第71話

『メンコバトラーKEN』

(挿絵:グリーン隊員)

「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」

息を切らせながら少年は暗闇の中を走っていた。
そこにはただ闇しかなかった。少年の心がそう見えさせていた。
逃げ場はどこにも無い。自分が安らぐ事の出来る場所はどこを探しても無いのだ。

──ヤツらに捕まりたくない……。

それが少年が走っている、そして恐怖心を少しでも紛らわせる為の動機だった。
だが、そんな少年を助ける者も、逃げられる場所はこの街にはどこにもなかった。
いや、正確に言うと隣町に入れば一箇所だけ存在した……。


その場所とは……勘の良い皆さんなら解りますね……?










「ふぅ……」

レッドは、早朝の朝日を浴びながら目覚めのモーニングコーヒーに口を付けた。
キラキラと光る白いスポットライトがレッドだけを照らしている。

「(……苦い)」

ツンと来る大人の香りも味もまだまだレッドには遠い存在であった。
しかし、この映画のワンシーンの様な光景を自分がやっているのだと言う思いが、
彼を映画俳優の様な気分にさせ、十分彼をその状況の中で酔わせていた。

「(……寒い)」

さらに格好をつけて路上にコーヒーカップを片手に佇んでいてはこの時期まだまだ寒かった。
本人にとっては映画のワンシーンでも、傍から見ればただの風変わりな少年に過ぎなかった。

「レッド、こんなところにいたんですか」
「……フ、グリーンか。何の用だい」

迎えに来たグリーンに一瞬、「っあー!寒かったぁー!」と言いたい気持ちを飲み込んで、
レッドは自分のできる精一杯のシブい顔で呟いた。そして、コーヒーを飲んだ。

「(……苦い)」

一方、グリーンは昨日、傷だらけで倒れていた少年をレッドの部屋で寝かせていた事を少し後悔した。
レッドはきっと一人寒いロビーのソファで寝かされていた事を当てつけているのだと思ったからだった。
だが、レッド本人は別段そんな事は考えておらずただ一晩起きていて朝日が綺麗だから、
何かカッコイイ普段できない事をしようと言う無意味なチャレンジャー精神による物だった。

「……さぁもう中に入りましょう。あまり人に見られると恥ずかしいですよ」
「……フ。それもそうだね……Good Bye……僕の心の白い朝日」

レッドは即座に考える事のできたセリフを呟くと本部に戻っていくグリーンの背中を見つめ、コーヒーを再び飲んだ。

「(……苦い)」

それから、レッドが口の中を苦味でいっぱいにしてグリーンと本部のドアを開けると何やら中が騒がしかった。

「ダメですよ。まだ傷が治ってないじゃないですか」
「だ、ダメだ……あなたたちにまで迷惑をかける訳には……ぐっ……」

玄関前の廊下で包帯を巻いて苦痛の表情を浮かべている少年とそれを取り押さえる隊員の姿があった。
腕に巻かれた真っ白な包帯の一点に赤い染みがわずかに広がっていく。

「何の騒ぎですか一体!」

そう聞いたグリーンも大体の状況は飲み込めていたがどうやら彼の癖らしい。

「この子、誰かに追われているらしいんです。だからここから出ると」
「俺のせいで……関係ないあなたたちまで不幸にするのは……忍びないんだ……うっ……」
「仕方ないですね。イエロー……」

グリーンにコクリと頷くとイエローは白衣の中から注射器を取り出して素早く少年の腕に注射した。
すると起き上がろうとしていた少年の体がガクンと崩れた。

「な、何をっ……」
「怪我人を放っておくわけには行かないですからね、当分眠ってもらいますよ」
「グリーンいくらなんでも正義の味方のする事じゃないよ」
「レッドは解らないでしょうがこうでもしないと隊長なんて務まりませんよ。さぁ、少年を部屋へ持って言ってください」

男子隊員3人で少年を運んだ。するとレッドは少年の居た場所に何やら通常より少し厚いカードが落ちていた。
拾い上げてみるとカードゲームの様にドラゴンの絵がかかれていた。しかし絵だけでステータス等は書かれていない。

「……何だろコレ?」
「最近流行ってるんじゃないんですか?良く知りませんが」
「ま、後で返しておけばいいよね」

レッドはカードをしまおうと思ったが猫だからポケットがないので帽子の中にカードを入れた。

「……でもあの子一体誰に追われているんだろ? 助けてあげないといけないよね」
「それは、とりあえず少年が目覚めてから詳しく話を聞きましょう」
「でも、目が覚めたらまた逃げ出そうとしないかな?大丈夫?」

グリーンは鼻で笑った。

「……痺れ薬も配合してますから起きても3時間は動けないですよ。大丈夫大丈夫」













その夜。尾布市の外れの外れに、またもや傷だらけになって逃げる一人の少年が居た。
だが、前述の少年と違う点は既に彼がその『ヤツら』に捕まっている所だった。

「さぁ、アイツの場所を言え。この辺にいる事は解っているんだ」
「……知らないっ……」
「アイツがいたら色々と面倒なんでねぇ……さっさと白状してもらおうかな?」
「知らないと言ってるだろう! 知っていてもお前らには教えないぞ!」
「おやおや……どうやらこの俺様にお仕置きされたいらしいな……」
「!!」

