第65話

『ぽんぽこ寺でお月見を』

(挿絵:パープル隊員)

9月。それは9の月。8じゃなくて9だから9月なのであって、8だったら8月だ。
だから9月は9月であって8月は8月なのだこれ以上でもこれ以下でもない。それが9月だ。


「うーさぎうさぎ♪なにみてはねる♪じゅうごやおーつきさまみてはーねーるー♪」


そんな9の月にOFFレンではお月見をしようと言う企画がレッドから提案された。
イベント大好き隊長が帰ってきたのであまりここ数年間イベントのほとんどはスルーしてきていた。
しかも、みんなでお月見をするのは今回が初めて。地味だが日本の古きよき行事を行うのは良い事だ。
というわけで、朝から隊員たちはその準備をしていた。
お月見はまだ先だが今回は練習もかねての準備なのである。

「シェンナ。お団子食べちゃダメよ?」
「わかってるですー。でもダメって言われる前に3つ食べたからセーフですー」
「あぁもう!もっと早く言っておきべきだったわね……ま、いっか」

お月見と言うとお団子とすすきさえあれば良いという超お手軽(?)のイベントである。
ただ月を見てその団子を食うだけだがこの行事には情緒があるのだ。



………と言うのは表向きの理由であり、本当の理由は別のところにあった。
最近、尾布市ではノラだぬきが横行しており、盗み、恐喝、たぬきそばの買占め等
ここ最近で様々な被害にあっているのである。オマケに化けられるので始末にも困っている。

「そこで、今度の不祥事誤魔化し込みで尾布警察署としては再びあなた方に協力をお願いしたいのです!!」

とうとう根を上げてしまった警察署はOFFレンに協力要請を頼んできた。
なんでも署長の息子が女になって帰ってきたらしく、ショックで自殺未遂をしたという事だ。

「解決していただけますと市民の税金で賄賂を差し上げますよ!」
「わかりました。任せてください!」

と言うわけでトントンと話が決まりお月見まであと数日を残す日となった。
諸君らは何故ノラだぬき事件の解決とお月見が関係あるのだろうかと突っ込んでしまった方もいるだろう。
それはズバリ隊長の「たぬきは月夜の晩にお腹を鳴らすんだよね」という思い込みの為である。
つまり、お月見をやってたぬきをおびき出そうという作戦なのである。

「隊長。一応お団子完成しました」
「関心関心!僕の分もちゃんと作っといてよね!」
「……ハイハイ」
「じゃーあとはススキがいるよね。じゃぁ、オレンジとグレー行ってらっしゃい!」

しかし、あたりにはオレンジとグレーの姿は見えない。

「隊長。今日はオレンジは部活、グレーは家族らとバーベキューだそうです」
「そっかぁ。せっかくの出番だったのに……。じゃぁ、グリーン一緒に行こうか?」

だが、そこにはグリーンの姿もない。クリームはため息をつくと冷静に言った。

「隊長。今日の本部には私とシェンナと隊長しかいません」
「ぇぁ!?それってOFFレンジャーとしてどうなの?」
「だいいち2学期という時期に昨日突然無理やりねじ込んだイベントに3人いるだけでも奇跡ですよ」
「そ、そっか……まぁ、お団子とススキさえあればいいわけだし……いいよね。じゃぁ、3人でススキ取りに行こうよ。ね?」

レッドがクリームの手を持って目をキラキラさせる。おねだりの目だ。
もちろんクリームは年下だといえ隊長であるレッドの言う事はなるべく聞かなければならない。
渋々承諾する事にした。シェンナは言わなくても付いてくるだろう。









「……で?どこで取るんですか?ススキなんて」

人気のない路地を歩きながらクリームはたずねた。

「この前ぶらぶら歩いてて見つけたんだけどね♪古いお寺だよ」
「お寺ですか……?」
「お寺って言っても誰もいない廃墟みたいなもんだけどね」
「幽霊とかでそうですー!出たら写真とってムーに送るですー!」

3人は本当に大阪なのかも怪しくなる寂れた道を歩いていた。
だんだん生き物ではなく獣の気配が強くなっていき、荒地も所々見える。
坂道に入りますますアスファルトがなくなっていくと坂の上に古い門らしきものが見えてきた。

「あ、みっけみっけ♪ここだよここー」

門の前にやってくるとススキだらけ。
自分の首までが埋まってしまうほど良く伸びたススキが生えて向こう側がなかなか見えない。

「いかにも何か出そうな感じですね……」
「なんだか迷路みたいですー!」

一人はしゃいでいるシェンナは我先にとわしゃわしゃとススキの森へと突っ込んでいった。

「あ、コラ!待ちなさいっ!」
「いやはや。元気だねー」

慌ててクリームらがシェンナの後を追う。
だが、ガサガサとススキがあちこちのススキとかすれあい全くどこにいるのか解らなくなっていた。

「もー!!シェンナー!!いい加減にしないと怒るわよ!!」

クリームが叱ると近くからガサガサと音が聞こてシェンナが出てきた。

「ご、ごめんなさいー………」

しゅんとしたシェンナを見てクリームも安心したのかそれ以上叱る事はしなかった。

「さ、さぁ。3人揃った事だしススキとって早く帰ろうよ」
「そうですね……」

とりあえず傍にあったススキを10本程度、鎌で切り3人は出口へと向った。所要時間2分。
シェンナと行方不明未遂事件を覗けばなんともあっさりしたお出かけだった。

「じゃ、後はススキを飾って夜を待つだけだねー」
「他の隊員がやってきているかもしれませんよ。暗くなる前に早く帰りましょう」

坂を下りていく3人の目の前には赤い夕日で真っ赤になっている空が見えた。
白い月もうっすら空に見えて、レッドはタヌキのことを忘れてお月見が待ち遠しくなっていた。










「……あれー?クリームとレッドいないですー……帰っちゃったんでしょうかねー?」

草むらの中で歩き回っていたシェンナがいい加減クリームとレッドがやってこないのに気づいて探し始めていた。
どれくらい歩いたか解らない頃、シェンナは草の向こうに小さな明かりが見えた。
まっすぐその方向へ進んでいくとぽっかり草むらの中に大きな広場があった。
広場の周りはやはり草むらに囲まれていて中央にたき火がされておりそのたき火を囲む黒い影。

