第50話
『トラトラトラブル全員集合!(2)』
(挿絵:パープル隊員)
「……近い。我がこの世界を虎の王として君臨する日は近い……」
ティグレスの目の前にはほぼ完全に虎化してしまったオオカミが綺麗に整列をして跪いた形で聞いていた。
「……そろそろ、外界にも手を出す頃か……」
表情一つ変えずにティグレスは遠くを見るように呟いた。
尾布ど田舎公園は春以外は全くどの年代層にも相手にされない公園である。春は桜が綺麗だが散ってからが物凄い。
手入れをする人もいないので草は伸び放題で12月の市役所が行う草刈りまでは放置されている。
遊具も色褪せ、錆び放題で、もはや廃墟となっているといった方が確かなのだろうか。
「……虫が飛んでますね。いっぱい」
そんな公園に第一班はやってきているのである。このじめじめとした季節。虫も半端な数ではない。
今年のお花見はBC団やらなにやらで出来ずじまいだった為ココに来るのは実に1年ぶりである。
「確か……タイガが手品をしたんでしたっけ」
「俺も南京玉簾やりましたからね」
ここでの思い出などかくし芸大会の物しか残っていない。それにしてもタイガのかくし芸は凄かった。
自分の体をバラバラなんて、プロでも簡単に真似出来る様な代物ではない。
他にもいろいろと懐かしもうとするのだがこう風景が草や虫の邪魔によってそれも出来なかった。
「桜の木も花が散ってしまうと惨めですねぇ……」
「そんなことはありません……」
草むらの影からピンク色の服を着たいかにもな妖精っぽい人がこちらへと近づいてきた。
「……緑が生い茂っている桜も乙な物ですよ。ホラ、貴方も緑色……解るはずです」
「確かに私は緑色ですが、植物じゃないんですよ……」
「桜を増やす為に私もいろいろな手立てを打ちました……例外が一人いましたが……」
「あの……あなたは一体誰ですか?」
妖精っぽい人はハッと気がついて軽く礼をした後自己紹介を始めた。
「私は桜の精……この公園の桜の木の守り神です。ところで貴方、桜の木になる気はありませんか?」
「は?……え、遠慮しときます」
「そうですか……」
後ろ手に何かのこぎりのような物を持っていたのが見えたが桜の精は残念そうにそれをしまった。
心なしかあまり元気がなさそうである。
「桜が散ると私の存在意義がなくなってしまうので辛いんですよね……はぁ」
「来年がありますよ。来年が」
「ありがとう……所で桜になる気は……」
「だからありません……」
桜の精はまた残念そうに後ろに持っていたものを隠した。
「所でミシンコードってご存知ですか?」
さすがにめんどくさくなってきたのか脈絡もなく隊長は質問を挿入するようになってきていた。
序盤のホランゾーンで相当疲れているのだろう……。
「ミシンコード……知りませんね。私、夏の中ごろから冬にかけては冬眠するので実質半年くらいしか起きてないんです」
「知らなければいいんです。ありがとうございました」
「いえいえ……桜の木になりたくなったら早めに来て下さいね。すぐ桜になりますから……」
転送装置のボタンを押しながらグリーンはどこかで彼女を見たような気がしてたまらなかった。確かタイガのかくし芸の時に……。
──じめじめとした空気が第2班の面々を包んだ。
ステンレス製のような安っぽい壁には見たこともないようなカタツムリたちがねばねばとした液跡を残しながら部屋中を貼り巡っていた。
「……気持ち悪いね」
ブラックが下のライトブルーに声をかけるが当のライトブルーは苦い顔をして応えなかった。
チラッとライトブルーの足元を覗いてみると床一面に赤青黄色という謎の彩のカタツムリが我が物顔で這い回っていた。
「……か、カタツムリくらい!!ね?グレーだって剣道やってるもんね!?」
「も、もちろん……すり足は定番中の……定番……」
ホワイトとグレーが強気な顔になってはいるが問題の両足はコンクリートで固められたようにきちんと両足そろえてまったく微動だにしない。
「みなさん。我々の同好会本部へようこそっ!!」
はるか向こうの小さなドアの向こうから全身黄色い服に身を包み頭に渦巻き模様をつけている怪しい集団が部屋に入ってきた。
そう、彼らこそ日本のカタツムリの愛と平和を守っている(?)カタツムリ同好会なのである。
「そう、我々が!」
『カタツムリ同好会!』「最近梅雨入りで浮かれ気味の!」『カタツムリ同好会!』
無事に決めポーズも決まったようで満足そうにリーダーらしき男がこちらに近づいてくる。
肩に乗せているカタツムリがかわいいのやら可愛くないのやら……。
「えーと……5名入会希望だね!今後もよろしく!」
「さぁ、これが君たちに用意したカタツムリ同好会専用コスチュームだよ!」
「これからカタツムリの為にがんばっていこう!!」
次から次へと打ち合わせでもしたかのように絶妙なタイミングで語りかける同好会の会員達。
各自コスチュームを渡されるがこんな真っ黄色な服恥かしくてとても着れた物ではない。
「あの……私達入会しに来たわけじゃないんです」
「入会じゃない!?じゃぁまさかナメクジ同好会のスパイか!?」
「そうだな。きっとそうだな見た感じナメクジが好きそうな顔をしてるよな!?」
「ドコとなくナメクジでできているみたいな顔しているからな!」
基本的に3人が続けて話すのがここでのデフォルトらしいが、これでは一向に話が進まない。
さすがのホワイトもそろそろ足にまでやってきそうなカタツムリもあってイライラが頂点に達しようとしていた。
「あんたら忘れたのっ!? OFF!OFF!OFFレンジャー!!」
「OFF……ハッ!そうかキミ達はてるてるさんのお友達の!」
「その節はお世話になりました!」
「あの幼稚園児と虎猫はもうカタツムリを食べていなでしょうね?」
「えーい。うるさいうるさいっ! 喋るのは一人だけでいい!」
怒ったり自己紹介したりホワイトも何だか疲れてきた。
「まぁ、まぁ……ホワイト」
思い切り叫んでホワイトの気分も少しだけ本当に少しだけ楽になれた。
ここでまたミシンコードの事を話せばまた複雑な状況になりそうだがここは上手く聞いて上手く帰っていこう。
「実は、私達ミシンコードって言うのを探してまして……あ、まだ喋らないで下さいね」
口を開こうとした同好会リーダーの口元を見ながらホワイトは話を続ける。
「そこで……ミシンコードを知っている人がこの中にいるんじゃないかなー?と」
「……喋ってもいいですよ」
パープルの言葉にホッとしたリーダーが早速質問に答える。大体出る答えはわかりきっているつもりだが念のため聞いて損は無いだろう。
「……知りませんね」
「それってミシンとは関係ないんですか!?」
「ミシンだったらいいのがありますよ!これでカタツムリのアップリケを付けようかなって!」
「あー。はいはい……ありがとうございました。私達の用事……それだけなので」
ホワイトは早速転送ブラックが手に掴んでいるカタツムリを叩き落とすと装置のボタンを押す。
「……みんな大げさだよな」
上のブラックの言葉になんとなくライトブルーは同意する事が出来なかった。
そしてこの間、結局誰一人としてコンクリートの足を動かさなかった。
「くぴっ!!」
突然真っ白な霧が充満した部屋の中でオレンジが奇声を発した瞬間白目をむいき、首をカクカク上下に揺さぶりだした。
「オレンジ首痛いんですかねー?」
「そうね。あんな髪形してたら痛くもなるわね」
カクカク揺さぶっていた頭が急にピタッと止まるとオレンジの声ではない地を這うような不気味な声が彼の口から漏れてきた。
「キヒヒヒヒ……あの時の恨みは忘れんぞ……」
「クリーム。オレンジお腹がすいてるんじゃないですかねー?」
「そうね。あんな髪型してたらお腹も減ってくるわね」
オレンジに取り憑いている物とは何か?それは数年前無残にもイエローが塩酸で溶かしてしまった縁日の金魚の霊だった。
以前はシルバーがその被害にあい、なんとか除霊のような物をして退治したのだがこうしてこの地球上に残っていたとは全く恐ろしい!
