第50話

『トラトラトラブル全員集合!(3)』

(挿絵:パープル隊員)

「……ガルルルルルルル……」

我を失い、見も心も虎となった人々がそこへと集まっていた。辺りは黄色、白、黒の3色だけで覆い尽くされていた。
ティグレスはその僕たちをジッと見下ろし、呟いた。

「まだだ……まだ足りない……我がこの世界の虎の王となるには……」










第1班がそこへやってきた頃にはすっかり虎の模様も濃くなってきていた。
特にグリーンの変化が激しく牙が少しだけ延びてきていた。

「……お……OFFレンジャー……」

薄暗い部屋だと思っていたその場所に突然大きなモニターが現れた。どうやらそこから声がするようだ。
多少砂嵐で見えにくかった物のようやくそれが何年ぶりに会うだろうか……公共料金だとわかった。

「お前は公共料金!!」
「ティグレスの部下達がここまで攻めてきている……ワシもあと1、2時間が限界だろう……」
「あぁ、そうですか。それは良かったです」
「何を言う!!ワシの部屋には世界をあっという間に消し去るくらい強いエネルギー作る装置だってあるのだぞ!!」

一同は今まで全く知らなかった事実で一番驚いた。まさかオオカミ軍団がそんな大層なものを思っていたとは!!

「……そ、それは大変です!!」
「わかっただろう……!今回ばかりは敵味方関係ない……頼む。ティグレスを倒してくれ……」

敵までに頼られるということはまさに地球消滅レベルの大事件の様で、
グリーンにもレッドから受けつかがれたヒーロー精神がじんじん心にしみてきた。

「わかりました!ミシンコードを知ってますか!?」
「……知らん」
「じゃぁ、我々はこれで!」
「何!?オイ!逃げるのか!?」
「いえ、そういうわけじゃなくて……」

公共料金が切羽詰った顔でモニターをガンガンと叩く。

「まぁ、次にいきますので……」

一応詳しい事を伝えないといけないわけだが敵ということもあり、ある意味隊長による報復だったりする。
実際、いろいろと迷惑をかけられたわけなのだから……。










第2班は見知らぬ場所に立っていた。霞のような物がふわふわとそこらじゅうに浮かんでいて心なしか空気がおいしい。
しかし、これといった人影がなく、大きな機械が目の前にあるだけだった。
その機械には『↑ここを押してね☆』と書かれた紙が貼り付けられており、矢印の先には大きな赤いボタンがあった。

「なんだろ……これ?」
「押してみたらいいんじゃない?」

パープルの言うとおり確かに押さないより押した方が何か動きはあるだろう。
軽めにホワイトがボタンを押してみると機械の上部のアンテナがバチバチと光り始めた。
次第にそのバチバチとした光が大きくなり最後にはピカッと激しい光の爆発が起こった。

「わっ……!」

あまりの眩しさに思わず目をつむってしまうOFFレンジャー一同。
どのくらいその光が続いたのか解らない。だがようやく彼女らが目を開けたのは何者かに声をかけられてからだった。

「……何してるんだお前ら」

聞き覚えのある声にホワイトたちが目を開けると目の前に見覚えのあるやつらが立っていた。青かったり、黒かったり、赤かったり……。

「あ……改造猫達だ」

雷、炎、光、闇の改造猫4人衆。
ブラックキャット団によって無理矢理改造されてOFFレンに倒されていった可哀相な人々である。

「(嫌な紹介の仕方だ……)何故お前達がここにいる!」
「さぁ……?多分この機械がなんらかに作用したんじゃないかと」
「(すごいご都合主義だ……)」

何はともあれ、以前は降霊ヘルメットやらのせいで一人ずつしか呼べなかった改造猫達だったが、よくわからない機械のおかげでこうしていっぺんによべたのだからよしとしよう。

「よくないっ!!」

呼び出された中で闇猫が一番不機嫌そうに言った。炎猫と雷猫は嬉しそうだし、光猫も物凄く嬉しそうだったのに。(そう見えるんですよ)
闇猫だけは本当に虫の居所が悪そうだった。

「再びこの地によみがえったんですよ?嬉しくないんですか闇猫」
「そうそう……俺様は……物凄く嬉しい……」

炎猫は雷猫と腕を組んで赤い顔を更に赤らめていた。

「嬉しくないっ!俺は……この前失敗した悪魔への転生の再試験中だったんだぞ!……それをまた……」

確か、闇猫は生まれ変わったら悪魔になって復讐してやるとか何とかいっていたような気がするが正直どうでもいい。

「正直以前はショックだったのに……無理してカッコつけてたが……今回ばかりは!!」
「なぁ、それはそれでいいとして。質問いいですか?」
「一言で片付けるな!……クソ……悪魔になったら一番最初にまずお前を殺してやるからなっ!!」

闇猫が悪態をつきながらも観念したのかそれきり黙ってしまった。
相変わらず炎猫は雷猫の右腕にしがみついてはなれないし。光猫もただただ立ったままキラキラしている。そろそろ本題に入らなければ……。

「今回集まってもらった(?)のは他でもないんです。実は今日本は大変な事になっていまして」
「……フン。俺にとってはそれが嬉しい事だな……」
「皆さんの中にミシンコードを知っている方はいませんか?」
「知らないと思うけどね……」

もう残す所数名という所なのだからそろそろこいつらが知っていてもいいはずだとホワイトは思った。
だが、その確証は何処にも無い
「……俺は知らない」
「俺様も雷猫のこと以外は今は知りたくない……」

相変わらずのバカップルは放っておいて光猫にも聞いてみた。うーんと考えるような顔をして(微妙な変化なんですよ)言った。

「私の記憶の中ではそれに該当するような言葉が見つかりませんね」
「(ま、ようするに知らないってことね……)」

一応闇猫にも窺ってみるがニヤニヤとしたままで全然応えない。
本当に知っているのか疑わしいが、一応確率的に知っていてもおかしくないだろうと思った。

「知ってるんじゃないんですか?」
「さぁな……教えてやらないけど」
「……御願いしますよ」
「嫌だね」

馬鹿笑いをしながら闇猫は何も応えようとはしない。
ここは奥の手を出すしか方法がない!やはりあの時のホワイトの決断は間違っていなかったのだ。

「じゃぁ、これをどうぞ」

ホワイトが差し出し手紙を見るなり闇猫の表情が引きつっていった。

「……ま、まさか……」

「またまた先生からのお手紙です。読みます?」

挿絵

「そ、そんなもの!誰が読むか!!」
「じゃぁ、パープルに読んでもらいましょう」

パープルは手紙を受けると早速その手紙を読み始めた。
不安そうな顔をして闇猫はじっと聞き入っていた。



闇猫くん。
あなたが卒業してからどれくらい経ったでしょう?
すっかり先生もたくさんの生徒と学び、そしてキミと同じように卒業していきました。



今、将来の目標が見つからない子供が多い中で、闇猫くんのように立派に目的を持つことはいい事です。
闇猫くんがそれで良いのなら先生もそれでいいと思います。
ただ、自分には正直であってください。自分に嘘をついてまで生きていてはいけません


闇猫くんが以前いじめっ子達の机をこっそり踏みつけていたときも先生は彼らに伝えてあげましたし、
キミが彼らのシューズを地面に叩きつけていた時も先生はビデオに録画して彼らに見せました。
あと、シューズに画鋲を入れようとしていた時も彼らをその場に連れて行ったのは先生です。

いいですね?自分に正直で、立派な人になってください。もし、闇猫君が学校による事があれば先生は大歓迎です。
その時は暴走族に入っている当時のいじめっ子たちも呼んでおきますからね。
彼らも闇猫くんに是非会いたいと今度金属バットも新調したそうです。楽しみですね。


それではお元気で……。



パープルは手紙を読み終えるとそれを闇猫に渡した。

「(先生……あの人あんな偉いこと言ってたのに……天然何だかワザと何だか……)」

闇猫は潤んだ目でそれらを見ると黙ってパープルに返した。
感動しているのか意外な事実にショックを隠しきれないのか……多分後者の方であろう。

「もう一回読んでもらいましょうか?」
「……言うよ。言えばいいんだろ……。もう俺の過去に触れないでくれ……」

闇猫は胸を押さえたままぐったりしていた。

「そう!言えばいいんですよ。上村くん」
「本名を言うな!!……俺は何も知らん!それだけだ……」
「はぁ!?それなのにもったいぶってたんですか!?」
「フ。お前たちの困った顔を見るのが俺にとっては楽しいのさ」

