第50話
『トラトラトラブル全員集合!(1)』
(挿絵:パープル隊員)
こうして無事50号を迎えたこのOFFレン通信。
しかし、50号といっても、特にオオカミ軍団から変な動きは見当たらない……。
そもそもこの50号までの道のりの間にどいつもこいつもすっかりふぬけてしまったからだ。
「おぉっ!なんかこれすげーうまいぞっ!」
食堂で一人昼食をしているタイガ。平凡な部下もTVを見ながらすっかり落ち着いている。
わりとまともな研究員まで一緒になっていた。
「オイ!このうまいやつなんだ!?」
お昼のバラエティを見ていてすっかり和んでいるオオカミの所へ茶碗を持ったタイガが駆け寄ってくる。
「……なんですかそれ?」
「テーブルの上にあったからちょっと食ってみたんだけどさー。美味いんだぜーコレ」
「あー……それは……ちょっと食費がかさんでますから今度からそれを食べようかと……」
茶碗の中に入っている物を見ながらオオカミが言った。
月の初めから月末にかけてだんだん料理の質が低下していくのは定番なので特にオオカミから不満の声はない。
最終日の塩ご飯は、さすがに評判は悪いが……。
「そっかぁー♪金なくてもこんな美味い物だったらオレも別にいいかなー♪ で、なんていう料理なんだ?」
「いやぁ……そ、それは……」
「いいから言ってみろよー♪」
「……ね、ネコまんまですが……」
「……猫」
タイガの嬉しそうな顔が一瞬に変化すると慌ててオオカミが数名逃げ出し始める。
タイガがねこまんまを持ってやってきた時点で逃げ出したオオカミもいたが、それは野生の勘なのだろうか。タイガの額には青筋が浮かんでいる。
「……お……オレが猫の料理なんて食ってられるかー!!ふざけんなコラー!!」
茶碗を床に叩きつけるとそばにいたオオカミの首を掴んでゆさぶる。
「よくもオレに猫の料理なんて食わせたなー!!オレは猫じゃないぞっ!!」
「おおおお……落ち着いてくださいタイガ様ぁ~!」
「うるさいうるさい!オレは虎だぞー!猫扱いすんなー!!」
『……いい加減にしてくださいっ!!!』
食堂の隅にいた研究員が突然叫んだ。どちらかというと温厚な研究員が大声を上げるのは珍しいのでタイガも思わず黙ってしまった。
「……タイガ様。貴方はボス代理として充分すぎるくらいの素質を持っているのですよ?それをなんですか……猫じゃないとか虎だとか……情けない」
「な、何ー!?」
「いいですか。我々研究員オオカミ一同はタイガ様を立派なボス代理としてあらゆる技術を駆使して作り上げたのです」
フン!とタイガは叱られた子供のように黙ってそっぽを向いた。まだ研究員は調子を変えずに話を続ける。
「……タイガ様が時々やっているベッドを片手で頭上に持ち上げるなんて、普通の人には出来ないんですよ?」
「え!あれ他の奴らにできないのか!?」
「そうです……それにタイガ様は猫に見えてもちゃんと虎のDNAが組み込まれています。それで申し分ないでしょう」
「そ、そうだよな……」
「いいですね?解ったのでしたらちゃんとボスらしくしてください……」
研究員は一気に言うと早足で食堂を出て行った。
タイガも先ほどまでの不機嫌さは残っていないようだが腕を組んでなにやら考え込んでいた。
「…………」
「た、タイガ様……?」
「……カッコよくて力も強くて頭もよくて……やっぱオレって凄ぇよなー?」
「はぁ……まぁ、そうですね……」
研究員は研究室に帰るなりそこらにある書類や本をバンバンと叩いて頭を抱え始めた。
他の研究員がキャスターのついた椅子をゴロゴロと滑らしながら研究員の側に寄りかかってくる。
「オイ、どうしたどうした? 10回以上使えるティーバッグの開発遅れてるんだぞ?」
「俺達そんな物を作る為にオオカミ軍団に入ってオオカミになったわけじゃないだろう」
「ん?……お前どうしたんだ?」
仲間の研究員はヘラヘラと笑いながらコーヒーを飲んだ。
「タイガ様の事さ……なんであぁいう性格になってしまったのか……」
「……あぁ、タイガ様ね。まぁあれさ……オレ達のしつけがなってなかったからな。俺達の集大成があれだよ」
「ホラン様ぐらいまともになってくれればなぁ……」
「でも、ホラン様は少年好きだし……オレ達が作る物は所詮たかが知れてるってことさ」
再び笑いながらコーヒーを飲む研究員。コーヒーの香りがずいぶんときつくなんだか胸ヤケがしそうだ。
「第一タイガ様はどんどん幼児化が進んでいるようにも思える……」
「ま、確かに。……正直言うと馬鹿度が増してるんだよな……」
「第一話では『OFFレンを倒さなきゃいけないしな……』ってニヒルな笑みを浮かべてたのに……」
「ニヒルってお前……。今は「にゃはーwイエローちゃんだぁー」だからなぁ……」
実際、退化と言う成長を繰り返すタイガはやはり研究員の頭痛の種となっていた。
甘やかしすぎたというのもあるが何より、力量から言うとオオカミ達が束になってかかっても何とか勝てるか否か……。
そういう強すぎるレベル設定にも問題があった。つまりタイガを押さえつけられる物は女子しか居ないというわけだからしつけようも無い。
「タイガ様とホラン様……その中間くらいが丁度いいんだ……でもこのほかにも造るわけにも行かないし……」
「そうだな……タイガ様とホラン様を足して2で割った感じが一番いいんだよな」
「足して2で割るか……」
ハッと研究員が何かを思いついたように席を立ち倉庫へと駆け込んでいった。
「なんだなんだ」とコーヒーを持ったまま別の研究員も、のそのそとついていく
「そうだ!確かオオカミ軍団が出来て間もない頃に……!」
そんな事をブツブツと言いながら研究員は倉庫に高く詰まれたダンボールを次から次へとあさっていく。
以前作った機械や装置の失敗作や未完成品、部品やボルトまでありとあらゆるものが足元に散乱していた。
「オイ、何やってんだ。そこにはしょーもない物しか置いてないだろ?」
「待て待て……あ、あった!これだ!」
そしてようやくお目当ての品を見つけることが出来たらしく研究員はガラクタの中から数枚の紙束を取り出した。
「こ、これだ……よし全部あるな」
「……なんだそれは?」
「『A+B÷2マシーン』の設計書だ。これがあれば……!」
ポケットから携帯電話を取り出すと急いで研究員はどこかに電話をかけ始めた。
全く意味がわからないほかの研究員たちはそんな研究員の様子をまじまじと見ている。
「あ、ホワイトタイガーエンタープライズでしょうか?……ホラン社長をお願いします」
既に夏真っ只中の7月。OFFレン指令本部もずいぶんとのどかな夏休みムードに包まれていた。
なんといっても、ここ最近すっかりオオカミ軍団に慣れてしまったせいもあってまったく緊張感がなくなったのだ。
「OFFレンジャー!お願いだっ!力を貸してくれぇっ!!」
そんなのどかな世界に突然、オオカミの研究員が慌てて駆け込んできた。
「どぉ~しましたぁ?」
あまりにのどか過ぎて隊長の口調までおだやかになってしまっている。
夏休みは子供にとってパラダイス。受験生にとっては学力向上の大事な要。しかし楽しいものは楽しい。
だが、研究員は青ざめた顔でぺちゃんとその場に座り込んだ。
「……タイガ様とホラン様が……」
「あははぁ~。また何かしでかしたんですね……ハイハイ、OFFレンボックスぅー」
にやけているドラ……グリーンは研究員にボックスを手渡して眠り始める。
「あぁーもう!!お前らまともに聞けっ!世界の危機なんだぞっ!」
「えっ!?世界の危機!」
『世界の危機』というワードに反応してさっきまで寝転がったりしていたOFFレン一同が一斉に起き上がる。
彼ら、彼女らの瞳は過去の号の中で一番光り輝いている。
「そ、それでどうしたんです?ホランが核でも作っちゃいました?」
「……いや」
「じゃぁ、タイガ町中で暴れまわってるんですか?」
「いや……」
「じゃぁ、なんなんです?一体……」
