第95話

『ぐるぐる戦隊VS流星戦隊 -前編-』

(挿絵:パープル隊員)

「せいぎはかぁーつ!」

折り重なって倒れ山の様になったオオカミの群れのてっぺんにわざわざ登り、オオカミの頭を踏んづけると
天高く掲げたVサインと共にレッドは勝利宣言をした。なんと言っても勝利ほど気持ち良い物はない。

「レッド、そろそろ降りてきてくださーい。帰りにみんなでドーナツ買っていくそうですよ」

山の麓からグリーンがレッドを呼ぶ。下のオオカミ達も少々レッドが重そうだ。
レッドが茶色の山から飛び降りると隊員たちはいそいそとドーナツ屋に向かい始める。

「僕、チョコいっぱいまぶしてあるやつがいいな」
「隊長、虫歯になっちゃうですー」
「歯磨きすれば無問題!」

ここから先は通常ならば特に箸にも棒にもかからないどうでも良い会話が繰り広げられ、
ドーナツを買い本部へと帰るだけなのだが、今日は少し違っていた。

「ま、ま、待てっ、OFFレンジャー!」

後方から声がして隊員は渋々振り返るとそこにはエコの姿があった。
顔つきの感じとOFFレンを指差している指を震えからノーマルエコである事は解った。

「きょ、今日のオレ達は違うんだからなーっ! こっ、ここで負けたら今晩は塩ご飯決定なんだぞぉー!」

エコの悲痛な叫びと共に背後のオオカミ山がもぞもぞと動き出した。
山肌がボロボロと崩れて行き、一つ一つの塊になっていく。もはや彼らは今晩のオカズだけで動いているのだ。

「だからって、お惣菜屋さんを襲わせる訳にはいかないぞ! 大人しく塩ご飯を食べるんだ!」
「早くドーナツ食べたいですー」

オオカミ軍団とOFFレンジャー、ドーナツと塩ご飯の間での睨み合いは続く。
だが、OFFレンジャーはもちろんの事、オオカミらも内心解っていた。どうせOFFレンが勝利するのだ。
だって、OFFレンジャー通信だもの。今号で創刊5周年だもの。負けるとメモに書いてあるもの。


「うおおおおおおおおおおおおおお!」


ここまで負けるのが判っているオオカミ軍団としては、もはや悪あがきを繰り出すしかなかった。
無我夢中でオオカミらは、OFFレンジャーに向って突っ込んでくる。
さすがのOFFレンも先ほどの戦闘でボックスを使い果たしてしまった為に持ち合わせが無い。
PCから取り寄せている間にもみくちゃにされてしまうだろう。

「わ、わ、わ、ちょっとタンマ!」

オオカミ達は津波の様に雪崩の様に押し寄せてきていた。もはやこの茶色いうねりに太刀打ちできる状況ではない。
OFFレンはとりあえず背を向けて逃げ出した。いくら正義の味方でも捨て身の相手をまともに相手していては大変だ。
おまけに一度気を抜いてしまったが為に再び戦闘意欲がわかない。──その時だ。


『レッドプラネットスター!』
『ブループラネットスター!』
『イエロープラネットスター!』
『ピンクプラネットスター!』
『グリーンプラネットスター!』


どこからともなく5人の掛け声が街中に響き渡った。
不思議によく通ったその声は隊員だけで無く、オオカミ軍団、さらには周囲のギャラリーの注意を一気に集めた。

「この世にはびこる悪を倒すために、世界を照らす正義の星々!」

視界が一瞬光った。眩しさに目を細める前にその一瞬の閃光の中から5色の猫型スーツを身に纏ったシルエットが見えた。
まるで、TVの中の戦隊ヒーローの様だった。

「レッドスター!」

真っ赤なスーツで身を包んだその男は自分の名前であろう言葉を叫んだ。
言葉の端々を強く発音しているせいか名乗りがビシッと決まっており、隊長らしい貫禄が窺える。

「ブルースター!」

一際渋いその声で叫んだ彼は青いスーツとも相まって、クールそうな印象を隊員らに与えた。
5人の中でも高身長であり、しまるところはちゃんとしまったスタイルはきっと素顔も美青年だと簡単に推測できる。

「イエロースター!」

野太い声で叫んだ彼だったが最後のターの部分が裏声になってしまっていた。きっと3枚目キャラだ。
さらに5人の中で最もふくよかなその体型と黄色いスーツのカラーは、彼が力持ちでカレー好きなのだと解るのに時間は掛からない。

「ピンクスター!」

彼女の高く澄んだその声はまるで小鳥のさえずりのように人々を魅了した。
体付きもくびれている所はちゃんとくびれているし、出ている所もちゃんと出ている。
お父さんにも大きなお友達にも大サービスな紅一点タイプである。

「グリーンスター!」

アニメのような100%少年声の緑の彼は背も低めで一際大げさにポーズを取っていた。
一番5人の中で最年少であり、すばしっこい行動派っぽい事が動きからにじみ出ている。

「流星戦隊!」

赤色の声でポーズを取っていた他の4人は一斉にバク転をして赤の背後一列に並ぶように移動する。

「スターファイブ!」

彼らの名乗りが終わった直後、背後でOFFレンとは比べ物にならないほどの物凄い爆発が起こった。

挿絵

周囲が5色の混ざった煙で多い尽くされた。何が起こったのか解らないままオオカミらは右往左往している。

「スターダストボンバー用意!」
「OK! スターダストボンバー用意!」

煙の中から彼らのハキハキとした声が聞こえる。
オオカミらだけでなく隊員らも何が起こっているのか周囲一メートル先の事すら見えない。
ただ何かを結合しているかのような金属音が聞こえているだけだ。

「スターダストボンバー用意完了!」
「OK、スターダストボンバー発射準備!」
「了解、スターダストボンバー発射用意!」

スターファイブらの方から何か電気の様なバチバチとした音が聞こえだした。
それと同時に一番視界を遮っていた青の煙が徐々に薄れ始めてきた。5人の前に大砲の様な物が設置されている。

「必殺! スターダストボンバー!」

そうレッドスターが叫んだ瞬間、大砲の中から白色の光線が飛び出した。
茶やグレーの塊であるオオカミ達がその眩い光線が自分達の所に向っているのだと理解したのは既に自分達が光に包まれ始めていた時だった。
途端に爆発が起こり、オオカミ達は一人残らず空の彼方へと吹っ飛んだ。

「おーぼーえーてーろー!」

南南西の方向でオオカミらが星になったのを確認するとスターファイブはキビキビとした動作で大砲を片付けた。
そして規則正しい動きで回れ右をすると、市井の人々が無意識に空けた彼らの為の道を歩いていった。

「ほぇ~……」

隊員達はあまりにも壮大な映画を早回しで見た後の様な気分で、
自分達の前を通り過ぎて去っていくスターファイブの後姿を見ていた。













『と、言うわけで今日は現在、大阪で話題沸騰中の流星戦隊スターファイブを大特集します!』

翌日、さすがマスコミといった所かテレビのワイドショーでは早速昨日現れた彼らの特集を組んでいた。
まずは数名の目撃者の話のVTRを繋ぎ合わせて、スターファイブは一体どこの誰なのかと言う疑問を強く印象付けたところで、場面は切り替わり、
若い女性リポーターは、大きな工場の門の前に立って大げさな演技で後方の大きな社屋を指差した。

『この中にですねぇ。スターファイブのボスであり、生みの親がいるらしいんですね。では行ってみましょう!』
再び画面が切り替わって「社長室」と書かれたドアの前に彼女は立った。2、3回ノックをしてドアを開けると、
椅子に座ったままこちらに背を向けている男性がいた。

「えーと、あなたがスターファイブの海の親だと聞いてきたんですが」
「ハイそうです。何を隠そう私がスターファイブの生みの親、高峰史郎です」

男性は椅子ごと回転し、明らかに何度かリハーサルをやってきたと見える台詞を言った。いかにもTV的な演出である。
髪をしっかりとオールバックにしており、渋いオジサマタイプの顔だった。長谷川初範に似てるかもしれない。

「なんとこの方はですね。あの、スターダストカンパニーの社長さんなんですね。もうお解かりかと思います。
流星戦隊スターファイブは、この会社の一部門なんですね。驚きです」
「……スターダストカンパニーですか。凄い所が参入してきましたね」