闇猫はそっぽを向いてまったく目を合わせなかった。ホワイトは不服そうにしていたがパープルのおかげで少し沈静された。

「……所で改造猫達は今あの世でどうしてんの?」

騒ぎも落ち着いた頃ライトブルーは素朴な疑問を彼らに投げかけた。
確かに炎猫の様子だと一緒にいるわけではなさそうだが……。

「俺は普通に暮らしている。今度天国発電所で働こうかと思っているんだが」
「俺様はまだ未成年だからな……学校に行ってる。だから雷猫になかなか会えないんだ」

瞳の潤んでいる炎猫の肩をポンポンと雷猫は叩く。その優しさに感激したのか炎猫は雷猫の胸にうずくまった。
ホントにこんな所でも見せ付けてくれる奴らだ。

「……光猫は?」
「私ですか?私は……照明としてあちこち働いていますよ」
「照明?」
「工事現場の照明とか……座っているだけなので楽です」

工事現場で汗水流して働いている人たちの側で発光しながら座っている光猫を想像すると実にシュールな光景だった。
まぁ、楽して働くというのは夢のような事だが……。

「闇猫は確か……」
「……転生試験を受けているがそれと同時に嫌がらせもしている」
「嫌がらせ?」
「俺の学校に居た変な男がいただろう……」

第2班はよーく学校に行った時のことを思い出してみた。そういえば自分たちを見るなり変な事ばっかり言っていた男の先生が居たようだが……。

「それがどうしたんですか?」
「アイツは俺の事をいつも落ちこぼれ呼ばわりして……出席簿で頭を叩かれた事もある」
「……はぁ」
「だからここの所毎晩、悪夢を見せてやっているんだ。フフ。ヤツの恐怖で歪む顔といったら」

ワクワクしている顔の闇猫。人と言うものは良く解らない……。

「他には?」
「悪魔への転生試験を受けているといっただろう」
「どんな試験なの?」

ライトブルーの何気ない質問に気を良くしたのか闇猫はペラペラと喋り始めた。

「どれだけ悪いかって事だな。要するに……。まぁ、俺は闇の力を持ってるし……」
「ふーん……。じゃぁなんで早く悪魔になんないわけ?」
「……苦労してやっと最終選考までたどり着いたのに……お前たちが俺を呼び戻したんだろう!!」

ライトブルーの何気ない質問に今度は闇猫は怒鳴り始めた。

「……また一からやり直しだ。次の試験は11月だぞ……クソッ!」
「ふーん。大変なんだね」
「うるさいっ!!」

あらかた雑談の話題も底を突いてくると、そろそろミシンコード捜索を再開しなくてはならない事に気がついてくる。
時間は刻々と迫っているのについ無駄話ばかりしてしまう。こういう時に時間は意図的に操作されているのではないのかなんて思ってしまう。

「じゃぁ、もう我々は帰りますので。あとはご自由にしててください」
「何!?どう帰れというんだ!!」
「……多分そこにタイマーがありますからそれが切れれば変えれるんじゃないんですか?」

確かに指差した先に小さく『0:30』というタイマーがあった。しだいにその数も減っていく。
そうすると、炎猫と雷猫は名残惜しそうに手を握り出した。二人とも目が潤んでいる。

「炎猫……またいつか会える日が来るさ」
「雷猫……そうだな。再び会えたんだからな……俺様……信じてる」
「それじゃぁ、再び会い見えましょう」
「……次の試験中に呼んだら承知しないからな……」

4人はそう言った時、タイマーは0になり、彼らの姿も徐々に消えていった。
結局この機械が何だったのかは解らなかったが一応便利だったのでそれてよしとしよう。
考えている暇もないし、そもそもこの機械が今後キーポイントになることもないし。










第3班は見知らぬ古めのアパートの前にやって来ていた。
表札がそこだけかかっておらず、そっとドアノブを握ってみると扉は開いていた。全く持って無用心。

「空き家じゃないんですかー?」

もっともらしい事を言うシェンナだが誰かが住んでいそうな気配はあった。
しかし、意外と生活観のない部屋で小さな折り畳み式のテーブルの上に小さな金庫がぽつんと置かれているだけ。
押入れを開けてみても何かの服が数着だけ折りたたんで入れられているだけでそれきりだった。

「誰の部屋かしら……」
「狭い部屋ですー……」

窓を開けてみると通天閣がはるか遠くに見える。尾布市とはずいぶんと遠い所にいるようだ。
窓の下の道を子供が駆けて行った。

「……ふぅ」

その時、誰かが付いたため息が窓の向こうから聞こえた。
多分この部屋の主だろう、シェンナ達は押入れに慌てて隠れた。物音を立てないようにふすまを閉めると同時にドアは開いた。

「……今日も疲れたな……」

押入れの中にいてくぐもった声だったがはっきりと聞こえてきた。
ガチャガチャと金庫を開ける音がした。多分お金を数えているのだろう。ずいぶんと溜め込んでいるみたいだ。金属音が止まない。

「……今日は少なかったからな……まだ足りないか」

再びため息とも取れる声が聞こえた。
主は金庫を閉じて服を脱ぎだしたのだろう、ハンガーをとる音がかすかだったが聞こえた。

「……続きは2時からだったな……。それはまでこのままでいよう……これが一番落ち着く」

バサッと何かを翻したような音がした。シェンナが何かピンと来た様に口をモガモガさせるが、クリームの機転で既に口は押さえられていたのだ。

「……あいつらは今頃どうしているのか……俺も情けない姿になったものだ……」

まだモゴモゴとしているシェンナだがちょっとした隙を狙ってシェンナが押入れの中で叫んだ。

「……ぷはーっ!ミシンコードって知ってますかー!?」
「……何だそれは……っ!?」

部屋の主が声に気づいてこちらに歩いている音がする。イエローがとっさに各隊員の転送装置を押した。部屋の主がガラッと押入れを開けた。

「…………」

押入れの中には誰もいなかった。間一髪で全員転送されたのだ。
ガランとした押入れの中を見回してみても誰もいない。

「……何だったんだ今のは……聞き覚えのある声だったが……」

押入れを閉めて部屋の主は再び着替え始めた。ペパーミント色をした蛍光色の制服と帽子、そして妙に奇抜な頬の模様。
……その姿は、ピザの配達員の服装をしたウィックその人であった。








中国。それは日本の近くにある不思議な国。
中華料理、それは美味しい料理の一つ。筆者も大好きな種類の料理である。
第一班はそう、中華街へとやってきていた。初めは横浜だと思っていたのだが看板の文字を見る限り本場だった。

「……異国の街って緊張しますねぇ……」
「ワタシ……実は意外と中国語が出来たりするんですよ……」

シルバーが不安そうな隊長の方にポンと手を置く。

「まさか、ニイハオとサイチェンだけとか言うんじゃないでしょうねぇ」
「……まぁ、そういうことです」

シルバーはグリーンの方から手を離した。
しかし、そんな事をしている場合でもなく中国でミシンコードを知っている人を探さないといけないわけだ。

「とりあえず、だれかに聞いてみましょう!」
「どうやって?」
「ハートっす!心と心が通い合えば言葉の壁なんて無いも同然!見ててください」

ブルーが側に居たいかにもな格好のチャイニーズドレスを着た女性に向って身振り手振りで話を始めた。

「あのっすねー。日本!日本!わかる?ジャパンアルよ?」

向こうも何か言っているようだが良く解らない。
しかしブルーの粘りもあってか女性はブルーを引き連れて何処かへと行き始めた。

「ホラ、やっぱりユニバーサルマインドは不滅っすね!」
「何を言ってるんだか……」

グリーン達はその後を追っていくと豪華そうな中華料理店へ入っていった。
ここで庶民はやはり入り口の前で足を止めてしまう。

「大丈夫ですかぁ……?ブルーひょっとして客引きの人に話しかけたんじゃ……?」
「さぁ……とりあえずチャイニーズガールを信じてみましょう」

ブルーを追って中に入るとこれまた豪華な内装だった。
何かで見たような絵画まで飾られていてここはまさしく☆が何個かつくところなのではないだろうか。
そう思っているうちに奥の大きなテーブルのところへ一同は案内された。

「座りましょう!」
「不安だなぁ……」

座った途端、頼んでもいないのに豪華な料理が次々とテーブルに置かれた。
北京ダックや餃子などはわかるが中には見たこともない料理が大半で良く解らないがとにかく凄かった。

「……食べろってことなんですかねぇ?」
「解りませんよ……食べた所で後で莫大な請求が来るに違いありません」
「キャッチバーならぬキャッチチャイニーズレストランっすね!」
「……転送装置もあることだし、食べたら食べたで逃げればいいんですよ……」

シルバーがそう言って炒飯をこれでもかという具合に食べ始める。シルバーの表情から行くといがいとまずくはないようだ。

「どれどれ……。じゃぁ、この蒸しギョーザでも……」

グリーンもギョーザを1つ食べてみた。さすがは本場、日本の大衆食堂のものとはわけが違う!
さて、次はどれを食べようかなとグリーンが料理に手を伸ばすと何者かに後ろに椅子後と引き倒された。

「あなたたちですね!我々の偽者は!!」
「許さん……。俺達のご馳走を……」

床に頭を打ち付けてくらくらしているグリーンが声のする方向を見るとそこに青い猫と白い猫が立っていた。
しかし、グリーンの顔を見るなり急にその猫は頭をぺこぺこと下げた。