人気の無い寂れたこの場所に不気味な音が響いた。










翌朝、レッドが部屋に入ると少年は目覚めていた

「あ、起きてるよグリーン」

少年は何やら訴えかけるような目でレッドを見ていた。
どうやら体が動かないのを助けて欲しいと言っているみたいだった。

「あらホント。ちゃんと起きてますね」
「…………」

二人が少年の側まで来た時、絞り出すような声で少年は言った。

「……な、何を……し、た……」

何だか自分たちが悪者になった様な気分がした。

「……安静にしないといけないのでちょいと痺れ薬を入れさせてもらいましたよ」
「お前たちも……ヤツ……ら……の仲間……か……」
「クックック……さぁ、どうでしょうかねぇ~?」
「グリーン。あんまり不安がらせちゃダメだよ」

悪乗りが過ぎるグリーンを制してレッドは優しい声で少年に声をかけた

「僕らはね。ぐるぐ(略)って言って正義の味方なんだ。だからもしよかったらキミたちの力になるよ?」
「……正義の……味方?」
「うん、こう見えて結構いろんな悪者をやっつけて来てるんだよ。だから、ヤツラについて何か教えてくれないかな?」

少年は一瞬戸惑った風に見えたがやはり表情は曇ったままで目を逸らした

「……ムリ……だ……ヤツら……に……は……勝てる……わけがな……い」
「えーでも色んな武器があるよ?」
「……あなた……たちには……力が……無い……なす術も無く……やられてしまう……」
「力?力って何の事?」
「あ…………かっ……ぐ……」

少年の口はブルブルと震えていた。どうやら痺れの波がまたやってきたらしい。
グリーンは少年の体に布団をかけるとレッドをドアに向けて背中を押した

「……レッド、あと2時間くらいで痺れが止まりますからそれまで部屋に戻っておきましょう」
「う、うん……」

グリーンはそっとドアを閉めると、針金をドアノブにぐるぐると巻き、反対側の部屋のドアノブにもそれをまきつけた。

「さてと、これで早く薬が切れても大丈夫でしょう。さ、行きましょうレッド」
「グリーン……ちょっと性格変わった?」
「何を言ってるんですか、私は昔からこうですよ?」

グリーンはリビングの方へと歩き出した。レッドもその後を付いていく。
リビングでは隊員たちの数がさっきより減っていた学校で忙しいらしい。
何故か、一番いいソファでTVを見ながらジュースを飲んでいるエコがいた。

「あ、せんぱぁーい」

レッドを見つけたエコがブンブンと激しく腕を振りソファから飛び降りた。
レッドの方へ歩み寄ってくる間にグリーンが割って入った

「……エコ、時々忘れそうになりますがあなたオオカミ軍団所属でしょう」
「ふぇ?」
「何で、正義側に遊びに来てるんですかって事を言いたいんです」
「でも、タイガ先輩も良く遊びに来てたってオオカミ言ってたよ」
「それはそうですけど……タイガよりもタダ飯食らってますよね?あなた」
「だってお腹すくんだもん。それより先輩、聞いてくださいよ~!」
「人の話を聞きなさい!!」

しかし、エコは自分の事を呼ばれていると気づかないレッドの帽子をグイと掴んで下に引き降ろした。
だいぶエコもこの手順に慣れているようで手際が良い。もし、帽子引きと言う競技があれば中々良い成績が出そうだ。

「……ふぁ~!やっと出られたぜ~!!」

タイガが出てくると久々の登場なのか大きな伸びをした。

「先輩先輩。聞いてくださいよー。オレ、ここに来る途中変なのに絡まれたんですよぉ」
「あっそー……それより何か腹減ったなぁー。エコ、ちょっとパン買って来い」
「パンならココにありますよ。ハイ、先輩」

エコがタイガに渡したパンはOFFレンの資金で隊員用に買ったものだった。
グリーンはエコにせめて少しは申し訳なさそうな素振りを見せて欲しかった。

「……もぐもぐ。もぐもぐ」
「先輩先輩。さっきの話なんですけどね。オレ、ガン飛ばされたんですよー」
「ふーん」
「だから、オレもガン飛ばしてやったんです。こう……」

エコは怒った顔をしていた。
どう見ても「んだコラァ!」と言う顔では無く「怒ったぞー」と言う顔だ

「ふーん」
「で、何か変な事聞いてきたんです。この辺に見かけない子供がいなかったかって」
「あーこれうめー。今度からコレ食うか」
「で、オレは知らないって言ったらどっか言っちゃったんですよ」
「オチ無しかよー……っとにつまんねーなーお前の話は」

タイガはパンの空き袋をポンとエコの頭に投げた。
エコはしゅんとして投げつけられた頭の部分を掻いた。

「……後でもしかしたらタイガ先輩の事探しているのかなーって思ったんです」
「オレは子供じゃねーぞ」
「何だか強そうなヤツらでしたよ。でも、先輩には及びませんけどね!」
「…………まぁ、オレに敵はいねーしな」
「さすが先輩!その自信に溢れた所、すっごく尊敬します!」
「にゃはにゃはw だろだろー♪」