「……だ、誰かいるんですかー?」

黒い影たちがパッとシェンナのほうを見る。
なんだかぼてぼてしたその影はシェンナをじっと見ている。

「誰だポン!」
「あ、あのー……シェンナ怪しい物じゃないですよー」
「そう言う奴に限って怪しいポン」
「そうだそうだ!」

ぞろぞろとその黒い影はシェンナの元へと近づいてくる。
次第にその姿はシェンナにはっきり見えてきた。

「あーたぬきさんですー」

その影はたくさんのタヌキだった。たぬきは全員シェンナを睨んでいる。

「……俺たちの隠れ家を見たれた以上ただで返すわけにはいかないポン。なーお前ら?」
「そーだそーだ!」
「警察に通報するつもりなんだポンー!」
「タヌキ以外信用できるわけないポン!」

たぬきたちはぞろぞろとシェンナの周りを取り囲み始めた。
するとタヌキたちはポンポコお腹を叩きながらシェンナの周りを回りだした。

「ポンポコポンポンポンポコポン………ポコポコポンポンポコポンポン……」

ぐるぐるぐるぐるシェンナの周りを回るタヌキたちは次第にブツブツと何かを呟きだす。

「お前は仲間だポン……お前もタヌキだポン……お前はタヌキなんだポン」

タヌキの腹太鼓の軽快なリズムに乗ったタヌキたちの声は特殊な催眠効果があるのか、シェンナはだんだん瞼が重くなり始めた。

「シェンナは……タヌキですー……」

そのままシェンナはその場に倒れてしまった。
すると草むらの中からもう一人のシェンナが広場へと駆け込んできた。

「あれ?2人いるポン!」
「待て!コイツはポンポンだポン」

煙と共にシェンナの姿に化けていたタヌキは大きな風呂敷包みを持っていた。

「親分!コイツに化けてコイツの連れと一緒に家へ行って金目の物盗んできましたポン!」
「よし!よくやったポン。こっちもちょうど一人捕まえて仲間に加えてやったところだポン。
ポンポン!コイツの教育係はお前に任せるポン。立派なタヌキーずの一員にしてやるポン!」

ポンポンと言う名のタヌキは、ははー!とリーダータヌキに頭を下げると、
シェンナを抱えて草むらの中へと消えていった。















「アガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!!!!」

レッドはその光景に頭を抱えながら痙攣してしまうほどの衝撃を受けた。
ロビーに入れば綺麗な空間。自分の部屋に入ると自分が寝ていたベッドのシーツ一枚。
さらに、ドアの蝶番までもがなくなっているというショッキングな光景なのだ。

「ぼぼぼぼぼぼ!!!僕ののののののの!!!ここここ、コレクションがががががが!!!」

レッド隊長コレクショングッズの棚がすっからかん。いや、棚すらない。
苦労して手に入れた思い出の数々がレッド隊長の脳裏に走馬灯のように見えていく。
そんな隊長を本日唯一来ているクリームが慰めるが隊長の取り乱しようは半端ではない。

「あがががが……ヤフオクで落札したばかりのワープスロットル(未使用)がぁぁ!」
「隊長!しっかりしてください」
「……あああ!昨日届いたばかりの『電子ギャバン』まで無い!!シャリバンとシャイダーあるから、
これでやっと3人全部揃ったと思ってたのに!!まだ包みあけてなかったのに!あがががが……!」
「隊長、犯人を探しましょう。こんな多くの荷物を盗ったまままだ遠くへ行ってませんよ」
「は、箱を傷められてたらどうしよう!も、もし部品がなくなってたらっ!……」
「隊長!気を確かに持ってください!」
「あがががががが………ががっ!……………ぷしゅー」

隊長は急にバタっとクリームの腕の中で気絶してしまった。
クリームはとりあえず唯一残っているシーツをかぶせて床に寝かせる。

「(………夜中は頑丈に鍵をかけているはずなのに何故……)」

クリームはシェンナが朝からいない事に気がついた。
物がなくなっていてシェンナがいない。これは何か関係があると考える事ができる。
だが、シェンナがOFFレンの物を盗む動機が見つからない。

「……あっ!クリーム!どうしたんですか?本部中の物が盗まれてますよ!」

ドタドタとグリーンがレッドの部屋へと駆け込んでくる。
ようやくあの3人以外の隊員が着てくれたとこの状況はともかく安堵した。

「それが……夜中の内に盗られてしまったらしくて……シェンナが怪しいんですけど」
「シェンナがですか?そ、それはちょっとイメージできないような……」
「でも……シェンナに連絡が取れなくて……何か関係があるとしか……」

シェンナを心配する気持ちと困惑する気持ちが交じり合ったクリームは暗い顔で俯く。

「とりあえず、当分は様子見と言うことにしましょう。オオカミ軍団とかBC団の可能性もありますし」

レッドがダメになっている今、再び主導権を握れそうな勢いのグリーンの顔は興奮していた。
元隊長だけあって今後の行動もパッパと出てくるのはさすがだ。

そしてその頃オオカミ軍団は……。

「はぁ~……秋はやっぱり栗ご飯だよねぇ……」

エコが一生懸命拾ってきたたくさんの栗のおかげでその日のオオカミ軍団の夕飯は栗ご飯。
栗をこんなにたくさんエコが手に入れるまでの話はまた別の機会にさせていただこう。

「オイ、お前ら。今日こんなに美味い栗ご飯が食べられるのはエコのおかげだぞ?」
「偉いなエコ。大変だっただろ?」
「凄いな!俺はさすがにあの場所へ行く気はしないよ」

オオカミ、特にボスからの褒め言葉にエコも思わず照れてしまう。

「えへへー……すっごく痛かったけど、オレ栗ご飯好きだからその甲斐があったよ♪」

エコの手は包帯でぐるぐる巻き。悪エコのせいでもあるが……でも美味しいから良いのだ。
オオカミも喜んでいるし。エコの株価はぐんぐん上昇中。エベレストを越えてしまいそうだ。

「おかわりー」
「俺もおかわりくれー」
「俺も俺も」

食堂にオオカミたちのおかわりコールが響く。
彼らが高々と上げた茶碗はまるで幸福を祝う杯のようだ。

「よしよし。今日はいっぱい炊いたからな。全員3杯は食えるぞ!」

おかわり係のオオカミたちが巨大な釜を開けた。
だがそこにあるはずの白いご飯も均一に置かれた宝石のような栗も、ほかほかの湯気もなかった。
1つめ、2つめ、3つめ……3つある巨大釜の全てが米粒一つ残さず空っぽだ。

