第81話

『或る夏の日の恐怖』

(挿絵:ピンク隊員)

夏だった。見まごう事無く夏だった。


「毎年恒例! 第一回OFFレン怖い話大会ー!」
「わーい!」

まだ夕方だと言うのにロウソク一本だけの薄暗い部屋に、隊員達はその唯一の灯りを囲んでいた。
そこは、確かに怖い空間ではあったのだが、そこにいる人々は賑やかだった。

「ルール説明を簡単に、企画者のレッド隊長から!」
「えー? そうだなぁ。怖い話をして、あ、曰くつきの話はダメね」
「ハイ、では、この私グリーンから補足をさせていただきましょう!」

グリーンは、そう言うと手際よく貯金箱をロウソクの横に置いた。箱には油性ペンで「罰金箱」と書かれている。

「……What is this?」
「あれ、皆さん日本人ですよね? 読めませんか?」
「そう言う意味じゃなくて。何、罰金箱って」
「よくぞ聞いてくれました」

想定通りの反応を示してくれたと言わんばかりにグリーンは頷いて、罰金箱をポンと叩いた。

「今回のイベントは、夏をSo Coolに過ごす為に企画した訳でありますがもう一つの企画意図があるのです!ね、隊長」
「ほぇ?」
「そう、それはズバリ。恐怖に打ち勝つ為の忍耐力をつける為なのです!」

グリーンが力いっぱいに床を叩いた。ロウソクの炎が激しく揺れた。
隊員達のザワツキを放ってグリーンはさらに続けた。

「怖い話をしてる最中にもし、恐怖を感じている顔をしたり、叫んだり、うわ!とかひぇ!とか言ったら罰金千円払ってもらいます!」
「えーーー!」

ザワツキが一斉にグリーンへのブーイングへと変わった。中にはジェスチャーまでして不満を表す隊員もいた。

「シャラーーップ!」

グリーンは再び床を叩いた。ロウソクが倒れそうになった。

「……良いですか。罰金を取られると言う前提がなければあなた方は耐えられるのですか?
結局、なぁなぁになってせっかくレッドが企画したイベントの根本的な意義が壊滅してしまいます。ねっ、隊長!」
「ほぇ?」
「じゃぁ、良いですね。ホラホラ、スタートしましょうスタート!」

グリーンが手を叩きながら無理やり進めようとしたとき、ホワイトがゆっくり挙手した。

「あのー。もし、罰金取るとしてその罰金はどうすんの?」
「チッ」
「あっ、今あからさまに舌打ちした!」
「そうですねぇ~。まぁ、世のため私、いや、人のために使います。ハイ、もういいですね。では始めましょう」

一気に不遜な態度になったグリーンは投げやりに怖い話大会を始めた。
隊員も、これ以上下手に追及するのもメンドクサイので黙っていた。

「さってと、ではトップバッターは誰にしましょうかね」
「時計回りでいいんじゃないかなぁ」
「じゃぁ、レッドから時計回りに行きましょう。きっととてつもなく怖い話をしてくれますよ」
「うーん。頑張ってみるよ」

レッドは軽く咳払いをすると、ロウソクの炎を見据えて話し始めた。



……これは、僕の従兄弟から聞いた話なんだけど。
従兄弟の通ってる中学校には昔から俗に言う「開かずの間」ってのがあるらしいんだよ

何でも、以前、化学実験室として使われていたって話で。じゃぁ、何で開かずの間なのかって言うとね。
開校間も無い頃に、化学の先生がそこで何者かに硫酸を浴びせられて殺されたらしいんだよ。

