第46話
『さらば、ブラックキャット団』
(挿絵:グリーン隊員)
ブラックキャット団アジトでは、首領、ブラックキャットの声がただウィックの脳内に響いていた。
『……改造猫は全て散った。残るはお前だけだウィックよ……。最後の賭けに出るのだ』
ウィックはこの言葉をあまり良い意味にとることが出来ないでいた。
最後の賭……。つまり最悪、共倒れをしろという意味に聞こえて仕方がなかった。
「……俺はそんな事などしない……最高幹部の俺が……死んでたまるものか!!」
ウィックは壁を思い切り殴った。しかし、その音も虚しく部屋中に響いてゆっくりと消えていく。
唯一くつろぐ事の出来た自室でさえ、なんだかあまり長居したくなくなっていた。
その為、ウィックはそばの金庫を開けて中の札束を片っ端から掴んでぎゅっと抱きしめた。
「俺の金……。俺が死ねば……この金だって……駄目だ……俺はまだ……」
札束独特のインクの匂いや紙の質感が自然とウィックの心を癒していた。
ふぅとウィックは一息つくと、札束を綺麗に整え直して再び金庫にしまった。
この金だって、今まで改造猫の作戦による報酬を独占した物。戦闘員しかいなくなったこの団体にもはやろくな作戦遂行は出来ない。
「……俺はまだ死にたくない……ならば仕方ない……な」
ウィックは悔しそうに金庫を見つめた。
「何々……? ラブレターは自分の気持ちを素直に書くことが大切ですかぁ……」
ずっと部屋に閉じこもりっきりのタイガをオオカミ達は部屋の外から不安そうに見つめていた。
昨日、どこかから金品を盗み出してきた時に偶然見つけてきたらしい本を昨日からずっと読んでいるのだ。
「……タイガ様がちゃんと活字ばっかりの本を読んでいるなんて……恐ろしい」
「そうだよな……。挿絵のない本なんて破り捨てていたあのタイガ様が……」
「これが自分の子供だったらジュースとケーキを出してたな……」
「うん。全くだ」
オオカミ達はそっとタイガの部屋の扉を閉めてなんだか嬉しいような複雑な気分で自室へと帰って行った。
途中、少しは、まともになってきたのだからそろそろ、給料も上げて欲しい物だな。なんて事を話していると別のオオカミが彼らの前に現れた。
「オイ、何やってるんだ?悪者の友の最新号が来てるぞ?」
「何?そうか……いま行く」
慌ててオオカミ達が駆けつけると既にたくさんのオオカミが集まっていた。とてもじゃないが、一冊しかない雑誌を読む事など到底出来ない。
「えーそれでは……今から読み上げますので……」
誰かが言い出したわけではないがオオカミが一人一段高いところに登って悪者の友を大声で読み上げた。
みんなが楽しみにしているのは悪の組織特集記事でも投稿コーナーでもなく、求人情報のコーナーだった。
ただでさえ、給料も少なく、下手すれば無い月だってある。そんな団体をやっていくにはやはりアルバイトしかない。
だが、到底普通の仕事なんて面白みが無いので悪の組織に求人情報のほうがなかなか良い給料がもらえる場合が多いのだ。
『ワルネコ党……25~35歳まで、戦闘員求む。日給5000円』
次々と読み上げられていく悪の組織の求人情報の内容は意外とバラバラだったりする。
新しく出来た組織だったりすると意外と高給だったり、老舗の組織にも高いところと安い所がある。
一番高いのは、やはり怪人化である。改造されてもOKという奴はなかなかいないが相場は50万円にも上る。
『極悪戦士同盟……20代大歓迎。10人合体兵器検討中。実験成功だと100万円』
自分に都合の良い組織が見つかるとオオカミ達は次々に部屋を出て行くのだがなかなか今回は減る事が無い。
ただでさえ、正義の味方の乱立でいい所が無いのが多いのだ。
『……ブラックキャット団』
読みはじめからすでにオオカミ達は落胆したような声を上げ始めていた。
「……BC団かぁ……最近何処の組織も関わらない様にしているらしいぞ」
「そうだよなぁ……あそこワンマンすぎるんだよなぁ」
「それにさぁ……最高幹部がまだ19らしいぞ? 古参の組織にも睨まれてるらしい」
「知ってる知ってる……。以前の悪の組織総会でも無断で帰ったらしいからなぁ」
「OFFレンが片っ端方改造猫たち倒しちゃったからもう資金もあんまり無いだろ」
「パスパ~ス!」
次から次へとBC団の噂がオオカミ達、群集の中で広がっていた。うるさくなって来たので朗読役のオオカミは大きな声で続きを読み始めた。
『特殊人体改造担当求む!、年齢は不問。報酬は250万円、出来によってはその倍』
オオカミ達の中からいっせいにさっきと打って変わってざわめきが起こった。
なかでも一番嬉しがったのは研究員のオオカミ達だった。
『……そして、資金調達係求む。報酬のうち30%を全員に支給する』
他のオオカミ達の中からも歓声が上がった。金額を指定していない為設ければ儲けるほど自分の報酬が増えると言うのは驚きだった。
そうして求人情報の読み上げは全て完了した後も、オオカミ達の話題はBC団でもちきりだった。
「ブラックキャット団気前良いなぁ~」
「俺が100万円儲けたら30万円かぁ……。タイガ様だったら1000万円儲けてもみんなで5万円くらいだからなぁ」
「俺ちょっとオオカミ軍団休んでBC団にお世話になろうかなぁ」
「俺も!俺も!」
急いで手続きをしようとオオカミ達はいっせいにアジトを飛び出していった。するとアジトの中にオオカミは誰一人として残らない。
一方、残ったタイガはというと、昨日盗ってきた本を一生懸命読みながら手紙を書いているのだった。
「ふむふむ……返事を無理矢理求めない。良かったら返事を下さいくらいがベスト……ね」
ラブレターの書き方。なんてずいぶんと古めかしい本なのだが。
ラブレターなんて回りくどい事をしたことの無いタイガにとってある意味新鮮に思えてかくことにしたのだが。
こうして読むとなかなか興味深い。自分の信念とピタリ一致している部分もありなかなか面白い。
「……よーし!できたぁー!!これを女子のみんなに配ればオレも女のハートをゲットだぜ!なんてな~♪」

いそいで買ってきたばかりのタイガースのレターセットの中の封筒を取り出して手紙を一枚ずつ中に入れていく。
封筒を止めるシールはとびきりキラキラしているハート型。これも本に書いてあったのを参考にした。
「あ~wドキドキするぜ~♪ タイガくん素敵~!なんて言われちゃって……にゃははーw」
勢い良く部屋を飛び出してタイガはアジトを後にする。
しかし、いつもオオカミに「いってらっしゃいませ」と言われるのに今回は何も言われないで静かだったのが不思議になったが。
「毎年恒例!野菜たちと戯れる会~!!!」
グリーンの張り切った掛け声でますますOFFレン本部は活気に満ち溢れ始めた。
さっそく、以前から育てていた家庭菜園の野菜たちを段ボール箱から取り出し机の上に並べていった。
「すごいですー!シェンナの撒いたかぼちゃも大きくなったですー!」
「時期的に何だか不自然な野菜もありますが……とりあえず、凄い種類の数ですね」
野菜を手にとってOFFレン達はさっそく野菜たちと戯れ始める。
ある者はジャガイモを手にとって卓球を始めたり、大根を使ってゴルフをしたりと大いに楽しんでいた。
「シェンナ!シェンナもかぼちゃ踏みやりたいですー!!」
「汚れるから新聞敷いてやってくださいね」