「……あっ!あなたはOFFレンジャーの方々!す、すいません!!」

なんとか立ち上がってよくよく見ると彼は聖獣の一人青龍だった。

「……青龍さん!どうしたんですか。こんな所で」
「皆さんこそ……。ご旅行なんですか?」
「えぇ、まぁ……あの、ところで私に対するこの仕打ちは一体……?」

グリーンが頭のたんこぶを指差すとなお申し訳なさそうに青龍は頭を下げた。

「す、すいませんっ!実は、世界を回っている内にみんな中華料理が食べたいといいまして……ね。
私が予約をしていたんですけど……もう入ってると言われて……」

チラと青龍が目をやるとシルバーは腕を組んで狸寝入りを始めていた。

「……多分ブルーさんと私を間違えたのではないかと……」
「じゃぁ、これは聖獣さん方の……」
「まぁ、そうですね……他の3人が来るまでに追加注文をしておきましょう……」

青龍がメニューを持って店員を呼ぼうとした時既に遅く背後に見覚えのある3名が並んでいた
青龍は青龍でバツの悪そうな顔をする。

「……そんなのダメに決まってるでしょ青龍」
「……聖獣として恥ずべき行いだな」
「そうだそうだ!」
「しゃー!」

彼らこそが、青龍の仲間である他の聖獣たち、朱雀、白虎、玄武であった。
さっきの台詞では一人多いという突っ込みは不要。正確に言うと3名の内の玄武のしっぽのへびくんが声をあげただけなのだから。

「青龍……。久しぶりの再会だからって情けをかけることはないのよ」
「……す、すまない……朱雀……」
「第一、あなた達もあなた達で普通何もなく豪華料理が食べられるわけないでしょう?」
「すいません……」

朱雀のキツイ言葉が罪悪感も相まって余計に心に突き刺さる。心なしか狸寝入りをしている隊員も増えている。

「あの……私達弁償しますから……」

ピンクだけがグリーンの横についていて言ってくれたが朱雀は気に入らない顔をしている。

「弁償?たくさん食べておいてお金払えばそれで済むわけ……?」
「朱雀……辞めないか……。そんなに言うほど食べていないんだから……」
「フン……。久々に故郷に帰ってきたらこれよ……たまったもんじゃないわ」

青龍が懸命に朱雀をなだめながら席につかせる。
さっきまで狸寝入りをしていた隊員たちもわざとらしく目をこすりながら席を立った。

「ふぁぁ……。あれ?聖獣さん方が何故ここに?」

銀隊員の棒読みの台詞には全く意外性が込められていない。なんと狡猾な男だろう。しかし、自分が同じ状況に置かれるとしないとも限らないが。

「さぁ、朱雀も、白虎も!大いに食べようじゃないか!」

青龍も仕切りなおしとしてかパンパンと手を叩いた。

「青龍……僕は……?」
「みなさんも、よろしければ少しどうです?」
「あげる必要なんて無いわよ……もう食べたんだから」
「あの……僕は……?」
「もう寄せ、朱雀……意地汚く思われる」

聖獣の中でも一番聖獣らしい白虎がビシッと一言朱雀に言い放つ。
ビシッとした一言には違いないのだが朱雀の不満を余計膨れ上がらせるだけだった。

「……白虎。いつ私が!!」
「もー!朱雀も白虎もやめてよー!!」
「しゃー!」

玄武のしっぽについているへびくんが隣の白虎の首筋に噛み付くと白虎はガクッと頭をたれて泡を吹きながらおとなしくなる。

挿絵

「玄武!ドコに行ってたんだ……。全く」
「え、あの……僕は前から……」
「それより、みなさん。以前の闇虎の件では本当にお世話になりました」
「それよりって……僕の存在って……えぇー……」

──闇虎。確か以前聖獣と共に戦った悪の聖獣の一人。タイガに取り付いて大変だったが協力して闇虎を倒したのだ。

「……おかげで我々も自由になり、今は世界を回っています」
「烏龍茶は相変わらず飲んでますか?」
「えぇ、あの最高級烏龍茶はコップ一杯で半月くらい持ちますからね。今も元気満々ですよ」
「そうですか……」

やっと追加注文した料理が到着し、朱雀も落ち着いたようで騒ぎも自然と収まった。青龍も自分の側にある料理を朱雀に勧めてみたりする。

「……やっぱり故郷の料理が一番だな。朱雀?」
「…………そうね」
「あの、やっぱり弁償した方が……」
「いいんですいいんです。気にしないで下さい」

本当は弁償しろといわれても弁償が出来ないが、一応言っておくのが礼儀という物。
聖獣も気にしないでといっているしあんまり弁償だと言い過ぎて「それじゃぁお言葉に甘えて」といわれてしまっても困る。

「ところで、今頃気づいたんですがみなさん……ちょっと見た目変わりました?」
「白虎みたいになってるね」
「あぁ、ちょっと……日本で……」
「日本で流行ってるんですか~!グリーンさんなんか雰囲気結構変わりましたね」
「そうですか……ガガ……!」

グリーンは慌てて口を押さえた。ピンクが見てみると確かにさっきよりもグリーンの変わり様が激しくなっていた。
目付きもさっきより鋭くなってきている。変わってしまう前に早く探さなければいけないとプレッシャーがかかってくる。

「……あの、突然ですが……ミシンコードって知りませんか……?」
「どうしたんですか?ピンクさん」
「えーと、ちょっと今探してて……」
「……ちょっと解りませんね……」
「そうですか……」

しゅんとしたピンクの手には今はマータもいない。
グリーン隊長に代わってシルバーが喋ってくれた。グリーンは深刻そうな顔でブルーに支えてもらっていた。

「……あの、ワタシ達先を急ぐので今日はこれで……」
「そうですか?それじゃぁ、また今度という事で」

こんな時でもシルバーが転送される瞬間餃子をこっそり拝借していたのにピンクが気づいた。
こういうところはさすがだなぁ。と不謹慎ながらもついつい感心してしまった。






「わだっ!!」

第2班のうちライトブルーだけが着地地点を誤り、頭上のブラックも飛んでいってしまった。

「痛い……」
「よしよし。ブラック。……ライトブルー?大丈夫ですかー?」

どうやらここは何処かの衣裳部屋の様で妙に同じタイプの蝶ネクタイの種類が多い。あとアクセサリーや整髪料などよほどのお洒落さんの物らしい。

「ぷはっ……。参った参った……」

部屋の片隅に積み上げられた服やらアクセやらの山の中からライトブルーが顔を出したが、
パープルやグレー達は何故か変な顔をしてライトブルーを見つめていた。

「ん?みんなどしたの?」
「貴方……誰ですか?」
「え?」

ライトブルーが側にあった大きな姿見を見てみると自分の体に虎柄の模様が浮かび上がっているではないか。
ついでに都合よくネックレスやらピアスやら色々な物がライトブルーの体に装着されていた。

「あ、あなた……もしかして以前イエローが言ってたタイガの子分とか言う青虎って人じゃないですか?」
「え……」

そういえば、以前色々あってタイガの子分としてこんな格好をさせられた事があったなとライトブルーは思った。
都合よくそこで自分の体が虎柄になっていた為にこういう勘違いが起こったのだろう。
しかし、そこで正体をばらすのもさすがに恥かしい……。ここは上手く誤魔化すしかないとライトブルーは思った。

「……そ、その通り!俺様は~タイガ様のぉ……こ、子分の……あ、青虎だぜっ!」
「タイガって……子分いたんだね」

ライトブルーがいなくなってブラックはグレーの頭上へと移動していた。まるでコバンザメのようなやつだ。

「……あ、そうだ。こいつならミシンコードの事知ってるんじゃないかな?」
「そうですね。グレー。青虎くん。ミシンコードって知ってます?」
「し、知らないよ!オイラ……じゃない俺は……知らないぜっ!!」

変なアクセントで喋っているのは解っているつもりだがどうも直らない。
ここまでかとライトブルーは観念して、急いで出口の方へと走り出していった。

「あっ!逃げた!」
「追えー!!」

追いかけてくるホワイト達を懸命に引き離して廊下の角でアクセサリーやらを外した所で逆送する。そうして追いかけてきたホワイトにぶつかった。

「いたっ!」
「わぁっ!」

ライトブルーはわざとらしく転ぶとわざとらしく後方を指差した。

「ほ、ホワイト!今青虎が逃げて行ったよ!オイラ追いかけててアクセサリー投げつけられて……後虎柄にされて……」
「あっ!ホントだ……虎柄になってる」

見るとホワイトやブラックも薄く虎柄が浮かび上がってきていた。
見るとここはオオカミ軍団アジトの廊下。多分虎化の電波が強い場所なのだろう。

「……完全に虎化しないうちに次に行きましょう」
「そ、そうだね……」

なんとか誤魔化せてホッとしたライトブルーだがぶつかった時の痛さがなかなか無くならなかった。










第3班は綺麗な花畑の中に立っていた。以前出会った人力車のおじさんが走っていた場所とそっくりだった。

「綺麗ですー。おひたしにしたいですー」
「こんな場所がまだ世界にあるなんて……」

クリームもイエローもやっぱり女の子なのか少し感激に近いような声を上げていた。
地球環境の破壊が叫ばれる中でこんな景色が見られるのは滅多にないことだ。ただ一人オレンジはあまり興味がないようではあった。

