第63話
『ニャンニャンランドにご用心!』
(挿絵:グリーン隊員)
今日も今日とてパトロールの名を借りた散歩をしている赤隊長。
ふらふらと本屋へと入っていく
「すいませーん。ちょっと本探してるんですけど…」
「はいはい」
「ミャウミャウくんファースト写真集『楽園』ありますか?」
「あー売り切れちゃってますねぇ……増刷未定ですから予約もできませんし……」
ガッカリした様子で帰って行くレッドの前にピエロの格好をした男がチラシを差し出した。
「明日オープンの遊園地ニャンニャンランドでーす」
「あ、ありがとうございます……」
チラシを手に取り見てみるとどうやら海沿いの埋立地に遊園地が出来たらしかった。
しかも、チラシには団体招待券が付いている。しかもかなりの破格の割引だ。
15名以上で行くとかなり安い。これは良いと隊長は思った……。
「はい、みんな注目~!!」
クーラーの効いた部屋でだらーんとしている隊員にレッドは呼びかけた。
全員がレッドのほうを向かないうちにレッドは話を進めていった。
「日頃、激戦に激戦を重ねている我らOFFレン隊員の体は疲れている…
体はいつか回復するがそれよりも精神!そう、精神の疲れはよりいっそう深刻だ!」
握りこぶしをして熱心に話すレッドの話をだらけた隊員たちが横で聞いている。
「精神を安定させ、より良い正義の活動を続ける為には何がいいか?
そう、それは遊ぶ事!ストレスを発散し明日からの活動に備える!
しかし、誰がそんな事が出来るだろうか?遊ぶにはお金が掛かる……。
かといってお金をかけずに遊ぶものなど高が知れている……」
レッドはグッと腹にチカラをこめて叫んだ
「そこでっ!この隊長である私がみんなを遊園地に連れて行ってあげよう!!」

だらんとしていた隊員が急に水を得た魚のように元気に立ち上がってレッドを見た。
爽快な顔をしているレッドはさらに続ける。
「……もちろん、僕の自費でだよ!」
「ボロっちい遊園地じゃないでしょうねー」
「明日オープンのニャンニャンランドって言う遊園地だよ♪」
「あ、知ってますよ。駅前で大々的に宣伝してましたね」
「そ、そう!じゃぁ、明日絶対全員来るように!言っとくけど全部僕の自費だからね!」
クリームの発言にばれやしないかとドキドキしながらレッドは話を切り上げた。
「ふぅ、危ない危ない……」
レッドは部屋に帰って明日に備えようと準備を始めた。
といっても、準備するものなんて団体招待券ぐらいしかないのだが。
しかし、レッドが団体招待券を手に取ったときだった。
『……ニ……イケ……』
頭の中に何かが響いた。
『ミラー……ハウス……ニイケ……』
何度も何度も頭の中に響くその声にレッドは操られている感覚に陥った。
「は…はい……ミラーハウスに……行きます……」
そのままバタッと倒れたままレッドは眠ってしまった──。
翌日、レッドは隊員に起こされて目が覚めた。
「レッド!全く、遅いと思ったらこんなところで寝ちゃってたんですか?」
「あ、あれ…?僕、昨日の準備をしていたと思ってたのに……」
「もー。隊長なんですからしっかりしてくださいよー」
「えへへ……ごめん。じゃ、行こうか」
レッドが招待券を各々に渡すと早速OFFレンジャーは遊園地へと向かった!
『えー。ニャンニャンランドの最後尾はこちらです』
遊園地に着いたOFFレンを待ち受けていたのは物凄い長さの行列だった。
繁盛しているんだなぁ等とのんきな事をいえない程の長い行列。
もしかしたら日本の人口全てが並んでいるのかもしれないと言うほどだ。
「なんか並ぶだけで一日終わっちゃいそうですよ……?」
「ま、まぁ並んでみようよ。ね?」
渋々隊員が並んでみると思ったよりサクサク進んでいく。
もしかしたら意外と早く遊園地には入れるかもしれないと隊員が期待していたときだった。
向こうの方に100万組目まであと○○人とカウントしている電光掲示板が見えた。
「あ、100万組になったら何かいい事があるのかな?」
「もしかしたら好き放題にアトラクションに乗れるチケットとかくれるんじゃないでしょうか」
「あっ!ちょうど都合よく俺らが100万組めみたいっすよ!」
「うわぁ、ラッキーですー」
ワイワイガヤガヤしているOFFレンの後ろで突然ガタッと物音がした。
するとなんと後ろでは女の子が倒れているではないか!
