第61話

『シェンナの冒険』

(挿絵:シェンナ隊員)

「でっでっですーですーですー(ラップ調)」

その日、シェンナが元気に本部へとやってくると誰もいなかった。
ガランとしたその部屋はまるで時が止まったかのように静かだった。

「一人で楽しく遊ぶですー!」

適当に、ソファに座ってみたり冷蔵庫のジュースを飲んだりしてみるものの面白くない。
TVをつけてもテレビショッピングやサスペンスドラマの再放送ばかり…。

「つまんないですー…。帰りましょうかねー」
『シクシクシクシク……』

ソファを降りたとき、どこからか子供の泣き声が聞こえてきた。
シェンナはふとその声が気になってロビーを出てすぐの地下倉庫へ向かう階段を下りていった。

「…誰かいるんですかー?」

「シクシク……」

声のする倉庫の中には古いダンボールが山のように積み上げられていた。
そのダンボールの向こうに何者かの影が見えていた

「あ!恐竜さんですー!」
「……?」

シェンナの声にビクッとしたそれは恐る恐る涙目で後ろを振り返った。



「恐竜さんなんでこんなところにいるんですかー?」
「ち、違うよ……ボク、ドラゴンだよ…」
「えー?ドラゴンさんですかー?」


黄色い体に黒い翼、確かに恐竜には翼なんてついていない…。
シェンナより一回り大きいが多分子供のドラゴンなんだろう

「シェンナ、ドラゴンさんに会うの初めてですよー♪」
「ボクも…こっちの世界で誰かに会うのは初めてなんだ…」
「シェンナはシェンナですー。よろしくですー」
「ぼ、ボク、カプカプ……」
「カプカプくんですねー。なんで泣いていたんですかー?」

シェンナの質問にカプカプの目が潤み始め再び泣き出してしまった。

「うわぁぁん…シクシク…」
「どうしたんですかー?悪い事言ったなら謝るですー」
「うぅ…あ、あのね。ボクのおじさんの大事な石を落としちゃったんだ…」
「石ですかー?」
「こっちの世界はいろんなものがあるからボク、時々こっそり内緒で遊びに来てるんだ。

お空の上から見るこの世界はとっても綺麗で、おじさんの石も綺麗だからお空の上でじっくり眺めてたんだ」

カプカプは涙ながらに時々詰まりながらシェンナに一部始終を話した。

「正直に言うですー。シェンナだったら2割の確立でクリームに怒られませんよー」
「でも、おじさんに内緒で持って来ちゃったから…言ったらもっと怒られるよ…」
「そんな大事なものなんですかー?」
「ドラゴン族に代々伝わる不思議な石なんだって…見つけないとボク、帰れないんだ…」

カプカプはまた泣き出しそうになった時、シェンナはドラゴンの頭をなでてやった。

「よしよし、シェンナも一緒に見つけてあげるですー」
「ほ、ホント?」
「この街にあるのは間違いないんですねー?」
「う、うん…この上の大きな塔の上空を飛んでいたときに落としたから…」
「じゃぁ、早速探すですー!!」

シェンナが早速階段へと駆け出したときふと、気づいた。
子供のドラゴンといえど、他の人はびっくりしてしまうかもしれない。

「……そのままだったらみんなびっくりするですー」
「あ、そっか……どうしたらいいかなぁ」
「倉庫の中に何かあるはずですー…」

シェンナはうず高く積まれた段ボール箱の中から何か使えるものを片っ端から探し始めた

「あ、あったですー!スモール100円ライター!」
「子供が火を使ったらだめなんだよぉ」
「これでドラゴンさんを小さくするんですー。微妙に被ってないからクレーム対策も万全ですー」
「?」

早速、シェンナがスモール100円ライターを使うとドラゴンはみるみるうちに小さくなって、
シェンナの手のひらに乗るくらいのサイズに小さくなった。

「これで大丈夫ですー。さ、石を探しましょー!」
「あ、ありがとう。シェンナちゃん」








外へ出てみたものの、闇雲に探しても見つかるはずはない。
シェンナとカプカプはすっかり意気消沈してしまった。

「もう別に探さなくてもいいような気がしてきましたねー」

「う…うわぁぁん!」
「あーごめんなさいですー。一休みしたらまた探しに行きましょー」
「う、うん…」

と、そこへ時代錯誤的なラムネ売りの屋台を引きながら歩いていくエコの姿があった。

「ラ~ムネ~。冷たい冷たいラムネだよぉ~。ラぁ~ムネぇ~♪」
「あ、エコくんですー」

エコはこちらに気がつくと屋台を止め、ラムネを一本取り出した

「ハイ、毎度ありー」
「えー買うなんていってないですー。あ、悪徳商法ですねー!」
「違う違う!朝から全然ラムネが売れないから困ってるんだよ。半額に負けるから買わない?」
「半額?いくらですかー?」
「うーん……5000円かなー。あっ、でも良い材料使ってるから安いくらいなんだよ」