「あ、あれ?まだいっぱいあったよな?」
「釜1つで全員だったはずだからな……ないわけがない」
「つーことは……?誰かこっそり食ったのか?」
「いくらなんでもこんな巨大仲間の中の飯を俺たちに気づかずに食えるわけないだろ…」

おかわり係のオオカミがボソボソと喋っていると外野からブーイングが飛び出し始める。

「早くしろよ!俺たちは腹減ってるんだ!」
「そうだそうだ!」

だが、何処を探してもたくさんの栗ご飯は見つからない。
仕方ないのでオオカミに説明するしかなかった。

「……悪いなみんな。何故だかしらんが栗ご飯がなくなっている」
「えーーー!!!なんでー!!!オレいっぱいとってきたんだよ?」

オオカミたちが一斉に不満をぶちまける。係りのオオカミは耐えるしかない。

「おふくろの味だったんだがなー……」

ボスも心底残念そうだ。
愚痴をこぼすオオカミたちの中からは次第に犯人探しが始まり、「お前だ」「いや違う」などと、あちこちで口論が繰り返されていた。

「待て、もしかしたらこれはOFFレンの仕業じゃないか?」
「そうだ!俺たちを栗ご飯中毒にして栗を高く売りつけて設けて栗御殿を作る気だ」
「なんて卑怯なヤツラなんだ。正々堂々と戦う特撮ヒーローを見習えよ!」
「そうだそうだ!OFFレンをやっちまえー!!」

賛同するオオカミはどんどん広がりを見せ全員がOFFレン本部へと向い始めた頃、ブラックキャット団はと言うと……。

「猫猫、写猫よ……例の計画はどうなっている……」
「は、ハイ……なんとか進行できていますニャ」
「灰色猫もフル稼働で働いているって感じで、来年までには完成しますって感じです」

既にOFFレンに敗れた二匹の改造猫はすっかり雑用係並みの地位に降格されてしまって<いた。
だが、自爆を命じられないところにこの組織の人材不足が伺える。

「……来年まででは遅い。来月までには完成させろ……」
「ニャ、ニャーッ!?そんなの無茶ですニャ!」
「ただでさえ人材不足って感じなのにそんなことしたらみんな廃猫になるって感じですよ!」
「……人材を集めてくるのが貴様らの仕事ではないのか……」

ギロッと二人を睨むウィックの目。洗脳された二人にはそれは絶対のサインであるとすぐ解った。

「で、ですがウィック様。それなりに資金が必要です。せめて少しだけでもいいのでいただければ……」
「………いくら欲しい」
「え、えーと……」

写猫は手をパーに、つまり「5」を表した。だが、ウィックの目はますます鋭くなる。

「で、ではー……」

次に、「3」を表してみる。多少穏やかにはなったがまだ睨んでいる。

「あ、あー……そのー……」

ウィックは「1」を表したその手に納得行ったのか通常の目に戻ってくれた。

「よろしいですか?」
「いいだろう……1円ぐらいならやらん事は無い」
「ニャ!?う、ウィック様!1円だとあまりにも少なすぎますニャ!せめて100万ほど……」

猫猫がそこまで言いかけるとウィックは明らかに怒っている目で猫猫を見ていた。
バックには灼熱の炎が見えるほどその目は怒りを実に端的に表していた。

「……俺は自分が確実に得する以外で他人に金をやるのが大嫌いなのを知っているな?……猫猫よ」
「は、は、ハイッ!ですニャ!」
「その俺が貴様たちに確実な利益を見込めなくとも金をやろうというのに文句があるというのか……?」
「い、いえっ!あ、ありがたく受け取らせていただきますニャ!!」
「………解ればいい。確実に俺に得するように努力しろ……いいな?猫猫、写猫」

ウィックは傍にある巨大金庫の元へと歩いていった。
大切なこの金庫は以前のBC団跡地から持ってきた非常に思い入れのある金庫だ。
いつも灰色猫に磨かせてはその側面に写る自分の姿に優越感を感じては楽しんでいた。
しかし、その金庫はウィックが触ったまでも無く扉が開いていた。

「!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」

見張らせていた灰色猫2名はおらず、されており中身はすっからかんだ。
ウィックは焦ってあたりを調べてみるも札束の1つどころか一円すら落ちていなかった。

「ど、どういうことだ……クソッ……誰が俺の金を持っていったのだ……」
「う、ウィック様。お、お金は結構って感じですの……で……えーと」
「猫猫!写猫!貴様らは犯人を見てないのか!」
「あ、いえ、見てませんニャ……」

ウィックはますます怒り狂っていた。後ろの炎は業火と化している。

「犯人を捜せ!早く探すのだ!!そして殺せ!俺の金を盗んだやつを抹殺しろ!!」
「ウィック様、落ち着いてくださいニャ!」
「殺せ!殺せーーー!!!」

ウィックはすっかり金を取られたことに取り乱してしまっている。
金を集める事自体がウィックの生きがいでもあったわけだからそのショックは想像の仕様が無い。
このままだとウィックは何をするかわからない。早速、隣の灰色猫がバラバラにされてしまった。
思わず床に手を突いて息切れしてしまうほど怒っている。

「ハァ……ハァ……誰だ……誰の仕業だ……」
「お言葉ですがう、ウィック様……OFFレンジャーからの宣戦布告って感じじゃないでしょうか?」
「……OFFレンだと?」
「た、多分……って感じですけど」

ウィックは黙って立ち上がるとどこかへと歩いていった。
残された二匹は黙ってその後姿を見ているしかなかった。






薄暗い草むらの中でシェンナを運び終えたタヌキはゴリゴリと草を引き始めた。
何度も何度も引いていると茶色い汁になったのをタヌキは寝ているシェンナに飲ませた。

「タヌキ汁だポン。これでじきにお前も立派なタヌキになるポン」

するとシェンナの目の周りが黒くなりタヌキみたいな顔になった。

「………ん……」
「目覚めたポン?お前は今日からタヌキーずの一員だポン。名前は……そうポンねー……
ぐるぐる眼鏡かけてるからぐるポンにするポン!わかったポンね?」
「……わ、わかったポンですー」
「じゃぁ、こっちに来るポン!親分に挨拶しろポン!」