マイクを向けられた社長が「えぇ、そうですよ」と悠々と語っている最中に、クリームが呟いた。

「スターダストカンパニーってそんな凄いの?」
「最近、大阪で急成長している重工業の会社です。世界中でそのシェアを拡大していまして、
10年後には三菱や川崎と肩を並べる大企業になるだろう……と、今私が読んでいる『なんでやねんッ!大阪経済!』に書かれています」

ちょうどその時に番組内でも、スターダストカンパニーがどの様な企業かがVTRで説明されていた。
内容は要約すればまさにクリームが先ほど言ったままだった。
そして、再び社長の顔が映るとモーツアルトだか何だかのクラシックが流れて、まさに総まとめに入っているのだと解りやすく教えてくれていた。

「中には、一種の企業アピールだとかそう言う風に見られている方もいらっしゃるかもしれません。
違うと私がいくら否定してもね、まぁ、実際的にはイメージ戦略としては十分効果あるでしょうから否定しません。
でも、これだけは言わせてください。私はね。自分を育ててくれたこの社会に何か恩返ししたいと常日頃から思っておりました。
そこで、ヒーローと言う結論になった訳ですな。見てくれもカッコイイし。子供達の教育的模範としても活躍してくれるでしょう。
メンバーは心から正義を愛し、悪を憎むヤツらです。使う武器も我社の特性です。多少痛みは感じるでしょうが
決して大怪我や、まして死んでしまうなんて事は絶対ありません。保護者の方々もどうぞご安心ください。
ここまで言っても『上手い事言った所で結局大儲けでもする気やろ」と思う方、これからのスターファイブらの活躍を見ておいてください。ねっ」

そこまで行くと画面はスタジオに戻り二言三言キャスターが感想を述べたところで番組は次の話題へと移った。
隊員は彼らが何者なのかようやく解ったところで一息つき、TVの前から離れていった。

「何だか凄いヒーローみたいですねぇ。私達も負けてられませんよ」
「大丈夫大丈夫。元々俺らがここを守ってる老舗みたいなもんだから」
「所詮、ビジュアルだけビジュアルだけ」
「成金の税金対策に決まってるですー」

すっかり一企業のちょっとしたイベントなんだと隊員達も安心して色々と好き放題言う事が出来た。
概ね、隊員らは良いライバルになるだろうと言う様な余裕のスタンスに落ち着いているようだ。

「僕らとちょっと違う雰囲気で良いよね。正統派ヒーローって感じだよね。やっぱバックがバックだと違うよねぇ!」

一人レッドは瞳をキラキラさせながら個人的に盛り上がっていた。
だが、結局誰にも相手にされないまま流星の如く現れた新参者の話題はそこで途絶えてしまった。











──そんな事もあった数日後。
みんなで売れ残りの為に安く買ってきた柏餅をぱくついていると地上から物凄い爆発音が聞こえた。
急いで隊員らが柏餅を咥えたまま外に飛び出ると、そこでは悪エコがノコギリやらドリルやらの付いた巨大メカに乗っていた。

「ハーッハッハッハ。来たなOFFレンジャー。ちょうど良い。俺様の自信作をお披露目してやるぜ」

悪エコはリモコンを片手に何やらボタンを操作し始めた。すると四方八方に付いているドリルが回転を始めた。
少しでも動けばあっという間に周囲数十メートルは穴だらけになってしまうだろう。

「待てっ!」

その悪エコの破壊活動に怒りの声を発したのはOFFレンジャーでもなければ一般市民でもなかった。
赤、青、黄、桃、緑とそれぞれの色の服で身を包んだ。5人の戦士、流星戦隊スターファイブである。

「この平和な街を荒らすヤツラは俺達が許さない!」
「すっスターふぁいbhfgdgsdbd!!!!」

一列に並んでロボを見上げている彼らを間近に見てレッドは声にならない叫び声を上げて大興奮。
もはやこの瞬間から我らがレッド隊長はただの特撮マニアに成り下がってしまった。

「フフフ……面白い。この俺に挑んでくるとは命知らずなヤツラだぜ」
「みんな、行くぞ!」
「おぅ!スターダストボンバーだな」

スターファイブは前回のように必殺技を繰り出すべく例の大砲を組み立て始めていた。
しかし、いくらその作業が俊敏かつ迅速であったところで、特撮ヒーローの常識が通用しない悪エコの前では意味が無かった。
あっと言う間に銀色に輝く大砲は巨大ロボに踏み潰されてただの銀板になってしまった。

「そんな、スターダストボンバーが潰されるなんて!」

ピンクスターの悲痛な声が周囲の緊張感を一気に張り詰めさせた。

「ハーッハハハ! そんなガラクタで俺様の自信作をどうにかできると思ってたのか。ほんっとバカだな」

悪エコは微笑を浮かべながら両腕に付いた一際大きなドリルをスターファイブらに向けた。
耳が痛くなる様な金属音が体に響いてくる。スターファイブらは、その巨大ドリルの前に成す術が無く立ち尽くしていた。

「がっ、がんばれー! 負けるなスターファイブ!」

しかし、ギャラリーの中の誰かが叫んだこの言葉がみんなの心に火をつけた。
連鎖反応で次々と見ている子供達がスターファイブらを応援し始めたのである。それは子供から大人へ、レッドまで移って行った。

「負けるなー! スターファイブー!」
「レッド、辞めてください。やめてください!」

身を乗り出しながら熱烈に応援しているレッドを必死に止めていた隊員らの中にも少々心に熱い物を感じていた。

「やれやれ、俺達にはまだたくさんの仲間がいるのを忘れちまってたようだな」
「ブルースター……」
「レッドスター。俺達、ここで終わっていいのかよ。こんなドリルの化け物にやられるなんて俺はごめんだぜ。なぁ、そうだろ」

渋い声で周囲に聞こえるように問いかけたブルースターの声に動かされたのはギャラリーだけではなかった。

「そ、そうですたい。ブルースターさんの言うとおりですたい」
「頑張りましょうよ。私達は流星戦隊スターファイブなのよ」
「そうですよ。こんな所で負けるボクらじゃないですよ!」

どこからか燃え燃えなBGMが流れ出して、周囲はヒートアップしていった。
と、その時隊員らの持っている変身ブレスレットからアラームが流れた。
5人がブレスレットを重ねると悪エコのロボットに向って光が伸び例の社長の顔が映し出された。

『えー、あー、映ってる? うん、じゃぁ、OK。3、2、1……えー、スターファイブの諸君、苦戦しているようだね』
「高峰司令官!」

社長はぎこちない声で時折カンペを見ている目線をハッキリと示していた。
さすがにこれは逆効果だったのか一部からブーイングが出ていた。多分、特撮ファンだ。

『私は、この時が来るのを待っていたよ。でも、大丈夫だ。5人の心が一つになった時に、きっと道は開けるだろう』
「高峰司令官、それは一体!」
『それは、君ら次第だ。それでは、け……けん……あっ、健闘を祈る』

ムービーが終わるとスターファイブらはお互いを顔を見合わせて頷き、円陣を組んだ。
一人ひとり手を中央に向って差し出し5人の手が重なり合ったとき、辺りには静寂が訪れた。
ただ、一人悪エコはリモコンの調子が悪くなったのか、何度もボタンを押していた。ロボまで空気を読んで動かないのか。

「……遥かなる宇宙の精霊よ。悪を打ち破る力を我らに与えたまえ」

5人がそう呟くと、風が強くなってきた。どこからか何かが飛んでくるようなそんな音が聞こえる。
さらに風が強くなった。思わず目を細めてしまう。5人の着ているぴったりのはずのスーツにまで波が立っている。

「来たっ……なんか来たぞー!」

誰かが空を指差して叫んだ。首が回転するのではないかと思うほどに頭を振り上げたレッドに続いて隊員らも見上げた。
飛行機の様なジェット音と共に、空の彼方から巨大なロボットがうつ伏せ状態で飛んできたのだ。