シェンナの目に疑いの気持ちが入り混じっているのにエコは気づいた。

「この中のビー玉だって京都の職人が一日10個しか作らない超プレミア物なんだからね!」
「シェンナ、おはじき派だから興味ないですー」
「でも、全部売らないとオレ今日アジトに帰れない…。血迷ったボスが大量に買っちゃって」
「50円くらいにすれば売れるですー」
「で、でも原価8000円だよ?」
「いくらなんでも一般市民をバカにしすぎですー。シェンナなら訴訟物ですよー!」

エコはがっくりして地面に座り込んでしまった。よほど売れなかったと見える。

「もーやだー!なんでオレばっかりこんな目にー!!」
「中間管理職の悲哀が伝わってくるですー」
「シェンナちゃん。それはちょっと違うんじゃないかなぁ……」

「そうですかー?」

肩のカプカプが喋ったのに気づいたエコは立ち上がってシェンナの肩をじーっと見つめた。

「……これ、何?」
「ドラゴンのカプカプさんですー」
「……ふぅん……ドラゴンかぁ……」

エコは尻尾のスイッチに手を書け弱めにスイッチを押した。

「何してるんですかー?」
「こうやって弱めに押したままだと中間くらいになるんだ。悪エコって性格悪いけど物知りだから」
「あー。微妙な押し加減ですねー」
「うん。最近発見したんだ。……ふぅん……ドラゴンの角とか爪って高く売れるのかぁ……」

悪エコの頭脳が入っている部分を読み込んでいるのかエコは上を向いてなにやら呟いていた。

「ドラゴンの干物が闇で…ウン億円……。へぇ……」

エコの顔がだんだんニヤけてきた。
カプカプは危険を察知したのかこそこそとシェンナの後ろへと隠れている。

「……ねぇ、シェンナ。そのドラゴン売ってくれないかなぁ?」
「えー。10万以下なら売らないですよー」
「う、売っちゃダメだよシェンナちゃん!」
「じゃぁ、10万円で買うからさぁ……それちょうだい♪」

すっかり目が『¥』になっているエコがじりじりと近づいてくる。

「だ、だめですー!」

「ラムネが売れなくてもそれが売れればきっとボスにも褒められて、タイガ先輩にも見直されるはず!」
「逃げるですー!」

エコはシェンナの腕を掴もうとしたが、シェンナが逃げ出した為にバランスを崩して転んでしまった。

「あ、待って!!」

と言っても待つわけは無くシェンナとドラゴンはどこへ行ったのかわからなくなった。

「……せっかくのチャンスなのにぃー!!……仕方ない。悪エコに頼むか」

エコは屋台に置いてあったメモ帳を取り出してドラゴンを捕まえてほしいという趣旨を書いた。
それを手にしたままエコは尻尾のボタンを押して悪エコとチェンジすると悪エコは手にしていたメモを見た。

「……ふーん。ドラゴンねぇ……」

悪エコはメモをくしゃくしゃに丸め、ニヤリと笑ってその場を後にした。







「ふぅ、ふぅ。シェンナ、後2キロぐらいしか走れないですー」

エコから少しでも離れようと逃げてきたシェンナたちは

「こっちの世界って怖いんだねぇ…。おじさんの言う事聞いておけばよかったな」

カプカプの目がうるうるとし始めると、シェンナは頭をなでてやった。

「よしよしですー。シェンナの茶色の脳細胞に任せるですー」
「う、うん…」

カプカプがちょっと信用していないような目になっていたがシェンナは気にしなかった。

「所で、石ってどんな感じなんですかー?色とか大きさとか聞いて無かったですー」
「んーとね……色は透き通った水色で、大きさは…えーと…今の僕の足から肩くらいかな」
「それくらいだったらどっかの大き目のガラス玉で誤魔化せませんかねー?」
「ダメだと思う…。あの石は凄い力を持っているらしいから」
「力…ですかー?」

そのときだった。突然シェンナたちの後ろで走っていた車や人がピタっと止まった。
シェンナが辺りを見回してもビデオの一時停止のようにじっとしたまま何も動かない。
動いているのはシェンナ、そしてカプカプの2人だけだった。