タイガは勝ち誇った顔で笑っていた。これもいつもの恒例儀式みたいな物だ。
どうしてお互いいつもやっている事だと思わないのだろう。健忘症なのか。飽きが無いのか

「ハイハイ、いつまでもそんな事やってないでエコは帰ってくださいよ」
「そうだな。お前はもう帰れ」
「タイガもですよ」
「何でだよ!」
「今日の我々は色々と立て込んでいるんです。だからタイガやエコの相手をする時間は無いんです」

シッシッとグリーンはジェェスチャーをするとタイガはエコの耳元で何かを囁いた。

「……じゃーお前は先帰れ。俺はレッドに戻るからな」
「は、はぁい」

バタバタとエコは帰るとタイガも目を閉じた。しかし、何時までたってもレッドに戻らない。

「……変ですねー」
「ずっとトイレガマンしてるから集中しづらいんだなきっと。トイレ行って来る」

タイガもバタバタとトイレへと向った。グリーンは特に気にしなかったが、さっきの耳打ちをふと思い出した。
グリーンは慌ててトイレに向った。そこには当然タイガどころか誰も居ない。

「……やられたっ!」













まんまと脱走を試みたエコは本部から離れた尾布橋でタイガを待っていた。
しばらくすると笑いを堪えきれない様なタイガが走ってきた。

「にゃははw アイツ今頃悔しがってるぜ?」
「いい気味ですよねー。いっつもタイガ先輩に失礼すぎですよ」
「……んじゃ、久々に橋に来たことだしナンパでもするかな?」
「いいですねー。オレもお供しますよぉ」

と、エコが挙手をしようとするとタイガはエコを置いてさっさと橋の向こうに歩き出した。

「お前がいるといっつもナンパ失敗してるからヤダ」
「そんなぁ~! オレいつも先輩の邪魔をしないようにしてるじゃないですかぁ~」
「……じゃぁ、いいか?見てろよ?」

タイガはエコを橋の欄干に立たせて一人こっちに向って歩いてくる女性に近づいていった。
少々、背がタイガより低いが、凛とした清楚な顔立ちだった。大学生だろうとタイガは踏んだ。

「ねぇ、お姉さん可愛いね。ちょっとお茶しようよ」
「……すいません急いでいますから」

タイガに目を向けず黙々と正面を向いて女性は早歩きになった。

「時間取らせないからさ。どうしてもお茶したいんだ」
「……私以外の人にしてください」
「お姉さんオレの初恋の人にそっくりなんだ。こうして出会ったのも何かの運命じゃないかな?」
「私は、その初恋の人じゃありませんから」
「いや、違うなぁ。オレの初恋ってお姉さんだもん♪ 一目ぼれ」

女性は足を止め、怒った顔をタイガに向けた。

「いい加減に!!!……し……て……」

タイガの100万ドルスマイルを見て女性は頬を赤らめて短い前髪を何度も掻き分けた。
するとタイガは突然寂しそうな顔をした。

「ごめんね。オレ、お姉さんとお茶したかっただけなんだ……」
「ヤダ……私、ご、ごめんなさい。さっき彼氏と別れたばかりだから……気が立ってて」
「お茶してくれる……?」
「う、うん。喜んで」
「やった!」

再びタイガは満面の笑顔をここぞとばかりに女性に浴びせた。

「(ヤダ……この子カッコカワイイ……)」

このライト・ダーク・ライト方式は年上の女性の母性本能をくすぐるには実に効果的なのである。
もちろん、タイガほどの素材を持ってしなければ効果は無いのだが、彼女はまんまと術中にはまってしまった。

「オレ、タイガ。よろしくね♪」
「あ、うん……私、詩織」
「詩織ちゃんって呼んでいい?」
「あ、うん。私はなんて呼ぼうかな……」
「タイガで良いよ!所で……」

タイガは彼女の肩に手を置いてニッコリ笑った。

「……詩織ちゃんってHの経験ってあるー?」
「え?や、ヤダ……突然そんな……」
「あるの?無いの?」
「……な、無い……ケド……」
「じゃぁさ!オレとやろうよ♪ 近くにラブホあるから。ホラ、すぐ行こ♪」

タイガも笑顔のまま腕を引っ張るから彼女の顔が強張って来た。
彼女の煮え切らない態度にタイガもつい力を入れてしまう。

「オレ、一度も経験無いんだよー。でも、テクは凄いからさー!」
「い、イヤ……ちょっと……誰か……」
「ねぇーってばー!!」

彼女はタイガを思い切り突き飛ばして涙目のまま逃げていった。
タイガは思い切り尻餅を付いた。かと思えばすぐさま舌打ちをして立ち上がるとエコの方へと歩いていった。

「ホラ見ろ!! やっぱお前がいるからだっ!!」

ボカンとタイガはエコの頭を殴った。やっぱり手が痛かった。

「お、オレ何もしてないのに……」
「このオレが失敗するわけ無いんだ。理由があるならお前しかいねーだろ」
「あのぉ、オレ、先輩がHな話したからあの人逃げちゃったんじゃないかなぁ……って思うんですケド」
「……あぁ~?お前、このオレに文句つけんのかよ?あ?」

