第43話

『炎のチョコ、あります』

(挿絵:ブルー隊員)

「……ウィックよ。次の作戦はどうなっているのだ……?」

真っ暗な部屋の中で真っ赤なランプが灯った。
そこからこのブラックキャット団首領の声が聞こえてきていた。(知らない君は前号参照だ!)
その声を聞きながら幹部であるウィックは跪いたまま首領の声を聞いていた。

「……ご安心ください。既に考えてございます。私にどうかお任せを……」

ランプの光が次第に弱まるとウィックはランプに背を向けて目線を下に落とした。そこには3つの黒い影が静かに彼を見上げていた。

「……改造猫四天王の一人……雷猫は倒された。大きな痛手である事に変わりはない」
「ウィック様!ここは俺様に!雷猫の敵を……!!!」
「いいだろう……お前に任せたぞ」

一人意気込んでいる改造猫は部屋を飛び出していった。だが、彼の様子には何処か怒り以上のものが感じられた。






……2月14日。バレンタインデー。
昨年はいろいろな災難のあったこの日だが、どうやら今年も普通の過ごし方は出来ないようである。

朝から何やら大きなダンボール箱を抱えてタイガが遊びにやってきた。
チラチラとその場にやってくる女子の手元を見ながら男子相手にいろいろと自慢話らしいことを話しているのだった。

「いっやぁ~♪オレさぁ。実は結構もてるんだよね♪ ナンパしたら10人に7人は相手してくれるしさ♪」
「ハイハイ……それでエロトークをして嫌われるんですね」
「ぐっ……な、なんの事だかわかんないけど……とにかくオレはもてるんだ!」
「ナンパしてたくせに……」

確かに、男子の立場からしてみてもタイガカッコイイ部類ではあるかもしれないが、何やらムカつくオーラが出ているのには間違いなかった。

「今年は予算がないから去年みたいにチョコはあげられないから女子から貰うのだけが楽しみなのさ♪」
「可哀相に……今年はその楽しみすらなくなってしまいますね」
「あぁ~はいはい。逆イケメンは黙れ黙れ」

しかし、タイガは延々と自慢話をしながらも実は影ながら女子の様子を伺い続けていた。

「(うーん……みんな照れてるのかなぁ……もう5時間も経つのにぃ……)」

しかし、さすがのタイガも少しずつ苛立ちを隠し切れなくなってきていた。
だが、下手に要求するとさっきの話をした手前、男子に冷たい目で見られてしまうし、プライドが許さない。
なのに、無常にも女子隊員は何度かロビーに入っては消え、入っては消えていくだけだった


「タイガ?どうかしましたか?」

チラチラとドアの方を気にしているタイガを見てグリーンは声をかけてみた。
するとタイガはビクッとしていや、別に。とだけ言うとまたドアの方を気にし始めた。

「チョコをくれないんで不思議に思ってるんでしょう~? 安心してください誰もタイガにはあげませんから」
「フ、フン!オレは遅めにもらう方が好きなんだ!」
「じゃぁ、私たちが先に頂く事にしましょう」

ムスッとした表情でタイガは塞ぎこんだ。グリーンは内心勝った気はしていたがなんとなく自分も嫌な予感はしていた。
ついつい、グリーンも女子の行動を伺うようになっていた。

「グリ~ン……安心してよ。今年もオレはキミにちゃんとチョコをあげるからね~」



ソファの後ろからホランがぬっと出てきた。
さきほどから背後に何か嫌な気配がしていたと思っていたがまさかこういうことだったとはとグリーンは納得した。

「ホラン……。バレンタインデーは女から男にチョコをあげるものですよ」
「フフ♪ そんなことをしているのは日本だけさ。オレは型にとらわれない性格でね」
「あぁ……ハイハイ」

去年のような事態を一刻も避けようとグリーンは向い側の席に移動した。
タイガの横しか開いていなかったがホランの真ん前にいるよりは幾分かましな方だ。

「……フフ♪今年は有名デパートでオーダーメイドしたオレの等身大チョコレートさ」
「ゲー……」
「グリーンにオレが食べられる……あぁ……食べられたいw」

一人顔を赤らめて悶えるホランをグリーンは正視する事が出来なかった。
それ以前にホラン型のチョコレートなんてどんな念がこもっているのか恐ろしくて少しも食べる気にもなれない。