「あばっjがらfんgvんvbthdsvkvmgb!!!!」

レッドはひどく興奮しながらバンバン横のオレンジの背中を叩いた。
これくらいのロボなら本部にいけばざらにあると言うのに。

「あれは……スターファイブロボ!」

スターファイブの面々はこちらに向ってくるロボットをカッコよく見上げながら互いに頷きあい、手を空に伸ばした。
すると腕についている変身ブレスレットから5色の光が飛び出しロボットの額に集まっていった。
ロボは、その途端に90度向きを変え空で直立姿勢になるとそのままジェット噴射でゆっくりと地上に降りてきた。

「よし、みんな、乗り込むぞ!」
「了解!」

スターファイブらは足元の非常口から中に入って行った。さすがに、飛び上がって乗ったり謎の光に吸収されると行った物ではないらしい。
その最中にも悪エコのロボは動いてくれていない。子供達も、ロボの登場にレッドと共に大興奮だ。

「うーごーけー! この役立たずがああああああ!」

ロボを蹴り飛ばしながら怒鳴っている悪エコをよそにロボはエンジン音を立てながらゆっくりと腕を振り上げていた。
そのまま背負っている剣を精巧な動きで掴むと剣を両手で掴んだまま頭上に掲げた。

「いくぜ、みんな」

ロボに付けられたスピーカーからレッドの声が聞こえてきた。中が見れないのが惜しい。
と、そんな事を考えている間にロボの足に付いたローラーで前に進みながら悪エコのメカに近づいていく。
悪エコは苛立ちの余り気付いていないようだ。ロボの剣の先が太陽の光を一瞬反射した!

「必殺っ、スターダストブレード!」

5人のハモった声と共にスターファイブロボの肩の辺りから蒸気が噴出し、腕が物凄い速さで下に落ちていった。
一気に振り下ろされた剣は悪エコの頬をかすってあっと言う間に巨大な鉄の塊を、切ると言うよりも潰してしまった。
さすがの悪エコもこの威力に、憎らしげにロボを見上げながら10,20と罵詈雑言を並べ立てていたが、途中でエコに戻り、
「わーっ、スターファイブだぁぁぁぁ」と、こけつまろびつ叫びながら逃げていった。

「勝利ー!」

再び剣を振り上げたロボに人々は歓声を上げた。
子供達の甲高い声のせいでますますその歓声は大きくなっていた。

「いい……スターファイブ……いいよねっ」

レッドもほのかに目に涙を浮かばせながら太陽を背に光り輝くスターファイブロボを見ていた。
ただの街中は映画のラストシーンの様になったのだ。そう、この瞬間から流星戦隊スターファイブは本物になったのである。















「ひっじょーに、やばーいですね」

新しくニュース番組で組まれた『スターファイブがゆく』のコーナーを見ながら爪を噛んでいるグリーンは呟いた。
そんなグリーンに本日発売したスターファイブ大百科を熱心に読んでいるレッドがたずねた。

「なーにーがー?」
「スターファイブに決まってるでしょう。ハッキリ言って目の上のたんこぶになってきたと思いませんか?」
「うん、なんか、すっごく特撮魂を揺さぶられるよねっ」

グリーンは目を輝かせながら応えるレッドを溜息一つで放置した。

「企業のバックアップだかなんだか知りませんけど、突然やってきてウチのシマで勝手に活躍しているのはどうですかねぇ」
「俺もやっぱりちょっと生意気だと思ってたんすよね」
「菓子折りぐらい持ってこいですー」

隊員らもさすがに自分達を差し置いてスターファイブばっかり注目されているのが気に食わないらしく、
グリーンを中心としてスターファイブの悪口で花を咲かせ始めた。

「第一ですねーロボットなんかウチでも持ってますよ。使ってなさすぎですけど」
「剣とか言ってるけどあれ鉄の塊を振り下ろしてただけだよねぇー」
「あんな定型的な人間像のどこが良いのって感じじゃん」
「シラフでよくあんな真似できますよね~。OFFレンはシリアス補正があってこそできる事なのに」

しかし、そんな悪口がレッド隊長を良く思わせなかったらしくバタンと大げさに本を閉じて立ち上がった。
そして後ろに手を組み、かしこまった風に隊員らの輪の中へと近づいてきた。

「特撮の良さって言うのはね。解りやすさにもあるんだよ。それが長く続いている理由なんだよ。
鉄の塊でも良いじゃないか。ぶっちゃけ言えば昔はもっと安っぽい素材だよ。でも、その感じがアットホームで良いんじゃないかな?ん?」

隊長はわざとらしく語尾を強く上げていた。反論の余地などいくらでもあるのだが、
特撮の事となると長々と一日中でも語れるレッドの事だからめんどくさくなるのを恐れて皆、黙っていた。

「グリーン、嫉妬しちゃぁいけないよ。そりゃぁスターファイブはいきなり来たけどさ。
流星って付いてるでしょ。流星って。流れ星は予告して来ないでしょ。予告してくるのかなぁ? どぉなのかなぁ?」

グリーンに顔を近づけながら真顔で尋ねるレッドの様子から隊員達は内心レッドが猛烈に激怒しているのを感じた。
聞かれている当人にもしっかりと理解できたらしく、中間管理職の様な悲哀を漂わせながら押し黙っていた。

「僕らが平和を守る。スターファイブも守る。それでいいじゃないの。警察みたいになわばり争いなんてさみっともないよ」
「でも、スターファイブが来てから事件解決0ですー」

シェンナの発言をクリームが抑えながら止めたが既に遅かった。レッドの眼球が動いてシェンナを捕らえた。

「それは……つまりだね。えぇと……」

いきなり図星を付かれてレッドの真顔が一瞬、困惑の色を見せた。

「そう、僕らがオオカミ軍団とかBC団との戦いに専念できるようにしてくれてるんだよ」
「この一週間で5回もオオカミ倒しちゃったじゃないっすか。アイツら」

シェンナの切り出しがあったお陰か今度はブルーがストレートに突っ込んだ。
隊長は焦った顔でブルーを見つめ、目を泳がせながらか細い声で反論した。

「僕らの代わりに戦ってくれてるんだよ。良い人達じゃないかなぁ」
「それだとOFFレンジャーの存在価値が危うく……」
「ほんっと、カッコイイし、憧れちゃうよねぇー超合金の発売まだかなぁ~あはは」

レッドは隊員の反論を突然の大きな声で遮ってみたが、隊員らの哀れむような視線をますます強く受けるだけだった。

「隊長。スターファイブが市民権を得て、さらには、我々の敵とまで対峙しだした以上、
OFFレンジャーって、いい歳して正義の味方気取りの怪しい男女みたいになりません?」
「ち、違うっ。違うよぉ! OFFレンは怪しい団体じゃないもん! カルト団体じゃないもん!」
「レッド。いい加減危機感を持ちましょう。OFFレンが正義の味方でいられるのは悪者と戦っているからですよ」
「……あ、そ、そうだ。だったらもっと凄い事件を解決するとかどぉ!?」

レッドは、汗をかきながらおおげさな身振りでテレビを指差した。
ちょうど今テレビ番組では世界中で起こっているテロだの戦争だのリアルで暗い話題が報じられていた。

「こ、こーいうの解決したら凄くない!?」
「そりゃぁ、解決できたら凄いですけど、ちょっと規模がでかすぎますよ。もう少し現実的に考えてください」
「あぅー……」

あれだけスターファイブびいきのレッドも自分達の存続の危機が訪れてしまっては、
さすがにグリーン達の話に納得するしかなかった。隊長は、しょんぼりとしたままソファに座った。

「さて、隊長にも解ってもらえた所でスターファイブにOFFレンが先輩だって事を解らせる会議をやりましょう」
「要はヤキ入れって事っすね」

ブルーが少し顔に影を躍らせながらニヤリと笑った。

「焼き入れでも焼き込みでも何でも良いけど、どうやるわけ?」
「フッフッフ、簡単な事です。オオカミ軍団とグルになって事件を起こしてスターファイブが来る前にささっと解決!これですよ」

自信満々にグリーンが言うとそのシンプルかつ解りやすい作戦に一同はおぉ~と声をあげた。

「つまり、ヤラセって事ですか」
「演出と言ってください。向こうが我々の出場所を予測できるわけありませんからね。派手に戦えば嫌でも市民にアピールできます」
「でも、向こうがそう簡単に応じてくれるかなぁ?」
「ご安心めされい。その辺はちゃんと手を打ってます」

