第95話

『ぐるぐる戦隊VS流星戦隊 -後編-』

(挿絵:隊員)

買出しグループであるグリーン達はスーパーで買う品物を探すのに一苦労していた。

「えーと、トイレットペーパーにティッシュペーパーにキッチンペーパーにペーパーナイフにペッパーと」
「結構、買うものが多いね」
「そうですよ。隊員から集めた集金が限られている分大事に使わなければいけません。いわば私は今、社会保険庁な訳です」

グリーンはそう言ってペーパークラフトセットをカートに載せ、次の棚へと向った。
ここ数日間は簡単な食料や簡単な日用品ばかり買っていたので長期使える消耗品が以前同じ時期に買ったせいか
今頃になって一気にガタが来ているのである。カートはあっという間に一杯になった。繰越金も使わなければ。

「ハイ、グリーン。蛍光灯」
「ありがとうございますピンク。これで全部ですね。では、さっさと帰りましょう」

グリーンはカートをレジまで押して、会計を済ませた。大量の袋を抱えた隊員らがスーパーを出てきた。
そのまま、特に用事も無いのでこのまままっすぐ本部に帰るつもりだった。

「わーん。あたしの風船~」

グリーンは数歩先に道端に木に風船が引っ掛かって泣いている女の子に気付いた。
現実にこんなありきたりなシチュエーションの女の子が実在しているのかとグリーンは感心し、物珍しげに女の子を見た。
そのまま通り過ぎるつもりだったのだが、後ろからピンクが名前を読んだので振り替えざるを得なかった。

「…………」

ピンクの表情は「風船をとってあげて」と言う顔をしていた。グリーンは困った。
青々と生い茂っている木は側のビルを見れば解るが二階の天井辺りまで伸びている。
オマケに全ての枝が細い。しかも、さらに運悪く一番高い枝の先っぽに風船のヒモが引っ掛かっていた。
しかも、よくよく見れば風船に描かれているのはスターファイブではないか!

「無理ですよ無理です。見てくださいよあんなに枝が細いんですよ。登ったとしてもどうやって取るんですか」
「がんばればきっと」
「いくら何でもそんな精神論では……下手したら地面に落っこちてそこから私が生えてきますよ?」
「…………」

ピンクの後ろから哀れむような目で見てくるホワイトが顔を出した。無言の圧力だ。

「や、ダメですよ。私は、ホントに。そんな圧力には屈しませんよ」

グリーンが必死に拒否しているとホワイトの肩越しから困惑顔のパープルの顔が覗いている。
目を逸らすと真横に風船少女がこグリーンを真顔で見つめていた。今にも「ここが男の見せ所ですよ」とでもいいたげな目だ。

「よろしい。ジャンケンしましょう。ジャンケン」
「チョー卑怯」

側を通りがかるOLらしき一団が吐き捨てる様にグリーンに残酷な言葉を投げつけた。

「なっ……」

何故に見ず知らずの女性にまで敵視されねばらないのか。もしやこれは自分を女嫌いにさせる為にあの白虎が仕組んだ罠なのでは等と
様々な思いがわずか数分間の間にグリーンの脳内で交錯していた。
こんなに言われるならばもう風船の一つや二つくらい取ってやろう。そうか、このキモチがきっとレッドの考えなのだ。
微妙に違う事に気付かずにグリーンは、ポンと手を打った。創刊5周年だし、まさか死ぬこともないだろう。

「わかりました。私の負けです。レッドの言う『一日一善』の目標どおり、私が風船を取ってあげましょう」
「…………」

「わー」も「きゃー」もなく全く無反応なギャラリーに背筋が冷たくなった物の言った手間があるので
早速グリーンは木を恐る恐る、蝉みたいな格好で登り始めた。風船のある所まで登ったはいいが、枝をどうにかしない限り風船は取れない。
試しに軽く体重を掛けてみると、細枝は思った以上に不安いっぱいなメロディーを奏でてくれた。

「……ええい、南無三!」

グリーンは、細枝が折れる前に風船を取って、これまた折れる前に戻る可能性に賭けた。負けた。
風船の付いた細枝はポキリと爪楊枝みたいにたやすく折れ、グリーンはお尻から着地した。
手には細枝が一本、肝心の風船は枝に少しも触れていなかった。空を見上げると真っ赤な風船が空を漂っていた。

「あー! サイテー、このやくたたず、消え失せろ! 夕飯ぬかれろ!」

風船少女は散々、罵詈雑言を浴びせながらよろよろと女子に助け起こされているグリーンの臀部を蹴飛ばして去って行った。
グリーンはあやうく正義の味方と言う題目を捨ててしまうところだった。物凄い顔をしていたのか少し、女子が引いていた。

「ぐ、グリーンは立派だったと思うよ」

感情の篭ってないフォロー的な言葉がピンクの口からグリーンにかけられた。
少しは助けにはなったが大部分はよけい裏切られた気分だった。ハラワタがグリーンの奥底から煮えくり返ってくる。

「だぁぁもうっ! それもこれも、全部あのスターファイブのせいですよ! せめて一言くらい何か言わないと気がすみませんとも、ええ、ええ、そうですとも!」

グリーンが走り出すとピンクが意見を求めるつもりで後ろを振り返った。
皆、黙っていたが「追いかける必要はあるかもね」と言う顔をしていた。「その前に荷物を本部に置いてから」と言う表情も。
















「でえぇぇぇぇーーーーーーっ!?」

一方その頃、タコヤキ屋での衝撃発言にレッドは一際大きな声を出して椅子ごとひっくり返った。
半ば申し訳なさそうに、その半ば、開き直ったようにレッドスターこと長月レオはその反応を見ていた。