「……カプカプ」

空から響いた声にカプカプはビクッとしてシェンナの腕にしがみついた。

「どうしたんですかー?」
「お、お、お、お……おじさんだぁ……!!」

バサバサッと上空から聞こえる翼を羽ばたかせる音。
シェンナが上を見上げるとかなり大きいドラゴンがこちらへと降りてきていた。

「わー!大きいですー!」
「……カプカプは、どこにいる」
「えー?ここいいますよー!」

シェンナは腕にしがみついているカプカプをドラゴンのほうに見せた。
するとカプカプは怖さの為か震えだした。

「竜の石は…どうしたんだ。カプカプ」
「ごごごごご……ごめんなさい!」
「…まさか、なくしたのでは…あるまいな」

大きなドラゴンの声は低く荘厳な雰囲気でいかにも由緒正しそうな物だった。

「ご、ごめんなさいっ!ボク、今頑張って探…」
「愚か者!…あれほど竜の玉は我らドラゴン族にとって大切なものと言い聞かせてきたのだぞ」
「だ、だって…だってぇ…」
「探しているんですー!それまで待っててくださいー!」

カプカプの頭を撫でながらシェンナは大きいドラゴンに言い放った。
すると大きなドラゴンは頭を降ろしマジマジとシェンナの顔を見つめた。



「…これは我々ドラゴン族の問題だ。余計な邪魔をするのはやめていただこう」
「玉くらい捜せるですー!だから待ってくださいですー!」
「…ただの玉ではない。世界をも支配する力を秘めた玉なのだ。悪人の手に渡ったら最期、この世界はその悪人の思うがままになってしまうのだぞ…」
「えー!聞いてないですー!」
「ご、ごめん…」

涙で目がぐっしょりぬれているカプカプは蚊のような小さな声で謝った。

「……早くしなければ世界が危ないのだ。こうなればこの周辺を破壊してでも探さなければ」
「ま、待ってくださいですー!時間くれたらその時間以内に探すので待ってくださいー!」
「……では1時間だけ猶予をやろう。だが、一分でも過ぎれば後は私の自由にさせて頂く……」
「解ったですー!!」
「いいな。後1時間だ……」

ドラゴンは上を見上げるとバッと翼を広げ物凄い風を起こしながら空へと飛び上がっていった。
大きなドラゴンが起こした風がどこかへ消え去った頃。止まっていた物たちが動き出した。