グリーンが手を叩くとドアが開き、ボスを先頭にぞろぞろとオオカミ達が入ってきた。
あっと言う間に部屋中が灰や茶で埋まってしまい、隊員らはオオカミの足の隙間で意志の疎通を行うしかなかった。

「えーと、ボス、ボスはどこですか」
「俺ならここだ」

ボスに背中を掴まれて引きずり出されたグリーンはボスと一対一で向き合った。サングラスの奥の目は澄んでいた。

「えーと、電話でお話したとおり、ちょっとスターファイブは、しいていえば目の上のタンコブじゃありませんか?」
「まぁ、そうだな」
「正直、オオカミ軍団としてもやりにくいでしょう?」
「あぁ」

表情一つ変えないままボスが応えるとグリーンはさっそくメモを取り出して計画を説明し始めた。

「そこで、一応考えておいたんですが、まず明日の9時頃に幼稚園バスを襲ってください」
「……グリーン」
「まぁ、園児に変にトラウマを与えたら後が後ですからね。まぁ、それなりに怖い感じでビビらせてもらえれば」
「グリーン」
「すぐに私らが飛び出します。手加減はしますから安心して襲われてください」
「オイ、グリーン」

ボスは相変わらず真顔のまま強い口調で言った。
グリーンはめんどくさそうにメモからボスに視線を移した。

「何ですか? ちゃんとそれ相応の謝礼くらいは出せますよ。がめついですね~」
「残念だが、俺達は、オオカミ軍団としてそんな計画に参加しないと言う事を言いにきたんだ」

グリーンと同時に、オオカミらの足元からも隊員のどよめきが起こった。

「どどどどど、どうしてですか。あんな事になっちゃって平気なんですか!? いつかやられますよホントに!」
「俺らはスターファイブが邪魔で、ここ数日何度も戦いを挑んだ。だが、だがなっ、アイツらの必殺技を受けたときに気付いたんだっ!」

ボスは徐々に熱い口調で唾を飛ばしながらグリーンに叫んだ。

「アイツらの熱さは本物だ。俺らがいかになぁなぁでやってきたか思い知らされた。これが俺達オオカミの本当の好敵手だってな!」
「待ってください。待ってください。そんなのまやかしです。カウンセリングを受けましょう。気の迷いなんですよ」

ボスは、グリーンの説得に一切応じる素振りを見せなかった。
そしてボスは遂に「今までありがとうな。ちゃんと勉強しろよ」と言ってグリーンから手を離した。

グリーンが地面に触れた瞬間、ボスは背を向けて再びザコオオカミを従えて部屋から出て行った。
突然、潮が引くかのように一瞬の出来事だった。

「………………」

目を見開いたまま天井を見つめて固まっているグリーンの側で隊員達は無言で立ち尽くしていた。
レッド隊長はこの時、身をもって完全なる危機感を覚えた。誰もが誰かが何か言い出すのを待っていた。













月曜日。午後12時。尾布死中央公園。
スターファイブが数キロ先の中学校で戦っている最中に事件は起こった。

「おうおう、どいつもこいつも能天気に笑いやがって。おらぁなぁ、会社が倒産して失業中なんだぞ。
酒でも飲まないとやってられねぇんだよこの野郎。オイ、そこのガキ。家に帰れば上手い物食って馬鹿な顔してワンダースワンで遊ぶのか。オイ」

真っ昼間から、酔っ払いが遊んでいる小さな子供達に絡んでいるのだ。
酒瓶を片手にフラフラと子供に怒鳴り散らして回っている。
母親達も近づくに近づけず、不審者がわが子に危害を加えないかとヒヤヒヤしている。警察を呼ばれるのも時間の問題だ。

「待ちなさーい!」

そこに現れたのは警官では無かった。少し甲高い声を出していたピンクの服で何かのコスプレをしているレッドだ。
その後ろにはパープルとピーターパンが共に緑や青のフリフリの服を着て少々呆れ顔で立っている。

「何だテメーは。女装マニアか」
「こんな昼間から弱いものいじめする中年男性なんて、ぜ~ったい許さない!」

一人声を作ってなりきっているレッドが指差して男の注意を引いていると、隙を見て母親達が子供の下へ飛んできてすぐさま抱いて連れて行った。
もう、男の強みは酒瓶を無視すれば無くなったも同然。

「よぉし、ここらでいっくぞぉー。にゃんにゃんボイスでライブスタート!」

レッドが服の中から綺麗なデコレーションのマイクを取り出すと、どこからとも無く美しい旋律のメロディーが流れてきた。

『もしも~♪ねがいが叶ったらぁ~♪そぉの先に~何が待ってるの~♪』

一人ノリノリのレッドの後ろで困惑しながら二人もマイクを取り出した。
公衆の面前で若干恥ずかしそうに歌っているが、余計恥ずかしいのは女装しながらも完全に自分に酔って歌っているレッドの姿だ。

『きっとI'M JUST GIRL~♪ ゆっめ~だけっでは~生きられない~♪』

男も突然、歌いだした男とその後ろの二人の異様な感じを目の前にして、
困惑と言うよりも先に、何だか自分が異世界にいるようなキモチ悪い違和感を感じ始めていた。

『愛される予感をくっださい♪ いま~ありのままのぉ~私と~夢のその先へ~♪』

レッドを中心にポーズを決めながら3人は一番を歌いきり、イントロの余韻をレッドが感じ始めた頃、
後ろの二人との心理的な距離感を感じないまま、男に向ってレッドはマイクを掲げた。

「アンコールはいかが☆」

ウィンクしながら完全に悦に入っているレッドを見て男はヨロヨロと後ろに下がっていったかと思うと突然走り去っていった。

「こ、こ、こんな子供が未来の日本を担って行くなんて、お、おらぁ信じないぞ。うわぁぁぁぁぁ」

男の姿が見えなくなるとレッドは側の時計を見た。12時7分。スピード解決だ。
子供と母親らは完全にレッド達の周りからいなくなっていた。

「はー、やっぱり良いね。なんか、斬新だよね。歌って踊るOFFレンってね☆」
「う、うん。そうだね……」
「ご苦労様でした。レッド」

と、満面の笑みを浮かべるレッドらに拍手を送りながら茂みの中からグリーン達が出て来た。

「歌いながら攻撃するはずが、予想外な結果になりましたが。まぁ、大健闘でしょう」
「えへへー。でも、僕、男だしやっぱり恥ずかしかったなぁ~☆」

恥ずかしそうに顔を赤らめるレッドの言葉を誰もまともに受け取ろうとはしなかった。
しかし、レッドは気付かずに調子に乗って自分流の振り付けに対しての考え等を語り始めていた。

「でも本当にこんな事、効果あるのかな……」

レッドを無視して、服をいち早く脱ぎ出す女子達がグリーンに疑いのまなざしを向けた。
疑われた側としてはそんな言葉を一笑に付すだけで終わらせた。

「良いですか。向こうが正統派で来るならばこちらはどう考えても太刀打ちできません。
元祖にあぐらをかいていれば、必ずOFFレンは滅びます。となると生き残る方法はただ一つ、個性、オリジナリティーです。
向こうが正統派でくるならばこちらはとことんスターファイブには無い。何かこう、特色をどしどし前に出してアッピールしなければいけません」
「要はイロモノって事じゃ……」
「タイガが以前言っていましたが、どんなアダルトビデオでも3000本は売れるそうです。
つまり、どんなマニアックな物にも3000人程度隠れファンがいると考えてもいいでしょう。
向こうは正統派オンリー。カバーできる層は、子供と特撮ファンのみ。しかし、私達が色々な個性を打ち出していけば
一人に3000、各人3つくらいの個性付けをすればファン一万人は固い。あっとビックリ、全員で約16万人の固定ファンが付きますよ!」

グリーンの熱弁に隊員達も半信半疑ではあったが、代わりに良いアイデアは浮かばないし
このまま何もしないでいるよりかはと言う事で隊員達はこの考えに一応賛同した。

「しかし、子供と女子高生のこの二大要素を重要視しなければなりません。私は2,3分ほど考えてこの二つを十二分にカバーする計画を立てています」
「はぁ」
「まず、マスコットキャラクターの製作です。キャラクタービジネスでがっぽりぽんと丸儲け、これが現代っ子ですよ」

