第70話

『ビーストズ・フォー・セール』

(挿絵:パープル隊員)

「……それで?例の計画の完成具合はどうなっているのだ……?」

薄暗い部屋で大きな階段の下を見下ろす一人の黒い影。
その下にはこれから起こるであろう恐怖に身を震わせながらひざまづいている2つの影。

「ニャ、ニャァ……そ、それがぁ……」
「し、資金が足りないって言う感じだから……事実上ストップって感じで……」
「だ、だからその……去年の暮れから全然……あ、いや!ごく僅かずつしか出来て……」

暗闇の中のギロリとした瞳が二人を段上から睨みつける。
当然二人は素早く土下座の体制に入る

「す、すいませんニャ! 我々のやりくりが下手くそな、ば、ばっかりにニャ!」
「少しで良いので資金を戴くって感じにしてもらわないと……」

段上の影はゆっくり二つの影に迫ってくる。
コツコツと近づく音に心臓が口から飛び出してビチビチ跳ねそうだ。刺身にしたら美味しいかもしれない。

「………………」

音が止まると二人は額を床にべったりと付けてそのままめり込んでしまいそうだった。

「……俺が貴様らに過度な期待をしたのが間違いだったか……」

二人の首筋を嫌な汗が滑っていった。その時。背後の方からも足音が聞こえてきた。

「……ウィック様。コイツら、期待、ムダ……オレ、アイツら、倒す……」

3つ目の影を見てウィックは目を潜めた。

「……お前か……いくら洗脳しても効かず半年間、洗脳カプセルに入っていた改造猫とは」
「ソウ、でも、今、とても良いキモチ……。オレ、ウィック様、忠誠、誓う……」
「……ちょうど良い。コイツら無能な奴よりも期待できそうだ……では、任せたぞ」

ウィック、はニヤリと笑いながら、3つ目の影が跪き、その場から出て行くまでを見送っていた。










この日、買い物途中のレッドとライトブルーはぶらぶらと道草をして遊んでいた。
花屋さんで花の種を物色し、レストランのメニューを見て改善すべき点を談義したり、
ゲームセンターでUFOキャッチャーをやったり、果ては本屋で立ち読みをして道草していた。

「レッドぉ。もう帰らなきゃ…みんな待ってるよ?」
「えー。ちょっと待ってよ。今月の『特撮FAN』の特集は「快傑ズバット」なんだからさぁ」
「も~。前も道草してイエローに怒られたじゃん~!早く早く~!」
「あーもー……せっかく早川健インタビュー読んでたのに。ハイハイ」

本を棚に戻すと疲れた様子でレッドは買い物袋を持ち上げた。

「は~楽しかった。やっぱ道草って楽しいよね」
「もう2時間経ってるよ……近道しようか?」
「うん。そうしよそうしよ」

二人は大通りへ出る道の右側にある小さな路地を進んでいった。
ここは途中で地下通路があり、長い信号待ちを待つことなくショートカットできるのである。
が!!その地下通路へ続く道を歩いている途中工事で行き止まりとなっていたのであった。

「うーん。引き返そうか?レッド」
「えーめんどくさいよ~。こっちの道曲がったら向こう側の道に出そうな気がするよ?」

レッドの指差す左側の道は見た感じこの工事現場の向こうの道に繋がっていそうな雰囲気はある。
ライトブルーが迷っているとレッドが先にその道を歩き始めた。

「あぁ、ちょっと待ってってー!!」

歩いていくとだんだん工事現場のあった方向とは違う方向へと道が曲がっていっている。

「ねー戻ろうよレッドー」
「大丈夫だって!迷ったとしても歩いていればどっか知ってる道に出るだろうし!」
「……そうかなあ」

レッドはリアルでこういう行動をするのだが大抵は引き返す目に会って友人に恐れられているのだが、
当人のライトブルーはそんな事は露知らず……。
そしてとうとう、見た覚えのない場所へとやってきてしまった。

「んーこれは俗に言う迷ったって言う状態なのかな」
「迷ってるんだよ!も~!あの時引き返しておけば……ワッ!もう1時間経ってるよ!」
「大丈夫大丈夫。アメリカで迷ったわけじゃないし、いざとなったら人に聞けば……ね?」
「そういう変なポジティプさ辞めてよね~……」

その場所はまるで異国。壁や家の側面にはなにやら変な記号や英文がスプレーで書かれている。
辺りには音楽があちこちから聞こえており、どこかのクラブハウスの裏側のようだ。
レッドとライトブルー途方にくれていると傍のドアから3人組の男がゾロゾロ出てきた
さっそく道を聞こうかと思ってライトブルーは彼らに声をかけた

「あ、あの……」

くるっと振り返った彼らはロックバンドのようにアクセサリーが眩しい。
さらにメイクしているのかヒョウになっているヤツやなんかよくわからない猫科っぽいヤツらもいる。
その中のヒョウっぽいヤツがライトブルーの顔を見るなりちょっと笑顔を見せた

「な、何?俺たちのサイン?いやーごめんな?俺らサインとかしないっつーポリシーあるからさ」
「い、いやオイラたちちょっと道を聞きたくて……」
「え?み、道?」

あからさまにそのヒョウっぽいヤツはガッカリして後ろの2人に肩に手を置かれてしまった。

「仕方ないだろ?やっぱジュンのヤツいなきゃ結局俺らダメなんだからさ」
「あぁ、いくらなんでもベタな落ちだからってそう落ち込むなよ。この子らに悪いだろ?」
「あ、あぁ、そうだな………」

3人が慰めあっている場面を見るとなんだかライトブルーが申し訳ない気分になってくる。
ライトブルーは3人に背中を向けた。

「あ、あの!サインも頂こうかなって思ってるんです!!」

するとパァァと3人の顔が明るくなる。サインしないポリシーと言っていたのに、
3人はマイサインペンらしき物を取り出し、アロハシャツにサインしていく。
そして、書き終えたあたりで3人の中の一人がライトブルーに質問を投げかける。

「キミ、俺らの中で誰のファンなの?」
「えぇ!?」

3人はワクワクしながらライトブルーを見ている。
名前なんて当然知っているわけ無いし、おまけに初対面だ。
とりあえず、無難に答えておこうとライトブルーは思った。

「え、や、やっぱメインボーカルの人がす、好きですね。も、もちろん他のメンバーも好きですけど」

無難に答えたつもりだったが今度は3人が一斉に肩を落とした。

「そ、そうなのか……やっぱりジュンの居ないビーストズなんて所詮……」
「オイ、泣くなよパール。まだ始まったばかりじゃねーかよ」
「そうだそうだ。諦めるにはまだ早いって」

3人はお互いに肩を組み円になってなんだか変なオブジェのようになっていた。

「あ、あのーだから道を~……」
「ライトブルー。もう他の人に聞こうよ。もう疲れたって~」

石段に座っていたレッドがやっと腰をあげ、ライトブルーに声をかける。
するとチラっと3人組がレッドを見ると急にその顔が変わった。

「あぁぁぁ!!!じゅ、ジュンだ!!お前なんでここにいるんだよ」
「ぉぅゎ!!ジュン!お前レコーディングどうしたんだ!?」
「やっぱり戻ってきてくれるのか!?」

レッドの足元にすがり始める3人。何のことかわからずレッドも混乱する。

「あ、あのー申し訳ないのですが……ぼかぁ、そのジュンじゃないのですがね」
「え?あ、ホントだ!ちょっとジュンより顔に幼さがあるぞ」
「何!?あっ、確かにちょっとベビーフェイスだな」
「服装もちょっとショタっ子っぽいな!」

なんだか状況が飲み込めないでいるとヒョウっぽい奴が勝手に喋り始めた
正直、早く帰りたいレッドだったが、聞かないと話が進まないので仕方なく聞いた。

「実はな。俺らビーストズって言う4人組のロックバンドを組んでるんだよ。結構人気バンドだったんだぜ」
「へーでも今3人ですよね?」

何気ないレッドの一言で3人の顔が少しだけ暗くなった。

「リーダーのジュンって奴がいるんだけどさ。そいつのオカゲで俺たち売れたようなもんなんだよ」
「あーよくある話ですね」
「ジュンがある日レコード会社から誘われて……俺らに内緒で勝手に一人で契約してさ!
レコード会社から話が来たことは知ってたけど……まさか一人でデビューするなんてさ……」

ふーんとしか言いようがない話だがレッドは仕方が無いのでもう少し話を膨らませてみる事にした。

「それでどうしたんですか?」
「あぁ、俺らは3人でビーストズを続けようとしているんだけど連日ガラガラでさ……
ほとんどジュン目当てのファンばっかりだったんだなって事だったんだ。売り上げも少ないし。
新しいメンバー入れるか解散するかって所まで来ているところにキミに出会ったのさ!」

ヒョウっぽいヤツはレッドの手をとって微笑んだ。

「さぁ、キミも今日からビーストズのメンバーさ♪」
「おめでとうおめでとう」
「おめでとうおめでとう」

勝手に拍手されているがレッドは入る気はない。
それより早く帰って今日のニャンニャンライダーV20の再放送を見たいのだ。

「あの、僕そう言うのに興味は……」
「そこ青い少年よ。この少年が好きな物は何だい」
「……特撮物です」
「よし、キミ! 入ってくれればうちのメンバーのミカンの実家にあるおもちゃなんでも持って言っていいぞ」