女子達の方では大きなかぼちゃを思い切り踏み潰すかぼちゃ踏みが流行り始めていた。
男子の方は相変わらずスイカでボーリングなんかをしていたりする。
「グリーン隊長。なんで野菜と戯れる会なんか開いたんですかー?」
ふいに、踏み潰したかぼちゃを片付けながらピンクがグリーンに問いかけた。
「子供の野菜嫌いが進んでますからね。野菜は怖くないと言う事をこうしてアピールしてるんですよ」
「いいんですかー?せっかく作った野菜を……」
「大丈夫ですよ。ちゃんと遊んだ野菜は恵まれない子供達に配給されますから」
潰れたかぼちゃを見ながらピンクは少し疑問に思いながら再び野菜と戯れ始めた。
「これがお百姓さんの作った野菜だったら大変な所でしたねぇ。野菜に対するお百姓さんのパワーは計り知れないですから」
そういいながらグリーンはタマネギを手にとってそれを何度もむき始めた。一度やってみたかったタマネギ剥きである。
「やっほ~♪ 女子のみんなー♪ タイガだよ~♪」
野菜と戯れている女子達を物ともせずタイガが部屋の中へと入ってきた。
そのまま慣れた手つきで次々に手紙を女子隊員全員に渡した。
「また、何の真似ですか?」
呆れた顔でイエローが言う。タイガはニヤニヤしたまま手紙をあけるジェスチャーをする。
「……オレが初めて書いたラブレターだよ~♪ 自分の気持ちを正直に! 目的ははっきりと! 返事の要求は控えめに!」
女子達が手紙を開けるとあまり綺麗では無い文字でラブレターが書かれていた。
☆女子のみんなへ☆
オレは君が大好きで大好きき。オレはできれば結婚したいですデートもいっぱいやりたいと思ってるよ。
でも、正直な気持ちを言うとちょっとエッチな事もやりたいな~って思ってるんだよね
はだかとか~胸とか見たいし~でもオレはそんなに変な事はしないから付き合ってください。
一番好きで、大好きです。だから返事は良かったらで良いから絶対チョウダイね♪
あと、オレ以外の男をすきになっちゃだめだよ!それとオレはカッコイイから大丈夫だよ
それじゃぁ、返事はよかったら絶対ちょうだい!約束だよ!良かったらで良いから絶対
☆タイガ☆
「……?」
女子達は沈黙したまま手紙とタイガを交互に見続けていた。タイガはニヤニヤと照れ笑いをして、女子達を眺めていた。
「わー!嬉しいですー。シェンナラブレター貰っちゃったですー!」
「喜んでくれて嬉しいよ~♪」
タイガとシェンナは嬉しそうに騒ぎまわっていた。
「……馬鹿が二人になって頭痛い」
クリームは手紙をしまいながら呟いた。他の女子も申し訳なさそうに手紙を封筒に閉まってテーブルの上においていった。
「あれ~?どうしたの~嬉しくないの~?」
不思議そうに手紙から遠ざかっていく女子隊員たちにタイガは気づいたが、途中でハッと気づいてニヤニヤしながら女子隊員たちを見た。
「(そっか♪照れてるんだな。 も~女子のみんなってなんて可愛いんだろ♪ 後で語らいの場を設けちゃお♪)」
タイガを見ないように、女子達は野菜と再び戯れ始めていた。
BC団アジト入り口にはオオカミ軍団の仲間達だけが押し寄せていた。
灰色猫が整理券を配ったり、最後尾のプラカードを持って歩いたりとある意味嬉しい賑わいを見せていた。
ただ、ウィックを落胆させたのは書類に全員が『一時的な所属』にチェックを入れていたことであった。
「……ウィック様!全員採用と言う事で宜しいでしょうか?」
灰色猫が書類の束を持ち運ぼうとしながらウィックに問いかけたが、ウィックはあまり良い表情をしていなかった。
「……全てオオカミ軍団の奴等ではないか……あんな虎猫の団員など……ろくな仕事をするわけが無い」
「ハッ。ですが、奴ら以外の団体からの参加はありません」
ウィックは金庫と書類を何度も見比べると皮肉そうに呟いた。
「フ、落ちぶれた悪の組織の無様な姿を形に表したと言った所か……」
「ワイワイガヤガヤ」
「ガヤガヤ?」
「ワイワイガヤガヤ!」
あまり広くない場所にオオカミ達は集められた。
その場所は、オオカミ達の殺風景なアジトとは一風違ったずいぶんと暗く、内装も特撮番組を見ている様だった。
オオカミ達の前にはあまり傾斜の高くない大きな階段がありその上からウィックがゆっくりと歩いてきた。
「……良く来てくださった。近年の悪の組織の良好とは言えない活動状況の中こうしてきていただけると言うのは有難い物」
オオカミ達はウィックを見上げながらじっと話を聞いていたが、内心金が欲しいということばかりを考えていた。
「……改造担当の方は……後でこちらに上がっていただく。他の方は午後5時までに方法は問わない。金を集めてもらう」
オオカミ達がいっせいに声を上げながら部屋から出て行く。研究員のオオカミ達はゆっくり階段を登っていった。
階段は固く、冷たく、靴を履いていてもその冷たさが感じられるようだった。
カツカツと音はするものの、中はなにやら空洞のような気がしたが、別に気にすることでもない。
「……ようこそ」
ウィックは、プライドを捨てて彼らに深々と一礼をし、そのまま続けた。
「……今回。特殊改造をお願いしたい。我が軍団お得意の改造猫と言う奴だ。できますかな……?」
「できます!」
研究員は口をそろえて言った。タイガやホランのような完成品が未だ何事も無く徘徊しているのだから怖いものは無かった。
それ以上に、軍団にいるだけでは一文にもならない自分達の実力をこんなところで発揮できる嬉しさも確かにあった。もちろん、報酬も魅力的なのだが。
「それで、誰にどのような改造をすればいいのですか?」
ウィックはニヤリと笑ってマントをバサッと広げた。
「俺に……超能力を与えて欲しい……」
ウィックの目は何かを決心したように落ち着いていた。
研究員は少し困惑したように他の研究員たちの顔を見合わせていた。
「な、何故そのようなことを……?」
「残る猫は俺一人……ここまで堕ちたこの団体を、ブラックキャット様の野望を達成する為にはもう、俺しかいないのだ」
ウィックの言葉は時折強く、そして何処か哀しげに聞こえた。
オオカミ達は困ったように顔を見合わせる。下っ端で多少の失敗をしても免じてもらえるだろうが、なんといっても組織の幹部にもしもの事があれば大変だ。
「……どうした。早く俺を改造しろ。金が欲しくないのか」
ウィックは我先にと研究室へと向っていった。慌てて研究員がついて行くとそこには立派な設備が整っていた。
機材一つとってみただけでもオオカミ軍団にあるものとは格が違っている。
「……早くしろと言っているだろう……」
ウィックは、真っ先に手術台に仰向けになってジッと天井の明かりを見つめていた。オオカミも急いで準備を始める。
「……どれくらいで終る予定だ?」
「はぁ……そうですねぇ……5、6時間くらいただければ……」
「そうか……」
ウィックは目を閉じて麻酔の注射の間、ずっと黙っていた。だが、麻酔がもうすぐ効き始めようとしていたときにウィックは口を開いた。
「……改造されれば何か変わるものだろうか……?」
「そ、そうですね……少しは何かが変わるかと思います」

研究員は突然の事に驚いていい加減に返事をしたが、ウィックは何処か安心したようだった。
「……そうか。俺は改造猫達奴の改造前、改造後を見たが……ガラリと変わってしまった」
「そうですね」