タヌキはシェンナの手を引っ張って草むらを蛇行してタヌキたちが宴会を開いている広場へやって来た。
広場では多くの戦利品らしき物がたくさん転がっており中央の炎の周りをタヌキたちが歌って踊っている。
タヌキの親分は炎から少しはなれたところでメスダヌキたちと酒を飲んで騒いでいた。

「親分!さっそくタヌキにしておきましたポン」
「おぉ、そうかそうか。これでまた賑やかになったな」
「ホラ、自己紹介するポン?」

タヌキがシェンナを小突くとシェンナは自己紹介しようとするが名前を思い出せない。

「えーとえーと……シ……シ……えーと……シ………」
「何やってるポン?お前はタヌキのぐるポンだポンよ?間違いは早く忘れるポン」
「わ、解ったですー。えーと。ぐるポンですー。親分よろしくですー」

親分は杯に並々と注がれた酒をグイッと飲み干すと結構結構と笑った。
そして、隣のメスダヌキに何かを持ってこさせる。
親分はそのメスダヌキが持ってきた小さなお椀をシェンナの前に突き出した

「じゃぁ、新しく仲間になったお祝いにお前にもこれをやるポン」

お椀にはこれまた並々注がれたお酒らしき液体。そしてその中に沈んでいる小さな葉っぱ

「これなんですかー?」
「これはタヌキ酒だポン。タヌキは必ず一生に一度だけ飲む特別な酒だポン」

親分は酒の中の葉っぱを取ってシェンナに見せた。

「これはタヌキしか知らない変化樹の葉っぱポン。これを漬けた酒を飲み、この葉を使えば変化できるんだポン。
お前もタヌキーずに入った以上、何かと変化のお世話になるポン。さぁ、飲むポン」

シェンナは恐る恐る器を受け取った。
傍にいるタヌキからも「飲むといいポン」と言われシェンナはそれをゴクゴクと飲み干した。
お酒と言ってもなんだか独特な甘みとか苦味で普通のお茶を飲んだような感覚だった。

「どうポンか?」
「……なんかお酒って感じしないですー。お茶みたいですポンー」
「そうかそうか。まぁ、子供の頃に飲むやつが大半だからポンな。さぁ、これを付けるポ
ン」

親分はさっきから手に持っていた葉っぱをシェンナの頭にチョンと乗せた。
すると葉っぱがピン!と垂直に立ってクルクル回りだした。一分ほど回るとピタッと止まった。
シェンナはその葉っぱを触ってみるが頭から取れない。

挿絵

「と、取れないですー!」
「タヌキの成人の証みたいなもんだポン。離れないポンが葉っぱだから重さも感じないポン。
じゃぁ、後は変化の訓練が必要ポンね……新入りは久々だからやることが多くて大変だポン」

すると、さっきからシェンナの隣にいたタヌキが親分ダヌキの前でドンと胸をたたいた。

「……親分、教育係の俺が変化の訓練をさせておくポン!」
「おぉ、ポンポン!さすがポンねー。じゃぁ、引き続きお前に任せるポン」
「お任せを!ポン」

ポンポンはシェンナを引き連れて広場から少し離れたトイレの個室程度の広さの場所へつれてきた。

「ここでタヌキーずのみんなが変化をマスターして行ったポン。お前もすぐできるようになるポン」
「楽しみですポンー!」
「じゃぁ、まずはお手本を見せるポン!何に化けて欲しいポン?」
「そうですねー……バナナがいいですポンー!」
「ば、バナナポンか?どうせならもっと凄いのにして欲しいポン」
「じゃぁ、バナナパフェがいいですポンー」
「………バナナでいいポンね?」

ポンポンは忍者のような浣腸のような人差し指を二本立て手を組んだ形を胸の前に持ってきた。
目を閉じ集中しているのか表情も真剣だ。しばらくすると頭の葉っぱがクルクルと周りだした。
するとクルッと体を後ろにそらし一回転すると共にポンッと煙があがり、地面にはバナナが落ちていた。

「わー所々黒いけどおいしそうですポンー」

バナナの表面には小さな目。それにも構わずシェンナはバナナの皮をむこうとする。

「いただきますですポンー」
「わっ、わっ!何するポンー!」

どろんとバナナは元のタヌキへと戻る。

「いくら俺の変化が美味いからって食べちゃダメだポン!わかったポンね?」
「はーい」
「じゃぁ、次はぐるポンがやってみるポン」
「よーし!がんばるですポンー!」

シェンナも手印を作り、目を閉た。だが葉っぱが何時までたっても回らない。

「できないですポンー」
「ちゃんと何に変化するか念じてるポンか?」
「あー。何も考えてなかったですポンー」
「ちゃんと念じるポン!自分がなりたい物をココロから念じるポン!」

シェンナは言われたとおりにちゃんと念じてみた。するとゆっくりだが葉っぱが回りだした。

「もっと集中して強く念じるポン!」

シェンナはギュッと目をつぶる。葉っぱもグルグル高速で回転しだした。

「今、ポン!グルっと後ろに回るポン!」

シェンナは地面をけって後ろに体を捻ったがただ後ろに倒れバタンと頭を地面に打ってしまった。

「だ、大丈夫ポン?」
「痛いですポンー……」

かなり強く打ったらしくシェンナの後頭部には、漫画みたいなたんこぶが出来ていた。
ポンポンはたんこぶをとりあえず撫で、痛がっているシェンナを落ち着かせていた。

「しっかりするポン。俺も始めはよくやったもんだポン。みんな必ずやることだポンよ」
「痛いですポンー……」
「困ったポンねー……ちょっと待ってろポン。薬草と氷を持ってきてやるポン!」

ポンポンが急いで草むらの中に飛び込む。
しばらくしてポンポンが戻ってくるとあきらかに多い薬草の束と氷の入った袋を持っていた。

「さぁ、そこで横になるポン。ここに薬草を巻いて氷で冷やすと良くなるポン」
「ありがとうですポンー。優しいですポンねー」
「……俺、兄弟とかいないポンから……父ちゃんも母ちゃんも俺が物心付いたときからいなかったポン。
俺が捨てられたのか父ちゃんたちが誰かに捕まったのか解らないポンが……。でも、ぐるポンは妹みたいだポンね」
「妹ですポンー?」
「俺、妹とか弟とか欲しかったポン。だから……ぐるポン……俺の事……」