レッドの耳がピクピクと動いた。これは密かに興味を示している反応だとライトブルーは感じた。

「……実家って?」
「祖父の代から続いているおもちゃ屋だ。しかも取り寄せた商品は返品せず倉庫に全部締まってある」
「でもな~そう言うところってな~……」
「すっげー田舎でタウンページにすら載ってないからだからコレクターにも荒らされてない」

さらにピクピクとレッドの耳が痙攣しているかのように反応を示していた。

「さらにプレミア価格なんてつけないから当時のままの定価で購入できる」
「で、でもな~。僕の欲しいものがあるかわかんないしなぁ~」
「……超合金&ポピニカシリーズ……ほとんどあるぞ」

レッドの耳はもう動かなくなっていた。ピンと立てたテントのように鋭く耳が立っていた。

「で、でもなぁ~……!!」
「入ってくれれば10個1000円で良いぞ」
「……入らせてください!!お願いします!!お願いでごじゃりまするー!!」

3人の足元にすがりつき隊長にあるまじき無様な姿を晒していた。
ライトブルーは目を逸らしたまま、いまだなお無様な姿のレッドを見ないようにしていた。












「かーめかめかめミードリーガメー♪」

とある商店街の一角のペットショップにエコはその日もカメを見に来ていた。
のんびりしている所が共感を呼んでいるのか仲間意識が芽生えているのかこれで一週間連続でやってきていた。

「カーメのこぉーらはかたいんだー♪ カチコチカチコチ今3時♪」

何と言っても噛まない、暴れない、手間いらず。ぼーっとしているエコにとってはまさにぴったりの動物だった。
しかし、買いたくても水槽から色々そろえるのが大変なせいでこうして連日やってきてはこうして遊んでいるのだ

「昨日オレ、オムレツ食べたんだよ。ケチャップでタイガ先輩とか、ボスとか描いて食べたんだー」

しかし、その日はいつもと違っていた。のんびりとエコの顔を見ていたカメがガブリとエコの指を噛み付いたのだ。

「いっ!!」

噛まれたところが塗装が少しだけ剥がれてしまったエコの指を見てエコは事態を把握した。
細かいセンサーが張り巡らされたじんじん痛むエコの指。当然、ただでさえ緩いエコの涙腺が緩まないわけが無かった

「痛い……噛まれた……酷いよぉ……」

大粒の涙を流しながらエコはカメを水槽に戻すと立ち上がって帰ろうとした。
しかし、尻尾を何者かに引っ張られて思い切り尻餅を付いた。
恐る恐る振り返るとカゴから飛び出したらしき子犬たちがエコの尻尾を噛んでいた。

「ひぃっ!!」

腰が抜けてしまっているエコは逃げようと地を這うが長い尻尾を噛まれていては逃げられない。
すると前方から爬虫類たちが水槽を抜け出しエコのように地を這いながら近づいてきた。

「わっ!わっ!わーーーっ!!」

涙も止まらず、悲鳴も止まらず、失禁寸前。エコは無我夢中で暴れまわった。
しかし、物凄い恐怖の中、エコの意識は遠い彼方へと旅行に出かけてしまったのだった。

エコの周りはペットショップの動物たちで埋め尽くされていた。
そこへ、入り口からその場所にエコでもなく、店員でもなく、ペットたちでもない人物が立っていた。
彼が歩くとペットたちは道を開け、その道はエコの所まで続いていた。

「……コイツ、連れく……」

それだけ言うと彼はもと来た道を帰っていった。動物たちを後ろに従えて……。











「ぃよっし!これで二代目ジュンの誕生だ」

ボロボロの姿見に写されたレッドはほぼまんまタイガであった。
違うのはバンド特有のチャラチャラしたアクセサリーだの、タトゥーシールを貼るだの
少々、ケバい感じの格好をしていたことであった。帽子を取った後の髪もワックスか何かで少々形が付いている。

「……みなさんはそれ、本来の模様じゃないの?」
「俺らは、普通なんだ。俺とジョーズが三毛猫で、ミカンが茶」
「何で僕が虎に……なんかしっくり体に馴染むけれど……」

挿絵

ライトブルーは何だか虎になってアクセをつけられたケバいレッドを見て他人事のような気がしなかった。
青虎の事をふと思い出して頭を振ったがそんな彼をビーストズの3人とレッドは気づかなかった。

「でも、僕が虎って事はみなさんは何なの?」
「俺がヒョウだ。パールがライオン、ミカンがチーターだ。ビースト……獣たちのバンドな訳だな」
「へーカッコいいね」

レッドの中では正直な感想だった。普通すぎたが。

「……よし、じゃぁ歌の練習をしよう。明日までに3曲覚えるんだ。出来るか?」
「3曲くらい楽勝楽勝♪ 」
「ジュンが移籍しちまったから前の楽曲は全部使えなくなっちまったから俺らで一から作ったんだ。
ちょっと歌詞とメロディが複雑かもしれないが、キミならきっとやってくれるはずだ!」

そう言って、ヒョウのジョーズは3枚の歌詞カードを書いている紙をレッドに渡した。
プリントアウトした物ではなくボールペンで書かれている。よく見ると鉛筆の後も見える。

「どれどれ…」



『絶望と破滅の序曲 -黒い翼を抱いて-』

白い月が闇を照らすぜ お前の紅い瞳の奥の闇さ
絶望と破滅の序曲が今 奏でる暗黒の協奏曲(シンフォニー)

Ah 切り裂かれたこの腕から滴る血がご馳走だぜ
Uh 逃げられやしないぜ 覚悟しな (WOW×4)

黒い翼の生えた堕天使が今、この世界に別れを告げて
ガタクタたちの腐れきった顔を笑っているのさ(WOW×3)



一瞬、めまいがしそうになったレッドだったがロックはきっとこんなもんだと自分に納得させた。

「俺たち3人が一週間かかって書き上げたんだ。初めてにしちゃ結構イケてるだろ?」
「……えーと次が『フォーエバー -サ・ヨ・ナ・ラ-』と『ツメタイヨアケ』かぁ……」
「どれも新生ビーストズにふさわしい楽曲ばかりだ。ジュンも泣いて悔しがるぜ」

ワーキャー騒ぐメンバーたちに少々不安なレッドたったが再びロックはこんなもんだと納得させた。

「ちなみに、ジュンさんの曲はどんな感じなの?」
「え、そうだな……確かこの辺に……」

散らかった古い机の上をガチャガチャと引っ掻き回してライオンのパールが見つけてきた紙を見てレッドは愕然とした。
こんな素晴らしい歌詞が人間の手によって書くことが出来るのかと言うくらい素晴らしい歌詞だった。
文学的だが一般人にもとっつきやすい感じに崩しているがバランスが取れており、
ほんの数行の中に愛・夢・希望・絶望の中の小さな幸せ・人は何故生きるのか等のメッセージが巧みに組み込まれていて
まさに文字と文字とが紡ぎ出す奇跡の言葉がその紙には書き綴られていた。

「……はー……ジュンさんって凄い人なんだなぁ」
「もういいだろ」

パールは紙を取り上げて本来レッドが覚えなければならない歌詞の紙を渡した。

「……よし、水色の少年。彼は今晩俺たちが預かるからな。用があればいつでも来ていいぞ」
「え、でも」
「いいからいいから。獣だからって別にとって食おうとしている訳じゃないんだからな?」

ライトブルーはここの住所や電話番号が描いてあるスタジオのチラシを一枚ポンと渡されて外に出された。
空が少し赤くなっており日のくれるのが早い冬ではすぐ真っ暗になってしまう。
色々と不安な要素が残るライトブルーだが、すっかり外に放置されたまま冷たくなっている買物袋を拾い上げるとそのまま帰っていった。










「……オイ、きいてんのか?」

エコは広い、いや、広いと言う言葉では足りない壮大と呼ぶに相応しい空き地にいた。
横にはタイガが呆れた顔で立っている。

「あれ……タイガ先輩……あれ?オレ、カメ見てたのに……」
「こんなところ連れて来て……何して遊ぶんだ?」

特に深く考える事をしないエコは何故ここにいるのかと言う疑問を瞬時に消去し、
ここで何をして遊ぶかと言う考えに切り替えた。

「……かくれんぼはどうですかー?」
「馬鹿かお前。こんな何も無いところでどうやって隠れるんだよ」
「……じゃぁ、タイガ先輩が考えていいですよ」
「じゃぁ、決まりな。じっとしてろ」