青ざめた顔で研究員はゆっくり話し始めた。
「そ、それが……」
俺達はある計画の為にまずホラン様を呼ぶ事にした……。
「ホラン社長をお願いします」
『私がホランですが……』
「あ、ホラン様ですか?オオカミ軍団の研究員です」
『……何の用だ?オレは今ちょっと忙しいのだが……』
「お時間は取らせません。ですからちょっとアジトの方に……」
『……タイガが何かいらぬ事をしていて助けて欲しいとかだったらオレは断る』
「いえ、違います。ちょっと来て頂けますか?実験というかですね」
『……くだらない実験じゃないだろうな?』
「成功間違いなしです。上手くいけばホラン様に本当の虎縞が差し上げられるかもしれませんよ?」
『ななな、何!?本当か!? こ、これでグリーンにも……。よ、よし!今すぐいく』
興奮した様子で受話器を置くホラン様の様子は手に取るようにわかった。
これで、まずは第一段落は完了だった。設計図どおりにマシンを組み立てて後は二人を待つだけだった。
「……これでよし」
「一体何をする気だ?」
「だからこの『A+B÷2マシーン』を使ってタイガ様とホラン様を足して2で割るのさ」
「……なるほど。そういう原理か」
「以前作った物の使うことはないだろうと思って設計図だけ取って置いたんだがまさか役に立つ日が来るとは……」
「じゃぁ、ついでにこれも使えよ」
そう言って他の研究員からも開発した手のアイテムを貰った。
そいつの話だと何でもOFFレンボックスの原理を利用し……つまり科学的に作った魔法の杖みたいな物らしい。
「……来るべき新たな統制者がこれを使ってくれれば……俺も作った甲斐があったってもんさ」
「あぁ、ありがとな……」
準備は万端だった。タイガ様にも「女子隊員にモテモテになる実験」と言って研究室まで来てもらった。
ホラン様もその後到着して、早速『A+B÷2マシーン』を装着してもらった。
「なんだこの管の付いたヘルメットのようなものは……?」
「えぇと、ホラン様がAへ。タイガ様がBと描かれたヘルメットを被ってください」
「何っ!オレはホランより偉いんだぞっ!オレがAランクに決まってるだろっ!」
「……フ。馬鹿はすぐいいほうを選びたがる」
「黙れ!お前B被れよー!B!ブサイクのBでお似合いだろっ!」
「……キミはアホ面のAだな。おや、こっちの方がしっくり来るようだな」
「フン。ホモは黙ってろ」
そこまではいつもどおりごく普通な感じだった……俺もその時点でやめておけばよかったんだ……。
俺の予想はもっと素晴らしく壮大なはずだったのに……。
「それでは、スイッチオン!!」
スイッチを押した瞬間。ドカンと爆発が起こった。いや、失敗したわけじゃない。
ようするに化学反応をした際に起こるようなものだ。部屋中が煙に包まれた。
その時、煙から人影が見えた。間違いなくタイガ様かホラン様のだった。だが影は一つしかない。成功だと俺は思った……。
「やった!成功だ!」
「…………」
煙の向こうから現れたのは鋭い目をした一人の虎猫だった。
右目が黄色、左目が赤色をしていた。そこは間違いなくタイガ様とホラン様を足して2で割っているっぽくて良かった。
「……我が名はティグレス……我こそがこの世界を統べる物……虎の王になるのだ」
「へ?」
合体したタイガ様とホラン様の様子がずいぶん違っていた。頭脳が複雑に組み合わさってどうやらそういうキャラになってしまったらしい……。
「えーと、ティグレス様になったんですかね……?オオカミ軍団をよろしくお願いします!」
「……下らん」
「……はいー?」
「我は虎の王になる身……我の部下は虎以外認めん!」
……ここの性格はたぶんタイガ様から譲り受けたものだったんだろう……。
まぁ、2で割っている分、ムチャクチャな事は言わないだけましだが。
「……これから我は虎の王となるのだ……」
その時、ティグレスは俺が貰ったステッキをいつの間にか手にしていた。
ステッキの上部がピカッと光ると俺の近くにいたオオカミ達が全員虎になっていた……。
オオカミ達は白虎と黄虎と2種類に分かれてティグレスにひざまずいていた……。
「(こ、これはちょっとまずいかな……?)」
そうすると俺を除くオオカミは全員虎に変えられた……。俺は幸いステッキを持っていたせいなのかは知らないが……虎にはならなかった。
だがこのままではまずい。全世界の生物が虎に変えられてしまう!なんとかしてティグレスを止めなければ……!!
「ハァ……そうなんですかぁ……」
「……お前ら事態を甘く見ていないか?何もかもが虎になったら大変なことになってしまうんだぞ?」

「それはそうですけど……世界の危機って言う感じなんですか?」
「あたりまえだ!虎に変えられたものはティグレス様の僕となり他の者達にも危害を加える」
研究員は物凄い迫力で怒鳴った。
「……そ、それはずんずんと大変なムードに……」
「わかったか?……それならいい」
「ですが、私たちは一体何をすればいいんですか?ティグレスと戦えと……?」
グリーンがボックスを手に持って再び研究員に手渡す。
しかし研究員は首を振って、ボックスをグリーンに付き返した。
「……研究員が作ったステッキにはOFFレンボックスの力を無効化する能力も備わっている無駄だ」
「で、では一体……?」
研究員はカチャッとサングラスを上げながら重々しい口調で言った。
「……コードだ。ミシンコードを探せ」
「ミシンコード?」
いっせいにOFFレンの声が揃った。
「ティグレスを元のタイガ様とホラン様に戻す為にはミシンコードというパスワードみたいなものを打ち込む必要がある。それを探すんだ」
「さ、探すと言われても……なんで作った本人が知らないんですか?」
「……それが、完成当初にミシンコードは時空転送装置で誰かの脳内に転送するように設定してあった。こんな事態になるとは思わなくてな……」
「思い出せないんですか?」
研究員はなんとか思い出そうとしているのか腕を組んだり壁に寄りかかったりするのだがどうも思い出せないようだった。
「だめだ……。思い出せない……8桁の数字だったんだが……」
「じゃぁ、せめてその誰かがわかりさえすれば……」
「……今までOFFレンやタイガ様、ホラン様と関わりのあった誰かなことは確かだ……」
「我々やタイガやホランに関わりのあった……?」
「そうだ。その誰かに『ミシンコードを知っているか?』と尋ねると頭の中にミシンコードが浮かぶようになっている」
「絶対ですか?」
「あぁ、これは絶対だ。そのワードに反応するよう仕組んであるからな。だが、ミシンコードは一度言うと脳内から消えてしまう気をつけろ」
グリーンは思ったより大冒険になりそうなこの事件を前にしていつの間にかドキドキと鼓動が高鳴っていた。
他の隊員もいつの間にか少し緊張したような顔つきになっている。
「……俺はここでお前らの帰りを待つ。ミシンコードの探索は任せたぞ」
「しかし、我々も虎になってしまったら……?」
「安心しろ。お前たちは一度虎化ドリンクを飲んだことがあるだろ。免疫が働いてすぐにはならないはずだ」
「……わ、わかりました!それじゃ任せてください。一時オオカミ軍団とは休戦ですね……」
「それじゃぁ、3つのグループに分かれましょう……」
OFFレンジャーはミシンコードの探索の為に早速以下のようにグループを分けた。
1班 グリーン、ブルー、ピンク、シルバー、ピーターパン2班 ホワイト、パープル、ブラック、グレー、ライトブルー
3班 イエロー、オレンジ、シェンナ、クリーム
人数の少ない3班は少し心配な面もあるがイエローを入れておいたので多少カバー出来るだろう。
そして、今まで今まで関わりがあったと思われる人々のリストも3つにわけ各班に配った。準備は万端。一応各班にOFFレンボックスを渡しておく。
「それでは隊長、出動命令をお願いします!」
みんなは隊長をみてしっかり頷いた。
