第77話

『パンダの中には愛がある! -後編-』

(挿絵:ワルベニウスト隊員)

翌朝、部屋の前に落ちていた中国語の手紙をタンタンに読んでもらうと、隊員の間には沈黙が訪れた。



『お前の知り合いは預かった。返して欲しければウサギを持って以下の場所まで来い byワルパンダ党』



そして、一斉にタイガには隊員らの冷たい責めるような目を向けられていた。

「な、なんだよっ! あんなにエロ本があるのにオレを一人にさせない方が酷いぞっ!」

挿絵

「……今はそんな事を話している場合じゃないっすね。誘拐されたのは事実っすから」
「タイガくんがそこまで自分勝手なスケベだとは思わなかった」
「そ、そんなぁ……ホワイトちゃぁん……」

ホワイトのトゲだらけの言葉の前にタイガも情け無い顔になってしまった。

「……犯人は絶対あの悪者パンダたちだよ。こんな事ならもっとコテンパンにしとくべきだったかも」
「でも、なんであそこまでふぃーふぃーを欲しがるのかなぁ」
「ピンク色で美味しそうだから欲しがってるですー」
「とにかく、このワルパンダ党って凄く怪しくない? 名前からして……」
「もろ悪の組織っぽい名前っすね。どっかのマニアに売りつけて大儲けする気かもしれないっすよ」
「な、何だ!? オレにも喋らせろ!」
「静かにっ!」

ホワイトの声にあれだけ騒がしかった部屋が急に静かになった。
状況を全く理解していないタイガだけがオロオロと周りの様子を伺っていた。

「……今は、どうやってオレンジを救出するかを考えるべきでしょ!」
「でも、ウサギを持ってこなきゃ返さないって言ってるんだからそれしか無いんじゃないかなぁ?」
「そ、そうだけど……」

ホワイトはチラとタンタンを見た。タンタンは申し訳なさそうな顔をするとホワイトから目を逸らした。

「……こ、こんな事に巻き込んでしまって本当に申し訳ないと思っています」
「いいのいいの。こっちだってぶつからなかったら大事なウサギが悪いヤツラに目をつけられることもなかったんだし」
「………………すいません」
「大丈夫ですー」

タンタンの肩をポンポンと励ましているかのようにシェンナが叩いた。

「ぶっちゃけオレンジ居なくても話は作れるですー」
「コラ、そう言うリアルな話は辞める!」
「ですですー」

シェンナはふざけながらクルクルと回った。全く反省しない態度にホワイトもなんだか怒りを通り越してしまう。

「……やっぱりここは、タンタンに残ってもらってオイラ達だけで乗り込むしかないんじゃないかな」
「俺もライトブルーに賛成っす」
「で、でもそれじゃオレンジが危険な目に会っちゃうよ?」
「……いいんじゃねーの。アイツそう言う役回りだし。死ぬわけでも無いし」
「そ、そんな事……」

タイガの投げやりな発言にホワイトが言い返そうとしたが、ふと今までのオレンジの事が頭に浮かんだ。
するとタイガの発言も意外と最もでは無いかと言う考えがホワイトを納得させ言葉を詰まらせた。

「……そうね。死ぬわけじゃないしね」
「ほ、ホワイト!?」
「じゃぁ、決まりっすね。朝飯食ったらなるべくオレンジが死なない程度に遂行決定!」
「ま、待ってください!」

タンタンが、突然決心したように立ち上がって叫んだ。

「皆さんに迷惑かけるワケにはいきません。ボクも行かせて下さい!」
「え、でも……」
「大丈夫です。ボク、ちょっとは中国武術出来ますから」
「い、いやぁー……」

ブルーは困った顔で、ホワイトを見た。
ホワイトは一瞬「なんで私待ち?」と言う顔をしたが、すぐに首を縦に振った。

「じゃぁ、なるべくタンタンとフィーフィーを守る形で行きましょ」
「……ありがとうございます」

タンタンは何度も頭を下げていた。














ついに、じわじわと正体を現し始めたワルパンダ党アジト。
右手で頬杖を付きながら極悪パンダは、ズラッと一直線に並んでいる部下に挟まれた赤絨毯の道を走ってくるパンダを見ていた。

「級悪大熊猫先生! 連絡从未知的日本人来(極悪パンダ様、見知らぬ日本人から連絡が来ていますが)」
「橙色的朋友?(オレンジ色の奴の仲間か?)」
「不(いえ)」
「……事情?(用件は何だ?)」
「級悪大熊猫先生想見(極悪パンダ様にお会いしたいと)」
「……放下(放っておけ)」
「了解」

部下が極悪パンダに背中を向けた時だった。ふと極悪パンダの脳裏に名案が浮かんだ

「等待(待て)」
「?」
「……使用大熊猫(パンダを使わせろ)」
「仕成誰?(では、誰に?)」
「正决定……?(決まってるだろう……?)」

極悪パンダは悪戯をする子供の様な顔で笑った。















「確か、この辺なんだけどなぁ……」

朝食を食べ終え、隊員が向った地図に書かれている場所は、ホテルのある所から数キロメートル離れた、
いかにも、悪者に呼び出されている感の強い港の倉庫外だった。

「25番、25番……」

古めかしい倉庫群に割り当てられたナンバーの中から25番と言う倉庫を探しているが、いくら探しても25番倉庫が見つからなかった。
倉庫は1番から順に、2、3、4と順序良く並んでいるのだが24番でその番号が途切れていたのだった。
何度も何度も1番から24番の倉庫を回ってみるが途中に25番があるワケでもなく、離れた場所にあるわけでもなく、
ただ順序良く整列している24個の倉庫がどっしりと港の側に構えているだけだった。

「なんかイライラしてきた」

当然、覚悟してきて敵地に乗り込もうとしていた隊員らはこの堂々巡りにその気持ちも薄れ始めていた。

「……ねぇ、オイラ思うんだけどアイツらにいっぱい食わされたんじゃない?」
「でも、現にオレンジがいないじゃないっすか」
「オレンジの狂言とか。何か、将来詐欺師になりそうじゃんオレンジって」
「ですですー」
「そ、そんな事無いですよ。オレンジさんはきっと皆さんの助けを待ってますよ」
「だって25番ないじゃねーかよー」
「こればかりはタイガくんに同感」

諦めムードの隊員を見かねてタンタンは士気を上げようとするが一度下がったものを上げるのは難しかった。
気が付けば、隊員達はいつしか目線を倉庫から海へと向けられていた。

「香港まで来て俺ら何やってるんすかねぇ……」
「ねー、ホワイトちゃん。ここってラブホあるのかなぁ~?」
「シェンナ、クリームにお土産買わないとですー」

すっかり、オレンジの事を放棄し始めた隊員にタンタンもほとほと困り果ててしまった。
しかし、こうして25番倉庫が無い以上、探す気力がなくなってしまうのは当然だとタンタンは思った。

「……な、何でお前達がここにいるんだーっ!」

挿絵

突然、誰かが港いっぱいに叫んだ声にOFFレン一同が気づかないはずは無かった。
声のした方を見れば、3匹の猫がそこに立っていた。額にある黄色と赤の逆三角模様、そう彼らは、

「ブラックキャット団ですー」
「香港にまで現れるとは、本当に油断ならない奴らっすねー!」
「戦う、やるか、俺、受ける」
「3匹で戦えば、何とかなるって感じー!」

OFFレンジャーとBC団の間に緊張が走った。
隊員らは、武器にそっと手をかけ、改造猫達もいつこっちが来ても良いように構えている。
しかし、写猫と獣猫が闘志マンマンなのに対し、猫猫だけがぼーっと抜け殻のように立っていた。

「何で……何で、大事な時に限って邪魔が入るのニャぁ……」

猫猫は、そう呟くとじわじわと涙を浮かべてその場にうずくまった。
何だか人が変わったかのように猫猫にはどす黒いオーラが漂っている。
ついには、見かねた2匹が猫猫の側に近寄り励まし始めた。