タイガはいつの間にか足元に落ちていた太い荒縄でエコを縛りつけた。

「……あのー……先輩……これなんですか?」
「いいから、じっとしてろ。よっ!」

縛り終えた途端にタイガは身動きの出来ないエコを蹴飛ばして地面に横倒しにさせた。
思い切り顔面を強打したエコは「きゅ」と変な声をあげた。

「せ、せんぱぁい……コレ何の遊びですかぁ? も、もしかしてえすえむって奴ですかぁ……」

そこまで言うと何だか背中に熱い物をエコは感じた。
恐る恐る後ろを向くと太いタイマツを手にニヤリと冷たい笑みを浮かべたをしたタイガが見えた。

「ひぇぇぇ!! せ、先輩! 何ですか! あ、危ないですよぉ!!」

逃げ出そうともがき出すエコだがキツク縛られた為に逃げ出すことが出来ない。
チロチロと赤い火の粉がエコの顔を舌なめずりするようにかすって行く。




「ギャーッ!!」



突然頭に痛みを感じ、エコは悪夢から飛び起きた。

「……イタタタタ!! アチチチチチ!!」

火のついた背中と痛む頭に混乱しているエコは側にある大木に再び顔面を強打してようやく落ち着くことが出来た。

「……コイツ、固い、食える、ない」

ヒリヒリする顔を抑えながらエコは聞き覚えの無い声をした方を振り返った。
暗闇の中で鋭く光る黄色い瞳。口から飛び出している白く鋭い牙。切り裂かれたような緑の服代わりの布。
──それはまるで森を支配する王者、ターザンの様であり、獣のようであり……。

「お前、獲物。焼く、固い、食えない、何故」
「……あ、あの……オレ、サイボーグだから……その、美味しく、ない……です……」
「俺、さいぼぐ、知らない」
「……さいぼぐじゃなくてサイボーグだよ」

彼は自分の言った事を訂正されたと言う事は理解できたようで口をへの字に折り曲げると不服そうな顔をした。
エコは申し訳無い事をしたかなと思って自分の口を指差し言った

「さ、い、ぼ、お、ぐ」
「さ、い、ぼ、お、ぐ」
「サイボーグ」
「さいぼーぐ」

エコは首を縦に振った。いつの間にかエコは少しだけ微笑んでいた。
彼も怖い顔だが、口角を上にしていたので満足しているようだ。

「お前、さいぼぐ」
「違うよ、オレは、エコだよ」
「さいぼぐ」
「……まぁ、いっか。そっちの名前はー?」
「俺、名前、忘れた、今、違う、名前」
「じゃぁ、そっちで良いや」
「俺、獣猫」
「けものねこ? ふーん 変わった名前だねー」

獣猫は背中を向けてさっきまでエコが焼かれていた焚き火のそばにある何やら黒い物を持って再び帰ってきた。

「食え」

それは、串刺しになったサカナだった。良い感じに焼けていてちょうどご飯を食べてないエコにはありがたかった。

「あ、ありがとぉ、でも、これ獣猫のご飯じゃないの?」
「俺、さいぼぐ、気に入った、仲間、加えてやる」
「仲間?」

焼き魚にかぶりつきながらエコは聞いた。獣猫はヒュウと口笛を吹くとエコの周りを囲む茂みがゴソゴソと動いた。
まるで全ての茂みが生き物のようにうごめいて、中からゾロゾロと動物たちが飛び出してきた。

「わっ!」

驚いて尻餅を打った際にエコは口内を串の先で少し突いてしまった。
そんなエコのお尻の側を猫や犬、果てはネズミまでもが通り過ぎていった。

「全部、俺の、仲間、子分」
「へ、へぇ……動物に好かれてるんだねー……」
「さいぼぐ、動物、好き」
「ちょっと怖い動物もいるけどオレは好きだなぁ」

獣猫はホッとしたのかフーとため息には聞こえなかったが、息を吐くのが聞こえた。

「俺、動物、虐めるヤツ、嫌い」
「うん、あれは酷いよねー」
「さいぼぐ、良い奴、俺、たくさん、気に入った」

獣猫はまた口笛を吹いた。茂みの中から出てきた動物の犬か猫か解らない手が2つ飛び出した。
その手には何やら毛皮の様な物、もう片方には何やら赤や黄色の木の実の様な物が載っていた。

「これ、何?」

エコが指さそうとした時には既にその手の上にある物は獣猫の手に移っていた。
獣猫は黙ってエコの頭に毛皮の様なものを被せた。それは獣の顔の帽子だった。
顔がちょうど真ん中にあって後ろにだらりと毛皮が首元までたれていた。
見ようによっては、エコが噛み付かれているようにも見える。

「……これ、毛皮だよね……良いのかな?」
「俺、とった、人間の物、嫌、でも、お前、仲間、俺、許す、大事、しろ」
「ふーん。 獣猫偉いねー」

獣猫は次に、赤い木の実を指でごりごりとすり潰し始めた。
赤い汁が出て手に馴染んでくると獣猫はそれをエコの顔につけ始めた

「ちょっと、何!? 何!?」
「仲間、印」

挿絵

頬に横線が引かれ、獣猫と同じ印がエコにも付けられた。
洗いたかったが、嫌な理由で付けられたわけではないのでどうにもできない。

「……さいぼぐ、俺、みんな、助ける、さいぼぐ、手伝う、欲しい」
「獣猫?」
「さいぼぐ、仲間、なった、手伝う、ダメか」

エコはどっちみち悪者だからここらで悪事をしてタイガに褒めてかもしれないと思った。

「いいよ!」
「さいぼぐ、良い奴、良い奴」

獣猫は笑った。しかし、顔が怖いせいかニヤリと笑うような顔になっていた。










翌日、人気のない道をぞろぞろと歩いていくOFFレンジャーご一行の姿がそこにあった。
メモを片手にキョロキョロと先頭を歩くライトブルーの後ろを突いて行く隊員たちはまるで遠足気分の様で。

「それで……レッドが歌うって言うライブハウスはまだですか?」
「ちょっと待って。オイラ、昨日の道はうろ覚えで……」
「入場料いるんですか?いるなら私、外で待ってますから」
「イエロー、せっかく隊長がイベントに出るんですから隊員である我々が見に行かなくてどうするんです」

胸ポケットのメスを時々上から触りながら不満げなイエローをよそに、ワイワイお菓子を食べている隊員もいる。
そうこうしている内に、古びたライブハウスが目に入った。
入り口前がガランとしているので少々半信半疑になりながら中を覗くと『ビーストズライブ昼の部』と言う小さな看板が中に立てられていた。
奥に黒い扉が見え、あそこが会場のようだった。ほかに人はいないみたいで料金所みたいな物もない。

「……入場無料みたいですね。じゃぁ、みなさんいきましょーか」

中に入るとホコリっぽい匂いがした。ライトグリーンに塗られたコンクリート壁がまっすぐ扉へと続く。
扉は今まで何度も開け閉めされていたのか右側のドアが少し傾いていた。
中に入ると会場は薄暗かった。ガランとした広場に十個くらいのパイプイスが置かれているだけで殺風景だった。
まぁ、ライブハウスの映像で観客が大人しく座っているのを見たことが無いので当たり前といえば当たり前だが。

『みなさまお待たせしました。ついに新メンバーを加入した新生ビーストズ初ライブ!』

見計らったのか場内のスピーカーから音声が流れ出した。
ちょうどその頃を境にごくわずかだがポツポツと女性の客が中に入ってきた。

「よかったですね。内輪のお客さんだけじゃなくて」

グリーンの横に座っていたピンクが安心したように話しかけた。
意外とナイーブなレッドを一番、心配していたのはグリーンだったのだ。

『それでは、野獣たちの宴が今始まる!ビーストズで『絶望と破滅の序曲』 Here We GO!』

ステージのライトがパッと会場を照らす。その中央に立っている一人の俯いた男。
ドラムのバチがカツカツと始まりの合図を始めた。そして最初のジャン!と言うイントロと共にレッドは顔を上げた

「白い月が闇を照らすぜ ~♪ お前の紅い瞳の奥の闇さぁぁ♪」

レッドは爽快げな顔で、悪く言えば自分に酔っている様な顔で歌っていた。
多分、昨日の晩メンバーに褒めちぎられたのだろう。

「え、あれレッドですか?」
「タイガくんじゃ……?」
「いや、あれはレッドだよ。メイクしてるんだ」

レッドの登場に場内のお客たちが少々ザワザワしていた。歌詞はともかくそこそこ評判は良いみたいだ。

『ぜぇっつぼぉっとほっきょくぅ~のじょけぇぁくがぁ~♪」

「なんかだんだん歌い方がアーティストのソレになってきたような……」
「レッドは今、きっとBzとかダルクとかになってるんです。なってるんですよ!」

『いむぅぁ くぁなでるぅへぁ~んきょくぅのシィンフォヌィィィィ!!!♪』

するとレッドはブンブン頭を振りながらマイクスタンドを蹴飛ばし始めた。
そこまで過激なバンドじゃないんだろうがどうやらスイッチが入ってきたらしい。

『AHHHHH!!! 切り裂かれたこのぉうくらぁ!!滴る血がご馳走だぜっっっ!! ComeOn!』

「あーあ。カモンとか言っちゃったよ。絶対あれアドリブだー」
「うん、なんか解るよね」
「レッド……」

調子に乗ると止まらないレッドのスタンドプレーはこれからさらに増えていくが、
本人の事も考えここでは割愛させていただく。だが、意外と客層には受けがよかったみたいだ。
妙な恥ずかしさの中、気がつけば会場にはエレキのビィィンと言う音だけが響いていた。

