッと金庫の飽く音がして全員が笑みを浮かべる。
「早く金を運ぶんだ」
グリーンの指示に従い女子達は金庫の中へと入っていく。中には偽の紙幣がたくさん詰まれておりそれを手際よく袋に詰めていく。
「そこまでだ!」
金庫の奥からタイガが飛び出してきた。……が、隊員は特に気にせず作業を続ける。
「勢いだけか……キミは」
「う、うるさい!早くするぞ!」
「ボックスは何処だ?」
「あ、さっきの所だ……」
「まったく……」
ボックスをちょうど持ってきたとき金庫内の様子の変化にオオカミ達が既に駆けつけてきていた。
「タイガ様にホラン様……。なになさってるんですか!?」
「早く自室にお戻りください!」
オオカミたちの声を無視して早速タイガはボックスを高く打ち上げた。
「いくぞっ!」
ボックスに気が付いてなにやら騒いでいるオオカミの声が聞こえたがホランはただボックスを思いっきり隊員の方へ打ち込んだ。
「……OFFレンを元に戻すガス」
その瞬間。ボックスから真っ白い煙が噴出した。

その煙は誰も自分以外を見ることが出来ないほど充満していた。
「な、何だ!?」
「誰か!窓を開けろ!!」
そのざわめきの中、ブルーの声が聞こえた。
「OFFレンボールスタート!!」
煙が全てなくなった頃、OFFレンは見も心も元通りに戻っていた。
それに気づいたとき、既にOFFレンボールはオオカミの群衆の中へと飛んでいった……。
「……以上。OFFレン虎化計画の実行結果である。っと」
「……なんて書いたんだ?」
「……とりあえず2日までの時点を伸ばして書いた」
「……で?」
「……あとは次の報告書で書くってな」
「そうか……」
オオカミ達はベッドの上で天井を見つめていた。肝心の研究員達がボールに巻き込まれて当分は絶対安静……。
計画も失敗し、OFFレンも元通り、あれだけ燃えていただけあって意気消沈の度合いも半端ではない。
「やっぱ、オレ達オオカミ達に怒られるかなぁ」
「……多分な」
オオカミ達の部屋の真上でタイガとホランはグラス片手に談笑していた。
少々後悔の気持ちはあったものの、なんとなくのびのびとした気分で正月の最後の日を満喫しようとしていた。
「あーあ、写真に撮っとけば良かったかなぁ……女子達」
グラスに映る自分の姿を見つめながらタイガはため息をついた。
「そうだな……だが、オレはグリーンがおそろいの首輪をつけてもらっただけありがたいが」
ホランも首輪を手に微笑んでいた。まだ少しグリーンの香りがするような気がした。
「さてと、これ飲んだらOFFレン本部行こうぜ」
「だが快く迎えてくれると思うか……?」
「まぁ、大丈夫なんじゃない♪」
「……そうだな」
グラス持ったままホランの前に差し出した。
「じゃぁ、乾杯♪」
カチンとグラスの触れる音が響いた。