「イヤァァァァ!!!」
「真由美!!!!」
父親と母親らしき人物が少女の頭を抱きかかえて涙を流していた。
少女はぷるぷる震える指を母親の顔に近づけ、消え入りそうな声で何かを呟いていた。
「パパ……ママ……真由美……天国に行っちゃうのかな……」
「そ、そんなワケ無いでしょ!真由美はずーっとママと一緒よ」
「パパもだぞ!」
「でも……真由美……もうダメみたい……さよなら言わなきゃ……」
母親はついに堪えきれなくなったのか涙をボロボロ流しながら少女を抱きしめていた。
「真由美……最後にこの遊園地で100万組めの入場者に……なりたかったな」
「馬鹿ね。もうすぐ私たちが100万組目の入場者なのよ」
「そうだぞ真由美!1、2、3、4、5………………あっ……」
「あなたどうしたの?」
「……100万1組目だ………」
父親は膝をつき頭を抱えて苦悩し始めた。
「あ、あと……あと1つ前に並んでいれば……100万組目だというのに!!」
「パパ……もういいの……真由美100万1組目でも……嬉しいよ」
「許してくれ真由美……あの時パパがご飯をお代わりしなければ……お前は!!」
「パパは悪くないもん……真由美がダメなんだもん……」
「あぁ、真由美……ダメなパパを許してくれ……」
その時だった、母親がピタリと急に泣くのを辞め父親の方を向いた。
「待ってあなた……もし、もしもの事だけど前に並んでいる1組が外れてくれれば……」
「あ、そうか!!いや、しかし……みんな自分のことしか考えていないんだ。そんな事」
「そうね。例えば前に並んでいる子供たちがパッと退いてくれれば真由美は……うぅ」
「そんなの無理さ。今の若者は自分のことしか考えない……所詮我々親子など……他人」
「あぁ……前の子供たちが例えばの話で退いてくれれば……!!」
「無理よ。どうせ私たちの苦しみなんて若者には解らないのよ」
「残虐なゲームをして喜んでいるような奴らに人の苦しみなど解るわけないさ」
「あぁ、あなた。なんて可哀相な私たち……こんな人間の心を持たない人が前にいる…」
「クソッ!クソッ!人間の心を忘れた愚かな奴らにパパの怒りの鉄拳が炸裂しそうだ!くらえ!パパの愛の拳っ!」
「ママも法的手段に訴えてしまいそうだわ」
一部始終を見て苦い顔をしていたグリーンがポンポンとレッドの肩をたたいて耳打ちをする。
「レッド……退いてあげましょうよ」
「えぇ!やだよせっかく並んだのにー!」
親子は再び号泣を始める。
「パパ…ママ…真由美ね。パパとママの子供に生まれてホントに嬉しかったよ」
「あぁ、真由美……」
「マイスゥィートエンジェル真由美……」
グリーンがチラと親子の方を見る。
「あれじゃぁ、我々も気分が悪いでしょう……一応正義の味方なんですから」
「うぅ……仕方ないなぁ……」
ゾロゾロと隊員が移動すると親子は栄光の100万組目の座に着いた。
「あっ!真由美、急に元気になってきた!!元気モリモリ200%!」
「奇跡だ……奇跡が起こったんだ」
「あぁっ!真由美!!」
「急に目の前の子供たちがロストしたぞ!あぁっ!神様!」
「真由美、パパ、神様に祈りましょう」
祈っている親子を尻目に隊員たちは渋々最後尾に並び始める。
「してやられましたね。……………ハァ」
「もー……せっかく並んだのにー……」
レッドはこぼれそうな涙を帽子をとって拭き始めた。
「あっ!レッドSTOP!!」
「……………………………………なんだ?」
時は既に遅くタイガに変わってしまっていた。
「あぁ、もう……ややこしい事になりましたね」
「なんだここは?」
「……遊園地です」
「遊園地!?なんだ~お前もやっぱ気が利くじゃん♪オレも行くぞ♪」
「ダメです。レッドが主催なんですから」
「ヤダヤダーー!!オレだって遊園地で遊びたい! 女子と観覧車乗るんだー!」
わがままなタイガに正論で切り込んでも仕方が無い為パチンとグリーンは指を鳴らした。
打ち合わせたように女子隊員がタイガの周りを取り囲む。
「えーと……じゃぁ、観覧車乗るときタイガくん呼びますから♪」
「え、ホントー?」
「あたりまえですよ。タイガくんと観覧車乗りたいんです♪」
「じゃーオレ、待ってるねー♪」
と、なんとかタイガもレッドに戻り一件落着のように見えたが、相変わらず行列は続く。
もうあの親子は入っているだろうか。やっぱり変わるんじゃなかったとまで思い始めた。
「困ったなぁ……もう3時間だよ」
「我々は正義の味方なんですからねー………VIP待遇とかあればいいのに」
「失礼、OFFレンレッド様でいらっしゃいますか?」
黒いスーツとサングラスのまるでSPの様な感じの男が2人レッドに声をかけた
「……確かに僕がレッドですけど……」
「ここの支配人が皆様のファンでして。そこで特別玄関から是非お入りになって下さいと」
「えぇっ!やったー!」
「ではこちらへどうぞ」
心底嬉しそうにスキップをしながらレッドはSP男たちの後を付いていく。
隊員たちもその後を付いていく………。
「こちらです」
特別入り口と書かれた入り口からOFFレンたちは入っていく。
特別と書かれている割には特に変わらない関係者入り口のようなものだった。
「わーい♪入れたー♪」
「まずは何処へ行きましょうか?」
その声に急にレッドの体がカチンと固まったような気がした。
「………ミラーハウス……」
「え?」
「ミラーハウスに行こうよ………」
「えー!ミラーハウスなんてあとでいいじゃないですか。あんな鏡しかない所」
「ミラーハウス………」
「ハイハイ。じゃぁ、まずミラーハウスから行きましょうよ」
レッドのしつこさをよく解っているグリーンは渋々みんなをまとめた。
するとレッドの体の硬直は解けた。何故、ミラーハウスに行きたいと思ったのか不思議だった。
「じゃぁ、ミラーハウスに出発!」
客の入りが少ないミラーハウスに不安を抱きつつ隊員はミラーハウスへと向かった。
その背後で男は無線機を取り出した。
「OFFレンジャーミラーハウス向かいました」
「………ご苦労」
遠目で誰一人入場者を確認できなかったOFFレンだったが近くで見てもやはりいない。
それもそのはず。ジェットコースター等の絶叫マシンが6つ、観覧車が大と小の2つ。
他にも楽しげなアトラクションがある中で明らかに安っぽい作りのミラーハウスに入るは
ずが無い。
「………とにかく入ってみようよ。並ばなくて良いじゃない♪」
「ハイハイ………」
期待と不安、むしろ不安だけで入った隊員たちの目に飛び込んできたのはやはり鏡。
鏡しかない。驚きだ。珍妙だ。いや、だがミラーハウスなのだから当たり前だ。
ここまで名前通りなのも珍しい。せめて何か一工夫あればいいのに鏡しかない。
やられた。迷路になっていない。部屋中が鏡張りだ。びっくりした。
なるほど、これならば客が入るわけが無い。
「詐欺ですよこれ。せめて通路とか作りましょうよ。部屋全体が鏡張りって何ですか」
「さすがのシェンナもご乱心ですー」