「さて……どこかにミシンコードを知っている人はいないか探してみましょう」
「キヒヒヒヒ……」
「邪魔ですオレンジ」
オレンジの体を押したイエローの手をオレンジは物凄い速さで掴んだ。
白目をむいたまま嫌な笑みを浮かべつつもう片方の手をゆっくりイエローの首に伸ばす。
「キヒヒ……お前を殺してやる……」
「は?いつからそんな口を利くようになったんですかオレンジ。切り刻まれたいんですか」
「キヒヒ……」
イエローの首をオレンジの手が掴む。その力がだんだん強まってイエローも少し苦しくなってきた。
「ちょっとオレンジ……殺す気ですか!」
「キヒヒ……殺してやる……」
「クリーム。オレンジ何か悩みでもあるんですかねー?」
「そうね。あんな髪型してたらどんな人でも悩んじゃうわね」
いい加減イエローが苦しそうなのでクリームとさすがのシェンナもやばいのではないかと思えてきた。
「大変ですー!イエローが手篭めにされかかっているですー!」
「違うと思うけど……」
「イエロー!ちゃんとごめんなさいするですー!オレンジ多分怒ってるんですよー!」
「は……は?」
苦しそうにイエローは応えた。
「いいから謝るですー!ごめんで済むのが男ですー!」
「お……オレンジ……ごめん……ごめん……なさい……」
「キヒヒヒヒ……」
オレンジは全く動こうとしないどころかさらに力を入れたようでイエローがますます苦しそうにオレンジの手を掴んだ。
「オカシイですねー。シェンナの茶色の脳細胞でもこれは難問ですー」
「よけい怒らせちゃったんじゃない!この馬鹿シェンナ」
「むむむですー……あ、解ったですー!ミシンコードの事をきっと自分も聞いてほしいんですよー!」
「……は……?」
さっきよりも苦しそうな声のイエロー。苦しい中でもちゃんと受け答えをしてくれるというのは本当に有難い。
「オレンジもミシンコードの事を聞いてほしかったんですよー!聞いてみるですー!」
「あぁ、だからさっきから首を動かしてソワソワしてたのね」
「早く聞くですー!オレンジの前フリを見逃してたシェンナたちの責任だったんですよー」
「わ、解ったわ……ミシ……コードを……知っ……る?」
オレンジは『キヒヒ……』と奇声をあげているだけで全く反応を示さなかった。
「あー。やっぱり違いますねー……シェンナこれ以上手の出しようがないですー」
「……シェンナーー!!」
ついに堪忍袋の緒が切れたイエローはおもいきりオレンジの急所へ足を蹴り上げた。
「くぴっ!?」
……と、最初にここへ来たときと同じ奇声を上げてオレンジは後ろ向きに倒れていった。
そしてイエローはずかずかと痛そうな首を摩りながらシェンナの元へと近づいていった。
「わー!ごめんなさいですー!」
「全く……もう少しで本当に死んじゃうところでしたよ……」
「どうやら転送ミスみたいですね。次に行きましょうか?」
「……そうですね」
イエローは乱れた白衣を調えた後、オレンジを文字通り叩き起こして転送ボタンを押した。
オレンジは何が起こったのか全く解らずただただ痛む頭をイエローの首と同じ速度で摩っていた。
第一班は本当に本部から近いところにあるコンビニの店内にやってきていた。
といっても、あまりここに来る事は無いのだが……。
「……こ、ここは確か……」
「あ、あれですよ。レッドの歌詞を印刷しに来た……」
『お久しぶりでーす!』
万引きをしているわけでもないのに急に声をかけられてビックとしてしまうグリーン隊長。
かといって店員に声をかけられたわけではない。目の前のコピー機に声をかけられたのだ。
「……おぉっ!貴方はコピー機さん!」
ブルーが懐かしそうにコピー機に寄って行った。コピー機の上蓋をパコパコとしている動作も相変わらずだ。
「以前の件ではホントにお世話になりましたー」
「いえいえ。俺のほうこそあの時は格安でありがたかったっすからねー」
「そうですかー?」
コピー機の上蓋がさらにバコバコと上下する。新しく入ってきたお客は何事かとこちらを見ている。
「所で、コピートさんどうしてますか?」
「あ、今みんなは故郷の方へ帰省してるんです。ですからホラそこに張り紙が」
コピー機のお金の投入口に『故障中』と書かれた張り紙が張られていた。まさか、故障の原因がコピートの帰省だとは誰も思わないだろう……。
「じゃぁ、コピー機さん最近暇でしょう?」
「いえいえ、万引き犯とかを見つけたりして結構スリリングです。ただ、咥えて捕まえるから上蓋が痛くて……」
コピー機の上蓋が確かに傷付いていて、犯人側の明らかな抵抗の跡が垣間見える。
心なしかバコバコさせていた上蓋もだんだん重そうに動かしているようにも見えた。
「所で、ミシンコードって知りませんかね?」
「……?……なんですかそれは」
「コンビニのお客さんとかででも話しているのとかを聞いたりなんかは……」
「…………な、ないですねぇ」
「そうですか……」
上蓋が申し訳なさそうに小さく上下した。
「それじゃぁ、俺らこの辺で帰ります」
「はい、お役に立てなくてすいませんでした。いつでも来て下さいねー」
コピー機はせいいっぱい上蓋を上下させてお別れをしてくれた。
第2班は小さな墓地へとやってきていた。といっても不気味な感じは余りしない。
真昼間というのもあったが辺りは青々としげっている木々に囲まれそこだけ見てみればピクニックなんかにも最適な所だった。
「誰か知り合いが亡くなった人とかいるの……?」
「いや、そんなはずは……」
うろうろと墓地の中を歩いていると向こうから花束を抱えた一人の老婦人が歩いてきた。
別段気にも留めなかったホワイトだが近づくにつれてその顔には見覚えがあった。
「あっ!」
「あら、貴方達は……」
老婦人はこちらに気づいて軽く会釈をした。
彼女は以前タイガとそっくりな孫を持っていたあの老婦人だった。
「あの、お体の方はもう大丈夫何ですか?」
「……えぇもうすっかり……お陰でナポレオンの墓参りにもこれました」
「……」
「いいんですよ。私はやっと……真実と向き合えるようになったんですから」
老婦人は以前あったときよりも暖かい微笑みを浮かべていた。
その微笑には以前の哀愁を含んだ物ではなかった。
「……タイガくんは元気ですか?」
「え、えぇ……。元気でやってますよ」
「そうですか……それはそれは」
老婦人はすぐ側にある真新しいお墓に花を添え始めた。綺麗なピンク色の花だった。
「私……タイガくんがナポレオンの生まれ変わりだと思っているんですよ……もちろん、そうじゃなかったとしても……」
花束のすぐ側の写真をじっと見つめて老婦人はその場にしゃがんで手を合わせた。
「……町中で何度もタイガくんを見かけているんです。でも声をかける様な事はしません……」
「……」
「あの子は新しい人生を歩んでいるから……。こんな老いぼれと関わってはいけないんですよ……。そう思っているんです」
老婦人はゆっくりと立ち上がった。その表情は寂しそうな口調と反して力強かった。
「さて……そろそろ買い物に行かないと……それではこれで失礼しますね」
「あ、待ってください」
「……はい?」
「急ですいません。ミシンコードってご存知ではありませんか……?」
老婦人は少し考えて小さく首を横に振った。
「……そうですか……ありがとうございました」
「いえいえ……皆さんもお元気で」
ホワイトは写真を見た。バイオリンを弾いている彼の元気な顔があった。
「あー。ふぐですよー」
第3班はどこかの海鮮料理屋へとやってきていた。そこへ付くなり大きな水槽に一匹だけゆらゆら泳いでいるふぐがシェンナの目に入った。
「珍しいですね……トラフグですよこれ」
ぷくっとふくれた体とふぬけた顔のギャップがなんとも愛らしい。
「じゃぁ、タイガくんとお仲間ですねー」
「フグといえば……ずいぶん前タイガってフグ飼ってなかった?」
「あー。飼ってましたねー。名前は確か……ふぐっ太でしたっけ?」
急に水槽の中のトラフグがイエローの方を向いて口をパクパクし始めた。
ふぐの顔を正面から見るというのもなかなか乙な物。イエローも怪訝な顔をしている。
「……ひょっとして名前に反応してるんじゃないんですかねー」
「……まさか。だってあれはオレンジが食べちゃって……」
「でもあのあと破裂しちゃったからまた脱出しちゃったんじゃないの?」
イエローは真偽を確かめようとふぐに声をかけてみた。
「……ふぐっ太?」
ふぐはやはり口をぱくぱくさせてイエローの方を見ている。
「ミシンコードの事聞いてみたらどうですかー?」
「口が聞けないのにどうやって……」
「じぇすちゃぁだよじぇすちゃぁ!」
「……ミシンコード知りませんか?ふぐっ太くん」
こちらの言葉が伝わっているか疑わしいというのにふぐがどう答えるというのだろうか。
ふぐは口をパクパクさせたまま泳ぎ始めた。
「ホラ、見なさい!何も答えないじゃないですか」
「あ、でもホラ……」
ふぐっ太は水槽の出口に面した方向に向きを変え口をパクパクさせ始めた。
多分あちら側にあるということのサインなのだろうか……?
