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『悪者座談会』
(挿絵:ブルー隊員)
「……まだかニャ……」
大量のコーラのペットボトルを見つめながら、ブラックキャット団の改造猫、猫猫は、
広いテーブルの上に上半身を投げ出して、タイクツな時間をどうしたものかと考えていた。
「待たせたな!」
「今、帰ったヨ」
ちょうど、その時祈祷師の様な格好をした写猫、獣猫、操猫がやって来てくれた。
「遅いニャー! どんだけ待たすのかと思ったニャ」
「準備が超忙しかったって感じなんだよ。文句いうな」
「猫猫、待つだけ、楽だ」
「判ったニャ判ったニャ。とっとと、呼び出すニャ」
改造猫達と会議室に戻ると、3人は、ロウソクを4本並べて、怪しげな呪文を唱えた。
念仏のようでありながら、ラップのようにも聞こえる。
呪文を唱えるのを、3人に任せておいて、猫猫はそわそわと外の方を覗いて、残りのメンバーが来ているか確認した。
少し前に廃ビルになった場所だとは言え、綺麗な廊下は静かで不気味だった。
猫猫は、顔を引っ込めて並べられた11の座席の前に1本ずつコーラのペットボトルと、名前のプレートをおき始めた。
一体、本筋の目的の第一段階を始める前からどれだけ時間がかかるのか、猫猫は溜息をついた。
ふと外に目をやると、自分の心中とは真逆にもほどがある青々とした空が広がっていた。
BC団を追い出されて以来、すっかり日陰者になってしまった自分を、今日から変えよう。猫猫はそう心に硬く決心した。
「出たっ!」
と、決心した所で3人の方から声が上がった。振り向きざまに突風が吹いて、思わず目を閉じてしまったが、
目を開けて見ると、うっすらと、初代改造猫メンバー、雷猫、炎猫、光猫の姿が浮かび上がっていた。
「あ、待ってましたニャ。偉大な先輩方、よくぞいらっしゃいましたニャー」
ぺこぺこと頭を下げて歓迎すると、3人は同時に首をかしげて猫猫達を見ていた。
「何だと思う。炎猫」
「俺様達が、先輩って事は、後輩なんだろうな雷猫」
「つまり、私達は、未知なる力を持って現世に降り立ったと言う事なんですね」
「そう、そう言う事ですニャ。ささ、どうぞどうぞ」
猫猫は、3人をそれぞれの座席に案内させた。3人の中央が光猫だったが、炎猫がひょいとネームプレートを取り上げ、雷猫の隣に置いた。
「あれ、写猫、もう一人が来てないニャ?」
「そういえば、闇猫がいませんね」
「オレら3人ではよく会うが、アイツとは全然会わないな」
「……よぉ」
噂をすれば影と言う言葉どおり、話をしていれば当人が来るようで、ドアを開けるなり闇猫が顔を出した。
「呼んだみたいだな。この俺を」
「貴方が闇猫先輩でしたかニャ。良く来ましたニャ!」
「フ、貴様らが後輩か。ま、今日はよろしく頼むぜ」
久々に会う闇猫は、実に落ち着いていて、悪者の貫禄がバッチリと備わっていた。
席へと向う闇猫の背中にコウモリの翼が生えているのをめざとく見つけたのは炎猫だった。
「あ、闇猫。まさか遂に悪魔になれたのか」
指摘されると闇猫は満更でもないような顔をして、フッと鼻で笑った。
闇猫は、過去に何度も悪魔への転生試験とやらを受けていたのを初代の仲間はすっかり忘れていたのだった。
「その通り。過去に何度も邪魔されたが、遂に俺は悪魔になり、人間どもを不幸のどん底に陥れている」
「何、コイツ。漫画の影響受けすぎだし。超ダセー」
何となく、自分と似た物を感じているのか露骨に不快感を表している操猫が、闇猫の優越感に水を差した。
闇猫はチラと操猫を見ただけで、同じく嫌いなタイプだと判断したのか、それきり目をあわすことないまま、席に着いた。
「ささ、とにかく操猫や獣猫も席に着くニャ。せっかく初代のメンバーが来てくだすったんだからニャ」
バツグンのタイミングで猫猫が仕切り始めると、第1期と第2期の改造猫メンバーが見事一堂に会した光景になった。
猫猫は、とにかく、手をもみ足をもみで先輩達に歯の浮くようなお世辞を始めた。無表情な光猫以外、皆、素直にニヤニヤしていた。
「で、俺らを呼んだのは何なんだ? えーと、猫猫」
「あ、もう少しお待ちくださいニャ。下っ端の第3期の奴らが集まってからお話しますんで」
「オイ、猫猫もうピザ食べていいか?」
「あ、どうぞどうぞ。先輩だけで食べてくださいニャ」
「えっ……先輩らが全部って……」
しばしの会話だけで、先輩はどんどん付け上がり、猫猫があまりにも自分をへりくだる物だから、
2期のメンバーはすっかりピザを食べられなくなってしまい、猫猫に冷たい視線を送られるのも当然だった。
すっかり場の空気は、「良い」と言えば犯罪になってしまうと言うほどに悪くなっていた。
さすがに、どうしようもなくなった時、コンコンとノックの音がして、ドアが開いた。
顔を出したのは、タヌキの顔をした水色の猫、白い猫、青い猫。