「猫猫、元気、出す」
「って言うか倒せば万時解決って感じー?」
「もうダメだニャ……オレ様、最後のバケーションだニャ……」
「お、OFFレンジャー!ちょっと待っててって感じ!」

何だか様子のおかしい改造猫達に恐る恐る、ブルーは近づいていった。

「何、用だ」
「えーと、戦わないんなら見逃してくれないっすかねー……?俺達、別に邪魔しに来たわけじゃないっすから」
「OFFレンジャーに会った以上それは無理って感じー? ホラ、猫猫、早く戦うって感じー!」
「負けるニャ……絶対負けるニャ……オレ様、心だけじゃなく……体までボロボロにされるニャ……不良品になるニャ……」

猫猫は覇気の無い顔で魂半分抜けたような声で言った。

「しっかり、する、猫猫」
「……あの、どうせならお互いの被害を減らす為にもここは何も見なかったってことにしないすか?」
「OFFレンジャーに妥協案を出されるなんて……ウィック様に顔向けできないニャ……ダメダメだニャ……」

ブルーが喋るたびに猫猫はますます暗くなって、猫猫の目からはボロボロと涙が止め処なく溢れていた。
ついには、隊員、タンタンまで近づいて来て、様子のおかしい猫猫を怪訝な顔で見ていた。

「猫猫! OFFレンジャーが集まってきてるって感じー!」
「チャンス、今」
「……あれ、オレ様何でこんな所にいるニャ……? 早く、ご飯食べたいニャー。今日は猫缶が良いニャー」
「しっかりするって感じー!」
「ニャニャニャ……楽しいニャー……毛糸玉大好きだニャー……ゴロゴロ……」

もう、改造猫達も戦えないのは確実な様で、猫猫の症状もますます酷くなっていた。
何も無い空に手を伸ばして何やら笑っている。さすがの2匹もこれには若干引いているようだった。

「……猫猫、狂った」
「猫猫、ホント可哀相って感じ……」
「い、一体、どうしたんすか?」

哀れな姿になっている猫猫を見つめながら写猫は力なく答えた。

「猫猫は……猫猫は……ウィック様から滅茶苦茶プレッシャーをかけられてるって感じで……。
香港のマフィアに協力要請をOKして貰わないと、俺達、帰れないって感じ~……」
「猫猫、今、鬱」
「じゃぁ、やっぱり俺達とは関係ないっすね! じゃぁ、俺達見逃すから、そっちも見逃して欲しいっす」

写猫と獣猫はさすがに、これ以上猫猫をダメにしてはいけないと踏んだのか早めに頷いた。

「良かった良かった。じゃぁ、そっちはそっちで頑張ってくださいっす!俺達はここで失礼するんで!」

と、ブルーが隊員を引き連れて、その場を離れようとしたときだった。
24番倉庫のシャッターがガラガラと開き始めたのだ。その中にいた一匹のパンダがこちらに向かって歩いてくる。

「……お待ちしていました。私は極悪パンダ様から遣わされました、ワルパンダ党のチェンチェンと申します」

流暢な日本語を話す、パンダの顔の帽子を被ったチェンチェンと言うパンダは深々と頭を下げた。
突然の事に、OFFレンも、BC団も固まってしまっていた。

「……どうぞお入りください。極悪パンダ様がお待ちです」

チェンチェンは、事務的な口調でそう言うとスタスタと倉庫の奥へと歩いていった。

「わ、ワルパンダ党だって! やっと見つかったっすねー!」
「ね、猫猫しっかりするって感じー! ワルパンダ党に付いたって感じ!」
「へ?」
「え!?」

BC団とOFFレンは、急に顔を見合わせ驚いた。
今、さっき確実に自分と同じ相手に会う目的の発言をしたのにお互いが気づいたのだった。

「ち、違うっすよ!? 俺達は、オレンジを取り返しに来ただけっすよ!?」
「お、俺達だって、協力要請に来ただけって感じー?」
「なら、大丈夫っすね。さ、みんな入りましょー!」
「獣猫、猫猫のそっち持つって感じー」

お互いの目的が違うことを確認すると、隊員とBC団は少し距離を置いて倉庫の中へと入っていった。
中は薄暗く、小麦粉か何かの倉庫の様で辺りにはたくさんの袋が積み上げられていた。
倉庫の中は入り組んでいて、付いていくのが遅れたせいもあるが、チェンチェンの姿は確認できなくなっていた。

「猫猫、解るか? 今、ワルパンダ党に向ってる感じ~」
「ニャ、ワルパンダ党……ニャ? オレ様、付いたのかニャ……?」
「猫猫、しっかり、する」

猫猫は徐々に意識を取り戻してきていた。安心するBC団とは逆にOFFレンジャーは再び緊張が張り詰めていた。

「タンタンは、しっかり菲菲を持っていていてくださいっす」
「は、ハイ」

タンタンは抱きかかえている菲菲をさらに強めに抱きしめた。

「何があるか解んないっすから……気をつけて行きましょう」

しばらく、積み上げられた小麦粉袋で出来たジグザグな通路を歩いていくと、急に直線の道に入った。
その先には、地下へ続いているらしき階段の側に綺麗に直立して隊員らを待っているチェンチェンの姿があった。

「……皆さん、揃っていますね。では、先へ進みましょう」

チェンチェンは、一歩一歩確実に地下の階段を降りていった。隊員やBC団も後を続いていく。

「オイ、ブルー。あのパンダ、なんか怪しくねぇかぁ……?」
「シッ、静かに! マジ頼むっすよタイガ」
「……へいへい」

階段を降り切ると、先ほどの倉庫よりも広い空間がそこに存在していた。
一面、大理石で覆われた地下室にまっすぐ敷かれている赤い絨毯の先には25と書かれた大きな鉄の扉が待ち構えている。

「何だこれーすげー」

壁にはズラッと、パンダを模したマークが等間隔に貼り付けられていた。
チェンチェンの帽子についているマークと同じだと、ブルーは気づいた。
しばらく歩いていると、見上げているだけで首が疲れそうな大きな扉が一同の前でその存在を誇示していた。

「……極悪パンダ様はこの先にお待ちです」
「猫猫、見えるか? あの中にお前の昇進がかかってる感じなんだぞ」
「ニャニャ……昇進?……頑張るニャ……」

BC団からは希望、OFFレンからは不安を集めながら鉄の扉は、ゆっくりと開かれていった。

「うわっ。なんだこれ……」

扉が開かれて第一声にタイガが嫌悪感丸出しの発言をした。
それも当然。さっきまでの明るめだった通路と打って変わって再び倉庫らしい薄暗さ。
オマケに、まだ続いている赤い絨毯の横に並んでいる微動だにしないパンダ達。気味悪く思わないわけが無かった。

「……極悪パンダ様、客人をお連れいたしました」
「ご苦労だったな」

部屋の奥に小さく見えるいかにも悪者のボスが居るような座席から声がした。日本語だった。
ひっそりと静まり返っている為良く響いた。多分、この声の主が極悪パンダと言う奴なのだろう

「……どうやら二組一緒に来たらしいな。こっちへ来い」
「は、はいニャー!」

OFFレンを差し置いて、BC団らが我先にと極悪パンダの下へと走り寄った。
慌てて隊員も、タンタンを守るようにしながら近づいていった。
猫猫達は、極悪パンダに取り入ろうとしているのか、土下座して何度も頭を下げている。

「……お前達が、ワルパンダ党に協力要請を頼んだブラックキャット団か」

極悪パンダは、大きな椅子に座っており、黒いチャイナ服を来た目つきの悪い、マフィアのボスらしい顔をしていた。
目には縦に大きな傷が入っており、他にも手足等にいくつか傷らしき物が見える。

「そ、そうですニャ! BC団は最高の組織ですニャ。そ、損はさせませんニャー?」
「聞くところに寄ると、ワルパンダ党は一流の香港マフィア。日本進出も狙っているとか」
「俺、協力、したい」
「そうだな……」