「ふぐっ太くんあっちっていってるですー」
「あっちですね!よーし!!」
「(……ホントかしら……)」
少々疑問点はあるもののシェンナとオレンジは店を出て真っ直ぐ突き進んでいった。仕方なくイエローとクリームも後を追う。
バタバタと店を出て行く3班の後ろで客たちが不思議そうに見ていた。
「親父さん。あれ何?」
「さぁ……最近あぁいうのホント多いんだよねぇ……」
「おや、丁度いいところに!!」
『なんとかなんとか対策本部』と急いで書いたのか墨でぐちゃぐちゃになった字が書かれた紙を貼り付けた部屋の前で第一班の面々は声をかけられた。
360度警察官ばかり、そう、ここは大阪府内でも有数の不祥事を起こすべくして誕生した尾布警察署である。
「……是非お話が!!」
いきなり男はグリーンの手を握ってきた。
「また、不祥事ですか……?」
「えぇ、まぁ、そうなんです。署長が今週10人の女子高生を売春しまして……週刊誌がそれを……」
笑顔で、話す手間が省けたとばかりに安心したように男は言った。
変な対策本部を作るより、不祥事を起こさないようにする対策でも立ててはどうだろうかとグリーンは内心思っていた。
「……残念ですが我々もおちおち警察のお手伝いをしていられる状況じゃないんですよ」
「いえ、こちらも同じような状況です……。この尾布市のあちこちで市民が虎化する事件が相次いでいるんです」
「え!?ど、どれくらいの人が……?」
「報告された所では300名を超えています」
グリーンは腕時計を除いてみると研究員が来てここまでまだ2時間程度しか起っていなかった。
思ったより早い向こうの出方にグリーンも不安の色を隠しきれなかった。
「不安そうな顔をしている場合じゃありませんよ。是非今回もお力を貸してください」
「わかりました!では前金の方を!」
シルバーが誰もよりも先に右手を男に差し出した。まさに「お金ちょうだい!」のポーズである。
「貴方は……?」
「OFFレンジャーのゼネラルマネージャーとでも言いますか……」
「そうですか……でも残念ながら今資金不足でして前金はとても……」
「あ、そうですか…………チッ」
男を軽蔑したような目でシルバーは再びグリーンたちの後ろの方へと移動して行った。
だが、前金も大事ではあるが急いでミシンコードを見つけなければいけないところまで来ているようである。
「……実は私達もこの事件を調査している所なんです」
「そ、そうなんですか?では有難い……是非お願いしますね。手柄も是非我が署が」
男は深く頭を下げて対策本部のドアを開けて入って行った。
「……あ、一応お聞きしますがミシンコードは……」
「……なんでしょうか?それ」
「ガルルルルル……」
突然真横にいた男性が虎化し、どこかへと走り去っていくのを第2班は見た。
突然肌が黄色くなったかと思うとポン!と一瞬で黒い縞模様が浮かび上がり、虎のように唸って何処かへと去っていったのだ。
「……まさかあれは……」
「急いでミシンコードを見つけないといけませんね」
そんな話しをしている最中にも20メートルほど先の学生風の少年も突然四つん這いになって走っていくのが見えた。
物凄いスピードで市民達が虎化しているのがわかる。
「すいませ~ん。最近この尾布市で相次いでいる虎化事件についてどう思われますか?」
突然若々しい女性とカメラマンがホワイトに寄ってきてマイクを突き出す。
よくよく見ると『大阪テレビ』の6時のニュースでよく見かけるリポーターさんだ。
以前も一度街頭インタビューを受けたことがあったが、向こうはたくさんの人々に会っている。だから、こちらの事は多分覚えてないだろう。
「女子高生ですよね?虎化事件どう思われます?」
「え、えぇ……そうですね。大変だと思います。早く何とかしないといけないと思います」
少し緊張気味の顔でホワイトが応えると、リポーターはマイクをホワイトに向けたまま「うんうん」と大げさにうなづいた。
すると再びテンションを戻してライトブルーの方にマイクを向けた。
「そちらの方は?」
「えっ!?オイラ!?」
ライトブルーは少し嬉しそうに驚いた。頭の上のブラックは少し呆れたような顔で依然乗っかっている。
依然、リポーターは怖いくらいの笑みを浮かべたままマイクを向けている。
「虎化事件についてどう思いますか?」
「えっ!えーと……オイラは……早くミシンコードを見つけて解決したいです!!」
「ミシンコード?」
リポーターが妙に興味を持ったような顔になる。この顔はリポーター特有の『特ダネ臭』を嗅ぎつけた時の顔だ。
しかし、ライトブルーはそんな事に気づかずペラペラと喋り始めている。
「ミシンコード知りません?この虎化事件に関係して……」
「あーっ!あーっ!!」
ホワイトとパープルが慌ててライトブルーの口を押さえる。
これが仇となったのかリポーターの顔は疑惑から確信へと変わっていった。
「(ミシンコードの事は言っちゃダメでしょ!)」
「(マスコミに付きまとわれちゃうんですから!)」
「ミシンコードとは何でしょう?この事件に関係しているとは……?」
「いや……そ、それがですね……」
動揺を隠せないライトブルーたちにさらにリポーターは詰め寄っていく。
さきほどとは違ってまさにプロの顔になっている。
「これはスクープのにおいがするわね!田中君。もっとアップで写して」
「ガルルル……」
「田中君?早く!アップだってば」
リポーターが振り返るとその田中君とやらは既に虎の模様が浮かび上がっており唸っていた。
「ウガァァァァァァ!!!」
カメラマンは大きく吠えるとカメラを地面に叩き付けるとどこかへと走り去っていった。
「ちょっ!?田中君!?」
一人残されたリポーターが振り返ると隊員たちにも既に逃げられていた。
リポーターは既に壊れかけてノイズが入りかけているカメラを拾い上げて言った。
「え、えー……以上。尾布市よりお送りしました」
画面がスタジオに返されると、キャスターが困惑した面持ちで次のニュースを読み始めた。
第3班はずっと真っ直ぐ進んでいくとどこかの田舎の畑の前にやってきていた。独特の匂いが妙に懐かしい気分になる。
そばには3つほどの大きなビニールハウスがあり、その中でトマトやキュウリと作っているみたいだ。
「おや、みなさん。野菜とまた戯れるんですかな?」
ビニールハウスの中から丁度出てきた人の良さそうなおじさんが声をかけてきた。
「あ、お百姓さんですー!」
以前、OFFレンでやった「野菜と戯れる」というイベントがありその野菜はこのお百姓さんたちの作った物である。
また、ボックスから出てきていろいろと助けてもらった事もある。
「お百姓さん!いつも美味しい野菜をありがとうですー」
シェンナも嬉しそうにおじさんの足元へ走りよっていく。
「ワッハッハ。今年も新鮮で美味しい野菜を作るから是非是非食べなさい」
お百姓さんはシェンナの頭をポンポンと叩いた。そんなほのぼのとした雰囲気に水を差したのはクリームだった。
「今日来たのはそういうんじゃないんです。ちょっとお聞きしたい事が」
「へー。学校の宿題かい?」
「えぇ、まぁ……ミシンコードって知ってますか?」
「ミシヌコオドってなんじゃね?」
「……ミシンコードです」
お百姓さんは首をかしげてなにやらブツブツと呟いて何かを思い出しているようだった。
ここまでくるとおのずと返事もわかっている。
「……知らんなぁ」
想定の範囲内だったので特にがっかりというキモチでもない。
「やっぱり……それじゃぁ用事はこれだけですので」
