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『BC団野望の序曲』

(挿絵:ホワイト隊員)

青白い光が真っ暗な空間にいる二人の輪郭をぼんやりと浮かび上がらせている。
一人は階段の上部に立ち、じっともう一人の影である、部下を見下ろしている。

「……アジトの改築は進んでいるようだな……」

彼の呟く声の奥には冷血さが感じられた。それは彼が単なる一般人でないと判断するのに十分な要素だった。

「…………」
「どうした……何か不都合でもあるのか……」

目下の部下は、跪いたまま何も言わないため、一歩踏み出す。
青白い光にハッキリと彼の姿が照らし出される。真っ黒い体に映える赤と黄の模様。新生ブラックキャット団の首領であるウィックその人だ。

「……順調に進んでいます。ただ……」

言葉を濁したその部下は、黒と黄色の虎縞をした猫。しかし、彼もウィック同様に額に赤と黄の逆三角形模様が付いている。
ブラックキャット団、改造猫である虎猫に違いない。

「ただ……。何だ?」
「改造猫の手配に手間取っておりまして……」
「……何をしているんだ!」

ウィックに激昂されて、ようやく虎猫は顔をあげ、その邪悪に光る赤い瞳を向けた。
しかし、今の虎猫は今までの虎猫では無かった。ウィックと同じく頬にも赤と黄の模様がある。
そう、彼は以前の成果によりBC団幹部、タイガーアイとして、出世した。模様はその証だ。

「申し訳ありません……良い人材が見つからない物で……」
「本当にちゃんと探しているのか……」
「当然です!」

思わず、タイガーアイは叫んだ。彼はウィックのためなら何でも行う忠実な僕。
ウィックの命令を確実にこなしてきたからこそ、彼は思わずそう叫ばざるを得なかった。

挿絵

「俺はウィック様、そしてブラックキャット団繁栄のために、日夜、改造猫候補を探して参りました」
「…………」
「適当に連れ去り、改造を施せば楽ですが。俺はウィック様をご満足させる者を探したいのです。
そして、我らがブラックキャット団が世界を征服し、ウィック様がその支配者として君臨する。俺はいつもそれを夢見て……」
「……もう良い。タイガーアイ」

諭すようにウィックが言うと、タイガーアイはハッとして押し黙った。

「……お前の熱意は俺も有り難い。しかし……完璧を求めすぎるのが玉に瑕だな」
「申し訳ありません」
「しかし、俺としても、重要な資金を使ってくらだん改造猫を組織に加えたくはない……」

ウィックは、目線を上げて思案する素振りを見せた。

「タイガーアイ……お前はどんな基準で改造猫を作ろうとしているんだ……?」
「はっ、ブラックキャット団の繁栄に貢献する優秀な改造猫です」
「……つまり、具体的には決めていないわけだな」
「そ、それはそうですが。安易に方向性を決めるのは如何なものかと思いまして……」

ウィックは、タイガーアイが言葉を終わらせる前にパチンと指を鳴らした。
すると、奥から初代BC団の戦闘員の生き残りである数名の灰色猫が現れ、ウィックに敬礼をした。

「OFFレンジャーに関する資料を集めて来い。1分以内にだ」

灰色猫は再び敬礼するとその場を走り去った。タイガーアイは、怪訝な顔でウィックを見た。

「ウィック様、何をなさるおつもりですか」
「我がブラックキャット団の邪魔する者は誰だ……」
「それは勿論、あの憎きぐるぐる戦隊OFFレンジャーです」

タイガーアイは、憎憎しそうに怒りの感情を込めて言い放った。ウィックは目を細めて頷く。

「そうだ。まずはOFFレンジャーを倒さない限り……BC団の繁栄は望めない」
「そのために、俺は優秀な改造猫候補を探すべく……」

ウィックは、またも熱くかたりだしそうになったタイガーアイを手で制止させた。

「ただ、優秀……と言っても、物事には向き不向きがある……」
「それは、そうですが……」
「過去の失敗は、ただ悪事に向いている者を手当たり次第に改造猫に仕立て上げた事にある」
「は、はぁ……」

そこまでウィックが言うと、早くも灰色猫達がプロジェクターと山の様な資料を抱え、戻ってきた。
ウィックは目で合図すると、早速真っ黒い壁に、OFFレンジャーの戦闘シーンが映し出された。

「……OFFレンジャー!」

今にも襲い掛かりそうな勢いで、タイガーアイはその映像に向かって近づいた。

「タイガーアイ……我らがすべき事は、OFFレンを確実に倒す能力を持った者を探すことだ。OFFレンは様々な者と密接に関わっている。同業者も居れば、馬鹿げた事に悪の組織も。ヤツらの協力に寄って、我々も敗れたことがある。つまり……」
「……なるほど。そう言うことでしたか」

ウィックの考えに、タイガーアイは敬意を示すように跪く。

「灰色猫が収集していたOFFレンジャーのデータを見ていけば、おのずと判るはずだ。
OFFレンジャーの周囲にいる良い改造猫候補がな」

ウィックは、早速、灰色猫に指示をし、OFFレンの映像を再び映し出させた。
タイガーアイは少しでも、見逃さないよう、鋭い瞳を映像の方へと向けた頃、映像は始まった。



【第91話-生まれ変る虎猫...】より


「いくぞ」

ボスはゆっくりとムチを振り上げた。

「……くっ!」

ボスの振り上げられたムチはレッドもその後ろのグリーンも、
そして非常に残念なことにレッドの横にいたオレンジにすら何故かあたることは無かった。オレンジにすら。

「離せ! 離さんか!」

恐怖で閉じられた眼をゆっくりと開けると、目の前のボスの両手両足をザコオオカミ達がしがみついて制止ししていた。
ボスは、もがきながら怒鳴っていたがそれでもザコオオカミらは辞めようとはしなかった。

「ボス、いい加減にしてください」
「こんな俺達でも、大事にしてくれたからこそボスに突いてきたんじゃないっすか!」
「そんなボス、俺、大嫌いです」
「俺だって!」
「俺もです!」

