第49話
『マジカルキャンディー☆ロリポップ』
(挿絵:ホワイト隊員)
200X年1月某日……
太陽系第三惑星地球……高度な文明が築かれているこの地球だが、宇宙にも更なる知的生命体がいると言われている。
ひょっとしたら貴方の身近にもいるかもしれないのだ……。
昨夜、謎の流星がとある観測所で発見された。
その流星は勢いを弱めることなくなんと日本の大阪へと落ちていったのだ……今日の物語はここから始まる……。
「ん~……いい天気だぜー♪」
タイガくんはアジトから出てお日様の下でぐぃーんと背伸びをする。
これがなかなか気持ちがいい。
「地下にばっかり篭ってちゃダメだよな……やっぱ。オレって隠しとくには勿体無い美形だし~?」
タイガはそのままラジオ体操へと移るがふと、そこで変な物が落ちているのに気づいた。
よく見るとピンク色をしたポシェットの様だ。
「金入ってるかな……?」
まずは金額をチェックするタイガ。『誰が落としたんだろう?』とまずそこで考えないのが根っからの悪者の証拠。
しかし、お金らしきものは何も入っていない。その代わり一本のペロペロキャンディーが入っている。
「ラッキー☆ ちょうど甘いものが食べたかったんだよな~♪」
と、タイガはペロペロキャンディーを口に入れようとした瞬間、後ろから声が聞こえた。
「そ、それ私の!」
タイガは少女の可愛い声に反応して振り返った。
白い帽子を被った魔女っ子みたいな少女がタイガの持っているキャンディーを指差していたのだ。
「あぁ、ごめんごめん!キミみたいな可愛い子のとは思わなくてさぁ~♪」
早速、少女を口説くためにタイガはキャンディーを渡そうとしてそっと手を握る。少女は特に何も言わず。じっとタイガの目を見る。
タイガの場合これは『食いついた』反応と仮定して事を進める。
「よかったらお詫びにオレとお茶でもどうかなぁ……?」
少女はキャンディーを取り出してタイガの顔のすぐ目の前に突き出した。
キャンディーの甘い匂いがしてくるが何をしたいのかタイガにはわからない。
すると少女はキャンディーをぐるぐると回し始め、タイガの目もそれに釣られてぐるぐると回ってしまう。
「あ、あれ……?なんか……変な……き、気分……」
タイガは目を回しながら思いっきり後ろへと倒れる。
少女はニコッと笑ってタイガの肩を叩いた。
「さてと。……ねぇキミ。OFFレンジャーの基地に案内してくれる?」
読者諸君。今日のOFFレンジャーは何をしていると思うだろうか?
基本的にゲームか食事の場合が多いが、今日は違う。
なんとびっくり、本日OFFレンジャーは何もしていないのだ。つまり暇なのである。
かと言って、何処かへ出かけるということは決してしない。何事もお金が要るのだ。
お金といっても無いわけじゃない。昨日まではあったのだ。昨日までは。……話は昨日にさかのぼる。
「キミ達!OFFレンジャーの支部を作ってみようじゃあ~りませんか!」
「わー!それはグッドアイデアですぅ~♪」
「それで、どちらに作るのですか!?」
「そうですね~何処にしましょう……!?」
「宇宙がいいですー!」
「そうか!そういえば!駅前の不動産屋になんとか星の」
「じゃぁ!そこにしましょう!そしてそこでいっぱい老人を勧誘して年金を取り尽くすのです!」
「賛成~~!!!」
回想終了。
皆さんは集団心理をご存知だろうか?
つまり全員『宇宙に支部を作る』という冷静に考えれば馬鹿げた話を集団心理によりわからなくなっていたと言うわけだ。
しかし、支部といっても銀河系を3つ越えた辺りのネコの額ほどの小さな家ということになっているが
NASAですら行ったことの無い場所へOFFレンジャーがどうしていけようか……?