「帰ろうよ。なんか腹が立ってきたよ」
鏡張りなので綺麗といえばきれいなのだが隊員には思いのほか評判が悪い。
さすがに隊長の地位が危ぶまれるのでレッドも早く出ようと思った。
『……パシャ』
小さな物音を感じてレッドは振り返った。
だが物音を鳴らすような物は何もない。床の鏡を割ってしまったような事もないみたいだ。

「レッドー。早く行きますよー」
「………………あ、うん」
何か気になったがレッドはミラーハウスを後にした。
ハウスから出てもやっぱり客足はこちらには向いていないようだった。
「あ、なんか帽子逆になってた」
「わざとなのかと思ってましたよ」
「えへへ。失敗失敗。さーじゃぁ今から自由行動と言うことで」
「やったー!!」
レッド一人残して園内に散らばっていく隊員たち。
その様子をこのニャンニャンランドの遊園地の社長室から眺めている男が一人。
「好きに遊ぶが良い。楽しんでいられるのも今のうちだ……」
「もーーーーーー!!!!!!なんで出してくれなかったんだよぉぉぉぉ!!!!!」
ニャンニャンランドから帰って5時間後。レッドが部屋にいる最中にタイガになったらしく、
ロビーでくつろいでいた男子隊員に泣きながら殴りかかった。よほど行きたかったらしい。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!八つ裂きにしてやるーーー!!!」
「お、落ちついてください!どうどう……」
「オレは馬じゃねぇぇーーーー!!!」
「タイガ君。落ちついてください」
イエローがタイガの頭を撫でながら優しく声をかけると面白いように大人しくなった。
タイガはイエローに抱きついて涙ながらに訴えを始めた。
「なんで……?なんでオレ呼んでくれなかったの……?」
「それが私たちの中で誰がタイガ君と乗るか喧嘩してたら閉館になってしまって……」
「そんなぁ。オレだったら全員と交代に乗ってあげたのにぃ……」
「タイガくんごめんなさい。今度また行きましょうね」
「う、うん……絶対だよ?」
タイガも一安心して大きく息を吐いてソファに座った。
「(あーあ。観覧車の中でHするAV見てからいつか実践しようと思ったのになぁ……)」
「しかし、タイガくんがそんなに観覧車が好きなんてねー」
「え?あぁ、うん。オレは高い所も女の子も好きだし♪」
「馬鹿となんとかは高い所が好きなんですよー」
「じゃぁオレは『なんとか』の方だな♪」
にゃはにゃは笑ってタイガもすっかり落ち着いた。
しかし、ようやくほのぼのとした雰囲気の中ホワイトが突然ロビーに怒鳴り込んできた。
「コラァ!!ブルー!!」
「ん?どうし…」
ホワイトの飛び蹴りがブルーの顔面に直撃する。
棒高跳びで飛んだような姿勢でブルーは遥か後方へと飛んでいった。
隊員の目にはまるでスローモーションのように映った。
これが後に隊員の中で伝説となるブルーの舞なのだがここでは多くを語る事はできない。
「ハァ……ハァ……これくらいで勘弁してあげるわ」
「ど、どうしたんですか?ホワイト?」
「ブルーがさっき部屋にいきなり来てバットを振り回したの!おかげで部屋が滅茶苦茶!!」
「あぁ、そりゃぁ顔面キックされても文句は言えませんねぇ……」
ブルーは鼻血を出しながら目を回している。
自業自得だが仕方が無い。でもちょっと可哀相な気もする。
「あれ?でも、ブルーならさっきからずっとここにいましたよね」
すっかりブルーの舞に見とれて冷静な判断を失った隊員らにクリームが冷静な見解を示す。
そう言われればブルーはさっきからここで談笑に加わっていたはずだ。
ブルーに分身能力があるわけがないし、腹違いの弟だっているわけが無い。
「じゃ、ホワイトの見たブルーは一体……」
「もー。そんな心霊番組がオチをうやむやにして終らせる時みたいな台詞を言って……」
「いや、しかしこれはまさに怪奇現象に違いありません」
「そんな勝手に……どうせ最終的にはプラズマのせいって事になりますって」
「うぅむ……とりあえずホワイトの部屋に行ってみましょう。何かわかるかもしれません」
好奇心でギラギラさせた目のグリーン元隊長は一人でホワイトの部屋に向かった。
仕方ないので数名の隊員が後を付いていく。タイガは女子と談笑をして気づいていない様子。
「ありゃぁ~。これは派手にやりましたね」
ホワイトの部屋はあちこちボコボコ。本棚の本は床に産卵。いや、散乱している。
そして全てを墓石。いや、破壊し満足した様に投げ捨てているバットがゴロンと床に転がっている
「バットの指紋を調べてみましょう。あのーもさもさあります?」
「もさもさですか?」
「えぇ、あの、ほら、もさもさ~って警察の鑑識がやってる奴です」
「もさもさ~って言われてもなんのことやら……」
「あぁ、もう良いですよ!なんなんですか!2年以上に渡って隊長を務めてきたというのに
一体この意思疎通の無さは何なんですか!普通、上司と部下ってあうんの呼吸があるもんじゃぁないんですか!?
普通ならば私がパチンと指を鳴らしただけで全てを理解するくらいになって欲しかったですよ。
そうですよ、今の若者には理解力とか相手の事を考えるとかいった力が不足してるんですよ。
ゆとりか!?ゆとり教育か!?えぇ!?ついに我らにもゆとり教育の波が押し寄せてきたか!?
総合か!?総合的な!総合的な授業があなたたちをこんな風にしたんですか!?
許すまじゆとり教育!文部省の企みがあなた方をこれっぽっちも人のことを考えない冷たい人間にしたのですね!
機械の様な冷たい心になってしまったのですか!熱い血が流れているんじゃないんですか!貴方たちには!
逆999!?逆999ですか!?あなた方は機械の心を手に入れたのですか!?
何故?何故あなたがたはそんな冷たい心を持ってしまったの!?教えて?教えておじいさん!
教えて!アルムのもぉみのきぃよぉぅーーーー♪!!!!!!!!!!」
ぜぇぜぇいいながらグリーンは床に伏せてしまった。
「満足しました?」
「ぜぇぜぇ………私も歳を取りましたかね……昔はもっと言えたのに……」
「とりあえずこれは私が調べておきましょう」
イエローはバットをナイロン袋に入れるとそそくさと部屋を出て行った。
グリーンもよろよろと立ち上がりロビーへと向かおうとしていた。
「ちょっとグリーン!部屋どうするんですか?こんなんじゃ私困ります」
「あーもー……次回になったら何事も無かったかのように戻ってますよ……大丈夫です」
「もー!そんなどっかのメルマガ小説みたいなことがあるわけないでしょう!」
「とりあえずロビーに帰りましょうよー。もうなんか疲れちゃって………」
『キャァァァァァァァ!!』
戻ろうとした隊員に聞こえたのはロビーから響いてきたのは夜を切り裂く怪しい悲鳴。
「誰だ?誰だ?誰だ?」
「急ぎましょう!」
ロビーの中では何やら物凄い騒ぎ。
ドアを開けるとそこにはたくさんの血しぶき。ついにOFFレンにもスプラッタのてこ入れが!?