「趣味悪いなー。お前」
「(そっ!そんなストレートに……)」

タイガの言葉にホランはなお高圧的な態度で彼の悪口を切り返す。

「フ。オレがあげるのは既製品ではない。本場ガーナ産のカカオを100%使用した最高級チョコレート……。オレのチョコ型だってダイヤモンドで出来ているんだ」
「お前変な方向に馬鹿だなー」
「(あぁっ……言ってはいけない事を……)」

しかし、話を聞いているとグリーンは満更普通の形状だったら食べたかもしれないなぁとついつい考えてしまった
そんなに高そうなお金を使わせてしまう自分の魅力についつい感心すると言うかなんとも複雑な心持がした。

『ホラン、電話ですよー♪ ホラン、電話ですよー♪』

突然、何処からかグリーンの声が聞こえてきた。といってもグリーンが声を出しているわけではない。
ホランが携帯電話を取り出すとそれがそれから声が聞こえているという事に気が付いた。

「……ピッ……ハイ、ホランだが……」
「(……いつの間にか私の声が着メロに……)」

挿絵

「……何!?……あぁ、あぁ……わかった。詳細がわかったらもう一度連絡しろ」

ホランが先ほどとは違った険しい表情で電話を切った。
そのままソファに座り込んで頭を抱えたまま「こんな時に……」とだけ呟いた。

「あ、あのー……どうかしましたか?」
「……デパートで火災が起こったらしい。現在消火活動中らしいがオレのチョコの納品は今日だったはず。まだデパートに届いていなければいいんだが……」
「むー……。そうですかぁ」

少しだけホッとしたグリーンだったがホランの異様な落ち込みようを見ると素直に喜ぶ事も出来なかった。
ホランもこうしてみると本当にグリーンの事を思ってくれているんだと思う。