「あの時駅前を持ち出したの誰でしたっけ……?」
ふとグリーンが言葉を漏らす。この場合は本人に責任転嫁をする傾向が多く見られる。
もちろん誰も目線でしか合図をしない。
「シェンナお腹減ったですー。バナナが食べたいですー」
「バナナなんてお金持ちの食べ物ですよ……」
「バナナがなければ、もずくでもいいですー」
シェンナのお腹がキュルキュルと鳴り始める。
グリーンはこの最悪の状況を脱するために頭の隅の決断を言葉にするかどうか悩んだ。
「よし、こうしましょう……この中の誰か1人をみんなで食べるというのは……?」
本部内の空気が一瞬張り詰めた。
隊長の悲しい決断……。雪山で食料が尽きた時然り、船の上で食料が尽きた時然り……。
隊員の中には泣き出すものまで出る始末……。
「で、でも誰が……?」
「私に、公平に解決する良い考えがあります」
ゴクリと唾を飲む音が部屋中に響く……。
「名前が美味しそうな隊員をみんなで戴きましょう……」
ハッと一同の顔が強張る。
「で、では……せーので一番おいしそうな名前の隊員を指差しましょう。せーの!」
当の本人を除いて一斉に人差し指の先にはオレンジ隊員が座っていた。
オレンジの指差しているブルーの指の震えがこれまた物悲しさを引き立たせている。
「では、オレンジ隊員を食べると言うことで」
「ちょ!ちょっと!なんでボクが食べられるわけ!?」
「美味しそうな名前だからに決まっているでしょう。怨むなら自分の色を怨むんですね」
そう言いながらグリーンの真横にはずっと戸棚にしまいっぱなしだった調味料セットが置かれている。
以前商店街の福引で当てた物だがよくよく中を見ると塩からガラムマサラまで様々な調味料が入っている。
しかしだからといって「はいそうですか」と食べられるオレンジではない。
「第一、みんな自分の家庭があるんだからそこで食べればいいじゃないか!」
──彼の言っている事は一応正論である。
「シェンナは朝から何も食べてないですー」
「残念ながら私も朝から食べてないんですよ」
声をそろえて他の隊員も同じような答え方をする。
「でで、でも朝からまだ3時間くらいしか経ってないじゃないか!あんたら糖尿病かよ!」
「育ち盛りの少年少女にそんな事言ってもムダです」
そういいながらオレンジの背後でシェンナとクリームがオレンジの体を濡れタオルでふき始める。
それをなんとか振り払いながらオレンジは続ける。
「それに!最近は人食い描写は規制されてるんだよ!」
「大丈夫大丈夫。その部分の描写をしなきゃいいわけですから!ね?」
「へ?」
編集部の都合によりこの間のシーンの掲載は自粛させていただきます。
「ふむふむ……この太ももの辺りがマグロのような味ですね」
オレンジの肋骨をつまようじ代わりにしながらグリーンは食事を終らせた。
調味料のほとんどは使い果たしたが七味唐辛子はイマイチ不人気でこれだけ残っている。
「私たち。人を殺めてしまったのね……」
部屋の中央にポツンと残されたオレンジの残骸を見つめながらクリームは寂しそうに呟いた。
「……我々がオレンジの犠牲を忘れず彼の分まで生きるんです。クリーム!」
グリーンはクリームの肩を優しく叩き微笑んだ。
オレンジの残骸はそっとクリームを励ますかのようにその生々しさを保っていた。
さて、お腹も一杯になった事なので、次にすべき事は買ってしまった土地をどうするかということである。
自分達が買わされた方法に引っかかる人はまずいないだろうし、何分どんな土地かもわからない。
「うーむ……ここは動物的な直感に頼りましょう。……シェンナ」
「はいー?」
グリーンは目で合図をする前にクリームはシェンナの目の高さの位置にしゃがんで2,3言シェンナに話す。
シェンナは大げさに『うーん』と腕を組んで唸った後その動物的な鋭さで出た答えがこれだ。
「シェンナちょっと眠くなってきたですねー」
動物的直感は諦めようと全員が暗黙のうちに決定した。もう動物的直感には頼る事が出来ない。
しかもさらなる危機がOFFレンに訪れようとしていた。お腹が一杯で眠くなってきたのだ。
「む……ぅ……た、確かに眠くなってきましたね」
ただでさえ眠そうなシルバーがさらに眠そうに目を時折こすりながら呟いた。
他の隊員も同じ状況だったが、ただならぬこの眠気は尋常ではなかった。
そう、尋常ではないのだ。尋常じゃない!うん!そうだ!尋常だぁ!