ザコオオカミらの悲痛な叫びが隊員らをハートウォーミングな雰囲気にさせていたが、
ボスは全く聞こうとはしなかった。

「改造猫! 何をしている! 早く来い! 改造猫!」


地下扉から慌てて飛び出してきた猫猫がオオカミににゃんにゃかビームを食らわせ、猫化させると
わずかに動くムチを無茶苦茶に振り回し、ボスはオオカミを振り払った。

「さっきから聞いていればくだらんことを……貴様ら!」


ボスはオオカミ達にムチを振るい、猫になりきっているオオカミらを痛めつけていた。

「ウィック様の邪魔をする気か! 馬鹿者どもめ!」
「ニャぁ……相変わらず痛そうだニャ」
「お前達はOFFレンを倒していろ!」


ボスからの怒号にビビリまくりながら猫猫は180度向きを変えてオドオドとファイティングポーズを取った。
獣猫と意気消沈している操猫はその横でめんどくさそうに突っ立っていた。

「行くニャァァァ、フギャッ! ギニャァァァァッ!」

駆け出した猫猫の顔面をボスが後ろに振り上げたムチの先が滑っていった。
音速を超えているムチの先端に勝手に滑られた痛みで猫猫は顔面を押さえながら地面にのた打ち回っていた。
獣猫の呆れた顔がその悲痛さをさらに引き立たせていた。

「(ハッ! 今の内に攻撃しなきゃ)」

ドタバタと色々な事が起こりだしている最中、レッドはようやくやるべきことを思いついた。
改造猫はあんなだし、ボスもザコオオカミらに眼が向いている。

「おふれんれっつごぉ……」

小声で隊員達に呼びかけ、レッドを先頭に隊員らは一気に倒れている猫猫を踏みつけながらボスに向っていった。
レッドは勢い良くペンダントを掴んだ。勢いがつきすぎて少々指に先が食い込んでしまった。

「!」

ボスは隊員らが迫ってきているのに気付き振り返った瞬間、
レッドのスターヨーヨーはボスの顔面に命中した。サングラスにヒビが入った。

「うぁぁ!」



「オオカミ軍団、ボスオオカミか……確かに、操猫によって一時は配下にいたが……」
「資料に寄ると、体力、知力、共に優秀なようです。ウィック様、こヤツならば」

ウィックは首を振って、タイガーアイの意気込みを打ち消した。

「俺より年上だからな……」
「は?」
「とにかく、選ぶとすれば俺より下の者だ」

ウィックは、自分より何かが上の人間は大嫌いなのだが、タイガーアイはそれを知らない。
しかし、下手に反論するわけにもいかないので、黙って、次の映像に目をやった。



【第77話-パンダの中には愛がある!】より



「あっ! 聖獣の皆さん!」

ブルーの声に振り向いた4名は間違いなく、青龍、朱雀、白虎、玄武。以前から時々交流のある四聖獣に違いなかった。

「あれ~? OFFレンジャーの方々じゃないですか! こんな所で会うなんて奇遇ですね」

先ほどの神々しい雰囲気の口調が一転し青龍が、にこやかに挨拶をした。ブルーも慌てて挨拶を返す。

「お、お久しぶりっす」
「……本当にどこにでも現れるわね」
「朱雀、聖獣冠の御前だぞ。態度を弁えろ」

朱雀が相変わらずの冷たい口調で喋ると、神々しい顔つきを維持したままの白虎が注意する。

「うっさいわね! 神経衰弱で私が勝ってたのに急に呼び出されたんだから嫌な気分になって当たり前でしょ!」
「そうだよそうだよ! しかも僕の台詞無いし!」
「しゃー」

玄武も相変わらずのんびりとしていて、朱雀と共に白虎に突っかかっていた。

「辞めないか。朱雀、白虎、へびくん」
「あ、やっぱり僕だけ露骨に呼んでくれないんだぁ……」

見かねた青龍が注意してようやく3人は静かになった。
ふて腐れている朱雀、不満げな様子が伝わっている物のキチンとしている白虎、どこか淋しげな玄武。
初めて会う場所には違いない物の、いつも見ている聖獣達と何も変わらなかった。

「えぇと……どうして皆さんが何故ここに?」
「あぁ、何と言うか。話すと長いんすけど……悪者を追っているんすよねぇ……」
「悪者ですか。とんでもない奴なんでしょうね」
「いや、アイツよアイツ」

青龍のボケ発言の様な言葉に思わずホワイトが突っ込んだ。
ホワイトの指差した先にいるのは、王冠を掲げたまま唖然とした顔をしている極悪パンダがいた。
これには青龍も少々驚いているようだった。

「せ、聖獣冠を手にしている彼が悪者なのですか?」
「聖者に見える?」

青龍は、再び極悪パンダの方を向き頭のてっぺんから足の先まで舐め回す様に見た。

「……確かにどこからどうみても悪者面ですね」
「だから、あんな奴の願いなんて聞かないで下さいよ」
「そうですねぇ。確かに、聖獣が悪人に加担するわけには行きませんし……」
「私情を持ち込むな、青龍」

青龍が納得しかかってきていると、すかさず白虎からの厳しい言葉が入った。

「……掟に従うのが聖獣の第一前提のはずだ」
「白虎。だからと言って聖獣が悪者の願いを聞いても良いと言うのか?」
「持ち主が聖獣冠を手にしている限りオレ達が願いを叶える……これに例外は無い。」
「だ、だからと言って……」
「あぁ、もう! 青龍じゃ埒が明かないわ! 」

青龍が困惑していると、見るからにイライラしている朱雀が青龍を押しのけ白虎に突っかかり始めた

「聖獣として最低限、譲れない事って言うのがあるでしょ!」
「……だが、掟は聖獣冠を手にしたものなら願いを叶える資格があるワケだ」
「元々、桃兎は選ばれた者のみの家に伝わる物でしょ! 悪人に渡っちゃいけないからそう言う決まりになってんじゃないの!」
「……掟に悪人は除外すると言う箇所は無い」

プチンと何かがはじける音がしたかと思うと、突然朱雀が、白虎に掴みかかり揺さぶり始めた。

「だぁーかぁーらぁー! アンタは頭が固いって言ってるのよ!」
「せ、聖獣は、掟に、し、従う義務が、あ、ある!」

白虎もなんとか威厳を保とうと冷静な態度を示していた。
その時、ビュッと延びた何かが白虎の首筋にあたったのが見えると、白虎は泡を吹いてその場に崩れ落ちた。
白虎の首に当たったものは、玄武の尻尾についているへびくんだった。

