第58話
『腐った林檎の方程式』
(挿絵:クリーム隊員)
───それはある夜のことだった。
「むにゃむにゃ……トイレトイレ……」
その日、本部に泊っていたブルーは寝る前に飲みすぎたジュース類のせいで尿意を催していた。
時計は既に午前1時を過ぎていた。ブルーは寝起きの冴えない頭でトイレへと向っていた。
「……?」
と、トイレへの続く廊下の角を曲がった所で誰かがぼーっと立っていた。
非常用の薄暗い明かりしかない為はっきりは見えなかったがオオカミではないのは確かだ。
「……だ、誰っすか??」
「!!」
ブルーのかけた声に気づいてその謎の影は慌てて逃げ出した。
条件反射でブルーも追いかけるがその影はとある部屋の中へと入って行った。
そこは……。
「レッド!ここに誰か入ってきませんでした?」
突然入ってきたブルーにビックリしてレッドは振り返った。
「え?だ、誰も来てないけど……?」
「可笑しいなぁ……あ、さっきのレッドっすか?もしかして」
「??……いや、僕はずっと部屋でCD聞いてたけど……」
よく見るとテーブルには少し型の古いラジカセが置いてあった。
耳を澄ますと少し音は小さいが何かの主題歌が流れていた。
「そ、そうなんすかぁ……見間違えたのかな……」
「疲れてるんじゃない?今は普通の高校生じゃないんだから体調管理は万全にね」
「あ、はい……じゃぁ、おやすみなさいっすー……」
何処か腑に落ちないような顔をしてブルーはレッドの部屋を後にした。
やはり寝ぼけていたのだろうか……?
「あっ!トイレトイレ……」
翌日。ブルーは昨日起こったことをほんの笑い話程度に隊員達に話していた。
「……って訳なんすよ~。俺やっぱ疲れてるんすかね~?」
「レッドがなにかこそこそとやってたんじゃないのー?」
「やだなー。何もしてないよ~本当に」
「あの~……」
突然聞きなれない声が聞こえて振り返ると学ランを着た高校生らしき少年が立っていた。
どこかであったわけでもなく、敵に関係したような雰囲気も無い。
ごくごく普通の高校生の男の子という感じだった。
「……な、なんの用ですか?」
「あの……2日くらい前にここに来るように言われて……」
「え?だ、誰が呼んだの?」
レッドが隊員に聞いてみるものの誰も心当たりがないようだった。
「あの~……」
「あ、ハイハイ?」
「あなたに言われてきたんですけど……」
少年の指はレッドを指していた。
レッドは右に動いてみたが指も右へと動いた。左に動いても同じだった。
「……レッドが呼んだんじゃないっすか~」
「えー……こ、こんな子知らないけどなぁ……」
「尾布橋の所で思い悩んでいたら話しかけてくれて……悩みならここへ来いって言われて」
「……尾布橋?2日前は家に帰ってたけど……なぁ」

レッドは本当に覚えがないようで、でも少年は覚えがあって…
仕方がないので少年には帰ってもらいまた後日来て頂く事にしてもらった。
だが、レッドに何度も思い出してもらっても全く覚えが無いそうだった。
「……うーんうーん……」
「なんなら脳に電気を流してショックを与えてみるのはどうですか♪」
イエローがワクワクしたような声でレッドに提案するがレッドは無視をした。
「まさか、敵がレッドに成り済まして何か企んでいるとかでは?」
「でも、本部に来させて……どうするわけ?」
「本部を観光地化してたくさんの業者に本部で商売をさせて踏み入る隙を与えない作戦とか」
「そんな回りくどい作戦……オオカミ達の偏差値じゃ思いつくわけがないよ」
「……いや、一人いますよ。オオカミ軍団に!!」
一方同時刻、オオカミ軍団アジト。
「……はぁ。どうやってOFFレンを倒せばいいんだろう……」
自分の部屋でずーっとOFFレンを倒す作戦をエコは考えていた。
しかし、いくら考えてもいい作戦なども居つくはずが無かった。
