第44話

『その日、大阪は輝いた』

(挿絵:イエロー隊員&パープル隊員)

『……作戦はどうなっているのだ!!』

ブラックキャット団首領、ブラックキャットはウィックを叱り付けた。ウィックもさすがに返答を出来なかったようで申し訳なさそうに俯いていた。

「……も、もうしわけございません……」
『……お前の処置も少し考えた方がよいかもしれないな』
「!?……そ、それはご勘弁を……次こそは必ず……」
『……まぁよい。改造猫はまだ2人居るのだ。次こそ必ず……よいな!?』

赤く灯ったランプが消えた。ブラックキャットの話は終わったという事だ。しかし、だからといって安心は出来ない。

「(……役立たず共が……よくもこの俺に恥をかかせてくれたな)」

振り返ると2匹の改造猫がひざまづいてウィックを見上げていた。
何も言わずただウィックを見ている二人を見ていて少しウィックの気も治まった。

「……フ。まぁいい。……今度はお前に任せる」

ウィックは階段を下りながら薄い水色をした猫に言った。

「……光栄です。私が必ず……OFFレンを倒して差し上げましょう」
「作戦は俺が説明する……。さぁ、いくぞ……」

改造猫は深々と先へ行ウィックの背後で頭を下げた







「グリーン……。何故キミはオレのこの思いに気づいてくれないんだろう……」

コーヒーをすすりながらホランはため息をついた。コーヒーに映った自分の顔の情けない顔といったらない
やはり、グリーンは金や名誉だけでは振り向いてくれない。中身を磨くしかないのだとそんな誠実さを勝手に妄想しながらホランは再びコーヒーを口にした。

「はぁ……こうしてここにいるのがグリーンだったら……」
「ん?なんか言ったか?」

ホランは、応接用の椅子に座って大盛りのカレーライスを食しているタイガに目線を向ける。
モグモグと美味しそうな擬音を立てて、彼は3皿目を食べ終えた。ホランは2回目のため息をつく。

「……キミはオレの会社に飯をたかりに来るのかい?金ならあるはあるんだろう?」
「んぁ?……オレこの前30万円の無修正アダルトビデオセット買っちゃったから無い」
「……オオカミ達はどうしてるんだ……?」
「さぁ?バイトでもしてるんじゃねーの?」

タイガは再びモグモグと新しいカレーライスに手をつけた。ここ数日間ろくに食べてなかったらしく、一向に食の進みは変わらないままだった。
そんなタイガを呆れながら見ていると、受付から電話がかかってきていた。

『社長。ご面会の方ですが……』
「誰だ?川崎社長は明日来る予定だが……」『芸能プロダクションの方だそうです。是非社長に会いたいと』
「……まぁ、いい。通してくれ」

電話を切ると早速ホランは無言で別室のドアの方向をタイガに向って指差した。

「……なんだ?」

何度もホランは別室のドアを指差してみてもタイガは素で全く解っていなかった。

「……客人が来る。キミは向こうへ行ってTVでもDVDでも何でも見てるといい」
「え~……お前の持ってるのってどうせゲイ物だろ~?」

タイガは冷めた目でホランを見る。

「……失礼な!サッカーの中継の録画だってちゃんとある。CS放送も完備だぞ」
「アダルトは?CSだったら契約してるだろ?」
「……オレは女の裸など興味はない」
「ホモはこれだからなぁ……」
「何だと!?この差別主義者が!」
「うるさい!変態野郎!!」

両者ともいつ覚醒してもおかしくないほど互いを睨みあっていた。

『まぁ、二人とも待ってください』

すると、そこへ見知らぬ声がして二人はハッと我に帰った。
すると社長室のドア中央付近になんとも悟ったような目をした猫が一人こちらを見ていた。

『この様に二人が互いを認めないことにより争いが生じ、多大な損害を与える場合があるのですよ。ですから一度落ち着いたらどうですか?』
「……要するに、争いをやめろということですか……?」
『まぁ、そうですね』

その猫は早足で2人の前まで来ると丁寧に名詞を両手で持ち2人に手渡した。

「私、BCプロダクションの光猫と申します。今回はですね……」
「あぁ、いやいや……もう取材は結構だ。以前散々な目に会ったからな」

ホランは迷惑そうに手を何度も振った。何があったのかはタイガは知らないが、とにかく嫌な事があった事は間違いないだろう。
すると光猫は笑って(実際、彼は無表情だったがそんな気がした)話を続けた。

「いえいえ、そうではありません。お二人を我が社でアイドルユニットとして売り出そうと企画しているのです」
「だから……アイドルとの取材は…………ぇ?」

ホランの右手の振りがピタッと止まった。
タイガもしばらくして「オレも!?」と自分を指差した。
光猫は何度も頷いて企画書らしき、何枚もの紙を束ねた資料を二人に提示した。

挿絵

「我が社では、これからの時代は若い女性層が売れ筋だと考え商品展開をコンピューターで予測した結果……」
「……男性のアイドルユニットを作ればいいという事になったわけか」

