第57話

『グリーン悪者改造計画』

(挿絵:グリーン隊員)

ボロボロになってエコが帰って来たのは前号から1週間がたった頃だった。

「な、なんだこのガラクタは……」
「いや、がらくたじゃやない。コイツはエコだ」

何処をどう走ってきたのかアチコチ凄いことになっていた。

「……どうした?」

騒ぎを聞きつけてボスオオカミがやってきた。
前号の騒動からオオカミ軍団のオオカミの7割が灰色になってしまった為にボスも灰色だった。

「エコがボロボロになって帰ってきまして……」
「……仕方ない奴だ。研究員!研究室へ連れて行って直してやれ」

バタバタと研究員がやってきてエコを抱えて研究室へと連れて行った。

「やれやれ……困った奴だ」








「……というわけで、ここは新しい武器の開発に力を入れるべきだと思うな」

OFFレンはOFFレンで会議室に集まって新たな敵に備えた会議をしていた。
前回の、悪エコ状態の脅威に立ち向かえることが出来るにはどうすればいいかが議題だ。

「……しかし、開発には相当な資金が要ります」
「タタじゃダメだよね……」

レッドの新兵器開発案にメカ派から反対の声が上がる

「んー……資金があればいいんでしょ?資金があれば」
「でも、1万や2万じゃ出来ないですよ……?」
「よし、隊員リストラしよう!」
「いやいや!隊長!隊員減れば資金も減りますって」

いい考えだと思ったのに……という顔をして立ち上がっていたレッドは席に着いた。

「(……やっぱヤバイ仕事も一つやるしかないのかなぁ……)」
「……まぁ、この問題はまた今度にしましょう。ね?」

グリーンの一言で会議は終了となった。
しかし、レッドはなんとかして資金を集める方法を考えることに集中していた。








「……う、うぅ……」
「目が覚めたか?」

エコがベッドの上で目を覚ますと横にはボスオオカミが座っていた。

「……お、オレ……危うく死ぬ所だった……」
「……サイボーグで良かったな。で?お前戻る気になったのか?」

エコの表情は暗くなった。

「いや!オレはとことんグレてやるんだ!オオカミ軍団に入ってやる!」
「……そうか。お前がその気ならオレは大賛成だ。費用も結構かかったしな」
「所でここ何処?」

エコのいるベッドはなんとも目に来る黄色と黒の虎縞模様だった。
それどころか部屋中がその色で埋め尽くされていた。

「……なんか阪神ファンの部屋より凄いね」
「あぁ、ここに居たのはつい最近までオオカミ軍団にいたタイガの部屋だ」
「ふーん……辞めちゃったわけ?」
「……ま、そんなもんかな。でも、良い悪者だったぞ……」

と、ここまで言った所でボスオオカミにある考えが浮かんだ。
エコがせっかく悪者になる気になったわけだからタイガの話をして見習わせようと思ったのだ。

「タイガについて話してやろう。まぁ、聞け」
「う、うん……」

ボスはエコにタイガがどれだけ素晴らしい悪者であったか、素晴らしい人物であったか、
そんな事を身振り手振りを交えながら話し続けた。
しだいに、ボスの方も熱が入りある事無い事までペラペラと話が進んでしまった。

「そしてオオカミを助ける為に燃え盛る警察署内へ飛び込んだのを最後に奴は行方不明になった……」
「……」
「ど、どうだ?タイガは凄い奴だろう?」

エコの目は輝いていた。

「か……カッコイイ~……」
「そ、そうだろ……?」
「そんな凄い人がオレの先輩だったなんて……」
「ま、まぁな……お前もタイガを見習ってがんばるんだぞ」
「うん!オレもタイガ先輩を見習って仁義な生き方を目指すよ!」

実際ボスの話の98%が嘘なのだが今更訂正できるような状況ではなかった。
だが、エコにとって良い方向に作用してくれたようなのでボスも罪悪感は無かった。

「よ、よかったな……。この部屋はお前にやるから好きに使え」
「ホントですか?で、でももしタイガ先輩が帰ってきたら……?」
「(そんな話したっけな……)大丈夫。タイガは心が広い奴だから」
「うわぁ~……カッコイイ!じゃぁ、有り難く使わせてもらおーっと♪」