「よし、……ぐるぐる戦隊OFFレンジャー出動です!」
掛け声とともに腕時計型PCが作動し、いよいよ今まで出会った人々に出会うため大冒険が始まったのであった!……多分。
第一班は何処かハワイアンな雰囲気のビーチへと転送された。
「おやおやー?こりゃずいぶんとなんか……出だしからアロハっすねー」
「ハワイにいる我々に関わりの会った人と言えば……?」
一度もハワイに来たことがないOFFレン。外星人の知り合いはいても外国人の知り合いはいないはずだが……。
「おや!OFFレンジャーさん!」
「お久しぶりです」
声がするほうを振り返って見るが、その姿が見えなかった。
声はすれども姿は見えず……ずいぶんと不気味な物だ。
「こちらです。こっち!」
目線をガクッと落としてみるとキラキラと光っている砂浜の上にちょこんと白と赤の小さな長細い物が落ちていた。
グリーンが拾い上げてみるとずいぶん久しぶりに目にする音声端子夫婦であった。
「……あー!音声端子夫婦じゃないですか……何故……ハワイに?」
音声端子夫婦はハハハとグリーンの手の中で笑った(?)。
「やだなぁ、OFFレンジャーさん。我々は新婚旅行中ですよ」
「……私の記憶が正しければ新婚旅行に出かけてから既に2年以上経過しているんですが……」
「イヤハヤお恥かしい……ちょっと長居し過ぎましたかね?」
「いや……長居とかいうレベルでは……」
端子夫婦は暢気に笑いながら照れくさそうに(?)していた。
「……隊長……例の事は聞かなくてもいいんですか?」
シルバーが呆れ返っている隊長にそっと耳打ちをすると隊長はハッと我に返った。
音声端子に脳みそがあるのか少し不安だが一応グリーンは聞いてみることにした。
「あの、端子夫婦?ミシンコードをご存知ですか?」
「……ミシン……ですか?いや~お恥かしい。今度ミシンを買おうかなって妻と話していた所なんですよ!」
「もぉ~あ・な・たったら♪」
夫婦はドッと元気にペチャクチャと喋り始める。もはや付いていく事が出来ない。
この明るい太陽の下性格がずいぶんと明るくなったらしい。ハワイの人が明るいのも何となくわかる気がした。
「どうやら知らないようですね……」
「まぁ、私もあまり期待していませんでしたから……」
グリーンは端子夫婦を元の綺麗な砂浜の上に置くと腕時計PCの操作を始めた。
「お、おや?もうお帰りですか?」
「もう少しゆっくりしていかれればいいのに……」
「いえ、我々は他にもいくところがありますから……」
夫婦端子は名残惜しそう(?)な顔をして二人で寄り添っていた。
「そうですか……それではお気をつけてご旅行ください」
「日本に帰る際は、一度そちらにお伺いしますね」
「アハハ……。そちらも新婚旅行楽しんでくださいね」
端子夫婦の目の前でシュッ!とOFFレンジャーの姿が消えた。
端子夫婦はミシンコードを知らなかったようだ……さて次は一体誰の元へ転送するのだろうか……?
「お寺ですね……」
第2班は全く身に覚えのないお寺の前で困惑していた。住職やお坊さんに知り合いはいないし、初詣でだってこんな所へ来てはいない。
「……誰かお祓いにでもきたんじゃないの……?」
ブルーがいない為ライトブルーの頭上で待機しているブラックがボソッとつぶやいたが誰もお祓いをした覚えはない。
「ん~……とりあえず行ってみるしか方法はないんじゃない?」
「ホワイトちょっと軽率すぎるんじゃ……?」
「でも……ここに転送されたってことはやっぱり……ねぇ?誰か知った人が……」
長い石段を登っていくと箒を持ってゴミを掃いているお坊さんが一人いただけだった。
お坊さんはチラッとこちらを見ると驚いたような表情をした。
「……あっ!!」
箒を投げ捨ててお坊さんがこちらに駆け寄ってきた。しかし誰もそのお坊さんを見かけたことなんてない。
「みなさん……生きてらっしゃったんですか……」
「(えっ……誰!?)」
「……私……こうして罪を悔い改める為に出家しました……これも皆さんのおかげです」
「(だから……誰よ!?)」
このお坊さんは以前本部に勝手に侵入し、勝手に改心し出家した殺人事件の犯人。
向こうはOFFレンに物凄い恩義を感じているらしいがシェンナ意外この男に会ったものはいない。
「(……とりあえず向こうはこっち知ってるみたいだし聞いてみたら?)」
ブラックがライトブルーの頭上でボソボソと呟く。
「(じゃぁ、聞いてみるよ……)えーとお坊さん。ミシンコードて知ってますか?」
「みしんこおどですか……仏教の世界にその様な物はありませんね……」
「そうですか……そ、それではこれで(一体何者なんだろう……)」
知らないと解ると速やかにOFFレンは石段を降りていった。
ブラックの話だと去っていく間ずっと頭を深々と下げていたらしい。
「結局誰だったんでしょうねぇ……」
そんな疑問も転送装置が作動した瞬間忘れてしまった。
さてさて、お待ちかね?女子ばかりの第3班は、何処か解らない海辺にやってきていた。
「海ですー!うーみーはひろいーなーおおきーいーなーですー!」
「海に落ちないように気をつけなさいよ。シェンナ」
海を見た途端元気にシェンナは、はしゃぎまわる。
「(うわぁ……海だよぉ……しかも男はボク一人……なんだか肩身が狭いなぁ……)」
「オレンジ?」
「は、はいっ!!」
イエローに呼ばれて突然オレンジはドキッとする。こういう雰囲気だと変な妄想をしてしまう。
「……潜ってみてくれますか……?海の中に誰かいるのかもしれませんし」
「えぇっ!?なんでボクがっ!!」
「……文句言わない!オレンジしか男の子はいないでしょう!安心してください。心臓マッサージくらいは出来ます」
「えぇっ!えぇーっ!」
挙動不審な様子のオレンジの体をイエローは荒縄で固く結び始めた。
「さて……えー。中に誰かいたらミシンコードの事をきいてくださいね」
「水の中に誰もいるわけないよぉ……。唐突過ぎるよぉ……」
「行ってみなければ解らないでしょう!全く、シルバーなら進んで行ってくれますよ!」
「えっ!でもっ!」
オレンジを海辺に突き落とすとするするとロープが海中へと引きずり込まれていく。
キリのいいところでイエローがロープの落下を止めてみるがオレンジからは何の反応もない
「どーですかー。オレンジ。誰かいましたかー?」
海中からは何の返事も聞こえてこない。
「うぐぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
海中ではなく、イエローのすぐ側から物凄い形相の若い男が突然血を吐きながらバタリと倒れた。
白目をむきながら小刻みに痙攣し、子供見たら泣いてしまうところだがそこはイエロー。肝っ玉が据わっている。
「……お。なんですかなんですか!解剖しちゃっていいんですか?これ」
「……お久しぶりです」
血まみれのままで若い男はすくっと立ち上がってイエローに礼をした。
どこかで見たような気がしていたがやはり以前OFFレンボックスで助っ人に来てくれた「オーバーアクションの若手俳優」だった。
「あれから僕、映画の主役に抜擢されたんですよ!これも皆さんが演技の機会を与えてくれたおかげです」
「へぇ。そうなんですかどんな映画なんですか?」
「『ザ・フラッシャー』っていう映画です。4時間もあるんですよ」
「聞いた事無いですねぇ……。ってか4時間てロシア映画じゃあるまいし……」
嬉しそうにリアクションをつけながら若手俳優は説明を始める。
「僕が苦しみながらバラバラにされるって言う話ですよ。僕のリアクション能力が問われますよね!」
「……すごいなんか……悪趣味な映画ですね」
「アッハッハ。特殊メイクですからご安心を!2010年公開予定ですから楽しみにしてください」
明るく笑いながら口からこぼれる血糊を袖で拭いているのを見ると本当に嬉しそうだった。
「グハッ!オエ!!……違うな……ウグァァァァァ!!!……うん、これだ!」