ホランはすばやく書類に目を通しながら企画をしっかり読んでいた。
タイガの方は難しい漢字ばかりだったので、資料を見ながら何度も左右に首を傾げている。

「えぇ、その通りです。ユニット名は『tiger&tiger』……略してトラトラでございます」
「ほぉ……」

ホランは満更でもないような顔をして、光猫を椅子に座るよう促した。
頭を深々と下げて光猫はソファに座ると別なカラー資料を2つ取り出し、説明をし始めた。

「何故、お二人かと申しますと、一番虎らしい虎はやはりお二人しかいないと踏んだわけです」
「ま、まぁ……確かに、オレほど虎らしい虎もいないけどな♪」

タイガとホランの声は見事に揃っていた。二人ともやはり猫といわれないのは非常に気分がいいものと見える。

「しかし、何故『虎』をモチーフにしたユニットを作るんだ?」
「はい、大阪といえば阪神タイガースに代表される虎王国でもあります。そして大阪をアピールするにはちょうどいい材料ではないですか?」
「そうだな~……。オレも阪神は大好きだな~」

タイガはいつの間にか腕を組んで偉そうに頷いていた。
光猫は気分を良くした二人を確認すると自信満々そうに(そう見えた)早速攻めに入った。

「そこで、やはりお二人しかいません!我が事務所はCD、DVDはもちろんの事様々なマーケティング展開を考えている次第です」
「だ、だが……オレも会社があるし……」
「オレも女の子と遊ぶ時間がなくなるしなぁ……」

光猫は全然大丈夫です!といった風に微笑んで(だからそう見えたんです)最後のとどめを二人に与える。

「……アイドルになればお金もいっぱいもうかりますし女の子にもモテモテですよ」
「え!?そ、そうかぁ……。オレのカッコよさが全国に……いや、世界中に……ん~……」
「それに、芸能生活により自分を磨く事も出来ますし、生活の良い刺激になると思いますよ?」
「そうだな……ぐ、グリーン……にオレの魅力を伝えられるかもしれないし……会社の知名度を上げるチャンスでもある……」

タイガもホランも目的は違えど腕を組み、妄想し、やっと決断した。

「アイドルになりますっ!!」







OFFレンジャー指令本部。PM7:00。ロビー中央。

『さぁ、やってまいりました。今週のヒット曲ベスト10!』

もう、ほとんどの隊員が自宅に帰還しているのに、まだ残ってTVを見ているものが数名。
もはや二重生活といってもいいほどこの生活にみんな適応していた。

「ココア入りましたよ~。飲む人いますか~?」
「はーい♪」

ロビーに居るのは全部で5人。グリーン隊長を初め、ブルー隊員、シルバー隊員、ピーターパン隊員、シェンナ隊員。
特に家に帰ってもすることがないのでこうしてTVを見ながらくつろいでいる。

「あ~……生き返る♪ こういうのお泊り会みたいで楽しいっすね~」
「そうですねぇ……。ワタシもこうしてここにいるのが不思議なくらいですよ」
「ブルーもシルバーも何しんみりしてるんですか♪ 楽しみましょうよ♪」

グリーンなどは、タイガもホランもこの数日間に本部にやってこないのもあって、表情も何処か穏やかである。

「シェンナお代わりほしいですー」
「じゃぁ、シェンナ……ワタシのをあげましょう」

『それでは、今週の第3位!トラトラのお二人で「虎魂」です』

その時、和気藹々としたこの空間に突然亀裂を生じさせたのはあろうことかTVだった。
画面中央ではどこかで見たことのある虎猫二人がバックミュージックに合わせて振り付けしながら歌っている姿が目に入った。

『心から~キミを、好きだよと伝えられたら~♪』
『オレの瞳で、ショウウインドウのドレスがクロスして~♪』

間違いなく、そこにいたのはタイガとホランだった。
なにやら聞いた事のない歌だなぁと思えばどうやらカラオケではなく、新曲だったらしい事にやっと気がついた。

『いつか掴むぜ~虎魂~♪』

OFFレンは皆、何が起こったのかわからず、呆然と番組を見続けていた。










「お疲れ様です。お二人とも」

控え室で光猫がペラペラと手帳をめくりながらスケジュールを確認し始めた。
二人はそれ所ではなく、スタッフに買って来て貰ったジュースを美味しそうにごくごくと飲むだけで精一杯だった。

「ふぃ~……疲れたぜ~……」
「結構……歌もハードな物だな……」

しかし、収録中に送られた声援と拍手は二人にとって決して不愉快な物ではなかった。
むしろ、こうしてやり遂げた後の達成感は今まで経験したことのない物だった。

「では、次は新曲のレコーディング、あとプロモーションビデオの撮影です」
「ん~?デビュー曲出してから1週間しか経ってないのにもう新曲なのか?」

思えば、この一週間。地道な宣伝活動が功を奏したのか徐々にCDの売り上げも高まりもうすぐデビュー曲『虎魂』も1位になる。
この曲は虎に憧れる二人を意識したなどといろいろと説明を受けたが良く覚えていない。