「また野菜が出来たら送ってあげるからね~」
移動しようとしたクリームはシェンナが居ないのに気づいて辺りを見回してみると、
シェンナが地面からぽっこり出ている大きな容器の中を不思議そうに覗いていた。
「シェンナ。何やってるの?」
「この変な箱の中、穴が空いてますー。深そうですー」
「……ヤダ。これ肥溜めじゃない……」
クリームが露骨に嫌な顔をする。しかしシェンナは子供はやっぱりソレ系が好きなためか平然と覗いている。
なんだかかすかに悪臭もし始めてシェンナとアレがついかぶってしまう……。
「そんなの覗いてどうするつもり……?」
「さっきまで誰かがいた様な雰囲気なんですけどねー。×××がいっぱいですー」
クリームがシェンナの頭をゴツンと叩いた。
「汚い言葉を使わないのっ!」
「えー?だって×××の上に足跡がありますよー。見てくださいよー」
「見ないわよっ!!」
再びクリームはゴツンとシェンナを叩いた。
「ちょいとそこのお兄さん。良い物あるよ、よってかない?」
見知らぬ路地裏にやってきた第一班は謎の老人に声をかけられた。たいていこういう誘い方をするのは経験上合法的なものを扱ってない場合が多い。
「いえ、そういうの興味ないですから……」
「まぁ、これを見てから決めなさい」
老人は行こうとするグリーンを引き止め一枚の写真をグリーンに差し出した。しぶしぶ手に取るとどこかで見たような顔がそこにはあった。
「……可愛い子の生写真だよ。出所はちょっと言えないけどねぇ……」
「こ、これは……」
グリーンは他の隊員に写真を渡すと他の隊員、特に女子隊員が驚いた。
写真の中にパープルとイエローの二人が映っていたのである目線から行くと明らかに隠し撮りのようだ。
「あの……この写真は一体ドコから……?」
「それはヒミツだよ……おしえられないねぇ」
「仕方がありませんね……それじゃぁ」
グリーンはOFFレンボックスを取り出してそのまま地面にたたきつけた。
そこから現れたのは以前闇猫のときにお世話になった目付きの悪い鑑定士地味な色の着物もその古臭い感じの虫眼鏡もあの時と全然変わっていない。
「やぁみなさん……今回鑑定する物は壷ですかな?それとも掛け軸?」
「いえいえ、この写真の出処を鑑定して欲しいのです」
さすがは一流の鑑定士、嫌な顔一つせずに(目付きは悪いが)写真を手に取りまじまじとそれを見つめた。
「ふむ……小型カメラで撮影したようですな。そしてそのカメラは……某国製!」
「ぼ、某国!?ま、まさか貴方!」
老人はフッフッフとお決まりの笑い方を終えると顔の皮をベリベリと剥がし始めた。
少し手こずっているようだったがなんとか剥がし終えるとその老人の顔の下は以前大変な目に会わされたエージェントその人であった。
「……エージェント……。あっ!まさか以前手首を触っていたのって……」
「いかにも。私はエージェント。ただで帰るわけには行きませんからね。相当各国で売り上げを記録していますよ」
詳しくは前号を参照していただければ解ると思うが、エージェントが何もせず逃げて行ったと思っていたのは間違いだったのだ。
隠し撮りをしてその写真を売る……。転んでもタダでは起きないヤツだったのだ!!
「私の写真が世界中に……嬉しいような……恥かしいような」
「た、確かに……お化粧くらいはした方が良かったかも……」
「そんな場合じゃないでしょう!某国のエージェントめ……世界中のスケベ達に隠し撮り写真を売って儲けようとしていたんですよ!」
もじもじしていた女子隊員もグリーンの言葉にハッと気づかされた。
写真を買った人々の中には変な気を起こして買った奴がいないとも限らない……。
「もー!許しません!!隊長。懲らしめてやりましょう」
「そ、そうですね……」
「マータ投げてもいいですか!?」
いつもより迫力をましたピンクがマータを振り上げる。
「……まぁ人通りも好くないですし……いいでしょう。虎化騒ぎのドサクサに起こったという事で」
そこまで行った所で自分が尾布警察署と同じ考えをしているのに気づいた。が、気づいただけで特に罪悪感は何もなあったむしろ正常な反応である。
「マータいっけぇ!」
惜しみもなくマータを投げつけるピンク。
それを軽々しく受け止め「こんな攻撃では私を倒せまんせよ」といったような顔をするエージェント。
「さ、気が済んだので次行きましょう。隊長」
「え、でも……ミシンコードが……」
「絶対ありません!!」
ピンクの迫力に負けて転送装置を押した直後明るい閃光が見えた。
また会った時は是非その時の感想を聞かせてもらいたい物だ。
「また寒いよぉ……」
ライトブルーがガタガタと震えながらグレーに身を寄せていた。
第2班の前に小さな小屋、そしてその後ろの大きな工場とマンション。ここは忘れもしない。サンタクロースのお家だ。
日本人が嫌いというのはさすがにショックだったが居ると解っただけでもあの時は少し嬉しかった。
「サンタクロースさんならミシンコードをしってるかもしれないですね」
「そうね……」
パープルの言葉に後押しされてホワイトは小屋の扉を軽くノックしてみた。だが、返事は無い。もう一度ノックをしてみたがやはり同じだった。
「工場じゃないの?」
呆れた口調でブラックが呟くとホワイトは不服そうな顔をして工場の方へと向った。
「今それを言おうとしてたのに……」
「まぁまぁ……」
工場が以前来た時よりか少し綺麗になっているようだった。
ノックをしようと思ったが工場の戸が開いていたようなので中に入ってホワイトは叫んでみた。
「すいませーーん」
「どなたですかなー?」
2階のほうからおじいさんのような声がした。ホッと安心してホワイトは早速名乗る事にした。
「OFFレンジャーでーーす」
「あーーー?そんな人知らないぞーー?」
「以前てるてるさんと来た日本の子供でーーーす」
「んーー。わかったーー。帰りなさーーーい」
思わずずっこけそうになったが、帰る訳にも行かずホワイトは他の隊員を引き連れて2階へと上がっていった。
さすがにシーズンでない為室内はひっそりとしていいた。当のサンタはというとベッドに横たわっていた。
「まさか……もう先が長くないのですか?」
「馬鹿者!風邪だ……。毎年クリスマスシーズンの疲れがこの時期に押し寄せてくるんだ」
「そうですか……お気の毒に……」
「そうだ。気の毒なんだ。だから日本人は早く帰りなさい!……ゴホッ!ゴホッ!」
本当に見ていて気の毒と言うか何と言うか……男の独り暮らしということもあって部屋も汚くなっている。
クリスマスシーズンに来た時は従業員らしき人たちも大勢いたようだから片付いていたが本当に今は悲惨極まりない。
「……おかゆぐらい作ってあげます?」
「そんな時間ないでしょ……とりあえず部屋ぐらいは綺麗にしてあげましょ……OFFレンボックスで」
ホワイトはボックスを床に投げつけると白煙とともにたくさんの主婦達が現れた。以前お世話になった洗濯好きな主婦達だ。
「サンタさん。今は忙しいのでこれくらいしか出来ませんが部屋がきれいな方が気分も良くなるでしょう」
「ううむ……そうなのか……?」
「ついでに言うと、ミシンコードって知ってます?」
「さぁ……ゴホッ!ゴホッ!」
むせ方が酷くなってきたのでホワイト達はこの部屋を後にする事にした。
既に主婦達が掃除や選択に取り掛かってくれているので多分大丈夫だろう。
「……この人たち料理は作れないのかい?腹が減って……」
「あ、掃除洗濯だけです」