かと思いきや床には鼻血を噴水の様に吹き出して倒れているタイガの姿。
「なんですかこの騒ぎは……」
「それが、さっきホワイトが入ってきて……」
「タイガくん♪」
「あれ?ホワイト、もういいの?」
「うん、もういいの………それよりタイガくん……」
ホワイトはタイガくんの横へ座って突然タイガくんの手を掴んで胸元に当てだしてね。
「な、なに!?ほ、ホワイトちゃん!」
「ウフフ……もっと触ってもいいのよタイガくん」
「なななななななななななななななな…………………!!!!!!!!」
「どうせならもっと別なところも触らせて上げましょうか……?」
「ンガッ!!」
タイガくん突然顔真っ赤にして鼻血を拭いて倒れたんです……
「ほ、ホワイト……なんてハレンチ学園なんですか」
「わわわ!!!私がそんなことするわけないでしょ!」
「そうですよ。ホワイトはさっき一緒にブルーの部屋にいたんですし」
「と言うことは……またもや起こった訳ですね?偽者が」
隊員の顔に困惑の色が見え始める……。
「もしかしたら……ディョツピェァルギェゥンヌグゥァ……かもしれませんね」
「ドッペルゲンガーですか……? なるほど。夏だから心霊物で攻めようと言う事ですかね」
「そう言うグリーンだってドッペルゲンガーかもしれないじゃないですか」
「えぇ!?」
クリームの発言でグリーンへ当てられる隊員の視線には疑いの色が強くなっている。
なんだか本当に自分がドッペルゲンガーのような気がしてきた。
「証拠を見せてくださいよ証拠を」
「えぇ……そんな事言われても……」
「本物のグリーンなら志村けんの物まねが出来るはずです」
「し、シムケンですか……?むぅぅ……」
「できるんですか?できないんですか?さぁさぁ!!」
グリーンに詰め寄ったクリームの鋭い目。
ここは疑いをさっぱり払おうと覚悟を決めて始めてやるものまねをしてみる。
「だ、だいじょぶだぁ~ウィ、ウァ、ヴォ」
「加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ時代のネタを出してくるとは渋いですね。次!」
「そ、そうです、私が変なおじさんです!」
「つ、次……!」
クリームは口を押さえながら少し笑いを堪えていた。
グリーンの良い感じにとぼけた声が良い感じに笑いを誘う感じになっていた。
「だ、だっふんだ!」
「顔も物まねしてよ」
「だっふんだ!」
その何ともいえない志村なのか!?と言う言葉が隊員の脳裏をかすめるほどの不思議な顔。
滑稽。面白い。マジ受ける~。いろんな言葉で表せるのだがなんとも奇妙な面白さの顔が出来上がっていた。
「………プッ、アハハハハハハハハハハ!!!!」
クリームは床を叩きながら笑い転げた。なんだか恥をかいた気分だ。
すると、隊員がグリーンを見てハッと何か気づいたような顔をする。
「あぁっ!志村……じゃなかった。グリーン!後ろ!」
「え?」
振り向いたグリーンの頭に分厚い辞書が落ちてくる。
チカチカするグリーンの目にはしっかりと辞書を落とすクリームの姿が見えた。
「キャハハハハハハ!!バ~カ!!」
クリームは笑いながらロビーを出て行く。
「おにょれ~!元隊長に何と言う事を~!私が本気になればあなたなんてどうにでもなるんですよ!!」
グリーンがクリームを追いかけようとドアを開けると目の前にはちょうどクリームが立っていた。
「どうしたんですか?なんか騒がしいですね」
「ぬが!おのれクリーム!よくその面下げて帰って来れましたね!さぁ、土下座して謝ってください」
「何の事ですか?私はさっきまでトイレに行ってたんですよ」
「グリーン。またやられちゃったみたいですね」
しかしグリーンの疑いの目は元に戻ることは無かった。
「いや、わかりませんよ。ホントにコイツは本物のクリームなんでしょうか?本物のフリした偽者かもしれません」
「まさか」
「偽者が自作自演をしている可能性だってあるわけですからね~?」
すっかり疑心暗鬼に陥ってしまったグリーンはレーザー銃を取り出す。
「疑ってるんですか?」
「もちろん……」
クリームもガトリングを装着し、二人のにらみ合いが続く。
「……クソッ!」
クリームは根負けしたのかロビーから逃げ出した。
するとシェンナがハッと何かに気づいたのか大声で叫んだ
「あー。クリーム今日、友達と映画行くって行ってたからいるわけがないんですー!」
「えぇ!?じゃぁ、あのクリームも偽者!?」
「あなたたちも偽者じゃないでしょうね……」
グリーンは思い切り皮肉をこめて隊員たちにつぶやいた。
しかし、グリーンのその言葉は隊員たちの間に不信感を抱かせるには十分だった。
その日は終始無言で終わり、隊員たちはこそこそと疑いの目で過ごしていた………。
「タイガせんぱ~い。オオカミが作りすぎたんで里芋の煮っ転がし持って来ましたー」

翌日、エコが煮物を入れたタッパーを持って本部にやってきたがロビーのただならぬ雰囲気は解った様だった。
一人ソファーに座って状況を飲み込めていないオロオロしているレッドの周りで疑いの目をした隊員が座っている。
「あ、オレ……お邪魔だったかなー……」
「あぁっ!待って!せっかくだからゆっくりしていきなよ。さ、座って座って」
レッドがエコを無理やり引き止めて横に座らせた。
さすがのレッドもこの空気の中に長時間いるのは厳しいようだ。
「エコだっけ?と、歳はいくつ?」
「……じゅ、15……」
『…………』
「わ、若いねぇ~!お肌もツヤツヤだし♪」
「いや、これはメタル加工なんだけど……」
『…………』
「へ、へぇ~!そうなんだぁ」
「……う、うん……」
『…………』
「あー!もうなんだよこの空気は!!」
先に沈黙を破ったのはエコだった。
「息が詰まるよもー!何なのさー!」
「さ、さぁ……僕が気づいたときにはもう既に……」
「いいよもう。タイガ先輩に聞くから」
エコはレッドの帽子を使ってタイガを呼び出すがタイガはタイガでボーっとしていた。
「ホワイトちゃん……あの時触っておけば……よかったなぁ……」
「タイガ先輩!里芋の煮っ転がし持って来ましたよ♪ 日々の激戦で疲れてるから栄養つけてください」
「あぁ……ヤベ……なんか思い出して興奮してきたぁ……」
「タイガ先輩?聞いてますか?」
「あぁ……なんであの時もっと触っておかなかったんだろ……オレの馬鹿……」
エコはタイガの耳を引っ張って思い切り息を吸い込んだ。
「すぅ~………タイガ先輩っ!!」
「うわぁぁっ!! 何だ!?何だ!?」
体がビクッとしてタイガはようやく正気に戻ったようだった。
「もータイガ先輩ってばずーっとぼーっとしてるんですから。OFFレンもそうだけど」
「あ、あぁ……エコか」
「どうしたんですか?一体」
「ん?何がだ?」