エコの胸倉を掴んでタイガは凄んだ。エコはしどろもどろになりながら謝り始めた。
しかし、タイガの怒りはまだ収まらずドン!とエコを橋の外に突き飛ばした。

「……お前が30分以内に一人も女の子ゲットできなかったらボコボコな」
「そ、そんなぁ~……」

明らかに怒った顔でタイガはエコを睨んだ。

「オレの口説きテクにケチつけるんだからお前は相当ナンパが上手いんだろうな~?」
「そんな、オレは先輩には叶いませんよぉ」
「……オレが手叩いたらスタートな。よーい……」
「せんぱぁ~い……」

タイガはパンと手を叩いてエコに顎で「あっちに行け」と合図をした。
エコはその辺りをウロウロしながらタイガに困った顔を見せたがタイガは表情一つ変えないままだった。

「(はぁ……先輩、長い事外に出てなかったからイライラしているのかなぁ……困ったなぁ)」

エコは通りがかる人にか細い声で「あの」と声をかけるが下を向いたまますれ違いざまに声をかけるので誰も気づかない。
終いには老若男女問わなくなっていた。誰も気づいてくれないのでエコも焦り始めていた。

「(……ど、どうしよ……先輩、まだ怒ってるかなぁ……?)」

そっと後ろを振り返ると真顔で手をボキボキを鳴らしているタイガの姿をエコは捉えた。
背筋に冷たい汗が走る。

「(どうしよう!どうしよう! 先輩凄い怒ってるよ! 困ったぞ困ったぞぉ……)」

エコはチラと女性と目が合った。焦りと混乱と動揺でタイガの顔と重なってしまった。

「うわぁぁ! 先輩ごめんなさーい!!」

慌ててエコは逃げ出したが逃げ出した方向にタイガがいるわけだから全く逃げられていなかった。

「……うゎ!先輩! お、オレには無理です。無理なんですよぉ~。うわぁぁぁぁん」

エコは涙を流しながら大声で泣き出した。しかし、タイガはあっけにとられた顔をしてエコを見ていた。
泣きながらエコは後ろを振り向くとさっき目を合わせた女性がエコの背後に立っていた。

「……お、お前やるじゃん。……お、オレの次くらいだけど、な」
「ふぇ……?」
「あ、カノジョ~! コイツオレの子分! 子分の彼女はオレの物だよね~? ラブホいかない?」

女性はニコッと笑った。笑うと意外とかわいい。

「……ラブホテルより、もーっと良い所に行きましょうよ」
「え! ホント!?」
「えぇ……さ、3人で行きましょうか……」

女性が2人に手招きしながら路地裏へと進んでいった。
かなり奥まで進んでいくと昼間なのに薄暗いビルとビルの陰に隠れた2畳ほどのスペースで立ち止まった。

「なるほどねーここだと誰も来ないから……にゃはーw」
「……そうね。誰も来なくてちょうどいいわ」

女性は突然、ニヤけているタイガに掴みかかった。
その笑みが驚きの顔に変わるまでそう長くは無かった。

「……ニャ!?」
「さぁ、早くヤツの場所を教えなさい」

物凄い力で持ち上げられたタイガは自分の体重でどんどん首が苦しくなっていた。
早く言えば楽になれるとタイガは思ったがヤツとは誰の事か解らない。聞こうにも苦しい。

「し、しら……ない……」
「そこの坊やが私の顔を見て逃げたじゃない。貴方達もアイツの仲間でしょう?」

エコは混乱しているのかオドオドとしながらタイガを見ていた。

「そこの坊やも早く言わないとこの子の命は無いわよ?」

タイガは苦しすぎて足をバタバタさせていた。エコはとりあえず急いで答えを見つけ出そうとした。

「さぁ!さぁ!」
「~~~~~~~~~~~っ!!!!」
「え、えーと!! 通天閣の下……」

エコが言い終える前にタイガはドスンと大きな音を立ててお尻から落ちた。

「ありがと。物分りの良い坊やね」

女性はエコの頭を突くとさっさっとこの場から立ち去っていった。
エコはゲホゲホ言っているタイガの上半身を起こして背中をさすった。

「せんぱぁい……しっかりしてくださいよぉ……」
「ゲホッ!ゲホッ!! っだっ! あのっ! おんっ!ゲホゲホッ!なー!!ゲホォッ!」

タイガの顔は熟れたリンゴのように真っ赤になっていた。
エコはただただタイガの背中をさすり続けてあげていた。











「出せー!出せー!!」

一方、本部の方では目覚めた例の少年がドアを叩く音だけが響いていた。
隊員たちは「あけてあげようよ」と言っていたがグリーンは断固として開けない方針を貫いていた。
しかし、いくら経ってもドアを叩くのを辞めない為グリーンは渋々重い腰を上げた。