「花なんて見て楽しいのー……?」
「楽しいとかじゃないんですよー。オレンジ。フィーリングですフィーリングー!」
「Did you understand? It is feeling!」

イマイチよくわからないオレンジ。彼が女心を解る日は来るのだろうか……。

「いや~癒されますね……ホント」
「花占いでもするですー。熱い、熱くない、熱い、熱くない……」

シェンナがそばの花を摘んで花占いを始めた。
何を占っているのかは解らないが他の隊員も匂いをかいで見たり花を眺めたりと思い思いに楽しんでいた。

「……やめてくださいっ!」

誰もいないと思っていた花畑に一人の少女が現れた。

「……やめてください……花が可哀相……」

少女は5回目の花占いをしていたシェンナの持っている花を見つめながら言った。

「す、すいませんですー……シェンナ熱いかどうか占いたかったんですー……」

イエローとオレンジはその少女に何処か見覚えがあった。確か昔一度会ったような気がする……オオカミ軍団で……。
だが、こちらが思い出す前に少女はこちらを向いてニコリと微笑んだ。

「……お久しぶりです。OFFレンジャーの皆さん……コスモスです」

コスモスに言われて2人はやっと思い出した。以前タイガと一緒に暮らしていた女の子だ。いつの日からかいなくなってしまったが……。

「……お兄様、元気ですか?」
「え?」
「タイガお兄様です。私、なかなかお兄様の様子を見に行けないから……」

コスモスはフッと淋しそうな顔をした。

「まぁ、心配しないでもタイガくんは大丈夫ですから」
「そうそう。いつも元気だしねー」
「あの、お兄様のお話……いろいろ聞かせていただけませんか?」

コスモスが真剣な顔でお願いをしてきた。タイガもこんなに慕われている子がいるんだなぁとイエローも不思議でたまらなかったが
教えてあげたくない理由も無いので話してあげる事にした。

「うーん……以前記憶喪失になった事がありましたね」
「えっ!?……お兄様……大丈夫何でしょうか」

心の底から心配そうな顔でコスモスはイエローの話を聞いていた。

「大丈夫ですよ。今は記憶も戻ってますから……」
「よかった……」

打って変わって心の底から嬉しそうなコスモスの顔。
タイガもいい加減女子を追い回したりAVを見るよりもこの子を大切にしてあげればいいのにとイエローはつくづく思う。

「他には……?」
「……後はちょっと見た目も変わりましたね」
「見た目……ですか?」
「模様がホランみたく……あ、ホランは知りませんかね?」
「いえ、知っています。お兄様のお友達で生ゴミを主食にされている方ですね」
「…………生ゴミ?」

タイガが吹き込んだのかどこかから変に聞いてきたのか真面目な顔をしているコスモスに聞くことは難しかった。
とりあえずホランが解ってくれればいいのだが……。

「ただ、タイガとホランて今はちょっと……モガッ!」

オレンジの口をイエローが押さえる。今回の小説は一体何名の隊員が口を押さえられたのだろうか?(暇な人は数えてみよう)

「……どうしました?」
「いえ、別に……(馬鹿ですね……女の子には心配をかけちゃいけないのが男ですよ)」
「モガー!!」
「オホホホ……気にしないで下さいね~」

本気で苦しそうなオレンジが気にかかったがコスモスはクイクイと何かにスカートを引っ張られていた。

「!」

見てみるとシェンナがコスモスのスカートを引っ張っていた。

「……どうしたの?」
「これごめんですー。悪気はなかったんですー」

シェンナは途中までちぎってしまった花とちぎった花びらを手に乗せてコスモスに差し出した。

「いいの。でも、次からは気をつけてね……」
「ここの花はお姉さんが育ててるんですかー?」
「……えぇ、そう。……といってもこのコスモスの花畑だけだけど……」

コスモスはシェンナから花を渡してもらうとそっと地面に挿してあげた。

「……すぐ新しい花が出るから……大丈夫ですよ」
「よかったですー……」
「所で、ここはドコなんですか?」

不思議そうに辺りを見回しながらクリームはコスモスに問いかけた。

コスモスの動きが一瞬ピタッと止まった。

挿絵

「……日本じゃないみたいですし……。こんな広い土地……しかも誰もいないなんて……」
「こ、ここは……」
「……やっぱり外国ですか?」
「…………」

コスモスは何も応えずただ下を向いてコスモスの花を見ていた。何故かコスモスの表情も少し曇っていた。

「……あ、そうだ。お姉さん。ミシンコードって知りませんかねー?」

シェンナなりの雰囲気の向上だったのかすっかり花畑の魔力のせいで忘れていた事を聞いてくれた。
コスモスも少し話がそれて安心したのか表情も少しだけゆるくなった。

「すいませんが……知りません。必要なのですか?」
「え、えーと……はいですー」
「……見つかると良いですね」

コスモスはニコッと微笑んだ。シェンナとは初対面だがきっとタイガくんも彼女のことは絶対嫌いじゃないなと思った。

「お兄様に会ったら私は元気でやってるって言って下さい……。私はいつでも……いえ、なんでもないです」
「……わかったですー。それじゃぁシェンナ達いきますねー」

クルッとシェンナが振り返ると青ざめた顔のオレンジの口を押さえたままのイエローが転送装置を押していた。














「あれーーー!?」

第一班到着と共に部屋中に同じ言葉が響き続けた。目の前に居るのは分かれたはずの第2班、第3班。
気が付いてみるとそこは、OFFレン本部のロビーでもあった。

「……まさかこれで全部って事ですか!?」
「……さぁ、な。所でミシンコードは集まったか?」

まだ無事な様子の研究員が第一班に聞いた。
グリーンは首を横に振る。他班からため息が漏れる。

「どういうことですか!誰も知らなかったじゃないですかぁ!!」
「ちょっと……グリーン隊長なんて、半分虎化しかかってるんですよ!」
「助けてください……ガルル……全く……」

研究員は頭を抱えてしまった。せっかくあんなにあちこちを飛び回ったのにミシンコードなんて全く見つからない。
このままティグレスにこの世界を明け渡してしまうのだろうか……。

「ちょっと、オオカミ!ミシンコード知らないんですかー!?」
「……19800607だ!」
「……え?今何と……」
「は?俺何か言ったか?」
「今……19800607って……」

いいかけた所でハッと一同は気づいた。「関係のあった人」ということは研究員も例外ではない
全く自分たちのやったことが無駄骨に終わった事に対するショックで一同は足元がフラフラとしてきた。

「……ま、まぁ良い!日本国民の半数以上が虎化している今、ティグレスを倒すんだ!」

研究員が無かった事の様に力強く言った。そういってもあまり力の出る言葉ではない。

「……まぁいいでしょう……幸運にも他の隊員も模様が出てきてるレベルで済んでいるようですから」
「じゃぁ、まず説明するぞ……」

1、ボックスなどで手下となった虎化した人々をティグレスから離す。
2、ティグレスに上手く近づきミシンコードを入力。

「……以上だ。あとはティグレスの体にミシン目が現れるからそのまま2つに裂けば良い」
「あ、ミシンコードのミシンってミシン目のミシンだったんですね……」
「とりあえずがんばってくれ……俺はお前たちを……」

突然研究員の動きが止まり始めた。嫌な予感がして研究員から隊員たちが離れると案の定研究員にも遂に虎柄が浮かび上がってきた。

「……お、俺はもうダメだ……ヤツの力が広範囲に……後は……お前たちが……ガルルルルルッ!!!」

研究員も遂に虎化してティグレスの元へと走り去っていった。ここで暴れなかっただけでもありがたい。
とりあえずミシンコードも見つかったし、やることもわかったし……いよいよティグレスの元へと出向く時が来たのだ。











ぼぉっと青白い炎がその場だけを照らしていた。
ティグレスは我が配下となった者達をじっと見下ろした。

「……己の身を捨て虎へと生まれ変わった者達よ……もうすぐ我らの望みは叶う」

ティグレスの言葉にさきほどまで黙っていた虎たちがいっせいに吠え始める。
それは大合唱のように見事に重なり合い、大きな獣がうごめいている様だった。

「素晴らしい……。我が野望への華麗なる前奏曲……」

ティグレスはその声を聞きながら虚空を見つめ続けていた。
それは新たなる支配者への声援であり、また新たある支配者に対する忠誠を誓う言葉でもあったのだ。






「……そこまでです!」






悦に入っていたティグレスの耳に粗悪な雑音が入ってきた。
自分を称える獣の叫びもピタリと止まってただ声のする方を獲物を探すかのようにキョロキョロと見渡していた。

「……OFFレングリーン!」

ボン!と広間の中央で緑色の閃光が上がった。それに続き次々と色鮮やかな閃光がその広間を埋め尽くしていった。

「OFFレンブルー!」
「OFFレンイエロー!」
「OFFレンピンク!」
「OFFレングリーン!」
「OFFレンオレンジ!」
「OFFレングレー!」
「OFFレンブラック!」
「OFFレンシルバー!」
「OFFレンホワイト!」
「OFFレンパープル!」
「OFFレンライトブルー!」
「OFFレンピーター!」
「OFFレンシェンナ!」
「OFFレンクリーム!」