「お互いがお互いを疑いの目つきで見てるんですよぉ。まさかタイガ先輩が何か素晴らしい作戦でも!?」
タイガは腕を組んで考えてみるが特に思い当たる節は無い。
もう少し考えてみようと3か月分の頭を回転させてみると引っかかる言葉がようやく見つかった。
「んー。そういえば……偽者が現れるとか言ってたな」
「あぁ、なるほど。OFFレンの偽者を使ってお互いの信頼って奴をなくしチームワークをぶっ壊すって事ですね」
「あ、そうなのか……。よく解ったな」
「へへー。オレもタイガ先輩に負けないように勉強しようと最近、通信教育やってるんですよー」
エコが照れながら通信教育から帰ってきた答案用紙をタイガに見せる。
小5用の算数の物だったが点数は58点だ。
なのに花丸が付いて『もう本当によくがんばりましたね。先生は嬉しいです』と赤ペンで書かれている。
「お前もまだまだだなー。オレなら100点平気でとれるぞ?」
「さっすがタイガ先輩!そこに憧れちゃいますよー」
「よーし!ここはこのオレ様がその偽者とやらを退治してやろーじゃねーか!! エコ、付いて来い!」
「もちろんです!」
タイガが部屋を飛び出した後ろでエコは大事そうに答案をしまった。よほど大事にしているらしい。
「って、出たのはいいけどよー。どうやって探せばいいんだー?」
「そ、そうですよねー」
大阪の町に飛び出した馬鹿2人はただ呆然と行きかう人たちの中で立ち尽くすことしか出来なかった。
キョロキョロと辺りを見回してみるもののこの広い大阪でどうやって偽者を見つけることが出来るだろうか。
「よし、ここはエコに手柄を立てさせてやる」
「た、タイガ先輩、そんなオレなんかでいいんですか?」
「オレは今日は調子が悪いからな。お前一応コンピューター中に入ってんだろ?」
「あー。ハイ。まぁ、一応」
エコは尻尾を掴んでじんわりスイッチを押してみるが、それでもイマイチピンとこない。
もう少し強く押してみようかと思ったがおもいきりスイッチを押してしまっていた。
当然、スイッチを押したのだから悪エコになってしまうのは仕方の無い事。
「………オイ、どうなんだ?早く言えよ」
「あ~?俺様にどういう口の利き方をしてるんだ?」
「ムカ!!てめぇこそオレにどういう口の聞き方してんだ!!さっきはあんなに持ち上げてたくせに!!」
「はぁ~?」
悪エコが心底あきれている顔でタイガに聞き返した。
「………お前知らないのか?オレとヤツは同じエコでも全く違うんだぞ?」
「え?あ?にゃ?」
「……チッ。馬鹿には説明する気にもならなねぇな………。今の俺は別のエコだ。解るか?」
タイガはよく状況を理解していないようだったが、なんとか頷いくことが出来た。
「さて………エコが俺になったって事は何かあるわけだろ?何なんだ?」
「あ、そうだそうだ。えーとな。OFFレンの偽者を捕まえてーんだけどさ?」
「ハンッ」
エコは思い切り腹の立つ見下した顔でタイガを見た。
「お前、元は悪者だろ? プライドとかないのか?」
「オレは女の子の味方だからいいんだ♪ そんな事より協力してくれ。お前頭良いんだろ?」
「そーだなぁ………」
ニヤリとエコはタイガに向き直った。
「……光子の持つエネルギーEは振動数Fに比例。その比例定数はプランク定数Hに等しい。では、その式をE=HVとするとhの値は?」
「あ?何だ?何を言ってるんだ?」
「答えられたら協力してやる」
エコは嫌味な笑みをタイガに見せつけた。
タイガは光子の辺りから既に理解が出来なかったので全く言われた事を覚えていない
「ホラどうした?こんな簡単な問題すら解んないのか?」
「………え、えーと………1番だな」
エコは下を向いて肩を震わせて笑うのを我慢しているようだった。
さすがのタイガも腹が立ってきた。
「わ、わかったぞ!お前デタラメ言ったな?初めから答えなんてねーんだろ!!」
「H=6.62606876×10^-34J・Sだ。バーカ」
「へへーん!ホラな!!いいか?式ってのは1+1は2みたいにきっちり数字だけが答えになるんだよ。
JとかSとか×とか数字じゃないのがつくわけねーじゃん!お前こそバーカ!!」
タイガのしてやったり顔を哀れむような顔で見ていたエコは黙って歩き出した。
「あっ、コラ!逃げる気か!オレに負けたのが悔しいんだろ~!やーい!」
「フ。この俺様は馬鹿じゃない。第一そうやって俺を怒らせて協力させる作戦なんだろ?」
「じゃぁ、証明してみろよ馬鹿じゃねーって。見事解決したらオレはお前に土下座してやるよ」
「土下座ねぇ………」
エコは爪を磨きながらニヤリと再びあの嫌な笑いをタイガに見せた。
「どうせなら俺にお前を八つ裂きにさせるってのはどうだ? 最近、血を見てないんだ……」
「あーいいぜ?」
「じゃ解った。協力してやろう」
「ただし、今日中に解決したらだぞ」
「あぁ、いいぜ?この俺の知能があればあと1時間あれば十分だ」
「それじゃ、しょーだんせーりつだな!!」
タイガもエコほどではないものの悪者らしい笑みを返した。
「あれ?タイガにエコ。どうしたの?」
刑事の世界に現場100辺と言う言葉があるが、いっぺんでこんなに驚いたのは初めてだ。
ロビーに入ったタイガとエコの前にはレッドが立っているのだ。
本物のレッドは今タイガと交代している訳だからこれは明らかに偽者である。
他の隊員も状況を理解しているらしくレッドを思い切り疑いの目で見つめている。
「なんかみんな僕のこと睨んでるんだよねーどうしたんだろ~?」
えへへ~と照れくさそうに頬をかくレッドだが全く和まない。
「………オイ、お前……レッドかぁ?」
「そうだよ?変な事聞くねぇ」
「………………………………………エコ」
エコは偽レッドの首元を掴むとジャキンと鋭い爪を顔に向けた。
「オイ、もうバレてんだよ。オレ様に心行くまで八つ裂きにされたいなら正体を現さなくてもいいが」
「な、なんだよも~!冗談はや、やめてよねー!」
「おぉ、そうかそうか。じゃぁ、八つ裂きにしてやるぜ!」
「!?」
レッドはバッとすばやい動きでエコの爪から逃れるとあっという間に逃げ出した。
「ハッ!に、逃げたぞ!!オイ!」
「気づくのがおせーよ馬鹿。だが………大体ヤツの詳細は解ったし……よしとするか」
「な、なんだ?どうなんだ?」
エコは『全然解らないのかよこの馬鹿が』とでも言いたそうな顔でタイガを一瞥した。
「さっきのレッドの帽子の被り方が通常の被り方とは違っていただろう。
あれほど何もかも完璧に偽者としてなりきっているのにいくらなんでも大きなミスだ。
と言うことはつまりだな。ヤツは間違ったレッドの帽子の被り方を参考にしていると考えた方がいい
もっとレッドを調べる機会があるはずなのに何故間違った被り方を参考にしているか?