「……飽きの早い若者にはこのペースで出さないとすぐに廃れてしまうのですよ」

光猫は呆れた顔(見えるんです)でタイガに言い放った。

「……そ、そうかぁ……むー……女子達TV見てくれたかなぁ……」
「あぁ……グリーン……オレはがんばるよ……次の曲も頑張るからね!!」

早速テーブルの上に会った歌詞カードを手にとってデモテープにあわせて練習してみる。
今度の歌のテーマはなんでもワイルドさがどうとかで、ずいぶんとカッコイイ仕上がりだ。2人の好感度も少しUPする。
ちゃんと各パートが判る様になっておりタイガは高音パート、ホランは低音パートと緻密に計算されている。

「え~と……we are the tiger~♪俺達の~そうさこれから♪」
「we are the tiger~♪俺達は~爪と牙の傷を~♪」

一生懸命歌っている二人を遠めに見つめながら光猫は手帳にスケジュールを黙々と書き込んでいった。
1週間先までスケジュールはいっぱい。二人も特に疲れてはいないようで特に心配もない。
次のオリコンの結果によって商品展開にかける額も全く変わってくる。

「それでは……そろそろ中断してちょっと番組出演時の練習をしましょう」

3日後の歌番組に出演する事が決まっているトラトラの二人。
そこでトークコーナーが10分程度あるらしいのだが一応初体験なことなので練習させておくという話になっていた。

「では、まず基本中の基本、笑顔を」

無表情な光猫がポンと手を叩いて笑顔の練習をさせる。

「にゃははー♪」
「……ポッ(/////)」

どちらも両極端な笑顔で光猫も思わずこけそうになってしまった。
このままでは仕方ないので次の収録までの飽き時間内にしっかり教え込むしか方法はない。

「それでは、次は質問の答え方を……。えーと。趣味は?」
「AV鑑賞!!」
「……ぐ、グリーンの観察……」

トークの練習は一筋縄ではいかないようだ……。








『オレ達の超合金が出たよ!』

タイガの声からブラウン管から流れるというのは、実に妙な感覚で非常に不愉快になる。
ここ最近彼らをテレビで見れない日はない。CM、歌番組、バラエティと多彩な活躍。ワイドショーでは彼らの番組まで作る予定らしい。

『ロケットパンチ、360度スコープまで付いて昔そのまま1200円!』

こうして、おもちゃまで出るのだから差し詰め、ピンクレディーのおしゃれセットだの、チェッカーズゲームと同じ路線をたどっているといえよう。
しかし、何故だか無名のアニメのロボットの色を虎柄に塗り替えただけの商品がこうして売れているのだから流行とはわからないものである。

「二人ともいまや有名人ですよね~」
「月9進出の噂まであるらしいですよ……」

女子達の話題も次第にトラトラの2人に移っていく。以前はあれほど毛嫌いしていたタイガにまで様をつけるものまで現れた。
グリーンも今となってはもう少しホランと仲良くなって置けばよかったなどと少しだけ、少しだけ後悔していた。

『それでは、お二人に新曲を歌っていただきましょうトラトラのお二人で『tiger jungle』』

いつも見ていた歌番組も、こうして知っている人が出るというだけで別番組のように感じる。
二人が緑色のライトに照らされながらインカムをつけて踊って歌って……。
次第に、彼らの事を人気アイドルとして意識し始めているOFFレン達がそこにいた。

眩しかった。何故だか彼らが輝いて見えた。
いつの間にかCDを手に持っていた。そう、今日の午前中に買った物だった。

「(あぁ……トラトラの歌って良いですねぇ……)」

気が付けば歌を口ずさめるようになっていた。
なるほど、ブームはこうしてできるのだとグリーンは思わず納得した。

『それでは、タイガさんにお聞きしたいのですが……アイドルは楽しいですか?』
「え?うーん……楽しいかな~? 可愛い女の子がいっぱいだしいろんな意味でなってよかったと思う♪」
『そうですか……それでは、ホランさんも同じ意見で?』

ホランがビクッとして言葉を詰まらせていた。
タイガの肘がホランの腕に何度か当てられるとホランも頷き始めた。

「そ、そうですね……素敵な……じょ、女性が多くて……楽しいです」
『そうですか。それでは、次はSNNの皆さんをゲストに及ぶする予定です!ではCM!』

CM明けになっても再びトラトラの関連商品のCMが入る。全然CMに入った気がしない。
今度のCMもやはり、ランドセルのCMだった。もはや本人達ですらこんなCMがあったことは覚えてないだろう。
それだけ……CMの数は膨大な量となっているのだ。彼らはやはりアイドルとして輝き始めていたようだ。

「しかし……また……目がチカチカするほど二人も頑張ってますねぇ……」

目をこすりながらブルーは笑った。確かに、グリーンも電灯の明かりが気になり始めた。

「TVの見すぎでしょうかね……買い物にでも行きますか?」
「そうっすね~……。そろそろ買い置きもしておかないといけませんし」

早速地上へとOFFレンは繰り出したが、夜の7時だというのにまだ日も出ている。
それ所か大阪の夜だというのに人々の姿がほとんど見ることが出来ない。
店もほとんど閉まっており、買い物なんて出来るような状況ではなかった。
女子にも少し遠くを見てきてもらったがやはり同じような状況だった。