「げ、元気を出してくださいよ、ホラン。 チョコよりも大事なのは……き、気持ちでしょう?」

ホランがゆっくりと顔を上げた。その顔を見てグリーンは自分の発言を少しだけ後悔した。
そして改めてホランの手の温もりを実感する事が出来た……。






「チョコチョコ……。こういうのって馬鹿にならないのよね~……」

お菓子作りの本を見ながらホワイトはため息混じりに呟いた。
そう、バレンタインデーのチョコレートについていろいろと健闘しているのだが正直あまり気分が乗らない。

「第一、そうそう本命なんていませんし……困りましたね~」
「義理チョコといったって費用はかかりますし……」
「義理で無駄にお金は使いたくないですよねぇ……」

ざっと見積もってもOFFレン男子や知り合いなども含めて義理でも結構費用はかかるもの。
それに、全員が全員本命がいるというわけでもない。

「シェンナはチョコ欲しいですよー!」
「シェンナ、今そういう話をしているんじゃないのよ~?」

一人つまらなさそうにシェンナはキョロキョロと辺りを見回してみる。
しかし、何処を見てもため息ばかりがこぼれている女子隊員の姿しか確認する事が出来ない。

「……そうだ!確かロビーにホラン君がいたはず!うまいこと言ってお金借りましょう」
「えー。でも彼、結構利子とりそうですよ?」
「いいから早く!」

しぶしぶ、パープルがロビーからホランをつれてくる。
ロビーのほうを名残惜しそうに見ていたホランだが、席に着くなり不満そうに言った。

「……何か用かな?オレはタイガと違って女に甘くはない……」
「えー。単刀直入に言うと今日はバレンタインデーですよね?」

バレンタインデーの言葉に少しだけピクッとホランが反応したように見えた。
しかし、どこか少し悲しげな顔だったのだが。

「……それが?」

冷たくイエローの言葉をホランは返した。

「チョコレートの資金を戴きたいのです。と本音を言ってみました」
「……チョコ」

再びホランの顔に不安の模様が広がる。

「……グリーンは甘党でしてねぇ。きっとホラン君が資金を出してくれたと知れば喜びも1.5割増しでしょう」
「うぅ……グリーン……チョコ……」

何故か涙ぐむホランの理由を女子隊員には全然解らなかった。
次第に何もしていないのだが罪悪感が芽生えてきた。

「……どうかしましたか?」
「……デパートが火事で……オレのチョコがひょっとしたら……」
「は!?今なんと?」

涙ぐみホランにイエローは急いで聞き返した。

「だから……デパートが火事で……大金をはたいたオレのチョコが……」
「何処のデパートですか!?」
「成金デパート……」

イエローがその言葉を聞いて勢い良く立ち上がった。
その握られている拳からはただならぬ意気込みが感じられた。

「成金デパートといえば、毎年恒例チョコの特設会場が中にあるじゃないですか!」

尾布市ではこのデパートのチョコを買えば好きな人と料思いになれるだのという噂が嫌というほど流れているのだが、
何分通常より「0」の数が一桁多いため一般の女性陣からは敬遠されているという高嶺の花であるイベントであった。

「……正義の味方としてチョコが燃えてしまう前に救出してあげましょう!」
「それって火事場泥棒というのでは……?」

イエローは早速男性陣に内緒と言う事で、成金デパートへと向った。やはり、野次馬が殺到しており消防士の人々もその対応に苦労している。
どうやら地下から煙が出ているようでチョコの特設会場の場所ではない。

「ふぅ……どうやら。チョコは間に合いそうですね」
「あ、あの……オレはどうすれば……」

いつの間にかホランも女子達についてきていた。
チョコが心配なのかただ、本当についてきてしまったのか今はそんな事を考える暇はなかった。

『ゴォォォォォォォォォォォォォ!!!!』


突如、デパートの入り口から物凄い勢いで炎が噴出す。消防士がその後すぐにデパートから飛び出し、お手上げ状態といったようだった。
幸い野次馬の話を聞いていると取り残された人はいないようだ。

「変ですねぇ……地下から火が出ているのにまったく火の気のない5階付近からも炎が不意出してますよ」
「これは、もしや私の推測ですが……例の新たな敵の仕業ではないでしょうか?」

ピンクがマータを動かしながら真剣な表情で自分の推理を説明した。
無言で黙っている女子の態度に恥かしくなったのかマータの腕をもう一度動かしてみた。

「……まぁ、話の流れではそう考えるのが自然ですが私はあれですね。神がくれたチャンスなのではないでしょうかと考えるわけですよ」
「はぁ……」
「そのために早く中へ侵入しなければ……転送装置転送装置」

早速女子隊員達はデパートの屋上へと転送装置を使ってワープした。
ホランにも、一応案内役としてついでについてきてもらったが、問題はどうやって下まで行くかという事である。
ホランの話によるとチョコの特設会場は3階。屋上は8階に存在している。炎とは上に上がっていくもの。下へ降りていくのは危険であることに変わりない。

「困りましたねぇ……」

試しに下へ降りていくと思われる非常階段の扉を開けてみると、なんとか外伝いに下へ降りていけるようだった。
しかし、いつ先ほどのように炎が噴出さないとも限らない。

「ホランくん。特設会場は3階のどの辺りでしょう?」
「え、あ……3階の……確か……西側だから……非常口を出て少しのところだ」
「でも、そこまでしてチョコを取るものなんでしょうか……?」

今にでも階段を駆け下りそうな女子隊員をピーターが非難した。
そんなピーターをイエローは肩を軽く叩き言った。

「……良い?ピーター。貴方はまだ若いから解らないかもしれないけれどこれは乙女の戦いなのよ」
「え、で、でも……」
「平塚雷鳥曰く、元始、女性は太陽であった……。貴方ならわかりますね?」
「は、はぁ……」

いまだ理解できてないピーターの手をとってイエローたち女子軍団+αはいっきに3階へと駆け下りていく。
運良く消防隊員に見つかって止められる事もなく、無事、3階バレンタイン特設会場へと到着した。
何故かこの特設会場を中心に、他の階よりも煙も少なく、異様な雰囲気だった。