「どおりでタコヤキレンジャーなんて聞いたことないと思ったですー」
「……ま、まさか、タコレッドがレッドスターの弟だったなんてねぇ」

レッドは息を切らせながら這い上がり、レッドスターを見た。
確かによく見れば鼻筋とか目が似ていない事も無い。しかし、また唐突だ。

「スターダストカンパニーからお金貰って店を建てて、また大金使ってTV局に宣伝させてたなんてねぇ」
「資本主義社会ですー」
「こうでもしなきゃ弟が店を出せるわけがないだろ。戦略だ戦略。ま、出すには早すぎたみたいだが」

レッドスターは店内のガラガラ感を第三者からでもよく解らせるようにぐるーっと見回した。
店の前を通る人は何十人もいるのにこの店の一区画にすら目を向ける者はいなかった。

「兄ちゃん。俺はちゃんとやってるぜ。ようやく最近になってタコのキモチが手に取るように解ったし」
「毎日の様に宣伝してるのにこの客じゃなぁ……」
「え、毎日も宣伝してんですか?」

レッドの言葉にレッドスターは不思議そうな疑わしいような顔をした。

「いつもやってるだろ。ニュースで」
「僕らが見たのは一度だけですけど」
「広告代理店にも働きかけて、大手雑誌にも人気があるように毎週特集組んでるって聞いたぜ」
「シェンナ初耳っ子ですー」
「……そう言う契約になってるはずなのに」
「兄ちゃん、もしかしたら俺の店に客がこないのはそのせいじゃ!」

レッドは突っ込みたかったが突っ込むと面倒になる事は解っていたので黙っていた。
するとレッドスターがおもむろに立ち上がった。

「……ちょっと司令室に行って司令官に確認してくる」
「兄ちゃん、頼むよ!」

と、レッドスターが店を出て行ったのだが、レッドの耳には司令室とか司令官とかそんな特撮魂を揺さぶるワードが引っ掛かった。
気が付けばレッドも席を立ってレッドスターの後を追いかけた。シェンナ達も後から付いてきた。

「司令室! 司令官! スターファイブの基地に入れるかも!」










そしてまたまたその頃、ゲームセンターでブルー達はピコピコと筐体で遊んだり、
プリクラだのクレーンゲームだのを片っ端からやっていた。スターファイブに関する最近のストレスの解消になった。

「あっ、負けた。誰か100円100円!」
「え?え? 両替機どこだ」
「早く早く。ラスボス目前なんすよ!」

黙々とガンシューティングゲームをプレイしていたブルーは、20、19と数字が減っていっている画面を見ながら叫んだ。
上に乗って見物していたブラックは、急いで飛び降りて両替機へと走った。
店内の隅っこにある両替機を見つけ、すぐさま千円を入れた。出てきた100円玉を掴み走り出すと、真後ろに立っていたカップルに激突した。

「ギャー! あと5秒っすよぅ!」

当然、全て拾い集めていてはダメなのでブラックは足元に落ちていた数枚の100円玉を手に取った。
ブルーがリレーのアンカーみたいに手を差し出して待機していた。ブラックは走った。ブルーに100円を渡した。
華麗なフォームでそれを受け取り、滑らかな動きでブルーは投入口に100円を入れた。下から出てきた。

「GAME OVER」

重低音の声が画面に出てきた文字を読み上げた。ブラックもブルーも騒ぎを聞いて側で見ていた野次馬もぽかーんとしていた。
その時、遠くからは子供達が床からコインを取り上げてはしゃぐ聞こえてきた。

「あー、メダルみーっけ」
「オレもー」

その声にブラックは嫌な予感がして投入口に近寄った。案の定下から出てきたコインは100円玉ではなくてメダルだった。
どおりであんな隅に一つだけあったわけだとブラックは納得した。が、まだ固まったままのブルーに何を言えばいいのかブラックは困った。

「……ごめんなブルー」

ブルーの反応を確かめるようにブラックはそう言いながらブルーの頭上にゆっくりとよじ登った。
しかし、ブルーは怒鳴りもしなければ優しく許しの微笑をブラックに見せる事は無かった。
ただ、うな垂れて側にあったガチャポンコーナーの前の椅子に座るだけだった。

「悪いってばー……俺も必死だったしー」

ブルーは、そう言うと両頬をバシバシと叩き始めた。何度か叩くと思い切り立ち上がった。

「いぉし! なったもんはもうしょうがないっすよね。また今度チャレンジするだけだし」
「ならいいけど……」
「でも、どうしよ。このメダル。ひい、ふう、みい……5枚っすか~」
「ルーレットでもする?」
「5枚じゃね~。使える機種が少ないし」

ブルーは、辺りを見回してみた。コインを使うたいして遊べるようなゲームはなさそうだ。
と、幼児むけゲームコーナーにいる男の子が目に付いた。どうせつまらないゲームをつまらない気分でやるよりも、あぁ言う子にあげた方がいい。

「そこのボク。お兄さんが良い物あげるっすよー」

ブルーが声をかけると男の子は振り返って怪訝な顔をしていた。知らない人に声をかけられたのだから当然だ。

「ホラ、メダル5枚。お兄さんいらないから好きに使うっすよ~」

ブルーは和やかな雰囲気をかもし出して子供にメダルを差し出した。
男の子は、少しだけ会釈をしてそっとブルーから貰ったメダルを投入口に一気に5枚入れた。
彼のやっているメダルゲームは、ルーレットが選んだ場所に止まると何倍かのメダルが貰えると言う単純な物だった。
男の子は、人からもらった物だと言うことで賭けに出たのか100倍のボタンを躊躇なく押した。