答えは簡単だ。そのレッドしか見たこと無いか、そのレッドを参考にする事しかできないってことだ。
つまり、レッドが間違った帽子の被り方をしていた時、傍に奴がいたことになる」
タイガの頭上には「?」がいっぱい浮かんでいる。
タイガは1分以上喋られると混乱してくる低脳の持ち主だから仕方が無い。
エコはイライラしながら舌打ちをしていた。
「ったく……要はレッドが違った帽子の被り方をしていたときが解れば犯人を見つけやすいわけだ」
「にゃ……お、おぉ。なるほどな!」
「……とりあえずレッドに話を聞きた方が早そうだ。オイ、戻れ」
「あ、あぁ………わかった」
早速レッドに戻ったタイガにエコは詰め寄る。
「あ、あれ?僕は……」
「そんな事はどうでもいい」
エコはレッドの帽子をさっきの偽者がつけていたように被らせようとした。
突然の事に慌てるレッドを脅しながらなんとか無理やり被らせられた。
「……あ、あのぉ……ぼ、ぼぼ……ぼかぁ一体どうなるんでしょうか……?」
「この帽子の被り方に覚えがないか?いつもこんな被り方をしてないだろ?」
「え、えぇと……えぇと……」
悩むレッドにイライラしたのかエコは爪をレッドへと向けて光を反射させた。
「脳みそ引きずり出してでも思い出させてやろうか?あぁん?」
「ひぇっ!ちょ、ちょっとま、待ってくださいな!えーとえーと………あ!」
「思い出したか?」
「えーと確か。この前ニャンニャンランドに行った時に帽子変なまま遊びに行ったかな……?」
「で?園内ではずっとそのままだったのか?」
「うーんと……ミラーハウスを出たときに気づいて直したからそこまでだよ」
エコはその言葉にピンと来た。
「そのミラーハウスは全員で入ったのか?」
「ううん。人気無いみたいで僕ら以外に誰もいなかったよ」
OFFレン隊員以外の偽者が出たという話は聞いていない。
となればそのミラーハウスの怪しさ大爆発。原子爆弾級である。
「わかった……もういい」
エコはレッドの帽子を取り上げるとグッと顔面にたたきつけた。
しばらくすれば顔をおさえながらよろよろとタイガが立ち上がる。
「帽子下げろよぉ……すごくいてぇじゃんかよぉ~……」
「そんなことはどうでもいい。さっさとニャンニャンランドへ行くぞ」
「あ~?オレ様に命令するなよなっ!!!」
タイガの首筋にエコの爪が伸びる
「………この俺様にオレ様に命令するなと命令するな」
タイガは首を思い切り縦に振った。
ニャンニャンランドの中央には園内を360℃見渡せるニャンニャンタワーが立っている。
そのタワーの中には様々なおみやげショップやレストラン。
果てはイベント用スタジアムがあり、その最上階には広い社長室があった。
『フッ……愚かな奴らだ。楽しんだ分だけ後で痛い目に会えばいい……』
社長室のガラス張りの窓から社長は見下ろしていた。
スタッフの誰にも姿を見せない社長であったが唯一例外が存在している。
いつも決まって午後2時にその例外の人物はドアをノックする。
「………本日の売り上げは?」
「ハイ、昨日の倍って感じです」
「そうかそうか……さすがは娯楽施設だな」
社長はその人物に視線を向けず黙って外を見ていた。
「あの、何故いつも園内の入場者たちをご覧になっているのですか?」
「………………貴様には関係のないことだ」
「し、失礼いたしました」
例外の人物はそのまま部屋を出る。
今、社長の視線の先にはアトラクションを楽しんでいる親子が映っていた。
「……………くだらん」
「ふぃー。やっとここに来れたぜー♪何乗ろうかにゃ~♪」
「オイ、ここに来た目的を忘れたのか馬鹿猫」
「うっせぇな!!それにオレはネコじゃねぇー!!」
タイガとエコはようやくニャンニャンランドに入ったが相変わらず仲が悪い。
「とにかくミラーハウスへ向うか。オイ、急がないと殺すぞ」
「わーったよ……クソ。遊園地楽しみたかったのに……」
園内マップが無いと言う不親切なこの遊園地の中でミラーハウスを探して二人はさ迷っていた。
1周してもミラーハウスは見つからず2周、3周しても見つからなかった。
「どうなってるんだ?なくなっちゃったのか?」
「………やはりな。ミラーハウスの目的はOFFレンの偽者を作る為の物でしかなかったと言う事か」
「じゃぁ、もういいんじゃねーの?ソフトクリームでも食べて帰ろうぜ」
エコはグッとタイガの首を片手で掴んで顔を押し付けた。
「それはつまりお前の負けを認めるということか?八つ裂きの許可を出すという事か?
