第83話

『海から来た新隊員』

(挿絵:クリーム隊員)

9月のある土曜日。夏休みの呪縛から逃れられないで居るOFFレンジャー達は海にやってきていた。
暦上、秋と言われようがなんだろうが気温、オーラ、雰囲気、っぽさ、様々な物を総合して考えれば今はまだ夏なのだ。
誰が何と言おうと今は夏なのだ。異論は認めない。絶対認めません。認めてなるものか。





「はーい。みんな集まったねー!」


海を目の前に一人元気な我らがレッド隊長は隊員達を整列させ隊員の数を数え終えた。

「えー、この度ちょーっと事情により遅れちゃったんですが。夏合宿にやってきましたー!」

覇気の無い隊員を前に無理やり盛り上げてみたものの隊員達からは気だるいオーラが漏れっぱなしだった。

「いくら何でも遅れすぎっすよ~。明後日、普通に学校あるんすよ?」
「いやぁ、旅館の予約一ヶ月間違えちゃっててさぁ。気づけばもうキャンセル不可能になっちゃって」
「しっかりしてくださいよ~。無理やりお金取ってるんですからね」
「と、とりあえず。この二日間しっかり楽しもうじゃない! ホラ、海が綺麗だよ」

話を逸らしてレッドの指差した海は確かに綺麗だった。
だが、さすがにシーズンも過ぎている為にひとっ子一人海辺にいやしない。

「貸切みたいじゃない? 貸切! やっぱりこの時期で正解だったんだって。怪我の功名って奴だよね」
「シェンナ、すいか割りしたいですー」
「おぉっ! シェンナも良い事言うね。やろうやろう! 絶対やろー!」

レッドが明るく振舞ってみても隊員達はイマイチ乗り切れておらず、空回りばかりしてしまっていた。
夏休みが終わって新学期が始まってすぐに夏合宿なのだから無理も無かった。

「とりあえずさ! 旅館に荷物を置こうよ。ね? みんなも次第に楽しくなってくるって!」

レッドは荷物を抱えて列の先頭を歩き始めた。後ろから愚痴や文句、期待の声も聞こえてきていた。
コンクリートの防波堤沿いに歩いていくと大きなソテツの木がポツポツと生えて何となく椰子の木に見えて南国っぽい印象を与えた。
そのまま歩いていくと、古びた民家が見えてきた。

「あれが、僕らの泊まる民宿『やすらぎ』だよ」

二階建ての木造建築のその民宿の玄関には、確かにやすらぎと言う表札がかかっていた。
温泉やら何やらがある物なのだと思っていたが少年少女が泊まるのだから現時的と言えば現実的だった。

「日本の夏っぽいでしょ~。ネットで探すの苦労したんだよ~?」
「それより、さっさと荷物置かせてくださいよ~」
「あぁ、ハイハイ……」

レッドは、急いで中に入ると民宿の主人らしき人から鍵を受け取り外に待機している隊員に手招きして知らせた。
隊員達はゾロゾロと民宿の中に入ってきた。皆がちゃんと「お邪魔します」と言う分、礼儀正しいなぁと隊長はしみじみと感じた。
中はまさに少し小さな旅館と言う感じでさほど想像していたよりかは酷くなくむしろ許容範囲内。
多少、廊下がギシギシとするが部屋に向うまでの別な部屋の中を見るかぎりでは部屋も悪い物ではなさそうだ。

「ハイ、みんなちゃんと来ているね」

一番奥の突き当たりまで来ると、そこには左右に二つの戸があった。
レッドは一本の鍵を、パープルに渡して言った。

「右のサクラの間が女子隊員の部屋。左のサヤエンドウの間が男子の部屋だから。よろしくね」
「りょうか~い」
「えーと、家に帰るまでが合宿なので……」

男子も女子もレッドの話を聞かずに各々の部屋へと入っていった。慌ててレッドも男子の部屋に入る。
部屋は、純和風と言う物で、入ってすぐ左隣に横に広い押入れがある。布団はここにあるらしい。

そして、部屋の中央には大き目の机。床の間には達筆な字で『さやえんどふ』と書かれた掛軸がかかっている。
奥には障子の戸があり、開けて見ると隣の部屋と繋がっている縁側があった。庭には、朝顔のツルが絡まった竹の垣根が見える。

「なかなか古きよき日本のたたずまいの民宿じゃないですか。癒されますね」
「さすが腐っても隊長っすね」
「へっへー。もっと褒めて良いよ」

隊員がすっかり気に入ったのを満足げにレッドが眺めていると、縁側の方から浮輪に入ってはしゃぐシェンナがやってきた。
そして早くも必要なのかどうかも疑わしい水着を着ている。しかもビキニだ。

「早く海で遊びたいですー」
「コラコラ、まだ来たばかりでしょう」

すぐにクリーム達がゾロゾロとやってきて同じような部屋である事を確認して、へぇと声を出していた。

「海に行きたいですー。カニさんと遊ぶんですー」
「ダメよシェンナ。民宿のしおりには今から民宿の人達に地方の昔話を聞くって書いてるでしょ」
「シェンナ、日本昔ばなしいつも見てたから聞き飽きたですー!」
「……隊長が決めたことなのよ」