「あ、あの……ちょっと聞いても良いですか?」
前よりも嫌な演技が向上していた若手俳優……。
いくら解剖のできるイエローとは言えあまり見ていて気分の良い物ではない
「なんでしょう?サインなら全然構いませんけど!」
「知らなければいいんですが……ミシンコードって……知ってます?」
「ミシンコードですか……?はて……アハハ解りませんねぇ」
「そうですか……」
「あ、それではそろそろ現場に戻ります。あ、これ特別招待券ですどうぞお使いください」
若手俳優は少し血糊の着いた招待券を15枚イエローに差し出した。コピー用紙か何かで印刷したらしい粗末な券だった。
「……ありがとうございます」
「それでは皆さんもお元気で!!」
若手俳優が今回も地面に生々しい血糊を残したまま去っていった頃シェンナとクリームが帰って来た。
「イエロー。シェンナ、ヒトデ見つけたんですよー」
嬉しそうにしているシェンナの手にヒトデの足がぐにゅぐにゅと絡み付いていた。
「ヒトデはまだ解剖したことはないですねぇ……」
「だめですー!シェンナがヒトデ食べるですー」
「シェンナ。ヒトデなんて食べないの……。あ、所でミシンコードどうしました?」
「……ここではないみたいですよ。次ですね次」
イエローは早速転送装置を使って移動した。途中何かを忘れているような気もしたがそんな事を思い出している場合ではなかった。

再び巡り巡って第1班。今度はあまりいい場所とは思えないホランの会社の玄関前にやってきてしまった。
「うぅ……なんだか入るのが少し億劫になってしまいますね。さっきから嫌な予感がビンビンと……」
「えと……なんて読むんすかね?」
「『おっくう』ですよ。でもグリーン。今はホランくんはいないんですから」
ピンクが言うとおりホランは今タイガと合体しているのだ。
だが、ホランがいないと解っていてもなかなか入ることが出来なかった。さっきから自動ドアの前で隊長は金縛りにあっている。
「くっ……解っていても……か、体が……」
しかたなく他の隊員に抱えられてようやく中に入ることが出来た。しかし隊長の体はまだ固い。
「……あっ……グリーン様。申し訳ありませんがホラン社長はただ今外出中でございます」
早速、入るなりグリーンに気づいた受付嬢が丁寧な口調でホランが外出だと言う事を伝えてくれる。
実際、世界のピンチの張本人になってもいるわけだが受付嬢にそんな事をいっても仕方がない。
「いえ、今日はホランに用はないんすよ。とりあえずミシンコード知りませんか?」
「はぁ……申し訳ありませんが私は受付嬢なのでその様な事は損じません」
「ふむ……どうやら特に進展なしのようですね」
「申し訳御座いませんでした……」
受付嬢は丁寧に頭を下げた。何だかこちらの方が申し訳なく思える謝り方だ。さすがプロ。
「代わりと言ってはなんですが私、ホラン社長から手紙を預かっております」
「手紙ですか……?」
嫌な予感がしたのかグリーンが後ずさりをし始めている。
「えぇ、ホラン社長は時々グリーン様へラブレターをお書きになられていまして」
「それが何故こちらに……?」
秘書は机の下から大きな紙袋に入ったラブレターの束をカウンターの上に載せた。
「安易に返事を貰えば仕事に差し支えるからと秘書の方が……ご覧になります?」
「……見せてください♪」
「ピーター!!!!」
悲壮感100%の悲鳴を上げながらグリーンはピーターの肩を掴んだ。ブンブンと頭を横に振って隊長は完全に拒否をする。
「まぁ、いいじゃないですか……面白そうだし」
シルバーも意地悪そうに微笑みながら紙袋の束を一つとって中を見始めた。
「やめてー!!シルバー!!!」
泣き叫ぶグリーンをブルーとピーターが抑える。
なんだかんだといって実はちょっと気になるものなのだ。……隊長には申し訳ないが。
愛するグリーンへ。
キミの事を考えるとオレはいても立っても居られなくなってしまう……。
オレは一日もキミのことを忘れた事はない。あぁ、グリーン……グリーン……グリーン……
今すぐキミのところへ飛んでいってキミを抱きしめたいくらいだ。キミの可愛い笑顔やちょっとすねた様な顔をするところがオレは大好きだよ。グリーン。
泣きながら痙攣を起こしているグリーンを見てシルバーはニヤニヤとまた意地悪そうな笑みを浮かべる。
果たして単なる悪戯なのか隊長の座を奪われた事に対する報復なのか……。シルバーは別の封筒を取り出し再び読み始めた。
愛するグリーンへ。
キミと最後に会ってからもう一週間がたっています。オレは会社という物がなければ毎日キミの所へ行くのに……
でも、お金を貯めていつかキミと二人だけで外国で暮らす為には仕方のないことだ……。
心なしかオレの顔色も最近優れない……。キミに会えないとこんなに辛いなんて……
「誰があなたと外国で暮らすんですかー!!ひゃぁーー!!!」
発狂し始めたグリーン隊長にさらに追い討ちをかけるようにシルバーは新たな封筒を取りし読んだ。
愛するグリーンへ
会いたい会いたい会いたい会いたい……。会ってすぐにでもキミをオレの物にしたい……。
その柔らかな唇も、可愛らしくオレを見つめるその瞳も全て……全てオレのものにしたい。
そしてオレとキミは1つになって……ずーっと愛し合いながら……
「シルバー!やめてあげて下さいー!」
ピンクの声にシルバーが読むのをやめると泡を吹きながら床に倒れこんでいるグリーン隊長らしき人がそこにいた。
受付嬢も総出でファイルで隊長を仰いでいるが隊長はピクリともしない。
「隊長~!しっかりしてくださいー」
シルバーは読み上げた物と全く違う文面の手紙を封筒に戻すと紙袋の中へと戻した。
「やれやれ……ちょっとやりすぎちゃいましたかね」
第2班は転送されるなり粗大ゴミの雪崩に押し流されてしまった。
「もう……お寺にゴミの埋立地……なんか外れくじを引いた気分……」
不機嫌そうにゴミを取り払いながら第2班は歩いていく。
何度払ってもゴミの山から何かが落ちてくるのはご愛嬌。
「ゴミに知り合いなんかいませんよっ!」
「いや……ホワイト……あれはどう見てもホワイトの……」
「え……?」
ゴミの山の向こうからぴょんぴょん跳ねながら白い物体がこちらに近づいてきていた。
最初は虫か何かかと思っていたが虫よりもはるかに大きいが猫や犬よりもはるかに小さい……。あれは──。
『姐さーーーーーん!!!!』
以前、散々迷惑をかけたシャンプーがホワイトの足元に飛び込んできた。
「しゃ、シャンプー……あんた……以前燃やしたはずなのに……」
「姐さん……。あっしは……あっしは……不死身なんすよ!!」
このムカツクくらいのハキハキさ。間違いなくシャンプーであることがホワイトの身にもジンジン伝わってきている。
「あ、姐さん……あっしは……いつかこうして姐さんと会える日を……楽しみにしてましたっ!」
「そう、私は全然楽しみにしてなかったけど」
「姐さん……ここであったも何かの縁……是非籍を入れやしょう!!」
「……絶対イヤだから諦めて……」
ホワイトはさっきからシャンプーから顔を背けて見るからに嫌そうな顔をしていた。
「あっしはこのゴミの山で修行を積んだんでさぁ!!たくましくなったんでさぁ!!」
「あーそー」
「強い男になるべく!!あっしは……あっしはぁぁぁぁっ!!」
耳を押さえながら心の底から迷惑そうな顔でホワイトはシャンプーに絡まれていた。
「……と、所で、シャンプーさん。ミシンコードって知ってますか?」
気を利かせてパープルがシャンプーに話しかけてくれた。
「は?なんですって!?あっしは横文字はどうも苦手でしてねえ」
「ミシンコードです」
「ほぉ……全然知りやせん……。それよりも姐さんっ!あっしと結婚を!今日からおまえとよばせてくださいっ!」
シャンプーがホワイトに飛びつこうとして飛び上がった瞬間、ホワイトのブーツカッターがシャンプーの体に炸裂する!