「……タイガ先輩は凄かったんだなぁ……一度会ってみたいなぁ……」
エコはチラッと机の上のタイガの写真に眼を向けた。
にや~っとしているタイガの顔だがエコにはそんな事は気にならなかった。
「……タイガ先輩……凄い人なんだろうなぁ……あーあ」
エコは諦めたようなため息をついてベッドに寝転がった。
天井を見ても黒と黄色の縞模様。仕方なく部屋の雰囲気でしかタイガを感じる事が出来なかった。
「こぅらぁ!!エコぉ!!」
突然部屋のドアが吹っ飛び中からぞろぞろとOFFレンジャーが入ってきた。
どの隊員も既に戦闘モードに入っており手には武器を持っている
「な、何々!?」
驚いているエコに向けてグリーンは銃口をエコの目の前に突きつけた。
「しらばっくれてもダメですよ!あなたが偽レッドを使って悪事を企んでいるでしょう!」
「えぇっ!!そ、そんな作戦があったのかぁ……思いつかなかった!!」

頭を抱えながら心底悔しそうな顔でエコは叫んでいた。
「……え、エコじゃないんですか……?」
「?……オレじゃないよ。今、どんな作戦がいいか考えてた所だから」
「エコじゃない……っていうと……誰なんでしょう……?」
「オレずーっと落とし穴とか砂かけとかしか考えて無かったよ~……」
エコの様子を見るとどうやら嘘はついていないようだ。
一体何だったのだろうかと隊員達が思った時だった。
「……っ!」
突然レッドが倒れ慌てて隊員達がレッドを支える。
だが、レッドの様子がどこかおかしかった。レッドの体が虎柄になっていたのだ。
その時、急にレッドの目がぱっと開いた。
「……あっ!!……ま、またやっちまったぜ……」
「れ、レッド……?」
「ヤ、ヤバっ!!……な、ナンダイグリィィン?」
いつものレッドとは明らかに様子が違う。
それに、なんだか声も口調も少し違う……なんだか何処かで聞いたようなことが……
「……あっ。タイガくんですー」
「えっ!?タイガ先輩?」
シェンナの一声に嬉しそうなエコ。変な奴だ。
「し、シェンナちゃん!シーッ!!…………あ」
シェンナの口を押さえている虎柄のレッド。赤い瞳に女子にちゃん付け。
ということはやはり……。
「とりあえずじっくり話を聞きましょうか?タ・イ・ガくん」
「う、うぅ……」
タイガ疑惑のレッドをベッドに座らせて、隊員達はそれを取り囲むように座った。
タイガの横では尊敬の眼差しでエコが見つめている。
「……で?あなたは本当にタイガくんなんですか?」
イエローがタイガを見下ろす形でタイガに聞いた。
タイガは冷や汗をかきながらいかにも動揺している。
「ち、違うっ!オレは……レッドさ♪」
「……あ、女物の下着」
「ええぇっ!?何処何処!?…………あ」
「……何がどうなってるんですか?」
タイガは観念したのかついに話し始めた。
「あ、あれはこの前の事なんだけど…急にハッと気が付いたらオレ、レッドになってた」
「な、何故?」
「何かよくわかんないんだけど…虎模様を長い間見てたらオレになっちゃうらしい…」
「なんで解るんですか?」
「だって、オレになったときいつも目の前に虎縞あるんだもん…」
そういえば、レッドの部屋にはタイガが一時期使っていた名残で、
一部タイガの私物や内装などが残っている部分があった。
「……でも、そんなの前からあったし…」
「あっ、イエロー…以前レッドドリンク飲んだって言ったじゃないですか」
詳しくは前号を参照だが、確かに以前レッドは色々あってドリンクを飲んでいた。
「…それで、なんか呼び覚ましちゃったんじゃないんですか?」
「……まだしつこく残ってたって事ですか……しかし、なんで早く言ってくれなかったんですか?」
「だ、だってさー…あんな別れ方しておきながらこんな事になって…合わせる顔が無くて…」