噂では、その先生はある女子生徒と付き合っていてね。その女生徒は嫉妬深い性格でさぁ、
先生が他の女子や女教師と話しているのが許せなくて殺しちゃったらしいんだよね。

でも、事故で片付けられちゃって。その噂の女生徒も卒業していったんだけど……。
教室に残った生徒や警備員さんがその教室で幽霊をよく見るようになったんだって。

見た人の証言も一致していてね。硫酸のビンを持って、ドロドロに溶けた顔を近づけて
『……お前じゃない』って言うんだって。

それから、すぐにその部屋は封鎖されたんだけど、
今でもその教室の中で先生はあの女生徒に復讐する為に探し回ってるらしいよ。



「おぉ、さすが隊長。なかなかパンチの効いた話を持ってきてくれましたね!」

グリーンが一人、大げさにレッドの話を持てはやしながら隊員達を見た。
しかし、隊員達の反応は見るからにイマイチでアクビをしている隊員までいた。

「みなさん、怖くて言葉も出ないんですか? おやおや、早くも罰金みたいですね」
「……いや、なんつーか典型的すぎるよね」

ブルーの頭上のブラックが口火を切ると、隊員達も続々とレッドの話を品評し始めた。

「まぁ、よくある話っすよね。学校の怪談」
「喋り方も怖がらせるって感じじゃないと思います。淡々としすぎているって言うか」
「なんか、即興で作りましたって感じだよね」
「(ギクッ!)」
「ハイハイハイハイ!」

パンパンとグリーンは隊員達を黙らせる為に手を叩たいた。

「もう、皆さんには心底ガッカリです。こんなに空恐ろしい話に反応しないとは感受性が死滅してるんじゃないですか!」
「ま、罰金は今の所無しって事っすね」
「じゃー次はブルー隊員。……本気で怖い話お願いしますよ!」

ブルーの肩を掴むグリーンの手はミシミシと音を立てるほど力が篭っていた。

「えっと、じゃぁ、次は俺の話っすね。これは怖いっすよ~」



ある日の事なんすけど、一人暮らしをしている女性がいて彼女に始めて彼氏が出来たんすよ。
始めて彼氏を部屋に呼んで、もう嬉しくてたまらないっすよね。俺も恋人欲しいっすね。

おっと、で、続きなんすけど。いまから手料理をご馳走して彼を喜ばそうとしたんすけど
彼氏がどうしても外食したいって言って聞かないんすよ。俺ならそんな事絶対言わないっすよ。

で、彼氏があまりにもしつこいもんだから彼女はしぶしぶ外に出たんす。
何だったんすかねー。カレーライスとか作ってくれたんすかねー? 絶対美味いっすよ。絶対

あ、で。彼氏が部屋に出るなり彼女の手を掴んで走り出したんすよ。
で、かなり走って公園に来たんす。で、彼氏は困惑する彼女にこう言ったんす……。

『ベッドの下に、包丁を持った男がいたんだ』



「おほぉ、これは中々。ブルーにしては上出来です」
「いやー。この話聞いた時は俺、当分眠れ無かったっす(実話)」
「ハイ、皆さんいかがでした?」

グリーンが期待に胸を膨らませていますと言う笑顔で隊員を見ると隊員達の反応は、
レッドの時の話よりかは悪くないが、暗い方向では無く明るい方向に向っていたのが問題だった。

「それ、都市伝説でしょ? 私聞いた事ある」
「ってか、話してる最中にブルーの私情が入り過ぎだよね~」
「あぁもう! 女子隊員はもっと怖そうにしてくれないと盛り上がらないでしょう!」

グリーンが床を叩くと、ロウソクの炎が微かに揺れた。

「怖がったら罰金取るくせに!」
「シェンナも怖いの我慢してるですー」
「金の亡者だー!」

女子達からの心象を完璧に悪くしてるグリーンはこれまた態度悪く耳を塞いで適当に受け流していた。

「さ、次はウチの秘蔵っ子。イエロー隊員にお願いしましょう。日々殺戮を繰り返している彼女なら実体験豊富でしょう」
「失敬な。私を何だと思ってるんですか」

挿絵

「こりゃぁ失礼しました。では、イエロー。お願いします」
「私の話はグロいですから先に断っておきます。良いですね」



中国の清の時代には、凌遅刑と言う処刑方法がありまして、最も重い刑とされているんです。
その内容と言うのが、受刑者の肉を少しずつ、少しずつそぎ落として行くと言う物なんです。

想像してみてください。自分の肉が少しずつ削られていく姿を。
決してその苦痛は無くなる事はありません。ジョリジョリと削られながら増していく痛み。

そして、その生きているのが嫌なるほどの痛みを長時間味わいながら絶命するのです。
何て、残酷でそして胸がときめく刑なんでしょう。想像しただけで顔の筋肉が緩みますよね。