「こ、これが特設会場……。TVで見るより大きい」

多分チョコレートで作ったと思われる巨大なマリア像やら有名な彫刻が特設会場の入り口に花を添えていた。
その奥に入れば入るほど好みのチョコレートの味ごと区切られており、自分でチョコレートを作られるような会場もあり、
もはや特設会場というよりもチョコ専門店がそのままやってきているという感じだった。

「シェンナこんなに食べたら偏頭痛を起こしそうですー」

特設会場の真ん中にはガラスケースに入った色とりどりのチョコで作られたオブジェが女子隊員を迎え入れた。
ちょうどこの中心から様々なエリアへと行ける様であった。
その中にオーダーメイドのエリアもありその中にまったく被害を受けていないと思われるホランの特注チョコレートが発見された。

「あぁっ!オレのチョコが!……よかったぁ……(////)」
「えー……なんですかこれー?」

『ホラン様用』と書かれた台座の上には、「I LOVE GREEN」と書かれたハート型の台に片足を乗せ右上を指差しているホランの等身大チョコレートがあった。
なにを意図しているのか良くわからない代物だったがとにかく無事でよかったというのが大方の感想である。

「どうだい?このチョコレート……グリーンは満足してくれるとおもうかな?」
「(趣味悪ぅ……)えぇ、まぁ……そうですね。えぇ。そうですとも」
「(英語読めないですー……)シ、シェンナモホシクナッタデスー」

シェンナの発言がカタコトになってしまうほど異様な雰囲気に包まれたオーダーメイドコーナー。
だが、そこへ突然蛇のように炎がぐるりと隊員たちの周りを取り囲んだ。

「っ!?」

炎は隊員達を取り囲むとさらに炎の勢いを増しながらゆっくり隊員たちに近づいていく。
そしてホランのチョコを中心にある程度まで止まった時、炎の向こうから誰かが歩いてきた。

「フッフッフ……。まさかそちらから俺様の手中に乗り込んでくるとはな……」

炎をすり抜けて真っ赤な色をした猫が女子隊員の前で足を止めた。
目はキッと女子隊員たちを睨みつけその目からはただならない物を女子達は感じた。

「……貴方はまさかと思いますが……例の新団体の……」
「その通り……俺様はブラックキャット団改造猫四人衆の一人……炎猫」

炎猫は手の上で炎をユラユラと揺らした。

「……貴様達に敗れた雷猫の敵を俺様が取ってやる……。焼き加減は貴様たちの好きにさせてやるぞ」
「それよりも、何故デパート何でしょう?尾布市よりも程遠いこんなデパートでおびき寄せるなんてちょと抜けてる気がしませんか?」

クリームが急に炎猫に問いかけた。よく、考えてみれば普通復讐の為にいつ来るかわからない様な所に罠など仕掛けるのは効率が悪すぎる。

「シェンナわかってますよー。この猫さん馬鹿なんですよー」
「そういえば……成金デパートなんてあんまり我々には縁がないですよねぇ……」
「電車で40分とはいえねぇ……?」
「いくらなんでも労力の割りにあんまり報われない気が……」