「……だが、俺は変わりたくはない。変わりたくない為に改造を受ける……。俺は……」
そのままウィックの声は小さくなった。その寝顔からも何処か幹部らしい威厳が感じられた。
「オイ、麻酔効いているだろ。早く始めるぞ」
「あ、あぁ……」
「ハイハイハ~イ!!野菜との戯れは終了でーす!!」
グリーンの威勢の良いホイッスルの音で野菜達との戯れは終了した。隊員たちも名残惜しそうにダンボールへと野菜たちを返す。
「楽しかったですー」
「また今度あそべると良いですねー」
女子たちも満足そうに野菜たちをお片づけ。その後にはラブレターを抱えたタイガが待っていた。
だが、もちろんタイガなんてそんなに相手にしてられない。あっという間にタイガのフリートークのチャンスもTV試聴によって流されてしまった。
「えー。野菜との戯れの会も無事終了し、次は会議ですね。議題が無いので適当にTVを見て社会情勢を把握した上でやっちゃいましょう」
「やっちゃいまーす!」
「ねー♪オレと女子との語らいの場はー?」
TVを早速つけると生中継で、尾布市内で起こったらしい事件の様子が映し出された。
銀行強盗7件、空き巣被害28件、振り込め詐欺106件などテロップが出されているが15分おきにそれらの数はぐんぐん増えていった。
「これなんかどうですかー?」
パープルが画面を指差してみるが他の隊員はどうも乗り気ではない。
「……悪くは無いんですが……ちょっとやばすぎないかなぁ?」
「そうですかぁ……?」
「多分、バックに大きな黒幕が潜んでそうですよ。暴力団とかカルト宗教の宗家とか」
そのまま雑談を繰り返していると(OFFレンでは原則としてこれを会議と言う)監視カメラの映像がどうこうと言う話題になっていた。
もちろん、ニュースの話題がそれになったからなのだが問題はその映像だった。
『これは……オオカミの着ぐるみを被っているんでしょうか……?』
『そのようですね……』
銀行強盗の被害にあった銀行の監視カメラに収められていた映像には間違いなくあのオオカミ達が不鮮明だったが映し出されていた。
「……知らなかったですー。黒幕はタイガくんだったんですねー」
「え?そ、そうなんだよ~な~。にゃははーw あいつらってばオレの為に金策に励んでるんだな。感心感心!」
「……オオカミ軍団が犯人だったら倒すのは楽ですね。じゃぁ出動しましょう」
TVをプチッと消してグリーンはすくっと椅子から立ち上がってOFFレンボックスを手に取り、他の隊員も立ち上がり始めた。
誰も緊急的な様子は無く、どちらかというと慣れた感じでそれぞれ準備をしていた。
「携帯PCよし、武器よし、ボックスよし、人質よし!」
グリーンの手に持っている縄はタイガの首輪へとつながっていた。
「ハッ!?いつの間に!」
「もしもの時の為に人質は用意しておかないと、頭脳プレーって奴ですかね」
フフン。といつになく余裕のある笑みを浮かべながらグリーンは縄をぐいぐいと引っ張る。
タイガはもちろん苦しいので連れて行かれるままになるのだが何故か妙に首輪と言う物が気に入らない
『猫っぽい』というのもそうなのだが、お気に入りの蝶ネクタイが首輪に押し上げられているので妙に不恰好で好きになれなかった。
文句を言おうにも引きずられているわけなので、息苦しくて言うに言えない状態だったのだ。
「……今回はいつもと違って向こうも頑張っている様なのでこちらもいつもと趣向を変えてみますか」
「そうっすねー。ヒーローっぽくやりたいっすねー」
「その為に、いろいろと伏線を張っているのに気づきましたか?ブルー……」
「え、そうなんっすか!?今回はのっけから違いますね隊長!」
和気藹々と、そしてずるずると双方がその状況を過ごしていると早くもアジトの前に一同は到着した。
特に、今までと変わった様子は無いが妙な静けさにただならぬ物を感じた。
「……タイガ、先に行ってください」
「なんでオレが!」
グリーンはタイガを立たせて入り口の方向へ押してみるがタイガは思い切り足を踏ん張ってみる。
「……あれですよあれ。かませ犬って奴です」
「隊長、それギリギリの発言ですー」
「さぁ、早く早く!」
グリーンはタイガを地下へと続く階段の方向へぐいぐいと押していく。
「オイオイ!待て待て!ここ階段だっつーの!」
「だいじょうぶですよ。縄はしっかり持ってますから」
「そ、それTV的にまずくないか!?コラ!やめろぉぉー!」
急にグリーンの手が軽くなった。ゴロゴロと踊り場まで綺麗に曲がって落ちていくタイガの妙技は素晴らしかった。
しだいに縄に手ごたえがあり下からうめき声が聞こえたが、まぁ彼は彼なりに良くやってくれた。
「ふむ。静か過ぎるくらい静かですねぇ……」
「誰もいないみたいですー」
ゆっくり慎重に階段を下りていくと、ボロボロになって目を回しているタイガがいるアジトの最深部へ到着した。
「……どうやらホントに誰もいないみたいですね」
付近にあったドアをいくつか開けてみたがついさっきまで人が居たと言う訳でも誰かが隠れていると言う様子も無かった。
「オオカミ軍団が自分達の本拠地に戻らないとはどういうことでしょう……?」
「何人かが盗んだお金をここへ保管しに来るはずなんですが……?」
OFFレンは不思議に思いながらもタイガの部屋でオオカミの誰かが来るのを待つ事にした。
相変わらず目がチカチカする部屋だがアジトの中では一番ましな部屋なのでタイガもそこへ運ぶことにする。
「タイガくん何処に置いときますか?」
「そうですね……パソコンのある机の上でどうでしょう?」
ただでさえ足の踏み場も無い部屋なのだから15人もいてはさすがに場所が無くなってしまう。
早速PCの机の上にタイガを載せる。少し長さが足りなかったので頭と足が下がったアーチ状に横たわらせた。
「う~ん……う~ん……」
なにやらここに置いてから、うなされているが多分悪い夢でも見ているのだろう。
他の隊員はTVを見て過ごす事となったが、なかなかオオカミは帰ってこなかった……。
「……術式終了」
ふぅ、と研究員達から安堵の吐息が漏れた。
思ったより少し時間がかかってしまったが、研究員全員が結果には自信を持っていた。
「……しかし、超能力を持てる様に改造して欲しいとは良く解らない奴だ」
「あぁ、そうだな。だが相当な金をもらえるんだ。有難い事だろ?」
「いや、本来ならばこれくらいが普通なんだ。タイガ様の安すぎる給料に慣れてしまってるのさ」
やっと、安心からか研究員達の口数も増えていく、ここまで大規模な手術も久々だったこともあるのだが、
なんといっても、大金がかかっていると考えるだけで手術に知らないうちに熱が入っていたからだった。
「……ぅ……ん…………」
ウィックが早くもうっすら目を開けていた。まだ少し頭がぼーっとしているのだろう、天井の明かりをしばらく見ていた。
「……お目覚めですか?」
「あぁ……結果はどうだ……?」
ウィックはまだ天井の明かりを見ながらゆっくりと首を動かしてオオカミを見た。
研究員達は口々に結果を良好とウィックに伝える。その言葉にウィックも安心したように大きくため息をついた。
「……もう動いていいのか」
「そうですね……無理をしなければ大丈夫かと思いますが」
ウィックは早速手術台から降りて側にかかったマントと身につけた。