ポンポンはもじもじして顔が赤くなっていた。
不思議そうに見つめるシェンナに気づいてポンポンは慌てて言った。

「な、なんでもないポン!さ、さぁ、これでしばらくすれば痛みも治まるポン!」
「ありがとうですポンー」
「ど、どういたしましてだポン」

ポンポンは照れながら頬をかいていた。
















「どういう事だOFFレンジャー!!!」


ご乱心の隊長と冷静な隊員2名を含めた3名しかいない本部に突然嵐がやってきた。
オオカミ軍団から代表5名。BC団からウィックと灰色猫数名らが怒鳴り込んできたのだ。
来るなりギャァギャァ騒いで何を言っているか解らない聖徳太子でも聞き分けられないだろう

「待ってください待ってください!落ち着いて落ち着いて!一人ずつ話して下さい」
「グリーン。退いてください。ここは、私がなんとかしましょう」

グリーンを押しのけてガトリングを装着したクリームが彼らの前に立った。

「警告です。蜂の巣にされたい方だけどうぞ私たちの支持に従わないでください」
「なんだそれはー!」
「そんな脅しに屈するかー!」
「そうだそうだ!ホントに打ったら大変な事になるぞー!!」

そしてその3人はクリームのガトリングの餌食になった。
あえてここは彼らの名誉の為にも詳細は控えておこうと思う。

「さて、これ以上犠牲者を増やさない為にも代表の方から一人ずつどーぞ」
「(クリーム………)」

挿絵

そこで各団体は『かくかくしかじか』と日本語の生み出した素晴らしい言葉を使って説明していった。
だが、OFFレンがそんなことをした事はもちろん無い。それどころか同じ被害者だと説明した。

「……そうか。疑って悪かったな。栗ご飯の恨みは恐ろしいんだ」
「わかればいいですよ」
「俺の金……俺の金……殺す……」
「ハイハイ……とりあえずウチは関係ないので!お帰りください」

と、その時だった。
誰もスイッチを入れていないというのに都合よくTVからニュース番組が流れていたのだ。
それはまるで筆者が話をうまく進めるために仕組んだようだった。

『これが、昨夜市内マンションを襲ったノラだぬき集団の監視カメラの映像です』

そのモニターにはタヌキたちに混じってどこかで見た覚えのある茶色い娘。
タヌキみたいな顔をしているが間違いない。シェンナ隊員である。

「………ウチは関係……ないだって?」

オオカミたち、BC団たちの目が隊員たちに突き刺さった。

「あれはお前のところの『ですっ子』だよな?え?」
「そ、それは……」
「似てるにも程があるよなー?えー?」
「え、えぇとですね……」

じりじり迫ってくるオオカミたち。とりあえずクリームは誤魔化してみた

「し、シェンナはですね。タヌキから貰われた子なんですよ。あれはその兄弟です」
「嘘つけ!証拠を見せてみろ!」
「う、うぅ……」
「お前らの作戦だろ!え!?」
「わ、わかりました!とりあえず調査しますから!今日は帰ってください!」

クリームの言葉に一旦シーンとなったがまた騒ぎが置き始めた。

「俺たちは真相がハッキリするまでかえらねーぞ!」
「そーだー!」
「う。ウィック様のお金が戻ってくるまでオレ様たちもの、残るニャ!」
「殺す殺す殺す……」

どちらの団体もこれ以上は引いてくれないらしかった。仕方ない。

「ど、どうするんですか?クリーム?」
「とりあえず私たちはタヌキを探しましょう。私に心当たりがあります」
「わかりました。じゃぁ、レッドに留守番を!」

これ以上取られる物は何もないだろうとグリーンとクリームは安心して本部を飛び出していった。














「ぐるポン!お前よくやったなぁ!こんなにいっぱい盗ってきてよぉ」

親分はシェンナの盗って来た戦利品の多さにすっかり驚いてしまっていた。

「えへへー。ぐるポン偉いですポンー!」
「新入りにしてはなかなかだポン!よし!今日はみんなでまた祝うポン!!」
「ヤッホー!」

いつものように焚き火を囲んで腹太鼓を叩きながらタヌキたちは踊っていた。
すっかりシェンナもタヌキらしくなって、お腹がポンポコなるようになってきていた。

「ポンポコポン♪ポンポコポン♪おーてらーはターヌキーのおーてらだポン♪」
「タヌキのおーてらーはみーなターヌキー♪ポンポーコでーらはターヌキでらー♪」
「ポンポコポン♪ポコポコポン♪ポコポンポン♪」

単調な歌に単調な腹太鼓のリズムだが、シェンナもタヌキも何故か楽しくなるのだった。
どれだけ踊ったか解らなくなってくるとシェンナの肩を誰かが叩いた。ポンポンだった。

「オイ、ぐるポン。こっちでまた特訓するポン!」
「あ、わかったポンですー!」

二人はいつもの草むらにやってくるとポンポンがシェンナにお椀を渡した。

「ホラ、タヌキ汁だポン」
「いただきますポンですー!」

ゴクゴクと汁を飲むとシェンナのしっぽがだんだんタヌキの物へと変わってくる。
ポンポンはシェンナの頭を撫でながらニコニコしていた。

「よしよし。早く立派なタヌキになるポン♪この調子だと来週にはお前も完全にタヌキになれるポンよ」
「楽しみポンですー」
「じゃぁ、早速練習を始めるポン。さぁ、やってみるポン」
「はいポンですー!」

シェンナは集中し、葉っぱを回転させ思い切り後転をしてみるが尻餅をついてしまう。

「頭をぶつけなくなったポンよ?上達してきている証拠だポン」
「が、がんばるポンですー!」

再びシェンナが挑戦しようとしたその時。
ピィーと笛のような音が聞こえてくると、ポンポンはシェンナの口を押さえて地面に伏せた。

「シッ!静かにするポン。あれは非常事態のサインなんだポン。見つかったら大変ポン」

そっと二人は草むらの影から広場の方を見た。
明るかった広場はすっかり暗くなっており、タヌキたちの姿もすっかりなくなっていた。
その広場には黒い人影が2つ。クリームとグリーンである。