「あーもしもし、今開けてあげますからね。逃げ出さないでくださいよ?」

グリーンの声を聞きドアを叩く音がピタリと止まった。
それを確認するとグリーンはオレンジに目配せをする。オレンジは黙ってドアのまん前に立つ。

「……オレンジ、隊員たちの配置は終わりましたか?」
「う、うん」
「じゃ、あけますよ」

グリーンが針金をゆっくり外していく。
するとまだ完全に取り払わないうちにドアが勢い欲開いて少年が飛び出してきた。

「オレンジ!」
「あ、う、うん」

しかし、少年のタックルを受け切れなかったオレンジは壁に激突して頭を打った。

「チッ!やはり銀髪小僧は使えませんね!」

そんなオレンジを方ってグリーンは少年が向った右側の通路を追いかけた。
その通路の奥にはブルー、ブラック、イエロー等など精鋭部隊が待ち構えているのだった。

「ブルー隊員!そっち行きましたよ!」
「了解っす!」

ブルーの声が聞こえるとすぐさまグリーンは角を曲がった。
遠めに少年を取り押さえる隊員たちの姿が見えてグリーンは獲物を追い詰めた獣の様に嫌な笑いをした。

「……さぁて。おとなしくしてもらいますよ?」
「く……早くしないと……この街が危ないんだ……!」

取り押さえられた少年は懇願するかのように呟いた。

挿絵

「……あのグリーン。ちょっと話を聞いてみたらどうですか?」
「え、あ、そ、そうですね」

『え、何故!? せっかく捕まえたのに』と言う顔をしてグリーンは一瞬と惑っていた。
どうやら少年を追ううちに野生の獣の呪縛に掛かっていたらしい

「その前に退いてくれよ……もうへんな真似はしないから……さ」

隊員たちは少年から手を離すと少年はよろよろと立ち上がった。

「で、あなたは誰で。誰に追われてるんですか?」
「……俺の名前はケン。俺を追っているのはヴォルフって言う組織だ」
「ほー」

ケンはもう少し驚くのかと思ったと言う顔を一瞬見せた

「俺の父さんは昔、ヴォルフに入っていたんだ。だけど、改心して脱走したんだ」
「ふーむ」
「……父さんは俺にヴォルフ機密書類を残して行方不明になった。俺はヤツらを倒す為に強くなった。
だけど、俺が父さんの子供と知ったヴォルフのヤツラは俺を追うようになった」

だんだん悔しそうな表情を見せ、ケンは語った。
だが、まだ何か言おうとしたとき、それは遮られてしまった。

「……見つけたわよ」

見知らぬ女性がケンの背後に立っていた。ケンはその声を聞いて急いで腰のポーチに手をかけた

「こんな所に隠れてたなんて……ずいぶん手間を取らせてくれたじゃないの」
「あの、あなた誰ですか。不法侵入は犯罪ですよ」
「止めるんだ!コイツに歯向かうんじゃない!」

グリーンは年下に怒られた事に少々不満を感じて「あーそうですか」とふて腐れてしまった。
そんなグリーンをよそにケンの方は方で取り込んでいる。

「さぁ、設計図を渡しなさい」
「お前らに渡すくらいなら死んだ方がマシだっ!!」
「あらあら……手荒な真似は好きじゃないんだけど……そう言うならば死んでもらいましょうか」

女は何やらカードの様な物を取り出した。ケンも負けじとカードらしき物を取り出す。

「セーーットオン!!」
「セットオン!」

同時に掛け声をかけて3枚ずつカードを床に投げつけた。
適度な分厚さ。普通のカードより少し大きいあの形。どこかで見覚えがあった

「……あれ、メンコっすよね?」
「えー……違うんじゃないかぁ?」

困惑する隊員をよそに何やらバトルが始まった。

「うふふ……どうやら貴方の今日の引き運は相当悪いみたいね……ザコばかり」
「ザコだと思って手加減してると痛い目見るぜ!」
「そういってられるのも今のうちよ! くらいなさいっ!サンダークラッシュ!」

女は再び腰元のポーチからカードを出すとそれを思い切り地面に叩き付けた。
すると物凄い風圧が起こりケンの出したカードの内2枚がひっくり返った。

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

ケンの体に何やら電流の様な物が見える。突然ケンは苦しみ始めた。

「やっぱりメンコっすよメンコ」
「懐かしいですねぇ」
「駄菓子屋で売ってるのかなぁ?」

ケンは息を切らせながらよろよろと立ち上がって女を睨んだ。

「場のカードは残り1枚。私は4枚。もう勝負は目に見えているわね」
「ま、まだだ……まだ終わってねぇ!!」
「……強がりを言っているのも今の内よ坊や」

ケンは再びポーチからカードを出した。カードには十字架の模様が書かれている。
それを見てケンは勝利を予感したかのような顔をした。

「……これでどうかな……? ホーリークロスだぁぁぁっ!!!」

バチンと大きな音がして女のカードが2枚裏返ると、女の顔は驚愕の色を見せた。

「な、何ですって!! ホーリークロス如きの重量では一枚がやっとのはず……!!」
「フ……これはホーリークロスでもただのホーリークロスじゃない……。
3ヶ月間油に付けて重みの増したスーパーホーリークロスだ!!!」
「ば、馬鹿な!!」