女子隊員の話をさえぎるかのように突然炎の玉が前を横切った。炎猫の周りに陽炎が見えてきている。よほど怒っているのだろう。

「違う……違う!!俺様は馬鹿じゃない!俺様はチョコが欲しかっただけだ……!そ、そこへ運良く貴様達が!!」

周りを取り囲んでいた炎が一層強くなった。

「……そんなにもてないんですか?」
「オレですら、恋人がいるのに……かわいそうになぁ」

ホランもいつの間にか炎猫叩きに参加していた。

「違う!……お、俺様は……か、雷猫が好きだったんだーーーーっ!!!」

炎猫のバックの炎が一段と強くなった。
炎猫は聞いてもいないのだが恥かしそうに雷猫について急に語りだした。

「あ、あれは……俺様が改造猫として間もなかった頃だ……」
「別に聞いてないんですけどねー」



あの頃の俺様は……ブラックキャット団なんてダサい団体には入りたくなかったんだ!
だが……脳改造もされてしまったし……忠誠を誓ったから……落ち込んでいた。


だが、そんな時、俺様より先に改造されていた雷猫が声をかけてくれたんだ……。

「お前が今度改造された炎猫か~。オレは雷猫。よろしくな」

改造される前も俺様に話しかけてくれる奴なんていなかった……。

「雷猫……さ、さん?」
「雷猫でいいよ。もう友達みたいなもんだろ」
「じゃぁ……雷猫……あの俺様……」
「自己紹介として言うけど、オレは雷が使えるんだそっちは?」
「えーと……ウィック様が言うには……炎の能力らしい」
「へぇ~。あ、自己紹介として言うけどオレは以前は電気関係の学校の学生だったんだよね~。そっちは?」
「あ、俺様は……普通の不良……」
「へぇ~。自己紹介として言うけどBC団は楽しいよ。オレはねぇ~……悪に目覚めてからという物……」

雷猫は俺様を退屈させないよう、何度も何度も話をしてくれた。
たまにくどすぎる時もあったが……だが、そんな雷猫にオレは少しずつ惹かれていったんだ……!
そうして……俺様は雷猫と苦楽を共にしてきた……。

「雷猫……俺様、もうこれ以上盗みをするのは……」
「馬鹿!いいか?オレ達は悪人だ。改造猫だぞ?頑張るんだ!お前なら……」
「か、雷猫……」
「炎猫……」

もう、その時には既に俺様は雷猫の虜になっていた。
そして決めたんだ……俺様はバレンタインには最高のチョコをあげて雷猫に俺様の思いを伝えようと……。



「なんだか……わかるなぁ~!」

ホランが炎猫の話を聞きながらなにやら照れていた。

挿絵

「げー。ホランに引き続きコヤツもですか~?」
「き、禁断の愛って奴ですね……」
「う~ん……ボーイズラヴ♪」

話が終ると共に炎猫の周りの火は次第に小さくなっていった。そして再びカッ!と炎の勢いが先ほど以上になった。炎猫の目付きが一層鋭くなる。

「……だが、俺様のそんな願いも虚しく……雷猫はお前たちに倒されてしまった……」

炎猫はジリジリと女子隊員たちに近づいてきた。

「俺様は……せめて雷猫の墓にチョコを備えようと高級で有名なここで選ぶ事にした。そして邪魔されないように火をつけたのだ!!」

炎が鼻の先をかすめるまで炎は大きくなっている。

「この階の炎はイリュージョン……だが俺様は決めた。貴様達もろともデパートごと焼き尽くしてくれる!」
「!?」

……さきほどよりも熱い。

「……さぁ、言え。焼き加減は? それとも……俺様のお好みで宜しいのかな?OFFレンジャー!」
「冗談はやめてください。敵なんですから倒されるのはあたりまえじゃないですか」
「(イエロー……刺激するような事言っちゃ駄目ですよ)」

炎猫は真っ先にイエローめがけて炎の玉を投げつけた間一髪でイエローはそれを避けるが隙を見せれば再び炎の玉が飛んできそうだった。

「(こ、ここはやはり……)OFFレンボックス!スタートしますよ!」

イエローの掛け声と共に誰が持っていたのかは知らないがボックスがイエローの手元に回ってきた。

「えーとえーと……。中華料理屋の主人!」

ボックスを炎猫に向って投げつけるがそれを軽く炎猫の攻撃によりかわされてしまった。
ゴトッと言う音が燃え盛る炎の渦の中でしたのを最後にボックスの姿は見えなくなった。

「無駄な事を……俺様は炎猫だ。この炎の中は俺様にとって最も戦いやすい環境……」
「し、しまった……」

挿絵

イエローは応援を呼ぼうとして携帯PCを見た。皮肉な事にこの炎で電波が届かないようだった。
文字通り絶体絶命……。真っ赤な炎と炎猫が被ってもはやどこにいるのかすら解らなくなってきていた。