「……休んでいる暇はないですー!急いで探すですー!」
「ちょ、ちょっと待って…なんかボク、おじさんが来たから疲れちゃった」

カプカプは急に緊張がとけたのかぐったりしていた。

「1時間しかないんですよー!急ぐですー!」
「何をそんなに急いでいるんだ?」

シェンナの背後の声に気づき振り返るとそこにはエコが経っていた。
だが、さっきと様子が違う。顔は悪意に満ちた笑みを浮かべており明らかに何かたくらんでいる顔だった。

「…な、なんでもないですー……」
「嘘をつけ。俺は知っているんだぜ?全部聞かせてもらっていたんだからな」

エコの顔はニィッとますます悪者の笑い方になってくる

「俺の作った装置で、お前たちの居場所を突き止め、そして俺には特異状況下の影響を受けないシステムが内蔵されているんだ。
時空停止も影響しないわけだな。さてと……」

エコは小さなメカを取り出してボタンを押した。

「世界を制する力をも持つという竜の玉……俺が手に入れてこの世界を支配する!そして、お前たち愚民共をじわりじわりと嬲り殺してやるぜ!」

メカから電子音が鳴るとエコの周辺にオオカミたちが出現した。

「あ、あれ?俺たちなんでここに…?」
「ボスまで!」
「どうしたんだいったい……?」
「いいか。オオカミ。俺の話をよく聞け」

困惑しているオオカミたちをよそにエコは声をかけた。

「いいか。このシェンナが持っているドラゴンは売り飛ばせば何億にもなる代物だ」
「マジか!?」
「そうだ。だからやつを捕まえろ!!」
「オー!!」

金額の巨大さにさっきのエコのように『¥』の目をしたオオカミたちがシェンナたちに詰め寄る。

エコはエコで再びラジコンの操縦機のようなメカを取り出して操作し始める。

「さてと…では、その間俺の作ったマシンで竜の玉の場所を突き止めて…っと」
「あー!それずるいですー!!ドラゴンさんしっかり掴まるですー!」
「う、うん…」

シェンナはオオカミが飛び掛ってくる前に転送装置で一気にエコの方へと瞬間移動した。
エコのメカを奪うと再び転送装置でどこかへと移動した。

「バイバイですー」

一瞬の出来事でしばし唖然としていたエコの顔は物凄く悔しそうな顔をしていた。

「…あの女…!!オオカミ!!早くアイツらを捕まえろ!!」
「了解!!」










「PPPPPPP!!!」

シェンナが転送された場所はメカに大きな反応があった所だった。
そこは、エコがさっきまで引いていたラムネの屋台

「…あ!あのラムネの瓶ビー玉が2つ入ってるよ!」

カプカプが指差した先には大量に並べられたラムネの瓶。
その中に確かに片方が大きいビー玉が2つ、入っていた。


「作ってるときに中に入ったんですかねー」
「あれだよ!間違いないよ!僕小さい頃からずっと見てたんだもん」
「わかったですー!」

シェンナはラムネの蓋を開けゴクゴクと美味しそうに飲み干し空にした。
そして、瓶を地面に落とし、割れた瓶の中からビー玉と竜の玉を取り出した。

「……やっぱりそうだ!間違いないよ」
「よかったですー。じゃぁ、ドラゴンさんの所に持っていくですー!」
「そうはさせんぞ!」

オオカミたちが早くもシェンナのところへ駆けつけていた。
金の亡者になっているオオカミたちの嗅覚は鋭い。

「さぁ!渡してもらおうか!それで俺はカレーを腹いっぱい食うんだ!」
「ボス!それはちょっとボスにあるまじき発言なのでは?」
「う、うるさい!とにかく捕まえるぞ!」

オオカミたちが一斉にシェンナに向かって駆け出してくる。
身の危険を感じたシェンナは傍にあった大量のラムネの瓶をオオカミに何度も投げつけた。

「!!」

割れたラムネの瓶を見てボスオオカミはひるんだ。
かと思うとボスオオカミは地面に広がっているラムネを舐め始めた。

「もったいないことをするな!!あぁ、もったいない!」

無様な醜態をさらしているボスの後ろでザコオオカミたちには涙を流すものも居た。

「ボ、ボス!それだけは…!!オオカミ軍団のボスとしての誇りが…!!」
「バカを言うな!原価8000円だぞ!!もったいない!もったいない!」
「そ、そうなんですか!?そんな高価なもの!」

金額を聞いて目の色を変えたザコオオカミたちまでもが地面のラムネを舐め始めた。
なんとも滑稽というか無様な光景だ。

「お前ら!!何をしているんだ!!早く捕まえろといったはずだぞ!!」

オオカミの後からやってきたエコがオオカミの現状を見て激怒している。

「貴様ら…どうやらこの俺様にぶっ殺されたいようだな…」
「い、いや、エコ。ちょっと聞け。このラムネはだな…」
「問答無用!後で覚えていろよこの犬ども!!」

イライラしながらそばのオオカミを蹴飛ばしたエコはシェンナをキッと睨みつける。

「さぁて…その玉を渡してもらおうか…」
「わ、わかったですー……」
「シェンナちゃん!!」

シェンナはすっかり意気消沈した感じでエコに竜の玉を渡すために近づいた
だが、エコはニヤリと笑ってシェンナが差し出した方とは別の玉を奪った

「な、なにするですー!!」
「馬鹿め。俺の頭脳で計算しなくとも解る事だ。偽者を渡した隙に逃げる魂胆だろう?」
「し、しまったですー!」
「愚かな奴だ。だが、これでこの俺がこの世界の支配者だ!!ハッハッハッハッハ!!!」

エコが高らかに笑っている。

「世界を俺のものに!!」

竜の玉を頭上に高く上げエコは叫んだ。
だが、1分、2分…3分が経過しても全く何も起こらなかった。
不思議に思ってエコは竜の玉を振ったりコツンと叩いたりするが反応は無い

「あ、間違えて本物を差し出してたですー!!失敗失敗ですー!」

シェンナの手には本物の竜の玉が握られていた。
裏をかきすぎていたエコのミスである。

「クソッ!!……まぁいい…再び奪えばすむことだ!!」
「シェンナちゃん!ボクを元の大きさに戻して足に掴まって!」

シェンナは慌ててカプカプを元の大きさに戻した。
そして、カプカプがぴょんと飛び上がり、シェンナは言われるがままに足にしがみついた。
一生懸命羽をばたばたさせてシェンナたちはゆっくり飛び上がった。
エコは飛び上がったシェンナを見て鼻で笑うと大きな銃を取り出した