「これは一体……?」
「ただの不景気じゃないんですか?」
「いえ……ただの不景気ならば悪徳商法が蔓延するはず。しかしその悪徳商法の姿も見当たりません」

と、傍の店のネオンがフッと消される。もはや買い物どころか人と会うことすら大変そうである。
ごくたまに同じように買い物に来た人とすれ違ったが、全員目をしかめていて、どうも近寄りがたい雰囲気だ。

「お腹すいたですー……」
「レストランも閉まってますよ……。どうしましょう……?」
「ここは仕方がありませんね……たこ焼の屋台でもあればいいんですが……」

ようやく屋台らしきものを見つけても、店の主人が慌てて店じまいを始めて結局握り飯一つも食べられなかった。

「どうしたんでしょうか……?一体」
「う~ん……」

お腹をすかせて本部へ帰る最中もトラトラの二人の映像がモニターから流れていた。
この二人の活躍の眩しさも彼らにとっては少しも勇気付けにならなかった。振り返ると初めての暗い大阪の街が見えた







『全国10億人のオレのファン達!今日もやってきたよ~♪ミッドナイトトラトラ レイディオゥ~♪』
『(発音上手いな……)これは今日から始まったオレ達のラジオ番組だ。リスナーのみんなのハガキを中心に1時間楽しんでいただこう』
『司会はこのオレ!タイガ様!』
『……と、ホランの二人でお送りする』

楽しそうにしているタイガを見ながらホランはふとハガキに目を落とした。
新番組のこの調子も今週に入って何度も経験していているのでいささか退屈していた。

ここ最近ハードスケジュールでグリーンにも会えない……。お金は貯まるが使う暇もない。
ましてや自分が今をときめく人気アイドルグループだという自覚さえこの多忙な環境の中で薄れて行っていた。

『お!次はPNタイガくん大好きー♪さんからのお便りだな♪えーと……ホラン読め!』
『ん……あぁ……えーと……タイガくんとホランくんはとっても仲が良さそうですが実際どうなんでしょう?気になります……とのことだ』

ラジオを聴かなくても現在無音状態が続いているという事が判った。
ガラス窓の向こうではスタッフが「早く!早く」と喋るよう促しているのが口パクでも理解できた。

『えぇ……あぁ……えーと……そのっ!……仲はいいかな!?な?タイガ!』
『え~そうかぁ~?』
『(馬鹿!そういっておけば丸く収まるだろうが……!)』
『(そ、そうなのか……?じゃぁ、それでいいんじゃないか?)』

再びスタジオの無音状態が電波に流れている事に二人は全く気づかなかった……。
が、実際かなりの反響があったことを知るのは彼らが放送終了後に寄せられたメールの数で判明するのだった。
そうして、ラジオ番組の収録も終え、光猫は買ってきていた缶コーヒーを二人に渡しながら間髪いれず新曲の歌詞を手渡した。

「えぇ~!?また新曲!?」
「何を言っているんですか。すっかり光り輝く日本のスターになったというのにここで諦めてはいけませんよ」
「『tiger☆heart』か……。曲は悪くないが……今のオレ達にそんな時間は……」

ホランが同意を求めるようにタイガの方を向くが馬鹿に元気なタイガは不思議そうな顔でなんだと答えた。

「とにかく……今が大事なときなのですよ。がんばってください……」
「まさかとは思うが……プロモ撮影もすぐ入るのか?」
「……良くご存知ですね」

ホランが落ち込む一方、タイガは一人で歌詞カードに目を通し始めていた。
そんなタイガを見ながら、ホランは『やはりこの世界は馬鹿に元気な奴しか向かないなのだ』と悟った。
しかし、そんなことを悟った所でどうしようもない。もうすぐトーク番組に出るためにメイク室へと向かう時間が迫っている。

「それでは、タイガさんホランさん。私はプロモの打ち合わせに行って参りますので、また後ほど」

光猫も別れ際にきちんと礼をして控え室を出て行った。
タイガもホランもメイク室へと向ったが何故か光猫が会議室とは別方向の階段を下りて行ってるのが気になったがそんな事は気にしていられなかった。

「ウィック様……。第一段階完了いたしました。第二段階に入っても宜しいかと思います」

ウィックは改造猫の言葉にニヤリと笑みを浮かべながら灰色猫たちにダンボールを次々と運ばせていた。

「全く……お前の能力で簡単に第一段階は完了できるというのに……相変わらず回りくどい奴だ」
「まぁそうおっしゃらず……。何事もじっくりするものですよ……引き続き私にお任せください」

改造猫は深々と下げていた頭をゆっくり起こした。その無表情な改造猫は紛れもなく光猫。その人だった。

「光猫よ……。収入はどうだ?かなりたまったのだろう?」
「え?は、はい……。軽く億は行っておりますが……」
「……そうか。命令どおり収入の8割は俺の指定口座に入れてあるんだろうな!?」