女は言い知れぬ恐怖を感じているのかよろよろと後ろに後ずさりを始めていた。

「そして……ホーリークロスは裏返したカードの倍を裏返したとみなす……つまり!」
「っ!!」
「お前のメンコはもう一枚もバトルフィールドに残ってないんだよぉ!!」

挿絵

ビシッ!とケンは女を指差して勝ち誇った笑みを見せた

「あ、今メンコって言った」
「言いましたねぇ」

女は頭を抱えてもがき始めた。綺麗な髪がぐしゃぐしゃになっていたのももう気にならないようだ。

「馬鹿な……私がこんな小僧に負けるなんて……いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

女を取り囲む無数の電撃。黒コゲになった女は音も立てずその場に崩れた。

「ちょっと、後で床拭いておいてくださいよ」
「迷惑極まりないっすねぇ」

ケンは勝利と疲労の混じったような顔をしたまま肩で息をしていた。
倒れた女は指先すら動かなかった。

「……オイ、何だ何だ? 何か面白い事やってるのか? オレも混ぜろ」
「あ、先輩、コイツさっきのヤツですよ」
「あっ、ホントだ! てめー!」

ちょうど、タイガとエコがやって来てまた本部は騒がしくなった。
全く、OFFレンジャーには安息の日々と言う物はないらしい。

「……タイガの知り合いですか?邪魔ですから早くつれて帰ってください」
「バカ! コイツはなぁ! このオレ様の首を絞めたんだぞ! いくら良い女でも許さねぇー!」
「そうだそうだ」
「食らえっ!」

タイガが、ガツンと女の背中を蹴飛ばしたが、やはり微動だにしなかった。

「よし、じゃぁ、オレも先輩のカタキー!」
「!? 危ない! どけっ!!」

タイガに便乗しようとしたエコをケンが突き飛ばした。
エコは向かい側のドアに顔面から突っ込んだ。しかも運が悪いことにドアノブ部分だった。

「ど、どうしたん…………あっ!」

グリーンがエコのいた位置を見ると数本の刃が床に刺さっていた。
もし、ケンがいなければ大事になっていただろう。

「……ちょっとぉ! 勝手に床傷つけないでくださいよもー!!」
「……お前だろ……ヴォルフ」
「クックック……勘だけは鋭いようだな……ケン」

廊下の向こうから、ゆっくり誰かが近づいてきていた。
黒い皮の服、黒いサングラス、大きな体。まるで北斗の拳にでも出てくる敵キャラみたいな外見だった。


「……ジンのヤツにも当たったんだが何も言わなくてなぁ……
リサに調査してもらっていたら、こんな所にいやがったとは……」
「……やめろ、この人たちは関係無い!」
「それは、オレが決めることだ。さぁ、勝負しろ……この……メンコでな!!!!!!!」

屈強な男からは想像できない言葉にグリーンはさすがに噴出しそうになっていた。
隊員らも呆れて欠伸をする物も入れば世間話をしている隊員もいる。

「セーーットオン!!」
「セットオン!」

メンコバトルもすっかり始まっていた。タイガはぽかんとした顔でそれを見ていた。

「フン、お前はつくづく運が悪いみたいだな。全部スライムとは勝負が決まったようなもんだな」
「まだだ。最後までやってみなければ解らない!」
「じゃぁ、俺からいかせてもらうぜぇぇー! ダークレオンカード!」

ヴォルフが叩き付けたカードでケンのメンコが2枚も裏返ってしまった。
ケンも苦しそうにもがいていた。何がそんなに苦しいのか隊員には理解できなかった。

「さぁ、次はお前の番だ」
「俺は……これだ……ダブルカード。そして、龍の角、そして龍の尾!」
「フン、防御系のカードか。ホントにザコだな。じゃぁ、オレはストップカード。ターン休止して攻撃力を上げる」
「…………」

バトルの空気がどんどん張り詰めていた。
そう言うときに限ってタイガが空気を読まずに近づいていく。

「なぁ、それトラのカードとかあるのかー? オレにもやらせろ」
「ど、どけっ! これはお前が扱えるような代物じゃねーんだ!」
「いいじゃねーかよー!ケチくせーなー!」
「バカ!早くしないと俺の時間がっ!!」
「……ターン終了だな」

ヴォルフが再びカードを出す。どうやらまた攻撃力を上げるらしい。
ケンはタイガを思い切り投げ飛ばして悔しそうに舌打ちする。

「……クソッ! 1ターン無駄にしちまった……」
「クックック……もう俺の攻撃力は75だ……さぁ、どうする……?」
「……龍の翼で防御を上げる……」
「無駄な事を……じゃ、そろそろ仕上げにかかるかな……」