多少ふら付くみたいだが普通にその後歩き出したので心配は要らないみたいだ。
「……もう使えるのか。超能力は」
ウィックはドアノブを握った時点でクルッと研究員の方を振り返って言った。
研究員がコクリコクリと頷いたのを見るとウィックはニヤリと笑って部屋を出て行った。
「ウィック様だ!ウィック様ー!」
部屋から出るなりたくさんの札束を抱えたオオカミがウィックの周りを取り囲む。
早速、儲け金の3割を戴こうとするのだがウィックはそれ所ではない。
「……っ!」
試しにウィックはグッとこめかみに力を入れてみた。体の中を黄色い光が一瞬で突き抜けて頭の中がパッと明るくなったような気分になった。
その頭の中の光が見えた瞬間。オオカミの手にしていた札束や宝石などがババッと彼らの頭上へと飛び上がった。
「な、なんだ!?」
「ひぇぇぇー」
飛び上がった宝石に回れと思えばゆっくりと回転し、ウィックが止まれと思えばピタッと動きが止まった。
「……オレは……もう怖いものなしだ……フフ……フハハハハハハハハ!!!!」
ウィックがいきなり高笑いを始めた。後から研究員が後を追いついてくると想像以上の能力の凄さに驚いた。
すると宙に浮かんだ宝石や札束のうちいくつかが各オオカミの手元へと戻り、後の物はフッとどこかへ消えてしまった。
「……俺の部屋に運んだ」
消えていった宝石たちの行方をウィックは答えた。いつもより何か自信に満ちたウィックの表情に研究員は嫌な予感がした。
「手元にあるのが30%だ。次も頑張るんだな……」
ウィックは黙ってそのまま歩いていった。研究員の手元にもフッと何処からか札束が現れ軽く手の上に乗った。
「……俺達のやったことは良かったのだろうか……?」
「さぁ。まぁ300万円手元にあるし。俺達の仕事は終わりだな」
オオカミ達の声も聞こえなくなった頃、ウィックはその足取りで首領、ブラックキャットの元へと向っていった。
当のブラックキャットもウィックのいつもと違った自信に満ちた態度に薄々気づきはじめた。
『……ウィックよ……どうした……ずいぶんと顔つきが違っているぞ……?』
「……ハイ、わたくしめも改造手術を受け超能力を手に入れたのです」
『ほぉ……。期待してよいのだな……?』
「ハイ……最高幹部ウィック……ブラックキャット様のためなら命をも投げ出す覚悟でございます……」
ウィックは余裕のある笑みを浮かべてブラックキャットの声に向って跪いた。
『では……よい結果を期待しているぞ……』
「おまかせを……」
「結局、オオカミ達帰ってきませんでしたね……」
タイガの部屋で夜遅くまで待っていた物の、誰一人として帰ってくることは無かった。
うなされているタイガを置いて結局本部へと戻ってきたのだが、相変わらずニュースの犯罪件数はチャンネルを変える度に増えていった。
「タイガも良く知らないみたいですし……」
「こうも大々的にやられると我々も手の打ちようが無いですしね……」
『ピンポーン……ピンポーン』
困った時こそ客人と言う物はやってきてしまうもので、本部も例にもれず客人がやって来た。
「敵かもしれません。私が見てきますからもしものことがあればみなさん援護を」
バックに武器を持って何人かがグリーンの後ろに待機した。
ドアレンズもドアチェーンも無いのでこういうときに非常に困ってしまう。今度少し予算を削ってでも設置する事にしよう。
「どなたでしょう……?」
ゆっくりグリーンがドアを開ける。バックの隊員が遠目でその様子を伺いながら武器に手をかける。
しかし、ドアの向こうの客人は特に反応もせず黙ってペコリと頭を下げた。
「お久しぶりです。OFFレンジャー様方。私、尾布警察署からやって来た者です」
「あ!あの時の……」
「ハイ、緑団撲滅の件は誠に有り難う御座いました。おかげで不祥事を誤魔化す事が出来て所長も大喜びです」
尾布警察署からやって来た男は再び頭を下げた。
「……そ、それでその尾布警察署員の方が今更なんのようですか?」
「ハイ。今、尾布警察署はそれでこそマスコミにばれていませんが我が署で集めていた災害用の寄付金を全て署のリフォームに使ってしまったのです」
「……最低ですね」
男の方もハンカチを取り出して汗をふきながらイヤハヤ全くその通りですねと変にかしこまっていた。
「そこで、その実情を出版社に勝手にリークした者がいまして……今週末発売予定の週刊誌に出るんです」
「それで……?」
「今回も、尾布警察署の不祥事を誤魔化す為にも世間を騒がせている『集団金品強奪事件』をご解決願えないでしょうか?」
男は深々と頭を下げお願いします。お願いします。どうかこの通りと何度も口調を強くして言った。
「その事件を我が署が解決したことにしていただければ……御礼は致しますので……」
「そ、それって賄賂と言うのでは……?」
「賄賂はお嫌いですか?」
「いえいえ。自分の身になってみると結構ありがたい物ですよ」
男は有り難うございますと何度も頭を下げて、前金と言う事で金一封をグリーンに差し出した。
「どうぞ、お納めください」
「はぁ……どうも……」
だからこの警察署はいつまで経っても不祥事がなくならないんだというツッコミを我慢しつつグリーンはお金を受け取った。
元々この事件をどうにかしなければいけないと思っていたので別に断る理由も無い。お金ももらえるのだがら尚更だ。
男が帰って早速会議室に隊員たちが一斉に集合する。
「それでは。お金も貰ってしまったので事件を解決しなければいけません」
「賄賂貰うなんて最低ですー!」
「シェンナ。貴方には解らないかも知れませんが。賄賂は日本の伝統的な文化なのですよ。日本人として一度は経験しなければ」
「そうですかー」
シェンナも着席し、早速グリーンは話を元に戻す。
「それでは、事件解決についてですがいかがいたしましょうか?」
「そうですね……まずオオカミ達の単独犯行とは考えられないです。タイガくんがいないだけでボロボロになる奴らですから」
イエローはなかなか鋭い所を突いてきた。やはりここは黒幕がいると考えるのが筋だろう。黒幕と言えばやはり思い浮かぶのはただ一人。
「ホランですね……」
「その線が正しいかと思います。そうと思ってホランを電話で呼んでおいたんです」
グリーンは携帯電話を持って妙に知的な笑みを浮かべていた。
「では、効率的にホランをやっつけるよう配置について置きましょう」
早速グリーンは隊員たちを会議室のドア付近に集め各隊員に武器を持たせた。
「えー。まず第一部隊が威嚇攻撃。第二部隊が敵を弱らせて、私がボックスで息の根を止める……と。これでOKですね?」
「ハイ。そんな感じで良いと思います」
隊員を配置に付かせ終った頃、ちょうどロビーの方からホランらしき足音が聞こえた。
その足音はだんだんこちらへと近づいてくる。ロビーを最初に覗くのは常連に限っているからまず間違いない。
「……グリ」
イエローが早速液体銃を標的めがけて撃つと思えばホワイトのブーツカッターが見事宙を舞う。
それらを避けようと標的のバランスが崩れた隙を狙ってオレンジが剣を振り下ろす。
そしていよいよグリーンがボックスを投げつけ中から出てきた変な気体を吸ってついに彼はバタリと倒れた。
3行しかないのだがかかった時間は7秒。OFFレンの作戦がちである。
「……よし。終了!」
「……隊長……やっちゃいましたね」