「ふぁっふ。霊的な怖さではないですが、さすが歩く殺戮兵器イエロー。グロいですね」

グリーンがチラと横目で隊員の様子を見ると陰鬱な空気が漂っていたのに気づきほくそ笑んだ。

「ピンク。指が震えてますよ~?」
「……ちょっと、気分が悪くなっちゃって」
「ハイ、千円戴きます!」
「うぅ……」
「ちょっと、待ちなよグリーン! 今のは耐えるとかそう言う事じゃないじゃん」

ピンクが取り出した財布を渋々取り出すと、待ってましたとばかりにグリーンは勢い良く罰金箱をピンクに差し出した。
すると、団結力の高い、女子隊員派閥から一斉にブーイングが巻き起こる。

「黙らっしゃい! 怖いと思うのは己の精神がベリー貧弱な証拠! 私は精神鍛錬の為に涙を飲んで罰金を取るんですよ」
「怖いんじゃなくて気分が悪くなっただけでしょ!」
「シャラ~ップ…………シャラップ!! シャラップ!! シャラーーーーーップ!!」

グリーンは大声で叫ぶと、ピンクから財布を奪い取り千円を取り財布をピンクに投げ返した。

「さ、この調子でどんどん怖がりましょう!」
「ひどい……」
「罰金は罰金。これは正当な理由に基づく行為! 良いですね。ハイ、次はブラックお願いしますよ」

ブラックはブルーの頭上から身を乗り出し、低い声で呟くように言った。

「……俺の話はみんなマジでビビるから財布用意しておいた方がいいぞ」



これは俺が昔、本当に体験した話で、友達に「老婆の霊」って言えばすぐに通じる話だ。
そして、この話を聞いて平然としてたヤツなんか一人もいない。俺も一瞬言うのをためらった。
だけど、グリーンの言い分を聞いて俺は思った。本気でいかないとってな……。

あれは、俺が中学1年の時の話だった。
その日は朝から雨でなんとなくどんよりとした嫌な空気だった。吹く風もどこか生ぬるくて…。

そんな日に限って俺は追試で居残りになっちゃったんだな。
友達もみんな帰っちゃって俺一人で帰る事になってさ。夕方だって言うのに外は暗い。
さすがの俺もちょっと怖かったね。何か幽霊でも出るんじゃないかってさ。

それからしばらく歩いていると雷まで鳴り出した。ゴロゴロ……ゴロゴロってな。
俺は早く帰ろうと走った。いや、俺はもっと違う何かから逃げようとしていたのかもしれない。

その時、暗がりの向こうからお婆さんが歩いてきているのが見えた。
俺は人がいるのに安心した。だけど、その安心もすぐに崩れ去った。
そのお婆さんは傘も差さずにずぶ濡れのまま歩いていたんだ。俺は思わず後ずさりしたね。

俺は、そのお婆さんとなるべく目を合わせないようにして早足で通り過ぎようとした。
だけど、つい俺、目を合わせちゃったんだな。好奇心ってヤツだ。お婆さんはじっと俺を見てた。

「……すいませぇぇぇぇ……ん……」

お婆さんは、俺がすれ違おうとした瞬間そう言った。俺は無視しようと思った。
だけど、やっぱり好奇心が勝つもんなんだな。俺は立ち止まり、恐る恐る老婆の顔をハッキリ見た。

シワや染みだらけの顔、濡れた白髪もベッドリと頭に張り付いていて、目もどこかトロンとしていて、
そこには生のオーラなんて物を感じられなかった。俺は、何度も息を呑んだよ。

「なんですか?」と、俺は言った。すると老婆はか細い声で「駅はどこにありますか……」と聞いてきた。
俺は、自分の来たほうを震える指で差して「あっちです」と言うだけで精一杯だった。

老婆は、俺の指差す道をぼうっと見つめていた。そして、再び俺を見た。
俺はいつでも逃げられる様に準備していた。本当は今すぐにでも逃げ出したかった。

老婆は相変わらずあの低い声で「ありがとうございます」と言って通り過ぎていった。
俺はよかった、やっと開放されたと思った。早く家に帰ろう。俺の頭にはそれしかなかった。