急にウィックは調子を買えこんな事を言い出したいつもと少し違うウィックの様子に光猫は戸惑いながらも光猫は頷いた。

「……よし……。この収入がオレが活用させて貰う。ブラックキャット様には秘密だぞ……いいな?」

再び調子を戻すとウィックはギロッと光猫を見た。

「は、ハッ!」
「……では、光猫。お前は任務にもどれ……俺は今から久々に人目に出る準備をしなければならない」

ダンボールを運び終えたのを見計らうとウィックはその場を後にした。その姿が見えなくなるまで光猫は頭を下げ続けた。






「おかしい!絶対おかしい!!」

オレンジがついに耐え切れなくなったのかその怒りを大声を出す事によって発散していた。
他の隊員も同じ意見を口に出しはしなかったがやはり内心同じ様に思っていた。

「……大阪の街はどうにかなっちゃってるよ!!」

いつにもましてオレンジも、その頭髪も怒り狂っていた。
一人で誰に言うわけでもなく不平を叫んでいるオレンジに歯止めをかけるためにやはりグリーンは声をかける。

「どうしたんですか……?」

オレンジも待ってましたとばかりに話し始めた。この手の怒り方はやはり聞いてもらう人がいればそれで静まる物。

「予約していたゲームソフトが……入荷されていないんだ。ただでさえ開けてるお店を探すのが今では大変なのに」
「……確かに最近大阪市内で開いているお店を探すだけでも大変ですもんねぇ……」

あの一件から日が経てば経つほど開いているお店が次々と臨時休業になっていたりする。

「……理由を聞いたらさ。大阪の人は最近無愛想だからなんだか商品を送りたくないらしいとかふざけた返答を……」
「まぁ、確かに無愛想ですけど……」

グリーンはオレンジの顔をまじまじと見つめた。
しかし、何故か眩しくなっているので目を細めて見ることしか出来なかった。
良く良く周りを見渡してみるとサングラスをかけているブラック以外みんな同じように目を細めていた。まるで大阪の人々のように無愛想になっていた。

「……なんだかヘコミますね……皆さんの顔を見ていると睨まれているようで……」

女子隊員の方からボソッとそんな声が聞こえた。誰かは眩しさに気をとられて思い出せなかったが確かになんだか陰鬱な気分になってくる。

「困りましたね……。サングラスでもあればこの目付きを解消できるのですが……」

つい、ブラックの方に目線が行ってしまう。何度見ても常時装備している物というのは役に立つものだ。
自然とブラックの方に目線が集まりブラックも気まずくなったのか。

「そういえば……駅前でサングラスの露店がでてたけど……行ったら?」

と呟いた。なるほど、サングラスなんて物はいくらでもあるのだからやはり買ってしまうに限る。
多分他の人々も同じように考えて需要もかなりあるだろう。さすが商人の町大阪だと感心せずにはいられない。

「では、早速転送装置で行きましょう……眩しすぎてかないません……」

次々に転送装置で隊員は駅前へと移動する。が、いっぺんに転送しすぎたせいなのか駅前から少しはなれた場所へついた。
ここから少し歩かなければいけないのが少々面倒くさいがせっかくなので歩いていく事にした。
サングラスはやはり売れているようで、駅前に行く最中のお店のほとんどが以前のように開店していた。

「ゲームも入ってくると良いですねぇ……」
「ですが。まだまだ目付きの悪い人もいますねぇ……観光客も減っているらしいしここらで巻き返しを図らねば」

そうこう話していると駅前にあるというサングラスの露店が並んでいた。店が並べば人も並ぶ物でどの店も大行列が出ていた。
最後尾の看板をかかげている店もある。看板を持っている人は何処かで見たような姿をしていたが気にしている場合ではない。

「値段は1つ2500円だそうですよ」
「きついっすねぇ……。サングラス代も馬鹿にならないっすね……」

そんな事もいってられるはずもなく、とうとうOFFレンの買う番がやってきた。
店主の男はニヤニヤと隊員たちを見ながら、声をかける。

「……いくつ欲しいんだ?」

挿絵

男は頭にバンダナを巻き、チェーンのネックレスなどしたをやんちゃそうな若者だった。
頬に浮かぶ赤と黄色の変な模様は何処かで見たような気もするのだが、後ろから咳払いという形で催促を迫られている以上考えている暇はない。

「えっと……13個……お願いします」
「……3万2500円」

さっそく代金を支払うと、包装もしないままサングラスの束を渡された。
それにしても変な店主だ。ひょっとしたらアルバイトなのかもしれない。
まぁ、なにはともあれサングラスを変えたのだからよしとするか。