青白い顔で倒れているのは読者も薄々感付いていただろう。タイガだった。
「虎違いですよ……」
ホランがやってきたのは、無駄骨を折ったことですっかり皆がくたびれていた頃だった。
「……何をしているんだい?」
「オレがオオカミを……?馬鹿な」
ホランはグリーンの座席の横に座って問い詰められているのだがどうもホランが仕組んだ事ではないようだった。
「本当に違うんですか?」
横のグリーンが疑わしそうな目付きで問いかけるがホランはなにやら色っぽい目をしてグリーンの頬をつつく。
「……やだなぁ……グリーン……オレが知的じゃない事をするわけないじゃないか♪」
「わかりましたからつつかないでください……」
しかし、ホランでもタイガでもないとすれば残るのはやはりBC団しかない。
だが、オオカミ軍団がBC団なんかに力を貸すものだろうかという事が疑問に残った。
だからと言ってこのままその疑問が解決するまで待っているわけには行かない。
金一封だって貰ってしまったのだから何とか事件を解決しなければいけない。
「……とりあえず。BC団本部に行かなければ……」
「しかし、我々は本部を知りませんよ……?」
「大丈夫です!ボックスを使えば……」
グリーンはすがりつくホランを振り払うと、早速ボックスを地面にたたきつける。
ボムッ!という柔らかい音がした後、煙の中からおかしな形のヘルメットが飛び出した。
真っ赤なヘルメットの上に風向計がついており、そこから細いアンテナが垂直に伸びている。
「隊長、これは一体?」
「BC団の事はBC団の奴に聞きませんとね。これは降霊機です」
「降霊機……?」
グリーンは倒れているタイガに降霊機と称したヘルメットを被せる。
すると、途端にピカピカとヘルメットが光りを放ち始めた。
「我々が倒した改造猫たちの魂をタイガに乗り移らせるんです。上手く説得して聞き出せば……」
「なるほど……!いやはや、ボックスって何でもできるんですね」
「まぁ、見ていてください。まずは何でも喋りそうな雷猫を選びましょう」
グリーンはヘルメットに付いたボタンを押したりダイヤルを回したりして雷猫の特徴を入力していく。
これで上手く彼の魂が引っかかれば、そのままタイガの体に降りてこさせるという寸法だ。
『ピピッ……ピピッ……』
ずいぶんと時間がかかるようだがそれは仕方がない。何せ男で話し好きで専門学生だったということしか情報に無いのだから。
何千年、何万年もの昔から人間がいるのだからそんな奴が一人や二人しかいない訳が無い。
「ホントに……降霊機なんですか……?」
ボソッと女子隊員の方からそんな呟きが聞こえてくる。
確かにヘルメットに風向計と避雷針と光るボタンとダイヤル……物凄くちゃちな作りではある。
当のグリーンもいささか本当に降霊機なのか疑わしくなってきた。
『…………ピピッ!ピピッ!ピピッ!』
ほぼ諦めていたその時、急にヘルメットから鳴り響く電子音。
ヘルメットの頭上に何かしらもやの様な物がフワフワと浮かび始めた。きっとこれが雷猫の魂なのだろう。
その魂は思いっきりヘルメットの避雷針に直撃したかと思えば、
「フギャッ!?」
激しい電流を浴びた衝撃で、タイガは白目を剥いたままバタリと倒れた。
「……死んじゃったのでは?」
「さ、さぁ……。でも降霊機ですし……ね。一応」
しばらくするとタイガの顔に雷猫のような雷形の模様が浮かび上がってくる。
「……こ、ここは……?」
ゆっくりと起きて辺りを見回しているタイガの声が雷猫の声へと変化していた。どうやら降霊は成功のようだ。
「……!?……貴様らは!」
いきなり雷猫はこちらに気づいて身構えた。手からはバチバチと放電する音が聞こえる。
「まぁまぁ雷猫さん。ちょっとお話だけでも……」
「フン! 俺の話したがりな性質を利用して何かを聞きだすつもりだな? そうはいかない!」
「良くわかっていらっしゃる……」
雷猫は立ち上がって手を真上にかざす。
途端にバチバチとさらに激しい音を立てながら。
「貴様たちのせいで俺はっ!俺はっ!!……くそぉぉぉーーーっ!!!」
「えっ、ちょっ、いきなりなんですかー!」
雷猫は、電気を集めたその手を一気にグリーンたちに向けて振り下ろす。
その刹那、物凄い電撃がOFFレン隊員を襲う……はずなのだが、彼の手からは何も出てこない。
「……え?」
ぽかんとする隊員たち。その眼前には、白目を剥いてガクッと頭を垂れる雷猫の姿があった。
すると、ヘルメットの方から『スポッ!』という気の抜ける音がむなしく響く。恐らく魂が抜けた音なのだろう。
「……多分タイガの体が、あの電撃に耐えられなかったんでしょうねぇ……」
「うーん……次!次ですっ!!次は……一番馬鹿そうな炎猫でいきましょう」
グリーンは痙攣しているタイガを物ともせず。降霊機に炎猫のデータを打ち込む。
炎猫の場合は早かったようですぐに避雷針の上に真っ赤な色をした魂が現れた。
避雷針の上に魂が直撃するとタイガはまた変な声を上げ、模様が炎猫のものに変化していく。
「……お、俺様は一体……。ハッ!?OFFレンジャー!!!」
目を開けるなり炎猫が身構える。ホントにこの辺りの改造猫は脳改造の仕方が甘いようだ。
また勝手に自殺行為をされても困るので今度はきちんと説明しておく事にした。
「待ってください炎猫。その体では貴方の炎の力に耐え切れません。ただでさえさっきの雷猫みたいに……」
「雷猫!?雷猫がいたのか!?……そういえば……雷猫の気配が残っている」
「そうですそうです。雷猫に会わせて上げますから大人しく私の話を聞いてください」
「……いいだろう」
炎猫も落ち着いたようで構えを解き、グリーンの話を聞いてくれるようになった。なにせ炎猫の扱いなどすぐ側にいるゼブラ的な猫で慣れている。
「ブラックキャット団のアジトの場所を教えていただけませんか?」
「そ、それはダメだ……俺様がウィック様にお叱りを受けてしまう……」
「いっちゃぁなんですが貴方もう霊体になっているんですよ?」
炎猫はハッと気が付いたように顔を上げた。
「そ、そうだった!俺様は雷猫の敵を打つ為にお前達を倒さなければ!!」
「あのー……もしもーし?」
「OFFレンジャー!この建物もろとも焼け焦げるがいい!!」
炎猫の体から火花が飛び散る。が、その火花は炎猫の体を覆い始めた。
あまりにも可哀相な記憶力なので隊長共々声をかける気にもならなかった。
「アチチチチチチチチチチチチチチチ!!!!!!!!!」
ゴロゴロと炎猫がのたうちまわったかと思えば、スポンッと魂が何処かへ抜けていっていた。
隊長は諦めずに次の改造猫のデータを打ち込んでいく。そして魂が浮かび避雷針に落ち、タイガの顔が無表情になる。
「……ここは一体……?」
「……えーと、光猫ですねっ!?」
「……OFFレンジャーですか……」
前半とは違いやはり後半はそれなりに学があるようでかまう事もせず無表情に淡々としていた。
「私を呼び出して……どうするつもりですか?」
「そ、その……BC団のアジトの場所を教えていただきたいのですが……」
……タイガが敬語を喋っているとどうも変な気分がするがBC団のアジトを判明する為だ。ささやかな違和感など気にしていられなかった。
「……解りました。もはやこの世に存在しない身……隠す必要もありませんね。お教えしましょう」