「ぴぎゃ」
シャンプーは一瞬変な声を上げてひゅるひゅるとそゴミの山を2つ越えた辺りに落ちていった。
「さ、ミシンコードが知らないって解ったし次行きましょ♪」
「え、でも……」
「いいからいいから……アイツが帰ってこないうちに!!」
ホワイトは急いで転送装置のスイッチを入れるとシャンプーの姿も、ゴミの山も見えなくなって少し安心した。
「(いやぁ……女って怖いねぇ)」
ブラックの呟きに思わず下のライトブルーもうなづいてしまった。
所変わって人も変わって第三班。
前が海なら今度は温泉。そう、シェンナとクリームが入隊してすぐやってきた草津温泉だ。
「やったー!シェンナ温泉入るですー!」
「ダメダメ!とりあえず草津温泉の人にコードを聞くだけなんだから」
「ぜぇ……ぜぇ……」
女子の側でびしょ濡れになったオレンジが生き絶え絶えになっていたのをよそに女子達は中に入ってみるが誰もコードを知るものはいなかった。
結局何しに来たのか全然わからない。そんな時、
「あー。なんかあのおじさん見覚えありますー」
うろうろと旅館の入り口を彷徨っている変な男を指差しながらシェンナは言った。
別段何処にでもいる少し髪の薄い幸薄そうな男だがそう言われればどこかで見たような気もする。
「……おや、あんたらは……」
男がこちらに気づいて声をかけてくれているが誰なのか全く思い出すことが出来ない。
「(ねぇ、シェンナ……この人誰だっけ?)」
「わるやつさんですよー」
「悪い奴?……あぁ……アイツか」
「誰よ一体……」
「(……怪盗湯けむり男ですよ……)」
クリームはイエローに耳打ちすると「あぁ、あの」という顔をして男を見た。
しかし、以前あったときよりもなんだかしょぼくれていて元気がない。以前はあんなにうるさい親父だったのだが。
「……もうリウマチは大丈夫何ですか?」
「いえ……おかげさまでますます酷く……うぅ……」
男は涙を流しながらしわの入った手で顔を押さえ、引き絞るようなしわがれた声が指の隙間から聞こえてきた。
「……例の事件のせいで小間使いとしてここに使わせてもらっているのですが……うぅ……」
「は、はぁ……」
「リウマチが酷くなると言うのに旅館の人といったら私をこき使って治療もままならないのです。痛くて痛くて……」
「お可哀相に……」
「おかげで髪もすっかり薄くなり……最近は意識が朦朧として……」
ついには男は地べたに座り込んでオイオイ号泣し始めた。
「……どうします?助けます?」
「……世界の危機と、この幸薄そうな親父なら私は世界の危機を助けるわね」
イエローは即座に言った。
「あぁよかった。私も同意見です」
イエローとクリームが握手を交わすと早速ミシンコードの事を聞こうとするが男はしゃべる事もままならないくらいわんわん泣いていた。
困っているとシェンナがトテトテと男に近づいてそっと手に絡み付いていたヒトデを手渡した。
「可哀相だからシェンナのヒトデあげますねー。おじさん人生まだまだこれからですー。地井武男も言ってますー」
「お嬢ちゃん……ありがとう……ハグハグ……」
おじさんはヒトデをもぐもぐと食べ始めた。どうやら本当に精神状態がマズイ所まで来ているらしい。
「所でおじさん。ミシンコードって知ってますか?」
「ハグハグ……フヘフヘヘ……ハグハグ……」
「……ダメみたいですねぇ」
仕方なくミシンコードは諦めて次の目的地に出発する事にした。
「……なんだか50号記念だって言うのに暗くなったわね」
「えぇ、ちょっと……」
ようやく隊長のメンタルもフィジカルも持ち直し新たに転送された場所に第一班は到着した。
勢い良く目的地に到着するとようやく持ち直したばかりの隊長は再びガクッと崩れ落ちた。
「なんでまだホランの会社なんですかー!!」
第一班は受付からホランの部屋こと社長室にやってきていた。まぁ、気持ち少しだけ進んでいるような気がしないでもない。
「ホランがいないのに社長室にやってきたって仕方がないでしょう……」
情けない顔をしながら呟くグリーン隊長だったが、さきほどのラブレター騒動で多少の耐性は付いたようである。
「まぁまぁ、誰かいるかもしれませんし……ちょっと探って見ましょう」
他の隊員が机やカーペットをマジマジと見始めたグリーンも嫌々そうに、側の棚をそっと開けてみる。
「……ゲッ!?」
中に隙間なく詰め込まれたビデオテープ。中に数本男物のAVもあるにはあるがほとんどが普通のテープだった。
タイトルをよぉく見てみると『緑入浴(18分)』『緑睡眠Ⅲ(可愛い所60分編集版)』などと書かれてあった。
時々、変な視線を感じたのはこのためだったのかと思うとグリーンは全身の毛が逆立ってくるような感覚になった。
「……キャッ!!」
そこへ、ピンクが突然部屋の中甲高い声で叫んだ。
「どうしました!?」
グリーンは戸棚を閉じるとピンクの元へ急いで向った。
「こ、これ……」
カーペットの下をピンクが指差すとグリーンは躊躇いながらもバッ!とカーペットを取ってみた。
「ゲゲッ!?」
カーペットの下の床一面に張られたグリーンの写真写真写真写真……
これも隠し撮りなのだろう……グリーンの目線があっている写真が一枚もない。
中には恥かしい写真もありその写真には汗なのだろうかよだれなのか少しふやけている。
「た、隊長ー!!」
今度はブルーが切羽詰ったような声で隊長を呼ぶ。カーペットをピンクに渡すとグリーンは恐る恐るブルーの元に向った。
「ど、どうしました……ブルー」
「こ、これなんすが……」
ホランの社長机の一番下の引き出しをブルーは指差した。
なんだか嫌なオーラがにじみ出ており近づくのさえ躊躇してしまう。
とりあえずここまで凄い物を見てきたからには、これも見るしかないだろうと隊長は決心した。勢い良くグリーンは引き出しを引き出した。
「…………キィヤァァァー!!!!」
中には警察が証拠品を入れておくような袋がたくさん詰め込まれていた。
おそるおそる手にとって見ると袋に、小さなストローが入っていた。
袋にはなにやら書かれたシールが貼ってあり、嫌な予感がしながらシールの文字を読んでみた
『緑、ストロー(10分間使用)』
グリーンは目の前が真っ暗になりそうだった。
よくストーカーを気味悪がる女性は『精神が弱い』などと馬鹿にしていたのだが今にして彼女たちの気持ちが良く解るようになった。
袋は何度か開封されたような後があり、舐めたのか使ったのか知らないがあまりこのことに触れるのはもうやめようと思った。
「隊長……ワタシもちょっと見つけたんですがね……」
さらにはラブレター騒動の時と同じように悪戯っぽい笑みを浮かべながらシルバーが近づいてきた。
「も、もう結構ですっ!!」
「……フ。そうですか」
隊長の必死の懇願によりこの部屋の中の探索を中止する事になった。
もう、早く移動しようと言うグリーンの提案にみんなも賛同して転送装置に手をかけようとした。
……その時、ふと隣のホランの寝室からなにやらボソボソと声が聞こえてきた。
「……誰かいるんすかね?」
「そ、そんなこともういいじゃないですか……早く次行きましょうよ……」
グリーンの声は本当に辛そうな声になっていた。
「一応ミシンコードの事を聞いて見ましょう。それで転送されたのかもしれませんし」
「……ブルー……貴方には心底ガッカリしましたよ」
「まぁまぁ……」
ブルーがそっとドアを開ける。
と、ホランの物なのだろう。豪華なベッドの上で一人の若い男が何かをしていた。
「……あぁ……ホラン社長……」
ベッドの上で頬擦りをしている謎の男。表情がうっとりしている。
「(……あれってヤバいんじゃないんですかぁ?)」
「(一応、グリーンが声かけてください)」
「(私に人間を辞めろと言うのですか……)」
誰も信じないような目付きになっているグリーン隊長。
すっかりホランの他愛もない変な行動のせいでグリーンの性格が変わってしまっている。
しかし、隊員から押すに押されて仕方なくグリーンは男の下へと歩いていった。