極悪パンダは頬杖を付いて考えているようだった。
しかし、不敵な笑みを浮かべている極悪パンダは心なしかBC団ではなくこちらを見ているような気がした。

「いかがですかニャ……?」
「悪い話じゃない感じ?」
「これ、良い、話、だ」

極悪パンダはニヤッと笑って何度も首を縦に振った。

「あっ、あっ、ありがとうございますニャー!」

それを見て、猫猫は涙を零しながら首が千切れるのではないかと思うほどペコペコと頭を上げ下げした。

「……俺は日本人が大嫌いだ。帰れ」

極悪パンダは、意地悪い口調で冷たく猫猫に突然言い放った。
その言葉を聞いた瞬間、猫猫の動きがピタッと止まった。何だかカエルの様な姿勢だった。

「ニャ……ニャハ! ニャハハ! ニャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
「ね、猫猫……」
「猫猫、終わった」

猫猫はその変な姿勢を維持したまま表情一つ変えずに笑い始めた。
もうBC団はダメか。OFFレン達がそう思い始めた時だった。
さっきまで、微動だにしなかった部下のパンダ達が一斉にこちらを見ていることに気づいた。

「!?」

しかし、気づいた時には既に遅かった。
パンダ達は俊敏な動きであっという間に隊員達を取り囲んでいた。

「しまった……!」
「オイオイ、なんか囲まれてるぞ!」

機械の様だったパンダ達が急に鋭い目つきでジリジリと隊員達を追い詰めていく。
その数、二百匹以上といった所だろうか。従来のパンダのイメージとはかけ離れた鋭い爪が隊員の表情を映し出す。

「……早く、そのウサギを渡して貰おうか。旅行先で怪我したくないだろう?」
「そんなのことわ……」
「嫌だ!」

隊員より先にタンタンが極悪パンダに向って叫んだ。
すると、極悪パンダは呆れたように首を振った。

「……干(やれ)」

その言葉にパンダは一斉に隊員達に攻撃を始めた。
OFFレンジャー達は、武器で対抗するが人海戦術の前では上手くいかず苦戦を強いられていた。
タイガもこういう時は役に奴のか持ち前の腕力でパンダ達から隊員(主に女子)を守っていた。

「タンタン、大丈夫っすか!?」
「は、はいっ!」

ブルーの背中に付いているタンタンはしっかりウサギを抱きしめていた。
タンタンを守りながら攻撃するのは至難の業だった。しかし、守らなくてはならなかった。77号なのだから。

「危ない!」

タンタンが叫んだ。2匹のパンダがいた。鋭い爪がブルーに振り下ろされようとしていた。
避けきれない! 武器で防御する時間が無い! ブルーは咄嗟に判断し、体を後ろに逸らした。

「(ヤバッ……)」

ブルーの足がバランスを崩した。このままでは倒れてしまう。
攻撃をまともに食らってしまう! もうダメだ! ブルーは堅く目を閉じた。

その時だった。ブルーの背後から誰かが飛び出した。

「ハーッ!」

タンタンだった。彼は高く飛び上がっていた。
そのまま、ウサギを抱きかかえたまま、パンダ達に重そうな飛び蹴りをかました。
吹っ飛ぶパンダ達。一回転して着地するタンタン。一瞬の出来事だった。

「ブルーさん、後ろ来ます!」
「あっ……ハイ」

ブルーは背後に思い切り武器を振った。パンダの呻き声と共に誰かが倒れる音が聞こえた。
ふと気になってタンタンのほうを見た。ウサギを抱く為に使えない手の代わりに足だけで寄ってくるパンダを次々と倒していた。
あれは、『ちょっと中国武術が出来る』レベルじゃないぞ。ブルーは思った。

「ブルー、このままじゃ埒が明かないわ。ボックスを使って!」

タンタンをの戦いに見とれていたブルーは、ホワイトの声で我に返った。
確かボックスが後、1つあったはずだった。しかし、ここで使ってしまえば後が無い。
だがこのままでは隊員達に危険だ。ブルーはボックスを取り出し、地面に投げつけた

「……俊敏な笹、たくさん!」

目の前が真っ白になるほど大量に噴出した煙。しばらくするとその色は緑色に変わった。
綺麗な足の生えた笹がたくさんその場に出現していた。
その笹がいっせいに動いた瞬間、その場にパンダはいなくなっていた。やはり俊敏な笹作戦は正解だったようだ。

「ふぅ……みんな大丈夫っすか」
「何とかぁ~」
「菲菲も、大丈夫です」

タンタンもその場に座り込んで菲菲の頭を撫でていた。
しかし、皆が安心したのもつかの間だった。

「ぐぇ!」

突然、タイガの変な声が聞こえた。
声のした方を振り向くと、残っていたらしいパンダのチェンチェンがタイガの首元に爪をチラつかせていた。

「さぁ、そのウサギを渡してもらいましょうか」
「チェンチェン!」
「しまった。まだ残っていたんすか!」
「極悪パンダ様の命令に背くような奴らとは一緒にして欲しくは無いですね。さぁ、渡してください」

チェンチェンは相変わらずぼーっとしたような、落ち着いたような目で隊員を見た。

「な、何するんだぁぁぁ! 離せぇぇぇ! オレはホランじゃねぇぞー!」
「……動くと爪が首に突き刺さりますよ」
「オレは女の子以外と体を密着させるのは嫌いなんだーっ!!」

タイガは死の恐怖よりも男とくっついている気持ち悪さが勝っているのか抵抗を続けていた。

「タイガくん、やめて! レッドの事も考えてよ!」
「レッドもいるって事忘れないでよね!」
「ですですー」
「そんなぁ……」

女子にまでつめたい言葉をかけられて、タイガの暴れ方にも絶望の色が含まれ始めていた。
チェンチェンもさすがにここまで抵抗する人質に困惑している様だった。

「こーのーやろぉぉぉ!! はーなーせー!」

思い切り後ろに放ったパンチがチェンチェンの頭にヒットした。チェンチェンの帽子が吹っ飛ばされ、
さらに、意外と攻撃がハマったらしくタイガの首からチェンチェンの手が離れた。

「フン。オレの強さが解ったか!……ってあれ?」

タイガが決め台詞をバシッと言おうと後ろを振り向いたときだった。
チェンチェンがさっきの衝撃で脱げた帽子の下からフサフサした髪の毛が現れた。

「あっ!」
「えっ!?」

パンダの格好をしているが間違いない。あのフサフサした銀髪。間違いなく誘拐されたオレンジだった。

「な、何でオレンジがパンダで、極悪パンダの部下になってるワケ!?」
「……さぁ、ウサギを渡して貰おうか。極悪パンダ様に逆らう物は許さないぞ」
「オレンジ! しっかりするっすよー!?」

隊員の声も虚しくオレンジは全く聞く耳を持たずといった様子でただウサギを手に入れる事だけに集中しているようだった。

「……オレンジさんは、きっとパンダ魔術にかかっているに違いありません」
「ぱ、パンダ魔術……?」
「古くから中国のパンダの世界に伝わる魔術です。特殊な製法で作った白と黒の薬品を塗りつけることによって、
パンダで無い物をパンダにしてしまい、術者の意のままに操ることが出来るのです。恐ろしい魔術ゆえ、今ではこの術は禁止されているハズ」
「じゃぁ、オレンジはどうすれば元に……?」
「そ、それはボクにも……」

オレンジの目は完全に据わっていて、「目を覚まして!」みたいなありきたりな台詞じゃ当然元には戻らないだろう。
しかし、オレンジだと解った以上、下手に攻撃出来ないことも無いが、ここは正義の味方として攻撃できない方を選択する。

「……チェンチェン」

極悪パンダがオレンジを呼んだ瞬間、オレンジの爪は自分の首元へと向けられた。

「危なっ!」
「何してんのオレンジ!」

当然、オレンジに隊員の声は届かず、ただ極悪パンダの次の命令を待つかのようにじっと静止していた。

「……コイツがどうなっても良いのか? 早くそのウサギを渡せ」
「い、嫌だ……」

タンタンが悔しそうに極悪パンダに言い放った。
すると、極悪パンダは笑いながら哀れむような目でタンタンを見た

「……あと5秒だけ考える時間をやる。俺が命令すればコイツは躊躇うことなく自分の首に爪を突き刺すぞ」
「この人達は関係ないじゃないか。もうこんな事は……」
「5……4……」