「……さっきまで明るかったと思ったんですけどねぇ……」
「とりあえずその辺を探してみましょう。誰か隠れているのかもしれませんよ?」

クリームとグリーンが草むらの中を探し回っているのに気づいたポンポンは急いで空き缶に変化する。

「どうしたポンですー?」
「ゴミに化けて誤魔化すポン!さ!早くお前も変化するポン!」
「……がんばってみるポンですー!」

シェンナはグルンと回転すると茶色い缶へと変化した。
色が不自然だが暗闇ではその不自然さは解らない。

「……やったポンですー!」
「シッ!こっちに来るみたいだポン!」

がさがさと音が近づいてくる。出てきたのはグリーンだった。

「ひゃぁ……ずいぶん荒れてますねぇ……こんな所にホントにいるんでしょうかね……」

グリーンは足元のポンポンの化けた缶をガッ!と踏んづけて転んでしまった。

「イタッ!もー!なんで私がこんな目に会わなきゃいけないんですかぁ!」

ポンポンはぷるぷると痛いのか震えていた。

「まったく……荒れ寺にもほどがありますよ……」
「グリーン!いましたか?」

クリームもやってきて凹んでいるポンポンを少し踏んづける

「いないみたいですよー!もう日も暗いですし帰りませんか?」
「………そうですか。じゃぁ帰りましょうか!もうここにはいないでしょうしね!」
「そんな大声で言わなくても聞こえますよ……」

クリームは何を言わずにさっさと走って帰っていく。

「ちょ、クリーム!先に帰らないでくださいよー!!」

だんだん2つのざわざわした音が小さくなってくると涙目になったポンポンがタヌキの姿に戻る。
シェンナもゴロゴロと転がっているうちになんとか元に戻る。

「あ~~~~!痛かったポン!!!泣きそうだったポン!」
「大丈夫ポンですー?」
「まぁいいポン。いつか怪獣に化けて俺がアイツを踏み潰して……」

ポンポンはそこまで言うと広場の方を見つめているシェンナに気がついた。

「ど、どうしたポン?怖かったポンか?」
「……なんだかあの人たち見た覚えがあるポンですー……ぐるポン知ってるですー……」
「そ、そんなワケないポン!ぐるポンはタヌキだポン!そんなことどうでもいいポン!」

ポンポンはシェンナの体に抱きついた。

「ぐるポンはもう俺の妹同然だポン。どこにもいっちゃダメなんだポン!」
「………わかったポンですー……ポンポン」

そこでぼんやりと広場が再び明るくなってくる。タヌキたちが再び集まってきていた。

「もうそんな奴らのことは忘れるポン!一緒に踊るポン!」

ポンポンはシェンナの手を掴んで広場へと走った。
その頃、ぼんやりと明るくなった空を見つめているクリームとよくわかっていないグリーンが寺の傍に立っていた。

「………シェンナはどうやらここにいるので間違いないみたいね」
「あのー?帰るんじゃないんですか?」












翌日。ロビーも廊下もオオカミが寝転がっている。
ソファには落ち着いたものの憔悴しきっているウィックをなだめる改造猫。
レッドも落ち着いてエコと他愛の無い世間話をしている。

「ただいま帰りました」

朝早く出かけていたクリームはドウランスティックを買ってきていた。
全部茶色と言うかそんな色ばかり。

「どしたんですか?ホランじゃあるまいし」
「これでタヌキになってノラダヌキの中に紛れ込んで隙を見てシェンナを連れ帰るんです」
「えぇー!?正気ですか?バレバレですよ!?」
「ヤツラはタヌキですよ?っぽくしてればバレないでしょう。動物ですし」
「………うーん……」
「ちょっとやってみましょう。失礼しますよ」

クリームはスティックを持って傍にいたエコの目の周りを茶色くタヌキメイクする。
ぽけ~としているエコの顔をクリームとグリーンはマジマジと見る。

「……まぁ、見えなくも無いですが……」
「な、何?オレの顔に何したの?」
「とりあえずやってみましょう!早くしないとシェンナが悪に手を染めちゃいます」

クリームはグリーンとレッドにスティックを渡し、自分の目の周りを茶色く塗り始めた。
同じようにグリーンたちもタヌキメイクする。なんだかホランになった気分である。

「オイ、俺にもそれを貸せ」

みんなタヌキになった所で改造猫になだめられていたウィックが鋭い目でクリームを睨んだ。

「……俺の金は俺で取り返す。貴様らに盗られないとも限らないからな」
「盗りませんよ……もう。ハイどーぞ」

ウィックまでがタヌキになると改造猫もついでにタヌキになる。
一応、忠実な部下っぽさはあるらしい。

「よし、じゃぁみんなタヌキになった所で……ぽんぽこ寺へ出発しましょう!」
「お、おぉー!」


一方その頃、シェンナは朝からポンポンの作ってくれたおむすびを食べていた。

「美味しいポン?」
「中身が凄く美味しいポンですー」
「中身はタヌキ汁にも使ってるポンポコの実だポン。ご飯にも良く合うポンよ」

二人でおむすびを食べていると他のタヌキたちも匂いにつられてポンポンのところへやってきた。

「オイ、ポンポン。オイラたちにもそれくれポン」
「嫌だポン。これは俺とぐるポンで食べる為に作ったんだポン」
「ちぇー。ぐるポンはいいポンなぁ。ポンポンに可愛がられてさー」
「そうだそうだ。タヌキになって間もないってのにポン」
「違うポン!!」

急にポンポンは怒ってタヌキにおむすびを投げつけた。

「ぐるポンはタヌキなんだポン!」
「わわ、わかったポン……そんなに怒るなポンよ」
「……ご、ごめんポン。おわびに一個あげるポン」
「あ、サンキューポン」

タヌキたちが草むらへと消えていくとポンポンはシェンナにまたおむすびを渡した。

「さ、どんどん食べるポン。ポンポコ汁飲むよりもこっちの方が都合が良いんだポン」
「都合ー?」
「ぐるポンを早く立派なタヌキにしてアイツらを見返してやるんだポン!」

ポンポンはシェンナの頭を撫でた。

「今日はお月見の日だポン。タヌキーずのみんなで一番踊りが上手いタヌキを決めるポ
ン!
夜までに少しでもタヌキになるポン。ぐるポンならきっと一番上手に踊れるポンよ!」
「ぐるポン、踊りは大好きポンー」