「フン。見てろ」

引き金を引き、その銃口からは多くのアームが付いたワイヤーが飛び出し、それらはカプカプの首や体を掴んだ。

「ぐっ!」

アームはギリギリとカプカプを締付け、フラフラと苦しそうにカプカプはよろめいて飛行していた。
だが、アームはますます強く締め付けカプカプのよろめきは激しくなった。

「いつ首がちぎれるか……その間が楽しいんだよなぁ……」

エコは楽しそうに締付けているアームの先のカプカプを見ていた。
すると、アームが突然バチッと切れた。いや、正確に言うと切られたのだ。

「……我がドラゴン族の跡継に手を出すのは……辞めて頂こうか……」
「!?」

エコの頭上に巨大なドラゴンが飛んでいた。さっきも出会ったカプカプのおじさんだ

「チッ……余計な邪魔を……まぁいい。獲物が倍に増えただけだ!!」

エコは再び引き金を引くがドラゴンの鋭い爪でバッサバッサとアームは切られていく。

「……ドラゴン族の竜の玉の番人…このレザリオンに攻撃は……聞かぬ」
「レザリオンだかレザリウムだか知らないが…俺の邪魔をする奴は……殺す!!」
「邪悪な心を持った民よ……ならば私が……始末するのみ……」

レザリオンの体が光り始め、大きく開けた口に金色の粒子が吸い込まれていく。

「チッ、ならば…奥の手…………を…………………って、あ、あれ?」

タイムリミットが来てエコは元に戻った。

「わっ!!何!?何!?」

だが運悪くその時、ドラゴンの灼熱の炎が発射された───。








「も、もうダメだぁ……」

その頃、エコの攻撃にダメージを追ったカプカプの力がすっと抜け、シェンナともども落ちていった……。

「わー!ですー!」

シェンナは思い切り目をつぶった。地面は痛いだろうか等と考えていた。
だが、いつまでたっても何も痛くない。恐る恐る目を開けるとシェンナは空を飛んでいた。

「……大丈夫か……」

下のほうから声がした。シェンナが飛んでいるのではなく、シェンナがドラゴンの背中に
乗っているのだ。

「シェンナちゃん。ごめんね……」

カプカプも横に座っていた。傷だらけで心配のうに見ていると大丈夫だよと返された。
再びシェンナは辺りの景色に目を落とした。

「凄いですー。気持ちいいですー」

「気持ちいいでしょ。ボク、おじさんの背中に乗るの大好きなんだ」
「シェンナも好きになりましたー!」

ドラゴンの背中から見る風景はいつもと同じようで全く違っている。
風が気持ちよくてなんだか何処までも行ける様な気分だった。

「……竜の玉は無事か……カプカプ……」
「うん。しっかりシェンナちゃんと守ったよ!」
「そうか……ならばよい……例を言うぞ……すまなかったな……」
「いいんですー。シェンナ、一度でいいからドラゴンさんの背中に乗って空を飛びたかったんですー!」
「そうか……では……もっと飛ぶぞ……」

グーンと風を切る音が聞こえてドラゴンは急上昇した。
ジェットコースターに乗っているようでとても楽しかった。

「ねぇ、今度こっちに遊びにきたらまた遊ぼうね」
「了解ですー!いつでも来てくださいねー」







そうして、シェンナは長い間ドラゴンの背中での飛行を楽しみ、ドラゴンとお別れした。
だが、本部に帰ってきてもやっぱり誰も居ない。
なんだか夢を見た様な不思議な気持ちがする。それと同時になんだか眠くなってきた。

「……ふぁぁ……眠くなってきたですー……寝ましょうかねー……ZZZZ……」











「あっ!シェンナ!どこ行ってたの全く!!」
「僕ら駅前で怪人御意見無用男が人の意見を無視してたから退治してたんだよー」

数時間後、ぞろぞろと隊員たちが帰ってきた。

「ZZZZ…」

「寝てる…まったく幸せな子なんだから……」
「まぁまぁ、クリーム。事件は解決したんだからいいじゃないか」
「ZZZ……ドラゴンさんの背中は気持ちいいですー……」
「…呆れた。寝言まで言ってる。ずーっと寝ていただけで気楽なものね」

シェンナの顔はとても楽しそうな、ドラゴンの背中に乗っていたときのように幸せそうだった。







バシャーン。バシャーン

オオカミ軍団アジトでは盛大なバケツリレーが続いていた。
バケツの水は黒コゲになったエコの体に浴びせられていた。

「……はぁ。エコの奴……どれだけ迷惑をかける気だ……」
「気絶したまま黒コゲになってるなんて……防水加工にしておいて良かった」

その後、朝方までオオカミたちのバケツリレーは続いたとさ。

めでたしめでたし