ゆっくり極悪パンダの指が時を刻む様に折って行く。
タンタンは、悔しそうに唇を噛んでいた。しかし、わずか5秒で出来る最善の先はやはり一つしか残されていなかった。

「2……1……」
「わ、解ったよ……」
「タンタン! ダメだって! オレンジの一人や二人どうだって……」
「……良いんです」

タンタンは隊員に背中を向けたまま、決心したように言った。
その言葉を聞いて、極悪パンダも安心したのか、小さく首を縦に振った。

「チェンチェンに渡せ」
「………………」
「早く」
「……菲菲、ごめんよ。少しの辛抱だから、大人しく良い子にしているんだよ」

菲菲を、優しく撫でながらタンタンはオレンジに渡した。
隊員達はその隙を狙おうとしたが、首元に向けられた爪はそのままで、オレンジは片手で菲菲を抱いた。
オレンジが極悪パンダのほうへ歩き出すと、菲菲は怖がっているのかタンタンの方へ首を向けていた。

「菲菲、大丈夫だから。じっとしているんだよ」

オレンジが、極悪パンダにウサギを渡し、何かをオレンジに言うと要約爪が首筋から離れた。
極悪パンダは、ウサギの耳を掴んで高く持ち上げた。

「……フ、フハハハハハ! これで財宝は全て俺の物だ!」

菲菲は、痛がっているのがギーギーと鳴き声をあげていた。

挿絵

「やめて!菲菲を虐めないで!」
「全く、相変わらず馬鹿だな……タンタン。利用出来る物は利用すれば良いものを……」
「もう、こんな事は辞めようよ!………兄さん!」
「え!?」

隊員達は、驚いてタンタンを見た。
タンタンは、自分が言った事に気づいたのか、慌てて口を手で押え、横目で隊員を不安げに見た

「……俺は、いずれこの世界全てを手に入れる。その為には何だってしてやるのさ。いくぞ、チェンチェン」
「ハッ」

極悪パンダは、側に垂れていた紐をめいっぱい引いた。
椅子のある周辺の床が徐々に下がっていった。どうやら逃げるために作っておいた隠し機能のようだ。

「ま、待てー!」

隊員が、追いかけたときには既に遅くさっきまで極悪パンダのいた場所は真っ暗な深い穴が空いているだけになっていた。
降りていけば間に合うのかもしれないがロープも何も無い状態では危険すぎると判断せざるを得ない深さだとその穴を見ただけで隊員達は理解して
いた。

「ど、どうすんだ? オレンジ連れて行かれちゃったぞ?」

タイガの何気ない疑問がより場の空気を重くしてしまった。
オレンジが帰ってこないどころかウサギまで取られてしまったのだ。落胆するのも当然だった。
タンタンも、困り果てた様子でペコペコと隊員達に頭を下げる。

「み、みな、みなさん……本当にボクのせいで申し訳が……」
「……そんな事より、兄さんって何なの?」

ホワイトが、気になっていた事をストレートにタンタンに聞いた。
タンタンは、「やはり聞かれてしまったか」と言う顔をしたままゆっくりと頭を上げた。

「……あんた極悪パンダの兄弟なの? 一体これはどういう事なの?」

タンタンは、ホワイトからぶつけられた質問に辛そうな顔をしていた。
隊員達もじっと、タンタンが応えるのを待っていた。沈黙が長く感じた。
決心した様に大きく息を吐いたタンタンは、ようやく口を開いた。

「極悪パンダは、確かにボクの兄さんです。そしてボクも……」

タンタンは突然上着を脱ぎ始めた。女子達は突然のタンタンの行動に一瞬目を逸らしてしまった。

「あっ!」

隊員達は上半身裸になったタンタンの両肩に、この部屋に来るまでに見たワルパンダ党のマークらしき物がついていることに気づいた。

「……ボクも以前、兄さんの下でワルパンダ党の為に活動していました」
「じゃぁ……」
「あ、勘違いはしないで下さい。ボクはもうワルパンダ党を辞めているし、悪い事も一切やっていません」

タンタンは、上着を、マークを隠すように慎重に着始めた。

「……ボクらは、日本人の母と中国人の父との間に生まれました。母は、幼い頃にボクらと父を見捨てて日本に帰ったと近所の人から聞かされまし
た。
その、父もボクが5歳の頃に亡くなりました。親の居ないボク達は悪いパンダ達に目をつけられました。それがワルパンダ党です」

一言一言、自分の生きてきた過去を自分に言い聞かせるようにタンタンは話していた。

「……当時のワルパンダ党の党首は、ボクらが母に愛想を付かされ、捨てられた事を知ると、
それを利用して、ボクらの心をどんどん荒ませて行ったんです。身も心も悪人にする為には都合が良かったんでしょうね。
ボクらは、ワルパンダ党の一員として、数々の訓練を受けてきました。ボクらの心の中にはもう完全に世間の人々への憎しみしかありませんでし
た」

タンタンは、極悪パンダの消えていった穴を哀しそうに見つめた。

「……ボクらは、完全に悪人になっていました。10年間、ずっと悪事をする毎日です。あの頃のボクは恨みを恨まれる事で晴らす事が快感でした。
兄さんはボクよりも母への憎しみを強く持っていました。その反動なのか、兄さんはどんどん出世して行きました。ボクは嬉しかった。兄さんの為
にボクは何だってしようって」
「大体の事は解ったわ。それじゃぁあのウサギは……一体何なの?」
「菲菲ですか。菲菲は、元々とある農家にいたウサギで、誰かが盗んできたそうです。僕はその世話係も任されていました」
「何で、極悪パンダはウサギを欲しがったの? 財宝って? アイツは一体ドコへ……」
「ホワイト、あんまり質問攻めは……ちょっと」

ブルーに諭されて、ホワイトは一瞬、不機嫌な顔になったが、一応自分も納得しているのか
黙ったまま、キッとタンタンを見ながら腕組みをした。

「……えぇと、菲菲の種類は特別な物で文献によると3000年前から存在していたそうです。
ピンク色のウサギは世界の全てを支配できるほどの財宝が隠されている場所を知る不思議なウサギなんです」
「じゃぁ、極悪パンダはその財宝を?」
「ハイ……だからボクは兄さんの事を案じて菲菲と共にワルパンダ党から姿を消しました」
「え? 何で、そんなに好きなお兄さんを裏切るような事したの?」
「それは……」

タンタンがホワイトの質問に答えかけたときだった。
突然、猫猫が物凄い勢いで段上に上がったかと思うと、穴に飛び込む体勢をしてみせた

「馬鹿な真似は辞めろ猫猫!」
「何、する、猫猫」

間一髪、写猫と獣猫が猫猫の両足を掴んだお陰で、猫猫はとんでもない事にならずに済んだ。

「はっ、離せニャー! オレ様はもう後戻りできないのニャー!」
「だからって何もそんな事しなくてもいいって感じー!」
「まだ、チャンス、ある、多分」
「無理ニャ、無理ニャ、もう、ウィック様の所へは生きて帰られないのニャー!」

猫猫は、涙を頭上の方に流しながら穴のそこに少しでも近づこうと手足をバタバタさせた。
ついには、見かねた隊員らが一緒になって猫猫を引っ張り上げた。
しかし、猫猫は火が付いたように泣き出し、何だか敵とは思えない可哀相さを感じてしまった。

「猫猫、まだダメだと決まったワケじゃないって感じだろ……?」
「ニャァ……ニャァ……もう、オレ様は、BC団失格ニャー!」
「猫猫、出世、頑張る」
「……消えたいニャ。消えてしまいたいニャァ……」

猫猫は突然人形の様な無表情になり、そう呟くと「消えたい」としか呟かなくなってしまった。
写猫は、ここまで精神をやられてしまった猫猫を心のそこから同情するように泣き始めた。