「ホラ、こうすれば。反対はいなくなるよ!」
「しゃー」
「(玄武さんって腹黒なのかなぁ……)」

朱雀はその考えに納得したのか、床に倒れている白虎を一目すると黙って頷いた。

「白虎の頭の固さには困ったもんだ。ありがとうへびくん」
「ねぇ青龍。どうして僕を意図的に避けるの?」
「と言うわけで、聖獣は悪人には協力しない!」
「ワザとなんでしょ? ワザとなんだよね?」

青龍は極悪パンダに指を差し。バシッと言い放つと、極悪パンダは心底悔しそうに唇を噛んでいた。

「もう、終わりだぞ極悪パンダ!」
「こ、こんな事になるとは……クソッ! クソッ!! クソーッ!!!」



「こいつらは何だ……?」
「はっ、資料によると、青龍、朱雀、白虎、玄武と言う聖獣と言う者たちのようです」
「聖獣……気に食わん名前だ。どうせ、大した事も無い奴らだろう……」
「少々、お待ちください……」

タイガーアイは、資料に目を通しながら、何か良い所は無いか探す。

「データは全て不明になっていますが、補足として大陸を消すほどの力があるようです」
「大陸を消す?」
「はい。オーストラリアを一瞬だけ消した事があるようです」
「消して、また戻したと言うのか……?」
「よく判りませんが、ここに書いてあるので」

ウィックは考える事もないまま、首を振った。

「意味の判らない奴らだ……辞めておけ……4人では、改造費もかさむ……」
「……ならば、辞めておきましょう。オイ、次を映せ」

資料を破り捨てると、また新たな映像が映された。



【第14話-聖夜の夜のてるてる坊主】より


「ちょっとぉ~お嬢さんってばぁ」
「は、はいっ!」

突然の事で声が裏返ってしまった。
後ろを振り返ると黒いコートを着た小さな変な奴がふわふわと浮かんでいた
頭には黒いシルクハット、黒くて小さくて丸い眼、見た感じファンシーグッズのキャラみたいだ。

「えぇと……なにしてはるのん?」
「は、はい?」
「せやからなにしてはるのん?」
「……え?」
「あれ?大阪ってこういう言葉を使ってるんじゃなかったんだっけ?間違えたかなぁ」

その変な奴は「楽しい関西弁」という本をペラペラめくりながら頭をかいた。

「あ、あのぉ……どちら様ですか?」
「ん?私ですか?私はMAGIC TELTEL!」
「魔法の電話?」
「違う違う~マジックてるてる~。てるてるって言ったらてるてる坊主に決まってるでしょ~?」

そういうとてるてるはコートをちょっとめくって素肌を見せた
確かに真っ白な布が見えた。うん。ホントにてるてる坊主だ

「君は、今困ってるようだね?ん?」
「え、えぇ、そうですけど……」
「私はね。世界中を回って見た感じかわいそうな人の願いをかなえているんだ。偽善者って奴?」
「は、はぁ……」
「日本にこれるのはちょうどクリスマスの時期なんだけどね」
「じゃ、じゃぁ、あの。私のお願いを聞いてもらえるんですか?」
「はい、見た感じかわいそうだから。3つだけ」
「3つですか?」
「3つ以降は有料なんだ。さ、お願いをどうぞ」
「う~ん……急に言われても……」
「あれ?さっき何か困ってるんじゃなかったんだっけ?」
「あ、そうか……えーと……あの……タイガくんに……そのデートを……」
「タイガくんとデートをしたいんだね?」
「え、いや……ち、ちが……」
「よし来た!まかせてよ」
「あ、ちょっと……」

勝手に解釈されてしまった。い、急いで訂正しないと……
そう思ったとき。てるてるがさきっぽに丸い球のついた小さなステッキを取り出した

「行くよ? ワン、ツー、スリ~♪」

ステッキを大きく振るとどっかのアニメみたいにキラキラしたものがいっぱい飛んできた。



「……何だコイツは」
「は、名前はマジックてるてる。特殊な魔法を使えるようです」
「そういう事を言っているのではない……」

さすがのウィックも、呆れ返っているのか、画面から目を逸らし、玉座に座って頬杖をついていた。

「しかし、この能力は大いに利用できるかと」
「金がいるようだぞ。有料と言っている」
「はい……資料に寄ると一回10万円です」
「……ソイツの話はもう聞きたくない! 次へ行け!」

10万と言う金額に、さすがに金の亡者ウィックも怒りが頂点に達したのか、目頭を押さえて犬を払う仕草をした。
タイガーアイは少々残念に思いながらも資料を破り、次の映像に目をやった。



【第50話-トラトラトラブル全員集合!】より



突然各隊員の前に見知らぬ生物が出現し始めた。
しかもそのミャウミャウ鳴く生き物はポコポコポコと増殖を始め、辺りは虎とミャウミャウ鳴く奴らで溢れかえっていた

「ミャウミャウ!(・_・)ミャウミャウ!」
「こいつは一体……。」
「聞いた事があるわ……。尾布市に伝わる謎の生物ミャウミャウくん……。」
「ミャウミャウ!(・_・)ヨロシクネ」
「聞いた事ないですー。」

ミャウミャウくんと普段触れ合っている我々からすればOFFレンはミャウミャウと出会うのは初めて。
大げさなアクションの割には……な登場なのであまり実力は期待できないと全員が全員思ってしまった。

「ミャウミャウ!(・_・)キミタチゲンキカネ?」
「ガウ……?」
「ミャウミャウ!(・_・)オニゴッコシヨウシヨウ♪」

ミャウミャウ達は突然広間のあちこちを走り回り始めた。虎達も突然の出来事に唖然としている。
しかし、虎たちもこの不可思議な生物に興味を持ったのかミャウミャウを追いかけ始めた。