開いた口が塞がらないとはこのことで。タイガもタイガで相変わらずカッコ付けだ。
レッドに戻るだけまだ救いだがコレはコレで今後の行動に支障が出るのではないかと思われた
「…で、タイガどうしたいんですか?オオカミに言って…」
イエローがそこまで言った時ふとあることを思い出した。
またオオカミとの問題でややこしくなり、下手すれば敵に塩を送る結果になるのでは…と。
「…タイガくん。当分の間は様子見と言う事で私達と一緒に居ますか?」
「えっ!ほんと!?やったぜー!」
突然のイエローの決定にグリーンが慌てて耳打ちをする。
「(ちょ、ちょっと…イエロー!なに考えてるんですか)」
「(彼は元敵のボス代理ですよ?下手に渡すより様子を見ておいた方がいいです)」
「(し、しかし…)」
「(タイガくんは大丈夫です。私の知っている限り一番扱いやすいキャラですから)」
「(…わかりましたよ)」
グリーンも渋々納得し、イエローは優しくタイガの頭を撫でる。
「さータイガくん。これから当分一緒に暮らしましょうねー」
「わーい♪オレも一緒に暮らすぞー♪」
見た目はレッドだが中はやはり全然変わっていない。扱いやすいままだ。
「あ、所でレッドにはどうやったら戻るんです?」
「ん?えーとね…これはねオレが戻せんの。何か念じてたら戻るのに気づいた」
「ほぉ…(戻す時に苦労しそう…)」
「さぁさぁ、帰りましょうよ。エコ、このことは秘密にしててくださいよ」
エコはぼーっと尊敬の眼差しでタイガを見たまま固まっている。
「?…何だコイツ」
「なんかオオカミ軍団に新しく入ったらしいですよ」
「ふーん…まぁ、がんばれよ」
「ハッ!!ハイ!!タイガ先輩もお気をつけて!!!」
「あ、あぁ…」
タイガに声をかけられてエコはガチガチに緊張しながら答えた。
これからタイガに話す事は意外と多そうである……。
「あーあ…オレのルックスが台無しだぜ」
今までの簡単な経緯を話したところでタイガは呟いた。
実際、話のほとんどを聞かずにタイガは自分の手や顔を鏡で見ていた。
「…まぁまぁ、タイガくん。これからはOFFレンを陰で支える重要人物になるんですから」
「!……重要人物って?」
「タイガくんはOFFレンタイガ隊員として影でみんなを支えてもらうんですよ♪」
「う、で、でも…オレ、オオカミ軍団だし…」
「オオカミ怒るんじゃないですかね~~?タイガくんがいるってわかったら」
タイガの顔は少し不安そうな顔をしていた。
少し可哀想だがタイガはある意味OFFレンにとってもいい人材になる。
「…その点、私達はどうですか!心の広いこと広いこと!」
「う、うん。そうだね。イエローちゃん優しいもんね♪」
「私達が困った時には、タイガくんになってもらって助けてもらうんです。凄いでしょう?」
「そ、そっか!そういうカッコイイ役回りならオレ、もっかいOFFレンに入ろー♪」
簡単でしょう?とばかりにイエローはニヤリと笑って隊員達を見た。
全く、女子隊員といえどもイエローは侮れない。
「あ、でもいざカッコイイオレが出なきゃいけないとき都合よく虎柄あるかなー?」
「……俺じゃダメですかね?」
シルバーがのっそりと隊員達の後ろから出てくるがタイガは犬を追い払うジェスチャーをする。
「そんなの虎柄とはいわねーな」
「ムッ……俺だって虎猫なのに…」
「まぁまぁ、そうですねー。いつでも何処でも持ち歩けるような虎柄でも不自然の無いもの…」
イエローはピン!と何かをひらめいたようで会議室を出て行き、
しばらくしてなにやら虎縞のものをもって帰ってそれをタイガの目の前で広げて見せた。

「じゃんっ!虎縞の帽子です。これなら不自然じゃないですし、さっとタイガくんを呼べます」
「おぉー!なんかカッコイイ!イエローちゃんセンスいいねー♪」
「では、レッドに戻ってください」
「え?」