右手をぐるっと大きく正面で回してOFFレンジャーは頭上に高く挙げた。

「おててに光る正義の肉球!ぐるぐる戦隊OFFレンジャー!」

久々の名乗りを上げた満足感も虚しく周りはしーんとして淋しい物だった。

「……OFFレンジャー……?貴様らも我に従うのか……?」
「じょ、冗談じゃありません!誰がそんなこと! お前を倒しに来たんです!!」
「……面白い。その心意気だけは認めてやろう……」

ティグレスはステッキを高く突き上げた瞬間周りの虎化した人々が一気にOFFレンジャーに向って迫ってきた。
一応武器は持ってきたがそれでもこの超大人数を片付ける事は出来ない。

「そうだ!」

一つだけ残っていたOFFレンボックスを使って少しでもティグレスに近づこうと考えた。
ミシンコードは覚えている。5分でも10分でもこの虎化した人々を遠ざけなければ……。

「だ、誰でもいいからいっぱいでて来て下さいっ!!」

とりあえずありったけ持ってきたボックスを全て地面にたたきつけると懐かしい面々が続々と登場した。
太陽光発電に憧れる若夫婦達やらタイガの行きつけのクラブだったり総入れ歯フェチの製紙会社の社長だったり、
佃煮屋だったり、宅配トラックの運ちゃんだったり……。
しかし、一つだけ惜しむ事があるとすれば全て虎化していることだったりする。

「ガォォォォォォォォ!!!!」

さらに人数が増えてしまった虎化した人々。ますます危険度が増していってしまった。
気づいたときにはすでにOFFレンの周りは完全に虎たちに囲まれてしまっていた。絶体絶命。四面楚歌。袋のネズミ───。

「グォォォォォォォォォ!!!」

ますますこの部屋の獣たちの叫びが大きくなる。もはやここまでか……!
と、思ったとき各隊員の腕の携帯PCから受信メールが届いたチャララン♪という音が流れた。

「……もしかして!」

クリームは慌ててメールボックスを開いた。メールは『必殺アイテム!M召還』という件名で、何かのファイルが添付されていた。

そう、丸い玉に御願いをしたティグレスを倒す為のアイテムとはまさにこれだったのだ!

「……みなさん!携帯PCを開いて!ファイルを開いてください!」

クリームの言葉にそれぞれの隊員が携帯PCを開き、添付ファイルを開いた。『Mプログラム起動』のボタンを一斉に押した。









「……ミャウミャウ!(・_・)ミャウミャウ!」








突然各隊員の前に見知らぬ生物が出現し始めた。
しかもそのミャウミャウ鳴く生き物はポコポコポコと増殖を始め、辺りは虎とミャウミャウ鳴く奴らで溢れかえっていた。

「ミャウミャウ!(・_・)ミャウミャウ!」
「こいつは一体……」
「聞いた事があるわ……。尾布市に伝わる謎の生物ミャウミャウくん……」
「ミャウミャウ!(・_・)ヨロシクネ」
「聞いた事ないですー」

普段読者の皆さんはOFFレン通信の『編集後記』でミャウミャウくんと触れ合っているが、隊員達が彼と出会うのは初めて。
大げさなアクションの割には……な登場なのであまり実力は期待できないと全員が全員思ってしまっていた。

「ミャウミャウ!(・_・)キミタチゲンキカネ?」
「ガウ……?」
「ミャウミャウ!(・_・)オニゴッコシヨウシヨウ♪」

ミャウミャウ達は突然広間のあちこちを走り回り始めた。虎達も突然の出来事に唖然としている。
しかし、虎たちもこの不可思議な生物に興味を持ったのかミャウミャウを追いかけ始めた。

「ミャウミャウ! ≡≡≡(・_・)ノ ミギヘダッシュダ!」

ミャウミャウくんの一団が右へ動くと虎たちも右へと移動し、

「ミャウミャウ! ヘ(・_・)≡≡≡ ヒダリヘモイッテミルヨ!」

ミャウミャウくんの一団が左へ動くと虎たちも左へと移動していった。
まるで毛糸球を追いかける猫のように、虎達は我を忘れてミャウミャウくんを追いかけていた。







「……ハッ!今のうちですよ隊長!虎たちは全員ミャウミャウくんとやらに夢中です!」

当分呆気に取られて見ていただけだったクリームがやっとミャウミャウの利用法に気が付いた。
まさに猫の習性と不可思議な生物の行動が合間った知的戦略といえよう。

「そうか!ティグレスのところへ向いましょう!……ガルル……」
「……隊長」
「私が完全に虎化しないうちに……」

時折、唸るような声を上げながらグリーンは走った。
半分虎化しかかっているグリーンを心配しながらも、隊員達はティグレスの元へと急いだ。
虎やOFFレンがいる大きな広間のずっと向こうに長い段の階段がありその上部でティグレスがじっと見ているのだ。
虎たちがいなくなったので相当階段までは広く、走っても相当な距離だった。

「……貴様達は何故虎にならぬ」

階段まで数メートルにたどり着いた時、ようやくティグレスが口を開いた。
赤と黄色の鋭い目がギロッとこちらを睨んだままだった。

「我に逆らうものは許さぬ……」

ティグレスは杖を高く突き上げた。頭の中がガンガンしてきた。自分ではない何かに体の自由を奪われていくような気がした。

「ガルルルルルル……」
「じきに虎化していくだろう……そして我に従うのだ」

虎化していく自分を抑えながら必死に階段を登り始ていく隊員たち。
フラフラと倒れこむ隊員も階段へと近づくにつれて増えていった。

「ガゥ……ガウ……」
「我慢しなくても良い……猛獣の心に身をゆだねれば楽になるのだ……」

ティグレスが苦しんでいる隊員たちを嘲笑うように言った。『負けてたまるか』と誰しも思った。
しかしティグレスの言う猛獣の心は本当の心をその鋭い牙で噛み切ろうとしているのだ。

「うっ……」

グリーンの後ろで駆け上がってきていたブルーが倒れた。

「た、隊長……これを……」

ブルーがミシンコードを書き込んだOFFレンボールをグリーンに差し出した。

『これで入力する手間が省けます……俺はもうダメっす……』
ブルーの手からは鋭い爪がゆっくりと伸びてきていた。

「……後は……お願いしま……っす。ガウウ……」

ブルーの体が生まれたての子牛のようにビクンビクンと震えていた。
新しい物に生まれ変わろうとしている震えだった。

「……解りました」

ボールを受け取るとすぐさま残る力を振り絞って最上階を目指した。

「……愚かな者だ。どうしてそこまでして苦を求める……」

しかし、杖からでる何かの波動に押されて、虎化していく自分と戦いながらグリーンは思い足を動かし一段一段登っていった。
一段ずつティグレスに近づくたびに自分もまた虎の自分へと近づいていくのだった。

「……ガ……ガルルルルル……」

思わずグリーンは手を段差につけていた。
ティグレスの持っている杖からでる波動はグリーンの理性を次々と潰していったのだ。
次第に体中が熱くなり頭の中で獣の叫び声が何度も響いた。

「(……俺の所へ来いよ)」

頭の中で虎の姿をしたグリーンが自分に向って手を差し伸べてくる……。

「(俺と一緒になれば楽になれるぜ……)」

その手を拒むグリーンだが向こうはじりじりとこちらに近づいてくる。
その表情は邪悪に満ちている。その暗く深い瞳に吸い込まれてしまいそうだった。

「隊長!……隊長だけが頼りなんです!」
「隊長!お願いします!!」

グリーンの耳にふと虎化に苦しんでいる隊員達の声が入った。
グリーンは虎グリーンの幻覚を振り払うと再び階段をゆっくり這って行った一段一段とグリーンの苦しみも増していく。

「……実に愚かな」

ティグレスはそう呟いたままま上に突き上げた杖をグリーンの居る方向へと振り下ろした。
杖の先の玉が怪しく光る。

「……心眼霊物香洸興虎……この者を直ちに虎へと変えよ……」

玉から放出された光がグリーンを包む。グリーンは苦しそうに頭を押さえた
再び現れた虎のグリーンの差し伸べた手に応えるようにグリーンもそれを握り返してしまっていた。

「ウガァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」

グリーンは他のものと同じように、頭の中に響く声と同じように大きく吠えた。
その顔つきにグリーンの面影は無い。新しく生まれた一匹の獣がそこで新たな支配者に敬意の雄叫びを上げていた。