「ミャウミャウ! ====(・_・)ノ ミギヘダッシュダ!」

ミャウミャウくんの一団が右へ動くと虎たちも右へと移動し、

「ミャウミャウ! ヘ(・_・)=== ヒダリヘモイッテミルヨ!」


ミャウミャウくんの一団が左へ動くと虎たちも左へと移動していった。
まるで毛糸球を追いかける猫のように、虎達は我を忘れてミャウミャウくんを追いかけていた。



「名前はミャウミャウ。それ以外の事は何も判っていません」
「…………」

ウィックは何も言わず、もはや画面を見る事すらしなくなっていた。

「……灰色猫を一人、連れて来い」
「は、はぁ」

タイガーアイは言われるままに、映像を映している改造猫を一匹連れて来た。
すると、ウィックはそれを見ないまま、呟いた。

「始末しろ」
「え?」
「……不良品は必要ない」
「しかし……」
「早くしろと言っているんだ……」
「……了解しました」

タイガーアイは、ウィックからの命令なので、すぐさま両腕を交差し、"虎獣"へと変身した。
牙が生え、手足も獣のようになり、目も鋭い。これがタイガーアイの能力である。
それに、パワーアップしないと機械仕掛けの灰色猫は壊せないのだ。

「タイガー……スラッシュ!」

交差した長い爪を一気に左右に振り下ろすと、その衝撃波が灰色猫の体を真っ二つにする。
火花がパチパチと鳴り、ジタバタしていた灰色猫の動きが止まったのだが、ウィックは「まだだ」と呟く。

タイガーアイは、仕方なく、真っ二つになり、機械が見える灰色猫の体へその長く鋭い爪をつき立てた。
抜いてはつき立て、また抜いてはつき立て……。最初は命令だからだった彼も徐々に快感になり、ニヤリと悪魔の笑みを浮かべる。
変身して、体が獣に近くなったことで、心も徐々に獣の如き残酷になるのがこの変身能力の特徴でもある。

挿絵

「もう良い……ご苦労だったな。タイガーアイ」

最終的にはただの鉄くずになった頃ウィックが言うと、タイガーアイはふと我に返り、首領に向かって頭を下げた。

「は、ありがとうございます」

変身を解くと、タイガーアイは鉄くずを他の灰色猫に片付けさせ、新たに投影する者を指名した。
十分良い見せしめになったようで、灰色猫は動揺しながら、新たな映像を映し始めた。



【第83話-海から来た新隊員】より



「えーと、こんにちは……」
「こんにちは!」

イキイキとした日本語がレッドの耳に届いてきた。科学もここまで来たのかと思うと改めて驚かされる。

「ここは日本ですか? 俺はガーネットと言う名前です」
「あぁ、これはご丁寧にどうも。 ここは日本ですよ」
「日本はとても楽しいと感じる!」

どうやらソフトも万能ではないようでガーネットと名乗る少年の言葉は翻訳風の言葉だった。
だが、意味は十分に通じるので全然大丈夫だ。全然大丈夫じゃない事ないぞ。

「レッド、一応、怪しいですからちゃんと相手の素性を聞いておいた方が良いですよ」
「そ、そうだね。」

グリーンから囁かれてレッドも納得した。純粋そうな目をした少年の皮を被った悪党かもしれない。
必要以上にフレンドリーなのもなんだか怪しい。レッドはジリジリと少年との間をつめて少年に付いて聞き始めた。

「どこからやって来ましたか?」
「俺は台湾から来ました!」
「何をしにやってきたのですか?」
「俺は日本の漫画やアニメがとても気に入るので勉強をする事をしたい!」

質問するたびにどんどんガーネット少年の言葉には熱がこもり始めていた。
これは、意外と良い人かもしれないとレッドは早くもガーネット少年に親近感を抱きつつあった。



「新たにOFFレンに加わったガーネットと言う者です。しかし、遊びのつもりなのか、アルバイトをしながら時折、顔を出す程度です。今の所大した戦力にはなっていません」
「ふむ……」
「ただ、国が違うため、意思の疎通を図るには語学を学ばせる必要があります」
「洗脳カプセルに組み込めばどうだ」
「……台湾語と日本語は文法がまるきり違うため、プログラム開発にかなり費用が掛かるかと。資料にもそう書いています」

少し、乗り気になっていたらしいウィックも費用の話をされると一気に興味をなくしたらしく、黙ってしまった。

「まぁ、良い。OFFレン内からは改造猫を出すつもりも無いからな……」
「次ですね。オイ、次だ」



【第70話-ビーストズ・フォー・セール】より



『それでは、野獣たちの宴が今始まる!ビーストズで『絶望と破滅の序曲』 Here We GO!』

ステージのライトがパッと会場を照らす。その中央に立っている一人の俯いた男。
ドラムのバチがカツカツと始まりの合図を始めた。そして最初のジャン!と言うイントロと共にレッドは顔を上げた

「白い月が闇を照らすぜ ~♪ お前の紅い瞳の奥の闇さぁぁ♪」

レッドは爽快げな顔で、悪く言えば自分に酔っている様な顔で歌っていた。
多分、昨日の晩メンバーに褒めちぎられたのだろう。

「え、あれレッドですか?」
「タイガくんじゃ……?」
「いや、あれはレッドだよ。メイクしてるんだ」

レッドの登場に場内のお客たちが少々ザワザワしていた。歌詞はともかくそこそこ評判は良いみたいだ。

『ぜぇっつぼぉっとほっきょくぅ~のじょけぇぁくがぁ~♪」
「なんかだんだん歌い方がアーティストのソレになってきたような……」
「レッドは今、きっとBzとかダルクとかになってるんです。なってるんですよ!」
『いむぅぁ くぁなでるぅへぁ~んきょくぅのシィンフォヌィィィィ!!!♪』

するとレッドはブンブン頭を振りながらマイクスタンドを蹴飛ばし始めた。
そこまで過激なバンドじゃないんだろうがどうやらスイッチが入ってきたらしい。

『AHHHHH!!! 切り裂かれたこのぉうくらぁ!!滴る血がご馳走だぜっっっ!! ComeOn!』

「あーあ。カモンとか言っちゃったよ。絶対あれアドリブだー」
「うん、なんか解るよね」
「レッド……」

調子に乗ると止まらないレッドのスタンドプレーはこれからさらに増えていくが、
本人の事も考えここでは割愛させていただく。だが、意外と客層には受けがよかったみたいだ。
妙な恥ずかしさの中、気がつけば会場にはエレキのビィィンと言う音だけが響いていた。

「……ありがとう。野獣の宴はこれで終わりだ。次の宴までにせいぜい生きておくんだな!」

よく解らないセリフを喋るとメンバーたちはステージ袖へとはけていった。
恥ずかしそうな者や呆れて何もいえなくなった隊員たちは黙って会場を出て控え室へと向った。



「えー、ビーストズと言うロックバンドのようです。OFFレッドも参加しています」
「……そうか」
「となれば、他の3名をまず洗脳、改造し、そしてレッドも引き込めば、OFFレンは崩壊します」
「……そうか」