「……ありがとう。野獣の宴はこれで終わりだ。次の宴までにせいぜい生きておくんだな!」

よく解らないセリフを喋るとメンバーたちはステージ袖へとはけていった。
恥ずかしそうな者や呆れて何もいえなくなった隊員たちは黙って会場を出て控え室へと向った。


「あ、いらっしゃーい。どうだった?」

控え室を開けると椅子に持たれながらシェイクを飲んでいるレッドの姿があった。

「……よ、良かったですよ」
「だよねー!だってぼかぁ、天才ボーカルだ・か・ら?」

どうやらすっかりメンバーらに祭り上げられたらしく、レッドの目が据わっていた。

「しっかし、まぁ後半ロックって言うよりヘビメタって感じでしたねー」
「あー。なんかテンション上がっちゃった♪」
「……まぁ、レッドが良いなら良いんですけどねー……」
「しかし、彼にはホント助かったよ。久々にライブしてる感じしたもんな」

おんぼろなソファに寝そべったメンバーが呟いた。

「……あぁ、感激した拍手も混じってたな。俺には解る」
「泣いてた奴も居たな。ジュンがいなくなってから久々だ……」
「オイ、大変だ!会場がアンコールの嵐だぞ」

突然入り込んできたライオンの格好をしたメンバーは息を切らせながら叫んだ。
全く気づかなかったが良く耳を澄ますと確かに小さくアンコールの声が聞こえる。
嵐と言うほどではないだろうが彼らにとっては嵐なのだろう

「どうする?」
「ど、どうする?」
「こんなの初めてじゃん!新ジュン!ど、どうしたい?」

レッドは腕組みをしたままクルリと回転椅子をメンバーの方に向けた。
目が据わっている。これはまた何かしでかしそうだ。

「……また次の宴まで待たせておくしかないね……飢えた獣は何をするか……フフ」

ニヒルな笑みを浮かべてずずーっと底に残ったシェイクをレッドは吸った。
すっかり気分はバンドのボーカルになっている。

「じゃ次のライブの日程3日早めるか!」
「あぁ、きっと口コミで30人は固いんじゃないか」
「やっぱボーカルがいるのと居ないのじゃ違うな」

メンバーたちも実に楽しそうに次のライブの予定を話していた。
レッドはアンコールの声を聞いているのかその顔は売れっ子ミュージシャンが天狗になっているソレに似ていた。












「さいぼぐ、急ぐ」

翌日の早朝、OFFレンがライブの事でうつつを抜かしている間に街では静かに騒動が始まっていた。
エコと獣猫は大通りのペットショップ『どーぶつ館』の裏口にいた。

「何見るの?カメ?」
「動物、捕まる、逃がす」
「逃がしちゃうの?」
「逃がす、終わる、仲間、入れる」
「へー」

半分聞き流していたエコの肩を獣猫はポンと叩いた。

「さいぼぐ、人間、外、出す、俺、動物、逃がす」
「え?オレが店員さん外に……出すの?」
「さいぼぐ、できる、俺、信じる」

獣猫はニッと口で笑うと扉を開け、エコが中に入るように手で合図した。

「(……ふぇぇぇ……)」

変な格好で入ってきたエコに店員は怪しげな目で応対していた。
エコは何をすればいいのかわからないのでとりあえず側にあった小さな金庫を手に取った。

「あ、キミそれは」

エコはそれを抱えたまま思い切り逃げた。

「あっ、待て!」

エコの後を追う店員たち、入れ違いに獣猫が中へ入ると幸い客は入っていなかった。
鋭い爪がシャキンと伸びた。獣猫はパッと飛び上がるとサッと弧を描きながら着地した。
その瞬間動物たちの入れられていたケースの扉が壊れた。

「こっち、来る」

ぞろぞろと獣猫の後を動物が付いて来る。その時だった。

「……獣猫」

裏口のドアに寄りかかっている人影。獣猫はその姿を見て思わず跪いた。
獣猫の主人であり、上司である、BC団首領ウィックその人だった。
外出用のバンダナ姿だがあの奇抜な模様はしっかり顔に映えている

「……獣猫よ。計画は順調に進んでいるか」
「ハイ、計画、出来ている」
「……しかし、動物の調達に時間が掛かり過ぎている。ここで一旦止めてすぐに実行に移すのだ」

獣猫は顔を上げて困った顔をした。

「まだ、全部、助ける、してない」
「……これだけで十分だ。全部調達する必要は無い」
「仲間、可哀相」
「必要ない」
「もっと、助ける、する」

突然、ウィックは獣猫に掴みかかった

「必要ないと言っているだろう!! 良いか! 俺の命令は絶対だ!」
「仲間、助ける、したい、……」
「仲間だと! そんな物全て愚民が自分を安心させる為に考えた自己満足に過ぎない!!」

ウィックは張り裂けんばかり目を見開いて獣猫を睨みつけていた。

「仲間、助ける、し、したい……」
「俺の前で二度とそんな言葉を使うな。お前はもうBC団員として改造されたのだ。もう世間には戻れない」
「…………」

ウィックは獣猫の額のBC団の紋章に指を当てた。

「良いか。お前は直ぐに計画を実行に移すことだけを考えれば良いのだ」

獣猫の目がとろんとして来た。ウィックはテレパシーで直接獣猫の頭脳に言葉を送り込んだ。
獣猫の頭の中にはウィックの声だけが響く。

「この動物たちは仲間等ではない。計画を順調に遂行する為の道具だと思え。良いか、こいつらはただの道具だ」

パチンとウィックが指を鳴らすと獣猫はスクッと立ち上がった。

「……さぁ、行け獣猫。お前には期待しているのだ」
「ハイ、ウィック様」

獣猫と動物たちが去ると、ウィックは歩き出そうとすると向こうからエコが帰ってきていた。

「獣猫ー! みんな巻いたよーってあれ?」
「…………どーも」

どっかで見た顔だなとエコは思ったがそんな考えも一瞬にして消し飛んでしまった。
ウィックもエコが自分に気づいていないのだと気づいた。

「……あの、獣猫……あ、えーとなんか動物いっぱい連れてる子見ませんでした?」
「さぁね……俺はたまたま通りかかっただけだ」
「そうですかぁ……じゃぁ、そのまま帰ったのかな……それじゃぁー」

バタバタと走り去るエコの背後でウィックは不敵な笑みを浮かべ続けていた。

「……せいぜい頑張るんだな」












『WOOOO!!! 飛ぶ飛ぶ飛ぶ!! 回る回る回る!! 忘れてしまいたい事がマジで多いくらぁぁぁ!!』


結局、翌日もビーストズのライブは開催され前日より12名観客が増えていた事が解った。
レッドはメンバー名を安直に、知っている名前と言う事でタイガに決定し、そこそこ歓声が上がるようにはなった。


「サンキュー! 新しくメンバーに加わったボーカルのタイガだ。皆よろしく!」
「イェーーー!!!!」

会場は大盛り上がり(?)でレッドのテンションもますます上がっていた。
しかし、会場内に『ジュンさんが良い!』と言う声が突然上がった。
するとそれに反応して会場の隅から数名の「ジュンさん!ジュンさん!」と言う掛け声が上がった。
困惑する会場の中、苦い顔をしていたパールが呟いた。

「……ジュンのファンクラブのヤツらだ」
「え?」
「ジュンがデビューするから邪魔な俺たちを潰そうとしているんだ。ったく女って奴は」

一向に止む気配のない掛け声のせいで会場内では喧嘩するような声も聞こえてきた。
慌てて会場のスタッフらしき人が2名ほどやってきて「中止です中止!」と叫んだ

「行くぞタイガ」
「え、でもまだ……」
「これじゃライブ出来ないだろ。今日は終了だ」

レッドは騒がしい会場を何だか腑に落ちないまま後にした。
控え室に入った途端、メンバーはうな垂れながらドッと椅子に座った。

「あー……いつかこう言うのが来るんじゃないかと思ってたが意外と早かったな……」
「そういや、ジュンのデビューコンサートは明日だったなー……」
「なるほど、宣戦布告と言うわけか……こりゃ当分ライブは出来ないな……」

3人のため息は見事にハモっていた。

「でもさ、そんな事でくじけちゃバンドなんてやってられないでしょ?頑張ろうよ」
「タイガ……キミは女のファンの恐ろしさを知らないからそんな事がいえるんだ」
「のほほんとしているのは顔だけじゃないんだなタイガは……」

何だか怒りの矛先がこちらに向けられつつある事を瞬時に察知したレッドはメンバーらを背にイスに座りなおした
すると、メンバーらも落ち着いてきたのか3人で大きなため息を付いた。

「こうなったらかねてからの計画を実行するしかないな……」
「?」
「……タイガ明日のライブは中止だ。代わりに大阪サンシャインホールに行くぞ」
「え、あんなでっかい所……で?」