今にして思えば、AVや本の類を倉庫へしまっておいてよかったとボスは思った。
タイガの部屋-今はエコの部屋だが-を出ると、一匹のオオカミが部屋の前に立っていた。

「あ、ボス。客人が来ていますよ」
「……客人だと?誰だ」
「それが……OFFレンレッドなんです」





来客用の部屋が無いのでレッドはボスの部屋に待たされていた。
相変わらず殺風景でまだ引っ越したばかりらしく段ボール箱が2,3個転がっていた。

「……待たせたな」

ボスが入ってくるとだらんとしていたレッドの背筋がピンと伸びた。
タイガの癖がまだ少し残っているのだろうか。

「……何の用だ?オオカミ軍団が恋しくなったのか?」
「違う違う。ちょっと、話があってね……」
「何だ……?」

レッドはぴょんと椅子から飛び降りてボスオオカミに耳を貸すようジェスチャーをした。
ボスは言われたとおりにするとレッドはそっとボスに耳打ちをした。

「……何?割の良い仕事がないか?そんな事耳打ちして聞くようなことか?」
「まぁまぁいいからいいから。何かない?」
「そんなの俺が教えてもらいたいくらいだ。無い物は無い」
「そう言わないで……多少ヤバイ仕事でもいいから……無い?」
「そうだなぁ……」

ボスは机の上にある求人広告の束にざっと目を通してみたが別に普通の物ばかり。
だが、その束の下にある『悪者の友』を手に取りその求人広告に目を通し始めた

「ふむ……戦闘員募集とかどうだ?」
「一日いくら?」
「5000円だ」
「じゃぁ、パス。もっといっぺんに多く取れるの無い?」
「お前なぁ……そんな割のいい仕事が……お!」

ボスの様子が急に変わった。

「何?いいのあった?」
「あぁ、中堅の組織で『ワルネコ党』という組織があるんだがそこで優秀な党員を募集しているな」
「いくらすんの?」
「入れるのは3名だな。入党すると……300万もらえるらしい」
「に、300万!?!?」
「ただし、入党する時に一回だけだ。それ以降はタダ働きというわけだな」

レッドの表情はそこに決めている様子だった。
だが、ボスはレッドの伸ばした手の先から『悪者の友』を離した。

「おーっと……タダじゃぁ協力できないな。俺にも条件がある」
「……ど、どんな条件?」
「一週間、オオカミ軍団に居てもらう」
「えーーーっ!?」
「親切にも一週間だけって言ってるんだぞ?いやなら諦めるんだな……」
「……絶対だね?約束果たしたら全面的に協力してもらうよ」
「いいだろう契約成立だ」

ボスは机の引き出しからドリンクを取り出してレッドに渡した。

「これは?」
「オオカミドリンクがあればいいんだがな……。タイガが大量に作らせたから虎化しか残ってない」
「……仕方ないなぁ……」

どっち道、稼いだ資金でオオカミ軍団を倒す目的なんだから多少良い思いをさせてあげれば、
オオカミ軍団も浮かばれるだろうとレッドは思い一気にドリンクを飲み干した。
レッドの体が見る見るうちに縞模様になっていく。

「……じゃぁ、レッド今日から一週間よろしく頼むぞ」
「ハイ、ボス……」







それからレッドが本部に来なくなって3日が経った。
だが、どうせ家でごろごろしているんだろうと思って誰も心配しなかった。
もっとも、テスト期間には2週間ほど休む隊員もいるから特に大事な訳ではない。

「……はぁー。平和ですねぇ……タイガもいないしホランもいないし」

ロビーでTVを見ながらジュース片手にグリーンは至福の時を過ごしていた。
TVでは特に面白くない番組をやっていたがそれでもなんだか面白く感じていた。

「はぁー……。し・あ・わ・せ……なんて私としたことが変な事を♪」
「あ、グリーン。荷物届いてるよ」

買い物から帰って来たライトブルーが小包をグリーンに差し出した。
……宛名は全部英語になっている。嫌な予感がして送り主を見るとホランだった。
しかし、グリーンは……。