グリーンは、どこからか甲冑を着た猫のキーホルダーを取り出した。イカツいが全体的にデフォルメされていて可愛い。

「これが、一応サンプル品を作らせた、OFFレンオリジナルキャラクターのぴこにゃんです」
「うわっ、なんかパチもんくさい!」

グリーンはぴこにゃんをしまうと、次いで厚いメモ帳を取り出した。こう言う所は異常に準備がいいのは何故だろう。

「えー、そして各々のキャラ付けを発表しますね」
「キャラ付け!?」
「個性をバンバン出していくにはある程度カリカチュアライズ化する必要があります。そこで、私が考えておきました」

グリーンは、まず端にいるオレンジを指差した。

「えーと、オレンジはラテンアメリカ系のハーフでバスケットが三度の飯より好き。口癖は『Shit!』」
「えぇ……なにそれぇ……」
「さて、次はピンクですね。えー自称宇宙のプリンセスで、常に宇宙からのメッセージを受け取っているのでぼんやりしていると」
「…………」
「ホワイトとクリームは危険な関係で……おっと、全部言わせる気ですか? フフフ」
「勝手に決めないでよ!」

次々と、滅茶苦茶な設定をあげながらグリーン自信はちゃっかりと「一般人」と言うポジションに付いていた。
そしてグリーンは、最後にレッドにある程度尊敬の意味を込め、指を指さずに手をそっと差し出した。

「隊長は、心にトラウマを抱えながら幻想の世界でのみ生きることを選んでしまった悲しき少年的にお願いします」
「おぉーなんか凄そうだねぇ~」

レッドのみ不満げな感じは見せずにこやかに、フリフリの服をさらにフリフリとさせていた。
メモ帳をぱたんと閉じ、グリーンは全員を見回した。腑に落ちなさそうだが異論を唱える者はいなかった。

「では、とりあえずこんな感じでいきましょう!」
「おぉ~……」

こうしてこの日よりOFFレンジャーのイロモノ活動が始まった。
語ることは様々だが、以下、OFFレンジャーの一週間の主な活動とその他出来事を簡単に紹介してみよう。


某日、スターファイブがオオカミ軍団と半日にも及ぶ大バトル。夕方のニュースで大々的に報じられる。
OFFレンは、道端でキャッチセールスをしていた男を体操服姿のマスゲームで撃退。カメラ小僧が数人写真を撮るがそれきり。


某日2、スターファイブ、市長の家に現れた暴漢を鮮やかに撃退。市から表彰状が渡される事に。
OFFレン、大阪はるさめ協会の資金を持ち出した会長を退治。その日の夕飯は協会から貰ったはるさめのサラダ。


某日3、スターファイブ人気にあやかろうと各地域から悪者が押し寄せてくるが撃退。だが、今後も増える見込み。
遂にOFFレンが取材される。内容は「奇怪な行動を取る人たちがいるってホント!?街のウワサ大検証」放送時間3分20秒


……と、そんなこんながあってOFFレンのイロモノ運動は10日目を迎えた。
前述の様に悪者達の中でスターファイブと戦う事はステータスとされ、大量に悪者が尾布市に雪崩れ込み治安は悪くなる一方。
OFFレンが倒そうとするが、スターファイブではないと解ると邪険にされてどうしようもなかった。

「が、がおー。オレは怖いぞぉー」

この日も、何かされて巨大化したエコが街中を歩き回っていたが、少しでもエコにOFFレンが近づこう物ならオオカミらが邪魔をしてきた。
なので、仕方なく街中をうろついていた。今度はバレエの格好で頭からは花が咲いている。もはやOFFレンもイロモノと狂気の区別がつかなくなってきていた。

「がおー。食っちゃうぞぉー」

巨大化してワンワンと響くエコの声を聞きながら、OFFレンは何か悪事を探すが結局何も見つからない。
仕方ないので市役所前で数十分変なパフォーマンスをした後、本部に戻った。

「あーボス、向こうに海が見えるよー」

憔悴しきった隊員らは席に着いて俯いたまま微動だにしなかった。
聞こえてくるのは妙にエコーのかかったエコの声とそのエコのニュースを速報しているTVの音のみ。

「あっ、き、来たー! スターファイブだぁぁぁ!」

地上からは爆発音やら何か建物か崩れる音が地面を伝わって本部にも聞こえてきていた。

「ま、負けないからなー。先輩がいなくてもオレは平気なんだぞー」

その後、地上とTVからは、ロボットから発射されたレーザー光線の音が聞こえ、
次いで、エコの叫び声が聞こえてた。テレビ画面を見ると真っ黒コゲになったエコが縮んでいく。

「スターファイブ! スターファイブ! スターファイブ!」

二方向からの歓声が本部中を響かせていた時、TVの側にいたグリーンはすぐさまチャンネルを変えた。
こっちの番組ではラーメン屋特集をしている。だが、誰も見ようとはしなかった。いわば場の雰囲気を少しでも明るくする為のBGMなのだ。

『さて、次のコーナーです。スターファイブ人気の影で頑張る謎の戦隊ヒーローとは…?』

真っ先に顔を上げたのはレッドだった。隊員は頭上の花が落ちたのも気にせずにTVに駆け寄った。
スターファイブの活躍場面が流されながらナレーションはその次に映るであろうヒーローの期待感を煽りに煽っている。

『個性的でね。いいんじゃないですか』
『若い人らが明るく地域を盛り上げてくれてるのがワシら高齢者世代の励みになる』
『ずっとまえからだいすきです。いつもおかあさんとみてます。4さいです』

スターファイブの場面が終わっていよいよと言う時に、街中のインタビューで繋ぐ。
使い古されたテレビ局の引っ張り方が今、この瞬間この場所では最大限の効果を持っていた。
それと共にこの他人に関心が無いといわれがちな今の日本において、ちゃんと我々の存在を影ながら見ている人がいる…。こんな嬉しい事は無い。

「やっと、苦労が報われましたね」
「長かった。長かったなぁ。100年くらい経ってた気がするよ」
「だから言ったじゃないですか、個性が大事なんですよ。21世紀は」

インタビューの画面が切り替わり、ブラウン管に映ったのはいつも以上に高く見える通天閣。
徐々にその視点は下のほうへと降りて行き、そのまま地下へと続く階段に寄っていく。

かと思いきや、歌番組で激しい動きをする歌手を追うような素早い横移動で画面はたこ焼き屋がアップで現れた。
そのたこ焼き屋の前にはそれぞれ赤、黒、緑の安っぽいスーツを着た人物が3人ぎこちないポーズをつけて立っていた。

『彼らが、大阪でスターファイブを超えるとウワサされているなにわ戦隊たこレンジャーのみなさんです』

隊員達は何が起こったのか理解するのに非常に時間が掛かった。
目が点になるとはまさにこの事で、この場にいる隊員はシェンナとクリームの右目以外、本当にごま塩みたいな目になった。

『たこレンジャーのリーダー。タコレッドの朝はいつもタコとのコミュニケーションから始まります』

画面では、スーツを脱いだ普通の兄ちゃんがタコを愛でている。右上のAM 5:00なんてどうでも良い。

『美味しいタコを焼くにはやっぱり自分がタコの気持ちになるべき。今は作り手のモラルが失われつつあると思う』

そんなにこやかな笑顔を見せるタコレッドの後ろを変な格好の行列が歩いていく。OFFレンだ。だが、すぐに消える。

『たこ焼きに妥協はいらないと思う。そこが美味しさの秘訣だし、僕なりの信念』

そのまま赤が散々語った後、簡単にソースブラックと青のりグリーンを紹介して番組の話題は女優の離婚騒動に移った。
どのチャンネルに変えてみてもスターファイブかそれ以外かと言うだけでOFFレンの「お」の字すら出てこなかった。