「(まぁ、とりあえず……)あのぉー……」
ブルーが声を開けると男はハッとこちらに気が付いて慌ててベッドを降りて土下座をした。
「す、すいませんホラン社長!!つ、つい!!」
「いや……俺はホランじゃ……」
男が顔を上げるとグリーンを見てさらにペコペコする速度は速くなっていった。
「……そ、そこにいるのはぐ、グリーン様!!!す、すいません!貴方のホラン社長のベッドになんと言う事を!!」
「ホランがいつ私のものになったんですか……」
「……申し訳御座いません……私……ホラン社長にお仕えしていて……魔が差したんです」
男がやっと顔を上げるとグリーンはやっと男の正体に気が付いた。
時々社長室に入ってきていたホランの秘書を勤める少年だ。確かまだ十代だったはずだが……。
「……グリーン様どうかホラン社長には内密に……」
「別にかまいませんよ……っていうか貴方もホランと良い仲になりそうですからあげます」
「めめめめめめ……めっそうも御座いません!!ホラン社長は……私のような男と……」
秘書にどのように教え込んだのかは知らないがこの話を引きずるとなんだか嫌な予感がしてミシンコードの事を聞くことにした。
「そんなことはどうでもいいんです。ミシンコードって知っていますか?」
「……し、知りません……ま、まぁかそれを知ればホラン社長が私のものに!?」
「いや……知らなければいいんです……」
まだ秘書が何か言ってたようだがそそくさとグリーンは寝室を出て転送装置のボタンを無言で押した。その一連の行動の速度はあまりにも素早かった
第2班はずいぶんと寒い場所に転送されていた。
特に南国生まれのライトブルーにはずいぶんと辛そうであった。
「寒い……どこかの雪国でしょうか……」
「……ロシアかもね」
「アワワワ……オイラなんだか意識が朦朧と……」
ライトブルーがふら付いてそばの壁に手をつこうとするが、さすがに冷たいようで上手く避けながら部屋中を右往左往としていた。
「……おや、あなた方は」
粉雪が降り始めたその向こうからのしのしと歩いてきた雪だるまがこちらを見て声をかけた。
別段普通の雪だるまだがなんとなく色白なその素肌はもちろん覚えていた。
以前雪だるまの帰省ラッシュに乗り遅れてしまってしぶしぶアイス御殿を作ってやったあの雪だるまだった。
「雪だるまがいるってことは……ここが雪だるまの国ですか?」
「いえ、ここは某冷凍食品工場の保管庫です」
そういわれてよくよく見てみるとそばにダンボールやら何かの機材やらがひしめいている。
粉雪まで見えてしまったのだから思い込みというのは怖い。
「……ですがさすがにあれから2年ぐらいが経ちますしさすがに帰省は出来たんじゃ?」
「はい。帰省は出来ましたが……雪だるまの国のバブルが弾けましてね……。出稼ぎに来てるんです」
「そうなんですかぁ」
深刻な面持ちで話す雪だるまだったがさすがに若者にそんな事を話されても上手く返す事が出来ない。
そんなわけだから「そうですか」とか「大変ですね」ぐらいしか返事が出来ない。多少申し訳ない気もするが雪だるまもさほど気にしていないようだ。
「ここは涼しいので一年中快適なんですよ。アイス御殿よりも住み心地が良いんです」
「よかったですねぇ……」
「……所で、ここは本来業者以外立ち入り禁止のはず……。皆さんも出稼ぎですか?」
「いえ、ちょっと散歩がてらに……」
顔を近づけてくる雪だるまにホワイトは後ずさりをすると背後のライトブルーがそっと囁く。
「(ホワイト……ミシンコードについて聞くのでは?)」
「(わかってるわよ……)えーと……雪だるまさん。ミシンコードって……知ってますか?」
雪だるまは細い腕で腕を組み「うーん。うーん」と数回唸るとよく聞こえませんでしたと聞き返した。
聞こえてないのなら腕組をして唸って欲しくはなかったという非常に腹の立つ気分になる。
「ミシンコードです」
「はぁ。知りませんねぇ」
相変わらず何だか間の抜けた返答だった。
「知らないならもういいです。では私たちはこれで……」
「近々また遊びに行かせていただきますね~」
……できればあまり来て欲しくないなとホワイトは思った。
「シェンナチャンシェンナチャン。ナマネギナマネギ」
第3班はどこかの山奥にやってきていた。360度緑ばかり。ひょっこりその木の陰からグリーン隊長がぞろぞろとやってきそうだ。
「……シェンナチャンシェンナチャン」
その山奥のとある場所の木下でイエロー達は小さな切り株の上にとまっている一羽のインコを見つめていた。
「インコですー」
シェンナが近寄ってもインコは逃げなかった。鳥頭という言葉があるが意外とこのインコは飼い主を覚えているのかもしれない。
……ただ単に馬鹿だということも考えられるのだが。
「ウーミーハシロイーナオオキイーマー」
「シェンナの教えた言葉ちゃんと覚えてますー」
シェンナはインコを手にとって手のひらに乗せた。バランスが悪いのでフラフラとしているが上手い事姿勢を維持している。
「あぁ……以前シェンナが買ってたインコね」
「シェンナチャン。ナマネギタベチャイヨー」
「そうですよー。シェンナ誤って逃がしちゃったんですー」
逃がす前にタイガやホワイトと何かがあったような気もしないでもないがそこは気にしてはしけない所である。
……読者の方々もそこは深く追求しないように。命の保障は出来ません。
「シェンナチャンナマネギシェンナチャン」
「よしよし。いい子ですねー。ペットは親に似るんですよねー」
「……一応インコにも聞いてみまてください。シェンナ」
シェンナとインコとの楽しいひと時をこれ以上続けるわけにもいかないと感じたのかイエローが二人のあいだに割って入った。
「わかりましたー。インコちゃん。ミシンコード知りませんかねー?」
「シェンナチャン……ナマメミナマモメナマママモ……」
「ミシンコードですってばー」
「シェンナチャンシェンナチャン。グルグルオメメノシェンナチャン。ナマネギ」
インコは全く応えようとしなかった。まぁ、インコが知るはずもないし仕方がない。
「シェンナ。もういいわ。次に行きましょう」
「心底ガッカリですー」
「シェンナチャンシェンナチャン」
行こうとするシェンナの方にインコが飛び乗ってきた。
「シェンナチャン。シェンナチャン。ナマネギヨー」
「よしよし。でもやっぱりインコは野生で暮らすのが一番なんですよー」
「(そうなのかしら……?)」
シェンナは少し淋しそうだったがインコの体をそっと撫でて決心したように言った。
「達者で暮らすですー」
名残惜しそうにシェンナは転送されるまでインコに手を振り続けた。

4ターン目に入る第一班は商店街の一角にある花屋に転送されていた。
「花屋なんてあまり来てなかったような気がするんですがねぇ」
「……ホランが私に贈ってくれる花は全てここのものですよ」
グリーンが引きつった顔で言った。もはやここまで来ると運命としか思えない。
「いらっしゃいませ。どんな花をお探しでしょうか?」
ピンク色のエプロンをつけた店員が花の茎を切っていたのだろう。ハサミ片手に店の奥からやって来た。
「いや、これといって特に……」
「この時期ですとアジサイやユリが綺麗ですよ。他にもカンナなども咲き始める頃でして……」
足元にあるそれらの花々を指差しながら店員はペラペラと語り続けるが花を買っている場合ではない事は隊員が良く解っている。
「いや花を買いに来たんじゃないんすよ……ねぇ?グリーン?」
「グリーン?あぁ、いつもこちらでバラの花を買っていかれる方のお知り合いですね」
「私を……ご存知なんですか?」
「えぇ、いつもメッセージカードを私が書いていますから。あれですね。お二人は少し危険な関係なんでしょう?」
グリーンだけが何処か不愉快な気分になり続けているこのミシンコード探し。いつの日かグリーンの身も心もボロボロになってしまうだろう。
「私、あのそういう話結構好きなんですよ~。昼ドラみたいで!」