「……フッ。まぁ、彼がアメリカでどうなっているか見てやるのも乙な物ですね」

ホランから開放された安心感からか既に余裕じみた感じだった。
中を開けると、DVDが一枚入っていた。ビデオレターならぬDVDレターだ。

「わー何それ?オイラも見せてよ」
「いいでしょういいでしょう。一緒に見ましょうか」

グリーンがDVDをデッキに入れるといきなり豪華なCGで「Dear Grenn」と出てきた。
すると、しばらくして椅子に座っているホランの映像に切り替わった。

『やぁ、グリーン。き、キミの愛するホランだよ。元気だったかな?』
「フッ……よ~く聞こえませんでしたねぇ~」

すっかり余裕げにグリーンは呟いた。

『こっちの生活はもう慣れたよ。今は朝の8時。グリーンは何をしている頃かな?
フフ……まぁ、いつもオレの事を考えているって事だけは当たってるかな☆』
「フッ……ざ~んねんでした~ぁ。はずれで~す」
「(隊長……いや、グリーンキャラ変わってる……)」

『こっちで友人も何人か出来たよ。おっと、もちろんオレが愛しているのはグリーンだけさ♪』

ホランは赤面しながら頬を掻いていた。かと思えばホランの表情は暗くなる。

『で、でもねグリーン。オレだってやはり寂しい気持ちはもちろんある。
今すぐキミの所へ行って抱きしめてあげたい衝動に駆られる事だってある。でも約束だから我慢だ』
「おぉおぉ、ご苦労なこってすな~ぁ」
「……(--;)」

するとホランはなんだか緑色のくしゃくしゃになった物を取り出して来た。

『だから、今は、こうして……気持ちを抑えているんだ』

その緑色の変な物体から出た管の先には足踏みポンプが付いており、
ホランは緑色の物体をぎゅっと抱きしめながらそのポンプを踏み始めた。
するとその緑色の物体は徐々に膨らみ始めうっすらグリーンらしき形をし始める。

『あぁっ……ぐ、グリーンがオレの手の中でっ……お、大きくっ……な……なっているっ……あぁ……グリーン……♪』

「ちょっと!何やってるんですかぁぁぁぁ!!!!!」

さっきまでの余裕はどこへやら。持っていたジュースの缶を握りつぶしながらグリーンは叫んだ。
まだ、悶えているホランの映像が流れているTVをグリーンはゆさゆさと揺らしたが、
当然映像なのでそんなことで辞めるわけが無い。

『ハッ!つ、つい我を忘れてしまった……。コホン。とにかくグリーン。
オレは毎日メールを送っているから暇があれば、いや!出来れば毎日送ってほしいな……♪
それじゃぁ、そろそろ学校の時間だ。またネ♪ き、キミの永遠の恋人ホランでした☆』

照れたままクサイ台詞を言った後DVDは終った。
無駄に高画質で高音質だったなぁ。とグリーンは思いながら鳥肌の立った手でDVDを取り出した。

「……あー毎日あんな事されているのかと思うとおぞましい……」
「(グリーン、隊長の座から降りてずいぶん垢抜けちゃったなぁ……)」

グリーンはふと「メール」という言葉に嫌な予感がし、PCを開いてみた。
すると、新着メールが560通。今、さっき来た分で561通めになった

始めの方は「元気かい?」とか「今何しているんだい?」とかだったのだが、
後半になるにつれ「会いたい」「何で返事くれないんだい」とだんだん暗い文面になっていた。
さらに300通を越えた辺りから「返事を」という言葉のみ文字数が1つずつ増えていた。
今では「返事を」だけが300以上になっている。もはや悪質な嫌がらせだ。

挿絵

「……あぁっ!偏頭痛がっ!!」

グリーンはその場に崩れ落ちてしまった。
ライトブルーはしぶしぶ買ってきたばかりの冷えピタを取りにロビーを後にした。









「はーっ……はーっ……つ、疲れたぁ……」

ボロ雑巾のようになったレッドが突然ボスの部屋へとなだれ込んできた。
時計は既に12時を回っており、約束どおり一週間が経過していた。

「ご苦労。おかげでかなり助かった」
「もー……オオカミ軍団がこんな重労働だったなんて知らなかったよぉ……」
「そうだぞ。悪者だって結構苦労してるんだ」
「そ、そうなの……?」
「あぁ、TVで格好よく見えても裏ではカップラーメンすすったりしてるもんだ」
「どうでもいいから……早くこっちの方を協力してよ……」
「おぉ、悪い悪い」