「……ぬぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

突然テレビを持ち上げてグリーンは奇声をあげた。
今すぐにでも破壊しかねない彼の挙動を隊員らは抑えるのに必死だった。


「何故ですかっ。こんな阿呆みたいな格好してまでしておきながらファンレター一つ届かないなんてっ!
どんだけ私ら影が薄いんですかって感じですよ。たこ焼きレンジャーだかなんだか知りませんがっ。わたしゃあんなヤツラ見たことないですよ。
何が僕なりの信念(笑)ですか。カッコつけんな!カッコつけんな!括弧笑いつけんなああああ!
ハッ、もしや彼らは私らを陥れるためにメディアと言う名の悪魔が仕掛けた罠じゃないんですか。捏造報道じゃないんですか。
本当は日当数千円で雇われたただの俳優志望の卵の卵みたいなヤツラなんじゃないんですか。最近の俳優志望は無駄に演技できますからね。
おお、となると話は早いですね。この事実をBPOだのVOPだのに通告しなければいけません。メディアの捏造は放って置けません。
ハッ、しかし、しかしですよ。その彼らもメディアの手先だと考えたらこれは怪しいですよ。そうです。もしかしたら、
あのスターファイブカンパニーだか何だかが常連スポンサーだか何だからもみ消されてしまうのでは……!?
となれば、もはや頼れるのは何!? 警察!? 司法!? それとも未来!? そうです。そうですよ。所詮この世界は私と言う一種の自己を通してみているかりそめ…
信じられるのは全てを疑っている私だけ…そうか。そうでした。見つけましたよ真理を。私はたった今からこの世界のっ……」

グリーンはずっと頭上に掲げていたテレビの重さに耐え切れなくなり、テレビごと床に崩れ落ちた。
誰もが憔悴しきった目をして、グリーンを見下ろしていた。やはり誰かが何かを言い出すのを待っている。

「もう、やめましょう。こんな不毛な行いは……」

ようやく口を開いたクリームの言葉に隊員達はかすかな溜息だけで答えた。
横になった画面の中、スターファイブの鮮やかに映る活躍の映像が悲しかった。










正義のOFFレンと対になっている悪のオオカミ軍団。OFFレンの雰囲気が陰鬱陰惨陰気である以上、
オオカミ軍団は、盆と正月と誕生日が毎日やって来ているかのようなハッピーフルムード一色だった。

「よぉし、次の作戦で使う武器はどれにするかな~♪」

毎晩の集会で、ボスオオカミは弾んだ声で「武器カタログ2008」のページをめくっては戻し、一気にめくってはまた最初から読んだりしていた。
この別冊は今月分の悪者の友についていた物で、要はスターファイブ撲滅の為に製作された武器の通信販売雑誌である。

最近新しく悪者に向けた武器の販売メーカーが出来、商品の性能を広くアピールするために今話題のスターファイブ撲滅!を謳い、こうして配布されたのだ。
武器は単なる爆竹から巨大な戦車まで実に幅広く取り扱っている。もちろん、スターファイブ以外の正義の味方に使っても良い。

「ボス、以前はロボット巨大化ドリンクを使いましたし、今度は逆にスターファイブ側を小さくすると言うのはどうでしょう」
「なるほど、良い考えだな。となると、120ページのサイズ関連だ」

このカタログはここ大阪地区で大成功を収めている。なにしろスターファイブを倒すために各地から殺到した悪者が大量に購入しているのだ。
それだけではない、日々進化しているスターファイブのためにこの武器製造メーカーも最新のスターファイブデータを集め、常に武器に改良を加えている。
おかげでほぼ毎日発行される最新版カタログに大阪中の悪の組織が殺到。近年の悪者業界でも稀に見る大ヒットとなっている。
悪の組織業界でもマーケティングは欠かせないらしい。

「お、これどうだ。ミクロ光線銃。効果時間が3倍になったらしいじゃないか」
「良いっすね。それでスターファイブを小さくして踏んで踏んで踏み潰すとか」
「お前バッカだな~。そんな作戦、どうせ他の組織がやるだろ」
「そうそう、この前も歌舞伎みたいな格好したヤツラが俺達の作戦を先にやって……二番煎じはキツかったぜ?」

オオカミ軍団のオオカミ達は毎晩遅くまで会議に会議を重ねながらこうして策を練っていた。
皆、誰もがイキイキとした顔で毎日を生きるようになった。倒される事、倒そうとする事、こんなにも楽しい事だったとは。

「あ、ボス。良いアイデアが浮かびました」
「何だ言ってみろ」
「エコを小さくするんです。それで、レッドスターの体内に侵入して、針でつついて苦しめるんです」
「なるほど。一寸法師だな。なんだか懐かしくて俺は好きだ」

ボスが満足げに微笑むと他のオオカミ達には異論は無くなる。
早速電話でミクロ光線銃を注文し、ボスはいそいそとエコの部屋に向った。
事は慎重に進めなければならない。なんせ、前回の無残な敗北が半トラウマ化してエコが部屋にひきこもっているのだ。

「ご、ご、ご、ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」

ベッドの上で頭を抱えたまま震えているエコを扉の隙間からボスは覗いてみた。
今朝、置いたカンパンにも手をつけてない。どうやら根は深そうだ。

「エコ、入るぞ」

ボスが入るなり体がビクッと痙攣してエコの震えはますます大きくなった。
安心させなければ始まらないのでボスはエコの横に座って背中に手を廻してやった。

「お、お、お、オレ、や、や、やめて、って、い、い、言った、の、のに」
「そうだな。ちょっとやりすぎだったなアイツらも。でも、大丈夫だ。落ち着こうなエコ」
「ぼ、ぼ、ぼす、お、お、お、おれぇ……」

エコを抱き寄せて頭を撫でてやるとエコの震えも徐々に収まっていっているように思えた。
震えていたのはもしかしたら寒かったからか。とも思った。

「よし、エコ。がんばってくれたお礼に何でも好きな物食わしてやるぞ。言ってみろ。何が食いたい」
「……え、えびぴらふ」
「そんなもんでいいのか? ビフテキはどうだ。美味いぞビフテキは」
「え、え、えびぴらふがいいっ」

エコが少し口調を強めて言ったのでボスはそこで言うのをやめてエコをベッドから降ろさせ、手を繋いでやり部屋から出るように促した。
ボスの誘導でふらつくようにしながらオドオドとエコが部屋を出ると、もうそこからはエコも調子を取り戻したのか普通に歩き始めた。

「この時間ならファミレスが良いだろうな。今日はおかわりもな。いくらでもしていいぞ。ははは」
「う、う、うん」

外に出て夜風に当たるとエコの気分も少し晴れてきた。若さの特権だ。
と、その時後ろからオオカミらがボスを何度も呼ぶ声が聞こえてきた。
ボスはエコを外で待ってるように言うとアジト内に戻っていった。

「ボス、例の光線銃ですが。もう品切れだそうです」
「何っ、あんな良い作戦だったのに」

エコはこういう時、妙に嫌な予感を感じるシックスセンスのせいで、恐る恐るアジト内に入ってボスたちの会話に耳をすました。

「生産中で追いつかないとか。とりあえず今すぐ発送できるのは膨張光線とか言うやつだそうです」
「なんだそれは」
「物体を指定した大きさに膨張させられるそうです。考えたんですが、これをエコに使って……」
「なるほど、ボーリングみたいにぽーんと投げるのか」

エコは、耳をすますのをやめた。このままでは、自分は殺されてしまうかもしれないと変な疑心暗鬼に陥りそうになった。
ボスらが話を終えてこちらに近づいてくる。エコは、咄嗟に逃げ出した。どこへ行くでもなく。逃げ出した。

「もういやだぁぁぁぁぁぁ」

ただでさえ気分が落ち込んでいるエコは、完全に一人になった気がして涙ながらに夜の尾布市にまぎれていった。










『レッドスターこと長月レオさん。23歳。正義を守るのが三度の飯よりお好きだそうです』
『そしてブルースターこと牙竜シンさん。25歳。クールでニヒルな顔が女性ファンを集めています』
『次はイエロースターこと零地リキさん。23歳。その朗らかな人柄で子供達に絶大な支持を得ています』
「お待たせしました。ピンクスター星野ルミさん。21歳。昔は新体操をやっていたそうです。男性から圧倒的人気です」
「最後はグリーンスターの新庄ユウさん。まだ18歳だそうです」