クリームがレッドに目配せをした。しかし、レッドは既に虎縞の海パンを着込んでおり、ゴーグルまで用意していた。

「そうだよ! 海に行ってカニさんと遊ぼう。昔話なんてネットで調べればいいよ!」

挿絵










「タイガせんぱぁーい!」

その頃、いつになくウキウキしながら、麦藁帽子と小さなスイミングバッグを抱えたエコが本部にやってきていた。
しかし、本部には誰も居ない。OFFレンジャーは夏合宿に行っているのだ。

「先輩? せんぱーい! タイガせんぱぁーい!…………レッドでも良いよぉー」

無人の本部をくまなく探すエコ。誰も居ないのだと言うのに気づくまで一時間を要した。
それに気づいたのはホワイトボードに書いてあるスケジュール表を見たことによるものだった。

「えぇー! もう行っちゃったのー!?」

エコはその場に崩れ落ちるように座り込み、落胆した。
実は、前日にタイガから合宿の話を聞き、どさくさに紛れてエコも付いて行かそうとタイガと計画していたのだ。
しかし、タイガはそれをすっかり忘れ、レッドに戻っており、エコはまさに置いてけぼりを食らったのだ。
麦藁帽子姿の自分が少し、悲しくなって来る。しかし、合宿には行きたい。タイガが物凄く楽しい物だと言っていたのだから。

「よ、よーし! オレ、何が何でも先輩に付いていってやるぞぉー!」

エコは、ポンポンと両頬を叩いて気合を入れると本部から勢い良く飛び出して行った。













「海と言う物は生命の源であります。我々は海から生まれたので~あります!」

予定を大幅に変更して海にやってくると、レッドは一同を横一列に並ばせて長々と語り始めた。
暦の上では秋ではあるが陽射しも強く、天気も快晴である。おまけにサンダルの無い男子隊員は砂が熱くてたまらない。
そのくせ、レッドはサンダルをしっかりと履いているのだから準備が良い。

「つまり、海水浴とは我々の本能が起こす母体回帰の行為でありっ! 肉体は海を求めていると言えるのでありまひゅっ!」

熱い中に長い話をしていると隊長自身も何を言っているのか解らなくなっているようで舌が回らなくなっている。
何度かそんな事を繰り返して、ついには舌を噛むとようやくレッドも大人しくなった。

「……ハイ、遊んで良いよ……」

テンションの低い開始の合図は、立ちっぱなしの隊員達の既に低いテンションを上げるには頼りない物だった。
トボトボと、海に向って横一列で歩いて行く姿は第三者から見ればさぞ奇異に映っただろう。

「気持ち良いですー!」
「うわ、ホント。やっぱり海って良いね」
「あはー、しょっぱい。塩分過多だ。塩分過多だぁ」

だが、海に入ると隊員達も徐々にテンションが上がって来、すっかり海水浴の雰囲気になった。
これも、太古の昔から人間のDNAの奥底に刻み付けられた母なる海の記憶のせいなのだろうか。

「ひゃぁ、冷たい。でも、やっぱり気持ち良いな~」
「女子達の水着も眩しいっすねー。やっぱり海は良い!」
「って言うか僕らに水着っているかなー?」

レッドも海に入りOFFレンジャーもようやく合宿らしい事をしているようになってきた。
男子達は泳ぎまくり、女子達はビーチボールで遊んだり、シェンナの浮輪に捕まって泳いだり……。
思い思いに過ごしていたが、話していてすっかり輪に入りそびれた隊長とブルーだけがポツンと寂しく海中に立っていた。

「ねぇブルー……潜りっこしようか?」
「えぇ!? この歳で、この状況で導き出した答えが潜りっこっすか!?」
「じゃぁ、水着取替えっこしようか!」
「イヤイヤイヤ、弁当のオカズみたいな感覚で言われても。しかもそれ楽しいんすか?」

そんなこんなで思い思い隊員達が楽しんでいると徐々に泳ぎにも飽きたのが隊員達は砂浜の方へと移動していた。
既に、ブラックが砂に埋められていたり、イエローが捕まえてきたらしい魚介類を熱心に解剖していたり、
すっかりOFFレン内でのエンターテイメントは砂浜を中心に展開されていた。
これなら大丈夫だと、ブルーとレッドも砂浜へと移動していった。

「あぁっ、隊長! なんて事してくれたんですか」
「え?」

砂浜にあがるなりクリームから怒られたのでレッドは心が折れそうになった。

「シェンナのお城壊れちゃったですー……」

しょんぼりとしたシェンナの姿と自分の足元を見てようやく自分が砂の城の一部を壊してしまったのだと気づいた。
目でブルーにフォローを頼むもうとしたが、ブルーは女子隊員と一緒にブラックに砂をかけてセクシーなお姉さんを創り上げていた。

「ご、ごめんね。シェンナ。僕も一緒に作るから許して。えぇと、これはどの部分だったのかなー?」
「そこは城下町だったんですー」
「あ、お城ってジャパニーズの方なんだ……」

見よう見まねで砂を固めて城下町を作るものの、シェンナやクリームが作っているような器用な物は作れなかった。
どうして、シェンナがスコップで屋根を撫でただけで瓦やしゃちほこが綺麗に出来ていくのかが不思議でならなかった。