「当たるといいっすねー。ぼーや」

ブルーはそう言ってその場を後にしようとした。しかし、突如後ろから物凄いファンファーレの音が聞こえ振り返った。
少年の足元の取り出し口からメダルが雨あられの様にどんどん流れ出してきた。見事ルーレットは100倍の部分が点滅していた。
しかし、あまりにもメダルが次々と流れてくる。男の子のくるぶしまでメダルで埋まってしまっている。

「危ないですよ、下がってください下がってください」

大きなマスクをしている風邪気味っぽい感じのゲーセンの店員が駆け寄ってきた。
手には鍵の束を持っていた。床にバラまけているメダルに足をとられてよろけながら機体になんとかたどり着いた。
早速中を開けて店員は2,3度叩いた。しかし、メダルの勢いは止まらない。一体いくら入っているのか。

「コラ、止まれコラ!」
「ブルー、何やったの!?」

騒ぎを聞きつけてバラけていた他の隊員達もブルーのもとにやってきた。
ブルーはとりあえず簡単に説明してみたが解ってもらえなかった。だが、メダルは止まったようだ。

「あぁぁーっ!」

しかし、メダルの波は店員さんの足元をさらいそのまま店員さんは見事に1回転して背中を強打した。
起き上がろうとしても中々そうはいかないらしい。仕方ないのでブルー達は店員さんを抱えてそのまま奥の控え室まで連れて行ってあげた。
椅子を並べ、その上に寝かせるとブルーはその店員の顔に何故か見覚えがあった。ここは常連ではないからそう言う意味での見覚えではない。
ブルーは痛がっている店員の隙を見てサッとマスクを取った

「わっ、やめろ!」
「あーっ!」

慌てて顔を隠しても遅かった。その店員は今までOFFレンが一時期憎んでいたスターファイブの隊員。
お姉さま方に大人気のグリーンスターこと、新庄ユウその人だった。しかし、ブルーよりも驚いたのは側で見ていたピーターだった。

「何でユウくんがこんな所に!? しかも、そんなみすぼらしい格好……」
「…………」

グリーンスターはバツが悪そうな顔をしてピーターから目を逸らしていた。

「ユウくんって、いつも実家の道場で精神鍛錬に励んでいるって雑誌にかいてたよね。これも精神鍛錬の修行なんでしょ?」
「…………」

ピーターは何故かグリーンスターに詰め寄って自分がそう答えてほしいとばかりの顔をしていた。
この様子とピーターの性格を考えれば誰にでも解る。まさか隊員内に隠れファンがいたとは。

「うっさいな! バイトだよバイト。文句あるかっ!」

ピーターの圧迫感に耐え切れなくなったのかグリーンスターは大声でそう言って起き上がった。
途端に背中を押さえてまた椅子の上に寝転んだ。

「ば、バイトって、ユウくんの家は明治から続く財閥じゃ……」
「そんなの全部設定に決まってるだろ。絵に描いたようなヒーローがそう出るわけないっつーの」
「……ショック」

ピーターは肩を落としてみるからにガッカリとしてしまっていた。
グリーンスターも、気まずいのか目を閉じてピーターを見ないようにしていた。

「じゃぁ、スターファイブは作られたヒーローだって事っすか?」
「当たり前だろうが。全部会社の広報部が考えた設定だし、俺達もみんな単なる俳優志望の若者だし」
「……レッドが聞いたらガッカリするだろうね」
「それよりも、どうしてくれるんだよこの背中の痛み……今日は午後からテレビの収録なんだぜ」

グリーンスターは、憎らしげにブルー達を見ていた。ピーターはその顔をさすがに見ないようにしていた。

「このままだとやめさせられんだ。責任持って会社まで連れて行ってくれよな」
「わ、解りました」
「あと、この事は誰にも言うんじゃねーぞ」
「は、ハイ……」

ブルーは周囲を探し回って運よく見つけた担架にグリーンスターを乗せると裏口からそっと出て行った。
ピーターは一人遅れて俯き加減についてきていた。まったく可哀相な話である。














「……誰もいないニャ」
「行くって感じ」

だだっぴろい敷地のわざわざ裏に回って侵入したエコと改造猫達は人の目をかいくぐって、
徐々に徐々に社内のどこかにあるスターファイブの司令室へと近づいていた。

「お、オレ、なんかドキドキするなー。スパイみたい」
「さいぼぐ、黙る、慎重だ」

こうして読んでいると、監視カメラや警備システムの死角に上手く対応しているかのようだが、
ザコの集まりだけあって、単に薄汚い通気口の中を這って移動しているだけなのだ。

「おい、グリーンスターとレッドスターはまだ来てないのか。マスコミがカメリハをしたいって言って来ているんだが」
「集合の時間時間までまだあるし大丈夫だろう。天下のスターファイブだぞ。少しくらい待たせとけ」
「そうは行くか。優遇しすぎて下手に慢心を起こしたらどうする」
「そうか? んじゃ、整備工場でロボ見てからも来ないようなら連絡とるわ」
「頼んだぞ」

無理やり先頭にされた猫猫が時折通る金網から外の様子を確認しているが、王道な移動法なだけあって成功しているらしい。
しかも、先ほどの様に社員の会話まで聞こえてくる。まさか、ここにザコ悪者が5人もいるとは気付かずに。
おまけにスターファイブの武器やロボがある場所を勝手に喋ってくれて好都合。少しほふく前進を早めて廊下ずたいに追いかける。