大阪の番組にスターファイブの話題が出ない事は無かった。もはや、彼らはただのヒーローではなく
人気アイドルのようなそう言う位置づけになっていた。民放全てがこうなのでNHKに変える。
英会話講座しかやっていないが、見ないよりはマシだ。だが、変えたばかりのチャンネルは再びさきほどの番組に戻った。

「レッド、どこもスターファイブの事ばかりしかやって無いんですよ」
「別に良いじゃない。いくら張り合ったって仕方ないんだし」

手にしたリモコンを置くとレッドは特撮雑誌に目を落としたまま何の気も無い様に応えた。
グリーンはリモコンを奪ってNHKに変えた。今度は総合の方になった。ニュース番組をやっていた。

「そんな悠長な事を言ってて良いんですか。ただでさえ、OFFレンの存在意義が危ぶまれて居ると言うのに……」
「うーん。僕もね。昨日、色々と考えたんだけど」

レッドは雑誌から少し顔を上げてグリーンを見た。一見真顔だが、温かみのある表情をしていた。

「僕らは、正義を守りたいんだよね」
「えぇ、そうですよ。そりゃぁそうですとも。でも、一応、私たちは正義の味方であり、戦隊ヒーローではありませんか」
「でも、正義を守るって巨大な悪の組織と戦う事でも無いし、有名になる事でもないでしょ?」

グリーンは溜息を付いて困惑したようにレッドを見返した。

「……言いたいことは解りますよ。しかしですねぇ、それだと我々がここに集っている意味と言う物が」
「正義の味方としてできる事はいっぱいあるよ」
「ボランティアですか? それとも募金活動とかですか?」
「もちろんそう言うのもあると思うけど、うん、何でもいいと思うな。それこそ落し物を拾う事でもいい訳だし。
ただ自分が誰かに何かをしてあげたいなーって思ったときにするんだよ。地道な正義」
「そんな誰にでもできるような事を……」

グリーンは言い返す言葉も無くソファに思い切りもたれた。

「僕らはさぁ、オオカミ軍団とか、ブラックキャット団とかそう言うのとの戦いばっかりで大事な事、忘れかけてる様な気がするかもって思う……かもだよ?
だからOFFレンも一度、あえて原点に帰って、自分で出来る正義ってのをやっていこうよ。強い敵を倒すばかりじゃヒーローじゃない!」
「……そんな地味な正義のヒーローがどこにいますか」
「良いんじゃないっすか? このままスターファイブを敵視しているよりも」

ブルーの一言に他の隊員も続いた。

「OFFレンの存在意義を再び考え直す良い機会だと思います」
「悪の組織と戦わない分、気は楽かもね」
「ゴミをいっぱい拾っておけば、悪者に会ったときいっぱい投げつけられるですー」

隊員達からも異議は無いらしい。グリーンもその事がいち早く解って「何もしないよりかは良いでしょう」と呟いた。

「レッドもぼけーっとしていると思ったらなかなかニクい事を言いますね」
「どうでも良い事に見える事でも、長い目で見れば悪者を倒すのに一役買うんじゃないかなってね。あ、お金持ちになる事は期待しちゃダメだよ。あくまで利他的にね」
「ちゃんと隊長らしいこと考えてるんすね。さすがレッドと名乗るだけの事はあるっす」
「そうかなぁ~」

隊長としての威厳をしかと見せ付けたレッドは、若干恥ずかしそうに照れ笑いをしながら特撮雑誌を開いた。
そして、先ほど読みかけていた。ヒーローコラムの一文を再び最初から改めて読み始めた。実に感動的な文なのだ。
『本当の正義の始まりは強い敵を倒そうとした瞬間からではない。誰かの為に落し物を拾うと言う事からでも始められ……』













「うぅー……うぅー……」

OFFレンが新たな路線を打ち出したちょうど同じ頃
路地裏のポリバケツの前で時折、物音を気にしながらエコがうずくまっていた。
恐怖がまだ後を引いているわけではない。すぐ近くでスターファイブが戦っているのである。
逃げ出そうにもまた鉢合わせしてボコボコにされそうで腰が抜けてしまっているのだ。

「オイ」
「ひぇぇっ!」

そんな時に誰かに肩を叩かれてエコはバケツをひっくり返しながらあたふたと這って逃げ出そうとしていた。
しかし、運悪く生ゴミ用のポリバケツだったらしく、気持ち悪くぬめってすべって少しも前に進まない。

「そ、そんなに驚くことないだろニャー……」
「超汚いって感じ」
「え?」

聞き覚えのある声にエコが振り返ると、そこにはこれまた見覚えのある顔が4個並んでいた。
帽子を目深に被っているが良解る。BC団の『元』改造猫の猫猫、写猫、獣猫、操猫である。

「あ、あーっ。なんでここにいるの?」
「生ゴミまみれのお前に言われたくないニャ」
「……さいぼぐ、捕まる」

獣猫が差し出してくれた手に捕まってエコはようやく生ゴミの中から助け起こされた。
だが、さすがに匂うせいかすぐに猫猫らは後ろに下がった。獣猫は匂いに気付いてないのか平然としている。

「お前もスターファイブ退治に参加する感じか?」
「…う…うぅん」

少し顔を青くしてエコは応えた。あまりにもこの話題は今のエコには厳しい。
なので、すぐにエコは話題を変えるため適当に話題をふってみた。

「あ、えーと。最近何やってる? お、オレは普通だけど」
「ハァ……オレ様達。改造猫だニャ。普通の仕事就ける訳ないニャ? だから戦闘員のバイトだニャ」
「BC団にいた事が解るとウケが悪いからナ。だからこうして額のマークを隠してる訳なのサ」
「スターファイブ、戦う。ここ、集まる、言われた」
「……え」

エコは、恐る恐る路地から見える交差点を見てみた。スターファイブが黒ずくめの悪者と戦っている。
まさかとは思うが一応エコはそっちを指差しながら聞いてみた。

「……そ、それってあれじゃない?」
「ニャ? ニャーッ!? あれはーっ! 何でだニャー!」

猫猫らが慌てて助っ人に向おうとするが、既にスターファイブロボによる必殺技を繰り出され悪者部隊は全滅してしまっていた。
駆け足の一歩目を踏み出した体制のまま4人はどうしようもなく固まっていた。

「え、えーと。仕方ないよ。スターファイブ強いし……」

エコは、彼らの後ろからスターファイブが歓声に見送られながら帰還したのを確かめて4人に近づいた。

「せっかく今日の食い扶持だったのにニャぁ……」
「腹、減った」

涙を浮かべながらふにゃふにゃと崩れ落た猫猫らは、もう一ミリも動きたくないほどに憔悴しきっていた。

「キミら、ホントに間抜けにもほどがあるナ。もっと早く来れば良いのにサ」
「ニャんだとー! 元はと言えば操猫がたらたらしてたからだろニャー!」
「ケンカするなよー。また腹が空く感じになるぞー」
「腹、減った」

獣猫らの空腹を煽る発言に猫猫も操猫もゴロゴロとお腹が食べ物を催促し始めた。
再びふにゃふにゃになって猫猫達はパタンと横になった。

「ひもじいニャ……オーイ、そこのサイボーグ。何か食わせてくれニャぁ」
「ふぇ、お、オレ、お金持ってない」
「さいぼぐ、持ってくる」
「……お、オレ、帰れないんだ」
「何でだニャ」

エコは、一旦ぶるっと震えて今にも消え入りそうな声で猫猫の質問に答えた。

「……スターファイブに、ボコボコにされるんだ。お、オレが帰ったら」
「悪者なんだから当たり前だニャ」
「お、オレ、正義の味方との戦いってもっとラクだと思ってたのに、スターファイブ、酷くて、ボコボコで……。
オレ、正義はみんなOFFレンみたいだって、OFFレンみたいに適当な感じなんだって思ってたのに……」