「隊長、そこはビルじゃなくて糸屋です」
「え、あ、糸屋ね。うん、糸屋だ」

真四角の建物に糸屋と言われてもレッドはどうすればいいか解らなかった。
チラとクリームを見るとこれまた秀逸なジオラマの様な城下町が出来ていた。小さい棒状の物は多分人なのだろう。
シェンナもシェンナで、天守閣の柵の隙間を丁寧に作っていっていた。レッドは自分の美術的センスの無さが惨めになった。

「僕、ちょっと疲れたからこの辺でやめとくよ」
「解りました」

無事に、お城作りから開放されたレッドは海に入り、水面が肩の高さに来る所で立ち止まった。
ピンと張られた水平線を見ていると都会の雑踏から解放された気分を十分浸らせる事ができる。
すぐ側に感じられる波の音と、遠くに響く隊員達の楽しげな声に挟まれて、レッドは良い知れぬ感慨さを感じていた。

「あぁ、夏って良いなぁ。やっぱり……」

ついそんな事を口走ってしまう。海はやっぱり心のふるさとだ。
銭湯のノリで極楽極楽なんて事まで行ってしまう。海は人間のふるさとだから仕方が無い。

そんな時だった。水平線の側から何かチラチラと白く光る物が見えた。
サメ!?とも思ったがこんな近くまで来る訳は無いし、白いサメがいるなんて事も聴いたことが無い。

徐々にその姿があらわになってくるとその白い物の下には長い棒状の物が付いているのが解った
よく見るとその棒状の物はわりと長い。その下にも何やら茶色い大きな頭部らしき物が見える。

「(ヤバイ! あれ絶対怪物だ!)」

特撮番組を何百も見てきたレッドは、すぐさまその姿をありありと想像することが出来た。
慌てて砂浜に海水を掻き分けて逃げ出すと、隊員達もそのただならぬ様子に気づいたらしかった。
シェンナとクリームの力作を踏み潰しながらレッドは逃げた。糸屋だろうが越後屋だろうが関係ない。こっちは命が掛かっているのだ

「大変だっ! 怪物だ! 早く逃げないと! 人間の過ちが作り出したに違いない!」

一人バタバタと慌てふためくレッドは、辺りがしんとしているのに気づいた。
隊員達は、海の方を怪訝な顔で見ている。一体何が起こったというのだ?レッドは恐る恐る海に目を向けた。

「!?」

レッドが怪物だと思っていたのは木のイカダだった。あの棒状の物はまさしく棒で、白い旗が靡いていた。
そしてそのイカダには誰かがポツンと体育座りをしている。

徐々にイカダはこちらへと近づいてくる。それに従ってイカダに乗った人物の顔がハッキリとしてくる。
ゴーグルを頭に載せて、黒い服を来た少年だった。見た所、怪物では無いようだ。怪人でもないらしい。

ガゴンと言う音と共に砂浜に乗り上げたイカダから、少年はピョンと飛び降り、こちらへと近づいてくる
波の音だけがその場に響いていた。緊迫の一瞬。ファーストコンタクト。未知との遭遇。

少年は隊員達の目の前で止まるとニコっと笑って手を挙げた。

「大家好!」

挿絵











「せんぱぁーい……ぜぇぜぇ……待っててくださいよぉ……」

炎天下に一人一本の棒切れを頼りにエコは歩いていた。
タイガの記憶を頼りにエコはトボトボと、目的地である海に向っていた。

山道は険しく、坂道ばかり。何度転んだ事か……。

「わっ、わっ、わーーっ!」

言っている側からエコは坂道をゴロゴロと転がって言った。止まらない止まらない。
次第にエコは成すがままに坂道を無抵抗に転がり落ちていく。ボタンが押され、また押され、また押され、
悪エコになったりエコになったり。だがそんな瞬間を感じる暇は無いほどの速度でエコは転がっていた。

ガードレールを飛び越えエコは遥か下方へ落ちていく。が、サイボーグなので命に別状は無い。
大きな金属音が鳴り響くと、傷だらけのエコがムクっと立ち上がった。

「……イタタタタぁ。うぅ……タイガ先輩……どうして起こしてくれなかったんですかぁ……」

エコは、涙ながらにふらふらした足取りで歩き出すと、森の中をトボトボと歩き始めた。

「……あの野郎……絶対ぶっ殺す」













隊員達は異人さんの突然の来訪に困惑していた。

「这是日本?」
「な、なんか言ってるよ?」
「オンドゥル語じゃないかなぁ」
「いや、多分、語感からして中国語だと思います」

隊員達は以前、香港へ出かけていったメンバーを執拗に見つめていた。
だが、そのメンバーたちもお互いを目を合わせて苦笑いするだけでどうしようもなかった。

「認識你們 很高興!」

ニコニコしながらフレンドリーな口調の異人さんに、隊員達はタジタジだった。
言葉の壁は特に子供達にとっては分厚すぎる。どうすれば良いのか困っているとどこからか笑い声が聞こえてきていた。