「まさか……オレンジの呪いだったりしてー♪」
ブルーが眠そうな目で明るく笑う。というより無理に笑おうとしているので引きつった笑顔になっている。
「──呪いですか。まぁ、生きたまま喰べられるのは無念だったでしょうが」
「『食』じゃなくて『喰』の所がミソっすね」
「オレンジが私たちに呪いなんてかけられるタマじゃないでしょう」
「そ、そうですよねー!」
隊員が苦笑しながらイエローの言葉に納得した。そうだ。オレンジが呪いなんてかけるはずが無いのだ。
しかし突然シェンナの上半身がガクッガクッと前後に激しく揺れ始めた。
「し、シェンナ!?」
シェンナの上半身がゆっくりと起き上がると白目を剥いたシェンナがニヤニヤ笑いながら隊長のを見た。
む。しかし白目なのに隊長を見るという表現も少々おかしくは無いだろうか?とここまで書いて思ったが、あえてスルーしておこう。
「隊長……よくも食べてくれましたね……」
シェンナはあからさまに良くあるパターンで隊長に恨みの言葉をぶつける。
「こういう状況の場合……えーと……オレンジですね!?」
「もっとしたい事あったのに……怨んでやる……末代まで祟ってやる……」
「チョット待ってください!末代って途方も無く長いんですよ?そんなに根気強くないでしょう?オレンジも」
オレンジはしばしば黙って再び言葉を続けた。
「……訂正。飽きるまで怨んでやる……」
「まぁ、それならいいでしょう。それでオレンジ、今日は何の御用ですか?」
「さっきも言っただろうっ!お前達を祟ってやるんだっ!オレは悪霊になったのだ!」
「悪霊になってからちょっとタイガとキャラが被り始めましたね」
「…………」
オレンジは再び黙りこんでしばしの沈黙が流れた後グリーン隊長の右肩にパンチした。
特に痛くなかったのでグリーンはホコリを払うつもりで軽く肩を摩った。
「フハハハハ!シェンナの体はオレが乗っ取ったぁ!……ちょっと窮屈だけどね」
「待ってください!呪いについてまだ何も話してくれてませんが……?」
この眠気が呪いだといったらお笑い種だがここまでの自信なのだからそれだけではないはずだ。
「呪い!そうだ!呪いだった!お前達はオレの呪いで物凄く眠くなるのだぁ!」
こういう所は生前と変わらないようだ。
「なんだ。それだけですか」
「フフフ……それだけじゃない。一生眠いままなのだ!」
「……」
「お前達は一生眠気に苦しみオレにした仕打ちを後悔するんだな!フハハハハハハ!!」
シェンナの目がちゃんとグリーンの方を見た頃にはすでにオレンジの悪霊は消え去っていた。
結局最後まで悪霊オレンジはタイガと微妙にキャラが被ったままになっていた。
「……面倒な事になりましたね……」
「確かに……シェンナに取り憑くなんて……」
「一番取り憑きやすかったんでしょうね……」
「あー。シェンナ眠くないですー」
オレンジの悪霊に憑かれた後遺症なのかシェンナだけは眠気の効力が無いようだった。
ただ単にいつも食っちゃ寝食っちゃ寝しているから眠気と無縁なのか……。
「おぉいぃ!お前達ぃ~」
その時、場を維持するのに疲れたために早速筆者側からタイガのテコ入れが入る。
フラフラとした足取りでグリーンの方へと向っていく。しかし何か様子がおかしい。
ちょうどグリーンの前まで来た所で急にタイガはグリーンに抱きついてきた。
「グリーン~好きだぁ~結婚してくれぇ~」
「えっ!?ちょっ!?2人目ですか!?」
グリーンの体をぎゅっと抱きしめながらタイガはホランよりも積極的に迫る。
「オレはぁ~お前を愛してるぞぉ~」
「ひっ!だ、誰か助けてくださいー!!」
ついに男に目覚めたのだろうかと周りが疑いだした時に後ろから1人の少女がやってきた。
アニメのヒロインのようにキラキラした目に加え白い帽子にポシェットと珍しい身なりの少女だ。
「あ、あのー……?」
イエローが少女を引きとめようと手を伸ばそうとすると少女はくるっと振り返って言う。
「あの、汚い手で触らないでくれます?私、オバサンには用はないので」
「お、オバサン……」
ムッとしたイエローの顔を見ずに少女はタイガの真横へと歩いていった。
グリーンが少女に気づくと同時にタイガも少女に気づいて少女の方へフラフラと歩いていく。
「タイガくん。もういいわ。OFFレンの所在地がわかったから」
「はぁ~い~」