「(ここまで長かったなぁ……)ハイ、ありがとうございます!」
とりあえず光猫を席に着かせて尾布市の簡単な地図を用意する。
「それでは、光猫。お願いしますよ」
「ハイ、アジトの右方向に炭化水素の混合物である揮発性の液体の補給所が存在しています」
「ふむふむ……は?」
「その補給所の左方側に音声信号をデジタル信号に変換して記録した円盤の販売所があります」
「え?え?」
光猫はこの調子で淡々とアジトの付近にある建物や特徴のある物等を挙げて行くのだが何一つ理解しがたい説明の仕方である。
光猫の回りくどい性格上どうしてもこのような説明を素で行ってしまうのだろう。
「そのまま地下の下水管や共同溝などに路面から人が出入りできるように設けた縦穴の中にアジトがあります」
「……?」
「こんな所です。それでは私は役目を終えたようなので……」
本日三度目の抜けた音を立てて光猫は帰って(!?)いった。
抜け殻となったタイガの体は椅子から転げ落ち鈍い音を立てて転がった。
「……えーと……最初なんでしたっけ?」
「え?なんか販売所がどうとか……」
「……イエロー解りますか?」
「2番目の円盤とやらは多分DVDかCDかMDかと……」
「はぁ……それでそのDVDかCDかMDかの何でしたっけ?」
「さ、さぁ……?」
結局光猫もあまり役に立つ事が無かった。
ここまで来るとついに降霊機を出した隊長に反感を持つものが現れ始める。
「隊長?私はどうも時間と容量の無駄遣いだと思うのですが……?」
「そうだそうだ!」
「グリーンを悪く言うな!……オレはいつでもグリーンの味方だよ……♪」
そろそろアジトを聞き出さないと隊長としてのメンツも地位も貞操も危ぶまれてくる。
最後に残るのは闇猫だが最後が最後だけに不安な面が多少あるが、もしかする場合もあるので一応降霊機にデータを入力する。
それに、もしもの時の切り札だってちゃんと用意はしてあるのだから……。
『ピピッ!ピピッ!』
入力した瞬間に闇猫の魂が引っかかった。過去の3人の中で最速だ。
闇猫の魂がタイガに乗り移るとニヤリと嫌な笑みを闇猫の姿をしたタイガは浮かべた。
「……OFFレンジャー……久しぶりだな……だがタイミングが悪いようだ」
「はぁ」
「せっかく悪魔への転生試験中だったというのに……また一からやり直しだ」
闇猫はそばの椅子に座ると再びニヤリと笑ってグリーンを見た。
「あれからあの時の屈辱を俺は忘れてはいない……俺は必ず悪魔になって人間どもに復讐してやる……フフ」
「はぁ、まぁ、その、えぇ、うん、あぁ……がんばってください」
「……それで、俺を呼んだ理由はなんだ……」
闇猫は嬉しそうに腕を組んで机の上に足をでん!と乗せて生意気な姿勢になった。
「えぇ、BC団にいよいよ乗り込むことになりまして、アジトの場所を教えていただきたいのです」
「……嫌だね」
闇猫はニヤニヤしながら応えた。悔しがる顔でも見たかったのだろうかこちらの顔を窺っていた。本当に心が闇というかとにかく嫌な奴だ。
「……ウィック様に始末される要因を生んだのはお前達だ。誰が協力などするか」
「シェンナ。この手紙を読んであげて下さい」
「はぁ……ですー」
グリーンから手紙を受け取るとシェンナはゆっくりと読み上げ始めた。
『上村くん』
闇猫が突然、ガタンとバランスを崩して椅子から転げ落ちた。
「なっ!?ま、待て!!名前は……名前は伏せろ……俺は闇猫だ……闇猫なんだ……過去は捨てた……」
「……シェンナ……伏せてあげなさい」
「わかったですー」
闇猫が冷や汗をかいていた。
「闇猫くん。いつもいじめられていた貴方が立派に悪の道とはいえ頑張っているのを知って先生は嬉しかったです。だからう……闇猫くん。悪の道に入る前に一度だけ、一度だけ良い事をしてみませんか?先生のお願いです」
「フン……嫌だね」
闇猫はまだ少し汗をかいていたようだが恩師の先生からだった手紙に拒否反応を示していた。
「うえ……闇猫くん。思えばいつも貴方はいい事をしていましたね。友達の為にパンやジュースを買いに行ったり、友達の掃除当番をいつも代わってあげてたり……でも良く考えれば一年中掃除当番でしたね。がんばってて偉いです」
「……や、辞めろ……もう読むな……」
「あの時はウザイなんて言ってゴメンなさい。先生は花粉症で意識が朦朧としていた為に良く解らないまま言ってしまったのです。だから、上む……闇猫くん。この人たちを助けてあげてね。……以上ですー!」
手紙を読み終えるとシェンナは手紙を闇猫に渡した。闇猫は乱暴に手紙を受け取りまじまじと文面を自分の目で読み始めていた。
「……先生の字だ」
「では、お願いできますね?」
「…………嫌だといったら?」
ニヤリと冷や汗を流しながらも闇猫は自分のポジションを維持しようと頑張っていた。
「手紙の第2部を公開してさらにお願いするつもりです」
「…………お、俺は……だwjtghcg……」
物凄く闇猫が言葉を噛んでいる。もはや断る事もできないだろう。
やはりこういう輩には少しでも頭を使わないといけない。闇猫もしぶしぶ納得してくれたようだった。
「それでは、いよいよブラックキャット団に殴りこみです!」
「オーーーーッ!!!」
「……ウィック様ー!ウィック様ー!!」
金品を抱えたオオカミ達が再びアジトへと戻ってきた。
ウィックは部屋に閉じこもってコーヒーを飲んでいたのだが部屋の外に出る必要は無い。
少し精神を集中させさえすればオオカミの持ってきた金品の30%が手元に、残りは勝手にウィックの部屋へやってくるのだから。
「……部屋にいるだけで金儲けが出来るとは……夢にも思わなかったな」
思わずウィックの口から笑みがこぼれる。コーヒーの香りがさらにウィックの気持ちを高揚させた。
何もしないで金儲けが出来るのだから喜ばない奴がいないわけが無い。
「……もうすぐ俺の野望が叶うのか……長かったな……」
コーヒーに移る自分の顔を見てウィックはそっと自分の頬にある模様にそっと触れた。
自分がBC団に忠誠を誓った時に自らの意思で入れたこの模様が今のウィックには誇らしく思えた。
「……!」
頭の中が急に砂嵐になった。その砂嵐は次第にうっすらと晴れていき次第に頭の中に映像が浮かび上がってきた。
少し神経を集中させると音声まで聞こえてきた。

「……奴らのお出ましか」
ガチャンとコーヒーの奥音が部屋に響いた。しかしそれ以外の物音は何一つせず部屋の中はガランとしていた。
「ここだここ。このマンホールの下だ」
闇猫は尾布市の外れにあるマンホールの側まで案内してくれた。
以前、雷猫との闘いの時も確かマンホールの中に入っていったわけだから考え付きそうな物だったのだが……。
「……こっちだ。ついてこい」
闇猫はマンホールの蓋を開けるなりサッと中に飛び込んでいった。続いて次々に隊員が中に入っていくのだが梯子の中央で闇猫の声が聞こえた。
「……ここだ」
マンホールの縦穴の途中にぽっかりと大きな穴が空いていた。
その中から闇猫がこっちこっちと手招きをしていた。多少入りにくかったが一人ずつその穴の中へと入って行った。
最初は天井の高さがしゃがまなければならなかったが次第に背筋を伸ばしても大丈夫な高さになった。
それにしても、今までの改造猫達がこうやってしゃがんで地上まで出てきたとすれば少し滑稽に思えて仕方がない。