「フッフッフ……みなさん、こんな時の為に腕時計型PCがあるのをお忘れですか?」

グリーンがコツコツとPCを叩いた。いつの間にか防水ケースが付いている。
不可解な様子で隊員達はグリーンを見ていると突然、グリーンは喋りだした。

「你是谁?」
「我的名字叫Garnet!」

流暢な中国語でグリーンが会話を始めたのである。驚き桃の木山椒の木だ。

「いつの間に中国語なんて習ってたんですか?」
「フッフッフ。実は、以前から米中対応の翻訳ソフトをこのPCにインストールしていたんですよ」
「?」
「このソフトを入れてセットしておけば、私の言葉が中国語に、相手の喋る言葉が日本語で聞こえてくるのです」

隊員達から一斉にどよめきが起こった。そんな事が出来るとは、と言う意見で一致しているようだ。

「みなさんもいりますか? 赤外線通信でインストールさせてあげましょう」

グリーンの言葉に、隊員達は次々にPCを差し出し、ポンポンとグリーンはそれにたやすくソフトを入れていく。
ついでにメモ帳がある事に気づき、開いてい見るとインストール料金の明細書だった。ちゃっかりしている。
とりあえずソフトを開いた上で恐る恐るレッドが少年に声をかけてみた。

「えーと、こんにちは……」
「こんにちは!」

イキイキとした日本語がレッドの耳に届いてきた。科学もここまで来たのかと思うと改めて驚かされる。

「ここは日本ですか? 俺はガーネットと言う名前です」
「あぁ、これはご丁寧にどうも。 ここは日本ですよ」
「日本はとても楽しいと感じる!」

どうやらソフトも万能ではないようでガーネットと名乗る少年の言葉は翻訳風の言葉だった。
だが、意味は十分に通じるので全然大丈夫だ。全然大丈夫じゃない事ないぞ。

「レッド、一応、怪しいですからちゃんと相手の素性を聞いておいた方が良いですよ」
「そ、そうだね」

グリーンから囁かれてレッドも納得した。純粋そうな目をした少年の皮を被った悪党かもしれない。
必要以上にフレンドリーなのもなんだか怪しい。レッドはジリジリと少年との間をつめて少年に付いて聞き始めた。

「どこからやって来ましたか?」
「俺は台湾から来ました!」
「何をしにやってきたのですか?」
「俺は日本の漫画やアニメがとても気に入るので勉強をする事をしたい!」

質問するたびにどんどんガーネット少年の言葉には熱がこもり始めていた。
これは、意外と良い人かもしれないとレッドは早くもガーネット少年に親近感を抱きつつあった。

「ここは秋葉原ですか?」
「いいえ、ここは大阪です」
「トムは公園で毎日テニスをします」
「いや、ブルー訳わかんないよ」

ガーネット少年は相変わらずニコニコとフレンドリーなオーラを見せ付けてくれていた。
悪い人じゃないようだし、同世代らしいし、言葉の壁はすんなりと突破する事が出来そうだ。
同じような趣味を持つブルーもどうやらガーネット少年の事が気になっているらしい。

「俺は秋葉原に行きたい事を願う事を思う」
「アキハバラかぁ。連れて行ってあげたいけどここからじゃ遠いしな~」
「転送装置のバッテリーも切れ掛かってるし、今日は無理かもね」
「残念だ……とても悲しい……」

ガーネット少年は突然、ガクッと砂浜に崩れ落ち、地面に手をついて苦悩のポーズをし始めた。
どうやら彼にはテンションが高いか低いかのどちらか両極端しか無いらしい。
そんな彼を見て心動かされたのかレッドがドンと少年の前に出た。

「ガーネットさんとやら、今日の所は僕らの所に泊まって良いから。明日にでも連れて行ってあげるよ」
「ありがとう。貴方は親切!」

手と手を取り合うレッドとガーネット少年。嗚呼、日台交友はこの瞬間から花開くのだ。

「レッド、勝手に連れ込んじゃって良いんですかー?」
「何言ってんの! 遠いタイワァンヌから一人イカダに乗ってはーるばーると身一つでやってきたんだよ!」
「そりゃそうですけど……」
「日本好きに悪い人はいなーい!」

レッドは既に出来上がってしまっているようで、ガーネットと硬い握手を交わしていた。
隊員達の心象も悪くないようで、最後まで猜疑心の塊のようだったグリーンも渋々納得した。

「ねぇねぇ、ガーネット君。キミは何か日本語喋られる?」
「フジヤマ、ハラキリ、スシ、テンプラ、フキノトー」
「あはは、面白い子だねぇー」

ガーネットはかなりレッドに気に入られているようでレッドの表情はほのぼのとしていた。
熱意のある若者にレッドは感化させられいぇいるらしい。なんと単純なのだろう。

「そろそろスイカ割りするですー」

ちょうどその時、シェンナが大きなスイカを抱えてやって来た。
大きなみずみずしいスイカは見るからに美味しそうで夏の雰囲気をその球体にしっかりと留めている。

「そうそう、スイカ割りやんないとねー!」
「スイカ割り?」
「まぁ、見ててよ。面白いから」

レッドは、側に落ちていた太めの木を掴むと。帽子を目深に被ってギュッと後ろでキツク縛った。

「あっ、レッド。ダメっ!」
「な、なんだぁっ! 真っ暗だぞっ! どこだ? 誰かいるのかっ!?」

変身してしまうと、突然暗闇の中に放り出されたタイガはヨロヨロとふら付きまわっていた。
めんどくさいので、クリームはタイガの体をグルグルと回転させ、ポンとスイカの方に押し出した。