第3班は遂に地球を飛び出して宇宙空間に浮かんでいた。
空気などの様々な問題が考えられるがいろいろな条件が重なって大丈夫になった様子である。
SF(?)を楽しむコツはいちいち細かい事にこだわらず寛大な心を持つことである。
「宇宙といえば……誰でしょうねぇ……」
勝手に白衣の中から浮かび上がるメスを拾い集めながらイエローは考えてみるが見当も付かない。
周りにはキラキラと光る星たちがただ輝いているだけである。
「ですですー」
「うるさいわよシェンナ」
「えー。シェンナさっきから無言を貫いてますよー?」
「え?変ね……」
クリームが振り返ってみると一際小さな星がクリームの側でくるくると回っていた。
その星の中から「ですーですー」と言う声が聞こえてきていた。
「あっ……その声は」
「アイツですか……」
オレンジとイエローはピンと来た様だったがシェンナとクリームには何のことか全く解らない。
星はそのままくるくるとクリームを通り過ぎて、そのままオレンジの頭上へと移動して行き、
「んぎゃっ!!」
……そのままオレンジの脳天に突き刺さった。

オレンジの髪型と上手く合わさってなんだか服を着ているようにも見える。オレンジの頭に突き刺さるなり星は口を聞き始めた。
「……ふー!やっぱりここが落ち着くですー」
「お久しぶりね……星さん」
以前、4年に一度だけ地球に近づく星団の中の星さんと以前OFFレンジャーは関わりがあったことは記憶に新しい。
シェンナやクリームが所属する前の話だから彼女たちが知らないのも当然の事。
以前はタイガの脳天に星は突き刺さったのだが今回はオレンジの脳天に突き刺さったようだ。本当に頭上が好きなヤツである。
「……あー。シェンナみたいな喋り方ですー!」
シェンナが不機嫌そうに星に人差し指を向ける。
「あれー?誰ですー?」
「酷いですー。シェンナのアイデンティティが失われるですー!」
「ですですー!」
「ですー?」
「ですです!」
「ですー!」
良く解らないが『ですー』だけで会話が出来たらしく自然と二人は打ち解け始めていた。
「ですですー」
「ですですー」
「ですですー」
「ですですー」
「(きょ……共鳴してる……)」
楽しそうに話しているシェンナと星だが、言っている事は『ですー』のみ。
そんなに多くないだろう『ですー』のバリエーションでどうやって会話しているのか全く持って謎である。
端で聞いていても意味が解らないのでイライラしてしまう。
「あーもー!シェンナ!いい加減にしなさい!」
「はーいですー」
「ですーですー!」
星は雑談を終えて急に冷静になったのかキョロキョロとOFFレンを見渡して言った。
「……そういえば、なんでみなさんここにいるんですー?」
「あ、そうそう。ミシンコードという物を探していまして星さんも知らないかな?と」
「ミシンコード……?知らないですー」
「そうですか……」
「お役に立てなくてすいませんですー。今度地球にいったときもまた落ちるからよろしくですー」
そこへ急にOFFレンの周りの星たちが急にざわざわとし始めた。星は慌ててオレンジの頭からずぼっと嫌な音を立てて抜け出した。
「すいませんですー。そろそろワープの時間なのでさよならですー」
「今度はどちらへ?」
「銀河系の外ですー。それじゃぁまた3年後ですー」
「バイバイですー。地球にきたらまたシェンナと話してくださいねー」
「OKですー!なんか貴方とは親近感が持てるですー!」
辺りの星が残像を残しながらすーっと奥のほうへと消えていく。
こちらの星もシェンナと硬い握手を交わすと、同じように残像を残しながらすーーーっと消えていった。
「ですですー!」
「ですー!!」
宇宙の片隅で『ですーの響き』は続いていた。しかし第三者は如何せん何を言っているのかは解らない。
「ゴホッ!ゲホッ!ゲホッ!!!!」
いきなり現れた第一班の面々に驚いてお茶を飲んでくつろいでいたボスオオカミは咳き込んでしまった。
「お久しぶりですねー!何でボスの座から退いていたんですか?」
「なんでタイガってオオカミじゃなくて猫なんっすかね?」
「ボスオオカミって言っててなんか照れくさくなっちゃいました……」
「ちょ、ちょっと待て!!いっぺんに言うな!まずは状況を整理させてくれ!」
ボスオオカミは焦ったようにOFFレンたちを制止し、OFFレンたちもまた事の成り行きをボスに伝えた。
ティグレスのこと……タイガが馬鹿で困っている事。あとドコとなくボスの毛が薄いこと。
「そうか……毛の事はともかく。それは大変だな……」
「それで、ミシンコードが必要なんですが……知りませんよね?」
「うん。知らん」
「やっぱり……」
ボスオオカミは再び湯のみに口をつけ、ふぅとため息をついた。
「俺がいないうちにいろいろとあいつらも苦労しているのは知っている」
「まぁ、中には餓死寸前だった時期もありますけどね」
「タイガはまだ未熟だが良くやってくれているらしいしな。まぁ、多少わがままだがそれもあと少しだ」
「え?」
「もう少ししたら俺も一旦復帰するつもりだ……。まぁいろいろと不安な所もあるが」
ボスはまた湯の実に口をつけずずーっとお茶を飲み干した。
「そうですか……まぁ帰ってきても悪事は許しませんからね……それじゃぁ我々は次の場所へ行きます」
グリーンはすくっと立ち上がって軽く礼をした。転送装置のボタンを押そうとした所、そんな隊員たちをボスオオカミは急に呼び止めた
「なぁ、何でお前達も薄い虎柄なんだ?」
「……!?」

グリーンは腕を見ると自分の腕や足に薄い虎柄が浮かび上がっていた。他の隊員たちも同様であったがグリーンは特に模様が少し濃い。
「こ、これは……一体」
「……これがお前たちの言っているヤツか……」
「しかし、何故私だけこんなに濃く模様が……」
少し心配そうな顔でグリーンは自分の体をあちこち見回し始める。
「多分、グリーンはあの時ドリンク少ししか飲まなかったからじゃないかな……?」
「そ、そうですね……」
「とりあえず、こうなったらのんびりしていられませんね……。次いきましょう!」
グリーンはちゃんと自分が虎化する前にミシンコードを見つけられるのか不安になって行った。
「あ、トンピャラポンだ……」
「何でこんな所にトンピャラポンが?」
2班が転送された目の前にはあのトンピャラポンがあった。
まったく関わりがあったわけではないこのトンピャラポンだったが何故かここに来てトンピャラポンがあったのだ。
「と、……トンピャラポンてこれだったのか……」
ブラックが妙に感心したような声で呟くが、他の隊員には冗談のようにしか聞こえない。
一方トンピャラポンはその威圧的な姿を蓄えながらびくともしない。
「触ってみようか……?」
「だめよパープル。今日は機嫌悪そうだから……」
「でも……期限切れはしてないみたいだし……」
パープルの目にはトンピャラポンが機嫌を悪くしているようには見えなかった。むしろ路上の上にあるのだから落として割れる心配もないあろう。
「もしかして、トンピャラポンにミシンコードの事を聞くんじゃないの?」
「そうかもねー。いままでのパターンだとオイラもそう思うなー」
「えー。馬鹿馬鹿しい!トンピャラポンに話しかけるなんて……」
「でも、音声認識くらいはできるでしょ?あ、でも虫に食われないうちにね」
「解った解った。じゃぁ、聞いてみるわよ……」
ホワイトがトンピャラポンに近づいた時、側を電車が通り過ぎていった。
『ガタンガタン……ガタンガタン……ガタンガタン……』