「レッドに事情を説明しないと帽子を被せる所か何も出来ないでしょう?」
タイガは少しの間何か言いたげだったが渋々目を閉じてむんとなにか念じていた。
すると、ポンッ!と音がして体から虎柄がなくなっていた。レッド復活である。
「ハッ!ぼ、僕は何故ここに……」
「レッド。みんなで答えを出したんですがその帽子ダサいですよ」
まだ何も解っていないレッドにいきなり毒舌攻撃。威力も1.5割増しだ
案の定、レッドは物凄いショックを受けている。
「…ひ、ひどい…いまさらそんな事…」
「だって今時高校生で青い帽子って…どれだけ遅れている事か…」
「(うーん…間違っては無いけれども容赦ないなー…)」
「で、私達そんなダサい隊長には付いていけないのでみんな脱退します。じゃぁ」
「えぇっ!!そ、そんなぁ!待ってよ!」
イエローの足にすがりつくレッド。
もはやこのOFFレンに権限など存在しない。
「…仕方ないですねぇ。この帽子でイケメン隊長になってください」
「え、こ、この虎縞の帽子……?」
「今年のニューウェーブはズバリ虎縞!付けてみてくださいよ」
「う、うーん…そうなのかなぁ…」
腑に落ちない様子だったが、レッドは帽子を巻いてみる。
帽子と余り変わらないので色が違うだけで余り違和感は無い。
「こ、これホントにいけてるのかな~?」
「凄い!レッドカッコイイ!あ、あれ?あなたレッドでしたっけ?」
「い、いやだなぁ~イエロー。お世辞はやめてよ~」
照れているレッドの後ろでイエローはもっと煽れ煽れと隊員にジェスチャーをする。
「…ど、どう?パープル」
「えっ?に、似合うんじゃないですか?」
「うんうん。カッコいいカッコイイ」
「ブルーはどう?」
「……いいんじゃないっすか?」
「そ、そうか…じゃぁこれ当分使わせてもらうよ。だから辞めないでよ!?」
隊員達は思いだしていた。
そうだ。レッドもタイガも基本は同じだったのだ──。
翌日。
「あのー」
玄関の方からあの声が聞こえていた。以前やってきていたあの学生だ。
「あの…思い出していただけました?」
「うーん…いくら考えても思い出せなかったなぁ…」
レッドが記憶をくまなく探してみてもやはり解らないようだった。
一体何なのだろうと思ったとき、イエローがハッと気が付いた。
「(あっ…もしかして…)レッド、失礼しますよ」
「え?」
イエローはレッドの帽子を掴んでぐっと下に引きおろし、レッドの顔を帽子で覆わせた。
突然の事に驚きじたばたするレッドだったが次第に大人しくなって行く。
「…よし!オレの出番だな!…………ってあれ?」
バッと顔の帽子を取るとタイガが勢い良く辺りを見回したが、
明らかに自分の中での状況とのギャップに困惑していた様だった。
「あ、あれ?オレにしか倒せない奴……何処……?」
「今は戦闘中じゃありませんよ。所でタイガくん。こちらの人ご存知ですか?」
イエローの指差した方の学生をタイガが一見するとポン!と思い出したように手を叩いた。
「おぉ!あの時の奴か!ちゃんと来たんだな♪」
「あぁ、よかった……思いだしてくれて」
「……やっぱりタイガくんでしたか……」
「そうそう。コイツオレがこの前外へ出ていたときに会って……
こっそり、オレになったレッドのまま夜中にこっそり抜け出して、道頓堀の所に居たんだ」
タイガは、その時の事を話し始めた…。
○──────────────────────────────────○
オレが、ぶらぶら懐かしい大阪の街を歩いていてそいつに気づいたんだ。
最初は、どうってことなかったんだけど様子がおかしくてさ…。
なんか橋の上に身を乗り出してるんだよな。で、ヤバイと思ってさ…
○──────────────────────────────────○
「オイオイ!なにやってんだよコラァ!!」
「ほ、放っておいてくれー!!俺は自殺するんだー!!」