「な、なんだぁー。誰だお前は! オレは暗い所なんか全然怖くないからなっ! ホントなんだからなっ!」

タイガは、突然の事にやっぱり動揺しているのかブンブン棒を振り回してよろけていた。
だが、そんなタイガに事情説明すらせず、女子達はワーキャー騒いで方向指示をしていた。

「右ですー。もっと右ですー」
「あ、シェンナちゃん! シェンナちゃーん!」
「違う違う。もっと左」
「ホワイトちゃーん。みんなそっちにいるんだねー?」
「タイガくん。まっすぐまっすぐ」
「まっすぐ? でも、声はこっちから聞こえてるよ?」

右往左往しながら、タイガはだんだんスイカに近づいていく。
片手に棒を持ったまま、フラフラと歩いているタイガは何だか滑稽だ。

「そこそこ!」
「え?何が?」
「そこで、棒を持ち上げてスイカを叩くの」
「よ、よーし?」

タイガは思い切り棒を上げると力いっぱいスイカに振り下ろした。
物凄い音と共に粉々になったスイカがあちこちに飛び散り、砂にまみれてスイカ割りは終わった。
固まったまま誰も動かないこの状況を不思議そうにガーネット少年は見つめていた。

「……日本人は不思議な事をする」












その日の夜は、贅沢にスキヤキを食べた。隊員のお金なので肉より野菜が多かった。
初めてのスキヤキが珍しかったのかガーネットは美味い美味いと良く食べた。

食後には、新しく買った小さめのスイカをみんなで縁側に座って食べた。
側に置いたぶたの蚊取り線香入れからの煙や、かすかな夜風に吹かれる風鈴等がまだ残っている夏を全身に感じさせてくれた。

「日本の侘びサビを感じますね」
「夏は良いね。夏は」

スイカが無くなると、皆は静香に縁側で思い思いに過ごし始めた。
ゴロンと寝転がる者、夏だねぇと語り合う者、夏の星座を必死に見ようとしている者。

「ガーネット君。日本の夏はどうかな?」

レッドは、側でショリショリとスイカを丁寧に食べているガーネットに声をかけた。
異国生まれのガーネット少年にも日本の夏は親身に感じられたようで笑顔で返した。

「花火やるですー」
「お、いいな~」

次から次へと遊びを始めるシェンナも今日は皆に受け入れられていた。
隊員達は揃って庭に出て、花火を始める。ガーネットも光線銃型花火を持って楽しげに花火をしている。

「日本の爆竹はとても綺麗だ」
「あははー。台湾は爆竹バンバン鳴らすのが好きですからねー。静かなのも良いでしょう」

そのうち、どんどんエスカレートし始め、打ち上げ花火やネズミ花火と賑やかな花火になる。
テンションが下がったヘビ花火は、唯一ガーネットが気に入った。

「不思議だ! これは不思議な事だ! 俺は凄い物を見ている!」
「あはは、良かったねぇ……」

閉めの線香花火は、みんなで一斉に始めたが煙たくてなんだか切なさが薄かった。

「お、俺はとても切ない気持ちになる……」

一人、目を潤ませながらガーネット少年は線香花火の炎を見つめていた。
浮き沈みの激しい人だが、まぁ、日本のこの切なさを感じられると言う事はさすが若者である。
そんな風にして花火も底を突くと、みんなもウトウトし始める。

「そろそろ、部屋に帰りましょっか」

TVも本無いこの生活の中では、人は自然なペースで過ごせるのだろう。
皆も、11時ぐらいには結構眠くなってきていた。

「今日は楽しい一日だ」
「そう言って貰えると有り難いねぇガーネット君。キミはこっちの部屋で寝ようね」

女子が部屋に帰っていくと部屋の中では男子達が布団を敷く準備をしていた。
さすが男子と言うべきかシーツを敷かずに布団に潜り込む隊員もいた。もちろんブラックだ。

「ひゃーさすがに8人もいると部屋がいっぱいになっちゃうねぇ」
「ガーネット君。どこで寝る?」
「大丈夫だ! 俺は日本の勉強して知っている」

ガーネットは自信満々にそう言うと、押入れの上の段に上がると残った一枚の布団の上に横になって戸を閉めた。

「いやいやいや! ガーネット君。何やっちゃってんのさ」
「日本の居候は押入れで寝る事をする!」
「違う違う。ドラえもんじゃないんだからさ」

ガーネットを押入れから引き摺り下ろすとどうも腑に落ちない顔をしていた。
しっかり者に見えてどこかすっとぼけていると言うかとにかく変な子だなぁとレッドは思った。
仕方なく、レッドは布団を詰めて、自分の隣に空いている僅かなスペースを確保し、そこに寝かせた。

「レッド、これなんだろね」

やれやれと一息を付こうとしたとき、ライトブルーが緑色の網の様な物を持ってレッドに見せた。
体育館で見る奴と思ったが、もっときめ細かい感じだった。しかし、どこかで見た事はある。