ボスが、押入れをゴソゴソと探っている間に、レッドは汚れた顔をハンカチで拭いた。
これでさっぱりしたと鏡を見ると虎柄はまだ残っていた。

「ちょっとー!まだ柄残ってんじゃーん!」
「ん?大丈夫だ。朝までには戻る。それにその方が売り込みもしやすいだろう?」
「売り込み?」
「お前、正義の味方だろうが。向うに顔バレしてるかもしれないだろ」
「あ、そっか……」
「ドリンクの効果で少しは悪者顔になってるんだから怪しまれずに済むだろ。あ、あったあった」

ボスは押入れの中から1つのダンボールを出してレッドの前に置いて中を取り出し始めた。

「まずは、ドリンクが3本。以前、使用マニュアル1冊。あと色々。これでいいだろ」
「ふんふん……あ、後悪者の友も貸してよ」
「それはいが……後で返せよ」
「OKOK。じゃぁ、これでお互いトントンだね」
「あぁ、まぁな。悪者になりたかったらいつでも来い。本格的に改造してやるから」

段ボール箱を抱えながらよろよろとしているレッドはボスの部屋を後にした。






一方、本部では苦しんでいるグリーンをライトブルーが一人残って看病していた。
看病のおかげか、グリーンも回復したようですっかりぐっすりと眠りについていた。

「あー疲れた。なんでグリーンより年上のオイラがこんなことしなきゃなんないんだろ」
「ZZZZ……」
「気持ち良さそうに眠っちゃって……。オイラもう帰ろーっと」

ライトブルーが転送装置で実家へと帰っていったすぐ後に、レッドが本部へと帰って来た。
真っ暗な部屋で誰もいないのかと落胆しかけたがソファの上で寝ている隊員を発見した。
明かりをそっとつけるとソファの上では安堵の表情でグリーンが眠っていた。

「(……仕方ない。グリーンにしよう。悪く思わないでね……)」

起こさないようにそっと床に置いたダンボールからレッドはマニュアルとドリンクを取り出す。
そこには、ボスの字なのだろうか太い男文字でこう書かれていた。

『1、まずは虎化ドリンクを飲ませて体を慣らしておく。
また、飲んだ後は言う事を聞くので後の処置が楽になるメリットもある』

段ボール箱には縞模様のボトルのドリンクがあり、レッドはそれを手に取った。
ドリンクから延びたストローを指で潰して細くし、グリーンの口へとそっと差し込む。

「(……さらばグリーン!!)」

おもいっきりドリンクのボトルを押し、グリーンの体内へドリンクが流し込まれていった。
突然の出来事にグリーンの目が覚めたが時既に遅く全てのドリンクが注ぎ込まれた後だった。

「ゲホッ!ゲホッ!な、なにするんですか!!……ってレッドその姿は!?」
「……い、いやーちょっとね」
「まさかオオカミ軍団に操られて……」
「い、いやーもう操られては無いんだけど……。グリーンごめんね☆」
「な、何を一体……あ、あれ……なんだか力が……」

ふらふらと立ち上がっていたグリーンの足元はよろめき出し、ソファへと座った。
すると、虎柄が浮かび上がり始め、ようやくグリーンの虎化は完了した。

「……ふぅ。さて次はー……」

『2、記憶抑制ドリンクで一時的に記憶を消しておく』

さっそく、『記』とかかれたドリンクを取り出しグリーンに飲ませる。
虎化しているお陰でグリーンは素直にそのドリンクを飲む。
すると、グリーンは急にぽかんとした表情になる。

「???」
「き、君は誰かな?」
「???」

どうやらドリンクは聞いているようだ。恐るべしオオカミ軍団。
そしていよいよ最後の一本が残った。

『3、人格変化ドリンク-悪者ver-で全ての処理は完了。
あとは、悪者の友のファッション特集とかで上手くコーディネートしてやれ』

真っ黒いボトルのドリンクをグリーンに渡し、それを訳のわからないまま飲ませた。
すると、グリーンから虎柄が消え、ぽかんとしていた表情がだんだん悪者らしくなってきた。

「……よ、よし。一応チェックしとこう。道にお金が落ちてたらどうする?」
「無論、俺のものにする……」
「おぉ、いい感じいい感じ。じゃぁ、子供が泣いてたらどうする?」
「……いろんな意味で再起不能にする」
「(……なんだそりゃ)」