「オレの道頓堀を汚すなっ!!自殺するなら他の所へ行けっ!!」
「いやだー!!誰にも見つからないままなのはいやなんだー!!」
○──────────────────────────────────○
で、あんまりムカツいたから頭ぶん殴ってオレの方へ引き戻した訳。
そしたらコイツオレの足掴んで泣き出してさぁ…
○──────────────────────────────────○
「うぅ…うぅぅ…」
「な、なんだよ……気持ち悪いなぁ…」
「聞いてくれよ…俺凄い可哀想なんだよ…」
「えー…めんどくせー…」
「聞いてくれなきゃ飛び込むぞ!!」
「聞く聞く…早くしろよ…?」
「お、俺…こう見えて不良少年なんだ……」
○──────────────────────────────────○
まぁ、見れば解る金髪ピアスにださ~い第一ボタン外した学ランの高校生。
オレの方がもっといけてる格好出来るくらいの格好なんだよ。
○──────────────────────────────────○
「…俺、ポリシー持って不良やってるんだよ。いじめとか盗みはしないんだけどさ」
「ふーん……オレは普通に出来るけどなー…」
「そしたら…こ、この間…他校のヤツラと喧嘩したんだ…。そしたら…」
「っ!!なにをしているんだっ!!」
「…あいつ等が勝手に喧嘩売ってきて…」
「…お前は我が私立杜若高校の問題児や!いや、異端児や!」
教頭の奴が、校長の前で俺を叱りまくるんだ。
担任の奴は教頭を恐れて何も発言できないでやんの…
「まぁまぁ、錦織君…そう、彼につらく当たらんでもいいじゃないか」
「校長!このままでは他の生徒にも影響が出ます!」
「…だが、いじめはしていないようだし…」
「校長!腐ったミカンの話を知ってはりますね?」
「…まぁ、有名な話だね」
「腐ったミカンを他の安全なミカンと一緒に置いておくと他のミカンまで腐るんです」
「だから?」
「コヤツだけ、別な教室に隔離して徹底的に指導するんです!」
「なるほど…」
「他のミカンが腐る前に早めのご決断を!!」
こうして、俺は別な教室に隔離されて…個別授業。
少しでもよそ見するとゲンコツだ…。こんなの非人道的だ…。
生徒も、先生もみんな知ってる。明らかに俺の仕打ちが行き過ぎだってことに…
それで、教育係を買って出た教頭にいつも言われるんだ…。
『オイ!腐ったミカン!嫌なら早く退学するんだな!!』
でも、みんな教頭を恐れているんだ…。だから誰も校長に言い付けない。
親は教頭に上手い事言われて俺の話しを信じやしない…。
「な?お、俺かわいそうだろ?」
「……まぁ、そうなんじゃねーの?」
「助けてくれよ…俺救ってくれよぉぉぉー!!」
「…面倒くせーなー…。あ、そうだ!これ、ここへ行って相談しろ!な?」
「…で、オレがここの場所を教えて別れで、コイツがここに来ているわけ」
「そうなんです…。せっかくのおしゃれも教頭に強制的に正しくさせられて…」
しゅんとしている学生。
意外と深刻な相談にOFFレンも動揺を隠し切れない。
「(…ちょ、ちょっと。OFFレンジャーってこんな話でしたっけ?)」
「(てるてる坊主が空飛んだり、アースで自爆する奴とかそういう世界ですよね…)」
「(と、とにかくど、どうしよう?)」
「そんなのまじめになればいいんですよー」
コソコソと話し合うOFFレンをよそにシェンナが的確な発言をする。
本当に久々の発言なので何処か嬉しそうだった。気になる人はバックナンバーを確認しよう。
「そ、そうですよ!まじめになればそんな差別受けませんよ?」
「いやだっ!俺はワルにポリシーを持ってるんだ」
「そんなのに固執していたってなにも得する事ありませんよ?」
「俺…明後日卒業式なんだ。どっちみち俺は最後まで腐ったミカンで終るんだよ」