「……さ、あの扉の先だ。俺はここまでしか案内しないぜ……」
闇猫達は硬そうな鉄の扉が見える所まで来た。
だが、扉へと近づいていくうちに扉の前に黒い人影が現れてきた。
「……ようこそブラックキャット団へ」
闇猫の顔が青ざめた。
「闇猫……最後の最後に裏切ったようだな……」
「ちちちち……違います!ウィック様!!」
闇猫が慌ててウィックの前で土下座をする。といってもヘルメットを被った闇猫の顔のタイガだから何か変な図だ。
「……ならば早急に消えろ……」
「は、ハイッ!!」
スポンと例の音がしてタイガはバタリとその場に倒れる。
しかしタイガなど気にしている余裕は無い。ウィックはキッとこちらを睨んだまま黙っていた。
「……ようこそOFFレンジャーの諸君……。敵ながらアジトに来るその心意気……褒めてやろう」
「ありがとうございます!」
「……フ。緊張感の無い奴だ……まぁいいだろう……」
ウィックはパチンと指をならした。ウィックの姿が途端に何かに隠れた。
オオカミ達だった。オオカミ達がウィックの周りを取り囲んでいたのだ。
「な、なんだ!?」
突然オオカミ達が不思議そうに辺りを見回している。
「……俺は改造手術を受け、超能力が使えるようになったのだ……お前達を倒す為にな!」
「!?」
「俺はわざわざお前達に挑み無駄に死にたくは無いのだ……。だから相手はこのオオカミ達がしてくれるだろう」
ウィックの目がキラリと光る。オオカミ達はその瞬間急に唸り声を上げ始めた。
「……俺が辞めろと言うまでこいつらは戦い続けるだろう……せいぜいがんばるんだな」
ウィックが消えた瞬間オオカミ達は今までに無いような迫力でOFFレンジャーめがけて飛び掛ってきた。
避けても避けても次から次へと飛び掛ってきてキリがない。オオカミ達の焦点のあっていない目からして多分操られているのだろう。
何故かオオカミに混じってタイガまで何度か飛び掛ってきた。
「こ、このままでは埒が明かないっすね……」
「とりあえず、オオカミ達を大人しくさせてつっこむしかないですね……」
念のために持ってきたボックスをオオカミの群れの中に放り投げる。
これからの激戦を予想して3つだけ持ってきたのだが……仕方がなかった。
「……オオカミホイホイ」
予想外の状況の為ついつい声が低くなってしまった。ボックスからはG虫ホイホイのようにねばねばとしているシートが現れた。
その上にアダルティックな本が散乱していたのを見つけるとオオカミがその上に殺到する。
そして粘着力抜群なシートにくっついて離れないのだがボックスに頼ってしまったことに少し後悔していた。
「……さ。それではいよいよ乗り込みますよ」
ウィックは既にOFFレンがオオカミ達の群れを突破したと言うのに自室で仮眠を取っていた。
別段、何も不安があるわけでもなかったのだが何故か落ち着けなく、落ち着く手段として仮眠を選んだのだ。
ウィックは夢を見ていた。今までは自分が心地よいと感じるような俗に言う悪夢だったが今日に限ってどうしてか小さい頃の自分になっていた。
『一緒にこっちで遊ぼうよ?』
ウィックの周りを何人かの子供たちが取り囲んで遊びに誘っていた。
変に子供たちの顔がぼやけているのは夢だからなのだろうか……。
『遊ばないの?』
夢の中の自分は口を開かなかった。ただ、黙々と砂場に何かを描いていた。
皆が呼んでいるというのに、ウィックはただ意味のわからない模様を砂の上に書き続けている。
他の子も不思議がってウィックに質問を次々にぶつけ始めてくるが、何一つとして反応しなかった。
『なんでそんなの書いてるの?』
『引っ越してきたの?』
『……お父さんとお母さんは?』
『!』
突然ウィックはグッと砂を掴むと自分を取り囲んでいる子供達に向って砂を投げつけた。
そんな様子をウィックは特に何の感情も抱かず客観的に見ていた。
『痛い……目に入った』
『何するんだ!』
泣いていたり、怒って掴みかかろうとする子供達にウィックは何度も砂を投げつけた。
誠意一杯投げつけるとウィックは子供たちを突き飛ばして走り去っていった。
──ウィックは目を覚ました。
夢を見ている間は特に感じなかったが嫌な夢に思えてきた。
「……」
改めて自分の部屋を見回してみた。砂場などあるはずが無い。
ずいぶん殺風景にガランとした部屋にあるのは、小さな机と金庫といま自分が座っているベッドだけだった。
少し頭がぼーっとするようだった。OFFレンを見てみようと思っても何故か霞がかかったように見えて良く解らない。
しかし机にかかっていたマントを移送させる事が出来たのだから超能力が使えなくなったと言う事ではないようだ。
「まぁいい……ここまで来たとしてもどうせ最後の手段がある」
「その最後の手段とは一体なんなんでしょうねぇ……」
「……!」
部屋の扉を開けてグリーン以下隊員達がぞろぞろと部屋の中に入ってきた。
「……フ。思ったより早かったようだな。所詮あのような足止めは」
ウィックは特に驚いた様子も見せず落ち着いた様子で話していた。
その余裕さが少しグリーンを気にかけさせた。
「……ここは場所が悪い。戦い所に移動していただこう」
パチンと指を鳴らすと部屋の景色がぐにゃりと曲がった。
ぐにゃりと曲がった部屋が次第に形を戻してくると先ほどとは違った広く、薄暗い場所へと変わっていた。
「ここまでとは……」
驚く隊員たちを不敵な笑みを浮かべながら見つめるウィックの姿が不気味に思えた。
「……どうした? そっちが来ないのならば、こちらからいかせてもらうぞ」
「ちょ、ちょっと待ってください!!」
待ったのポーズをかけてOFFレンは急いで緊急会議を始める。
他の隊員も困ったような顔をしてどうすればいいかまったく思いつかないようだった。
「……とにかく私個人としては、思ったよりすごい事になっているようなんで穏便に済ませたいんですよね……」
「隊長……ちょっと弱気すぎませんか……?」
「弱気って貴方……やばいでしょう……ちょっとあれ……ねぇ?」
「ではいったいどうしろと?」
「そうですねぇ……なにか贈ってみましょうか……」
グリーンがボックスを取り出して本部で使った野菜の入ったダンボールを取り出させた。
最初は何かが起きてもすぐ対応できるような素振りを見せていたがこちらに敵意が無いと悟るとその構えを解いた。
「あのー。これ農家の方が心を込めて作った野菜なんです。これで今回は穏便にですね……」
「……俺は金品以外受け取らない主義だ」
グリーンの抱えていた段ボール箱が急に弾き飛ばされてグリーンの後ろにゴロゴロと転がる。
仕方なくグリーンは警察から貰った金一封を取り出してウィックに差し出す事にした。
どうせ前金なのだからここで渡した所で特に後悔は無い。
「……あのでは金一封です。お納めください」
ウィックは乱暴にそれを受け取り、懐へとしまった。
しかし、それからすぐフワリとグリーンの体が持ち上がって後方にいる隊員の方へと吹き飛んでいった。
かなり強い力だったために後ろの隊員も受けきれずバタバタと倒れこんでしまった。
「……な、なにするんですか!」
痛みを我慢しながらもグリーンは立ち上がった。
「……俺は金品以外受け取らない主義だとしか言っていない」
「うゎ!ずるい!!」
「問答無用……俺が生き延びる為には貴様らが邪魔なのだ。危険な芽は早いうちに摘み取るのが俺の信条だ」