とりあえず、全ての処置は完了したので次は見た目だとレッドは悪者の友を手に取った。
巻頭に流行の悪者ファッションのコーナーがあり、それを参考にグリーンに着せる。
といっても、タイガの使っていたアクセ類やガラクタがほとんどであまり雑誌通りには行かなかった。

「……とりあえず……こんな感じかな」

適当に、箱の中の首輪やマントなど『らしい』格好をさせてみた。
ダメ元で額に悪という文字も入れておいた。

「……よし!これでOK!さ、ワルネコ党本部へ行こう」
「……了解だ」









既に時間は夜の3時。
常に受付ていると書いてあるっても心配だったが3,4組が受付に並んでいた。

「(なんかどっかで見たことがあるような……)」

列に並ぶと係りの戦闘員がレッドの元へと歩いてきた

「……党員志望ですね」
「ハ、ハイ!」
「えーと、あなたが紹介人ですね?お名前と所属組織名をここにお書きください」

渡された書類は悪の組織にしては嫌にきっちりしておりレッドは感心した。
とりあえず、名前はタイガーレッドにし、所属はオオカミ軍団にしておいた。
書類を渡すと係りの戦闘員はじーっとそれを見ていた。
レッドは、バレたかとドキドキしていると戦闘員は3と書かれたプレートを差し出した。

「ハイ、オオカミ軍団のタイガーレッドさんですね。3番の部屋へどうぞ」
「あ、は、はい……」

プレートを受け取ると二人はそのまま3番の札がかかっている部屋へと向った。
恐る恐る中へ入るといかにもまたもや戦闘員らしきヤツラが3人座っていた。
3人の前には椅子が2つあり、多分そこに座っていろいろと面接などをするのだろう。

「……どうぞ。お座りください」
「フ……座ってやるか」

既に別人の悪グリーンが偉そうに席に座るとドキドキしながらレッドが横に座る。
戦闘員の面接官はこちらをじっと見ながら面接を始めた。

「……お名前は?」
「ハッ!ハイ!たたたたた……タイガーレッドです!」
「貴方じゃなくてそちらの緑色の方」
「えっ……ぐ、グリーンです」
「グリーンさんね……2,3質問して宜しいでしょうか?」
「ハイ!」

面接官は申し訳なさそうな顔でレッドを見る。

「すいませんが、紹介人の方はお静かに願えますか?」
「あっ……す……すいません……」

面接官は気を取り直してグリーンに質問を始めた。

「あなたはワルネコ党に入って何をしたいですか?」
「何でも良い……悪いことができるのならば」
「ふむ。なるほど……では、あなたはこの団体に入りたいですか?」
「フ……入って欲しいなら入ってやっても良いな」

通常の面接ならば即不採用物な受け答えだったが面接官らは評判がいい感じだった。
面接官らがボソボソと話しはじめ、うんうんと3人は一斉に頷いて言った。

「……おめでとうございます。採用が決定しました」
「ホントですか!?」
「えぇ、性格外見ともに100点満点です。是非、良い人材になるでしょう」
「そうですか……よかったぁ……」
「我々の党員が額に悪の字を入れていることを良くご存知でしたね~」
「えっ……そ、そりゃぁもう!悪者は情報が何よりですから」

その時、別な党員が2人やってきて、一人はグリーンを別室へと連れて行った。
もう一人は、分厚い封筒を持って来てレッドに渡した。

「こちらがお約束の300万円です。どうぞご確認を」
「あっ!はい……本物ですよね?」
「ご安心を。我々は財源が豊富ですから」
「わかりました……」
「これからも良い悪者でいてくださいね」
「あ、ハイ。ではでは」

何度もペコペコとおじぎをしてレッドは部屋を出た。
手元にある300万円にワクワクしながらレッドは本部へと帰っていった。
ちょうど、本部に付いたころ、レッドの体から虎柄は消えておりギリギリセーフだった。





レッドが帰ってすぐ、グリーンは他の2名の合格者と同じ部屋に通されていた。
部屋には戦闘員よりも地位の高そうな人物が1名立っていた

「合格者の皆さんおめでとう。私はワルネコ党の副幹部です。皆さんには今日から我がワルネコ党の一員として頑張っていただきます」

副幹部という男は名札をとりだしてそれを各人につけた。
グリーンの名札には『緑ワルネコ』と書かれていた。

「お名前は今後そのようになります。では、最後に注意事項を……。我がワルネコ党の首領大ワルネコ様の前で離婚の話は絶対しないこと」
「何故だ」

副幹部は急に深刻な顔で何度も念を押して言った。

「緑ワルネコ!!聞かずに従いなさい。いいですね……本当に……」
「……いいだろう」

すると、副幹部はニコリと笑って3人に何かの建物の図面を渡した。

「では、3人にはこれから某悪の組織の資金を盗んでいただきます」
「了解!」
「なんという組織なのですか?」
「まぁ、あんな所組織というのも甚だしいのですが……行けば解ります」