「よーし。これで……。眩しさも解消ですね!」

いっせいにサングラスを装着する。目をゆっくり広げてみても眩しく感じない。
よかったよかった。これで一件落着だ。……少し変な気分になるがじきに慣れるだろう。







機械のよう正確に、決められたスケジュールをトラトラの二人はこなしていた。

「tiger☆heart~♪駆け抜ける風にキミを預けて~♪」
「ずっとそばにいるよtiger☆heart~♪」

しかし、タイガが楽しんでいる一方でホランは次第に楽屋で泣き言を言うようになってきた。

既にグリーンと離れて2ヶ月半。大阪に行こうとしても大阪人は目付きが悪くて行く気が失せるという移動機関の都合で行く事もできない。
さらに、無神経なタイガと違って繊細なホランの神経は、芸能活動の中のストレスに耐え切れなくなっていたのだ。

「……タイガ。キミはトラトラをやっていて楽しいか?」

楽屋に帰るなりお決まりの台詞をホランは呟いた。1週間前からずっとこうなっているのだ。

「またそれかぁ~?だからオレは楽しいって言ってるだろ~?アイドルとイチャイチャできるしー♪」
「フ……いいなキミは……オレなんて……オレなんて……」

ホランの目が少し潤んでくる。こうなると手がつけられない。

「グリーンに会いたい……。もう我慢できない……」
「オイオイ~。せっかくいい所なんだぜ~?いい加減グリーンとか忘れろよ~……」
「グリーン……グリーン……」

タイガのほうも少しだけOFFレン隊員が恋しくはある物の、彼は意外と仕事は仕事とドライな所があったりする。
せっかくの豪遊生活をここで絶ってしまう訳にも行かずホランが呟く解散の話にも断固反対していた。

「……どうしました?」

光猫がこれまた分厚い台本を2冊持ってきて楽屋に入ってくる。トラトラがゲスト出演するという触れ込みの今大人気のドラマの台本だった。

「ホランが……」

光猫はため息を突くと少し調子を強くして台本を渡しながら言った。

「またですか……ホランさん。いい加減忘れたらどうですか。アイドルに恋愛はご法度なのですよ」
「……もうオレは辞めたい……」
「それに……ホランさんが男色家だと判ればマスコミのいい餌食ですよ。会わせる訳には行きません」

光猫は淡々とこの一週間言い続けてきた事を口にした。
毎度毎度微妙に調子を変えて喋るので毎回毎回違う言葉のようにホランの胸に突き刺さっていた。

「……オレだって人間だ」
「えぇ、そうです。しかし貴方にはそれに芸能人というものが含まれます。解ってますね?」

ホランは光猫の言葉になにも答えようとしなかった。
台本を手に取ってそれをぼーっと見ていた。本当に見ていたのかこれ以上光猫に話しかけられないためだったのかは解らなかい。

「……明日は解っていますね?初のトラトラのコンサートです。チケットは5分で完売という大人気です。はやく立ち直ってくださいよ」
「よーし!がんばるぜー!」
「……解っている」

光猫が礼をして控え室を出て行くと、ホランはタイガに話しかけてみた。

「……タイガ。キミはアイドル生活でやり残した事などないか?」
「え?別に?どうかしたか?」
「……いや、別に」

ホランは打って変わってニヤリと笑い始めた。この顔の時は何か良からぬ事を企んでいる顔だとタイガは思った。







大阪、某月某日。とある会場の入り口には物凄い行列が並んでいた。
──トラトラの初ライブコンサート。ついにこの日がやってきた。チケット代は関東販売の10倍に膨れ上がり一時は暴力事件まで起こったほどである。

「トラトラ……早く会いたいですねぇ……」

グリーンと、その後ろに並んでいる隊員達はチケットを握りしめながら入り口をくぐった。
ここ数日前からずっとトラトラのことが忘れられなくなっていた。そのため馬鹿高いチケットを全員分も購入する勇気があったのだ。

「控え室行きますか!?ね?ね?」
「うーん……まずはコンサートにしましょう♪花束は終った後に♪」

嬉しさもひとしお。こうしてコンサートに来るのもなかなか出来ない経験だった。
大阪の眩しい事件もサングラス購入によって解決したしやはり平和になったという事だろう。

「何もトラトラなんて見に来なくても……」

一人だけつまらなさそうにしているブラックが和気藹々としている中で呟いた。

「何言ってるんですか?ブラック!アイドルのコンサートですよ!つまらないわけはないでしょ!」
「……みんな何か変だよ」
「まったく……洋楽にしか興味はないんですかブラックは。さ、始まりますよ」

会場の中へ隊員は入っていくとなかなか綺麗な場所だった。
入り口付近に妙な数のトラトラグッズを販売しており後で買おうか等と女子隊員は話していた。

「あ、タイガくんじゃない?あれ?」
「ホラン君もいますー!」

コンサートが始まる前からトラトラの二人は舞台の上でスタッフと共に打ち合わせをしていた。
楽屋裏まで見られるという所もチケット代の高さを物語っているようだ。

「それで……ここでドライアイス出しますからこの前言ったとおりにお願いします」
「はいはい♪」
「タイガくーん!」

タイガが女子隊員の声に気が付くと嬉しそうに手を振った。
女子たちが手をふり返そうとすると前のほうのファン達が黄色い声で思いっきり手を振った。
これだけでタイガが普通の少年ではないのだと改めて感じてしまう。