ヴォルフは炎の絵が描かれたカードを出した。

「炎の渦!」
「ぐぅぅぅっ!!」

物凄い熱風がケンを襲った。カードは防御しておいたおかげか裏返ったのは一枚だけだ。

「……命拾いした様だな。だが、残りは防御系カード4枚のみ。さぁ、どうする?」
「(…………くっ…………ん……4枚……?)」

ケンはカードが一枚多いのに気がついた。本来ならば3枚のはずなのに一枚多い。
出していないはずの『龍の瞳』カードが場にあるのだ。

「(ハッ……まさかさっきの奴と揉めてた時に……? 一体どこから……)」

レッドが帽子に締まっておいたカードが落ちたとは知らずにケンは自分の運の強さに喜んだ。
しかし、全て防御系のカードのみで防ぐ事は不可能だった。
次はヴォルフの番。カードをデッキから引くとニヤリと嫌味な笑いをしてみせた。

「……ナイトメアカードだ」
「何っ!?」
「ナイトメアは文字通り悪夢のカード。俺の手持ち札全てを繰り出す事が出来る最強最悪のカードだ……」
「(バカな……これを繰り出されてしまっては……俺は……俺はもう……っ……)」
「次のターンで……お前はもうお終いだ。どんなカードを出そうがもうお前が勝つことは無い……!!」

ケンはガクッと膝を突いた。……やられる!そう直感した。
次に何のカードが出てこようがさすがに勝てない。ケンの頬を汗が伝う。
そして、ターンの時間が刻々と減っていく……! ケンはデッキからカードを引いた。

「(……頼む……俺に……俺に奇跡を……!!)」
「どうでもいいですけど、これ以上床を傷つけないでくださいよ」

グリーンが嫌味たっぷりに二人に声をかけたが二人は既に自分の世界の中に入っている。

「すげーアニメみてー!」
「ん~燃えるねー」

いつの間にかいなかった隊員たちもワイワイ集まって来ている。

「シェンナもカードやりたいですー」
「ダメよ。シェンナ」
「シェンナもカード持ってるんですよー。キラキラですー」

そう言うと、シェンナは一枚のカードを取り出してクリームに見せた。
心臓の絵が書かれているがなんとホログラム使用の豪華なカードだった。
カードの名前は『龍の心臓』

「龍の心臓? アンタはまたどっからそんなカードを……」

クリームの言葉に二人が同時に反応した。

「……りゅ、龍の心臓だと!?」
「え……えぇ……そう書いてますけど……何か?」
「それは、……誰も本物を見たことが無いと言われる幻のホログラムカード……!」
「え?えぇ?」

クリームには普通のカードにしか見えなかったが二人が言うならば凄い物なのだろうと思った。

「……何でこんな物シェンナが持ってるのかしら……」
「わかんないですー」

ぴょんぴょん跳ねてクリームのカードをシェンナが取ろうとしている。

「待ってくださいクリーム。ブルーやオレンジが持ってるならご都合主義すぎますが、シェンナが持っているのなら頷けます」
「そ、そう言われれば……シェンナなら何を持っていても不思議じゃない。むしろ……自然!」
「フ……しかし、もう奴はカードを引いている。いくら幻のカードとは言え使えないさ」

ヴォルフは緊張を吹き飛ばすかのように笑って見せた。
しかし、ケンの顔には絶望ではなく希望が張り付いていたのにヴォルフは気がついた。

「……お、お前……まさか……」
「そうさ……神様はどうやら俺の味方みたいだ……チェンジカード!」

ケンのカードにヴォルフは動揺していた。首を小さく振りながらじりじりと後ずさりしていく。

「ちょっと! 靴で床をすらないでくださいよ!!」

カードを持ったままケンはクリームの方へ歩いていった。
シェンナを自分の後ろに行かせるとクリームは身構えた

「……な、何……!?」
「そのカードを貸してくれ」
「え……ど、どうぞ……」

ケンはカードを受け取ると再び場に付いてヴォルフを睨んだ。

「チェンジカードにより好きなカードとチェンジ出来る。俺が龍の心臓を出す番だ」
「フ……フフ……だ、だが……幻だろうが俺の攻撃カードを全て合わせて5000! と、到底……」
「どうかな……龍の心臓っっっ!!」

ケンは場にカードを投げつけた。その瞬間だった。龍の心臓カードは眩いほど輝き始めたのだ。

「!?」

隊員たちも思わず目を抑えてしまうほどそれは眩しい光だった。
その光の中でわずかだがケンの声が聞こえた。

「……昔、じいちゃんに聞いた事がある……龍の角、尾、翼、瞳……これはただの防御カードに過ぎない。
だが、幻の龍の心臓が揃うとき……とてつもない最強カードが生まれると……それが……セイントドラゴンだ!!」

グリーンは少しだけ目を開け、黄金の光の中を見た。
白いドラゴンらしき影がヴォルフに向っていったのがかすかに見えた。
そして、ヴォルフの叫び声が。聞こえた。



しばらくすると光は止み、元の明るさに慣れた頃、ケンは静かにヴォルフに近づいていっていた。
その先には傷だらけになったまま倒れているヴォルフの姿。

「メンコバトラーは正義の為だけに戦うんだ……!悪は滅びなければならない!!」
「……フ……フフ……まさか……セイントドラゴンが見える……とはなっ……冥土の土産に……ちょうど……良い……グホッ」