男はニヤリと笑った。







「えぇーーーーーーーーーっ!グリーンを売ったーーー!?」

300万円の札束の前で頷くレッドを一斉に隊員達は非難し始めた。

「なに考えてるんですかレッド!」
「で、でもねぇ。売ったお金で新兵器を開発すれば敵を一斉に倒せるんだよ?」
「敵を倒したってグリーンが帰ってくるわけが無いでしょう」
「売った所も悪の組織なんだからさ……倒せば帰ってくるよ?」
「でも……隊長?グリーンは我々の仲間なんですよ?」
「だ、だからさぁ……300万円で売ったわけだよ。安値では売らないよ!」

相変わらず勝手な行動に出てしまう隊長の前で隊員達は一斉にため息をついた。

「とにかく……。理由はどうであれいくらなんでも非常識ですよレッド」
「そ……そうかなぁ……」
「とにかく、グリーンも困ってるでしょうから帰らせてください」
「困っては無いと思うけど……」
「何でそんな事がいえるんですか!」
「だ、だって……」

不機嫌なイエローに恐る恐るレッドが耳打ちをするとイエローの表情は更に険しくなる。

「はぁー!?オオカミ軍団と協力して悪者にした!?」
「だ、だから……楽しんでいるんじゃないかなー☆……なんて」
「……もう。タイガくんがまだ残ってるんじゃないんですか」
「そ、そうかな……」

挿絵

と、レッドがうつむいた時だった。

「どーゆーことだOFFレンジャー!!」

会議室のドアがバンと開いてオオカミ達がわらわらと入ってきた。
なんだなんだと隊員達が混乱している間に雨後の筍の如くあっという間に会議室はオオカミで満杯。

「……な、何々!?」
「なんか変な奴らが一斉にアジトに入ってきて荒らし始めてるんだ!!」
「抗争じゃないんですか~?悪の組織じゃよくあることなのでは?」

笑いながら突っ込むイエローをオオカミ達はキッと睨んだ。

「お前ら、どっかの組織と手を組んでいるだろう?」
「い、いや、別に……」
「じゃぁ、なんでグリーンが金目の物を盗み出しているのに協力しているんだ?」

オオカミは持っていた写真をバッと机の上にばら撒いた。
急いで撮ったのか何枚かぼやけていたがその中の数枚にははっきりと悪グリーンが写っていた。

「……あとレッド。ボス、裏切られたってメチャクチャ怒ってたぞ」
「え?どう言う事ですか?」
「グリーン悪者計画に協力する条件でレッドも一週間俺達の仲間になって……」

隊員達はいっせいにレッドを見た。
レッドは動揺していたのか椅子を斜めに向けて別な方向を見ていた。

「……隊長ともあろう人が敵に協力するなんて……」
「な、何の事……?」

じーっとイエローはレッドを見ていたがレッドも冷や汗をかきながら目を合わせないようにしていた。

「……はぁ。まぁレッドの事はいいです。今はとりあえずアジトへ急ぎましょう」
「……ヤツラはもう帰っているからいないぞ。自分らの組織に帰ったんじゃないのか?」
「では、そのグリーンを売った組織とやらに行きましょう。案内してくれますよね?隊長」

レッドは俯いたまま返事をしない。イエローはため息をついていった。

「……案内したら許してあげますから」

レッドは元気よく席を立った。








「大ワルネコ様。3人の新党員、任務を終えて帰ってきましたぞ」
「そうかそうか……ご苦労であった」

大ワルネコのいる薄暗い部屋でグリーンらは盗んできた金品をボスに献上していた

「……特に、この緑ワルネコ。コヤツが一番多くのものを盗んできました」
「ふむ……新人でやるではないか緑ワルネコ」
「フ。当然だ……」
「では、大ワルネコ様……新たな任務をお申し付けください」
「よし……では……」