「オイ、ホラン。女子達が来てるぞ?」

舞台装置の説明を聞いている最中タイガの声を聞いてホランは急いで客席の方を向いた。
ホランの目はすぐさま手をふっているグリーンを捕らえた。

「ぐ……ぐ……ぐ……グリーン!グリーン!グリーン!!!」

涙を流しながらホランは物凄い速度でグリーンに手を振り替えした。
他のファンもそれを見て手を振り返すがそんなほかのファン達などホランの視界には入らなかった。

「よかったなぁ。ホラン。これで少しは気が晴れただろ?」
「うぅ……グリーン……会いに来てくれたのか……やっぱりキミはオレの愛しい人だ……」
「……お、おぉ……そっか……」

舞台に関する話もちょうど終了し、コンサート開始10分前となった。
トラトラの二人も一旦舞台袖に帰り客席の興奮の方も多少落ち着き始めた。

「あ、ちょっとオレ、トイレ行って来るから」
「あと7分だ……急いでくれよ」

タイガもトイレへ走り去り、後はコンサートの緊張をどうにかするのみだ。
舞台袖からチラッとグリーンを見ようとしてもさきほどよりもお客が増えているため何処にグリーンがいるか確認する事は出来なかった。
仕方なく諦めてホランは戻ろうとした時に光猫の声が聞こえた。

「……もうご安心ください。ウィック様」


ホランがその声のする場所へ行ってみると光猫と一緒に紺色をした変な猫が立っていた。
ホランは異様な様子に急いで物陰に隠れた。

「……それにしても、大阪出身の二人を大活躍させ光り輝くアイドルにし、それにより大阪を物凄い眩しさが襲い、大阪人を無愛想にさせて経済を混乱させ、トラトラを好きになる効果のサングラスを売りつける作戦とは……」
「いえいえ……その代わり何百億もの収入です。ウィック様ご満足いただけましたか?」
「フ……金はいくらあっても良い物だ。さて、このコンサートを持って、いよいよブラックキャット団洗脳計画を開始する」

ウィックは光猫にマイクを二本渡した。普通のマイクと少し違って黄色と赤の縞模様のなんとも奇抜な色のものだった。

「……このマイクで歌わせろ。これによる効果で観客席の者達は全てあいつらの虜になり骨抜きになるだろう……」
「トラトラの二人はどうしますか?」
「……フ。まだあいつらには利用価値がある……。感付かれる前に改造猫にしてしまえ」

そこへ開演のブザーが会場内に鳴り響いて、ホランは慌てて舞台袖へと戻っていった。
舞台袖では既に戻っていたタイガが呆れた顔でホランを見ていた。

「ホラン。何処言ってたんだ?あと3分だぞ」
「タイガ……ちょっとオレの目にゴミが入ったらしい……見てくれないか?」
「ん?あぁ……」

近づいてホランの目をじーっと見てみると別になんともなってはいなかった。
その時ホランの目が赤くなったのに気が付いたときは既に遅く、だんだんタイガの意識が遠のいていった。

「……これでよし」
「ホランさん。タイガさん。こちら専用マイクですよ。どうぞお持ちください」

光猫が開演1分前に二人にマイクを手渡した。
虚ろな目をしているタイガに光猫は少し気になっていたようだったがとにかくついにコンサートは始まった。

「キャーーーーーーーーー!!!!!!」

という歓声でBGMが聞こえず、最初の曲の出だしが遅れてしまったのは唯一の心残りだった。
一曲歌い終えるたびに歓声のキーもぐんぐんと高くなっていった。

『みんな。今日はオレ達のコンサートに来てくれてありがとう!』
『ありがとう……』

挿絵

『この後タイガと重大発表があるから最後まで楽しんでくれ!』
タイガの様子も元に戻っていない事を横目で確認しながらホランは歌を歌い続けていた。

そしていよいよ最後の曲も終わりに近づくと、ホランは急にマイクを持ってみんなに語りかけ始めた。

『みんな、聞いてくれないか?実は、このコンサートが最初で最後のコンサートになる』

客席の様子がガラッと変わって騒然となって行った。

『タイガと決めたんだが……オレ達は普通の男の子に戻りたいんだ!』
『オレも……もどりたい……』

舞台袖は思わぬ展開に大慌てし始めていた。ホランがトラトラをやめるためには止めようのない状況で引退宣言をするに限ると踏んだのだった。
タイガは多分やめたくないというのだろうから、少し操らせてもらった。

「光猫さん!?これはどういうことですか!?」
「え、そ、その……ですね……」

『そういうわけだから、最後の曲は一緒に歌おう!新曲tiger☆heartだ!』

二人が歌おうとした時、目の前がチカッとしたかと思うと客席がバタバタと倒れ始めた。

「タイガさん……ホランさん……困りますね。勝手なことをされては」

光猫が舞台袖から二人の元へと近づいてきた。

「……それをいうならこっちの話だ。オレは愛する人以外の為に働くのは嫌いでね」
「……何の事でしょう?」
「言わなくてもよいことだと思うが……?」
「……フ。仕方ありませんね」