ウィックは、耳を押さえながら「そうかそうか」と呟いていた。
どうやら、彼にとってあの音響効果は相当うるさかったらしい。
無理もない。こんな薄暗く静かなアジトの中で長期間生活していれば、耳だってビックリする。

「ウィック様、どういたしましょう」

小声でタイガーアイは尋ねたが、ウィックは小さく首を振った。
あんな歌を歌われてはかなわないという事なのだろう。タイガーアイは今度こそと思っていたのだが、
首領がそう言うのならばしかたがない。

「では、次に行きましょうか」



【第95話-ぐるぐる戦隊VS流星戦隊】より


『レッドプラネットスター!』
『ブループラネットスター!』
『イエロープラネットスター!』
『ピンクプラネットスター!』
『グリーンプラネットスター!』

どこからともなく5人の掛け声が街中に響き渡った。
不思議によく通ったその声は隊員だけで無く、オオカミ軍団、さらには周囲のギャラリーの注意を一気に集めた。

「この世にはびこる悪を倒すために、世界を照らす正義の星々!」

視界が一瞬光った。眩しさに目を細める前にその一瞬の閃光の中から5色の猫型スーツを身に纏ったシルエットが見えた。
まるで、TVの中の戦隊ヒーローの様だった。

「レッドスター!」

真っ赤なスーツで身を包んだその男は自分の名前であろう言葉を叫んだ。
言葉の端々を強く発音しているせいか名乗りがビシッと決まっており、隊長らしい貫禄が窺える。

「ブルースター!」

一際渋いその声で叫んだ彼は青いスーツとも相まって、クールそうな印象を隊員らに与えた。
5人の中でも高身長であり、しまるところはちゃんとしまったスタイルはきっと素顔も美青年だと簡単に推測できる。

「イエロースター!」

野太い声で叫んだ彼だったが最後のターの部分が裏声になってしまっていた。きっと3枚目キャラだ。
さらに5人の中で最もふくよかなその体型と黄色いスーツのカラーは、彼が力持ちでカレー好きなのだと解るのに時間は掛からない。

「ピンクスター!」

彼女の高く澄んだその声はまるで小鳥のさえずりのように人々を魅了した。
体付きもくびれている所はちゃんとくびれているし、出ている所もちゃんと出ている。
お父さんにも大きなお友達にも大サービスな紅一点タイプである。

「グリーンスター!」

アニメのような100%少年声の緑の彼は背も低めで一際大げさにポーズを取っていた。
一番5人の中で最年少であり、すばしっこい行動派っぽい事が動きからにじみ出ている。

「流星戦隊!」

赤色の声でポーズを取っていた他の4人は一斉にバク転をして赤の背後一列に並ぶように移動する。

「スターファイブ!」

彼らの名乗りが終わった直後、背後でOFFレンとは比べ物にならないほどの物凄い爆発が起こった。
周囲が5色の混ざった煙で多い尽くされた。何が起こったのか解らないままオオカミらは右往左往している。

「スターダストボンバー用意!」
「OK! スターダストボンバー用意!」

煙の中から彼らのハキハキとした声が聞こえる。
オオカミらだけでなく隊員らも何が起こっているのか周囲一メートル先の事すら見えない。
ただ何かを結合しているかのような金属音が聞こえているだけだ。

「スターダストボンバー用意完了!」
「OK、スターダストボンバー発射準備!」
「了解、スターダストボンバー発射用意!」

スターファイブらの方から何か電気の様なバチバチとした音が聞こえだした。
それと同時に一番視界を遮っていた青の煙が徐々に薄れ始めてきた。5人の前に大砲の様な物が設置されている。

「必殺! スターダストボンバー!」

そうレッドスターが叫んだ瞬間、大砲の中から白色の光線が飛び出した。
茶やグレーの塊であるオオカミ達がその眩い光線が自分達の所に向っているのだと理解したのは既に自分達が光に包まれ始めていた時だった。
途端に爆発が起こり、オオカミ達は一人残らず空の彼方へと吹っ飛んだ。

「おーぼーえーてーろー!」

南南西の方向でオオカミらが星になったのを確認するとスターファイブはキビキビとした動作で大砲を片付けた。
そして規則正しい動きで回れ右をすると、市井の人々が無意識に空けた彼らの為の道を歩いていった。

「ほぇ~……」

隊員達はあまりにも壮大な映画を早回しで見た後の様な気分で、
自分達の前を通り過ぎて去っていくスターファイブの後姿を見ていた。



「流星戦隊スターファイブ。正体は単なる役者志望の若者で企業のバックアップがあったようです。しかし、OFFレンと台頭に渡り合っている所から、なかなか良いのではないかと」
「……5人か」
「しかし、今まで一匹が10名以上と戦っていたことを考えると、むしろ少ないほうかと」
「……5人か」

ウィックはやはり一編に改造猫を5人も増やすことには抵抗があるらしかった。
確かに、今までの改造猫は4名、4名、1名、3名と、5人を越えることはまず無かった。

「では、一応、保留としておきまして、次に行きましょう」



【第99話-影を追う先には】より


虎猫は、怒鳴りつけるように言うとソファの方にグリーンを放り投げ、すたすたとホランに歩み寄っていった。
ホランは、持っていたペンを卓上にそっと置くと、机の前へと回って行った。

「オレの大事な人を手荒に扱うのは辞めてもらおうか。虎猫さんとやら」
「フン、オレの言う事を素直に聞くならば、大人しく帰らせてもらうぜ」
「……とりあえず用件を聞こう」

ホランと虎猫の睨み合う社長室は、まるで、一匹の獲物を狙う二匹の虎の如く緊迫した空間だった。
普段はぼやーんとしているエコでも、その息をするにも緊張する光景を前に、指一本動かすこともままならなかった。

「お前の影の中の"ある物"が欲しい。それを戴ければすぐに帰る」
「影……?」
「ダメですよ。ホラン! 渡したら私が許しませんからねっ!」

例え、総理大臣だろうが大統領だろうがホランの前ではグリーン以外の言葉は無力。
ホランは、黄色い瞳を細めて答えた。

「断る」
「フン、だったら力ずくで奪うだけだ」

虎猫が腕を交差させると閃光と共に、虎猫の手足が野獣化し、鋭い目や爪を持つ虎獣に変身した。
ホランはその、迫力に少し身じろいだが、グリーンがいる事も手伝ってか、野生の血が騒いだのか持ち直した。