ここでタイガの目がシェンナのようにぐるぐるおめめになっているのに気づいた。
こういうニクイ演出をしている場合90%は本人が催眠状態にあることが予想される。
「ごめんなさい。ちょっとふざけてみただけなんです」
「……あの、貴方は……」
「……どうぞ」
少女はポシェットから一枚の名刺を取り出すとスッとグリーンに手渡した。
名刺にプリントされたピンクのラメがイヤミなくらいにキラキラ光っている。
「キャンディー星人の……ロリポップさん?」
「ハイ♪」

「職業……魔法少女」
「ハイ♪」
「副業……実家の不動産屋の看板娘……なんですかこれは?」
この少女──ロリポップはどうやら宇宙人らしい、そして魔法少女で実家は不動産屋でしかも看板娘らしい
しかしだからといってOFFレン本部に乗り込んだりタイガを操ったりする意味が全くその行動からは垣間見えない。
敵という可能性もあるが、そんななりもしていないし殺意も感じない。
「あの、ご用件は?」
とりあえず眠い目をこすりつつグリーンは少女に問いかける。こう聞かない事には話が進まないのだ。
「用件?胸に手を当てて考えるとかしないんですか?地球人は」
「え、あ、はぁ……すいません……(胸に手を当てている)……わかりませんねぇ」
「胸に手を当てたって解るわけないじゃないですか……やっぱり知能指数が低いようですね」
眠気の上にこうも腹立つ娘と会話をするのがグリーンには酷に思えた。
とりあえず用件を聞き出さなければ……。
「あの、用件が全くわかりません。……教えてください」
ロリポップはフッと鼻で笑うと手に持っているペロペロキャンディー型のステッキをコツンと床に叩き付ける。
一瞬の閃光が明けると同時に床一面に何かの地図が広げられている。
「これがキャンディー星の第7番地の地図。よく見てください」
「はぁ……」
ロリポップは中心から少し右に寄ったまぁまぁ大き目の四角をステッキで指した。
「これが私の不動産屋の店舗。自営業でも結構土地広いんですよ」
そしてそこからステッキはずーっと右に行った辺りの小さな四角で囲まれた部分を指した。
「そしてここが……私達が住んでいる家。!」
「ハァ……小さいですね」
他の土地と違ってこっちの四角の大きさはサイコロ大、実際には小さな教室の大きさくらいしかないみたいだ。
「あなた馬鹿?こっちは母屋。さっきの土地全部がお店な訳ないでしょう?嫌~もう地球人って馬鹿だから嫌なんですよ」
「そこまで言わなくても……」
「……それで、土地を見せられてもまだ用件がわからないんですけど?」
グリーンとロリポップの間を割ってイエローが間に入る。ロリポップはこっち側の理解力の無さに呆れたような顔でめんどくさそうに話した。
「この母屋には私達の印鑑、通帳、パスポート、懐かしい日々の思い出諸々を保管してるんです」
「はぁ」
「所が、この前この土地の権利書を勝手に盗んで他人に売った奴がいたんです!」
「は、はぁ……」
「わかります!?不動産屋が自分の土地を他人に買われるなんて……!」
「はぁ……そうですね」
「で、その買った奴を突き止めて土地を返却してもらって損害賠償と慰謝料を請求しようと言う訳」
「はぁ……それでその人とは?」
ロリポップのステッキはグリーンがまだ言い終わらないうちに隊長を指した。
「あんた達よあんた達!!悪いけど損害賠償と慰謝料たっぷり払ってもらうから!」
……果たしてグリーンはロリポップに損害賠償を支払わなければいけないのか?
などと某番組を意識している場合ではない。OFFレンはキャンディー星などとあからさまな場所の土地など買った覚えがない。
「私はキャンディー星の土地なんて買ってませんよ!第一行けないじゃないですかそんな所」
「地球の化学如きで私たちの星に来れるわけ無いでしょう!もう少し脳を使うとかしないんですか?」
「キャンディー星なんて何処にあるかもしれないし……いい加減にしないとこっちも出るところでてやる……ますよ!」
眠気が再び襲ってきたので強気に喋ろうとしてもつい語尾が弱まってしまう。
オレンジの悪霊の呪いは口げんかの時には不利でたまらない。嗚呼……これを排泄すれば何とかなるのだろうか。
「キャンディー星は地球では冥王星とも呼ばれているらしいけど……」
冥王星!未だ宇宙船すら到着していない月よりも小さく太陽から約5913520000km離れているあの冥王星!