「……」
「あの人、会社経営しているとか……なんか良いですよねー」
「……あ、あの。ミシンコードって、知りませんか?」
機転を利かせてピンクが店員にミシンコードの事を聞いてくれた。
良い隊員がいてくれた物だとグリーンの目からこぼれた熱い物が頬を伝って行く……。
「ミシンコード……?聞いた事ない花ですね。新種でしょうか?」
「いえ、知らないなら良いんです……」
「それじゃぁ、入荷したらご連絡しますね。ご来店ありがとう御座いました」
店員は頭を下げて再び店内へと戻っていった。どうやら今回もダメだったららしい。
「……さ。次行きましょうか」
ブルーが明るい顔でグリーンの方を向くが何処かグリーンの顔には暗い影があった。
尾布骨董堂と書かれた古めかしい看板が第2班の人々の目をひきつけた。
そう、ここは闇虎騒ぎの中心部であった骨董屋なのだ。だが、この店には誰も来たことがないのでただただ首を傾げるばかりであった。
「いらっしゃい!お嬢さん方、ナウイね~!今骨董がブームなんだよ」
まだ店に一歩も足を踏み入れてないのにもかかわらず店主の方からこっちにやってきた。
まだ店に入るとも決めていないのに強引な客引きだ。
「あの、私達……骨董品を買いに来たんじゃ……」
「虎猫の男の子が来て以来全然客がこなくてねー。でもやっぱブームは怖いねぇ。すぐ客が来ちゃう♪」
腕を組みながら延々と嬉しそうに独り言を呟く骨董屋の主人をよそにパープルがホワイトに耳打ちをする。
「どうやらタイガが一度来た事があるらしいですね)」
「(……どうせAVショップか何かと思って入ったんでしょう……)」
「所で、君ら何好きなの?ん?ん?おじさん安く売っちゃうよ」
主人はニコニコしながらその辺に会った骨董品を両手に持ってしきりに隊員たちの顔に近づけてきた。
「こっちの絵皿ね……鎌倉時代に作られたらしくてさぁ……」
「ミシンコードご存知じゃないですか?」
「そう!そうなんだよ。この掛け軸が高いんだよ……お目が高い……」
まったくこちらの話を聞き入れてくれる様子が向こうにはなかった。
ミシンコードのワードに対して反応すると研究員が言っていたから多分知らない事には違いない。
「(知らないよね……うん)それじゃぁもう帰りますので!」
「あ、そうかい。お金を取りに帰るんだね!じゃぁ、おじさん待ってるから」
……こんな所もう二度と来ないだろうと誰もが思った。それにしてもこのおじさん……一体どうやって生計を立てているのだろうか
産婦人科という所に来てから妙にお母さん扱いされるのがイエローは気に喰わなかった
シェンナが足元をちょろちょろと歩き回っているのでよけいそう見られていた。
「産婦人科なんて……今まで来た事もないじゃないですか……ねぇ?」
「私は知りませんよ……」
冷たくクリームが言葉を返した為イエローはどこにもぶつけようのない苛立ちを感じ始めていた。
何故産婦人科を歩き回ってミシンコードを探さなければいけないのだろうという気持ちが一杯になっている。
「……私がお母さんに見えるって事は……老けてるって事ですか……まだ肌だって……ねぇ?シェンナ」
「シェンナお姉ちゃんになるんですねー!」
「こ、コラ!勘違いされるでしょう!」
ヒソヒソと四方八方から話し声が聞こえてくる……。奥様方の話している関係のない主人の悪口の会話までイエローには嫌になった。
「この子は私の子供じゃないんです!!違うんです!!」
「そうですよー!シェンナもう子供じゃないんですからねー!立派な大人ですよー!」
シェンナも横でギャーギャー言う物だから看護婦がついにこちらに出動してくる。
「あの……赤ちゃんが大勢いますので、お子さんはお静かに願えますか?」
「だから私の子供じゃないってば!!!」
「イエロー何怒ってるんですかー?シェンナのカルシウムあげましょうかー?」
「ですからお静かに!!」
「……あんたは少し黙ってなさい」
ようやくクリームからの抑制が入るのだがイエローの変に使用しているこのエネルギーの発散する場所が何処も無くただただ溜め込むだけだった。
早くミシンコードを見つけてこの場から去りたい気持ちで一杯だった。
「あ、あの赤ちゃんタイガくんに似てますねー」
と、まったく悪びれた様子も無くシェンナがガラス窓の向こうの赤ん坊を指差してそういった。
イエローもチラッと横目で見た程度だが確かに良く似ていた。というより何だか記憶の隅に引っかかっている物を偶然見つけたような気になった。
「(まさか……嫌でもあれは……)」
「どうしたんですかー?」
「え、いえ……別に。次行きましょう」
少しあの赤ん坊の事が気になったがイエローが気が付いた時は既に転送ボタンを押していた。
赤ん坊に聞くというのも馬鹿馬鹿しいし、それになんだかあまり長くあの赤ちゃんを見ている気分になれなかった。

第一班はなんだか嫌な予感がしてとっさに着地地点を少しずらしたのが正解であった
物凄い悪臭の中あまり字としては表したくない物が多数うじゃうじゃと集まっていた。
「……臭い」
「ゲホゲホ……凄い悪臭ですね……」
「だって……ここは……ねゴホゲホッ!!!」
最後の『ねぇ?』の時点で思いっきり空気を吸ってしまってグリーン隊長がむせこんでいる。
あまりのみじめな姿に隊員たちを目も当てられなかった。
「にしても……なんですか。この×××の山は」
「どうして我々が×××の中に転送されるのかがホント見当が付かないんですけど……」
「……ワタシの見解では……『そういう趣味』を持った隊員が隊員の中にいるのではないかと」
「私達は違いますからねっ!」
ピーターとピンクがまっさきに容疑を否認する。もちろん他の隊員も同意見だが。
「×××。×××。×××。……なんでこの現代にこんな所が存在するのかわかりませんよ全く」
「隊長……×××。×××って何度も言わないで下さいよ……気持ち悪くなってきますから」
「あぁ……すいません……」
さすがに女子隊員の疲労がピークになってきていた。男子隊員もなるべく空気を吸わないように少しずつすってみるが
逆に息苦しくなり思い切り吸ってしまう……人間とはそういうものだ。
「(早く……ミシンコードを見つけましょう……)」
苦しそうにしゃがれた声でブルーはグリーンに申し上げた。彼なりに精一杯の所作だったのだろう。
「しかし……一体……×××の中からどうやって……」
「お久し……ぶり……ですね」
×××の中から声が聞こえてきた。その声になんとなくブルーは聞き覚えがあった。
「あーっ……確か……その声は……」
その声に隊員たちは一声にブルーから離れていく。
「そういう趣味はブルーでしたか……」
「いや、誤解ですって……これはっすねー……」
ブルーは少し考えてようやくその声の主がようやく解った。
「解っ……ゲホッ!!ゲホッ!!」
一旦むせていたブルーだが、持ち直して今度は小さな声で再び言い直した。
「あの正月の時のみかんっすね……」
「そうです……」
小さな声だったがその口調は何処か嬉しそうなモノを含んでいた。
「こうして私達……一緒になることが出来ました……純一さんと努さんとも一緒になれて……」
「そ、そうっすか……」
「見ます?純一さんや努さんと一緒になった私の姿……」
×××の山の向こうにいることは解ったがさすがに3つが凝固した×××など見たいはずも無く丁寧に遠慮させていただいた。
「……そ、そうだ……ミシンコードってご存知ですか?」
「いえ……そんな事は知りません……今は3人一緒になれて幸せなんです……」
「だそうです。さ、とっとと次に行きましょう……」
既に女子隊員は倒れる寸前なくらい顔色が悪くなっていた……。
隊長の次は女子隊員。この班の隊員はナイーブな人が多い……。
他の半とは違って第2班はこれまた普通な場所にやってきていた。
何処かの新しく建った感じの小学校だ。いくら今までかかわりが会った人とはいえ小学校とは範囲が広すぎないだろうか?