通り過ぎていくとホワイトはガクッと肩を落とした。
「……ホラ。やっぱりトンピャラポンが解るわけないのよね」
「もう聞いたんですか?」
「まぁね。馬鹿馬鹿しいけど……」
ホワイトが振り返ってみるとトンピャラポンは既に地中に穴を掘って潜っていた。
せっかくだからトンピャラポンに出来ていた青い実を食べておけばよかったなんて思った。
「キャーーッ!!」
一方、第3班は荒れ狂う波に揉まれている一台の船の甲板に転送されてしまいあっというまに船酔いをしそうな状態にまで陥ってしまった。
「みなさん。こっちです」
水平のような格好をした少年がイエローたちを船の中へと誘導してくれた。
小さい船のように思えたが中は意外と広く2,3の部屋があった。
「遭難者ですか?」
「いや……えーと……まぁそうです」
「大海さん……お客様ですか?」
「あぁ、何故だか知らないけど甲板にいたんだ」
部屋の中から綺麗な女性が顔を出した。
「あー。あの時のお姉ちゃんですー」
その顔を見るなりシェンナが指を指していった。クリームもイエローもどこかでみた顔だと思っていた。
以前ホランとお見合いして、結局恋人と駆け落ちしてマグロ漁船に乗り込んだ撫子さんだ。
「みなさん……何故ここへいらしたんですか……?」
「いろいろとありまして……所でここは何処の海なんですか?」
「ベーリング海です」
……そうい言われれば確かに少し肌寒かった。
「ベーリング海って……マグロ取れましたっけ?」
「さぁ、私はその様な事は存じ上げてないのですが海なら何処でも同じだろうって大海さんが……」
撫子はチラッと大海を見ると大海のほうも少し困ったように頬を掻いていた。
「一応他にも乗組員がいますからね……静かにしてください」
「あのー……答えのほうは……」
「……さぁ、撫子。ここは冷えるだろうからみなさんに何かスープでもあれば用意してあげなさい」
「はい……」
撫子が厨房の方へと移動すると大海は「しーっ」と手で示して厨房の方を窺いながら小声で言った。
「すいませんが……撫子の前ではマグロの事は話題に出さないでいただけますか……?」
「何故……?」
「実は、以前釣った巨大マグロをこの海で落としてしまって探している最中なんです……」
「それが何故ヒミツにしないといけないんですか……?」
再び大海は厨房の方を見た。
「……実は、撫子が知らないうちに甲板に出しっぱなしにしていて逃がしてしまったようなんです」
「それじゃぁ……」
「ハイ……撫子はそれに気づいていないんです。彼女は責任感の強い娘なので……悲しませたくないんです」
「しかし……海は広いですよ……?」
「解ってます……ですが……」
大海は急にぐっと口をつぐんだ。撫子が厨房から戻ってきたのだ。撫子は小さな皿を3枚持って来て三人に手渡すとチラッと大海のほうを見た。
「な、なんだい?撫子……」
「いえ、スープが出来たので……あ、みなさん召し上がってください。残り物ですけど温かいですよ」
「あぁ、いただきます」
撫子の持ってきたスープは意外と美味しかった。シェンナもクリームも美味しそうにスープを飲んでいた。
「スープのお礼に何かしてあげたいですー」
「そうね。シェンナ。ちょうどボックスも持ってきていることだし」
「……仕方ないですね……。まぁ、ここでならボックスは使えるみたいですから」
「じゃぁ……中華料理屋の主人!」
煙が飛び出した瞬間。撫子が小さな悲鳴を上げて大海に寄り添った。以前もいろいろとお手伝いくださった中華料理屋の主人がそこに現れた。
「すいません。マグロ料理を御願いします」
「はいわかりました!料理は火力が大切だからね火力が……」
中華料理屋の主人は海にそのまま飛び降りていった。外は冷たい海、無事ではすまないと思うが……。
「へいお待ち!マグロ発見!」
海にすもぐりで5分。本当に中華料理屋の主人なのか疑わしい根性で再び船に戻ってきた。
「あっ!このてかてかしたマグロは……」
「どうしたんです?」
「あ、嫌……」
大海はありがたいといった顔でOFFレンを見た。
「さて、料理をはじめましょう……」
「あぁ、STOP!STOP!やっぱり今日はキャンセルします……」
「……」
主人はムッとしていた様だったがマグロをまな板の上に置いたままポンと消えていった。
「……さて、お礼はこんな感じですかね」
「ありがとうございます」
「所でミシンコードって知ってたりします?」
「いえ……」
今回もダメだったというわけでイエロー達は次の場所へと移動する事にした。
どうやって移動するのか不思議そうな顔をされていたが説明しているひまはあまりないし、信じてもらえないだろう
そんなとき、OFFレンはこのマグロ……妙にお腹の部分が膨れ上がっていのに気づいた。
「……なんでしょうこのふくらみは……」
「揉みだしてみましょう……」
大海がマグロの腹をぐいぐいと押して口の方へと揉みだしていくとオレンジ色の手がにゅっとマグロの口から飛び出した。
「あっ……そういえばいつの間にかいませんでしたね……」
「お知り合いですか……?」
「えぇまぁ……」
「不思議なお友達ですね……」
さすがのイエローもこの時ばかりはオレンジに申し訳なかった。
踏んだりけったり(?)の第一班は久々に日本じゃないところにやってきていた。
草木の生い茂るジャングルにやってきていたのだ。足元を見知らぬ虫が通り過ぎていくだけでえもいわれぬ恐怖が彼らに襲い掛かる。
「こんなジャングルなんて来た事ないのに……」
「誰かいましたっけ?こんな所に」
奥を進んでいくとますます緑は強くなりヘタをすれば隊長の姿が草と同化して草が喋っているように見える
変な生き物も多いし、本当にジャングルという物は厄介だ。
「……おや、家がありますよ」
ブルーの指差した方向を見ると確かに小さいがいかにも南米風の家が数件建ち並んでいた。
近づいていってみるとどの家も留守の様でひっそりとしていた。その家の軒に黒いてるてる坊主が吊るされていた。
「……あ、てるてる坊主を飾ってますよ」
「日本の風習がこんな所にも活きてるんですねー……」
「す……て……」
てるてる坊主の方から今にも消え入りそうな声が聞こえてきた。
「助……け……て……」
「まさか……」
グリーンはてるてる坊主を軒から降ろしてみた。
すると黒かったと思ったのは実はコートの色で、実は無残な姿になっていたマジックてるてるその人であった。
「……み……ず……」
干からびた濡れティッシュのようになっているてるてるの声が不気味に聞こえた。
「ピンク、早く水です!」
「は、はい……」
ピンクがそばの川らしき物から水をくんできてそれをてるてるに飲ませた。
よほど喉が渇いていたのかてるてるはいっきに飲み干すと元気が出たのかよろよろと飛び上がった。
「ふぅ……助かりました。まったくこういう未開発の国はホントに野蛮ですねぇ……」
「(それは問題発言では……?)どうしたんです?あんなところに吊るされて」
「まぁいろいろありまして……そういうあなた方こそどうしてここに?っていうかちょっと見た目変わりました?」
「まぁ、我々もいろいろと……」
てるてるは汗で濡れた帽子をぎゅっと絞って再び頭に被せていた。よほど疲れているらしく顔色も少し悪い。
「……不幸そうなこの村の青年の願いをかなえたんですけどね。もっと叶えろってしつこくて……」
「それで吊るされていたと……」
「えぇ……叶えるまで逃がさないといわれて……一週間ものまず喰わずで……」