「俺はそれを知っている!」

突然、大声を出してガーネットは布団から飛び上がった。半分、付いていけなかった。

「森のトラップだと言う事を俺は漫画で読む! ゲイシャサムライニンジャー!」
「あぁ、なるほど。吊るされちゃうやつか」
「蚊帳ですね……」

聞こえてきた声は縁側にぼーっと立っていたのはクリームの物だった。

「蚊帳って、蚊が入ってこないように張る網の事だっけ」
「えぇ、女子の部屋の方はもう張ってますよ」

クリームは蚊帳を取ると素早い動作で部屋に蚊帳を張って行き、あっという間に網で覆われた空間が部屋の中に出来た。
何もかも新鮮で懐かしさを感じる。ガーネットも目を輝かせていた。

「クリームのお陰だよ。ありがとーわざわざ取り付けに来てくれて」
「いえ、私は……」

クリームは、レッドに顔を向けずこれまた素早く押入れを開けて中に手を突っ込み始めた。
すると、バタバタ音が聞こえて、中からシェンナが引きずり出されるとガーネットは、クノイチだと騒ぎ出した。

「さぁ、早く寝るわよ。みんな疲れてるんだから」
「クノイチ!」
「ねずみばあさんに会うんですー」
「クノイチ!クノイチ!」
「それは絵本の話でしょ。さ、早くいくわよ」

騒がしいシェンナがクリームに部屋へ連れて行かれると部屋は急に静かになった。
隊員達も既に何人か眠ってしまっているらしい。途端にパチンと部屋の中が真っ暗になった。消灯時間だ。

「さ、私たちも寝ましょう。明日は早いですからね」
「だねー。じゃぁ、みんなおやすみー」

一斉に布団に入ると自然とうとうとし始めた。これが理想的な生活なのかなと思ったりもした。

「ねぇ、もうみんな寝た?」
「修学旅行ですか? レッド、気持ちは解りますけど明日早いんですよ?」
「ご、ごめん……」

目を閉じると風の音がかすかに聞こえていた。涼しい。
寝息みたいな物まで聞こえてきた。なんだかこういうの良いなぁと、レッドは良い知れぬ幸福感を感じてしまった。

「ねぇ、みんな寝た? 寝ちゃった? ねぇ」













その晩、エコは工事現場に立っていた。

「チッ、ロクなもんがねぇ。ま、それをなんとかすんのがこの俺様だがな……」

悪エコは、もうあれから8時間ずっとこの状態を維持していた。
どうやら坂を転がった際のボタンの連打がこの様な異常事態を引き起こしてしまったらしかった。
そのせいか、悪エコは思う存分、工事現場の機械達の改造がはかどっていた。

「明日の朝には出来るな……全部、ぶっ壊してやる」

ニヤニヤと悪だくみを楽しむ笑みを浮かべながら悪エコは側に跳ねていたバッタを踏み潰していた。














翌日、味噌汁やごはんに海苔や納豆など、日本らしい素朴な朝食を食べ終えると
隊員達は最後の合宿の日を楽しむ為に海へと飛び出していた。もちろんガーネットも一緒だ。
だが、海の光景は悲惨な物だった。

「な、なんだこりゃ!」

アチコチの砂浜には大きな穴が空き、堤防の一部もめちゃめちゃに破壊されていた。
遠くの方にはでかい機械が暴れていた。

「おや~? お前らこんな所にいたのか」

隊員達が不吉な予感を感じて振り向くと、ラジコンのリモコンの様な物を持った悪エコが立っていた。
ガムを噛みながら、不敵な笑みを浮かべながら悪エコは立っていた。

「エコぉ! アンタって人は一体全体、何やってんですか!」
「べ~つにぃ~?」

実にイヤらしいイントネーションで悪エコが応えると同時に一斉に辺りの堤防がガリガリと崩れて行った。
綺麗な砂浜がすっかり残骸アスファルトの見本市のようになってしまっていた

「辞めなさいっ! そんな事をするようじゃ我々が許しませんよ」
「あれは悪い奴か?」

事情を知らないガーネットはぼんやりとした口調で隊員達に聞いたが皆、それに応えている暇はなかった。
隊員達は武器を取り出してジリジリとエコに詰め寄った。しかし、悪エコも何やら銃の様な物を取り出しその銃口を隊員に向けた

「ちょっとでも動いてみろ。あっという間に原子分解されちまうぜ?」

挿絵

「卑怯者ー!」
「口の聞き方に気をつけろ。この俺を誰だと思っているんだ? IQ200の大天才のエコ様だぞ」

銃口から放たれた光線がグリーンの足元にあったスイカ風のビーチボールに当たった。
するとチリジリになりながらボールは徐々に砂絵を風が吹き消すかのように消えていった。