だけど、つい俺、その老婆の事が気になって後ろを振り返ってしまった。なんと……








──老婆が俺に向ってゆっくり頭を下げていたんだ。








老婆の霊、老婆のレイ、老婆の礼……。なんちゃって。



「もー! ビックリしたよー! 何それー!」
「受けた?受けた?」

さっきまで陰鬱な空気だった場がブラックの小話のお陰でどっと明るくなった。
くだらない話ではあるが、今までの流れだと妙に斬新で、面白く感じた。

「悪の十字架パターンっすね」
「いや~実にくだらないけどこう言う場だと面白く感じるから不思議」
「シェンナも道教えてあげたかったですー!」

和気藹々とした、この場の一服の清涼剤ともいえるブラックの話が終わり、
妙に静かなグリーンに一同は気が付いた。グリーンは真顔のままブラックを見ていた。

「……ぶち殺すぞテメェ」
「ちょっ、グリーン……や、辞めよ?……そんな事言うの……ま、マジトーンじゃん……」

ブラックは老婆の霊よりも怖く感じて、体を後ろにずらした。
グリーンは、ガラの悪いおじさんの様なため息を吐き罰金箱を手に取った。

「ハーイ、今からくだらねえ話した野郎は罰金一万円戴きやーす!」
「えーーーーーー!」

挿絵

「文句はアレに言ってくださいね~。では、次、行きましょ~。ホワイト!」
「……ったく」



これは私が本当に体験した話なんだけど。修学旅行に行ってね。

消灯時間になって、みんなで寝てたらふと目が覚めて、見たら白い光がボウっと出てた。

なんだったのか今でも良くわかんないのよねー。ハイ、終わり。



「……終わったけど?」
「えぇっ! 早っ! サバサバしすぎっすよ!」
「あまりに淡白すぎて独り言みたいだったねぇ」

つまらなそうな隊員をよそに一人グリーンだけが罰金箱を頭上に上げてガチャガチャ振っていた。

「ケケケケケ……これは一万円ですね」
「はぁ~?」

ホワイトはキッとグリーンを女性らしからぬキツイ瞳でにらみつけた。

「これはれっきとした怖い話じゃない。それに私、本当に体験したし(実話)」
「…………さぁ、次行きましょう!」

ホワイトから一瞬にして目を逸らし床を見つめたままグリーンは言った。

「次こそは、怖い話をしそうな隊員はーっと」

物色するような目で隊員を見始めるグリーン隊員から全隊員が目を逸らした。

「えーと。じゃぁ、そこのハルマゲドンヘアーにしましょう」
「えっ、何ソレ。ボクの事っ!?」

勘が良いオレンジは選ばれた事が嬉しいのかニコニコしながら話し始めた。

「勝手にニコニコさせないでよっ! 全然うれしく無いし!」
「……良いからとっとと話せよ」
「は、ハイっ……」

グリーンのマジトーンの言葉に怖気づいたオレンジは震える声で話し始めた。



えーと……あれは暑い夏の日でした。
ボクがお墓参りに遠足に行って、あ、違う。遠足でお墓に、あれ、違う。

えーと、これはボクが20年前に本当に体験した話です。いや、そんなに生きて無い。
これは、従兄弟から聞いた話です。いや、おじさんからでした。

ボクがまだ小学生だった頃……だから、おじさんから聞いた話じゃなくって。
開かずの間が、じゃなくて。ベッドの下で肉を削って、じゃぁなくて。

あ! えーと。ボクの家の近くに廃墟があって。そこで自殺した女の人の幽霊が出るんだって。
……あ、まだ終わりじゃないよ! まだ違うよ!

えーと。その幽霊はいつも窓から人を見てて目が会うとその人はみんな死んじゃうんだ。
もう、近所だけで、10人……100人も死んじゃってるんだ!

で、ボク本当かな~。ってその窓を見に行ったら居たんだよ。
そしたら青白い顔の女の人がこっちを見てニタァって笑ってるんだ。

ボク怖くなって家にすぐに帰ったんだ。
そ、そしたら。なんと! そこの廃墟には昔、自殺した女の人がいたんだってさ!