メンバーはレッドを取り囲むと、ミカンがレッドの耳にささやいた。

「このままじゃ、俺たち活動が出来なくなる。もとはといえばジュンのデビューが原因だ」
「……ジュンが明日そこでデビューコンサートをする……俺たちでジュンに戻ってきてもらうように言うんだ」
「え!でも、デビューするんじゃ……」
「ジュンは確かに実力も人気もある。ケド俺たちがいたからこそ人気になれたんだ」
「仮に、デビューを止めるとまで行かなくてもさ、バックのバンドに使ってくれるくらいは……さ?」
「そうさ、ジュンだって俺たちと一緒に頑張ってきた仲間なんだ。言えば解ってくれるさ」
「ちょ、ちょっと待って!」

レッドは何やら言い知れぬ不安感が沸いてきていた。

「僕はどうなるわけ?」
「ボーカルはジュンがいるから……なぁ」
「タイガ、楽器は何か出来るのか?」

「……鍵盤ハーモニカとか」

「……よし、タイガはタンバリンやってもらおうぜ」
「お、カッコイイじゃん!じゃ、タイガはタンバリンで決まりな」
「っでぇ!?」

ボーカルからタンバリンへの降格。
いくらレッドでもロックバンドのタンバリンと言う役柄がグループ内でどう言うポジションなのか理解していた。

「……じゃ、明日午前8時に現地集合な。みんな遅れるな!」
「オー!!」

もちろんレッドはその時、無言だった。











一方、ほぼ同じ時刻にエコは獣猫たちの隠れ家になりつつあった公園の奥の木々の中へ帰ってきた。
すっかり薄暗くなって来た

「……あ、獣猫、先に帰ってたんだ! みんな助けられた?」
「………………」

獣猫はエコに目もくれずじっと、前方にある5本の木製の杭を見ていた。
足元では、唸っている犬たちが獣猫と同じく杭を睨みつけていた。

「行け」

獣猫が声を出す瞬間、犬は杭に向って走り出し鋭い牙で杭に噛み付いた。
地面から抜けてもまだ噛み付いている犬もいればキバでガリガリと木を削っていく犬もいた。
だが、右端の杭に向った犬はまだ子犬のせいか杭に上手く噛み付けず周りをウロウロしていた。

「…………お前、間抜け」

獣猫はその犬に歩み寄り杭を抜いてそれで子犬の背中を殴った。
子犬は小さく鳴いてその場に伏せたまま怯えた目をした。
しかし、獣猫はもう一度背中を殴った。今度は泣き声をあげなかった。

「や、やめてあげなよ獣猫!」
「さいぼぐ、黙る、コイツ、計画、する、十分、ない」

エコは杭を掴んだが獣猫はその手を振りほどいた

「せっかく助けてあげたのにさぁ、仲間にする事じゃないよぉ 可哀相だよぉ!」
「仲間、無い、みんな、道具」
「そんなぁ……獣猫どうしちゃったのさぁ」

獣猫はキッとエコを睨んだ。エコはその目に恐怖を感じた。

「とととととと、とにかく、動物をいじめたらダメだだだだだよよよよよよよよ!!」
「さいぼぐ、お前も、道具、俺に、命令、する、止めろ」

エコの頭に杭が直撃した。エコは目から星も、涙も出そうになった。

「くぅー……ぃたぃ……」
「俺、言う事、聞く、明日、計画、実行、する」
「…………は、はーぃ」

ギロっとした目で獣猫はエコを一見すると杭を子犬の前に放り投げた。
子犬は恐る恐るそれに噛み付き始めた

「……次、来る」

獣猫の声に犬は草陰の向こうへと走っていった。
それと入れ替わりに爬虫類がぞろぞろと歩いてきた。

「あ、トカゲだー。トカゲって尻尾切っても生えるんだよねぇー」

獣猫はまたエコの頭を殴った。

「……お前、黙る、お前も、訓練、する」
「………………はぃ」

獣猫はエコの足元に細い石を投げた。頭が凹んでないか気にしながらエコはそれを拾い上げた。
その石の片側は何度も何度も研がれて鋭くなっていた。これが刺さると痛いだろうなとエコは思った。

「これ、使う、線、切る」
「せ、線?」
「電気、流す、線」
「あぁ、電線だね。 え、でも電気はビリビリ来るんだよ。オレ怖いなぁ……」

獣猫はまたまたエコの頭を殴った。涙腺から涙が同時に飛び出した

「っくー……! ぃたぃぃ……」
「お前、馬鹿、これ、投げる、線、切る、石、戻る」
「……あ、ブーメランかぁ……ホントだちょっと曲がってる」
「朝まで、これ、使う、上手、なる」
「え、でもオレブーメランなんてやった事……」

獣猫はまた拳を振り上げた。

「わっ、わっ! やりますやります! えい!!」

適当にエコが投げたブーメランは向こうの方で木の枝が落ちた音がすると凄い勢いでエコに戻ってきた。
目をつぶっていながらも何とかブーメランを持つ事ができたが鋭い方をしっかり掴んでいた

「ぃだ! ぅゎ! 手の色が剥げたぁ!」

もし、生身だったらザックリといってしまっていただろう。
そう考えると機械仕掛けで良かったと再認識。獣猫は多少素質があると見受けるとエコに背中を向けた

「しっかり、やる、お前、俺の、道具、使えない、道具、いらない」
「は、はーぃ……」

エコは自分の手のひらに残った銀色の縦線をそっとなぞってため息を付いた

「………先輩、オレに厚い手袋持ってきてくれないかなぁ……」

朝日がエコを照らすまでまだ8時間。
エコの手に横線や斜め線がつき始めても訓練は長々と続いた。まるで時間が止まっているかのように長々と。












「おおおおおおおおおおおお、遅ぉい!!」

一人メイクも終え、今すぐにでもここでライブ出来る万全の状態でレッドは約束の場所に来ていた。
しかし、約束の時間を1時間過ぎてもメンバーは現れない。オマケに外は尋常でない寒さ。
さらに、道行く人々が「今時の若者は……」と言う冷たい目でレッドを見ていくので精神的な寒さにも限界が来ていた。

「……っくしゅん!! っあー! 寒い! せっかくこの格好で電車乗り継いで来たのに!」

レッドは、「あ、ビーストズのタイガさんだ。サインくださーい♪」と言う都合の良い妄想を抱きながら虎姿で電車に乗っていた。
しかし、今日は日曜日。しかも早朝の電車では農協の温泉旅行の集団と見事同じ車両に乗り合わせてしまった。さらになかなか降りない。
さらに老人からは「ヤンキーさんか」だの「この異端児が!」だの「親の涙をしっかり見たことがあるか」だの、小言や説教を受けて、
レッドが本当に道を踏み外すには十分な時間が電車内で繰り広げられていた。後、5分続いていればレッドはもう完全にグレてしまっていただろう

「……ぁぁ、顔が冷たい……つめたい……」

ちょうど会場の正面玄関に向って北風が吹いてレッドの顔を滑っていた。
後ろを向いたら向いたで開場していないドアの向こうの警備員と目が合って非常に気まずい。
何とか顔を覆う物がないかとレッドはそればかり考えていた。この際ヒョットコのお面でも何でも良い。
レッドはただ風からが顔を守る物が欲しかった。

「ニット帽でもあればなぁ……帽……あ、そうだ。ぼかぁ、帽子を被っていたんだ」

ようやく帽子の存在に気がついたレッドは帽子を脱いで顔に被せた。
恥ずかしいが顔を見られるよりかは幾分かマシだった。それにちゃんと風も当たらない

「はー……よかった…………よかっ…………た…………」

レッドの目が霞み始めた。時々感じるなんだか眠くなるようなふわふわした感じが。
レッドの上体が前方にフラッと倒れそうになった。顔の帽子が落ちた途端、傾きかけた上体がぐっと元に戻る。

「…………ん?何だ?……って寒っ!! 何だここ! マジさみぃ!!!」

本当の意味でレッドがタイガになるとタイガは突然尋常でない寒さの場所に一人でいる事に焦った。
隊員が一人も居ない所か変な格好もしている。ダサイロックバンドの様な格好。
しかも虎柄の上に別の虎柄が書いてあって非常にアンバランスで不恰好で、とてもタイガには耐えられなかった。

「???……何だ何だ……? アイツ何やってたんだ? と、とにかく虎柄を落とすか……」

タイガは何か公衆トイレの様な物を探すが当たりには変なオブジェが立ち並んでいるだけでソレらしき物は何一つない。
適当に会場の外をウロウロしていると一箇所だけ関係者入り口と書かれた入り口をタイガは発見した。
しかも、ありえないほど運が良く今、警備員はいない。

「ラッキー♪」

コソコソと得意の忍び足でタイガは中へと進んでいった。こういうところは実に虎らしい。
するとそれほど進んでいかない間にトイレのマークがタイガの目に入った。
急いで入ると中には誰も居ない。警備員が居るかもしれないと踏んでいたが本当にラッキーだった。
トイレットペーパーをいっぱい取り、それでゴシゴシとタイガは虎柄を落とし始めた