ヴォルフは血を吐いて仰向けに倒れた。

「ちょっとー!! 汚さないでって言っている側からー!!」
「まぁまぁ、グリーン……」

ヴォルフは焦点の定まらない目でケンを見ると静かに目を閉じた。

「……良くやったな……弟よ」
「何!? お、お前はまさか……俺の生き別れの……兄さんか……!?」
「フフ……懐かしいな……最後にお前が俺を兄さんと呼んだのはお前が3歳の時だったか……」
「に、兄さん……兄さん!!」

ケンはヴォルフに走り寄り、そっと頭を抱きかかえた。その目には光る物が。

「……お前はこんな俺でも……兄さんと呼んでくれるのか……フフ……メンコバトラーの頂点を極め、
次第に本当のメンコの楽しさを忘れた……愚かなこの俺を……ゴホッ……ゴホッ……
父さんが……正義の為に作った組織を……俺が乗っ取り……殺した……バカな俺を……」
「兄さん……」
「最期にお前に会えてよかった……お前は俺みたいに堕落しないで……立派なメンコバトラーに……」
「兄さん! ダメだ! せっかく会えたのに……イヤだ……イヤだっ!!」
「泣くな……メンコバトラーは正義の為だけに戦うんだろう……強く生きろ……ケン……俺の……大事な……弟」

ケンは兄の亡骸にすがって嗚咽を漏らした。兄の拳をしっかり握ったケンの手が強く生きていく為の覚悟のように見えた。
そして、そんなケンをエリとハカセはじっと、優しく見守っていた。

「……ケン……可哀相……お父さんだけじゃなくて……お兄さんまで」
「今はそっとしておいてやりましょう……ケンは……また一つ成長するんです」
「あの、あなた方誰ですか?」

その時だった。隊員たちを押しのけて一人の黒い着物を着た老人とその付き人らしき男が歩いてきた。
老人はケンの前で止まると持っている杖でケンの額を突き頭を上げた。

「小僧……お前の一部始終を見せてもらっていたぞ」
「……な、なんだよ……ジイサン……」

老人の顔に見覚えがあったのかメガネをかけた少年は叫んだ。

「あ、あなたはもしや……世界メンコバトラー協会会長……!」
「何ですって!? そ、そんな偉い人がケンに何の用だって言うのよぉ!」
「会……長」

ケンは会長の顔を見た。
穏やかそうではあるがその目の奥には簡単には見抜く事ができない物がある様に感じられた。

「……その会長さんが……なんで俺なんか……」
「うむ、お前の噂は前々から聞いておってな……気になっていたんだが……今の試合を見てワシは確信した」
「?」
「どうだ。世界を相手に戦ってみないか? 世界にはもっと強い奴がたくさんお前を待っているぞ」
「お、俺が……世界へ……」

ケンは兄を見つめた。強く生きる。兄との約束したあの言葉がケンの脳裏に蘇ってきた。
涙を拭いてケンは立ち上がった。もう、倒れない。そんな意志が感じられるようだった。

「……俺、世界へ行く! そして、父さんも兄さんも超えるメンコバトラーになってやるんだ!!」
「生意気な事を言うな小僧……ますます気に入った」
「……おぅ!!」

ケンと会長はガッチリと握手を交わした。しかし、エリとハカセはどこか寂しげにその光景を見ていた。

「……ケン。外国へ行っちゃうんだ……」
「寂しいですけど……それがケンにとって一番良いんです」
「……うん……」

ケンの顔はいつも通り、希望と期待に満ちた明るい顔だった。
二人はケンがその顔に戻ってくれただけで良かった。そう思うようにした。

「……ジイサン……一つお願いがあるんだ」
「何だ?」
「エリとハカセを……一緒に連れて行って欲しいんだ。頼む!」
「け、ケン!」
「アイツら俺の大事な……大事な仲間なんだよ……俺一人じゃここまでこれなかった……頼む!!」

ケンは会長に土下座をして見せた。
会長は、しばらくそのままケンを見下ろしていると、ケンの頭を杖でボカッと殴った。

「……クサい事やりおって……オイ、中松」
「ハイ」
「チケット2名追加だ。すぐに手配しろ」
「……ジイサン……」
「頑張るんだぞ、小僧!」
「あ、ありがとうジイサン!!」

ケンは立ち上がり、エリとハカセの元へ走った。
二人は暖かくケンを迎え入れた。エリは少し泣いているようだった。

「……バカね。ケンってば! アタシ、ケンが、い、居なくたって」
「バカはお前だろ? 泣いてるんじゃねーよ!」
「ケン……僕も頑張りますよ!」
「あぁ、これからもメンコの改良頼むぜ!」

3人は遠くを見つめていた。





まるでそれはこれから先どんな事があっても負けない未来の自分たちを見ているかのように。





3人はきっとこの先何があっても、決してくじけず、協力しあい、世界へ羽ばたいていくだろう。





『俺たちの戦いはまだ始まったばかりだぜ!!』




そう、彼らは永遠に別れることの無い強い結束力で繋がれた仲間なのだから──。































「……どーでもいいですから片付けてくださいよもー……」
「まぁまぁ、良い話じゃないっすか」
「何なんですかねー今日は……」