やり遂げたような顔のオレンジにグリーンは黙って罰金箱を差し出した。

「ハイ、二万円」
「なんでーっ!?」
「……払えねぇって言うのかぁ? コラァー!」
「は、払いますっ!」

オレンジは二万円を罰金箱に今にも泣きそうな目で投入すると、グリーンは奇声を発しながら
罰金箱を物凄い勢いで振った。ガチャガチャと言う小銭の音にテンションは上がるばかりだった。

「……はぁ、はぁ、ひぇひぃ……さぁ、次の金蔓はどいつだぁー!! 」

どんどん金を得るごとにキャラが壊れていくグリーンの周りからは隊員が距離をとって、
隊員とグリーンと言う構図になっていた。しかし、話さない事にはどうにもならない事だと、
渋々、良い位置にいたライトブルーが前に押し出されグリーンに面と向う形になった。

「ライトブルーか。頼むぞぉー! ひゃはー!」
「う、うん。まぁ、出来るだけやってみるよ」



みんなは、キジムナーって言う妖怪を知ってる? 沖縄の妖怪。
今から話すのは、オイラの地元の沖縄の昔の民話だよ。良い?いくよ?


昔、あるところに釣りをしているおじいさんがいました。
しかし、なかなか魚は釣れません。すると、どこからか声が聞こえてきました。

「おじいさん。おじいさん」

見ると、赤い毛で覆われた小さな子供のような物が後ろに立っていました。
そう、それがキジムナーです。

キジムナーは「友達になろうよ」と言いました。おじいさんは返事をするとキジムナーは、
「ザルを貸してくれれば魚をたくさん取ってくるよ」と言いました。
ザルを貸すとキジムナーはあっと言う真にザルいっぱいに魚を取ってきました。

それからキジムナーのおかげでおじいさんは大量の魚を売ってお金持ちになりました。
立派な家も建てて、何不自由ない暮らしができるようになったのです。

しかし、困ったことにキジムナーはおじいさんが病気の時も、出かけたくない時でもしつこく海に行こうと誘うのです。
おじいさんはだんだん我慢が出来なくなり、キジムナーと縁を切ろうと考えました。
そして、おじいさんはキジムナーに聞きました。

「キジムナーよ。おまえが一番怖い物はなんだい?」するとキジムナーは言いました「ニワトリが怖い」
すぐさまおじいさんは「どうしてニワトリが怖いんだい?」と聞きました。
キジムナーは言いました「ニワトリが鳴けば夜が明ける。朝になったら帰らないといけないからだよ」