「……これで我の望みも叶った……」

ティグレスは杖を降ろしフッと鼻で笑った。

「……これで誰も邪魔するものはいない……。虎の王となる日はもうすぐ……」
「ガァァァァァァァ!!」

ティグレスの自信に満ちた声を聞き虎化してしまったグリーンは精一杯彼に祝福の声をかけた。
彼の心は完全に一匹の野獣となっていた。そんな時、チカッと一瞬の光のようにグリーンの脳裏に聞き覚えのある声が聞こえた。

『……もうすぐじゃないか。グリーン!』

懐かしいようなくすぐったいようなそんな感じだった。
その声をきいてからグリーンの握っていた手は次第にどんどん緩んでいった気がした。

「……!」

ハッと目を覚ましたグリーンは気が付くと全速力で階段を駆け上がっていた。
ボールを掴んで、キッとティグレスを睨みつけて、一心不乱に駆け上っていた。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

その声に驚いたのはティグレスだけではなかった。
自分がこんなに力いっぱい走っている事、誰かが自分の背中を押してくれているような気がしている事。

「OFFレンボール!!」

驚いて目を見開いているティグレスに向ってグリーンは思い切りボールをたたきつけた。
突然の事にティグレスは全く動けなかった。自分の計画が狂うはずが無いと固く信じていた。

「馬鹿な……お前は虎になったはず……」

ピピピピッ!とコードを読み取ったらしき音がしてティグレスの体の中央に真っ直ぐなミシン目が現れた。

何が起こったのか解らないティグレスはそのミシン目を見つめて困惑していた。

挿絵

──今だ。
グリーンはそのまま速度を弱めずにティグレスに向って走った。
走るグリーンの横で誰かが微笑んでいるような気がした。

「(……レッド)」

ティグレスがカッと目を見開いている。

「貴様……何をする気だ……!?」

グリーンはティグレスの右側をぐっと掴んだ。

「……貴方を倒すんです」

そのままティグレスの右側を掴んだままグリーンはティグレスの側を横切っていく。

「(……レッド、私出来ましたよ)」

2つに裂けたティグレスからは眩いばかりの閃光が広がっていく───
















「……ン……リーン……グリーン!」

自分を呼ぶ声にグリーンは目を覚ました。開けた視界の前に自分の顔を覗き込む隊員たちの姿があった。

「……ティグレスは……」
「大丈夫です。ホラ」

グリーンの上半身をそっと起こし、ブルーの差した先には2つに千切れたティグレスがゴロンと床に転がっていた。
どちらの片割れも全く動かず不気味な姿ではあったが徐々にタイガやホランのような形に変化し始めている。

「……虎化した人々はどうなりました?」
「あの人たちはミャウミャウくんの誘導によって今頃は家に戻っている事でしょう」

ブルーの声に反応したのか広間に残っていた一匹のミャウミャウがグリーンの側へとやってきた。

「ミャウミャウ! (・_・)ノ ボクヲヨンダカネ?」
「あ、ミャウミャウくんさんありがとうございます……」

ミャウミャウくんがいなかったらもしかしたらティグレスにだって勝てなかったかもしれないのだから。
痛む体を堪えてグリーンはペコリとおじぎをした。そんな様子を察したのかミャウミャウは何処からか星を取り出した。

「ミャウミャウ! (・_・)ノ☆ オホシサマアゲルネ」
「あ、ありがとうございます」

正直、貰ってもどうしようもないような気はしたが手に取った瞬間徐々に痛みが引いていくような気がした。
しばらくするとグリーンは一人で立ち上がれるようになっていた。

「……この星は……」
「ミャウミャウ! (・_・)ノ★ コッチハクロボシ……ナンチャッテ」

グリーンの手に持っていた星も消えてしまい。グリーンの体からは完全に痛みという物がなくなっていた
すると、タイミングを見計らったように携帯PCからはピーピーと聞きなれない電子音が聞こえた。

「ミャウミャウ! (・_・)モウカエラナクチャ」
「そうなんですか……?」
「ミャウミャウ! (・_・)ノ オフレンツウシンヲコンゴモヨロシクネ」
「あ、はい。それじゃぁありがとうございました」

グリーンは携帯型PCをミャウミャウの方へと向けた。PCのモニターがうっすら光っている。

「ミャウミャウ! (・_・)ノ バイバーイ」

ミャウミャウがPCに吸い込まれるようにして帰っていく。
帰っていった後PCを覗いてみると添付ファイルはメールごといつの間にか消えてしまった。

「また……会えると良いですね」
「……えぇ」

グリーン達がティグレスの方を見てみるとタイガとホランはほぼ元に戻っていた。
まだ少し微妙に雰囲気が違う所があるが多分、大丈夫なはずだ。とりあえず何故か側にあった棒切れでタイガとホランを突いてみる。

「うぅ~ん……」

何度か突いていると二人とも気が付いたようでゆっくりを目を開けていった。

「……ハッ!オレは……虎の王に……!!」
「お、オレがこの世界を……!!」

寝ぼけて起き上がったタイガとホランがティグレスの口調に似せて言った。
しかし、辺りはし~んとして本人たちも何を言っているのか良く解ってないようだった。

「……ハッ!グリーン!オレに会いにきてくれたんだね♪」
「にゃはー!よく見ると女子たちが全員居るじゃん!デートしようよー♪」

こちらに気が付いた二人が先ほどの大騒動も知らず陽気に話しかけてくる。
先ほどまで自分たちがものすごい事をしていたという事は少しも覚えてないのだろう。

「……全然変わってませんね……」
「まぁ、この二人はこういう人だし」

タイガもホランもキョトンとした顔をする。
説明しても始まらないし、とりあえず謎は謎のままにさせておくのが一番だろう。

「隊長。とりあえず世界の危機も食い止めた訳だし……いっちょやっときますか?」

ブルーが嬉しそうに隊長に言った。何故だかホランが不安そうな顔をしている。

「やるとは一体……?」
「ホラ……あれっすよ。あれ……」

いつまでたっても良くわからない顔をしている隊長に痺れを切らしたのかブルーはジェスチャーを始める。
次第にグリーンの方が苛立ってきてしまう。

「ブルー隊員……口で言ってください。隊長命令です」
「あ、打ち上げっすよ打ち上げ!世界の危機を救ったんすから打ち上げやったって!」

ブルーの言葉に隊員たちから『いいかもね』とか『やりましょう』という声が上がってくる。
グリーンも満更でもない。むしろこの達成感をそのままにしておくのは勿体無いと隊長は思っていたのだ。

「わかりました!それじゃぁ、打ち上げやりましょう!」




















『レストラン尾布』にやってきたOFFレンジャー。
電話予約を入れておいたのでなんだかいつも以上に入店がドキドキしてしまう。

「やっぱり隊長から先入ってくださいよ」
「い、いえいえ……私は後で良いですよ……」

ついつい互いに遠慮しあう隊員たち。しかしそんな中でスッと真っ先に一人で入店したのはタイガだった。

「オーイ!女子のみんなー♪早く来いよー♪」
「タイガ……何故貴方がここに……」
「まぁ、いいじゃん♪オレも打ち上げ打ち上げ♪」

と言ってタイガは女子に馴れ馴れしく触れてくる。
その途端、男子隊員達から大ブーイングが飛んでくる。

「第一ねぇ……貴方は敵でしょう!これは正義側の打ち上げなんです」
「ホランもいるぞ!」

タイガの指差した先に、グリーンの背後に、間違いなく赤面してもじもじしているホランが立っていた。

「オレも……一緒に打ち上げさせてくれないか?」
「ば、馬鹿いわないで下さい……今回は絶対お断りです」

なかなかこちらに入ってこないので定員が様子を見に来ているのにホランは気づいた。

「あ……予約したぐるぐる戦隊OFFレンジャーです」
「あ、中へどうぞ」
「ちょっ!勝手にOFFレンを名乗らないで下さい!!」

そうは言ってもホランもタイガもずんずんレストランの中へと入っていく。
仕方ないと諦めて一番最後に隊長は入店した。隊員達は隊長の遥か向こうだ。



《原作》ぐるぐる戦隊OFFレンジャー製作委員会



早速席に着き、みんなが料理を注文し始める。しかし予算がなかなか無いので困ってしまう。

「……オレのおごりでもいいよ……グリーン♪」

金色に光るクレジットカードをグリーンに見せながら艶かしい目付きでホランは言った。

「……おごりだけでしょうね?」
「……もちろんさ……」

なんとなくその怪しい目が気になったがおごってくれるのならこれほどまで有難い話はない。
とりあえずグリーンは少し不本意な物のホランにおごってもらう事にした。

「それじゃぁ、好きなだけ頼みましょう!」

隊長の言葉に隊員たちも喜んで遠慮なく注文していく。

「えーと……このイセエビのコキールってのを食べてみたかったんですよねー」
「俺、カツカレーと、エビフライカレーと、ビーフカレー!!」
「オレ、刺身ー♪」
「私は……オーソドックスに……す、ステーキとか頼んでみましょうかね」
「はいはい……」