その時、薄暗い部屋の扉を破って眩い光が部屋の中へと飛び込んだ。

「そこまでだ!」

ボスや党員達が扉の方を見るとたくさんの猫が立っていた。

「き、貴様らは!!」
「(そうそう……こういうのがないと♪)ここまでだ大ワルネコ!!」
「な、何者だ!?」
「おててに光る正義の肉球!ぐるぐる戦隊OFFレンジャー!!」

あちこちから15色の爆発が起こった。
だが、狭い部屋の中だったため思ったより隊員達がダメージを受けてしまった。

「ゲホッ!ゲホッ!……と、とにかく倒します!!」
「小癪な……えぇいこやつら全員血祭りに上げろ!!」
「(何でこんな嬉しい対応をしてくれるんだろ♪)望む所だ!OFFレンボックス!」

しかし、OFFレンボックスは無残にも緑含む3名の党員に引き裂かれてしまった。
コレ以降の考えが何も思いついていないレッドは手の出しようも無かった。

「フハハハ。無駄無駄!党員達よ。早く倒すのだ!」
「……れ、レッド。何か他に無いんですか?」
「え、えーと……えーと……お?」

レッドはポケット(?)に入れた手が何かに触れたのがわかった。
こっそり取り出してみるとなにやら一枚の写真。

「……なんだこりゃ……?」
「ちょっ、レッドこの一大事に写真なんか見てるんですか」
「いや、これ何かなーと思って……」
「何をゴチャゴチャとッ!!」

レッドの目の前をグリーンの鋭い爪が横切った。
なんとか爪から避けることは出来たものの、手から離れた写真がひらひらと何処かへと飛んでいった。
すると、

「ぎゃぁぁぁぁっ!!!」

飛んでいった一枚の写真をボスが見た瞬間ボスの様子が急変した。

「……なんなんですかあの写真」
「さぁ……なんかカップルの写真」
「何でそんな物持ってるんです?」
「……あ!ここ、オオカミ達と盗みに入った事あるような……」
「じゃあ、あれは……?」

叫ぶボスの周りで党員や戦闘員達が必死になだめている。
だが、ボスの精神的ショックは意外と大きいらしい。

「大ワルネコ様!奥様の事はもう終ったはずでしょう!!」
「この写真をまた見てしまったぁぁぁっ!!」
「お気を確かにー!!」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……自爆っ!」
「えぇっ!?」

その瞬間、物凄い爆発が巻き起こりOFFレン、敵共々吹っ飛ばされた…。





「ハッ!わ、私は一体……」

全ての処置を終えベッドの上でようやく元に戻ったグリーンは目を覚ました。

「……まぁ、これでめでたしめでたしでしょう」
「レッドの処分はまた後と言う事で……一件落着ですね」
『PPPPPPPP……』
「ん?なんですかこの音は」

部屋中に響く電子音。
何事かとOFFレンがあたふたしていると突然グリーンの携帯PCから声が聞こえてきた。

『フフフフ……フフフフ……』

それは、グリーンのメールに添付されたホランからの動画だった。

『グリーン……キミからの連絡が来なくて寂しいよ……フフ……フフフ』
「……?」

ホランの表情はどこか別な世界へ行ってしまったような顔をしていた。
悪く言えば頭がどうかしている顔である。

『これはつまり、キミに恋人が出来たということだろう……そうなんだろう!!!』
「……なんでそうなるんですか」
『フフフ……グリーン……キミはその恋人に全てを捧げているんだろう!?そうだろう!?』
「……何故」
『フフ……フフフ……そうと解った以上、キミはもうオレの愛するグリーンじゃなぁぁい!!』
「だから何故そうなるんですか……」
『本部に仕掛けた爆弾を爆発させる時が来たようだね……フフフ』

隊員達の顔が急変する。さきから鳴り止まない電子音の正体はまさか……。

挿絵

『オレの愛するグリーンを奪った男もろとも本部をこなごなにしてくれるっ!!フハハハ!!!』
「ちょっ!ホランさんっ!気を確かにっ!」
「グリーン。それ動画だよ…」
『7時に爆発する…フフフ…オレを怒らせるとこうなるんだーーっ!!』
「ぐ、グリーン!ホランに早く訂正メールを!!」
「は、ハイッ!!」

その時、本部の時計は7時を指していた……。