キジムナーが帰った後、おじいさんは藁を身に纏い、大きな葉を手に持ってニワトリの真似をしました。
「コケコッコー……うん、これならニワトリだと思うぞ」

おじいさんは次の日にキジムナーが来る頃を狙って屋根の上に昇りました。
すると向こうからキジムナーが歩いてきているのが見えました。

「コケコッコー」

おじいさんは、すぐさま屋根の上でニワトリの真似をしました。
キジムナーはびっくりして「あっ、夜が明ける!」と慌てて帰り始めました。

おじいさんはその効き目にびっくりして屋根から落ちてしまいました。
キジムナーはその物音に気づきおじいさんは見つかってしまいました。

「友達なのにどうしてこんなことをするんだ!」とキジムナーは怒り出しました。
キジムナーは物凄い目で睨んだかと思うと稲妻のようにおじいさんに向ってきました。

そして、おじいさんはキジムナーに突撃され、死んでしまいましたとさ。



「民話らしい陰鬱な空気でしたね。古き良き日本昔話」
「ボウヤ~よい子だ」
「金だしな」

地味ながらもライトブルーの話は中々評判が良かったようで隊員たちも満足げだった。
しかし、ここで言う満足とは「怖い話らしい話だねぇ」と言う意味の満足だった。

「次は誰にしようか?」

グリーンは罰金箱を抱きかかえたまま相変わらず奇声を発していた。
ここは、放っておいて勝手にレッドが進行役を務める事にした。

「次は、クリームにしたら? 意外と怖い話知ってそうだし」
「……私はそんなに」
「実体験でなくても、ホラ、聞いた話とかでも良いし」
「それじゃぁ……」



これは、私が聞いた話なんだけど、
ある女の子が良心の留守で一晩家で留守番することになったの。

女の子は家中の鍵を閉めた。だけど鍵が壊れている窓が一つだけあった。
でも、小さな窓だったし大丈夫だろうと女の子はそのままにしておいたの。

その夜、女の子が寝ているとどこからか水が滴る音が聞こえてきたの。
女の子はそれが何なのか判らずに怖くなった。真っ暗だったしね。

それで、女の子は側で寝ている愛犬の方に手を伸ばすとペロペロと愛犬は手を舐めてくれた。
愛犬がそばにいる事を確認して女の子は安心して一夜を過ごした。

翌朝、目が覚めると愛犬の姿が無かった。そして相変わらずあの水が滴る音は聞こえてきていた。
女の子はその音のする方へ歩み寄って行った。音は風呂場から聞こえてきていたの。

風呂場では、惨殺された愛犬が天井から吊り下げられていたの。
そして、床にはポタリポタリと愛犬の血が滴り落ちていた。

ふと、女の子は愛犬の亡骸の側に一枚の紙切れがあるのを発見した……。
その紙切れにはこう書いてあった




『人間だって舐めるんだよ』



「こ、怖い話だねぇ」
「痺れるっすよね。この話知ってるんすけど。やっぱり眠れなかったんすけど」
「結構、ヒットかもねぇ……」
「はーい! バッキーン! ヒャホァーーーッ!!」

怖がっている隊員達にグリーンは笑いながら罰金箱を差し出し、隊員達は渋々、罰金を払った。

「人選を誤っちゃいましたね。怖い話をしなさそうな隊員を選ぶべきでした」
「しっ、グリーンに聞こえるよ」

グリーンは嬉しそうに罰金箱を揺さぶっていた。
そこで隊員はその隙にこちらで次の隊員を選ぶ事にした。怖い話をしなさそうな隊員と言えば。

「次は、シェンナね」
「シェンナの話は怖いですよー!」
「あはは。じゃぁ期待しとかないとねぇ」



これはシェンナが本当に聞いた話ですー。
あるところに、女の子がいて夜遅くに学校から帰っていたんですー。

「はぁ、はぁすっかり遅くなっちゃったですー。早く家に帰らなきゃ!ですー」

家に帰ると電気が全然付いてなかったんですー。
誰もいないのかなと思ったら玄関にぼーっとお母さんが立っていたんですー

「た、ただいま……ですー」
「おかえり……なさい。ですー」
「お母さん。どーしちゃったのぉ?ですー。 電気もつけないで!ですー」

女の子はお母さんの顔が違う人みたいに思ったですー。
顔色が悪くて、お化けみたいだったんですー。

女の子は急いで部屋に入ったですー。
その後、着替えを済ませてまた部屋から出たですー。
そしたら、お母さんが台所にいるらしくて真っ暗な廊下に小さな灯りが漏れてたですー

「%&↓○★§※▽△■¢#&≦♀°〓⊇′◆¥℃′♀♂∞≧∴】±×℃……」

台所を覗くとお母さんが意味不明な言葉を発しながらガタガタ震えていたんですー
女の子は怖くなってお母さんって呼んだですー。

「※▽△■¢#&≦♀°〓⊇′◆¥℃′♀♂∞≧!!!!!!!!!!」

お母さんは女の子の方を向いたですー。
お母さんの顔はさっきよりも酷くボロボロだったですー。
お母さんはペタペタって近づいてきたですー。

「きゃぁぁぁぁぁ!ですー」

お母さんは逃げようとした女の子の腕を掴んだですー。
そして、お母さんは化け物みたいな声で女の子に言ったですー



「お父さんがリストラされたの。ですー」



「シェンナの超怖い話だったですー!」
「あはは。確かに怖い話だねぇ」
「シェンナにしては中々上手い話だったんじゃないっすかねぇ」

隊員達もヘラヘラと楽しげなムードになっていた。

「あと、この話を聞いた人は明日、死んじゃうんですー」
「うわああああああああああああああああああああああ!」
「ひぃぁぁっ!!」
「助かる方法も無いんですー」
「きゃぁぁっ!」
「わぁぁーーっ!」