「前、遅れてるゾ。早く進めヨ」
「お、オレだって急いでるのにー」
「さいぼぐ、腕、前、多く、出す」
「うぁぁ、こ、こうかなぁー」
「キミ痛いヨ。何で蹴るのサ」
「何やってるニャー」

狭いので仲裁する訳にもいかず、猫猫も精一杯出せる限りの声で一喝する。
なんとかついてきたのを確認して一安心したのも束の間。すぐ側にある金網を除くとどこにも社員の姿はなかった。
思い切り金網に顔をくっつけて奥の方まで覗いてみるが人影すら確認できなかった。

「ニャ……い、急ぐニャー!」

と、進みだす猫猫だったが目の前の光景にはたと動きを止めてしまった。

「何って感じ?」
「猫猫?」
「えー、なんで止まんのー?」
「イテッ、だからなんで蹴るのサ!」

猫猫は、目の前にある3つの分かれ道を前に戸惑っていた。どれも伸びていて遠くが見えない。
しかも左右の道は微妙にカーブしているし、3つが3つとも同じ方向に行くとは限らないようだ。

「別れ道だニャ。右か真ん中か左とあるニャ。ど、どうするニャ?」
「左って感じ」
「右」
「えーとえーと、真ん中かなぁ」
「好きにしろよもう」

全くバラバラなので猫猫は、自分で結論を出すことに決めた。
こうしているうちにも確実に手がかりは失われつつあるのだ。こういう時だけ素早い行動が出来るのが立派なザコの証だ。

「決めたニャ、ここは真ん中にするニャ」
「やったー。オレのが正解だ」
「イテッ、イテッ、だから足をばたつかせるナ!」

猫猫は、この際後ろの騒動はほうっておく事にして中央の道を急いで進み始めた。
左右は鉄板で覆われていて金網が見えない。しかし、選んだ以上はただ前に進むしかないのだ。
後ろも静かになった頃、猫猫の目の前に下のほうから淡い光が浮かんでいるのに気付いた。

「ニャ、ニャニャ! これでやっと確認ができるニャ」

まさに希望の光と言う訳で猫猫は急いでその場所に向った。大きく脇を開けて進んでいたその腕が急に宙に浮いた。

「ニャっ」

写猫は目の前にいた猫猫が突然消失したのに気付いた。

「あっ」

その後ろにいた獣猫もつい1秒前まで目前にいたはずの写猫が消えてしまった事が解った

「写しっ…」

一番驚いたのはエコだった。前方にいる3人が気が付けば一人もいなくなっている。

「何やってんダ。早く進めヨ。バカ」
「え、で、でも。獣猫とか、消えちゃったよ」
「そんな訳ないだろがっ。俺に口答えするのが気にくわないゼっ」

得体の知れない恐怖に怯えているエコの足を後ろから操猫が押してくる。しかし、前に進めば何があるのか解らない。
エコは必死で食いとどまろうとしているのだが後ろからの押し出しを堪えるのもいつまでになるのか。

「や、やめろよー。お、押すなよー」
「いいからとっとと行けヨ。コノー!」

操猫がドン!とエコを突くと目の前からエコがいなくなった。かと思えば操猫の上半身が急に地面を失う。

「ぐぇ」
「う」
「ぐぉ」
「ぎにゃー!!」

4人の下敷きになった猫猫は命からがら少し広くなった通気口内に這い出した。
まさかL字になっていたとは知らずダイレクトに顔面から落ちたせいで顔がヒリヒリとする。

「だ、大丈夫かニャ……」
「なんとかって感じ」
「俺、平気」
「お、オレも…」

猫猫はもう帰りたい気分に陥っていたが落ちて汚れてここまで来たのだからと、やはり前に進み始めた。
後ろからずりずりと毛を擦る音が聞こえる。もしかしたらこのままこのラビリンスで迷い続けるのか。猫猫のネガティブ思考は止まらない。
と、その時である。もはやこの場に閉じ込められてしまったと言う考えのみが猫猫の頭の中を渦巻いたときどこかから声が聞こえてきた。

「ようこそいらっしゃいました。では、武器庫をご案内しましょうか」

さきほどの社員の声ではないが、同時にいくつかの足音が聞こえる。
社員が言っていたマスコミにスターファイブの様々な施設を公開しにいく所に違いないと猫猫は思った。

「ニャハハ。オレ様もツいてるニャ~。おーい、ちゃんと付いてこいニャ」

下を歩いている人々の真上にいる猫猫の進むスピードはどんどん早くなっていた。
後ろも何度かごちゃごちゃと騒いでいたが、順調について来ている。と、猫猫の前についにうっすらと光が漏れているのが見えた。
今度は下からではない。ちゃんと真正面から来ている。

「ニャ。ニャ。やっとたどり着いたニャ!」
「マジ腕がしびれるって感じ」

猫猫がそこから外を覗いてみた。ロボットやらバズーカやら色々な機械製品がそこに並べられていた。
中には戦車から爆弾らしき物まで見かけられて。猫猫はしり込みした。

「さぁ、こちらです」

ちょうど猫猫のいる通気口の金網の真下に社員らがやって来た。そこにいるのは、社員と言うには年をとっている男がいた。
そしてマスコミと言うにはあまりにもアブノーマルな雰囲気をかもし出している黒ずくめの男達がいた。
この光景を見る限り取材と言うよりも……

「In few days, I want to blow up a Ragos embassy. Is there a good weapon?」
「ラゴス共和国大使館のテロにはどのような兵器が有効かと申しております」