本部に思い空気が流れる。
ここまで思いと作品事態が違うのではないかと思ってしまうほどだ…。
「と、とりあえず我々で話し合ってみますよ。あ、固まり次第連絡しますので」
「…よろしくお願いします…」
少年は、メモに住所と、電話番号を書いてそれをOFFレンに渡した。
とぼとぼと帰っていく少年の背中には何処か寂しそうなものがあった。
「…うーん…難しい問題ですね」
「教頭をやっつけるってのはどうでしょう?」
「いや、それは解決になってませんよ。腐ったミカンの汚名挽回になる様な事でないと…」
「……ゴミ拾いとかでもやらせたらいいんじゃねーの?」
タイガの一言にOFFレンはハッと気が付く。灯台下暗しとはこのことだ。
「なるほど。地味ですが効果は絶大ですね」
「でしょ~♪もっと褒めてー♪」
「ハイハイ。偉い偉い」
タイガの頭をなでるイエロー。タイガもしまりの無い笑顔で喜ぶ。
「では、タイガくん。レッドに戻ってくださいな」
「えっ!オレもう終わり!?」
「……後で良い事がありますよ?それまで温存しておかないと」
「え、ほ、ホント?じゃぁオレレッドに戻ろー♪」
ポンッとタイガは元のレッドに戻ると早速、レッドに代わりイエローが指揮を取り始めた
「さぁ、皆さん!少年と新聞社を呼んで海へ行きましょう」
「了解!!」
「はぁ……」
紺色の空気に包まれた隊員達がぞろぞろとロビーへと帰ってくる。
「まさか2日前に市のボランティアがやっていたとは…」
「ねぇ……」
綺麗な海辺へ足を踏み入れる前に絶望したOFFレン一同は黙ったままソファに座った。
少年も沈んだ様子でソファへと座った。
「……他にも何かありますよ。またみんなで考えれば…」
「もういいよ…」
「え?」
「もう…俺はずっと腐ったミカンでいるしかないんだ!卒業して、このまま、
あぁ、あの不良少年って言われずにあの腐ったミカンかって言われるんだ!!クソォォ」
少年は突然立ち上がったかと思うとそのまま部屋を飛び出して行った。
「……無力ですねー。私達」
「ですね…」
声をかける間もなく、飛び出して行った少年に残された隊員達もの士気も下がってしまった。
『PPPPPPPPPPPPP………』
その時、けたたたましく本部の電話が鳴り響いた。
場の雰囲気とは対照的なベルがうるさく感じられ、イラついた感じでグリーンが受話器を取った。
「(…たが一つ多いんですよ…)ハイ。もしもし?」
『……は……はぁぁ……ぁ……』
「…だ、誰ですか?」
『ぁ…ぁぁ……はぁぁ……』
怪訝な顔で受話器を耳から遠ざけると他の隊員からも不審な顔で見られている。
「誰?」
「…なんか変態電話みたいです」
「春になると多いんだよねー」
「ですね……」
受話器からはまだ悪趣味な吐息が漏れ続けている。
グリーンは注意くらいはしておこうと苦い顔で受話器を再び顔に近づけた。
「……切りますよ。こんな悪戯もうやめてくださいね」
『……あ、あぁっ!!ま、待ってくれグリーンっっ!!』
──声の主はホランだった。
「ゲ…ホランですか。そんな悪趣味な人だったんですか?」
『す、すまない…ぐ、グリーンが受話器の向うにいると思うと…上手く声が出なくて…』
「…何のようですか?」
『ぐ、グリーンの声が聞きたくて…(//////)げ、元気かい?』
「元気ですよ。それでは~」
『あぁっ!待って!!そ、そうだ。オレの写真送ってあげるよ見てみてくれ』
腕時計型PCのメールBOXを見ると新しくホランからメールが入ってきていた。
添付された写真を見るとホランの写真が写っていた。

「…はー。でかいピアスですね……」
『こ、これはね…キミとオレの永遠に終らない愛を表して…』
「あーそうですねそうですね……では~」
『ま、待って!!あ、あれだあれだ!い、今何してるんだい?』
「…腐ったミカンで悩んでます」