エコは徐々に震えながらその場にさっき改造猫らに会う前の様にうずくまった。

「先輩もいないし……オレ一人じゃ何もできないし……帰れないし……どうしよ、オレぇ……」
「なら、オレ様達と一緒に行動するかニャ?」

頭を抱えるエコに猫猫は声をかけた。顔を上げて、エコは改造猫らを見た。
操猫一人不満そうにしていたが空気を読んでいるのか空腹の為かだまっていた。

「4人も5人もあんま変わらないニャ。それに一人でも多けりゃ入る金も増えるニャ?」
「そうそう、結構デカイ感じ? 当分俺らの所に来ればいいじゃん」
「時給700円が一人として……わぉ!結構使える金額が増えるニャ!」
「だろ? だろ? 少しは夕飯がグレードアップするって感じ!?」

ヘラヘラと笑う猫猫と写猫だったが、一人獣猫はエコと同じように震えながらエコに近づいた。

「さいぼぐ……!」

獣猫はガシッ!とエコの手を掴んだ。力いっぱい掴んで痛いくらいだった。
エコは、ただならない獣猫の雰囲気に当惑した。

「俺達、スターファイブ、倒す、協力、する!」
「ふぇ」
「ニャニャニャニャニャ!? ニャにを言い出すニャ突然!」

いきなり獣猫が不可解な言動をしたせいで猫猫だけでなく操猫までお笑い芸人の様にひっくり返った。
しかし、当の獣猫は平然と猫猫らを見て言い放った。

「さいぼぐ、困る、助ける、ダメか」
「ダメに決まってるだろニャー! わざわざボコられに行くって、獣猫どんだけドMなのニャ!」
「さいぼぐ、一人、可哀相。スターファイブ、倒す、さいぼぐ、帰る、できる。ダメか」
「こ、コイツ……腹が減って相当頭にキてるに違いないネ」
「しっかりしろよ獣猫。だいいち助けた所で俺らにメリット無い感じだろ~? お礼金だって持ってないぜ」

貧乏人を見るような顔で写猫が見てくるので、エコは何だか悔しくなった。
皮肉るつもりで「お、オレ、500円貯金3回もしてるんだぞ!」と言ってみたが逆効果に終わった。

「俺、さいぼぐ、助ける、したい」
「な、何だニャ何だニャー。こんなサイボーグばっかり。オレ様の事はどうでも良いのかニャ…」
「絶対、ダメか……」

獣猫の黄色い目がギロッと猫猫らを静かに睨み付けた。
大人しい態度だが、その奥に秘めている迫力にこの中で太刀打ちできるような者は一人もいなかった。
操猫は、勝手にやってくれと言う感じで肝心の催眠術は使わないでおいた。

「仕方ないニャぁ……特別だぞニャ~?」

猫猫が納得すれば他の2人も反論は無かった。もう仕方が無いのだ。

「あ、ありがと、けものねこー」

エコの頭をぽんぽんと抑えながら獣猫はキリッとした微笑みを見せた。
それを尻目に猫猫らは急な獣猫の迫力に違和感を覚えずに入られなかった

「……何で獣猫はアイツを贔屓するんだニャ?」
「アイツ、動物好きだろ。あの猫をペットかなんかみたいに見てる感じなんだぜきっと」

獣猫は、平然とした顔でエコの頭を撫でながら喉元を鳴らさせていた。












翌日の朝はいつも通りのOFFレン本部の朝だった。
ただ一つ違うところを上げるとするならば『一日一善』の張り紙がひっそりと壁に貼られているくらいだろうか。
しかし、あまりここで本部の描写をするのは意味が無い。何故ならば玄関の前では3つのグループが今から外出しようとしているのだから。

まずはグリーンを筆頭とした買出しグループ。そしてブルーを筆頭とした遊ぶためのお出かけグループ
最後にレッドが指揮を執る散歩グループである。

「良いね。良い事を一人一つはするつもりでね。自分が無条件にしたいと思う!って気持ちを忘れない様に!」
「レッド、子供じゃないんすから早く終わってくださいよ~」
「あ、ごめんごめん。じゃぁ、みんな、楽しんできてねー」

レッドの言葉に、隊員らは軽く頷いて次々に本部を出て行った。
最後に残った散歩グループも出発すべく、レッドは後ろにいるガーネットとシェンナの2人を見た。

「……今日はクリームはいないんだねぇ」
「ですー」

若干心配ながらもレッドは大冒険に出かけるかのように嬉しそうなガーネットも引き連れて本部を出た。
地上に出ると早くも二つのグループは後姿さえも見えなくなっていた。とりあえず、歩き出すとシェンナがレッドの手を引っ張った。

「シェンナ、たこ焼き食べたいですー」

シェンナの指差した方向には、あの忌まわしいタコレンジャーが経営しているタコヤキ屋があった。
一瞬とは言え、一応メディアに取り上げられたくせに客の入りは少ないらしい事が外からでもわかる。
この場合は、一旦客が来るもののリピーターがつかない様な味である可能性が高い。

「俺もタコヤキを食するー!」
「ですですー!」
「あーあー、わかったよわかったよー。じゃぁ、腹ごしらえしよっか」

テンションが高くなると止められない隊員のみをまとめるにはこうするしかないのでレッドはタコヤキ屋に向った。
中に入ると小さなテーブルが二つあった。誰かに座られる心配も無いのだが、レッドを置いて二人は我先にと座席を確保した。
とりあえず10個入りを3パック注文してレッドも後から席に着いた。

「シェンナ、テレビで見たですー。タコレッドですー」
「変身しないのか?」

すぐ側でタコを焼いているタコレッドは黙ったまま職人の背中をこちらに見せていた。
その姿はカッコイイものの、漂ってくる匂いが全く空腹を誘うものでない事にレッドは少し不安を覚えた。
そうこうしていると、タコレッドが手際よくタコヤキをパックに入れてこちらに持ってきた。

「ハイ、お待ち。タコレンジャー特製タコヤキ3つね」
「美味しそうですー」
「すぐに食べるのだ」

二人はもぐもぐぱくぱくと美味しそうにタコヤキを食べ始めた。レッドも食べてみたがとびきり美味しいとは思わなかった。
なにせくいだおれ大阪なわけで、ここよりも美味しい店はいくらでもある。それにちょっとしたライバル意識もあった。

「ですー」

しかし、シェンナとガーネットは実に美味しそうにタコヤキを食べていた。一つ食べたらまた一つ口に入れる。
ずっと今まで断食をしていたかのように目の前のタコヤキを幸せ一杯に食べている姿。本当に微笑ましい。
こんなに幸せそうに食べるのならば、自分が食べるよりも二人に食べてもらった方が良いと思った。

「(ハッ……今、僕はシェンナ達にあげたいって思ったね。うん、よし。あげよう)」

レッドは自分が考えた正義の原点がピッタリとハマる瞬間を感じた。
早速、タコヤキを二人の前に差し出して「僕はいいから食べなよ」と言うと二人は軽く礼を言ってタコヤキに楊枝を指した。
相変わらず二人は食欲をそそる食べ方をレッドに見せてくれた。そうか、この姿が良いのだな。とレッドは思った。

「最後の一個は、ゆっくり食べるですー」

遂に最後の一個になったタコヤキをシェンナが取った。ガーネットもレッドと同じ考えを思い出したのか何も言わなかった。
シェンナはタコヤキをマジマジと見つめて大きく口を開けた。と、その時である。肝心の楊枝がポキッと折れてタコヤキは無残にも床に転がった。

「シェンナのですー」

タコヤキしか目に入っていないのかシェンナは床を転がっていくタコヤキを追いかけた。
コロコロと転がるタコヤキは、ホコリや泥が付いてさすがに食べれそうも無い物体に変化して行く。
しかし、シェンナはお構いなしにタコヤキを追いかけた。遂にタコヤキが外へ出ようとした時、

「わっ」
「ですー」

シェンナはちょうど入ってきた客に激突した。後ろに大きく倒れた男性の上にシェンナが覆いかぶさった。
慌てて男性の下を探ってみると無残にもぺしゃんこになったタコヤキが出てきた。

「シェンナのぺちゃんこになったですー」
「イテぇな!気をつけろよ!」

男性は、先ほどまで目深に被っていた帽子が脱げているのにも気付かずシェンナに怒鳴った。
その男性の顔にレッドは見覚えがあった。どこかで見たことがある。どこかで……。

「あっ、キミはっ!」

レッドは完全に思い出した。目の前にいる男性が一体誰なのかを。
果たしてその男性とは誰なのか……!?




その答えは、後編で。