いっとくが、俺は手加減しないぜ?破片が一cm以上残らないくらい刻んでやるからな……?」
「わわわわ……わかったよ!えーとえーと!!つまり、ここの社長が怪しいんじゃねーか?
ホラ、ミラーハウスなくすなんて、社長じゃなきゃ出来ねぇだろうしさ!」
エコはタイガの首を一瞬絞めてタイガの苦しそうな顔を見てから投げ飛ばした。
「フン。そんなこと貴様に言われなくても俺の優秀な頭脳を使うまでもなくとっくに解ってる」
「イテテ……はいはい。そーかそーか」
「よし、じゃぁ………社長室へ行くぞ。先に着いたほうが勝ちだ」
「あ、あぁ……じゃぁ、いくぞ?よーい!!」
と、タイガとエコの両方が走る姿勢になった瞬間。エコが急にぽかんとして、タイガを見た。
「ありゃ?タイガ先輩?どうしたんですかこんなトコで」
「(なんか調子狂うな……)戻ったのか?じゃぁ、と、とにかく付いて来い!!」
「は、はいっ!」
急いで大きなタワーの中へ入ると人の山。
エスカレーターもエレベーターも人ばかりいや、もう人そのものだ。
周りにはカキ氷だのポップコーンだのを売っている店。そしてそれに並ぶ大勢の客。
エコは始めてくるのかキョロキョロ見回してニコニコしている。
「ねー。タイガ先輩?ソフトクリームでも食べてきましょうよ♪」
「いまそれどころじゃねーんだよ。急がないと……」
「急がないと?どうしたんです?」
そのとき、タイガは悪エコが今いない事に気がついた。
となれば悪エコと競争する必要は無い。後でゆっくり行けばいい。
「………よ、よし!じゃぁエコ!ソフトクリーム4つ買って来い」
「えぇっ、オレ2つも食べていいんですか!」
「馬鹿!オレが3つ食うんだよ♪金はお前に払わせてやるからな」
「ふぇっ」
エコがとっとこソフトクリームの行列に並んで行き、タイガは中央に並べられた大きな円形のベンチに座る。
ベンチに囲まれたところからは何だか良くわからない大きなオブジェが吹き抜けの天井へと向って建っている。
「(………あーあ。つまんねーの。女の子の一人でもいねーかなぁ~?」
エコはまだ列の真ん中くらいに並んでいる。もう少しかかりそうだ。
と、視線を横に移動させると可愛い感じの女の子が携帯を手にメールを打っている姿が見えた。
タイガは虎特有の気配を感じさせない動きでそろそろ女の子に近づいていく。
「カーノジョ♪オレとソフトクリーム食べようよ♪」
「あぁん?何………………(ヤダ、結構いい感じじゃん!)」
不機嫌そうだった女の子はタイガを見るなりパァァッと明るくなる
「い、いいよ!ねぇ、名前なんて言うの?」
「オレ?タイガって言うんだ」
「へぇ、名前もカッコイイんだね。私、真菜って言うの♪」
「マナちゃんね♪ねぇねぇ、ちょっと聞いてもいいかな?」
「何々?」
「H好き?ねぇ、これから時間あったらオレとホテル行かない?オレビデオ見て色々知ってるよ♪」
急に女の子の顔が凍りつく。いわゆるドン引き状態である。
「胸は何カップなの?SMとか興味ないよね?オレ痛いのも痛めるのも嫌いなんだよな!
あと~、Hの経験はある?オレ一度もないんだけどさ。知識はあるから任せるならオレがんばるよ♪」
「ご、ごめんなさい……私ちょっと用事思い出したから帰る……」
「え?ホント?じゃぁ、携帯の番号教えてよ。今度空いてる時にかけるから」
「あっ、私携帯持ってないの……じゃぁね」
「え、でもそれ携帯じゃね?」
「こ、これ携帯型ホチキスなの。ウフフ……じゃぁね。永遠にさよなら」
最後の部分だけ妙にドスを聞かせて呟くと女の子はスタスタ帰っていった。
タイガは心底残念そうにガックリと肩を落とした瞬間、エコがソフトクリームを持って帰ってきた。
「タイガ先輩!買って来ましたぁ~♪」
「このバカ!お前のせいで女の子逃げちゃったじゃねーか!!」
「えぇっ!お、オレ何かやっちゃいました?」
「完璧なオレがナンパに失敗するわけないだろっ!原因はお前しかないっ!」
ガツンとタイガはエコの頭を殴った。エコの硬い頭はタイガにはちょっと痛かった。
「ったく!!今度オレの邪魔したら許さねーからな!」
「は、ハイ。ご、ごめんなさい。でも、先輩に殴られてオレ嬉しいです♪立派な悪者になりますね!」
「……クソ。あーそこそこ可愛かったのに……惜しい事をしたぜ」
不機嫌全開なタイガだがソフトクリームをペロっと一舐めすると口いっぱいに広がる甘味が、
あっという間にタイガを幸福感で満ちさせた。
「ウマイ!」
「ホントですね~」
タイガは1つ食べ終え、2つ目を食べ終え、とうとう3つ目までペロリと平らげてしまった。
だが、予想している方々もいるだろうがもちろんタイガの胃に収まった3つの冷たい物は、
タイガの胃を中心に激痛で満ちさせるには十分であった。そう、お腹を壊したのだ。
「っつ!?」
「どうしたんですか?タイガ先輩」
「お腹……痛い……」
タイガの目は涙目になっていた。心なしか子供みたいな声で痛いよぉと呟いていた。
普段強がっていてもこういう時に思い切り弱さが出てしまうのが欠点だ。
「と、トイレ行きましょう!先輩の名誉の為にも……オレは!オレはっ!」
「い、いいからはやくしろよ……!!」
「あ、す、すいません!じゃぁ、タイガ先輩!しっかりガマンしてくださいね」
エコはタイガの手を掴むとエスカレーターへと走っていった。
エコは人の波を書き分けてぐいぐい昇っていくがタイガにもその人ごみから受ける衝撃が凄まじかった。
意図しているのかしてないのかみんなタイガの腹部にバックやら手やらを当てていくのだ。
「(耐えろオレ……耐えるんだ……強い虎はこ、こんな所で漏らしたりなんか……!!)」