『は、はぁ?食べ物が無いのかい?』
「いえ、違います」
『食べ物に困ったなら他にも食べる物があるだろう?リンゴとか…お、オレとか……
(////)』
「あーそうですかそうですかーではリンゴを食べますね」
『フフ…ホントにキミはリンゴで満足なのかな…♪』
グリーンは無言で受話器を置くと電話線を抜いてソファの方へと戻ってきた。
「なんだったの?」
「さぁ、思い出したくありません」
「リンゴ食べるんですか?」
「いえ、話し合わせただけです」
何事も無かったかのようにグリーンは雑誌を手にとって早く忘れようと記事に目を通した。
内容はよくある芸能人のスキャンダルだったが面白いかはともかくとにかく文字を頭に入れ続けた。
「…あ!!」
文字を頭に入れすぎて記事の内容が頭に入ってこなくなったグリーンの脳裏にパッと名案が浮かんだ。
まるで、つかないと思われた電球が急に赤々と灯った時のように…
「どうしたのー?」
「そうですよ!その手がありました!!」
「?」
「あの方に電話してください。私は例の所に連絡しますから」
「う、うん…」
「OFFレンジャー出動です!!」
隊長の座から降りて数ヶ月、グリーンは昔取った杵柄の如く、見事な指揮だった
桜舞い散る並木道の向うにある真新しい校舎のそびえる校舎。
校内はひっそりとしていて少し奥にある体育館からは静かな音色が聞こえてきている。
「これより第18回卒業式を執り行います…」
ずらりと体育館の表彰台に向って並べられた椅子に座る卒業生、在校生。そして保護者。
その中には嬉しそうにしている者もいれば涙を浮かべている者もいる。
だが、整然としたその卒業式の風景に入っているはずの者が1名そこにはいなかった。
だが、式は着々と進行して来賓の挨拶もほぼ済み、卒業証書の授与が行われていた。
「……山ヶ武勇之信実朝」
「ハイ!」
元気な声で返事をし、寸分も狂わぬ動きで卒業証書を受け取る生徒達は、
何度も練習したであろう成果が垣間見られていた。
「……塩」
「ハイ!」
そしてついに最後の生徒が卒業証書を受け取った。
校長の前には残った一枚の卒業証書が残されている。
だが、誰もそのことについては触れない。触れようとはしなかった。
そして、1名足りない卒業式は終わりに差し掛かっていた──。
「では、以上を持ちまして卒業式を閉会…」
「ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
バン!と体育館の扉が開き、演台の方へと走っていく一人の青年。
そう、彼こそが誰にも触れられなかった少年である。
……いや、厳密に言うと少年ではなかった。
「なんだあれは!」
「取り押さえろ!!」
職員達が彼を遮ろうとするも、彼はそれらを跳ね除けて壇上へと上がって行った。
慌てふためく校長のマイクを奪い取ると少年は力一杯叫んだ
「……俺は腐ったミカンじゃない!!俺は…俺は…」
生徒職員一同はその少年の姿を見て驚いた。
大きなリンゴの着ぐるみのような者を着て顔、手足を出したその姿。
「俺は腐ったリンゴだぁぁぁぁーーーっ!!!」
職員の中には涙を流す者までいたという。
校長はその心意気に感激し、卒業証書を少年に手渡した。
たちまち体育館の中は生徒からの熱い拍手で幕を閉じた。

その様子を遠くの方から見ていたOFFレンもホッと胸をなでおろした。
「……オオカミ軍団に頼んだ甲斐がありましたね」
「とりあえずこれで目的は達成ですね」
「腐ったミカンがダメなら腐ったリンゴになればいいんですからね」
「ですね」
教頭は改めて自分の過ちに気づき腐ったミカンという言葉を使わなくなったという。
そして少年も無事卒業を果たし無事就職につけたという。
──しかし、腐っている為に一度も表に出る仕事には就けなかったそうだ。