挿絵

「……ったく、ホランじゃあるまいし……アイツもホモなんじゃねーのかぁ……
オレの自慢の虎柄を汚しやがって……あ、まさかアイツ、オレに憧れて……? にゃはw オレの良さがやっと解ったかー?w」

そうこうしているとすっかりタイガの虎柄は元の崇高で綺麗な物に戻っていた。
タイガは洗面台で決めポーズを取ったりしながら取り残しが無いかチェックした。

「にゃはw 何でオレってこんなにカッコイイんだろうなぁ♪ よし、帰ってナンパしに行くか!」

タイガはトイレを出た。だが、バッタリ人と出会ってしまった。
思わず逃げようと身構えると彼は思いも寄らぬ言葉をタイガにかけた

「タイガ!こんな所に居たのかよ。ったく!」
「…………え?」
「もう一時間も過ぎてるじゃねーか。 ホラ、みんなジュンの楽屋前で待ってるぞ」
「な、なんだお前……? 何でオレの名前知ってるんだ!」
「お前こそ何言ってるんだ。お前はビーストズの元メインボーカルで現タンバリン候補のタイガだろ」
「ぼ、ボーカル……? オレが……?」
「そうだよ。どうしちゃったんだ? ホラホラ、行くぞ」
「??????」

タイガは言われるがままに彼について行った。少し歩くと廊下の前でしゃがんでいる二人のメンバーがいた。

「遅いぞタイガ。どこにいたんだ?」
「コイツトイレにいたよ」
「お前なー。現地集合なんだからジュンの楽屋に決まってるだろ」
「あ、あぁ……」

よく理解が出来てないが自分の名前を知っていて馴れ馴れしいと言う事は知っている人物なのかもしれない。
しかし、いくら思い出しても見覚えが無い。当然だが。

「中にはジュンはいない。 ジュンは9時入りだ。それまで俺たちは中に潜んでいる」
「潜む……?」
「クローゼットとか隠れる場所はいっぱいあるだろ。な、それでコンサート終了まで待つ。それで交渉だ」
「??????」

ジョーズは楽屋の扉を開けると早速、指示を出し始めた。

「俺とパールはこっちのクローゼット。ミカンとタイガはそっちの花輪の陰だ」
「さ、タイガ行くぞ」

タイガは頭が混乱していたがとりあえず様子見を言う結論を出してミカンと一緒に花輪の裏に隠れた。
一瞬、男特有の整髪料の匂いがして、タイガの嫌悪感が増した。

「…………」
「…………」

タイガは我慢出来なくなっていた。
ただでさえ男嫌いのタイガにとってこんな狭いところに二人でいるのは耐えられなかった。

「タイガ、お前……さ、男に興味ってあるか……? 俺……さ……お前のこと……」
「にゃ……にゃ……」

タイガの意識が朦朧として来た。こんな奴と嫌だ。どうせならレッドに押し付けちゃえ。
そんな考えが頭を過ぎるとタイガは後方に倒れた。

「……ハハ! ビックリしたろ! ビックリしたろ!………………タイガ?」

タイガが気絶した途端に、レッドに再び戻ってきた。

「タイガ?タイガ? どうした?」
「オイ、どうした!」

クローゼットの向こうから声がした。こっちの異変に気づいたらしい

「……俺のジョークがキツかったらしい」
「オイ、何やってんだよ。ジュンの入りまで後10分だぞ」
「あぁ、解ってる……あれ、可笑しいな……タイガのメイクが落ちてる……?」

レッドの体にはすっかりメイクの後が残っていなかった。

「汗っかきなんだなぁタイガって……ま、メイクは後でいいか」

床に落ちた帽子を顔に被せると外で何やら騒がしくなっていた。
突然、足音がバタバタと楽屋に近づいて部屋の前で止まった。皆は声を潜めた。

「……あぁ!やっぱり! 来てない!!」

スタッフらしき男たちが2,3人ほど部屋に飛び込んでくるのが隙間から見えた。

「何て事だ。今日に限って送電線が切れるなんて!!」
「電車は何時から再開するんだ?」
「それが、各駅が徐々に原因不明の切断が起きているので再開は解らないみたいです」
「あぁ、何てことだよ全く! 遂に大阪にもテロリストの魔の手が伸びてくるとは! チクショー!!」
「タクシーを呼べタクシーを!」
「電車が止まった為にほとんど出ているそうです」
「じゃあ自転車だ!三輪車だ!車椅子だ! 何でも良いからジュンを呼び出せ!!!」

一番野太い声の男はヒステリーを起こしながらバンバンと机か何かを叩いた。
その音でレッドは目を覚ました。すると目の前にはハッキリと虎柄の模様。

「あれ……僕……………………オレは…………?」

タイガは目を覚まして起き上がるとそこにはあの男の姿

「ンギャッ!!!!」

タイガは花輪から飛び出すと今度は目の前に見知らぬ3人の男たち

「ジュン!! 居たのか!」
「良かった。早めに来てくれていたんだな!」
「間一髪でしたね。さ、ジュンさん支度してください!」
「な、何だ! 今度は一体なんだ!?」

タイガは椅子に座らされるとメイクさんらしき人に顔をポンポンした白い物で叩かれた。

「さ、今日は初デビューのコンサートですからね。しっかりやってくださいね」
「な、何なんだよー!!!」
「オイ、ジュン! 早く支度してくれよ。電車が止まってるってのに何人も客が並んでいるぞ」
「お前は誰だよ!!」

タイガはメイクを終えるとインカムを付けられてスタッフに担がれながらステージ袖に連れてこられた。
何が何だか理解できないタイガはもう理解できない状態が酷すぎて考えるのを辞めた。

「……いいな。あと30分でデビューコンサートが始まる」
「うんうんうんうん」
「しっかりやれよ! お前なら出来る!」
「うんうんうんうん……」











「さいぼぐ、切る、終わる、か」
「……んっとね……もうここのはほぼ終わったかな」

青い右手がすっかり銀色になってしまっていたエコは、
なんとか上手く戻ってくるようになったブーメランを受け取って言った。

「ネズミたちもさっき、駅長室で操作パネルの線を切ったみたいだからここは終わりだねー」
「次、行く」
「次って、もう線路はこの駅で終わってるよ?」
「最後、発電所、壊す」

獣猫はニヤリと笑うと俊敏な動きでエコの前を走っていった。

「ま、待ってよー!」










『間も無くライブを始めさせていただきます……』

遂に時間が来てただの頷きマシーンとなったタイガはステージへ放り出された。
その途端、大声援がタイガの耳を劈いた。その声援にタイガは聞き覚えがあった。

「(ハッ! そうか、これはトラトラの復活コンサートなんだな!)」

微妙に外れた結論を出すとタイガは久々の声援に体がムズムズとした。
タイガは自分が世界で一番カッコイイと思う顔を客席に向けた。

「……みんな元気かーい!」
「キャーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「今日は久々のコンサートだから楽しんで言ってくれよー!!」
「キャーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

ゾクゾクとした感覚がタイガの全身に伝わってきた。

「じゃぁ、一曲目行くぜー!!」
「ワーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

会場内に、ジュンのデビュー曲である『Time-stop』のイントロが流れ出した。
しかし、タイガはこの曲を全然知らなかった。普通なら一番メジャーなナンバーを出すはずだ。
アルバム曲にこんな曲はなかったし、等などタイガは色々と考えるが結局歌いだしを過ぎてもタイガの脳裏に歌詞は出てこなかった。

「……えーと……えーと……」

会場内が徐々にザワつき始めた。タイガは少ない脳みそで打開策を一生懸命考えた。
20年分くらいの脳みそを使ってタイガはようやく良い事を思いついた。

「STOPSTOP!!」

曲が止まった。観客も何だ何だとステージに注目する。

「……そ、その前に、ファンの皆のためにオレの質問タイムをやろう!何でも応えてあげるよー」
「………………キャーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

何とかこの状況は打破する事が出来た。
タイガはとりあえず観客席を眺めて好みの女の子を指差した。
女の子はキャーキャー嬉しそうに飛び跳ねていた。

「名前は何て言うのー?」
「あ、アズサです!」
「アズサちゃんかぁ~カワイイ名前だねー」
「カワイイだなんてそんな……」
「ハイ、質問をどうぞー♪」
「えっと、好きな女の子のタイプは何ですか……?」
「それは、あず……」

アズサちゃんみたいな子だよ、と言おうとした時、タイガはトラトラ時代の事を思い出した。
『特定の女の子だけを褒めるような事をしたらファンはすぐ離れていく』と言う事を耳にたこができるほど聴かされていた。

「……あずきみたいに小さくて可愛い女の子かなぁ」
「キャーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

私はアズキよ!みたいに身を乗り出すファンがタイガの目に入った。
何とか良い方向に持っていけたみたいでホッと胸をなでおろした。

「じゃ、戻っていいよー」
「あ、ありがとうございました……」
「じゃー次の子はー……」

タイガが次の好みの子を探して指を指そうとした時、会場内にアナウンスが流れた

『さて、ではいよいよ、デビュー曲を歌います! 皆さんはりきって応援してください!』

突然、あの知らないイントロが再び会場内に大音量で流れ出した。
ステージの前からはボン!と花火が噴出した。どうやらスタッフ側で勝手に進行されないように手を回したようだ。

「キャーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

会場内は待ってましたとばかりにヒートアップ。次の手を考えるが腹痛以外の案が思い浮かばない。
しかし、アイドルはトイレに行かないと言うポリシーがあるからにはそんな手を使うわけには行かない。
ついに、歌いだし直前になった。

「(こ、こうなったら適当に歌っちゃえ!!)」

歌いだしのメロディーになった瞬間、タイガの目の前は真っ暗になった。
いや、本当に真っ暗だった。曲も止まっている。会場内もザワつき始めていた。

「どうしたんだ!」
「停電みたいです。ちょ、ちょっと見てきます!!」

タイガの耳に舞台袖のスタッフの声が聞こえた。
コレは神がくれたチャンスだとタイガは思った。このまま居なくなれば恥をかかなくて済む。
タイガはそっと反対側の舞台袖から素早い動きでステージを降りた。


「うわっ!」
「いてっ!」


タイガは薄暗い廊下に出た瞬間誰かにぶつかった。
ステージよりかは外の薄明かりが見えている為ハッキリと相手の顔が見えた。

「あっ、タイガ!無事だったか! 暗くなったこの隙に逃げようぜ」
「ギャ!」

あの男の顔だとタイガが認識した瞬間タイガの意識はとっさにレッドに変わった。

「あれ……?ぼかぁ一体……」
「お、タイガ!無事だったか」

ビーストズのメンバーたちだった。

「ジュンは到着が遅れるらしい。多分今日は中止だ」
「さ、タイガ逃げるぞ!」
「あ、うん……」

メンバーたちと徐々に明るくなっている通路をまっすぐ走って行った。

「わっ!」
「いた!」

ちょうど出た途端レッドはまた誰かとぶつかった。メンバーでは無かった。
ライオンだった。いや、ライオンの毛皮を被っているエコだった。

「あ、あれ?エコ?どうしたの?」
「わっ、まずい!」

エコはレッドを見るなり慌てて逃げ出そうとしたが、レッドが足で踏んづけていた毛皮に引っ張られて派手に転んだ

「……何か悪さしてるんじゃないだろうね……?」
「し、知らないよ……オレは知らないよ!」

またエコは逃げようとしたがレッドが全く動いてないので再び派手に転んだ。

「……怪しい」
「う……うぅ……」

エコの毛皮を踏みながらじりじりとレッドは近づいていった。
その時、レッドのお尻を何かが引っかいた

「痛い!!」

レッドがお尻を押さえて倒れるとエコは急いで逃げ出した。
エコが逃げた先になにやら足元に動物が集まっている見知らぬ奴が立っていた。

「……さいぼぐ、遅い」
「ごめんごめ……わっ!!」

エコはレッドのペンダントヨーヨーに足を取られて三度目の転倒をした。

「いたた……もう絶対許さないからねー……僕のお尻を引っかいたのは君!?」
「俺、違う」
「お、オレたちの仲間の犬たちだよー」

エコの連れらしき奴はエコの頭を殴った。

「仲間、違う、道具」
「ご、ごめん………」
「まさか、会場が真っ暗なのもキミらのせい!?」
「違うよ、オレと獣猫と動物たちで色んな駅と発電所の送電線を切っただけだよ」

エコは獣猫にまた殴らた。

「言葉、多い」
「(あれ、何かオレ昨日と今日で凄い痛い思いしてる様な……)」
「となると、相当悪さやってる訳か……OFFレンの隊長として見過ごすわけには行かないね」
「おふれん?」

獣猫の目がギロっとレッドを見つめた。レッドはその目の鋭さに一瞬怯んでしまった。

「お前、おふれん、か」
「……そ、そうだよ……」
「おふれん、……、倒す、……、ウィック様、……、倒せ、……、言った」
「ウィック?まさかキミは……」
「…………俺、BC団、改造猫、獣猫、おふれん、倒す」

エコは無言で獣猫を見ていた「BC団だったのかぁ」と言う顔だ。

「……BC団なら本格的に対抗しなきゃね……」

レッドが獣猫に歩み寄ろうとすると獣猫の足元の動物たちがバッとレッドの周りを取り囲んだ。

「助けてくれタイガー!」

しかも、後方にいるメンバーたちもいつの間にか動物たちに囲まれていた。

「お前、動く、アイツら、何を、する、わからない」

獣猫はニヤリと笑った。しかも会場内から突然悲鳴の様な物があがった。

「まさか……」
「……人質、取る、お前、俺に、倒される!」

レッドが少しでも動こう物ならばすぐさま動物たちは人々を襲うだろう。
武器はペンダントヨーヨーのみ。携帯PCを開く時間があればBOXを転送してもらえるが……。

「ね、ねぇ獣猫。タイガ先輩もいるんだからあんまりレッドを痛めないでね? ね?」
「さいぼぐ、黙る、みんな、死ぬ、か、生きる、か、だけ、倒す、は、殺す、こと」
「だ、ダメだよ! そこまでしたらオレ、先輩に会えなくなるじゃん! オレ、先輩から教えてもらう事がいっぱい……」
「お前、黙る、邪魔、するな」

獣猫はエコを思い切り突き飛ばした。エコはカッとして立ち上がると思い切り獣猫に体当たりした。

「!!」
「先輩を殺しちゃダメダメダメ!!!ダメだーーーーー!!!」
「止める! お前! 邪魔!」

獣猫の異変に気づいて動物たちはエコに飛び掛った。
噛み付かれたり引っかかれたりされながらもエコは獣猫に圧し掛かっていた。

「今だ!」

レッドはPCを開くとBOXの転送要請メールを本部に送った。

「離れる! さいぼぐ! 離れる!」
「ダメだダメだダメだーーーーーーーーーっ!!!」

すぐさまグリーンからBOXが転送されて来た。

「離れる!!!!!!!」

獣猫が思い切りエコを投げ飛ばし、起き上がった頃には既に遅くレッドはBOXを地面に投げつけていた。

「マジック! 絵本の朗読家さん!」

BOXから飛び出した。
ピンク色の煙の中から優しそうな顔のおばさんがと古びた木製の椅子が現れた。

「はーい、よい子のみんなー絵本を読んであげますよー」
「わーい!」

どこからかおばさんの周りに幼稚園児ぐらいの子供たちが集まってきた。
ついつい、レッドも獣猫も動物たちも集まってしまった。エコは気絶していた。

「……じゃー今日は『怒りんぼうな猫』を読みましょうねー」
「わーい!」

チラとレッドは横目で獣猫を見ると彼には絵本が珍しいのか黙って様子を見ていた。

「ある所に、怒りんぼうな猫さんがいました。猫さんはいつも怒ってばっかりでお友達がいませんでした……」



そんな怒りんぼうな猫の家の隣に白猫が引っ越してきました。
白猫は引越しの挨拶をしに怒りんぼうな猫のお家にやって来ました

トントントントン

「こんにちは、隣に引っ越してきました白猫です」

すると、ドアが開いて怒りんぼうな猫は色猫に向って怒り始めました

「なんだうるさいな。僕の家のドアを叩かないでくれよ」
「ごめんなさい。軽く叩いたつもりだったんです」
「フンだ。やっぱり叩いたんじゃないか」
「だって、ドアはノックするもんでしょう?」
「フンだ。そんな事誰が決めたんだよ」

怒りんぼうな猫はプンプンしながら白猫に冷たく言いました。
白猫はとりあえず挨拶だけでもしておこうと美味しそうなパンを怒りんぼうな猫に差し出しました。

「怒らせてごめんなさい。僕は今日隣に引っ越してきたんです。これは僕が焼いたパンですからどうぞ」

しかし、怒りんぼうな猫はパンを受け取りませんでした。

「僕はパンが嫌いなんだ。嫌がらせのつもりなんだろう」
「そんなことありません。僕が前にいた街では友達に僕が焼いたパンは大人気だったんです。
だから新しいお友達になるあなたにも僕の美味しいパンを食べてもらおうと思っただけなんです」

白猫がそう言うと怒りんぼうな猫はもっと大きな声で怒鳴りました。

「うるさいうるさい! 僕はお前と友達になんかなりたくないやい! とっとと帰れよ!」

バタンと怒りんぼうな猫はドアを閉めてそれから二度と出てきませんでした。
白猫はパンを持って家に帰りました。



それから毎日の様に白猫は怒りんぼうな猫の家にやってきました。

「トントントン! 一緒に遊びましょう」
「ドンドンドン! 遊びたくないやい!」

怒りんぼうな猫と白猫のこうしたやりとりは何日も続きました。
白猫はますます怒りんぼうな猫と友達になりたくなっていました。
それは、白猫が帰っていく時にこっそり怒りんぼうな猫が、
いっつもこっちを寂しそうな目で見ているのに気づいたからでした。