「猫猫っ、こんなに責任感のある良い奴って感じなのにっ! 酷すぎる」
「なんでも良いけど、お前ら熱いなぁ……」

全然、興味が無いと言う風にタイガが言った。
その声を聞いたのがキッカケか、解らないが写猫がハッと、タイガの方に顔を向けた。

「……な、何だよ! このタイガ様とやるのかぁ!?」
「そうだ。お前、BC団になってくれないか?」
「はぁ!?」

写猫はタイガに掴みかかると必死の形相(?)でタイガを見つめた。
写猫は、再び猫猫の方を哀れむような目で見てた。

「……猫猫はな。この指令に命をかけてるんだよ。成功すれば昇進だ」
「それとオレと何の関係があるんだよ!」
「……お前ちょっと猫猫に背格好が似てる感じだろ? ちょちょっと変装してくれれば良いんだよ!」
「お、オレが何で猫の真似なんかしなきゃいけねーんだよっ!」

タイガは、明らかに不機嫌そうに写猫から目を逸らした

「もし失敗したとしても頑張ってる写真を見せればウィック様も多少は恩赦を与えてくれる感じになるだろ? 」
「ヤダ。絶対イヤだ! お前がやれ!」
「俺は写真を撮らなきゃいけない感じだろ? 頼む。ちょこっと、このBC団の紋章シールをおでこに貼るだけで良いんだ」

写猫が土下座をすると、獣猫も土下座を始めた。
一応、正義の味方側に土下座をすると言う事は悪者の彼らからしてみればかなり屈辱的なことだろう。
しかし、猫猫の為にここまでする所を見ると彼は相当、悪人のくせに人徳があるらしい。

「オレは虎だぞ! 強いんだぞ! 猫じゃないんだぞっ!」
「頼む! 日本に帰ったら何でもしてやるから!」
「お、男にしてもらっても嬉しくねぇよっ!」

タイガの言葉を聞き、写猫は希望に満ちた顔で顔を上げた。

「じゃっ、じゃぁ、女なら良い感じなんだな!?」
「お、おぅ……あっ、女装はダメだぞっ!」
「お前の好きな女を連れてきてやるよ! 後はお前の好きにしていい! なら、いい感じだろ!?」
「にゃ!?」

タイガは驚きと期待が入り混じった微妙な表情で、女子達を見てから考え込んだ。

「そ、そんな事出来るわけねーだろ!」
「出来る! 俺の能力……いや、俺なら100%可能って感じだ!」

タイガは再び、女子達を見た。

「ほ、本当だな? 絶対だぞ? 嘘ついたらただじゃおかねーからな!」
「じゃぁ、契約成立って感じだな! 」

写猫はビターンと、タイガの額にシールを貼り付けた。思ったより痛かったのでタイガは写猫を殴りそうになった。

「……ちょっとナナメっぽい感じになったけどま、良いか。後はカッコいいところで俺が写真撮る感じだから」
「お、おぉー……」
「じゃぁ、極悪パンダの所に向うぞ。OFFレンジャー!」
「……さっきの話聞いてました? 場所がわかんないんっすよ?」

ブルーの言葉に写猫はやれやれといった様子で右腕を見せると手首をトントンと叩いた。

「何のためにお前達、腕時計付けてるんだよ?」
「腕時計PCっすか? そりゃぁ、隊員だからっすよ」
「オレンジも付けてるんだろ?」
「あぁっ!」

写猫の言葉にシェンナとタイガを覗く全隊員が声を合わせて驚いた。

「そ、そう言えば、意外と盲点なんすよね」
「香港も、転送装置で来れば良いのにって思ってしまったわ」
「じゃぁ、オレンジのいる場所に焦点を合わせて移動すればいいわけだね?」
「イチイチ、声に出して言わなくても解る感じだろ」

写猫は、猫猫を背中に背負った獣猫を呼び寄せ、ブルーにしっかりと捕まった。

「さ、行くぞ。 お前らと違って俺達は忙しい感じなんだからな」
「あぁ、ハイハイ……じゃぁ、準備はいいっすね? せーの」

一斉に隊員達がボタンを押すと、眩い光と共に隊員、そして改造猫達が転送された。















極悪パンダとオレンジは、ウサギを頼りにとある山奥にやってきていた。
長い山道のせいで部下に運転させた車が使えなくなってしまい結局、二人だけで来る事になってしまった。
細長い荒れ道を進むと、ウサギが入り込んだ僅かな石の隙間の奥に秘密の通路を発見した。

「……こんな場所に通路があったとはな」

通路を進んでいくと、ただの石を積み上げている壁ばかりだったのが、徐々に大理石で作られた通路へと変わって行った。
壁には、古い中国語で描かれた文字や、絵が描かれまるでどこかの遺跡の様な印象が感じられた。

「極悪パンダ様、あちらに何かあります」

壁の絵や文字に見入ってしまっていた極悪パンダにオレンジが声をかけた。
ウサギが歩いているその先に、金色に光り輝く祭壇が崇高な雰囲気を漂わせながらそこにあった。

「おぉ!」

極悪パンダはウサギよりも先に祭壇に向って走った。
祭壇のある場所は大きなホールの様になっており、その中央に祭壇は置かれていた。
祭壇は黄金で出来ており、目に痛いくらいの輝きを放っていた。
その上には、青、赤、白、緑の4つの宝玉がはめ込まれた王冠が置かれていた。

「こ、これが、伝説の冠か」
「極悪パンダ様、おめでとうございます」

極悪パンダは、王冠に映った自分を見てこれから自分が支配するであろう世界の事を考えた。
世界中が自分にひれ伏す。これほど、素晴らしい事は無い。身震いするほどだった。

「これを手にすれば俺はこの世界を……」

ゆっくりと王冠に手を伸ばした極悪パンダの指は震えていた。
この冠を手に取った瞬間から、自分が世界の支配者になるのだから無理も無かった。
ようやく、指が王冠に触れようとしたその時。

「兄さん! 待って!」
「そこまでっすよ、極悪パンダ!」

「!?」


間一髪で、OFFレンジャーは極悪パンダの元に転送された。
いっせいに、武器を取り出し、極悪パンダが動こう物ならすぐさま攻撃できるようにする。

「……何故ここが」
「兄さん! 世界中の人々を支配するなんてしちゃダメだよ!」
「タンタン……。お前は何度俺の邪魔をすれば気が済むんだ?」

極悪パンダは、タンタンを睨みつけた。タンタンは一瞬怯んだが、すぐに極悪パンダをしっかり見据えた。

「ボクは、兄さんにはこれ以上悪い事をしてもらいたくないんだ……!」
「馬鹿を言うなタンタン。お前こそ、いい加減、真面目に暮らす奴らの愚かさを知れ」
「愚かなのは兄さんだよ! ボクは……ボクは……そんな兄さんなんか嫌いだ!」

タンタンは泣いていた。しかし、極悪パンダはそんなタンタンの様子を気にも留めていない様子だった。

「くだらないパンダに成り下がったなタンタン。ワルパンダ党に育てられた恩を忘れたか」
「兄さんが、どうしてもその王冠を手にするなら、ボクは……兄さんと戦うよ」
「……面白い」

極悪パンダは、突然上着を脱ぎ捨てた。服の下からは傷だらけになった極悪パンダの上半身が露わになっている。
タンタンも、同じく上着を脱いだ。まるで古いカンフー映画のようだった。

「タンタン。お前は俺より武術が上手だった事は事実だ。お前もそれで戦いを申し込んできたのかもしれないが……今の俺は違う」
「兄さんが努力家なのは知ってるよ。だからボクだって違う」
「……いくぞ」

極悪パンダはそう呟くと、姿を消した。かと思えばタンタンの目前に現れた。
その瞬間、極悪パンダの拳がタンタンの頬に繰り出された。

「タンタン!」

危ない!と隊員らが思った。
タンタンは、極悪パンダの背後に立っていた。全く見えなかった。

「ずいぶん、早くなったね兄さん」
「……お前もな」

タンタンが飛び蹴りをしたかと思えば、極悪パンダは上空に飛び上がる。
そこからタンタンに目掛けて急降下したかと思えば、タンタンはバク転してそれを避ける。

極悪パンダが落ちてくるとすぐさまタンタンは極悪パンダにパンチを繰り出す。
そのパンチとほぼ同時に向こうも同じくパンチを出し、手と手がぶつかり攻撃は一旦止まる。

「す、すげぇー……っすね」
「う、うん」

隊員達はどこかの週刊少年系のアニメを見ているように思えた。
タンタンと極悪パンダの兄弟対決はさらにその凄さを極めていっていた。
しかし、二人の対決を見てばかりもいられなかった。