色々と注文を聞きながら店員さんはメニューを書き付けていく。

「オレ、生ビール!!」

タイガが見も蓋もない発言を突然し始める。側の壁には『未成年の飲酒は~うんぬん』と描かれたポスターが貼られてあるというのに……。

「あのー。お客様……未成年の方へのアルコール類のご注文はお断りさせていただいているのですが……」
「なんだよー。オレ立派な大人だぜー?」
「申し訳ありませんが規則ですので……」
「金やるから持って来いよー」
「いや、ですが……」

店員も困ったようにカウンタの方をチラチラと見る。
タイガもよせばいいのにきっぱり酒を注文するとはやはり馬鹿なのか……。

「ちょっとこっち来てくれよ」

タイガが突然席を立って店員を向こうの席のほうへと連れて行った。しばらくすると怯えたような顔の店員と満足げなタイガが戻ってきた。

「オレ、生ビールね♪」
「は、はい……な、生、お一つ……」
「(……タイガ。貴方何したんですか)」
「(穏やかに話し合いだよ)」

タイガがキッと店員を睨む。こういう悪さはまだティグレス時代のままのようだ。

「シェンナはどうするの?」
「うーんですー」

そして、シェンナが最後までなかなか決まらないようでクリームも困っていた。

「シェンナお子様ランチについてくるフルーツゼリーが食べたいですー」
「シェンナ、それじゃぁお子様ランチを頼まないといけないのよ?」
「嫌ですー!シェンナ子供じゃないんですよー!」
「じゃぁ、何食べんの?」
「お子様ランチについてくるフルーツゼリーが食べたいですー」
「……お子様ランチ下さい」

シェンナが最後までだだをこねていたが結局クリームが無理矢理お子様ランチを注文する。

「お子様ランチですと、オレンジジュースとメロンソーダの2種類があるのでどちらになさいますか?」
「メロンソーダはしゅわしゅわして大人っぽいからお子様っぽさをカバーできそうですねー」
「……メロンソーダでいいです」



《隊員デザイン》ぐるぐる戦隊OFFレンジャー


《悪者デザイン》レッド隊長、シルバー隊員


《その他デザイン》レッド隊長、パープル隊員



料理がやっと到着し、周囲の隊員から『隊長から何か一言を!』とはやし立てられた。


グリーンは少し照れながらコップを手に立ち上がった。

「えー。皆様こうして打ち上げが出来るようになったのも……」
「隊長ー!レッドみたいな台詞じゃないですかー!」

えへへと照れ笑いをしながらグリーンは頬を掻く。

「と、とりあえずご苦労様でした!かんぱ~い!!」
「かんぱ~い!!」

乾杯を終えると隊員たちも美味しそうにコップに注がれたジュース、その他諸々を飲み干す。
飲み干すと早速、待ってましたとばかりに隊員達は料理を食べ始めた。多種類なのでいくらでも食べられる。

「これなかなか美味しいですねぇ……」
「隊長。お疲れ様です」

グリーンの隣にそっとピンクが座った。

「あ、いやピンクもご苦労様です……」
「あ、あの……これ食べませんか?私一人じゃ食べ切れなくて……」

ピンクが皿の上の料理を差す。ハムやら野菜やら色々と綺麗に盛り付けされているが名前は知らない料理だった。
そんなに量が多い物とは思えなかったが美味しそうだったのでグリーンも一口食べてみる事にした。
なんともいえないあっさりとしたソース……。普通のレストランにしてはなかなかやる一品であった。

「グリーン……。オレのも食べてくれないか?」

顔を赤らめたホランも美味しそうな一品をチラチラと見せてくる。

「隊長はそんなの食べません……隊長、もう一口どうですか?」
「あ、ありがとうございます……」
「グリーン……オレのも……」
「あ、結構です」

ホランが残念そうに肩を落とす。
ついに諦めたのかとグリーンが横目で様子を見てみるとこちらを恨めしそうに見ているホランがいた。

「ガオー!酒だー!酒もってこいー!!」


向こうは向こうで一人でこっそり飲酒しているタイガがうるさく吠え始める。
いくら虎だと思い込んでいるからって飲酒して虎にならなくてもいいのに……。

「所で、グリーン……ジュースいらないか?」
「ん?どうしたんですかホラン」

ジュースらしき物が並々と注がれたコップをホランは差し出してきた。

「……いいから飲んでみてくれないか……。とても美味しいから」
「何か企んでません……?」
「大丈夫大丈夫……」

ホランはゴクゴクと少しだけコップに注がれたものを飲んで、大丈夫だろ?という顔をした。

「ホラね。いらないのならオレが飲ませてあげるよ……そっちの方がいいけど……?」
「わ、わかりましたよ……?ゴクゴク……」


飲んでみて解ったが明らかにこれはジュースではなかった……。



《挿絵》パープル隊員



打ち上げも佳境に入ってくるとさらに大虎になったタイガがはち切れそうな笑顔で女子隊員たちのほうへと歩いていく。

「にゃはー♪ オレねー♪イエローちゃんとエッチしたーい」
「……セクハラって言うんですよそれ」
「にゃははーw 誰かエッチしようよー♪……といってもね……アルファベットじゃないんだよ!……にゃははははははw」
「あーハイハイ面白い面白い」

いきなり笑い出すタイガ。女子隊員たちもそんなタイガを無視して女子は女子で盛り上がっている。
しかし、酔っ払いはタイガだけではなかった。

「ヒック……なんか心地よい気分ですね……」

グリーン隊長はさっきからフラフラと少し赤みのかかった顔でホランと話している。

「そうかいそうかい……ちょっと横になった方がいいよグリーン」
「……そうですね……ちょっと眠ってみます……」

グリーンがホランの膝の上にゴロンと寝転がる。……とホランは真っ赤になったまま手をわなわな震わせて悶えていた。
彼にとってはお金にも変えられない尊い幸せなのだ。

「(……グリーンが……グリーンがオレの膝に……!……い、生きててよかった……!!)」

むにゃむにゃとグリーンの寝顔をそっと撫でながらホランは目に涙を浮かべていた。
彼がお酒に弱いということを事前にリサーチしていたホランの勝利である。

「(このまま時が止まってしまえばいいのに……)」

グリーンを膝に乗せうっとりしているホラン。グリーンもついうとうとして眠ってしまっていた。

「……あれー?隊長どうしたんですかー?起きてくださいよー!」
「ガウッ!!!」

グリーンに触ろうとしたオレンジの手首にホランが噛み付く。
ヘタすればそれだけで覚醒しそうなホランを大人しくさせることはもはや誰にも出来ない。



《出演》

『OFFレンジャー』

レッド隊長
ブルー隊員
イエロー隊員
グリーン隊員
ホワイト隊員
ブラック隊員
パープル隊員
ピンク隊員
オレンジ隊員
グレー隊員
シルバー隊員
ライトブルー隊員
ピーターパン隊員
バーント・シェンナ隊員
クリーム隊員



「にゃははーw王様ゲームやろうよー♪」

酔いも完全に回って乗りに乗ってきたタイガが割り箸を集めてそんな提案をする。
露骨に嫌な顔をするとすると妙に尖っている牙や爪をちらつかせ始め渋々王様ゲームが開始された。

「はーい♪王様だーれだ?」

隊員たちが辺りを見回すが誰も手を挙げない……するとタイガが嬉しそうに叫んだ。

「おぉっ!オレだぜー!」

へらへらと笑っているタイガとは反対に女子隊員たちからは重苦しいしいざわめきが聞こえる。

「今のは無しにしましょうよ……」
「いいやダメだっ!オレは王様なんだぞー!王様の命令は絶対だ!わかったかーw」
「……酒臭いから近づかないで下さいっ」

タイガの様子から明らかに女子隊員に向けての命令が発令されるのは目に見えている。

ますます男女両方の不安は広がっていく。

「んーとねー♪10番とオレがキスする!にゃはーwこれで決まりー!」
「じゅ、10番誰ですか……?」

女子たちが恐る恐る自分の番号を見る。が、女子の全員はホッとした顔で割り箸を見ていた。

「……あ、オレだ」
「にゃ!?」

ブラックが10番と書かれた割り箸をタイガに差し出した。タイガの酔って赤らんだ顔がみるみるうちに青くなっていく。

「……や、やっぱなしっ!! もう一回!」
「でも今……」
「王様命令だー!!もう一回!!」
「やれやれ……」

再び王様ゲームを始める事になった。

「はい、王様だーれだ!……ってまたまたオレだぜー♪」

タイガが再び嬉しそうに叫ぶ。もしやと思い確認してみるが確かに王の文字が割り箸に書かれている。

「にゃはーw んじゃぁねぇ……女子達がオレを大好きになるー♪」
「……好きですよ」

女子が口を揃えてタイガに言う。

「にゃはーw嬉しいなー♪」

酔っているからなのか馬鹿なのか。一人楽しそうにしているタイガだった。



《出演》

『オオカミ軍団』

タイガ
ホラン

ザコオオカミ
研究員オオカミ

ティグレス



タイガの酔いも覚めてきたた頃には、料理もほぼ平らげてきてしまっていた。
これ以上食べるわけにも行かないし、もう時計も10時を回っている。

「グリーン隊長。そろそろ帰りますか?」
「ZZZ……」

グリーン隊長はまだ酔ったままホランに膝枕されたまま眠ってしまっていた。
ホランが何度もグリーンを撫でていたせいかある一部分だけ変に毛が整っていた。

「……ホラ、隊長。帰りますよー」

ピンクがグリーンの肩をぽんぽんと叩く。ホランが物凄く嫌そうな顔をしてピンクを見ていた。

「……グリーンはまだ眠いんだ……そっとしておけばいいじゃないか」
「でも、もう帰る時間ですし……」
「キミはグリーンの保護者か?そういう事はキミが決める事じゃないだろう」
「じゃぁ、ホランはグリーンの保護者なんですか?」
「……その通り。グリーンはずーっとオレが保護してあげるんだ……」