てるてるが潤んだ目をそっとコートの裾でふき取った。
「……でもま。とっととこんな所はおさらばして次に行きますかね」
「今度はどちらに?」
「アフリカでライオン鍋でもいただこうかなと……。よければご一緒にどうですか?」
食欲が出てきたのかステッキを左右に振りながら弾んだ口調でてるてるは言った。
「いえ……我々は他にも用事があるので……」
「そうですか……。それじゃぁ、みなさんまたクリスマスにでもあいましょう♪」
てるてるが、サッとステッキを降るとキラキラした光とともにてるえるはアフリカへと旅立っていった。
まだ残っていたキラキラした光を見つめているとピンクがグリーンの肩を叩いた。
「……あのー。隊長……ミシンコードは……?」
「あっ!しまった!」
既に残った光までもが消え失せてしまっていた。
「ここは……?」
「中庭ですね……」
オオカミ軍団本部の中庭に第2班がやって来たがほとんどのオオカミが虎化させられている為誰かがいるはずもなかった。
ここにある物といえば草や花や野菜や金魚のお墓ぐらいだった。
「……オオカミで残っているのは研究員だけだし……その研究員も本部にいる」
「あ、なんだろあれ」
ブラックが花壇の隅に光る銀色の灰皿のような物を指差した。
ライトブルーがそれを拾い上げてみるとどうやらいわゆるUFOのレプリカのような物だった。
『……フル……ル……我々……星は……滅び……ったわ』「何か言ってるぞ?」
「何か言ってみよう。……ミシンコードって知ってる?」
「……何……を……言……るの」
ブラックがゆさゆさと振ってみるとUFOの音はブツリと切れてしまった。
何度振ってみても同じだった。

「……壊れちゃったな」
「そこに置いといたら?」
「そうだね……」
UFOをポイッと片隅に放り投げた時チラッと綺麗な花が揺れていた。結局何の為に中庭に来たのか全然解らない。
『タッタタララータララータララー♪タッタタララータララータララー♪』
変なBGMを流しながら第三班の前に黒いスーツに身を包んだ怪しい男が近づいてきた。
「ようこそ奇妙な世界へ……貴方達4人は今から不思議な世界の主人公となるのです」
青い帽子にサングラスといった変な成り立ちはどう見てもあの隊員の姿に見えて仕方がなかった。
しかい、不気味で陰湿な雰囲気を感じ、何か普通とは違った印象を受けた。
「私はストーリーテラー……皆さん……どの部屋からご覧になりますか?」
「あー。変な人ですー」
鍵を差し出したストーリーテラーに向ってシェンナが指を指した。
「コラ、シェンナ……いくら怪しいからってそんな事言わないの」
「見るからに怪しいですー」
「……この鍵はそれぞれ私の後ろの扉の物……それぞれがどの様な奇妙な世界に続いているかは解りません」
ストーリーテラーはニヤリと笑って鍵を一本シェンナに渡した。が、シェンナは鍵を貰ってすぐテラーに返却した。
「……どうしました?」
「シェンナ知らない人から物を貰っちゃいけないんですー」
「……ここは奇妙な世」
「それは聞いたですー」
テラーは黙ったまま後ろを向きスタスタと扉の方へと向っていった。
ちょっと辛かったのか、それとも埒が明かなくなったのか……。
「あ、そうだ……あなた方の探している物はここにはありません。早くお帰りなさい」
そういってテラーは赤い扉の中に入って行った。バタンと扉を閉めた音がじんじんとあちこちに響いた。
シェンナが誘拐犯を追い返したといって喜んでいたがイエローやクリームは最後まで良く解らないまま突っ立っていた。
「……アイツだれかに似てるのよね」
イエローが呟いた。
「おや、みなさん。やっぱりライオン鍋が食べたかったようですねぇ」
第一班到着そうそうさっき別れたばかりのてるてるが元気に手を振りながら鍋を突いていた。見渡す限りの広い土地。そう、ここはアフリカだった。
TVで見る限りでは雄大な大自然という感じだが、ホコリっぽくてハエも多く、あまりいい環境でもないようだ。
「(ホラ、やっぱりあの時ミシンコードの事を聞かなかったから……結局二度手間じゃないですか)」
ピンクがイヤミっぽく隊長を小突いた。グリーンも変す言葉が見つからなかった。
「さぁ、どうぞどうぞ。今さっき活きの良いライオンを仕留めた所ですから」
てるてるがそばの石の椅子に腰掛けるように促すと隊員たちは一応ライオン鍋を取り囲んだ。
グツグツと煮えている鍋の中にあるのは、大きな肉の塊と申し訳程度に入れた僅かなジャガイモだ。
「どうしました?ライオン鍋嫌いですかー?」
食べた事もない物に好きも嫌いもないのだがあまりライオンを食べる気にもなれない。
それに輪をかけて動物のフンの匂いなんかも凄まじく、早くこの場から去ろうとグリーンは思った。
「あの、我々はミシンコードをですね……」
「なんですかそれは?それが御願いですか?」
てるてるの言葉に隊長はピン!と頭上に浮かんだ電球が如く名案が浮かんだ。
てるてるはお願いを聞いてくれるんだからミシンコードが判明する御願いをすればいいわけだ。
「……そうです!それが御願いです!」
「そうですかー。でも残念ですね。今さっきライオンをしとめる際にステッキを落としてしまったんですよ」
「えぇっ!?そんなぁ!!」
「でも、安心してください。一週間くらいたてば自動的に私のところに戻ってくる魔法をかけていますので」
励ますつもりで言ったであろう言葉に大きくショックを受けた。
一週間で全てが変わるわけではないだろうがこうして自分たちの体も虎化してしまっている今、時間は刻一刻と迫っているのだ。
「……ステッキどこで落としたかご存知じゃありませんか?」
「そうですねぇ……どこに落としたのか……」
「……そ、そうですか……」
ここは残念だが仕方ない、てるてるは知らないようだから転送装置で次の場所に行こうと隊長は思った。
「ジャングルでのいろいろと聞いておけばお願いだって出来たのに」といった顔でピンクは隊長を見ていた。
「あの。じゃぁ、我々はこれで……」
『ピピーーーッ!!』
突然、けたたましいホイッスルの音とともに何十人もの人々がこちらに迫ってくるのが見えた。
遠くから見るとそれはまるで緑色の津波がこちらに向って流れ込んできているようだった。
「お前ら何をやってる!」
「さては、密猟者だな!?」
「あーーーっ!貴方達は……」
やってきた者たちをみてグリーンは大声で叫んだ。
グリーンをみるなり向こうも驚いた顔をしていた。
「……グリーン」
「そういう貴方もグリーン……」
鏡に映したわけでもなく一人のグリーンの向いに何十人ものグリーンが並んでいる。
混ざってしまえば誰が誰だかわからないくらいそっくりだ。まぁ、今は虎柄があるから少し解るが
そう、彼らはドッペルゲンガーなどではなく以前OFFレンが自ら作り出したグリーンのコピーである。
一時は暴走族なんかを作っていたりしたが今は世界中でボランティア活動をしているのだ。
「どうして、グリーンがこんな所に!」
「……ちょ、ちょっといろいろありまして……」
「そんな模様あったっけ?」
「えぇ、まぁ……いろいろありまして……。そちらは?」
「僕らも色々あったんです。今は密猟者の摘発の仕事をしてます」
グリーン達のイキイキしている顔にグリーンも少し満足でもあり、少し羨ましくも会った。
同じ自分なのに彼らは一生懸命頑張っているんだなぁ。と少し思ってしまった。
「所で数減ってませんか?」
「あぁ、30人くらいしかいない。他のやつらは別な国に行ってるよ」
「そうですか……みんな頑張ってるんですね」