怪しげなマフィアのボスと言う風貌の男と、これまた胡散臭そうなメガネをかけたひょろ長の通訳。
しかも、臆することなくとんでもない事を言い出す。いくらザコの猫猫でも人並みの知能は持っているので嫌でも解った。

「テロですか。となると、そうですね。単なる爆弾では芸がありません。こちらのバズーカはいかがでしょうか。
一発打ち込めば後は瓦礫の山でございます。我社が製法特許を取っている特殊合金を使っていますので扱いやすい軽さとなっています」
「May I use such a metal for a weapon?」
「その様な金属を使用しても足がついたりしないのかと申しておりますが」

社の男は、鼻で笑って大きく頷き出した。

「その辺はご安心ください。我社の合金が使われたとすればもちろん問題になるでしょう。
しかし、我社は海外輸出を行っております。輸送の際に盗まれたと言う既成事実もこちらで既に作っております」
「日常的に武器の密造密売しているのが発覚する恐れは無いでしょうね。この方は様々なネットワークをお持ちですのでごぼう抜きに摘発なんて事になれば……」
「フフ、だからその為に、スターファイブがいるのではありませんか。彼らのお陰で我社は暗いこの世を明るくする善意の会社となっています。
各機関からも感謝状を多数いただいます。怪しまれる事はまずありません。悪意は善意に隠せと言いますからね」

猫猫は、とんでも無い場所に来てしまったなと背筋が寒くなった。
適当に侵入して武器に嫌がらせをするつもりが、まさか密造兵器のたまり場にやって来ているなんて。

「せ、せまーい」
「もう良い。俺に代われヨ」
「痛い、痛いってばー!」
「静かにするニャー」

と、こんなタイミングの悪い時に後ろがまた騒ぎ出した。
ここで見つかればヒーローにボコボコにされる所じゃすまない。下手をすれば消される!

「オレ、足なんか動かしてないってばー!」
「じゃー俺の顔にぶつかんのは何だヨ!」
「頼むから静かにしてくれニャー!」

我が強い自己中の操猫と、バカバカバカの3拍子揃ったエコを一緒にするんじゃなかったと猫猫は今になって後悔した。
この騒ぎは向こうにも伝わっているようで、「何かうるさいな」と呟いている。心臓が止まりそうだ。

「いたいいたいいたいー!」
「どけっ、もう俺が前に行く!」
「操猫、辞める」
「お前らいい加減にしろって感じ」
「ほ、ほんとに、もう、や、やめてくださいニャ~」

涙ながらの訴えも虚しく、奥から玉突きの様に次々と猫が押し出されてきた。
猫猫は勢い良く金網に頭をぶつけると、そのまま外れた金網ごと5匹いっぺんに外へ放り出された。
気が付いた時、運悪く5匹は怪しい男達の足元に転がっていた。

「お、オレ様ただの通りすがりの子猫だニャ……?」

咄嗟のぶりっ子も虚しく猫猫に向って銃口が突きつけられた。














「は、離せニャー!」

あっと言う間に捕まった猫猫達は簡単に壁の拘束具を付けられ身動きが取れなくなっていた。
手が動かなければビームは撃てないし、頼みの綱の操猫も顔から落ちたせいで目が痛いらしい。
そして目の前には見るからに危なそうな兵器が5つ目の前に並んでいる。

「せっかくですから、我社自慢の他の兵器の性能もご紹介いたしましょう」
「Oh...Thanks. What kind of weapon is it?」
「それはどんな兵器なのですか、と申しておりますが」
「ニャぁぁーっ! 聞きたくないニャー!」

男はスイッチを入れると筒の先からうわんうわんと変な音がし始めた。

「この放射口から凝縮した熱線を放出して、対象物を一瞬にして黒コゲにする事が出来ます」
「いニャだー! 焼くなら魚にしてほしいニャー!」

ちょうどそれを向けられている猫猫は身をよじらせて少しでもそれから逃れようとした。が、無駄だった。

「猫猫、さよなら」
「け、獣猫っ。そんな物騒な事言うんじゃにゃいニャー!」
「ネコネコ。ばいばい」
「この機械猫はホントにむかつくニャッ! 悪意の無いのが……」

エコの方を向いて怒りを露わにしていた猫猫の目の前を赤い光が横切った。
その刹那、赤光が当たった壁の部分がでろりとチーズのようにとろけ出す。

「あれ、照準がずれていたようですね」
「ふ、ふにゃぁぁぁぁ……」

猫猫は白目を向いて、金具につけている手をぶらんと上げたまま気絶してしまった。
そんな彼に追い討ちをかけるかのように男は兵器をぐーっと近づけ、一メートルほどの距離にまでなった。気絶しているのは幸か不幸か。

「これなら大丈夫でしょう。次回までにはちゃんと調整しておきますので」
「あわわわ……猫猫ぉ……」

すぐ隣の写猫は無残な姿を見ないように目を逸らした。耳からは電子音が聞こえてくる。
何故かこの時、写猫の脳内で猫猫との思い出が走馬灯の様に駆け巡った。当人が見れない場合は他人が肩代わりするのかもしれない。
どっちにしろ走馬灯を見た以上、猫猫は……。