「冥王星なんて……人住んでるんですか?」
「科学が発達すれば住めない星なんてありませんよ。あなた本当に人間?」
「はぁ……そういうもんですかねぇ……」
そういうとロリポップはタイガの蝶ネクタイをクイッとステッキで引っ張りグリーンたちの前へとつれてくる。
「そんなことはどうでもいいのよ。早く返してくれないとコイツをけしかけますから」
「そんな事言われましてもねぇ……。第一、買った人よりその売った人を訴えればいいのでは?」
「法律が違うんです。こんな不浄な星とは。結局盗まれたのが悪いってことになる訳。解ります~?」
ロリポップは全く聞く耳を持ってくれない。こういうガメツイ少女が本当に看板娘を努めているのかと思うと情けなくなる。
「……ちょっとあんた何様のつもり!?」
ホワイトがロリポップのポシェットを掴んでキッと睨む。
男子隊員だったら震え上がるその眼力もロリポップは全く動じていなかった。
「あの~私、可愛いから虐められてるの慣れてるんですけど?」
「はぁ!?」
「離して下さい。聞こえません? は・な・し・て・く・だ・さ・い!」
ホワイトの手を振り払うとロリポップはペロペロキャンディーを取り出してホワイトの顔の前でくるくると回した。
「ちょっ……あんた……何……」
「……ちょっと眠っててくれます?私、貴方みたいな方とお話しするために来たんじゃないんです」
突然ホワイトはバタリと倒れた。一仕事終えたような顔をしてロリポップはキャンディーをポシェットに閉まった。
ポシェットに閉まったら閉まったらで今度は何やら変な字が書かれた書類をグリーンに突き出してきた。
「さてと、それじゃぁ誓約書にサインしてください」
「誓約書?」
「『全て我々が悪い』って認めて、慰謝料と損害賠償、地球の通貨で20億とんで500円!とっとと支払って!」
ロリポップは誓約書をグリーンに詰め寄ってくる。女性と言えどもずいぶんと迫力が強い。
「さぁ!さぁ!さぁ!!!!」
「(う……またなんだか眠く……)ちょ……あのぉ……」
「誓約書にサインしてくれますね?」
グリーンはオレンジの呪いで再び眠気が突然襲ってきた。
「どうするんですか!ちょっと!」
「もぉ……今ちょっと眠いんですってばぁ……」
「私のこと馬鹿にしてるんですか!ちょっと!!」
「わかりましたから……寝かせてください……むぅぅ……」
「じゃぁ、サインしなさいよ」
「はいはいはいはい……」
グリーンは地球人でも読めないような変な曲線をぐにゃぐにゃと眠そうな目で書く。
するとロリポップは満足そうに誓約書を丸めてポシェットに閉まった。
「さてと♪それじゃぁ後日キャンディー星から詳しいことが送られてくると思いますので♪」
ロリポップはキャンディーのステッキを取り出し始めた頃、グリーンの眠気は一旦吹き飛んだ。
「ハッ!眠気のせいでついどうでもよくなっていました!!み、みなさん!あの娘を取り押さえてください!!」
グリーンの大声に眠そうにしている隊員もハッと目が覚め慌ててワープしようとしているロリポップを大勢で押さえつけた。
「キャッ!!ちょ、ちょっと!監禁する気ですか!?」
「そう簡単に返すわけにはいかないんですよ!20億とんで500円なんて払えません!」
「じゃぁ、末代までのローンでいいわ」
オレンジみたいなことを言い出したなぁ。と隊員が考えているとロリポップはその場で目を回しながらフラフラと歩いているタイガにもう一度ステッキを振りかざし。
「ちょっと、タイガくん!この人たちをやっつけなさい!」
タイガがロリポップのほうに気が付くと早速ロリポップはぐるぐるとステッキを回し始めた。
「にゃ……にゃぁ……?」
「早く来て!」
そのぐるぐるをみつめながらぐるぐる目玉のタイガがフラフラとロリポップを取り押さえる隊員たちをひょいと持ち上げてぽっと投げ捨てた。
「痛っ!タイガくん覚えてなさいよっ!」
女子隊員まで躊躇うことなくタイガは投げ飛ばして行く。
ようやくムスッとした顔のロリポップが立ち上がった。
「……ありがとうタイガくん。それじゃ、私はキャンディー星に帰るわね」
ロリポップがステッキを高く突き上げた。今すぐ取り押さえたい物の、タイガが彼女の周りをうろうろしている。
いくら催眠状態とはいえタイガは虎だと自負しているだけあってさすがに力は強い。
「あ~ぁ。この星汚いから早く帰ってシャワーでも浴びないと。それじゃぁみなさん。さよならー♪」
ロリポップがステッキを振り下ろそうとした時、サングラスをかけた変な男がロリポップの背後に立ったていた。
「っ!?」
ロリポップが異変に気づいてステッキを男に向けようとするが男はステッキを叩き落としそのまま足で粉々に踏み潰した。
叩き落された衝撃でロリポップが倒れこむと、男はそのままロリポップを取り押さえた。
「あはー。何処の誰かは存じませんがありがとうございます」
「渡る世間も鬼ばかりじゃないですねー」
ロリポップを捕まえてくれた男に感謝するOFFレンだったが男は薄ら笑みを浮かべただけでいた。