ホランはそう言ったままグリーンを撫でている……。



《第一班捜索パート出演》

音声端子夫婦
ホワイトタイガーエンタープライズ受付嬢
ホランの秘書
花屋
みかん
純一さん(鏡餅)
努さん(鏡餅)
桜の精
コピー機
尾布警察署
某国のエージェント
ボスオオカミ
マジックてるてる
緑団の皆様
公共料金
青龍
朱雀
玄武
白虎



そうこうしている内に既に時計は11時を指していた。
入店時にいた客の大半は帰っていて、トラックの運ちゃんやら怪しい感じのカップルなどが増えてきている。

「もう、帰らなきゃね……」
「いい子は帰る時間ですー。でもシェンナもっといたいですー」


あまり夜遅くまで少年少女が飲食店に入り浸るというのも余り感心されない物。メンバーのほとんどももう帰ろうと言う意見だ。

「えー!夜はこれからなんだぜー!?」
「そ、そうだ……オレが追加料金を出せばここに泊る事だって!いや、その方が絶対に良い!!」

トラトラコンビがやはり粘っている。元はといえば無理矢理付いてきたくせにずいぶんな態度である。

「タイガくん。私達帰りたいんですけど……」
「ダメー!女子のみんなはオレと一緒にいるのー!」
「残念ですー。タイガくんって女の子を縛るような人だったんですねー」
「……わ、わかったよぉ……。帰ろう……」

タイガは渋々席を立ったがやはり最後まで粘っているのはホランだ。

「嫌だ!ぐ、グリーンがせっかく!!」
「ホランくん……わがまま言っちゃダメだって……」
「ぐ、グリーンとずっとこうしていたいんだ……」
「残念ですー。ホランくんって男の子を縛るような人だったんですねー」
「あぁ、そうさ。オレはグリーンとずっといられるならどんなことだってしてやるさ……」

ホランの砦は固い……。しかし、ブラックがある事に気づいた時ようやくその砦を崩す可能性が見つかった。

「……どうでもいいけどさホラン。足の模様滲んできてるよ」
「何!?」

グリーンが寝ていた部分の模様がグリーンの寝汗で滲んできていた。
それだけじゃなく、ずっと興奮していたせいか他の部分の模様も汗でだんだん滲んでいる。

「……このままじゃ。白虎とはいえないよね」
「……う、うぅ……」
「白猫だよね」

ホランの中で物凄い葛藤が始まる。が、当然勝利は見えている。

「……ぐ、グリーン!!すまないっ!!」

ホランは何処からか取り出したスティック状のドウランを手にとってトイレへと駆け込んでいったグリーンを席の上に寝かせたまま……。



《第二班捜索パート出演》

侵入者
シャンプー
雪だるま
骨董屋の主人
恩師の先生
カタツムリ同好会
老婦人
ナポレオン
女性リポーターとカメラマン
サンタクロースとトナカイ
トンピャラポン
フルール
ロリポップ&父
雷猫
炎猫
光猫
闇猫
青虎



「わぁー。星が綺麗だね~」

会計を済ませてやっと外へ出ることが出来たOFFレンジャーたち。夏の夜風がなんだか気持ち良い。

「うーん……私なんだか眠っていたのにこの疲れは一体……」

起きたばかりのグリーンがぼーっとした口調で言っているが詳細を言うわけにも行かない。

「さて、本部帰ってどうします?」
「にゃはーwオレねーオレねー♪このまま女子とラブホで二次会したーい♪」
「そうですね……。やっぱ本部でお茶でも戴きながら雑談会でもします?」
「それがいいですね!よしOFFレンジャー出動ですー!」

まだ少し酔いが残っているグリーンが少しだけふら付く足取りでずかずかと隊員たちを先導していく
その後ろを楽しそうに歩くタイガや隊員たち。そしてがっくりと肩を落とすホラン……。



《第三班捜索パート出演》

オーバーアクションの若手俳優
怪盗湯けむり男
インコ
ゴールド
人力車
きんぎょの霊
ふぐっ太
お百姓さん

撫子
大海
ストーリーテラー
丸い玉
ウィック
コスモス



暗い夜道とは良く言うものの大阪の街はさすがに明るい。ちゃっかり手をつないでる隊員たちまでいる。

「にゃはーwオレ幸せだなー。ずーっとこのままでいたいなぁー♪」
「敵はここでお別れですよ」

オオカミ軍団のアジトの前で一同は一旦立ち止まった。
しかし、タイガは一向に帰る様子を見せない。それどころかそのまま通り過ぎていこうとしている。

「タイガ!あなたの家はここでしょう!」
「……まだ帰りたくねーもん……」
「何故?」
「なんか今日は力が有り余ってるって言うか~」

確かにあれほどまでに虎化していれば力が有り余ってしまうのも解る。
しかし、これ以上部外者に楽しいひと時を邪魔されるわけにも行かない事だって解る。

「とにかく帰ってください!」
「ヤダー!!オレもっと女子たちと一緒にいるんだー!!」
「ダメですダメです!とっとと帰りなさい!」
「また、明日がありますかね。タイガくん」

パープルの一言に全く言う事を聞かなかったタイガが急におとなしくなった。

「明日!?そうだよねー!にゃはーw参ったなぁ……パープルちゃん♪」
「……?」
「うん。わかった。じゃぁ明日ね♪明日!おやすみ!」

何を勘違いしたのかタイガは嬉しそうにアジトへと帰って行った。
オオカミ達も多分戻って今頃はタイガを温かく迎えてくれているだろうしかし、タイガは素直(?)に帰ったものの、問題のホラン社長はというと……。

「……オレは帰らない」

と言い張っている。



《その他出演者の方々》

洗濯物が好きな主婦達
太陽光発電に憧れる若夫婦達
タイガ御用達会員制秘密倶楽部
目付きの悪い鑑定士
中華料理屋の主人
総入れ歯フェチの製菓会社重役達
つくだに屋



「ホラン、今日のところは早く帰りましょう」
「嫌だ。今日のオレはグリーン一緒にいたい気分なんだ……」

ホランが掴もうとする右手をグリーンはとっさに引っ込めた。
ティグレスになっていたせいかやはりトラトラコンビは妙に元気が有り余っているのだろう。
ホランもいつになく積極的だ。ということはグリーンもいつものような避け方ではいけないわけだ。

「ホラン……。明日にしましょうよ……」
「嫌だ」
「(……ホラン……明日の方が誰もいないですから……ね♪)」

そっとホランの耳元でグリーンは色っぽい声で囁いてみた。

「(ハッ……そ、そうか……グリーン……だからオレに帰る様にって……)」
「(明日……楽しみに待っててくださいね)」
「わかった……オレは帰るよ。じゃぁ……また明日♪」

ホランもなんとか帰って行って、ようやくグリーンもホッと一息をつく。

「ホントに明日いくんすかぁ……?」
「行くわけないじゃないですか……」



《SPECIAL☆THANKS!》

ヘロー!(・_・)ノ ミャウミャウくん



トラトラコンビも帰って行き、やっと開放された気分になれたOFFレンジャー。

「ふぅ……これでやっと静かになりました」
「お疲れ様です隊長」

突然ビシッと全員が敬礼のポーズをしてくれた。
OFFレンってこんな団体だったっけ?とつい思ってしまった。

挿絵

「みなさんも……お疲れ様です。今日は全員ヒーローぽかったですよ」
「もう当分こんなハードなのは勘弁ですけど……」
「そうですねー(笑)」

以前は虎化した人々が暴れて殺伐としていた商店街も、ますます活気が溢れているように見える。そんな様子を見ているとなんだか嬉しくなった。

「あ、通天閣!」

そうこうしている内にもう本部の目印、通天閣が見えてきた。
一日も経ってないというのに、なんだか数年ぶりのような懐かしささえ感じる。

「さ、本部が見えてきましたよ。OFFレンジャー帰還です!!」
「了解!」



《脚本・演出》レッド隊長



こうしてOFFレンジャーによって日本は救われた。
だが、今後も新たな敵が出現したりしなかったりするだろう。
ありがとうOFFレンジャー!これからもよろしくOFFレンジャー!









今後もつづく!








《製作・著作》

ぐるぐる戦隊OFFレンジャー
OFFレンジャー通信編集部