「愚民は大人しく愚民のまま優れた者の下にいれば良いんだ」
「こ、このビーチボール割と高かったのに!」

隊員達の中にはフツフツと怒りがこみ上げてきた。しかし、下手に動けば原子分解されてしまう。

「さーてと。そろそろ仕上げに取り掛かるかな」
「何をする気でっ……」

グリーンの足元に光線が放たれ、思わず隊員達は後ずさった。

「言ったはずだぜ。口の聞き方に気をつけろってな」
「く……」
「俺はな。こんなのほほんとした景色を見ているとイライラしてくんだよ」

悪エコがリモコンを動かすと、機械に付いた2本のドリルが砂浜を掘り始めた。
砂の雨が隊員達にこれでもかとばかりに降り注いだ。

「とても酷い事をする!」

隊員達の一番後ろに居たガーネットがとてつも無く怒りながら悪エコの前に踏み出してきた。
危ない!と隊員達は叫びそうになったが、悪エコは銃口をしっかりガーネットに向けていた。

「自然を壊すのは良くない事情だ! ちなみに貴方は誰ですか!?」
「おやおや、勇ましい奴が仲間になったらしいな。だが、残念だったな。大人しく消えてろ」

悪エコが放った光線はガーネットに向かっていた。隊員達は思わず目を伏せた。
だが、光線はガーネットの頭についたゴーグルに当たって跳ね返り、そのまま銃に命中した。

「馬鹿なっ!」

すっかり消え去ってしまった銃に動揺する悪エコ。ガーネットは、怒りを露わにしながら悪エコに近づいていた。
隊員達が目を向けると消えていないガーネットに安堵した。

「クソッ……テメーら一人残らずぶっ殺してやる!」

悪エコは、急いでリモコンを操作し、マシンを隊員の方に向けて発信させた。
急発進したマシンは砂を撒き散らしながら突っ込んできた。
隊員達は間一髪で避けるが巨体なマシンだと言うのに小回りが利き、すぐにまた突っ込んでくる。

「ハーッハッハッハ! 逃げろ逃げろ!」

マシンから延びた幾本ものアームからはノコギリや刃物等の危なっかしい物が出ている。
まさに走る殺人兵器といった危険な代物。隊員達は逃げるだけで精一杯だった。

「ぶ、ブルー! ボックスを出してください!」
「そ、それが本部に忘れてきちゃったんすよー!」
「はー!? 何やってんのさ! 隊長として恥ずかしいよ!」
「レッドがそんなの置いてって良しって言ったんじゃないすかー!」

絶望的な状況となったOFFレンジャー!
遂に83号と言う微妙な号を持ってメルマガは終わってしまうのだろうか。
もちろん、そんな事は正義以上に筆者が許せない。ここでこの危機的状況を打破する人物を投入するのだ!

「俺は危険な事情を作る事を容認する事をしない! 悪い日本人は貴方だ!」

逃げ回る隊員から一人離れていたガーネットが悪エコに食って掛かっていた。
悪エコは片眉(?)をピクッと上げて、苦々しい顔でガーネットを見た。

「……きーめた」
「?」
「テメーをまず最初にぶっころーす!」

悪エコは、レバーを再び操作するとマシンは大きく方向を変えてガーネットに向っていった。

「ガーネット危ない!」
「逃げてー!超逃げてー!」

しかし、爆音を上げるマシンにかき消され、その声はガーネットには届かなかった。
睨み合いを続けるガーネットと悪エコ。ガーネットが悪エコに踏み出した瞬間、ガーネットの姿はマシンに隠されてしまった。
思わず隊員は目をつぶった。その後すぐに物凄い何かを削るような音が聞こえ

マシンが何かにぶつかった音がしてしばらく経ったころ、恐る恐る隊員達は目を開けた。

「あ、あれ?」

そこには、堤防にぶつかって制止しているマシンがあった。
ガーネット達は一体ドコに。辺りを見回すと、砂浜に悪エコがうつ伏せになったまま浮いているのが見えた。
行方知れずのガーネットは壊れたマシンの向こう側からひょっこりと顔を出し、砂を払いのけながらこちらにやってきた、

「とても怖い思いを俺はした……」
「い、一体何がどうなって!?」
「俺は叱り付けるをした!」
「?」



「コラー!」

マシンが近づいてくる瞬間、ガーネットは、悪エコの頭をガツンと殴った。
突然のことに思わず面食らってしまった悪エコの耳を思い切りガーネットは引っ張り、海の家のほうへ歩き出した。

「キョウトユーキョウハユルサナイゾー」
「痛っ!痛い! て、テメェー!!」
「オシイレデハンセイシナサイー!」

その時、マシンがぶつかった堤防の飛び出したコンクリートが悪エコの背中に辺りそのまま悪エコは
向こうに吹っ飛んで行った。



「悪い事をすれば、押入れに入れる。日本は厳しい事をする」
「ガーネット、あなたサザエさんの見すぎですよ」
「俺は違うのか?」
「……まぁ、とにもかくにも解決したわけだしさ。良しとしようじゃないの」

レッドの言葉にまさに一件落着と言う感じになったこの状況だったが、
急にタイヤのキュルキュルと言う音が聞こえ、隊員達は嫌な予感がした。

「まさか……」

堤防にブツかって制止していたはずのマシンが徐々に動き始めていた。
まるでマシンは蘇った悪魔の目の様にピカピカと灯を光らせていた。

「や、ヤバイ……だ、誰か、お、OFFレンボックスを……」
「だからな、無いんですって……」
「そうだ。リモコン! リモコンで止められるかもしれませんよ!」

マシンはガタガタと揺れ始め、それは堤防の中から出ようとしている動きであるとすぐに解った。
慌てて、悪エコの方に向うとこっそり逃げていたのか遥か向こうを走っていた。