ポンポンが喋っている間にシェンナのタヌキ模様も濃くなってきていた。
そしていつの間にかです口調もなくなってきていた。

「俺は去年優勝したポン。親分の話だと父ちゃんも優勝した事があるそうだポン!次はぐるポンの番だポン」
「でも、自信ないポンー」
「大丈夫ポン。俺と一緒に練習するポンー」

と、二人がぽんぽこお腹を鳴らしている頃、クリームたちはお寺のすぐ近くまでやってきていた。

「なんでエコまで来てるんですか?」
「え?だってオレもなんかタヌキ顔になってるし……こなきゃいけないのかなぁって」
「(まぁいっか……)」

しかし、なんだか7人もタヌキ顔でここにいると変な気分になってくる。
こんな光景は滅多にお目にかかれない。しかし、ウィックは顔の模様と相まってなんか違和感が無いのが凄い

「じゃぁ、いいですね?あくまで我々はタヌキになっているのでバレない様に気をつけて
くださいね」
「……金を探すのが先だ」
「ウィックさん。あなた首領だか何だか知りませんがここは我々の指示に従っていただきます」
「貴様!ウィック様になんて口の聞き方するニャ!」

野次を飛ばす改造猫にクリームはガトリングを向ける。

「だまらっしゃい!所詮洗脳されているあなた方にいわれる筋合いはありません」
「ニャ……」
「もう良い猫猫。金が無ければアイツらを皆殺しにすれば言いだけの事だ……」

タヌキ顔でニヤリを笑うウィックは何だか変な感じだ。

「とりあえず行こうよ?今日のお月見までには間に合わさなきゃさぁ」
「そですね。じゃぁ、みなさん。気をつけて行きましょう」

クリームを先頭に、背丈よりも高い草むらに入っていく。
闇雲に歩いているとすぐ傍の草むらからぴょこんとタヌキが顔を出す。

「待つポン!………見かけない顔ポンね。新入りポンか?」
「……し、新入り……ポン」
「ふーん……この前入った新入りは一匹だけだったポンが……」
「えーと……昨日入ったばっかりだったから……ポン」

タヌキは時折首をかしげながらクリームらを見ていた。

「……まぁ、いいポン。さ、早く入るポン。今日はお月見の日の準備で忙しいポンよ」
「あ、ありがとう……ポン」

なんとか侵入に成功した7名だが以前行ったあの大きな広場にたどり着くには困難を極めた。
なんせ360度草で向こうも見えない訳だからミラーハウスや真っ暗な部屋よりもたちが悪い。

「ねーまだぁー?疲れたよぉ~」

エコとレッドが声をそろえて呟く。そういわれても誰も目的地への方角がわからないのだから仕方が無い。

「あ、声がしますよ!」

すぐ傍の茂みから声が聞こえてきた。そっと7人で覗いてみるとタヌキ一匹。そして……

「(シェンナですよ!あのバカ!)」
「(待ってください。下手に動けば騒ぎになります。とりあえずシェンナが一人になるのを待ちましょう)」
「(それまではじっと様子を見ていようね……。みんな静かにね)」
「(………こういう時木の枝を踏んでバレるパターンがありますから小枝を退けておきましょう)」

クリームたちは足元の小枝を退ける。ありきたりなパターンをあえて排除する。徹底しているのだ。

『バキッ!』

しかし、小枝ばかりに気をとられすぎて大木にまで気が回らなかった。
エコが思い切りそれを踏んづけてでかいにも程がある音がしたのである。

「(バカーっ!!!)」
「え?だってオレサイボーグで体重90キロもあるし」
「(なんで普通のトーンで喋るんですかー!!)」

さすがに大きな音がしたからゴソゴソとシェンナがこちらに様子を見に来ていた。

「誰かいるポンー?」

ぴょこんと茂みから出てきたシェンナをクリームは抱きかかえて頭を撫でる

「もー!ホント馬鹿な子なんだからーシェンナはっ!」
「あなた誰ポンー?」
「は?何言ってるの!さっさと帰るわよシェンナ」
「シェンナじゃないポンー。ぐるポンだポンー。そんな人知らないポンー」

シェンナの言葉にクリームは唖然とする。いくら馬鹿とはいえここまでとは……。

「タヌキごっこは終わりなの!さっ!帰るわよ」
「ぐるポンはタヌキポンー!ぐるポンの帰るところはここだポンー!」

シェンナはクルンと回ってクリームそっくりに変化した。
クリームは驚いて尻餅をついてしまう。

「ホラ、やっぱりタヌキだポンー」
「あわわわ……シェンナが。シェンナが!」

珍しくクリームが取り乱している。写、写メを撮りたい!

「ぐるポンー?さっきからどうしたポンー?」
「(ヤバイ!みんな逃げますよ!)」

ゴソゴソと他のタヌキがやってくる音が聞こえると七人はサッと草むらの中へと飛び込んでいく
残されたシェンナは草むらの中へ付いていこうとしたがやってきたポンポンに肩を叩かれた。

「どうしたポンー?」
「……よくわかんないポンー」
「変なぐるポンだポン。もうすぐ始まるポンよ」
「はいポンー」








「はー……シェンナがすっかりタヌキになっている……」
「きっとなにかノラタヌキたちにされてるんですよ。とりあえずもう少し様子を見ましょう」
「そうですね……ん?何か歌が聞こえませんか?」

クリームの言葉にみんな耳を傾けてみる。確かにどこからか太鼓や歌声が聞こえてきている。

「ふむ……タヌキたちが騒いでいるようですね。行ってみましょう」
「えーまた歩くの~!?」
「隊長、エコ。さっきからそういうネガティブ発言だけ被せないでください」


草むらの中は迷路のようだが声のするほうを頼りに歩けば簡単な物で10分程度で目的地に着いた。
大きな焚き火の周りでタヌキたちがおなかを叩いて踊っている。
その周りで酒を飲んだり食べ物を食べたり一緒に歌ったり、タヌキたちは楽しそうにしていた。

「お祭り……かなぁ?」
「今日はお月見ですからね。なんにせよシェンナを取り返す良いチャンスですよ」
「ついでに悪さしないように懲らしめなきゃいけませんね」
「じゃぁ、作戦立てましょう。ごにょごにょ…………」