光猫はどこからか水晶を取り出すと笑みを浮かべながら(何度も言うがそう見えます)ついに本性を表した。

「私の名前は光猫……。ブラックキャット団改造猫四人衆の一人……」
「……この前の炎猫とかいうやつの仲間か」
「その通り……。ウィック様監修の元様々な伏線を張り巡らしこのような結果に導き出すために……」
「……つまり、完璧な作戦を考えたと言いたいようだがあいにく詰めが甘かったようだな」

光猫は手の上で浮かんでいる水晶をじっと見つめていた。

「……確かに……BC団に入る前は学校一の秀才として名高い私でしたがそれも過去の話。詰めが甘い所は改造されても直りませんね」
「……まだ詰めが甘いところがある」

ホランはマイクを取り出すと観客席に向って思いっきり叫んだ。

「……OFFレンのみんな!この光猫の退治に協力してくれるかな?」

倒れている観客の中からもぞもぞと数人が立ち上がり始め舞台に向って走ってきているのが見えた。
愛するグリーンも舞台に飛び乗り早速ホランの元へと駆け寄ってきた。

「あぁ……グリーン……こんなに近くにいるんだね……♪」
「それよりもホラン!話は大体流れで解りました!あいつを倒せばいいんですね!」

グリーンが急いでボックスを取り出すと再び目の前がチカッとして何やら体中に激痛が走り始めた。
かと思えば他の隊員やホランまでが痛そうにうずくまっていた。

「……ムダですよ。私は光の力を持つ身。この水晶から物凄い勢いで光線が発射されるのです」
「そ、それではこちらの攻撃のできるチャンスが……」
「……それでは、そろそろ私が攻撃し、あなた方の攻撃のできる機会を奪いつつじわじわとあなた方を苦しめながら水晶を使い……」
「あぁもうっ!ようするにお前達を倒してやるっていえないのかしらっ!ほんと回りくどいわねっ!」

どうしようもなく光猫は水晶を浮かばせながらこちらの隙を窺ってきていた。こうなったら一か八かにかけるしか方法はない……。

「……OFFレンボックス行きますよ!!」
「ムダだというのに……」

再び目の前がチカッとした。しかし、グリーンはボックスを思いっきり頭上へと投げていた。
痛さで立つ事が出来なくなっていたが後はボックス次第で勝負の命運が決まる……。

「マジック!……太陽光発電に憧れる中流家庭の若夫婦!」

ボックスが着地した瞬間。10組の若夫婦が自分達の背丈くらいある太陽電池を掴んで光猫の側に走りよってきた。

「貴方!太陽光発電よ!余れば電気会社に売れるわ」
「これで首をつらずに済むなぁ!うん」
「やっと御母さんを納屋に行かせる口実が出来るわぁ~♪」

光猫の周りを太陽電池が覆い、あっという間に光猫から洩れる光の輝きが薄くなっていった。

「も……もう勘弁してください……太陽光発電は太陽でやってください……」
「何言ってるのよ!」
「あんた、日本国民舐めてんの!?」
「若い時は無理が利くもんなのよ」

光猫のうめき声がだんだん小さくなっていくと10組の若夫婦たちもぞろぞろと家路に着き始めていた。

「……うぅ……若夫婦が太陽光発電に憧れている事を利用するとは……」

すっかり光猫はげっそりとして倒れこんでいた。

「……情けないな。光猫」

舞台袖からウィックがマントに身を包みながら変わり果てた光猫のそばに寄ってきていた。

「……ウィック様……も、申し訳ありませんでした……」
「……もう貴様に用はない……消えろ」

光猫は何か言おうとしていたのか数言葉に鳴らない声を上げると物凄い閃光を残して消えていった。

「……OFFレンジャー。今回もお前達の勝ちの様だな……」

ウィックはニヤリと笑うとそのまま光猫の水晶を拾って去っていった。

挿絵

何故か、その後姿をホランは見つめながら

「……残念。オレの好みじゃない……」

と呟いた。








トラトラの解散宣言は大々的にTVで取り上げられ、最後のベスト版が発売されるとあっという間に話題から消えていった。
ホランとタイガは街で見かけられても全く声すらかけてもらえなくなっていった。

「まだ解散してから1ヶ月しか経っていないのに……」
「結局オレ達は流行の波に流されていただけのようだな……」
「うぅ……」

タイガも名残惜しそうだったが、光猫がいなくなった今仕事を続けるわけにも行かず諦めるより他なかった。
ただ、収入がそれなりにあったために、ホランの会社にも当分訪れなくなっていた。
今にして思えばトラトラをもう少し続けても良かったかもしれないと、思ってしまうのだった。

「……残るはお前一人になってしまったようだな」

BC団本部でウィックはただ一人残った改造猫と対峙していた。

「……お任せください。必ずやOFFレンンジャーを倒して見せましょう」

改造猫の最後の一人はニヤリと笑みを浮かべる。

「……OFFレンか」

その顔には、どこか懐かしそうな色が浮かんでいた。