「……私はあなた方の為にこの少女を捕まえたわけではありませんよ……」
眠い目を何度もこすりながら男をよくよく見てみるとどこかで見たような男である事は間違いなかった。
妙に若々しいながらも、なりだけはきっちりとしていて妙に敬語を使うこの男
「……あぁっ!某国の……!」
男は「やっと解ったか」といった風に口元をニコッとさせた。
「その通り……再び某国より日本に派遣されたエージェントでございます」
「……こ、今度は一体何を企んでいるんですか?」
エージェントはフッと鼻で笑うと懐から数枚の書類を取り出した。
「……まだ気づかないのですか?あの不動産屋は私……そしてキャンディー星の土地の権利書をいろいろあって盗んだのも私」
「な、何故そんな事を!」
「……我が国では観光客が減少するという非常事態が起こっているのです。このままでは我が国の経済が破綻してしまう!」
「それで……?」
エージェントは網の中嫌がっているロリポップを抱えて言った。
「……この娘を我が国の看板娘として利用し、世界中からスケベな観光客を呼び寄せるのです!」
「な、なんという恐ろしい事を!」
グリーンはを珍しく武器を取り出そうとしたが、再びオレンジの呪いが効いて来たのかまたもや眠くなってきた。
しかもよりによってかなりの眠気だ。なかなか思うように次の足が出ない……。
「ちょっと!貴方達何してるんですかっ!もー!本当に使えない人たちっ!」
「仕方ないんですよぉ……オレンジの呪いで……眠気……ねむ……」
「呪い……?」
呆れたような顔をするロリポップの目が3つになり4つになり……今季最大の眠気だ。
「……それでは皆さんまた会いましょう……我が国に来られる時は是非ご一報を……」
ロリポップの入っている網を抱えてエージェントは一目散に走り出した
ぼやけていく視界の中で去っていくエージェントの姿とロリポップの言葉だけが頭に残った
『呪いを解きたいのならキャンディー星へ行いって!後私のステッキを……』
しっかり目が覚めた頃には既にロリポップもエージェントの姿も何一つ見えなかった。
シェンナとブラックは粉々に砕けたキャンディーステッキの欠片を美味しいのかもぐもぐと無言で口に含んでいた。
「……あぁ……誘拐されたんですねぇ……」
「早速某国にでも乗り込みますかねぇ……?」
のんびりとした会話をしながら時計を見つめてみる。まだ1時間ほどしかっていない。
某国が韓国や香港ではない限りまだ飛行機の中にエージェントはいるだろう。
最も、まだ日本で潜伏しているという事もありえない事ではないのだが……。
「でも、この眠気いいタイミングで襲ってきますからねぇ……なんとかならないものか」
「ロリポップが何か言ってませんでしたっけ?」
「あー。確か……キャンディー星に行けとか何とか……」
「キャンディー星に行け?……そんな無茶な……」
こればっかりは一同が一同とも同じ意見だった。
まだ人類が(ロリポップは人類なのか不明だが)到達していない所に、どうやって一般の中高生がいけるだろうか。
「なんとかして行く方法はないものか……。異世界への入り口とか誰か知りません?」
「私は全然……ただでさえ方向音痴ですから……」
パープルも困ったように肩を落とす。しかし、その言葉にグリーン隊長の脳みそが大幅にフル回転することとなった。
「……そ、それです!パープル隊員!」
「え……?」
「いいですか?パープルと一緒にこの街を探索するのです」
「はぁ……」
「パープルは方向音痴。普通な道を歩くはずがありません!きっと冥王星に行くことが出来ますよ」
喜んで良いのか解らないパープルと同じく他の隊員も少し不安そうだったがこの際かけてみるしかないという事になった。
「それでは今から準備しますね」
なんだか変な成り行きで、パープルを先頭に他の隊員の体を荒縄を巻き付け汽車ごっこの要領で尾布市を歩いて回ってみることにした。
女子隊員からの猛烈な抗議があったが次第に眠気が襲ってきたようで別段恥かしさも薄れた頃ようやくOKが出た。
「しゅっぽしゅっぽしゅっぽっぽー♪」
とぼとぼと尾布市内を歩き回るOFFレン。シェンナだけが妙に嬉しそうに汽車ごっこをやっていた。
途中でクスクスという笑い声や罵声が飛んでき始めてつい先頭のパープルは走り始めた。

「わっ!パープルどうしたんですかっ!」
慌てて後ろの隊員たちが引きずられそうになりながらもパープル同様走り始めた。
確か商店街を走っていたはずなのになぜか紫色のぐにゃりと曲がったアーチや、
金色に光る粉がキラキラと光を反射しながら飛び回る花畑など見たこともないような場所をOFFレン達は走っていた。
「あっ!ストップ!ストップ!!」
明らかに地球ではない紫色のでこぼこした土地に気が付いて誰かが声を上げた。
慌ててパープルが足を止めるがこの星にも慣性の法則が適応するようで見事将棋倒しになってしまった。
「……イタタ。 まさか本当に冥王星に来てしまうなんて」
「方向音痴ってある意味超能力なんですねぇ……」
グリーンが早速またもや眠い目をこすりながら立ち上がった。