「……業火と共に……消え去れ!OFFレンジャー!」

大蛇のような動きをした炎が女子隊員たちに向って襲い掛かった。
その炎が女子隊員たちを包むのを目にしたとき、炎猫は知らないうちに涙していた。

「(……雷猫……俺様のチョコを……俺様の想いと共にあげたかったぜ……)」

炎猫は燃え盛る炎に雷猫との思い出を写しながらじっと炎を見ていた。
初めて一緒に食べた食事、転びそうになったときに支えてくれた日……。どれも昨日のことのように炎猫は覚えている。
しかし、炎を見ているうちにその勢いがだんだん小さくなっているのに炎猫は気が付いた。
消火活動は一時中断しているし、自然に火が消えていっているとも思えない。

「!」

炎猫は目の前に女子隊員でもないおかしな奴が立っているのに気が付いた。

「炒飯お待ちっ!餃子お待ちっ!」

コック帽を被った男性が渦巻く炎の中で一生懸命料理を作っていた。

「な、なんだ、このありえない展開は!?」
「フフフ!火力にこだわる中華料理屋の主人の手にかかればこんな大火災あっと言う間に鎮火ですよ!」

料理の皿を手に持った女子隊員(とホラン)が中華料理屋の主人の背後から顔を出した。

「馬鹿な……!俺様の炎が……こんな料理に!」
「火力が足らん!もっと火だ!」
「フ……。焼肉が少し増えただけの事!俺様の炎は最高に熱いぜ!!」

炎猫は両手から炎を主人に向って飛ばした。
しかし、焼き豚炒飯を作っている主人のフライパンの下にもぐりこむとあっと言う間に炎は消えていった。

「料理の心は火の心!中華料理をなめるではないぞ!」
「(なんかどっかで聞いたような言葉……)凄い!凄いわ!さすが火力にこだわる中華料理屋の主人!」

中華料理が一品ずつ増えていくたびに、炎の勢いが弱まっていくのが皆にもわかった。
一面炎に覆われていたこの場所も、徐々に周囲が見渡せるほどまでになっていく。

「火力!火力が足らんぞ!」
「くっ……炎など、いくらでも!」

炎猫の手から小さな炎がゆっくりと宙に浮かび出て……消えた。

「!?……馬鹿な……」
「中華料理は火が命……。愚か者め!」

何故か偉そうに中華料理屋の主人が炎猫を一括した。ガクッと炎猫は膝を突き消え入りそうな声で呟いた。

「……か、雷猫……俺様も……そっちへ行くぜ……」

閃光が走り炎猫は姿を消した。何故か寂しそうな顔をした最期だった。

「……炎猫の気配が消えたか……」

ウィックは暗闇の立ちこめた部屋で呟いた。

「少し……OFFレンを甘く見ていたようだな……」

チラと後ろに山済みになっている段ボール箱にウィックは目をやった。

「……まぁいい。あの隙に戴く物は戴いておいたしな……」








「つ、疲れたぁ~……」

本部の玄関で女子隊員は座り込んだ。
後の消火は消防隊員に任せてなんとか残っていた高級チョコレートを手に帰ってきていた。ホランは残念そうに巨大な包みを見て目に涙を溜めていた。

「……ホランくん。私の一個あげますからこれにしてください」
「うぅ……イエロー……れ、礼を言う……」

ホラン、そして女子達は男子の待つロビーへと入って行った。男子たちは喜んで義理か本命かわからないチョコを受け取っていた。

「グリーン……今年はささやかになったけど……オレの気持ちだよ♪」
「は、はぁ……(等身大を貰わないだけ助かったですね……)」

男子隊員がもらっているそばでタイガは不安そうに自分の手元を見た。小さなチョコが2つ。どう見ても義理チョコである事に間違いない。

「お、オレのチョコは……これだけー?」
「玄関のチョコあげますよー!かなり大きいですしー!」

タイガは嬉しそうに玄関へと飛び出した。そこにはタイガの等身大の大きな包みに目をつけた。

「そうだよな♪これは手渡し出来ないもんなぁ~♪女子たちも照れちゃってぇw」

タイガはゆっくりと包みを開けて行った。
頭がデロンと溶けたホランの等身大のチョコレートを目にしたタイガの意識は遥か彼方へ飛んでいったことは言うまでもない……。