「誰の小学校?」
ホワイトが一同に聞いてみるが他の隊員の通っていた小学校ではないようだった。
「オイラの小学校じゃないなぁ……」
「俺のでもないね……」
まだ授業中の為か、学校は妙に静かだった。入り口に入ってすぐの所に職員室があった。
「……ききき……キミ達!なんだ!?え!?あれか!?模倣犯ってヤツか!?え!?」
職員室の入り口でバッタリ出くわした男の先生が変に慌てふためいて騒ぎ始めた為に職員室に残っている何人かの先生方はこちらを見ていた。
「どうなさいました?岩井先生?」
「あぁ、中園先生!こいつら例のあれですよ……最近流行の学校侵入刃物所持未成年どもです!!」
別に敵意もないこんなに純粋(?)そうな少年少女を見て最近の学校侵入未成年と一緒にされては困る。
だがそんな目に会った事もないのに何がそんなに青い顔で怒れ慄いているのだろうかこの先生は……。
「こいつらって……あら貴方達は」
長身なその男の先生の後ろからひょっこり顔を出した女性はBC団改造猫、闇猫の元担任だった先生だった。
腰より少し上の所まで伸びている髪や、すっとした綺麗な顔立ち、胸の小さなブローチは学校の物なのだろうあまり飾らない見た感じもいい人だ。
ボックスで現れた時よりも綺麗に見えるのはやはり学校という舞台がそうさせているのだろうか。
「中園先生!あなたもまさかこの子達の……!!?」
「いえ、そうじゃなくて」
「やっぱり……学校は恐ろしい組織なんだぁぁぁ!!!やめてやるぅぅぅぅ!!!」
頭をぐるんぐるん回しながらその男先生がいなくなると先生はホワイトたちを職員室の中の隅にある小さな応接用のソファに座らせてくれた。
向いに先生が座ってくれたがこういう扱いを受けるといざと言う時何をすればいいか解らなくなってしまうから不思議だ。
「所で……やっぱり上村くんが何か……?」
「あの、一応今彼は名前は伏せて欲しいらしいので闇猫くんでお願いします」
「解りました。……その闇猫くんがまたどうかしたんでしょうか?」
「いえ、今日は彼の事ではなく先生にお聞きしたい事が……」
「なんでしょう?」
先生が首を傾げる時になびく髪がさらっとしていて妙に美しく見えた。
変にそれを前面に押し出していないので芸能人としてもそれなりにやっていけそうだ
ライトブルーの上のブラックもさっきから小声で『いい女だな……』と呟いている。女子としては妙にムッと来る台詞だ。
「ミシンコード……って知りませんか?」
「ミシン……家庭科室のでしょうか?」
「いえ、知らないなら……良いんです」
「そうですか……ではほかにお役に立てることは無いですか?まだ時間もありますし」
と言われても、ミシンコード以外の用事はないのだからお願いの仕様がない。
すると機転を利かせてくれたのかパープルが先生に言ってくれた。
「では、お茶をいただけますか?喉が渇いているので」
「あぁ、すいません。お偉方が来た時しかお茶を出すように育てられてなかったもので失礼しました」
「(あははー……どっかで聞いた台詞だなぁ)」
先生が席を外している間パープルがホワイトの側によってきて耳を貸すように合図した。
「(……せっかくですから闇猫に会った時の為に何か手紙でも書いてもらったらどうでしょう?)」
「(えー。それ耳打ちしてまで話すような内容!?)」
「(フインキです。フインキ!)」
そこまで話した所で先生がお茶を持って再び戻ってきた。
「……どうぞ」
「ありがとうございます……。所で、お手伝いの件なんですが……」
「なんでしょう?」
「闇猫に……ちょっと手紙を書いていただけますか?多分後出会うと思うのでなるべく詳しいのを」
先生は、「はぁ……」と呟いて側にあったメモ帳に胸ポケットに刺していたボールペンでサラサラと手紙を書き始めた。
早く書いているのだが綺麗な字で細かく書いていた。
「……闇猫がなんで先生を恩師だと思っているんでしょうか?」
ふと、疑問に思った言葉がホワイトの口から出ていた。一瞬ペンの動きが止まったが再び紙の上をペンが走り始めた。
「……多分、保健室でよく抱きしめてましたから」
「え?」
「私、傷ついている子供に出来る事は言葉よりも体で何かを伝えてあげる事が大事だと思ってるんです。ですから……」
「……」
ペンの動きが完全に止まったメモを綺麗に折りたたんで先生はホワイトに手紙を渡した。
「……闇猫くんが悪人とは言え過去の自分を超えようとすることはそんなに悪い事じゃないと思います」
キーンコーンカンコーン。キンコーンカンコーン
「……チャイムが。そろそろクラスに行かないといけないので今日はこれで」
「……ありがとうございました」
先生が職員室を出るより先に隊員たちは職員室を後にした。
「……手紙どうします?」
「会わなかったら会わなかったでそれでいいんじゃない……?さ、次行きましょ!」
そして、第3班は見知らぬ花畑の前に転送され、そこに待機していた人力車とおじさんが待機していた。
「(……何?このシュールな状況は……)」
「……乗るのかい?」
おじさんはキセルを吹かしながらチラッとこっちを見た。
「シェンナ乗りたいですー!!」
「そうね。人力車なんてめったに乗れるものじゃないし」
「……乗りな」
おじさんに言われるままに4人は人力車に乗り込むと颯爽とおじさんは走り出した。
車や家があるわけでなくただ一本の道が真っ直ぐにあるだけなのでいくらでもスピードを上げることが出来るようだ。
それにしても綺麗な花畑で、花によってフロアが別れていた。シェンナもキャーキャー喜んでいる。
「あ、そうだ」
「おじさん。ミシンコードって知りませんか?」
「さぁ……知らないね……」
おじさんがそういうとさらにスピードは上がっていった。
ぐんぐんと風を切る感じだが側の花はそよそよと綺麗にゆれるだけで痛めているわけでもない。
「綺麗ですー。このままどこへ行くんでしょうかねー?」
「さぁ……」