予想外のふり幅を見せたシェンナの発言に隊員達は阿鼻叫喚。

「そういう話やめなさい。シェンナ」
「ですですー」

結局、クリームが止めに入ってうやむやになったが。
隊員達の中には恐怖のしこりみたいな物が残っていた。まさかシェンナにやられるとは。

「シェンナは偉いですねぇ~。ほぼ全員から罰金が取れますよ。ケケケケケ」
「今頃気づくなんて遅いですー」

大声で叫んだために余計な弁解が出来るはずも無く、隊員達は千円を罰金箱に入れて行った。
四方八方から飛んでくる文句を無視してグリーンは罰金箱を大事そうに抱えながら自分の位置に戻った。

「さて、いよいよ最後はこの私が、ケケケ、話させていただきましょう」

グリーンは、抱えていた罰金箱を輪の中央に置いた。

「……最後ですからねぇ。罰金は五万円でどうですか」
「えー! 高っ!」
「だまらっしゃい! 最後はこれくらいスリルがなければ面白くもなんとも……ハァハァ……ありませんっ!」

グリーンの目が¥になっていた。既に、罰金を取れるという自信がそうさせていたのだろう。
それを見ると隊員達も「面白い。我慢してやろうじゃねーか!」と言う気持ちになってきた。

「じゃぁ、良いよ。グリーン、さ、話てごらんよ」
「ケケケケケケ! いくぞぁーっ!」

何だか様子がますますおかしくなっているグリーンは口を開いた。



百物語ありますね。百物語、あれは室町の時代には既に原形が存在したといわれています。
当時は、百では無く十物語だったそうです。そして中央には水がめを置いておくのです。
参加者の中で、悲鳴を上げたり怖がる素振りを見せた物はその中に罰金を入れていました。

あまりに怖い話をする人は罰金を多く取るので逆恨みで殺される事も多かったそうです。
今は、罰金を取るなんて聞きませんよね。それはですね。出るからです。

金が欲しい為に怖い話をして殺された人々の霊が悪霊になって、憑くんです。参加者に。
散々、金を取った挙句、参加者全員を取り殺すとか……。



隊員達の目が一斉に、グリーンに向けられた。その目は疑惑の目だった。
グリーンの目は焦点が定まっておらず、緩んだ口元からはヒューヒューと息が漏れていた。



金が欲しい、金が欲しい、そう重いながら怨霊達は憑くのです。
しかし、そんな事があるせいですっかりそのスタイルは取りやめとなり、
代わりに提案されたのが百物語。百あれば中々簡単には出来ません。

しかし、怨霊達は今でも、人々から金を取る為に十物語をやらせて……



グリーンの言葉が急に止まり、隊員達の間に緊張が走った。
俯いたままのグリーンの顔がゆっくりと上げられた。

「ケケケケケケケケケケケケケケケ……!」

挿絵

グリーンの顔にはグリーンらしき点はもうどこにも存在してなかった。
まさか!そんなバカな! 隊員達は、混沌とした雰囲気の中で叫び声をあげて逃げることしか出来なかった。

「うわああああああああああああああああああああああああああああ!」
「きゃああああああああああああああああああああああああああああ!」













たった一人、残ったグリーンは小さく笑っていた。

「……フッフッフ……作戦成功」

罰金箱を抱えながらグリーンはゆっくりと歩き出した。
そのあくどい表情は間違いなくグリーンの色があった。

「三日三晩、睡眠時間を削って考えた甲斐がありました。これで、新しいパソコンが買えますね。
それにしても、私も上手い事考えるもんです。私って案外、天才じゃないんでしょうかね~」

グリーンは、大金が転がり込む未来にうきうきしながら隊員らの逃げたリビングの方へと向った。

「さぁー! 罰金戴きますよー!」

リビングのドアを勢い良くあけたグリーン。
だが、リビングの中には誰一人いなかった。どこに隠れたのかと探して回ったがどこにも居なかった。

「……あ……」

グリーンは、その時初めて思い出した。

今日は、グリーン以外の隊員が皆、夏休みを過ごす為に誰一人来ないはずだったのだ。





終。