「為級悪大熊猫先生斗争! 為級悪大熊猫先生斗争!(極悪パンダ様のために戦うぞ!)」

ぞろぞろと、部下のパンダ達が通路から現れた。オレンジも、いつの間にかパンダ達に混じっていた。
中国語で何を言っているのか解らなかったが闘志満々らしい事だけは隊員達にわかった。

「こっちはこっちで行くわよブルー」
「は、はいっすー……」
「オイ、そこの虎猫。しっかりやってくれよ。女だぞ女」

隊員達も戦いに応じる姿勢を見せていると写猫がタイガの耳元で囁いた。
その言葉はタイガを奮い立たせるのに十分なほどの力を持っていた。虎猫といわれたことにも気づかずに。

「うぉぉーっし! オレはやるぞー!! ガオーーー!」

タイガは、誰よりも先にパンダ達に飛び掛っていった。それを火種に、パンダらと隊員達の戦いが始まった。
パンダ達に苦戦しつつも隊員らは応戦していたが、タイガは持ち前の性欲を腕力に変えてバッタバッタとパンダをなぎ倒していった。

「よし、いい感じだ!……猫猫。これで借りは返したぞ!」
「にゃんにゃん……ゴロゴロ……」

写猫は、その様子を写真に取りながら猫猫を見た。
タイガは、未来に待つ幸せの時を思い浮かべながらパンダをちぎっては投げ、ちぎっては投げ、時にはホントにちぎっちゃったり──。

「フンッ、虎の力をなめるんじゃねーぞ!」

ついには、タイガ一人でパンダの半数以上を倒してしまった。
隊員達も、目の前のパンダを倒すともうパンダは一人残らず床に倒れていた。

「OK、良い写真が取れたって感じ。後はちょいと細工してウィック様に出すよ」
「おー! 約束守れよ? 絶対だからな?」

タイガは、ついついニヤけるのを我慢しながら額のシールを剥がした。

「何はともあれ、残るは、タンタンと極悪パンダっすね……」

パンダの兄弟対決は、未だ続いていた。お互い多少のダメージを追っているようだったが、
マトモに攻撃をどちらも受けていないのだろう。手足や服の傷の付き具合が非常に似ていた。

「ハァ……ハァ……」
「ハァ……ハァ……」

いつの間にかタンタン達はどちらも息を切らせながら静かな睨み合いが始まっていた。
このままじゃ埒が明かないと両者が判断したのか隙をうかがうことだけに集中している様子だった。

「なかなかやるな。タンタン」
「に、兄さんもね」
「このままじゃ、時間を食うばかりだ。いい加減決着をつけないとな」
「そう簡単には行かないよ」

隊員達はだまってその光景を見る事しか出来なかった。……はずだった

「シェンナ、この冠欲しいですー」

シェンナがあえてこの緊張している場に飛び出して、台座に走り寄って行った。
隊員達がそれに気づいたのは極悪パンダがシェンナの背後に向って行っているのが見えた時だった。

「危ないっ!」

タンタンがシェンナの前に飛び出した直後、鈍い音がした。
気が付くとシェンナの前でグッタリしたタンタンと、その前で勝ち誇った笑みを浮かべた極悪パンダの姿が見えた。

「フハハハハハハハ! 馬鹿な奴だ! 他人を庇うとは、どうやらワルパンダ党での教えすら忘れたらしいな」
「に、兄さん……」
「……決着は付いた様だな。タンタン」

極悪パンダは、そう呟くとゆっくり自分の勝利を実感しているかのように台座に向っていった。
シェンナも、トコトコと困ったような顔で隊員の元へと帰ってきた。

「……シェンナも冠欲しかったですー」
「馬鹿! 少しはタンタンに申し訳なさそうな顔をしなさいっ!」
「そ、そうっすよ。世界の問題が……って、あーーーーーっ!!!」

隊員が台座の方を見た時には、既に極悪パンダは冠を手にしていた。

「……これでこの俺が世界を征する王となる! これさえあればもう俺は怖くない……!」

極悪パンダは王冠の魔力に取り付かれているかのように冠を見つめながら呟いていた。
もう、世界はお終いだとシェンナとタイガと改造猫達以外は思った。

「に、兄さん……辞めて……お願いだよ」
「世界は俺の物……金も権力も何もかも……この俺の物だ……フ、フフ、フハハハハハハ!」

極悪パンダは、王冠を高く頭上に掲げた。王冠は隊員達の目に怪しく光っていた。

「聖なる神々よ! 今すぐその姿を現したまえ!」

極悪パンダが叫ぶと、王冠を中心に眩い光が四方八方へと飛び散った。
光の中で、極悪パンダの高笑いと共に、獣の様な声が幾つも聞こえた。その途端、風が吹き荒れ飛ばされてしまいそうだった。

「……兄さん! 兄さん!」

タンタンの悲痛な叫びは極悪パンダには届かなかった。

「おぉ……ついに伝説の神々が現れたか……」

極悪パンダの感嘆の声が聞こえた瞬間、光は一気に弱まった。
うっすらと眩しいままの目を開けると、極悪パンダの目の前に4名の人物が並んでいるのが見えた。

「……我々を呼んだと言う事は、貴方が王冠を手にした者ですね」
「あぁ、そうだ」

男の声が聞こえ、極悪パンダがそれに応えた。

「……掟に従い、貴方の望みを叶えましょう」

さっきの声とは別の場所から別の声が聞こえた。女性の様な声だ。

「さぁ、好きに望みを言うが良い」
「……ぁれ、僕の台詞が無い……」

この二つの言葉も先ほどの男女の物とは全く違う声だった。何だかどこかで聞いた事がある声だった。
徐々に目が慣れてくると、その姿をハッキリと捉えることができた。

「あっ! 聖獣の皆さん!」

挿絵

ブルーの声に振り向いた4名は間違いなく、青龍、朱雀、白虎、玄武。以前から時々交流のある四聖獣に違いなかった。

「あれ~? OFFレンジャーの方々じゃないですか! こんな所で会うなんて奇遇ですね」

先ほどの神々しい雰囲気の口調が一転し青龍が、にこやかに挨拶をした。ブルーも慌てて挨拶を返す。

「お、お久しぶりっす」
「……本当にどこにでも現れるわね」
「朱雀、聖獣冠の御前だぞ。態度を弁えろ」

朱雀が相変わらずの冷たい口調で喋ると、神々しい顔つきを維持したままの白虎が注意する。

「うっさいわね! 神経衰弱で私が勝ってたのに急に呼び出されたんだから嫌な気分になって当たり前でしょ!」
「そうだよそうだよ! しかも僕の台詞無いし!」
「しゃー」

玄武も相変わらずのんびりとしていて、朱雀と共に白虎に突っかかっていた。

「辞めないか。朱雀、白虎、へびくん」
「あ、やっぱり僕だけ露骨に呼んでくれないんだぁ……」

見かねた青龍が注意してようやく3人は静かになった。
ふて腐れている朱雀、不満げな様子が伝わっている物のキチンとしている白虎、どこか淋しげな玄武。
初めて会う場所には違いない物の、いつも見ている聖獣達と何も変わらなかった。

「えぇと……どうして皆さんが何故ここに?」
「あぁ、何と言うか。話すと長いんすけど……悪者を追っているんすよねぇ……」
「悪者ですか。とんでもない奴なんでしょうね」
「いや、アイツよアイツ」

青龍のボケ発言の様な言葉に思わずホワイトが突っ込んだ。
ホワイトの指差した先にいるのは、王冠を掲げたまま唖然とした顔をしている極悪パンダがいた。
これには青龍も少々驚いているようだった。