「そんなことよりも!早くロリポップの言っていた呪いを解く人を見つけなければ……」
「あっちっすね」
ブルーがグリーンとは反対方向を指差した。
「ブルー隊員。ここは隊長の言うとおりに……」
「いやでも……書いてますよ」
ブルーの指差す方向に『お祓い住宅探し何でも御座れ!この先右折→』と書かれた真新しい看板が立っていた。
「……と、とりあえず行きましょう……」
少し照れくさそうな顔をしてグリーンは逆方向へと進んでいった
『キャンディー不動産』と書かれた安易な名前の建物の前でOFFレンジャーはウロウロとしていた。
ガラス戸のような物はあるのだが前に立っても自動ドアではないみたいだから開いてはくれないし、
引いてみても押してみても全くびくともしなかった。さすがに文化が違うせいなのか本当に困った。
「……割って入っちゃいますか?」
「さすがにそれはまずいかと……」
もう一度グリーンはその扉に触れてみるがよく触ってみるとガラスのクセに少しぶよぶよしていた。
「……これはまさか……」
グリーンは思いっきりガラス戸を叩き始めた。そのたびに『ぶよん ぶよん』と気の抜ける音がする。
そしてついにグリーンはそのガラス戸に向って体当たりをした。
『ぶよぶよっ』
というなんだか嫌な音ともにグリーンはそのガラス戸の中を一気に突き抜けて中へと飛び出していった。
「……なるほど。そういうことですか」
「え?」
「このガラス戸はゼリー状なんでしょう。ですから自分が突き破る事によって中に入るんです」
「なるほど……」
勢いが強すぎたのか痛そうに膝を摩っているグリーンに続いて次々に隊員達はガラス戸を突き破って中へ入って行った。
途中、勢いが弱かっせいかシェンナが引っかかってしまったがなんとか中への潜入は完了だ。
「……おや、いらっしゃい」
入り口近くのソファに座っていた人の良さそうな男が隊員に声をかけた。
「物件をお探しですか?それともお祓いですか?」
「お、お祓いをお願いします」
「お祓いですか……解りました。うちの看板娘がいないもので少し見苦しいと思いますが何卒ご了承ください」
「は、はぁ……」
男は足元の茶色い紙袋から化粧道具を取り出してなにやら化粧をし始めた。
口紅のつけ方もぎこちないようでメチャクチャではあったが隊員達は見ているしかなかった。
「もうすぐですのでもう少しお待ちを……」
「あぁ……はい」
男は白い帽子とポシェットを取り出してそれを装着するとどこかで見たようなステッキを取り出し始めた。
「あのー……一体……」
「すいませんねぇ。このステッキは娘の格好じゃないと使えないもので」
「娘さんって……ロリポップとかいう方ですか?」
「おぉ……娘をご存知ですか。いやぁ……とんだはねっかえりでして」
照れくさそうに女装をしている父は頭をかいていた。
「……そ、それより。早く除霊を……」
「あぁ、はいはい。かしこまりました」
ロリポップの父はステッキを頭上でくるくると振り回し始めた。
「みんなに取り付いた悪霊を取ってあげてぇ~!」
元が渋い声なのに、ロリポップの声色を無理に真似なくてもいいと思うのだがこれも仕様なのだろう。
多少胡散臭い感じではあるが、ふっとグリーンは口の中に異物感を感じ始めた。他の隊員も同様でなにやら口をもごもごとし始めた隊員もいる。
「げほっ!」
咳とともに黒い飴玉のような物が口の中から飛び出した。
ゴロゴロと他の黒い玉も床を転がり始めた。
「それが霊体です。どうぞ踏み潰してください」
「え、でも……」
「悪霊ですから。容赦してはいけません」
イエローは早速飴玉を踏み潰した。何しろ悪霊は容赦してはいけないそうなのだから
オレンジの「ギャッ」という声が聞こえてきそうだったがまぁ気にしてはいけない。
プチプチと弾けるような音がした。だが意外とあっけないものですぐさまそれは終了する。
「……除霊完了です♪」
再び裏声で父は言った。もういいと思うのだがこれも多分仕様なのだろう……。
「……ありがとうございます」
もっとTVとかで見たような奇声を上げたりする除霊とは違って少しあっけにとられてしまった。
だからそんな返事しか出来ない。よほど地球とは別な文化を歩んできたのをマジマジと見せ付けられる。
「ところで、娘をご存知だそうですが……ご迷惑かけてませんかね?」
「……あぁそうそう。娘さんがですね。ちょっと誘拐されてます」
「誘拐ですか……。まぁステッキがあるので大丈夫でしょう」
ずいぶん平凡な表情で父親はさらっと返した。
そのステッキがないと解る反応も気になるところだが何もそんなくだらない好奇心で次数を無駄にする必要もない。
「……予備のステッキってあります?」
「私が持っているのがそうですが……」
「お借りしてもいいですか?娘さんが持ってこいと……」
「……はぁまぁ……どうぞ。こんなのでよろしければ」
形は少し小さいものであったが間違いなくロリポップの持っていたものと良く似ていた。
舐めれば本当に甘味がしそうな感じだが舐めている場合ではない。早くエージェントを追わなければ!