「ガァァァァァッ!!」

虎獣の爪はカーペットをまるで粘土の様に深く抉った。ホランは机の上に飛び上がり虎獣めがけて飛び掛った。
負けじと虎獣もそれを避け、地面に落ちた瞬間のホランに両手の爪を一気に突き刺す。

「先輩、あぶないっ!」

エコがかろうじて出した声に救われ、ホランは右へと転がり事なきを得る。
だが、第二、第三攻撃も続き、ホランは部屋の隅に追いやられる。もう動けない所へ虎獣の爪が。

「っ……!」

ホランの爪が虎獣の鋭い爪をなんとか受け止めるが、相手の爪は、喉元ギリギリまで迫っている。
なんとか、跳ね返しホランは虎獣の足元を狙う。だが、足にも生えた鋭い爪がホランの目の前をかすめる。
ホランも虎獣も一旦、後ろへ下がり、再び睨み合う。思わずグリーンも手に汗握ってしまっていた。

「……なかなかやるな。ホラン。どうせなら、今いるヤツよりもお前を改造猫にすりゃよかったぜ」
「フン。それは褒め言葉なのか?」
「あぁ、最高の褒め言葉だぜ。偉大なるブラックキャット団の一員として選ばれるんだからな」

虎獣の目がギラッと光ると、ホランは身構えた。いつ戦闘が始まってもおかしくない。



「実は、俺が一番、改造猫に相応しいと考えているのがヤツです」
「ふむ……確かに、能力に申し分はなさそうだ。それに……金もたっぷり持っている」

ウィックも、ここに来てやっと満足したのか、久々に不敵な笑みを浮かべる。
と、タイガーアイは、灰色猫から小さな機械を受け取り、そこから光をウィックの傍に照射した。

「これは、改造後の想像と思ってもらえば良いでしょう」

すると、ホラン……と言ってもブラックキャット団改造猫となったホランの姿がホログラムで映し出された。
白虎と言えば、白虎だが、額の紋章もついており、ちょっとしたアーマー等、少々、悪者らしいオプションも着いている。
ウィックも、その面構えをみただけで何かを感じ取ったのか、ほぉと関心したように声を漏らした。

挿絵

「どうでしょう。コイツを改造猫にしてみては。きっと良い働きをするかと」
「そうだな……。お前がそれほど推すならば、決定だ。コイツを連れて来い」
「では、まず今の居場所をアイツらに……」

タイガーアイは、目で灰色猫に合図をすると、早速灰色猫は、数名揃ってその場から出て行った。
後で居場所を突き止めて、タイガーアイがじきじきに誘拐しに行くのである。

「どうしましょう。戻ってくるまで、他の候補でも探しておきますか」
「そうだな……」



【第56話-悪魔の機械猫現る】より


「……な、なんだこりゃー!!!!!!」

オオカミ軍団の研究室から突然聞こえた大きな叫び声。
オオカミの物でもなければ当然タイガの物でもなかった。

「お。目を覚ましたか。よかったよかった無事成功したようだな」
「わぁっ!狼だ!!」

研究員が中に入ると大声の張本人は驚いて自分が寝ていた台から飛び降りて部屋の隅へと逃げた。

「……安心しろ。別にお前を取って食うわけじゃない」
「こ、ここは何処?オレはどうなったの?」
「ここは、悪の組織オオカミ軍団アジトの研究室。お前は瀕死の状態だったから俺達が改造した。。」
「か、改造!?」
「あぁ、サイボーグって奴だな。名前は……ん~メカキャットでいいな」
「な、なんだよそれ!オレにはエコってちゃんとした名前があるんだぞ!」

大声の張本人であるその少年は叫んだ。
研究員はサングラスを上げてほぉとあまり驚いてない風にしていた。

「……では、エコ。本日から君は我らオオカミ軍団の一員ということでヨロシク」
「よ、よろしくって……オレは!」
「お、コイツがメカキャットか?」
「ぎゃ!またオオカミが!!」

突然入ってきたボスオオカミに驚いてエコは壁に背中をピッタリ貼り付けていた。

「……名前はエコって言うらしいです」
「ほぉ。環境に優しそうな名前だな」
「……ちょっと!オレの置かれてる状況を説明してよ!!」

エコは再び大声で叫んだが語尾が震えていた。
研究員はため息をつくと恐怖心をあおらない様に優しい口調で説明を始めた

「君は、谷から下へ落ちたんだ。覚えてるね?」
「う、うん……族の長選びの第2トーナメントに参加してた……」
「落ちたときの衝撃により、君は瀕死の状態だったのを我々が見つけたんだ」
「そ、そういえば……痛かったような……」

壁にピタリと張り付いていた背中は徐々に丸くなっていた。

「そこで、君を助ける為に我々は君をサイボーグにした。OK?」
「な、なんでそれでオレがオオカミ軍団ってのに入んなきゃなんないわけ?」
「我々が改造してやったらに決まってるだろ?」
「……頼んでないのにぃ……」



「無いな……」
「無いですね」

ウィックもタイガーアイも、すぐさま意見が一致した。
まさか、こんな所ですぐさま馬鹿にされているとは当人も予想していないだろう。

「……かつてオオカミ軍団がBC団の傘下になった時、コイツはろくな働きもせず、
しかも、大事な装置を盗み出し……俺の前で偉大なるBC団を馬鹿にし……奴はBC団には不要な奴です」

タイガーアイが熱を入れて喋っていたが、聞かなくても初めからウィックはエコを入れる気は無かった。
いかにも弱そうで、性格も弱弱しそうで……。ウィックもあまり好きではないタイプだ。

「どうやら、もうロクな奴はいないようだな……、今まで見てきて良い人材は一人だけだ……」
「では、ここらでもう終わりましょうか……」

そこへ、灰色猫が駆け足で入ってきて、タイガーアイに何やら耳打ちを始めた。

「なに!?」
「……どうした。タイガーアイ」

タイガーアイの表情が一気に曇り、唇をかんだ。だが、事実は事実なので、渋々ウィックの前に跪く。

「……例の者は、どうやら今、国外にいるようです」
「何だと……?」
「いつ帰国するかは不明です。待っている間活動を休止していればアジトの整備費が無駄に掛かります」