再びグリーンの体が持ち上がって地面へとたたきつけられる。その際に足まで捻ってしまって非常に痛い。
「もう!!!いくら温厚な私でも怒りましたよ!!返り討ちにしてくれるわ!!」
「なんかやられ役の台詞みたいですー」
「OFFレンボックススタートっすね!」
ブルーから最後のボックスを受け取るといつものようにおもいきり地面にたたきつける。
「野菜を作ってくれたお百姓さん方!」
ボックスの中からずいぶんがっしりした体つきのお百姓さん達が現れる。
ウィックはまだ余裕な笑みを浮かべてついには座り込んでいた。
「やぁやぁ。君たち元気に野菜を食べているかな?」
「食べてますー!」
「あの人野菜を粗末にしてるんですよー。懲らしめてやってください!」
グリーンがウィックと転がっている野菜を交互に指差すとお百姓さんたちの顔が途端に険しくなる。
「全くなんて子だ!!」
「食べ物を粗末にするなんて!」
「みみみ……みなさん!懲らしめてやりましょう!」
手に持っているニンジンやら大根やらを片手に持ちながらお百姓さんたちがウィックの元へと向った。
ウィックはパチンと指を鳴らすとお百姓さんた達の足取りもだんだん重そうになっていく。
しかし、ウィックと1メートル手前まで来ているというのにずかずかと進んできていた。
さすがにウィックも焦ったようでパチンパチンと何度も指を鳴らすがついにお百姓さん達に囲まれてしまった。
「……な、なぜだ……俺の超能力が使えなくなったと言うのか……?」
「フッフッフ。野菜に対して物凄いパワーを秘めているお百姓さんたちに超能力なんて効かないのですよ」
「なっ……」
妙に硬いニンジンや大根でしばかれているうちに超能力以外何の防御策も用意していなかったウィックもついにお百姓さん達の前に敗れた。
肩を抑えたままウィックはひざをついた。お百姓さんたちもウィックを攻撃する時に使った野菜をお土産においていって消えていった。
「さぁ、ウィック!我々の勝ちですね!早急にこの街から出て行きなさい!!」
「……何かやりましたっけ?俺ら」
「ま……まだだ……。俺はまだ……」
ウィックは悔しそうにこちらを睨んでいた。
「……俺は……人間達に復讐を……」
「?……貴方何がそんなに妬ましいんですか……?」
「……俺は元々身寄りがない。俺は生まれてすぐ親に捨てられたんだ……妬んで当然だろう」
ウィックはフッと笑って言った。
「俺はすぐ孤児院に預けられたが……それでも俺の妬みは消えなかったのだ……」
「……はぁ!?」
ウィックの話の内容とは裏腹にグリーンが呆れたような顔でウィックを見た。
「あ、貴方……そんなことでこのような団体に?」
「……」
「馬鹿馬鹿しい。どんな事かと思えば孤児だからって……」
「お前に俺の気持ちなど解るはずがない!」
「いいですか?自分を捨てた親が悔しいなら親が捨てたのを後悔するくらい立派な人になってくださいよ。
それで、幸福な生活をして……親の面倒を見る必要もないんですからお金も自分だけが使えます。これ以上の復讐はないんじゃないんですか?」
ウィックは馬鹿馬鹿しい!といった風に顔を背けた。その時、突然不気味な声が部屋中に響き始めた。ウィックの体が一瞬ビクッと震えた
『……ウィックよ……仕方がないようだな……OFFレンジャーと共に滅びろ』
「……そ、それはご勘弁を……ブラックキャット様……私はまだ戦えます!……」
『……私のためなら命も惜しくないのだろう?ウィックよ……この部屋をお前の能力で破壊するのだ』
「…………」
ウィックはじっとこちらを睨みつけていた。OFFレンジャーもボックスを使い果たしてしまった以上抵抗できる物と言えば持っている武器くらいだが、
部屋を破壊されてはさすがに厳しい……。
「……ブラックキャット様」
『なんだ……?』
「俺はこの時点で貴方をこのBC団を統制する者として認めません」
『……何?ウィック……貴様!!』
「うるさい!!」
ウィックはブラックキャットの声が響いている点滅したランプの方を振り帰りおもいきりこめかみに力を込めた。
頭の中に何か細い物が見えて、それを超能力で思い切り引き裂いた。
『ぐっ……う、ウィック……貴様……裏切る気か……』
「……俺は命が惜しい。これを想定して俺は改造手術を受けた……」
『……貴様……初めからそのつもりで……』
ブラックキャットの声が次第に苦しそうになっていく。
「……俺に死ぬように言った時点で……お前などもう邪魔者に過ぎん!」
『……き、貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!』
「俺がお前にとどめを刺してやる」
ウィックの目の前に広がる階段をウィックは登っていった。OFFレンもつられて登っていくと最上段に鋼鉄で出来た扉が硬く閉ざされていた。
ウィックはそれを超能力で破壊すると一目散に中へと走っていった。
「……っ!?」
OFFレンが遅れて小さな部屋の中に入ってきくるとウィックが立ち止まっていた
目の前にはなにやらコードでつながれていた小さなチップがバチバチと火花を出しながらそこにあった、
「……こ、これがブラックキャットの正体……なのか」
ウィックが呆然と立ち尽くしていると部屋の中のスピーカーからブラックキャットの声が聞こえてきた。
『…………恩を忘れたか……ウィック……よ』
「……俺はこんなガラクタにいままで仕えて来たのか……クソッ!!!」
わずかにの残っていたコードを引きちぎってチップをおもいきり踏みつけた。もはやスピーカーからは雑音しか流れてこなかった。
『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……』
「まずい!崩れるぞ!!」
一目散にOFFレンは外へと逃げ出し始めた。グリーンはウィックのほうを振り返った。
既にウィックの姿は見えなくなっていた。
「グリーン早く!」
そして数日が過ぎて───。
街を歩いていると向こうからピザの配達員がやってきていた。
「……あ。あいつは……?」
「なんですか……?」
どこかで見たような顔だった。だんだん近づいてくるとあの顔の模様はまさしくウィックだった薄緑色をした服と帽子を被って、ピザを抱えていた。
「……ウィックですか?」
「っ!?」
ずっと配達先の住所が描いてあるらしいメモに目を落としていたウィックがふと顔を上げて驚いていた。
「ピザの配達ですか……?」
「……お前達には関係ないことだ」
ウィックは恥かしそうに帽子を目深に被った。
「ピザ屋でも始めたんですか?」
「……違う。アルバイトだ」
返事はそっけなかったがはっきりと言った。
「アルバイトって……その模様消さないんですか?」
「これは俺の初心を忘れない為にある……金がたまれば新たなBC団を結成するのだ」
「……そうですか」
ウィックはそのまま無言で走り去っていった。なかなかピザを配達する姿も似合っている。
あの様子ではそれなりにがんばっているようだ。その後姿を見つめていたグリーンがピンクはふと気になった。
「どうしたんですか?グリーン」
「……彼は彼なりに生きる希望を見出しているんでしょうかねぇ?」
「さぁ……」
グリーンはピンクの顔を覗き込んだ。
「……今度ピザでも頼んで見ますか?」
「フフ、そうですね」