「せ、聖獣冠を手にしている彼が悪者なのですか?」
「聖者に見える?」

青龍は、再び極悪パンダの方を向き頭のてっぺんから足の先まで舐め回す様に見た。

「……確かにどこからどうみても悪者面ですね」
「だから、あんな奴の願いなんて聞かないで下さいよ」
「そうですねぇ。確かに、聖獣が悪人に加担するわけには行きませんし……」
「私情を持ち込むな、青龍」

青龍が納得しかかってきていると、すかさず白虎からの厳しい言葉が入った。

「……掟に従うのが聖獣の第一前提のはずだ」
「白虎。だからと言って聖獣が悪者の願いを聞いても良いと言うのか?」
「持ち主が聖獣冠を手にしている限りオレ達が願いを叶える……これに例外は無い」
「だ、だからと言って……」
「あぁ、もう! 青龍じゃ埒が明かないわ! 」

青龍が困惑していると、見るからにイライラしている朱雀が青龍を押しのけ白虎に突っかかり始めた

「聖獣として最低限、譲れない事って言うのがあるでしょ!」
「……だが、掟は聖獣冠を手にしたものなら願いを叶える資格があるワケだ」
「元々、桃兎は選ばれた者のみの家に伝わる物でしょ! 悪人に渡っちゃいけないからそう言う決まりになってんじゃないの!」
「……掟に悪人は除外すると言う箇所は無い」

プチンと何かがはじける音がしたかと思うと、突然朱雀が、白虎に掴みかかり揺さぶり始めた。

「だぁーかぁーらぁー! アンタは頭が固いって言ってるのよ!」
「せ、聖獣は、掟に、し、従う義務が、あ、ある!」

白虎もなんとか威厳を保とうと冷静な態度を示していた。
その時、ビュッと延びた何かが白虎の首筋にあたったのが見えると、白虎は泡を吹いてその場に崩れ落ちた。
白虎の首に当たったものは、玄武の尻尾についているへびくんだった。

「ホラ、こうすれば。反対はいなくなるよ!」
「しゃー」
「(玄武さんって腹黒なのかなぁ……)」

朱雀はその考えに納得したのか、床に倒れている白虎を一目すると黙って頷いた。

「白虎の頭の固さには困ったもんだ。ありがとうへびくん」
「ねぇ青龍。どうして僕を意図的に避けるの?」
「と言うわけで、聖獣は悪人には協力しない!」
「ワザとなんでしょ? ワザとなんだよね?」

青龍は極悪パンダに指を差し。バシッと言い放つと、極悪パンダは心底悔しそうに唇を噛んでいた。

「もう、終わりだぞ極悪パンダ!」
「こ、こんな事になるとは……クソッ! クソッ!! クソーッ!!!」

極悪パンダは王冠を地面に投げつけるとワナワナと震えながらその場に崩れ落ちた。
すると、隊員達は、急いでタンタンに駆け寄った。タンタンは、少し苦しそうだったが特に以上は無いようだった。

「……お前達さえ、現れなければ……だから俺は日本人が嫌いなんだ……」

消え入りそうな声で極悪パンダが呟いた。

「何でそんなに日本人を憎んでるんすか……?」
「……俺はな。日本で悪事をしていた事がある。その時、お前達日本人は、俺を嘲笑い、馬鹿にした!」
「俺たちは、正義の味方っすよ! そんな事する訳ないじゃないっすか!」
「いいや、お前達もヤツラと同じだ……」
「そんな事ないっすよっ!」

その言葉を聞いた瞬間、極悪パンダは突然、立ち上がった。鋭い目つきだった。

「お、俺の名前は…………」
「ハイ?」
「…………だ」
「聞こえないっすよ? 何すか?」

極悪パンダは大きく息を吸って叫んだ

「……俺の名前はっ! チンチンだぁぁぁーーーーーーーーーーーーーっ!」
「!?」

隊員達の中に極悪パンダの叫びが延々とこだましていた。
しばらくすると、隊員達の中にとてつもない複雑な感情が渦巻き始めた。
ここで感情を表に出してはいけない。ポジティブ、ネガティブ、どちらの感情も出してはいけない。
隊員達は必死に、真顔を作り、それは傍から見ていて明らかに不自然な真顔の集団と化していた。

「……ギャハハハハハハハハハハ!」

そんな隊員達の努力にも関わらず、空気を読まずにタイガが噴出し、床に転げまわって大笑いをした。

「チ、チンチン! にゃははw にゃはw にゃははw ほ、ホランと仲良くなれるんじゃねーのか? にゃはははw」
「ちょっ、た、タイガくん! わ、笑っちゃダメでしょ!」

パープルが、慌ててタイガの口を押えるがつられてつい笑ってしまった。
すると、後は簡単な物で隊員達が次々に噴出して部屋は我慢大会の会場に早代わりしてしまった。
聖獣達は不思議そうに隊員を見、タンタンは事情を知っていたせいなのか辛そうな顔をしていた。

「……ホラな。日本人なんてみんな同じだ。外面だけは優しげに見せておいて心の中は腐りきってんだ!」
「し、失敬な! こ、これは昨日のTVを思い出して笑っちゃっただけっすよ!」
「ぶ、ブルー、そ、その言い訳は、く、苦しいって」
「解ったろタンタン。日本人は最低だ! 俺達を捨てた日本人の母親も同じことだ。だから俺にこんな名前をつけたんだ!」
「ち、違うよ。違うんだ兄さん」

ヨロヨロと立ち上がると、タンタンは極悪パンダの方へ何度も倒れそうになりながら近づいていった。

「ボク達のお母さんは、兄さんが好きだから、その名前をつけたんだ」
「……嘘だ!」
「ほ、本当だよ」

タンタンは、極悪パンダの側まで来ると足がもつれてしまい倒れてしまった。
しかし、それでもゆっくり這いながらタンタンは極悪パンダの元へと向っていた。

「……兄さん。ボクが何故、ワルパンダ党を辞めたか知ってる?」
「そんなの俺の知ったことじゃない!」
「ある日、ぼ、ボクは……街でお父さんの友達に偶然出会ってある話を聞いたんだ」
「それがどうした」
「お父さんは、お母さんが日本に帰る前から……数年しか生きられないって解ってたらしいんだ」
「それならどうしてそんな父さんを見捨てたんだ!」

タンタンは、再び力を振り絞ってふらつきながらもその体を立ち上がらせた。

「こ、これは、ボクの考えだけど。お父さんの方からお母さんに別れを切り出したんじゃないかな……」
「何故そうする必要があるんだ」
「解んないよ……でも、ボク、気づいたんだ。ホラ、偽造パスポートの偽造をしていた時さ」
「……だからどうしたって言うんだ」
「兄さん、日本にはローマ字ってのがあるのは知ってるよね……ボク達の名前をローマ字にしてみてよ」
「……TANTANとTINTINだろ。それがどうした」
「父さんの名前はトントン……そして母さんの名前は奈津子って言うんだって」
「だから、何だって言うんだ!」
「解らないの! 父さんの名前のTと、母さんの名前のNがどっちにも必ずあるじゃないか!」

タンタンは、涙ながらに極悪パンダに向って叫んだ。

「……その間にある文字が解る?」
「AとI……愛か」
「お母さんは、ボクらを愛していたんだよ! お母さんとお父さんに囲まれて……どちらか片方だけじゃダメなんだ。
ボクと、兄さん……二人揃って始めてお父さんとお母さんの気持ちが……。ボクらを愛してるってメッセージが出るんじゃないか!」
「……そんなの偶然だっ!」
「偶然かもしれない。ボクがその偶然に気づいただけかもしれない! でも、お母さんがこの名前を付けたがってた理由はもしかしたら……」
「……………………」

タンタンは一歩一歩、極悪パンダに向って歩み寄っていった。
ちょうど、極悪パンダの元にたどり着いたとき、タンタンはそっと極悪パンダの手を掴んだ。

「だから……少しでもお母さんがボクらを愛していた可能性があるんだったら悪事なんてするべきじゃないんだよ。兄さん」
「……タンタン」
「兄さん、お母さんを探しに日本へ行こう。ね、ボクらは一人ぼっちじゃないんだから」