「そこまでだーっ!」












大きな扉を開けて光が男達を差した。振り返るとそこには、猫、猫、猫。
帽子を被った猫が、やけに演技っぽい動きで人差し指を差した。

「あんたらの悪事は正義のにゃんこ軍団OFFレンジャーがしかと聞かせてもらったぞ!」

改造猫達には、懐かしいOFFレンの顔がその状況も相まって天使のように見えた。
しかしエコは、そのOFFレン達の後ろにいるオオカミ達に目が行ってしまっていた。

「こんな時の為に盗聴付き発信機を付けておいて良かったな。エコ」
「わーっ、ぼ、ボス。許してぇぇ!」
「……もう良い。武器を買う必要もなくなったしな」

ボスオオカミは手にしていた武器カタログを破り捨てて男……スターダストカンパニーの社長の足元に放り投げた。

「最近どーもおかしいって悪者達の会合でも話題になってたんだよな。このカタログで申し込んだ武器は、
確かにスターファイブの弱点を突く新兵器だってのに、何故かヤツらとの戦いで使おうとするとヤツらは戦闘中にその弱点を克服するべくパワーアップする。
なんだか、俺らがその武器を使うのを前もって知ってるみたいにな。しかも、俺達が注文しようとした兵器がこの倉庫中に並んでいるし……」

次いでボスオオカミらの前にスターファイブの面々5人が現れ、社長を睨んだ。

「俺達が単なるイメージ戦略で、馬鹿な悪者に武器をどんどん売るためのパフォーマンスってのはまだ良い」
「どっちみちそれを資金に悪人を倒せるわけだし、ずるいけどもそれが会社ってもんだし納得はできたけど」
「いくらなんでも外国に武器を密売して戦争やテロの協力をするような奴の手先になっていたなんて、本当に許せない」
「スターファイブだって単なる俳優になる踏み台だと思っていたけど」
「心のどっかでは、少しくらい俺達だって正義を守りたいって気持ちがあったんだ!」

スターダストカンパニー社長は全てが明るみにでた事を悟った様で、真のラスボスらしからぬ不敵な笑みを浮かべた。
こちらはOFFレン、スターファイブ、オオカミ達を合わせて約30名を越す大人数。
向こうは3人。だが、社長以外の2人は社長の背後に隠れているので1人と見ても良いだろう。

「短期間で世界中のシェアを取る為にはね、こういう工作も非常に大事なのだよ。誰もが持っていないお得意様を取るのも戦略だ」
「だからって、武器を密造してその結果、世界中で悲しい出来事に協力しているじゃないか」
「私は生産して売るだけだ。どう使おうが、それは購入者の自由……だが」

社長は、猫猫に向けていた機械に付いた取ってを掴み、ぐるっとOFFレン達の側に向けさせた。

「企業の成長を邪魔する者がいる場合は止むを得ないかもしれないがね」

ニヤリと社長が嫌らしく笑うなり、円錐型を横にしたような発射部分が赤く灯り始めた。

「みんな危ない! でろりんとなっちゃうよ!」

レッドの声に30人もの人ごみは一気に二分し、熱線はその中央を突き進んだ。
その隙にスターファイブは社長の後ろに回り込み、取り押さえた。他の2人はあっけなかった。

「くっ、放せ、放さないか!」

社長が抵抗している最中に隊員達はエコと一応改造猫を助け出した。
オオカミらが彼らを連れて行くことになり、人数が少し減ってしまった。

「放せと言うのがわからんのか!」

生身でありながらしぶとい社長を取り押さえていたスターファイブだったが、さすがに厳しそうに見えたので
OFFレン達も助けに向おうと思った矢先、5人いるはずのスターファイブがあっと言う間に飛ばされてしまった。

「あ、ま、待てっ!」

急いで隊員達が追おうとすると場所が悪かった。社長はアチコチに並べてある武器の中からマシンガンを手に取り銃口をこちらに向けてきた。

「常日頃から肉体の鍛錬は怠っていないのだよ。ただのオジサンだと思って油断するのがキミらヒーローの悪いクセだね」

動こうにもさすがにリアルな武器を向けられてはOFFレンもどうしようもなかった。
社長はスターファイブやOFFレンを牽制しながらじりじりと後ずさって行く。後ろには巨大な影が見えるが奥は薄暗くてよく解らない。

「私はここで敗れるわけにはいかんのだよ。スターファイブ、そして裸婦レンジャーの諸君、私の勝ちだね」
「隊長。よりにもよってやらしい間違い方で覚えられてますよ! 何か言ってやってください」
「あー……えー……えーと」

レッドの訂正を聞かずして社長はこちらに背を向けた。その瞬間をレッドもスターレッドも逃してしまったのが痛手だった。
社長の体は巨大な影伝いに上へ上へと登り始め、影の中へと消えていった。あの影は車にしては巨大すぎる。戦車か。いや、戦車にしては大きい。

「待てー!」

と、追いかけ始めた時には既に遅かった。
社長の乗り込んだ物体のシルエットが徐々に起き上がってきた。その影に徐々に光が当たり始める。
ロボだ。スターファイブの乗っているロボでは無い。モーター音を唸らせながら30メートルほどの巨大なロボが目の前で立ち上がった。

『どうだね、諸君。この日の為に秘密裏に製作しておいたスターファイブロボ・改は』

スピーカーから社長の声が聞こえた。スターファイブのそれとは違って非常にクリアな音声だ。恐るべしスターファイブロボ・改。
OFFレンもなんとかしたいが、巨大ロボを前に成す術も無い。今からスターファイブロボを使うにも時間がかかる。

「そ、そうはいかないぞ。こっちには巨大ロボよりも強いOFFレンボックスと言うアイテムがあるんだ!」

レッドが手を後ろに伸ばすと、すぐさまブルーが取り出したBOXをその手に渡す。
こんな小さい小箱の中には森羅万象、無限の宇宙が潜んでいるのだ。巨大ロボと互角に渡り合える。
隊長は勢い良くそれを地面に投げつけた。白煙があっと言う間に噴出してくる。