「どうにかして怒りんぼうな猫さんとお友達になりたいなぁ」

白猫は寝るときもご飯を食べているときもそればかり考えていました。
時にはお星様にお願いまでしました。

ある日、白猫がいつもの様に怒りんぼうな猫の所へ行こうとすると窓から怒りんぼうな猫が庭にいるのを見つけました。
怒りんぼうな猫は庭にある鳥かごの中の小鳥にパンをあげていました。
いつも怒っている猫の顔はとても優しそうでした。白猫は窓を開けて言いました

「怒りんぼう猫さん。僕のパンも小鳥さんにあげてくれないかなあ」

すると怒りんぼうな猫はびっくりして「うわあ」と叫びました。
そしてまたあの怒った顔で怒鳴りました。

「びっくりするじゃないか! こそこそと僕の家をのぞかないでくれよ!」
「ごめんなさい。でも、その小鳥さんが可愛かったからつい」
「フンだ。僕の小鳥はとっても高いんだぞ。何処にも売ってないんだぞ」

怒りんぼうな猫は白猫が羨ましそうな顔をしているのを見てついいじわるをしたくなりました。

「そうだ、この小鳥をキミにあげても良いよ」
「本当かい?」
「その代わり500万僕にくれよ」
「そんなに高いのかい?」
「当然だよ。本当はもーっと高いんだぞ」

怒りんぼうな猫は白猫が困った顔をしているのを見てさらに小鳥を白猫に近づけました。
するとどうでしょう、白猫はアタッシュケースを持って怒りんぼうな猫に中を開けて見せました。
そこにはたくさんのお金が入っていたのです。

「じゃぁ、僕、買うよ」

怒りんぼうな猫は驚きました。白猫は怒りんぼうな猫に500万を渡すと鳥かごを受け取りました。
怒りんぼうな猫はただ驚いているだけで動く事ができませんでした。
白猫は、この前株で大儲けしたばかりだったのです。

「ありがとう。僕、大事にするからね。もしよかったら小鳥にパンをあげに家にいつでも遊びにおいでよ」

白猫は小鳥をきっかけにして怒りんぼう猫をお家に呼んで仲良くしようと思ったのです。
ですが、怒りんぼうな猫は黙って家の中に入ってしまいました。白猫はしょんぼりしてしまいました。

怒りんぼうな猫はそれから、白猫に裁判を起こしました。小鳥を取り返すためです。

「僕は売ってもらったんだよ」
「いじわるな白猫が僕の小鳥を取ったんだ!」

怒りんぼうな猫はそう言いましたが、調査の結果白猫の言い分が正しい事がわかったのです。
すると今度は

「僕は本当は売るつもりは無かったんだ。500万もするわけないじゃないか」

と言い出しました。
しかし、白猫は高い小鳥だと聞かされていたので本当に500万以上すると思い込んでいました。
そのせいで心裡留保が有効だと認められ売買契約が結ばれた物とされ怒りんぼうな猫は負けてしまいました。

怒りんぼうな猫は家に帰ってわんわん泣きました。
あれは怒りんぼうな猫が大事に大事にしていた小鳥だったのです。
しかし、怒りんぼうな猫は裁判に負けた悔しさで白猫に返してくれとは頼めませんでした。
そして怒りんぼうな猫はその夜、服毒自殺を図りました。

次の日、白猫は怒りんぼう猫と側にあった遺書を見てわんわん泣きました。

「僕が悪いんだ。僕がキミの小鳥を買ったのがいけなかったんだ」

白猫は一日中泣きました。次の日も泣いていました。その次の次もです。
白猫はご飯を食べなくなりました。笑わなくなりました。ただ怒りんぼうな猫のそばで泣いているのです。

「ごめんよ。僕が悪かったよ」

どこかで声がしたのに白猫は気づきました。怒りんぼう猫の声でした。
薬の致死量を怒りんぼう猫が間違えていたので助かったのでした。

「キミはずっと僕の為に泣いてくれていたんだね」
「だって僕はキミの友達じゃないか」

いつの間にか怒りんぼう猫はわんわん泣き出しました。

「僕は本当は友達が欲しかったんだ。でも、何度も裏切られて心を開く事が出来なかったんだよ」
「大丈夫だよ。僕は裏切ったりしないよ。小鳥は返すからね」
「ありがとうありがとう。うわーん」

それから、白猫と怒りんぼう猫は仲良くなり、毎日一緒に遊ぶようになりました。
怒りんぼう猫は怒らなくなりました。そのおかげで怒りんぼう猫にはたくさんの友達ができました。
怒りんぼう猫は嬉しくていっぱい笑うようになりました。

そしていつの間にか怒りんぼう猫はニコニコ猫と呼ばれるようになりました。
今では街のみんながニコニコ猫とお友達になっているんですよ。

おしまい



「……さぁ、みんなどうだったかな?」
「面白かったー」
「ニコニコ猫と友達になりたいな」
「裁判の下りが実に興味深かったー」

子供たちは満足そうな顔をしていた。
おばさんは黙ってムスっとしていた獣猫に向って言った。

「どうだったかな?」
「…………痛い、頭、痛い」

獣猫は突然頭を押えてその場にしゃがみ込んだ。
獣猫の頭に響いていたウィックの言葉が徐々に消えていった。
その瞬間、獣猫はバタンと地面に倒れた。

「……役立たずめ」

獣猫の側にいつの間にかウィックが立っていた。

「……今回も引き下がろう。だが、必ず次に会ったこそはOFFレンジャー……貴様らの最後だ」

ウィックはパチンと指を鳴らすと獣猫と共に消えてしまった。

「……もうここには怒りんぼう猫はいないみたいね。じゃ、お友達をお家に帰さないとね」

おばさんはそう言うと動物たちを従えながらポンと煙に包まれて消えていった。
幼稚園児たちもわーっと蜘蛛の子を散らすように帰っていった。

「……はー。なんか長い戦闘だったなぁ……」













「お前ら!!何でここにいるんだ!!」

ホッと一息ついたレッドの後ろで誰かが叫んだ。

「あっ、ジュン!」
「やっと来れたと思ったら……お前ら何しに来たんだ!!」

どうやら彼がジュンさんらしかった。
トラメイクをしていないので解らないがレッドに似ている様には思えなかった

「……頼む!俺たちと……」

メンバーのすがるような目にジュンは渋々頷いていた。

「仕方ないな……特別だぞ」
「ジュン!ありがとう!」

ジュンはレッドに手招きをした。

「キミも……その格好からすると新メンバーなんだろ?担当は?」
「ぼ、ボーカルのタイガです」
「一緒にやるかい?」
「は、ハイ!」









会場内の予備電源による照明の中、観客たちは意気消沈しきっていた。
停電、動物来襲……。もう帰ろうとする人々が増えていた。その時だった。

「みんな!待たせたな!」

ステージにトラメイクをしたジュンが飛び出してきた。
観客は再び騒ぎ始めた。

「……今日はデビューライブだけど、俺の第二の家族、ビーストズと一緒にデビューライブしたいと思う!」
「キャーーーーーーーーーーーー!!!!」
「まず、ヒョウのジョーズ。ライオンのパール、チーターのミカン、そして俺と同じトラのタイガ!」

ぞろぞろとメンバーと一緒にステージにあがった。レッドは心臓がドキドキしていた。

「じゃぁ、行くぜ! 俺のデビュー曲『TimeSTOP』!」

観客とメンバーが一つになっていた。曲を知らないレッドだが上手くジュンがアシストしてくれた。
他のメンバーたちも楽器を見事に操っていた。さすが何年も苦楽を共にしたメンバーだと思った。

曲はあっと言う間に終わった。レッドはもっと歌いたいと思った。

「みんな、ビーストズをよろしくな!」

大声援の中デビューライブは終わった。レッドは終わった後もまだふわふわした変な感じが残っていた。
メンバーたちも同じらしく感激して泣いているメンバーもいた。

「ありがとう。ジュン。やっぱりお前は俺らのリーダーだよ」
「そうおだてるなよ」
「でも、良かった……ジュンがビーストズに戻ってきてくれて」
「ん?何の事だ?」

メンバーの動きがピタッと止まった。

「……え、お前……俺らライブに……」
「俺のいるビーストズ最後のライブでけじめをつけてしっかり引き継ぎして欲しかったんだろ?」
「違う違う! 俺らはジュンに戻ってきて欲しかったんだよ!」
「何で俺がいまさらビーストズに戻るんだ?」
「何年も一緒にやってきたメンバーじゃねーかよ!!」

ジュンはあっけらかんとした顔で言った。

「だって俺、金欲しいもん」

メンバーは何も返す言葉が無かった。

「あ、そろそろセカンドシングルとファーストアルバムの打ち合わせだから俺行くわ。がんばれよー」

ビーストズのメンバーはジュンの背中を黙ってみていた。
レッドも呆れたままジュンの去った廊下の向こう側を見ていた。その時、ポンとレッドの肩を叩かれた。

「…………?」

振り返ると、3人のメンバーらがレッドをキラキラした目で見つめていた。

「今後も俺たちビーストズ頑張っていこうな。リーダー!」
「リーダー!」
「リーダー!」



「………………えっ!?」