しかし、タイガの涙の出るような健闘振りも空しくトイレはほとんどいっぱい。
エコは次のトイレを探して走り出す。だが、次の階のトイレもいっぱい……とそれを繰り返していた。
どれだけ階段を昇ったのか解らない。既にエコはトイレよりも列のない場所を探してさ迷っていた。
「あっ!タイガ先輩!ここ空いてるみたいですよ!」
歯を食いしばりながらタイガはヨロヨロと扉を開けて中へと入っていく。
すると、タイガの目の前には真っ黒いシルエットが見えた。
「社長室へようこそ……思ったより早く感づいたようだな」
目が慣れてくるとそのシルエットの人物は紺色の毛並。奇抜な模様。マント。
新生ブラックキャット団首領、ウィックその人であった。
「OFFレンジャーをおびき寄せるつもりが……どうやら見当違いだったようだな」
ヨロヨロとタイガは部屋を歩いてみて回るが立派な絨毯が延々と続くように思えるほど何もない。
「あ?と、トイレは……?便座はどこだ!?」
「何を馬鹿げた事を言っている……」
「お、オレは今、腹がとってもヤバイ状態……なんだぁ……」
「………その手は食わんぞ……オレはそんな手には引っかからない」
そのシルエットが誰かを目に入らずタイガはとりあえずそれっぽい社長椅子によじ登ってみる。
「あ、馬鹿!!何をやっている!それは高かったんだぞ」
「…………っ………」
急にタイガの顔が無表情になる。
「貴様!何をやっている!!」
ウィックは思い切りタイガを突き飛ばして椅子を見る。どうやらセーフのようだ。
タイガは突き飛ばされた衝撃のおかげかフッと急に楽になった。
「お?痛くない!にゃはー♪やっぱオレって凄いなぁ~♪……ってあれ?ここ何処だ?」
しかし、ウィックの方は完全に堪忍袋の緒が切れた状態になっていた。
「……貴様。もう許さんぞ……」
パチンとウィックが指で鳴らした音と共にシュタッと何者かがタイガの前に現れた。
大きなゴーグルにカメラのレンズのような物をつけたような顔のそいつは聞いてもいないのに名乗った。
「オレは新改造猫四人衆の一人、写猫だ!」
「あー?うつしねこだぁ?なんか見た感じムカつくヤツだなぁ……」
写猫がベルトのバックルと押すとパシャっとシャッター音が部屋に響いた。
すると写猫の姿がタイガのそれへと変化していく。
「おぉっ!?鏡か?………やっぱオレってカッコいいぜ♪」
「ば、馬鹿!違う!オレは誰かの姿を撮影するといつでもそいつになることが……」
「何!?じゃぁ、OFFレンの偽者ってお前だったのか!」
「今頃気づいたのか?なんか張り切って出てきて損したって感じ~……」
写猫はダルそうにその場に座り込んでしまった。タイガもしゃがんで写猫の前に寄って行った。
「オイ、まさかホワイトちゃんの胸をこう……触らせたのもお前なのか?」
「まぁ、あれもオレだよ……」
「じゃ、じゃぁさ……他の女の子にも慣れるのか?」
「ん~……まぁ一応」
「た、頼む!女子隊員になってくれよー!オレ、オレ……も、もっと触りたい……♪」
馬鹿そうな笑い方をするタイガをみて写猫もウィックもあきれてしまった。
「(何だ?このスケベ……こんなヤツと戦うの?オレ。なんかもう帰りたいって感じ……)」
「なぁなぁ!金ならやるからさぁ♪頼むって♪」
「……お断りって感じ~。オレは改造猫。お前は一応正義の味方。OK?」
この言葉にタイガはムッとして写猫をガツンと殴った。今度は痛くない。
「このオレ様がこんなに頼んでやってるのに!!テメェ~!!」
「な、何?やる?」
写猫はポチッとベルトのバックルを捻るとその姿はピンクの物へと変化する。
「にゃ!?」
「さぁ、だ~いすきな女の子と勝負できるかな?できるならかかってこいって感じ~」
「うぬぬ…………」
「さぁさぁ?どうしたどうした?」
タイガはピンクの姿の写猫がだんだん本物のように思えてきた。
すると挑発するポーズがなんだかタイガを誘っているように見えてくる。
「にゃ……にゃぁ……ぁ……」
だんだん現実と虚構の境目がわからなくなってくる。
タイガは既にピンクがこちらを見て微笑み、「早く~タイガくん♪」と言うイメージばかりが目の前に広がる。
「ぴ、ピンクちゃんっ!!」
タイガは写猫に飛びつきぎゅぅぅと抱きしめる。
「馬鹿馬鹿!!オレオレ!写猫だって!も~!気持ち悪いっ!!」
「ピンクちゃん♪ピンクちゃん♪」
「ひぇぇっ!」
「何をやっているのだ!さっさと始末しろ!」
見かねたウィックが写猫からタイガを離そうとする。が、
「オレたちの邪魔すんじゃねぇぇぇぇーーー!!!!!」
ウィックに思い切り蹴りを入れる。
とっさの事にウィックはその蹴りをもろに受け吹っ飛んでしまう。
「さ、さぁピンクちゃん♪もうこれで二人だよねー♪」
「あわわわ!!」

急いで写猫は変身を解く。すると目の据わっているタイガはキッと写猫を睨む。
「またでやがったなぁ……邪魔をするんじゃねーーーーっ!!!!」
タイガはおもいきり写猫を投げ飛ばす。写猫の体はガラス張りの窓を突き破り真っ逆さまに落ちていった。
そして、ウィックは写猫がやられたのに気づきよろよろと立ち上がった。
「……覚えていろ。次こそ必ず……」
ウィックが消えるとタイガはハッとに返った。
「あれ?オレは一体何を……まぁ、いっか♪」
と、タイガが一歩踏み出したときだった。それは津波のようにやってきた。
その津波は砂浜を覆いつくし、そして町も、山も人も飲み込んでいった。
タイガは何をするでもなくただ、呆然と立ち尽くしてしまった。
その地獄絵図が繰り広げられている部屋の外でエコは一人佇んでいた。
「……………タイガ先輩トイレ長いなぁ」