「出でよ! もっとでっかい巨大ロボ!」

レッドの周囲を取り囲んでいた白煙が一気に部屋中に広がりだした。鉄と鉄のこすれ合う音が聞こえる。
うっすらとだが、目の前に巨大な影がもう一つ現れるのが解る。煙が晴れると巨大ロボは現れていた。
いや、正確に言えば巨大サイボーグだ。

「な、なんだこりゃぁぁー!」

目の前にいたのはOFFレン所属のロボ群でもなければ、スターファイブみたいな本格派ロボでもない。
そこにいたのは以前も見たことがある、巨大な巨大なエコだった。確かに社長の乗るロボよりも一メートルほどでかい。

「何でまたオレ巨大化してんのぉー!」

挿絵

慌てているのはエコだけではなかった。
この状況下でどうやってエコがあのロボと戦えるのか、不安で不安でOFFレン側にも動揺の色が隠しきれない。
おかげでレッドが手にしているスーファミのコントローラーに気付くのにも時間が掛かった。

「あ、なるほど、これでエコを操作するのか」

レッドはAボタンを押してみるとエコの右腕がシュッと素早いストレートパンチを繰り出した。
ボコンと言う鈍い音を立ててスターファイブロボ改はわずかによろめいた。

「いっ、いったぁぁぁ……っ!」

サイボーグのくせに右腕を押さえて痛がるエコに目も暮れず、レッドは十字キーの上とAを押してみた。
あの鈍い彼からは想像できない素早い動きで、ロボに近寄り下から勢い良くアッパーを繰り出した。

『くっ!』
「いでゃぁぁぁ!」

社長の慌てる声と腕を押さえてうずくまるエコとを見てレッドはこの勝負が勝てる物だと確信した。
操作性もバツグンだし、なにしろリアルで迫力も十分。やっていて気分爽快なのだ。

「もうヤダ! お、オレを動かすなよぉー!」
「よし、上下左右、ABB」

テンポ良くコマンドを入力するとエコの体も機敏に動いてロボットに攻撃を加えていく。
スターファイブロボ改の軋む音もエコの悲痛な叫びも心地よいBGMだ。

「シェンナもやるですー。上上下下左右左右BA」
「俺もやらせてくださいっすよー。ABBAAB右右左」

代わる代わる隊員らのプレイのお陰でエコはともかくあっと言う間にスターファイブロボは派手な凹凸が出来始めていた。
そしてとどめのコマンドを入力する前にエコの疲労による転倒に巻き込まれ、ロボは地面に叩きつけられて動かなくなった。

社長の確保の為、隊員が慌ててコクピットに向おうとすると中からよろよろとした社長がやはり武器を持ったまま出てきた。

「クソッ! こうなったら悪あがきをするまで!」

社長が銃口を隊員達の方へと向けた。あんなマシンガンで撃たれたらあっと言う間に穴の開いたレンコンさんだ。
隊員達は逃げようと意識した。しかし、彼は動けば撃つのではなく、動かなくても撃つ気なのだ。そして銃声が鳴る。

「ぐぁっ!」

銃声は聞こえたが誰も打たれなかった。社長は銃口を上に向けてそのままロボから転がり落ちた。
何が起こったのか解らなかった。見ると社長のいた位置に見知らぬ黒い影が立っている。

「だ、誰だ」
「……星々を見守る暗黒の光、ブラックスター参上」

黒いスーツを着た長身の男はポーズを決めながらその姿を現した。
まさかとは思ったが、定番中の定番6人目の戦士だ。社長も予想外だったらしく弱弱しく立ち上がり憎憎しげに彼を見た。

「き、貴様っ、何故ここに」
「オイオイ、社長さん。俺の設定を決めたのはあんただろう。一匹狼で神出鬼没。そんで……初登場は美味しいところを持っていく」

ブラックスターはロボから飛び降りるとゆっくりとこちら側に向って来た。
レッドと目を合わせると、低く小さい声で言った。

「……美味しい所は貰ったぜ。後はアイツを倒すだけだな」
「ハ、ハイ」

社長は、もはや自分にあるのは負けることだけだと完全に悟った。武器一つも無い。
結局社長がやったのは、非常口から外へ逃げ出すことだった。












「待てっ!」

広大なスターダストカンパニー内を社長が駆けて行く。それをスターファイブとOFFレンジャーが追う。
社長は意外と足が速く、建物が入り組んでいるせいもあって追いつくのが困難だ。

「ここは、俺達に任せろ」

スターファイブはそう言って途中で二手に分かれた。OFFレンジャー隊員は武器を取り出しとにかく足止めに苦心した。
グリーンレーザー、液体銃、短距離でしか効果を発揮できる物ばかりなので辛くなかなか当たらない。

「レッド、ここでスターファイブに捕まえられたらダメですよ。OFFレンのメンツのためにも……」
「こんな時に何言ってるんだよグリーン!」

横にいるグリーンが急にそんな事を言い出したのでレッドが一喝した。
グリーンは申し訳なさそうな顔をして、黙ってしまった。

「ココで捕まえたら僕らがカッコイイのはちゃんと知ってるんだから!」

レッドは微笑みながら走るスピードを上げた。右を曲がり左を曲がりそして……

『待たせたなOFFレンジャー!』

レッドスターの声がして隊員らは気が付いた。空からスターファイブロボが飛んでいるではないか。
しかし、ロボは何もせずに社長の走っている前の方へと着地した。お陰で袋小路になる。