グリーンが話し終えると各自バラバラに別れていった。
しかし、BC団ご一行はその場でじっとしていた。

「ウィック様。作戦に加わらない感じですか?」
「くだらん事に付き合うのは無駄だ……俺は金の在り処を探す」
「お、お手伝いしますニャ!」

3人はそのまま草むらの中へと入っていった……。










「次は、ぐるポンの番だポンよ」

ポンポンがシェンナの肩を叩いた。いよいよ最後はシェンナの番なのだ。
シェンナはおなかをポコポコ触ってみたり葉っぱを撫でたりして緊張しているようだ。

「……大丈夫ポン!ぐるポンなら優勝できるポンよ!」
「ありがとポンー。がんばるポンー」

シェンナが輪の中央へとじりじり歩いていく。炎の明かりがゆらゆらとシェンナのメガネに反射する。
ようやく司会のタヌキの傍へたどり着くとタヌキは大きな声で紹介を始める。

「じゃぁ、最後はぐるポンだポン。今年一番の最年少だポンが……まぁがんばれポン」
「は、はいポンー」

シェンナがさっそく踊りを始めようとした瞬間、四方からタヌキがやってきてシェンナを捕まえた。
そのタヌキはまるで猫のよう。OFFレンジャーたちだ。

「何だポン!祭りの邪魔は禁止してるポンよー!!」
「シェンナは返してもらいますよ!そして集団強盗の件も兼ねて成敗させてもらいます!」
「お前たち、タヌキじゃないポンねー!?」

少し大きなタヌキが立ち上がって叫んだ。多分親玉なのだろう。

「よそ者だポン!」
「神聖な祭りを邪魔したポン!」
「叩きのめしてやれポン!」

アチコチからも非難の声が集中する。シェンナもバタバタと暴れている

「はなしてポンー。お祭りなんだポンー」
「ぐるポンを離すポンー!!」

突然、一匹のタヌキがクリームに突進してくる。慌てて避けるがタヌキはシェンナを取り返そうとしているようだ。

「ポンポンー。助けてポンー」
「離すポン!離すポンー!」
「あーもー!どいつもこいつもシャンパンじゃあるまいし、ポンポンポンポンうっさいわ
ねー!」

クリームがガトリングを装着して、キッとタヌキを睨んだ。たじろぐタヌキ。

「離してポンー!」
「いい加減にしなさいっ!」

クリームはシェンナのアタマをペシッと叩いた。

「あんたはシェンナでしょ!タヌキ色だけど猫のシェンナでしょっ!」
「……………………シェンナ……シェンナ……そ、そうだったですー……」
「全くもー!心配ばかりさせ……させるんだから……」

クリームは鼻水をすするとシェンナを地面に下ろしたそのときだった。

「貴様らーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

怒髪天を突く勢いのタヌキのウィックの叫び声があたりに響いた。

「……俺の金を47万8932円も使ってくれたようだな……どうなるかわかるだろうな……?」
「な、なんだポン!お前もタヌキじゃないポンか!」
「……猫猫、写猫、火を放て。こいつらみんな皆殺しだ」

大きな風呂敷を担いだ二匹の改造猫は大きなタイマツをそこらじゅうの草むらに放り投げた。
あっという間に広がる火の海。

「ちょっとウィック!我々までまき沿いにする気ですか!」
「……金も見つかったんだ。もう貴様たちは用済みだ」

ウィックたちの後姿まで火の中へと消えた。確実に火の回りが速くなっている。

「……熱いポンー!」
「助けてポンー!」

タヌキたちがワッと広場の中央に集まってくる。だが、中央にも大きな火。
ボックスを投げるようなスペースも無いどころか投げても燃えてしまう。

「ど、どうすれば…………そ、そうだ!シェンナ!あんたまだあの変身できるんじゃないの?」
「えー?変化の事ですかー?」
「そうそう。それで消防車か何かに変身するのよ!あんたらタヌキたちもやりなさい!」

タヌキたちは困惑した表情を見せていたが目前にまで迫る火に覚悟を決めたようだった。

「いくポンー!消防車になるポンー!」

ボカンと大きな音を立ててタヌキたちが合体した消防車が登場する。
大量の水が放出されると徐々に火も弱まっていく。
…………沈下に10分ほどかかったが、あたりはすっかり焼け野原。お寺も丸焼けだ。
あたりには苦しそうに息をするタヌキたちが寝転がっている

「……シェンナ。よくやったわね」
「ふぅふぅ……疲れたですー…………」

タヌキたちはしょんぼりした顔でよろよろと立ち上がっていた。

「……もうここには住めないポンねー……」
「……仕方ないポン他の山へ行くか、変化して生活するか……」
「寂しいポンー。またバラバラになるポンねー……」

たしかに全てが焼けてしまった為すむような場所も無い。

「…………じゃ、シェンナ。帰りましょう」
「…………えー。で、でも…………」

シェンナは悲しそうな目でこっちを見ているポンポンを見た。

「……ぐるポン。いままで楽しかったポン。ありがとうポン……」
「………………クリーム。お願いがあるですー」
「?」

シェンナは大きな声で叫んだ。

「今日はお祭りですー!最後にみんなで踊るですー!」

シェンナはぽこぽことお腹をたたいて踊り始めた。次第にタヌキたちも踊り始める。

「さ、ポンポンも踊るですー!」
「…………ぐるポン」

最後には全部のタヌキたちがぽんぽことお腹をたたいて踊り始めていた。
クリームがシェンナを連れ戻そうとしたがグリーンに制されて隊員たちはそのまま帰ることにした。

「ぽんぽこーでーらはたーぬきでーらー♪たーぬきのおーてらーだー♪」
「ぽんぽこでーらーのおつきさまー♪ぽんぽこでーらをてーらしてるー♪」










翌日、目を覚ますとシェンナは一人広場のあった場所で横になっていた。
辺りにはタヌキは一匹もいない。シェンナの傍の土には誰かが横で一緒に寝ていたらしき跡があった。

「…………ポンポンー」


真っ黒になった景色を見ているとあのタヌキばやしがかすかに聞こえてきていた。
















が、しかし。その夜。

「……ヤダ。目の周りの模様が落ちない」
「これはタヌキ汁のおかげですよー」
「は、葉っぱもとれない……っ!」
「これはタヌキ酒のおかげですよー!」

クリームの顔は青ざめていた

「じ、じきに戻るわよね?」
「わかんないですー」