「……よし、みなさん。今の内です……OFFレンジャー出動!」
「あれ、それ僕の台詞……」

隊員達が、武器を一斉に取り出して悪エコに向ってダッシュした。
グリーンがレーザーを打ち、パープルがヘアピンをブーメランの要領で投げる。
悪エコがそれをかわすと、続いてイエローが銃を打とうとするが、危ないので隊員に止められる。
距離が届かなくてこのままでは悪エコに逃げ切られてしまう。そんなとき、ピンクが叫んだ

「隊長、これを使ってください!」

ピンクがマータから取り出した爆弾をレッドに渡した。
するとレッドもピンと来て、それをペンダントのヒモでクルクルと撒き始めた。

「くらえーっ!」

レッドは、コマの要領で爆弾を撒いた方を放り投げると、爆弾は綺麗にエコの方へと飛んでいった。
そのまま、爆弾は悪エコの足元に落ち、瞬く間に爆発した。

「ギャァァァーーーッ!」

爆風と共に悪エコは海の中へと落ちて行ったと共に、空から悪エコの持っていたリモコンが落ちてきた。
それをレッドはすかさずキャッチすると電源ボタンを押した。ガタガタと動き始めていたマシンはその瞬間ただの鉄の塊になった。

「ふぅ……間一髪」












そして、海岸を出来る範囲で片付けてくたくたになった隊員達が旅館に帰った頃には
すっかり日も暮れており、帰りのバスが来る時間が近づいていた。

「みんな、集まったかなー?」

荷物を一通りまとめた所で隊員達はバスを待っていた。
皆、一日だけだったが充実したこの夏合宿の終了が名残惜しそうな表情だった。

「OFFレンジャー全15名。全員揃っています」
「よしよし。もうそろそろバスが来る頃だから……みんなはぐれない様にね」

隊員達がバスを待ちながら雑談をしていると、ガーネット少年がひょっこりとその場にやってきた。
すっかり、秋葉原に送ってあげる約束を忘れていたのでレッドが申し訳なさそうにガーネットに近づいていった。

「ごめんごめん。えーっとね。一応、充電も出来てるし。約束どおり秋葉原に送ってあげるね」
「秋葉原は俺は断る事にした」
「え? でも、せっかく日本にやってきたのに……」

ガーネットはニコッと笑ってレッドの垂れ下がっていたままの右腕をガシッと力いっぱい掴んだ。

「俺は、おーふーれーんに入るを決めた!」
「へ?」

唖然とするレッドを他所にガーネットはパッと手を離し、キラキラした目をレッドに向けた。
なんともイキイキとしているガーネットの目に隊長は眩しくなった。

「貴方達はカッコイイ! 俺もカッコイイをする! 俺はヒーローに憧れるをしていたのです! 戦隊物が好きです!」
「え、あ、キミ、特撮物もそこそこ好きなんだね」
「忍者も好きだ!」
「あ、うん……」

ガーネットは再びレッドの手を掴んでブンブンと勢い良く握手した。

「俺は、日本の文化に触れる事が非常に出来る! とても嬉しい!」
「あ、え、う、うん。そうかぁ」

挿絵

レッドは困ったように隊員達を見た。隊員達はその様子を見てただただ呆然とするだけだった。
再びレッドはガーネットを見た。熱く燃えたぎる。まさにヒーローらしい瞳。レッドはガーネットの肩をポンと叩いた

「……OFFレンジャー16名、これで全員完璧に揃ったね!」
「俺は頑張る!」

ガーネットが微笑んだ時刻とと同じちょうど6時30分を時計が指した頃、
一名増えたOFFレンジャーを載せる為のバスが、新隊員を歓迎するかのように走ってきた。













「な、なんれ、おれ、ここにいるろー……?」

月も出ていない真っ暗な夜。砂浜に打ち上げられたエコはすっかり中身が錆びてしまって、カチカチになっていた。
真四角の口など、一昔前のロボットの様な表情になったエコはガラクタ同然に見えている。

「ふぇんぱぁい……ろこにいるんれすかぁ……おなかふいてきまひたぁ……ふぇんぱぁーい」

目からは海水か涙ともつかないものが流れてきている。
向こうからやってくるのは、砂浜に下りてきた野犬の群れだろうか。

「ふぇんぱぁーぃ……ふぁぁぁぁぁん! ふぁぁぁぁぁん!」


涙するエコ、それとは裏腹の笑顔の新隊員ガーネット。

ぐるぐる戦隊OFFレンジャーの歴史に再び新しい一ページが刻まれた。

これからOFFレンジャーがどうなるのか。ガーネットはどう活躍するのか。

そしてエコが尾布市に帰るまでに、どのような壮大なドラマが待っているのか!

16名で尾布市の平和を頼んだぞ! ガーネットの登場まで結構長かったぞ!

がんばれ、OFFレンジャー! ぐるぐる戦隊OFFレンジャー!