「あ、あれ!?」
『OFFレンジャーの皆さん。我々スターファイブの罪滅ぼしです。この悪人を退治してください』

スターファイブらの顔は見えなかったが、その声はイキイキとしていた。
ロボの肩に腕を組んでいる状態で立っているブラックスターも静かに頷いた。

「あ、あぁ……こ、こんなヤツらに……」

うろたえる社長に隊員達はゆっくりと近づいていった。隊員達は皆、レッドの顔を見た。
レッドは思い切りキリリとした二枚目の顔を作ってペンダントを握った。

「正義を悪に利用するとは、本当に酷い行いだよ。正義は、誰かの為にならなきゃいけないんだ」

レッドは腰を抜かした社長にじりじりと歩み寄った。

「それに、僕みたいな人の特撮魂を思い切り侮辱したことも許せない!」
「ゆ、許してくれないか、裸婦レンジャー君、わ、私だって」
「僕らは……」

レッドは輝く瞳をさらに輝かせながら飛び上がった。握り締めたスターヨーヨーを思い切り社長の額めがけて放り投げた。

「……正義のみきゃた! ぐるぐる戦隊OFFレンジャーだ!」

スターヨーヨーは社長の額に命中し、社長は小さくうめき声を上げて気絶してしまった。
レッドは着地した。風の音だけがその場に響いていた。

「(あ、噛んだ)……レッド、やりましたね」
「(噛んだっすよねぇ……噛んだ様な、噛まなかった様な……)お疲れ様っす。隊長!」
「(あれ、今、レッド……)カッコよかったですよ隊長」
「へへー。そっかな」

レッドは、ペンダントを首につけるとニコリと笑った。
それと同時に、スターファイブロボからも祝福の声が聞こえてきた

『OFFレンジャー。良い物見せてもらったぜ(噛んだけどな)』
「ありがと。スターファイブのみんなも、本当にありがとう」
『なんのなんの。やっぱり本家には叶わないって事だぜ(噛んだけどな)』

レッドの元に隊員達が集まって来た。意図していたとはいえ、本当にカッコよかったのだ。

「みなさん、最後にバッチリ決めてくれましたレッドを胴上げしましょう(ま、噛みましたけど)」
「え、そ、そんな大げさなぁ~」
「や、隊長だし。OFFレンの威厳を取り戻してくれましたし(隊長の威厳は地に落ちましたけど)」
「シェンナも胴上げしたいですー(無様ですー)」
「うーん。じゃぁ、ちょっとだけ」

照れくさそうに笑った瞬間、隊員達はレッドを持ち上げて胴上げをし始めた。

「わーっしょい(噛んだ)、わーっしょい(噛んだ)、わーっしょい(噛んだ)」

レッドは空に光る太陽に手を透かしてみた。綺麗な肉球がぴかぴかと光る。
正義の肉球は今日も光っていた。

「…………みんな、ありがとう(噛んだのバレてないや。良かったぁ)」

レッドは無性にこみ上げてくる嬉しさを感じながらいつまでもいつまでも微笑んでいた。














翌日、打ち上げパーティにはスターファイブやらオオカミ軍団やらが集まってくれた。
OFFレンだけの資金では無理なのでスターファイブとスターダストカンパニーからの援助もあっての事だ。

「ホントにさー。オレ、すっごく痛かったんだぞ!」
「ごめんごめん」
「絶対、仕返ししてやるからなぁー! 覚えてろー!」
「許してよ。このフライドポテトあげるからさ」
「えー。仕方ないなぁ。特別に許してやろうかなぁー」

何とかエコの怒りの処理も済み、レッドは上座に向って部屋中を見回した。

「シェンナお寿司はシャリ抜きって決めてるですー」
「ダメよ、ちゃんと食べなさい」
「ですー」

隊員達も、何だかんだと楽しげに笑っている。

「オイ、エコ、しっかり食っとけよ。千円出してるからな」
「うん。明日はたくわんだけだもんね」
「タッパーもってくれば良かったですね。ボス」

オオカミ軍団も長い付き合いだが、ちゃんとこうして持ちつ持たれついい関係だ。

「う、美味いニャ……こんなご馳走久しぶりだニャ……」
「これをコピーできたら最高って感じ」
「美味い、美味い」

BC団の元改造猫達もいる。誘った覚えが全く無いけど。

「レッド、縁もたけなわですし、何か一言くださいよ!」
「そうだーそうだー。隊長、一言くださいっすよ」
「よぉし」

レッドは、手にしていたオレンジジュースを飲み干して大きな声で言い出した。

「えー皆さん。色々とありましたが、スターダストカンパニーも社長交代で全うな会社になりました。
スターファイブは解散と言う事ですが、みなさんにもしっかり夢を追っていただきたいと思います。
そして、僕らOFFレンジャーも頑張って行きたいと思います!」

レッドの簡潔な演説に拍手が巻き起こった。それをレッドは手で制した。
咳払いをしてレッドはまた、言い出した。

「そして、最後にもう一言……」
「何すか?」

レッドはニッコリと笑って大声で叫んだ。

「今日はOFFレン通信創刊5周年記念なのだー!」

隊員達も、敵も、皆その言葉に大歓声を上げ、割れんばかりの拍手を送った。
2003年、5月5日に創刊されたOFFレン通信も遂に今年、本日で5周年。

今まで出てきた登場人物、物語、コーナー、挿絵、などなど。
様々な人々の協力によってここまで来る事が出来たのだ。これもOFFレン通信を愛する皆様のお陰。



「読者の皆様、これからもOFFレン通信をよろしくね!」