「……お前も頑張ってるんだろ?」
以前、暴走族の団長の任務についていたグリーンがグリーンの肩をポンと叩いた。
グリーンはグリーンの言葉にさっきのような事を考えていたのを少し反省した。
「……えぇ。私達も立派に頑張ってるんです。ミシンコードってのを探してて」
「そうか……。ミシンコードってやつはオレ達知らないけどがんばれよな。……。俺達も今任務の最中だから……」
グリーンはてるてるを見た。既に鍋を平らげたてるてるが満腹そうな表情で膨らんだモチのようなお腹を摩っている。
「……あーっ!全部食いやがったな!!」
「はい、美味しかったです」
「逮捕だ逮捕!!」
グリーン達はてるてるを荒縄で縛り、片方の縄の端をグリーンの手に結びつけた。
グリーンの手から吊るされてぶらぶらとゆれているてるてるは以前もどこかで見たことのある姿だった。
「私って最近は吊るされる傾向にあるらしいですね……」
「ちょっと待ってください!どういうことですか!?てるてるさんが殺人で死刑だなんて!」
突然の出来事と、再び目撃したてるてるの宙ぶらりん姿に驚いたのか隊長はかなり動揺していた。
「……ライオン鍋は禁止事項の一つなんだ。密猟者のステータスだからな」
「しかし、てるてるさんは悪気があったわけじゃ……ね?てるてるさん」
「ライオンは強暴だから一匹くらい食べたって……」
「ちょっ!てるてるさんっ!!」
てるてるに近づこうとしたグリーンを遮る様に他のグリーンたちが取り囲んだ。
「……知り合いらしいが……。規則なんで仕方がない」
「あのっ!ちょっと待ってくださいっ!」
行こうとするグリーンたちを追いかけようとしても他のグリーンたちに阻まれていく事が出来ない。
もがいてみても意外と力が強く各国を旅しているうちに体力がついたのだろうグリーンは自分に負けてしまっていたのだ。
それでもやっと抜け出せたとしてもすぐに捕まってグリーンたちに押さえつけられてしまった。
「隊長……諦めましょう」
「そうっすよ……。俺もさすがに今回は……」
仕方がないかと思うようになってグリーンの抵抗も次第に収まってきた。
ふとその時目の前にどこかで見たような小さな棒切れが落ちていた。木の枝やつまようじの類ではない。まさしくてるてる仕様の魔法のステッキだ。
「……てるてるさんっ!」
観念したかと思った相手の力が弱まった隙を狙ってグリーンはステッキを持っててるてるの元へと駆け出した。
ステッキを投げるとてるてるが受け取り一振りするとポンと縄からてるてるは抜け出た。
「あっ!!」
「犯人を逃がすとはお前たちー!!」
「まぁ、まぁ、まぁ……ここは同じグリーン同士仲良く……ね?」
ピンクが仲裁役として間に入ると向こうもなぜか大人しくなってくれた。さすが微妙にそれぞれ性格が違っていても根は同じである。
「それじゃぁ……次も同じ事をしてたら捕まえるからな」
「わかりました。いや~ライオン鍋の味は一生忘れませんよ」
「他の国に行ってもあんまり無茶しないで下さいね」
「わかってますよピンクさん♪あんまりグリーンさんに心配かけさせてもいけませんしね」
てるてるはステッキを振ると軽く手を振って再びどこかへと消えていった。
「……それじゃぁ、我々もこれで」
「あぁ、がんばれよな」
「では……」
グリーンが転送装置を押した瞬間忘れかけていた事がフッと脳裏によみがえった。
「(あっ……ステッキ見つかってたのに……)」
第2班は突然嫌な予感がして振り返ってみるとゴツゴツとした明らかに地球の物ではない建築物の集団を目撃した。
こんな奇抜な形をした建物を見たのは一度しかない。そう、ここは冥王星であり、キャンディー星でもあるのだ。
「(あれー……。私汽車ごっこしなくても転送装置で来れたの……?)」
パープルが深刻な顔で何か考えていたが誰もそれには気づかなかった。
「おや、ロリポップ。あれはお前のお友達じゃないのかい?」
「いいえ、お父さん。あれは友達なんかじゃないわ」
そこへ、買い物袋をぶら下げたこういう所だけ地球っぽいロリポップとその父親が向こうの方からやって来ていた。
ロリポップは以前地球にやってきたことがあったがそのキツイ性格というかそのせいでいろいろと不快な思いをしたのも事実だ。
父親はにこやかな表情で軽く会釈をするがロリポップの方はというと冷めた目でこちらを見ていた。
「あのー。地球の大気をこちらに持ってこないでくれます?私、持病を持ちたくないんで」
「コラコラ、ロリポップ……。地球の大気に失礼じゃないか」
父親のツッコミが少々ずれている気はしたがあまり深く関わって長居はしないつもりだ。
正直ホワイトもロリポップのことは良く思ってないのだから。
「あの、私達すぐ帰りますから!質問に答えてくれるだけで良いです」
「えー質問ですか!?地球人が今頃この星のことについて聞きたいなんて……ヤダ。意外と遅れてるんですねぇ」
「(何かムカつく……)ミシンコードって知りませんか?」
「いえ……知りませんねぇ……。なぁ、ロリポップ?」
ロリポップのほうもぶっきらぼうに「知らないわ」と応えたきりで黙っていた。
「……それじゃぁ、私達帰りますんで」
「そうですか……。気をつけて帰ってくださいね」
「……さよなら」
妙に嫌なアクセントのさよならだったが用事は済んだのだから長居をする必要もなく、すぐに転送装置は作動した。
主に個性派の集まった第3班は見飽きてしまった地下倉庫へとやってきた。
『もしもし、あなた方……』
転送されるなり倉庫のドコからか小さな声でこちらを呼んでいるのが聞こえた。
「あー?誰ですかねー?」『私です私です……』
クリームが声のするほうを探って見るとダンボールの影に転がっていた小さな玉を発見した。
500円玉くらいの大きさの玉だが、これは確かクリスマスにタイガとホランが使っていた丸い玉。
『……誰も来ないのかと思いました。私は一年に3回だけ望みをかなえる丸い玉。略し、略され丸い玉でございます』
「……あー。以前シェンナの頭が鈴みたいになっちゃった奴ですねー!」『そうです。ご満足いただけましたか?』
「あれから色々と大変だったわよ……音はしなくなったけどね」『申し訳ありません!それでは御願いをどうぞ。かなえて差し上げますよ』
丸い玉はコロコロとクリームの手の中で揺れていた。多分丸い玉なりの感情表現なのだろう。
「じゃぁねぇ……まず前失敗したシェンナを賢くして下さい」『はいはい』「そして、ミシンコードを知ってますか?」
『はいはい』「後、ティグレスに勝つアイテムか何かがあれば……ください」
なんとも的確な(?)お願いだなとイエローは思ったが一番目は少々蛇足なのではないかと思った。
『……はい、シェンナさんはじきにかしこくなると思います』「わーいですー」
『あと、ミシンコードは知りません。丸い玉ですが知りません』「(まぁ、わかってたけど……)」
『アイテムも皆さんの携帯PCにじきにインストールされると思いますので……。それでは私丸い玉また1年の眠りにつきますね……』
丸い玉の光がまた次第に薄れていった。
「……さ。次行きましょうか。転送装置転送装置……」
「あー!シェンナの足が何か変だよ……」
オレンジがシェンナの足を指差して叫ぶとクリームも慌ててシェンナを見る。
「歩きにくいですー」
シェンナの足の毛が雑草のように伸びきって見るも無残な姿になっていた。
「……ハッ……下肢濃くなる……?」
こうして再び余計な手間を残して丸い玉は何も応えないのであった。