ウィックは黙っていた。買って貰える予定の玩具を買う寸前で諦めろと言われた子供の様に、明らかな不機嫌顔をしていた。

「ウィック様、大変申し上げにくいのですが……奴は……諦めましょう」
「…………」

ウィックは一言も発さなくなった。完全にタイガーアイを侮蔑している事は明らかだった。
彼にとって、偉大なるウィックから嫌われる事は、死と同じほど屈辱的な事だった。何か代案を出さなければ……。

「い、今すぐに、他の候補を探してまいります!」
「…………」

やはりウィックは何も言わなかった。タイガーアイの頬を冷や汗が滑る。

「少々、お待ちください。すぐに、すぐにっ!」

タイガーアイが走り出した時、プロジェクターに足を引っ掛けた衝撃で、突然映像が映し出された。



【第60話-あなたの心にネコビーム】より


「さぁー。オレ様に始末してほしいヤツは誰ニャー?」
「お前はこのタイガ様が倒してやるぜ!!お前だけは!!お前だけはぁぁぁ!!!」
「にゃ、にゃ?なんかよくわかんにゃいが…受けてたつニャ」

タイガが猫猫に走っていった瞬間、猫猫は額のに手で○を作った。

「にゃんにゃかビーーーーーム!!」
「ギャァァ!!」

猫猫の額の模様から放たれた黄色い光線がタイガを直撃した。
するとタイガは再びゴロゴロと地面で猫のような仕草をとる。

「ニャッハッハ!!オレ様は猫ビームでどんなヤツでも猫にすることが出来るのニャ!」
「にゃ~ん……ゴロゴロ…」
「さ・ら・に」

猫猫はどこからかねこじゃらしを取り出しタイガの前で降り始めた。

「にゃ…にゃーーー!!」

するとタイガは我慢できず飛びかかろうとする。まさに猫そのもの。

「オレ様は元ペットショップ店員!猫の扱いはお手の物なのニャ~♪」



映し出されたのは、二代目改造猫4人衆の猫猫の最初の戦いの場面。

「申し訳ありませんっ!」

タイガーアイは早く、失態をこれ以上重ねないために慌てて、映像を消そうとする。
すると、ふと、彼の胸にある考えが浮かんだ。そうこうしているうちに、映像は次に進む。



【第94話-赤くなったよ赤隊長】より


レッドは、尾布市の駅前に立っていた。
全てを破壊してやる。レッドの心の中にはもはや正義の心は無かった。
持っていた武器で隣の電信柱を真っ二つにしてやった。

「そうだ、レッド。どんどんやれ。お前に逆らうヤツは容赦なく倒せば良い」

青い猫の囁きがレッドの耳をこだまする。レッドはぼんやりとしたままヨーヨーを握った。

「そこまでです!……怪しい怪しいと思っていましたがそう言う事だったんですね」

その時、駅通りを走りながらやってきたのはOFFレンジャーだった。

しかし、その声はレッドには届かない。

「レッドをそそのかして悪人に仕立て上げるとは、言語道断横断幕ですよ」
「ハッ、何を言うんだ? コイツは自分の意思でこうなったんだぜ?」
「怪しい猫。それに、悪人、これはもうあなたがどこの馬の骨かすぐに解りますよ!」

グリーンが指を指すと青い猫はニヤリと笑って頭のベルトをひょいと上げて見せた。
赤と黄色の逆三角模様がチラリと見えた。

「いかにも、俺はブラックキャット団改造猫、変猫だ」
「かわりねこ……またBC団は悪事を性懲りもなく企んでいるんですねっ!」



タイガーアイは、次々を映し出される映像を見た。そして、自分の考えに確信を持った。
これなら、これならきっと。資金も掛からず、そして……。

「ウィック様! 良い考えがあります」
「……何だ?」

タイガーアイは、自分の計画を事細かにウィックに聞かせた。そして、それはウィックも納得の行く物だったようで、

「……良いだろう……後は貴様に任せる」

と、許可を出してもらうことに成功、タイガーアイははウィックの心象を良くする事に成功した。
我ながら良い考えだとタイガーアイは思った。これで……後は……。















「猫猫! いつの間にそんな良い物隠し持ってたんだって感じ!」
「うるさいニャー!! これはオレ様の物なんだニャー!」
「猫猫、よこす……」
「あーもー、ヤダヤダ。貧乏はイヤだネ」

空き地の隅でゴミの中から見つけた食べかけのポテトチップスを奪い合う二代目改造猫4人衆。
猫猫、写猫、獣猫、操猫。かつてブラックキャット団の一員として働いていた面影は、額のマークだけ。

「操猫、早く、コイツを操れって感じ!」
「えー。最近の俺、ちょっとドライアイだからサ。あんま目をガッと開けたくないんだよネ」
「開けない。なら、俺、開ける」
「わかったよ。やるよやるよ」
「やめろニャー! オレ様が見つけたんだニャー!」

そんな4人にふと気が付いたのは、そこを通りがかる3人のタヌキ。いや、猫だ。

「オイ……あれ見ろよ。ホームレスが食い物奪い合ってるぜ」
「不景気だから仕方ないのさ」
「無様だな……」

ロックバンドのような風貌をして、目の周りにはタヌキのような模様があるが、
彼らは実はBC団3代目の改造猫3人衆の変猫、化猫、影猫だった。

挿絵

先輩4人らがホームレス同然の生活をしているのに比べ、この3人はレッドの計らいで、
ビーストズが住み込みしているライブハウスでアルバイトをしながら泊り込み、「ラクーンドッグス」と言うバンドを結成。
そこで活動をしてCDや関連グッズを売って細々とした物だがちゃんと収入を得ている。

「ボクらも、OFFレンに助けられてなきゃ今頃あんな風になってたかもしれないのさ」
「まぁ、ちょっと癪だけどな」
「タヌキって言うのもな」

3人の中で一番派手な格好をしている化猫がキッ!と影猫を睨む。
もともと、このタヌキメイクも、彼が嫌っているタヌキ模様をごまかす為に他の二人もつき合わされているに過ぎない。