「やはり飛行機だと快適ですね。お嬢さん」
エージェントは縄でしばられているロリポップに向って声をかけた。
「……何処に連れて行くつもりなんですか!?」
「某国とだけ言っておきましょうか……」
ロリポップは思い切り腕を広げようとしてみるがきつく縛られている為自分の力量だけではどうにもならなかった。
そんなロリポップの様子をサングラスの奥の目が微笑みながら見ていた。片手のワイングラスがなんとも彼女の怒りに火をつける格好となっている。
「……あぁもうっ!最低っ!だから地球なんて来たくなかったのよっ!!」
「まぁ、そうおっしゃらずに……。この飛行機は我が国専用……騒いでも無駄ですよ」
「……何してるのかしら……アイツらは……」
「ここにいますっ!!」
大きなドアがガタンと開いてぞろぞろとOFFレンジャー達が飛行機の中へと入ってきた。
「ほぉ……ずいぶん早いお付きですね」
エージェントは平然とした態度を全く変えずそのグラスに注がれたワインをごくりと飲み込んだ。
「さぁ、観念しなさい某国のエージェント!」
「正義の味方がおむかえでゴンスですー!」
「かっこつけてないで少しは私を助けるとか考えないんですかっ!!」
ロリポップが座席に何度もけりを入れながら叫んだ。
助けようと思っていたのにそんな態度で言われると助ける気も失せてしまうという物だ。
「あ、これステッキです」
ひょいとグリーンの持っていたステッキをロリポップの方向へと投げた。
縄から少しだけ出ている手がそれを受け取るとブチッと意図も簡単に縄が千切れた。
「……あー痛かった……。覚悟は出来てるんでしょうね?」
「ほぉ……形勢逆転というヤツでしょうか……?」
OFFレンに取り囲まれていてなおかつ魔法少女も復活したというのにエージェントはまだ平然を気取っていた。
「OFFレンボックス用意!」
ブルーが慣れた手つきでグリーンにボックスを手渡す。まだエージェントは動かない。
「……久々の宅配トラック!」
飛行機の外壁を突き破って宅配トラックが登場。まだまだエージェントは動かない。
トラックの中から男が出てきて伝票に配達先『某国』と書き込んでもまだ動こうとしない。
「ついに観念したんですね……。さぁ、入りなさい」
「ちょっと!私の家の権利書がまだ返してもらってないんですけど!!」
ロリポップがステッキを振るとエージェントの懐に入っていたと思われる権利書がふわふわと飛び出して彼女の手元へと帰る。
そこまでされてもエージェントは動かずしきりに手首を触っているだけだった。
「ホラ!早く宅配トラックの中に入りなさい!」
エージェントは不敵な笑みを浮かべながら黙ってトラックの中に入るとトラックはそのまま突き破った外壁を残して走り去っていった。
特に変な動きもなかったし一応これで一件落着のようである。
「……なんかずいぶんとあっけなかったですねぇ……」
「でもあの不敵な笑みは……何かありそうですね……うむぅ」
「まぁいいじゃないですか。容量の問題もありますし」
「さてと……それじゃぁ権利書も戻ってきたし。帰りますね」
「はいはい。また遊びに来て下さいね」
「絶対嫌です。こんな汚い星2度と来るわけないじゃないですか」
ロリポップはニコニコしながら言っていた。相変わらずだなぁとOFFレン一同は思いながらも愛想笑いでそれを返した。
「タイガくんにもよろしく言っておいて下さいねー。唯一気に入った地球人は彼だけですし」
「あーはいはい。了解です」
「それでは、さよなら!」
『さよなら』の部分に妙に気分が入っていたようだがロリポップはステッキから出たキラキラした光に包まれながらすーっと消えていった。
やれやれ……さっきまで重かった肩の荷がやっと下りた気分だ。
「みんな~!!」
そこへ向こうの方から笑顔でオレンジが駆け寄ってきたのに気づいた。
一体、いままでドコに行っていたのだろうか……この男は。