極悪パンダは黙ったまま俯いていた。その横顔は淋しい顔をした子供の様に隊員達には見えた。

「……何はともあれ一件落着ですー」
「あっ、一番美味しいところを持って行った!」

















聖獣とも別れを告げ、オレンジもお風呂に5時間ほど入れておくと自然に元に戻り、
すっかり忘れていた香港観光も2時間で済ませ、ついに旅行の最終日が来てしまった。

「皆さん。色々とご迷惑かけちゃってすいませんでした」

空港に見送りに来てくれたタンタンは、逆にコッチが恐縮してしまうほど何度も頭を下げていた。
あの後、タンタンは一緒に香港観光にも付いてきてくれて本当に良くしてくれた。

「お兄さんはどう?」
「ワルパンダ党も解散しましたし、兄さんも解ってくれたみたいです」
「日本に来たらいつでも寄ってくださいね。通天閣って所の地下にいますから」
「ハイ!」
「でも、本当にこゆ~い三日間だったっすねぇ……聖獣さんに、マオラさんに、BC団まで来ちゃって」
「シェンナ、あの冠欲しかったですー」
「あぁ、あれは聖獣さん達が別の遺跡に持っていくとかで結局手に入れられなかったもんね~」
「BC団もちゃんと成果上げられたかな?」


ちょうどそんな事をOFFレン達が考えている頃、改造猫達は日本に到着し、ウィックの元へと帰ってきていた。
ドキドキして、心臓が口から飛び出しそうな猫猫は、さっきから前方を写猫が、後方を獣猫がカバーし、
もしもの場合の備えも万全なまま、ゆっくりとウィックの下に跪いた。

「……帰ったのか」
「は、ハイですニャッ!」
「……成果を報告しろ」

ウィックの声がいつもより少しだけ明るいのに猫猫は気づいた。
これは、どう考えても言い結果を待っているとしか考えていない事なのだろう。猫猫は恐怖を思い切り飲み込んだ。

「え、えぇとですニャ……結果を言いますとアイツらは協力をしないと言い出しましたニャ」
「何だと……?」

急にウィックの声にフラットがかかった。猫猫は逃げ出したい気持ちを抑えた。

「そ、そこでですニャ。オレ様達は、アイツらの資金を奪う事に計画を変更しましたニャ」
「……ほぅ」

ウィックの声には2個『#』が付いていた。

「ざ、残念ながら資金の在り処は突き止められませんでしたが、ヤツラの持っている財宝を一つ手に入れましたニャ」
「財宝か……価値はどのくらいだ?」
「す、す、数億はくだらないらしいですニャ。これを、ウィック様に差し上げますニャ」

猫猫が獣猫に目配せをすると、獣猫は風呂敷包みを開け、その中に包んでいた黄金の台座を軽々持ち上げてウィックに見せた

「こ……これは良い物を盗って来たな。猫猫よ」
「そ、それとこれは猫猫がアイツらと勇敢に一人で戦った感じの時の写真です」

写猫が獣猫と入れ違いに段上に上がりタイガを何とか猫猫に見えるように偽装した写真をウィックに渡した。

「……縞の様な物が見えるが」
「そ、それは光の加減のせいって感じだと思います」
「……まぁ、写真はどうでも良い」

ウィックは写真よりも黄金の台座が気になっているようで時折チラチラと台座を眺めては満足そうに笑みを浮かべていた。

「……あ、あのぉ、ウィック様」
「何だ?」
「今回の手柄のほとんどは猫猫にあります。ですから例の昇進の件を……」
「ニャ!?う、写猫!」

驚く猫猫に写猫は、シッ!と小さな声で言った。獣猫の方を見ても、獣猫は頷いていた。

「お、お前達……」
「まぁ、確かに計画は完璧とは言えなかったが……結果的には成功したと言えるだろう……猫猫」
「は、はいですニャ!」
「お前を一段階昇進させてやる。こっちへ来い」
「は、はい!」

猫猫は段上をゆっくりゆっくり登り、ウィックの前に立った。
猫猫の心臓は張り裂けんばかりに鼓動していた。ふと、猫猫の頬にウィックの手の感触を感じた。

「……改造猫長の紋章だ。今後も資金面を中心に頑張ると良い」

猫猫は、側の黄金の台座に映った自分の姿を見た。
少し、興奮の為か少し顔が赤い猫猫の頬には、ウィックの物とは少し違う黄の三角模様があった。

「ニャ、あ、あり難き幸せですニャ」
「……ただし、シールだがな」
「にゃ、ニャァ……?」

猫猫が模様を爪で引っかいてみると端っこが少しめくれた。

「……早速、お前に任せたい仕事がある」
「は、はいっ!何なりとお申し付けくださいニャ!」
「この黄金の台座を俺の部屋に運んでおけ……今日はよく眠れそうだ」

唖然とした猫猫を前に、ウィックは台座を見つめながら愛しい恋人でも見るかのように笑っていた。
















「あぁ、もう香港があんなに小さくなってるよ」
「本当に、楽しい時は短く感じるもんだねぇ」

飛行機の窓からOFFレンジャー一同は中国大陸を眺めて物思いに耽っていた。
離れていくごとにまるで異世界にでも行っていたような気持ちがしていくのに隊員達は気づいた。

「何かオレも、疲れたなぁ……そろそろレッドに交代するか」
「タイガくん大活躍だったもんねー」
「帰ったときの為に体力温存しておかないといけないからにゃーw」
「何が?」
「ん?なんでもないよ?」

タイガは、日本に待っているハーレムを期待しながら女子達を見、目を閉じた。

「お土産食べるときは、オレ呼んでね」
「ハイハイ」
「…………ハッ! いやぁ、なんだか長い夢を見ていたような心持だったよぉー!」

すぐさま戻ると、元気が有り余っているレッドはハイテンションな口ぶりで喋り始めていた。

「所で、なんか知らないけどウサギ見つかったの?」
「まぁ、見つかりましたよ。もうハッピーエンドって感じっす」
「よかったよかった!」

ブルーの背中をバンバン叩きながらレッドはワッハッハと笑った。
どうやらテンションが高すぎてここが飛行機の中だと気づいていないらしかった。

「じゃぁさ! これからご飯食べに行こうよ! ぼかぁ、それが楽しみで楽しみで!」
「はぁ……」
「やっぱ餃子かなぁー? でも、麻婆豆腐も大好きなんだよねぇ!」
「そ、そうっすか……」

レッドのキラキラした純真な希望の瞳をマトモに見られないのはブルーだけではなかった。
あまりにも痛々しくてレッドの発言まで聞こえなければ良いのにと言う思いがシェンナを覗き一致していた。

「……えーと。所でここはドコ?」
「帰りの飛行機の中ですー」
「……え? だ、だってまだ一日目じゃない?」
「………………」

頑なに希望の光を絶やさないようにしているレッドから全体員は目を逸らしていた。
レッドは恐る恐る携帯電話を開いた。日付は残酷にもレッドの記憶と三日間ずれていた。

「こ、これは何……? まるでどこかのメルマガ小説のオチみたいなシチュエーションは……一体何」

レッドは、フラつきながら飛行機の窓を見ていた。
すると、急にレッドは魂をどこかに置き忘れてしまったような顔でドンドンと窓ガラスを叩き始めた。

「何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で……」
「レッド、諦めてくださいっす」
「……僕、ウサギ探ししかした記憶が無いのに。何故。何故!」
「酷いよぉ……こんなのってありなのぉ……?」

レッドの声はどんどん悲痛な叫びへと変わって行った。
隊員達は三日間楽しかった分、レッドに声をかけるのが躊躇われてしまうばかりだった。

「また転送装置で来たらいいですー」

シェンナの声がレッドにとどめを差した。



「そ、そんなのって無いよぉーーーーーーーーーーーーーーーー!」



レッドの絶望を乗せ、飛行機は飛ぶ。

その絶望がいかに大きくなろうと、飛行機は飛んで行く。




めでたし☆めでたし!