「まぁ、それが可愛いって言ってくれてる女の子のファンもいるんだし。あんま気にすんなよ」

ツンツンヘアーで、今やバンド内で一番人気の変猫がニコッと微笑むが、二人は黙っていた。

「もういいのさ、いいのさ。ボクは、キャーキャー言われて満足だからね」
「早く帰ろう。早くこのメイクとかアクセサリー外したいんだ……」

ブツブツ話し込んでいる3人に気付いたのは、猫猫ら4人も同じだった。

「オイ、なんか見てるぜ。アイツら」
「ほっとけ、あんなガキに俺らの苦しみが判ってたまるか」
「猫猫、よこす」
「ヤダニャー!もう、食べちゃうもんニャ!」
「オイ、喰い始めたぞ。止めろ止めろ!」

化猫たちはいそいそと帰り始め、猫猫たちもポテトチップスのカケラを巡って大乱闘。
二組の生活は違っても、その時に思っていたことは、同じだった。

「(はーあ。BC団の頃は良かったなー……)」














タイガーアイの計画が決定し、プロジェクターは止められようとしていた。
既に、タイガーアイは計画の準備を始めようとして席をはずしている。
ウィックも部屋に戻ろうとしていた頃、まだ映像が残っていたのか、壁に映し出された。



【第90話-解散!?オオカミ軍団】より


「あ、あのぉ……」

人影が振り返りエコを見た。ちょうど顔が光に照らされてハッキリと見えた。ウィックだった。

「何だ。お前か……まぁ、良い。入れ」
「ハ、ハイ。失礼しまーす」

エコはゆっくりウィックに寄って行った。初めてウィックと二人きりでいささかエコは緊張していた。
下手に話せばタイガより怖そうだなんて考えたが、そう考えると余計に言葉が出てこなかった。

「……せっかくだから、お前にも紹介してやろう」
「?」

ウィックは正面にをアゴで示した。薄暗くてハッキリ見えなかったが何かの機械である事だけは解った。

「俺は特に興味は無かったが……見れば見るほど、欲しくなった」

上の方に赤と黄色の光が点滅していた。だが小さくて全く何がなんだか解らない。

「フ……だからこそこんな回りくどい事をしてでも手に入れようと思ったのだ」

しばらく、ぼんやりと見つめていると機械の中央部が開いたのが見えた。中に人影が見えた。

「……?」

人影は徐々にコチラに近づいてきた。エコは目を凝らしてみたが薄暗くて良く見えない。
徐々に光のあるこちらに来るとその輪郭がハッキリとしてきた。

そして、徐々に光がその人影の姿を露わにしていった。ウィックは不敵な笑みを浮かべたままそれを見ていた

「歓迎するぞ……」

それはウィックを見ると、ゆっくりと足元にひざまずいた。エコは、その姿を見てハッと気がついた。

「……ブラックキャット団改造猫、虎猫」

ゆっくりと顔を上げたその額にはBC団の紋章が付いていた。
エコは、息を呑んだ。ウィックは、満足げに足元の部下を見つめていた。

「……ウィック様に永遠の忠誠を誓います」

エコは、ただ呆然としてその姿を見ていた。

「た、タイガ……先輩……」



ウィックは目を細めて、その映像を見た。
前々から目をつけていた物の、まさかここまで良い働きをしてくれるとは、考えてはいなかった。
それもこれも、邪魔な記憶を消去して、都合の良い様に記憶を操作すると言う判断をしたお陰。
現に、彼は身も心もブラックキャット団の一員と生まれ変わり、幹部にまで上り詰めた。
今まで配下についたどの部下よりも素晴らしく働いてくれる。ウィックの意のままに……。

ウィックは、階段を降り、部屋に向かう前に、いつものアレをするべく、タイガーアイの部屋に向かった。
タイガーアイは、計画を遂行するための第一歩、手紙を書いている所だった。

「……タイガーアイ」

声を描けると、タイガーアイは振り返るなりすぐさま立ち上がった。

「ウィック様、ご安心ください。計画は順調に……」
「……座って良いぞ」
「はぁ……」

タイガーアイが座るなり、ウィックは彼の肩にそっと手を置いた。
ひんやりとした冷たい感触だ。

「タイガーアイ……お前は、何故BC団に入ったか覚えているな?」
「……は、それは俺が捨てられているのをウィック様が見つけ、育ててくれたからです。
命の恩人のウィック様のために、鍛錬を行い、それが認められ、俺は念願の改造猫となりました」

ウィックはフと笑って、小さく頷いた。

「お前は、自分を捨てた人間どもが憎い。そうだな」
「勿論です……そのために……ブラックキャット団……がこの世界を支配し……」

徐々にタイガーアイの目が虚ろになり、喋り方もたどたどしくなってきた事に本人は気付いていなかった。

「お前は、俺のためなら何でも行う……命も惜しくない……そうだったな?」
「はい……俺は……ウィック様のために……全てを……捧げて……」

ウィックは、万が一の時を考えて、毎日毎日タイガーアイに重層的に洗脳をし続けていた。
以前、危うく記憶が戻りそうになってから、ウィックは人材流失を恐れ、こうして彼が気付かないまま何度も何度も……。

「お前は、ブラックキャット団、幹部、タイガーアイ……それ以外の何者でもない」
「俺は……タイガーアイ……」
「俺の言う事だけが真実だ……他のヤツの話は全て嘘……判ったな」
「ウィック様の……言う事だけが……真実……他は……嘘……」
「……タイガーアイ……お前は、もうブラックキャット団の物だ」
「俺は……ブラックキャット団の……物……」

ウィックが手を離すと、ハッとタイガーアイは我に返った。
いつの間にか手にしていたペンも床に落ちてしまっている。

「……後は任せたぞ」

ウィックはすぐさま部屋を出て行こうとすると、タイガーアイはその背中に向かって跪いた。

「お任せください。タイガーアイは、ウィック様の為ならばどんな事でも成し遂げて見せます」
「…………」

ウィックは、不敵な笑みを浮かべ、タイガーアイの部屋の戸を閉めた。
それは、これからの計画を期待する物か、それとも、タイガーアイを手の上で転がせている事の安心感か……。
それはウィック本人しか知るよしはない。

果たして、タイガーアイの考えた恐るべき計画とは一体何なのか。OFFレンジャーはどうなるのか。
その真実は全てSP話「悪者座談会」にて判明する! 期待して待て!