「すいませーん。BC団の改造猫の同窓会ってここっすかー?」
「アフタートークが長引いちゃってすっかり遅くなっちゃったのさー」
「……どうも」
間違いなく、彼らは第3期改造猫メンバー、変猫、化猫、影猫であった。
この気まずい空気を打破するには、彼らを利用するしかない。
「遅いニャ、コラァ! お前らには飲み物も何もくれてやらないからニャ!」
「す、すみません……」
影猫以外の皆はしょぼんとして、言われるがままに席に着いた。
と、初期メンバーから、一気に注目を集めることになる。
「何だぁ。第3期の奴らはみんな狸猫なのか?」
「あ、違うのさ。これはメイクなのさ。もちろんボクの狸模様もメイクだけど、落とさないだけなのさ」
「急いでたんで。あ、俺ら、バンドやってんすよ。結構楽しいすよ」
「ま、すぐ拭かせますから……」
変猫と影猫は、すぐさま手元のお絞りで顔を拭き、タヌキ模様を消したが、化猫だけは、
「落とさないのさ」「ボクはこれが好きなだけなのさ」などと、誰も聞いてない言い訳を勝手に繰り返していた。
その頃には、空気もある程度落ち着いてきたようで、猫猫は勢い良く立ち上がった。
「えー、皆さん、お越しいただいて誠に感謝感激ですニャ。本題に入る前に、先輩後輩と親睦を深めるために、
自己紹介をやっていってもらおうと思いますニャ。まずは、雷猫先輩からどうぞですニャ」
そう言われて、猫猫から見て左側に座っている青い色で、顔に雷の模様の入った改造猫1人目の雷猫が立ち上がった。
「俺は、雷猫。元々は専門学生だったんだけど、最初の改造猫になりました。あと、電気を操る能力があって、
とりあえずここにいる全員を痺れさせることぐらいは可能だな。あと、今はバイトやってます。あと、好きな食べ物は……」
「雷猫先輩、あの、時間あるのでその辺で……」
「あ、悪い。じゃ、そう言う事で。雷猫でした」
話好きな雷猫は、まだ話したりなさそうな様子で席に着くと、真っ赤な体の炎猫がすくっと立ち上がった。
「俺様は炎猫! 元々、地元じゃかなりのワルだったが、今では改造猫で、結局倒されてしまった。
何と言っても俺様の能力は凄い。数千度の炎の中でも平気でいられる。炎を操るのもお手の物だ。
そんな無敵な俺様だが、そんな俺様が弱いのは、雷猫。いつまでも愛してるぜ、雷猫!」
「……炎猫」
「ハイ、ありがとうございましたニャ!」
二人の危ない世界が再び始まりそうだったので、猫猫は手を叩いて次の順番に廻した。
すると、一際オーラを放っている(と言うよりただ光っている)光猫が立ち上がった。
「私の生物学上の名称ではない固体認識用の名称は光猫。元々、私は高等学校の生徒会長と言う役職についていました。
そんな私が改造手術により与えられた主なる特殊能力は発光、光線の発射です。以上」
淡々と回りくどい言い方をしながら、光猫は席に座った。今の所唯一まともな人らしい事は後輩達にも理解できた。
すると今度は、真っ黒い体に青の模様のアクセントが目立つ闇猫が意気揚々と立ち、自己紹介を始めた。
「俺の名は闇猫。闇の力を秘めている。過去の事はどうでも良いから省く。俺は、人間どもを不幸にするために、
悪魔への転生試験を受け、ようやく悪魔になる事が出来た。お前らには、危害は加えないから安心しろ」
そういって、背中の翼をバサッと広げ、椅子に座った。これで初代改造猫メンバー達の自己紹介は終わった。
次は第2期と言う事で、猫猫がすぐに立ち上がり、
「えー、では今から第2期改造猫の自己紹介に入りますニャ。オレ様が、2期の最初の改造猫、猫猫だニャ。
元々はペットショップで働いていたから、動物の扱いはお手の物だニャ。必殺技はにゃんにゃかビームで、猫化できるニャ。
今回の集まりを企画したのもこのオレ様で、全員参加してもらって感謝してるニャ。じゃ、次、写猫だニャ」
一気にまくし立てるように自己紹介をした猫猫に言われ、ぴかぴかのレンズを目に装着した写猫が立つ。
「俺の名前は写猫。元々は写真の専門学校にいて、その腕を買われて改造猫になった感じだと自分で思ってる。
能力は、写真を撮ることでその対象物に変身できる事。かなり汎用性の高い能力って感じ?」
写猫はそう言って猫猫を撮り、素早く猫猫に変身してみせた。皆、おぉと声を上げ写猫の能力に感心した。
次に、のっそりと黒い体にどこかの部族のような赤いペイントが映えた怖い顔の獣猫が立った。
「俺、獣猫。改造、前、忘れる」
「ちゃんと喋れよぉー」
その声に、獣猫はギロッと野次を飛ばした張本人の闇猫を見た。
「何だよ。その態度は。お前、俺は先輩だぞ。しかも悪魔だぞ」
「闇猫先輩、元々コイツはこう言う喋り方なんだニャ。それに、これは威嚇じゃなくて凹んでる状態なのニャ」
獣猫は、怖い目付のままガクンと頭を垂れていたが、猫猫から励まされ、ようやく言葉を続けた。
「チカラ、動物、操る、事。俺、動物、好き。終わる」
獣猫が座ると、次は紫色の体に常に眠そうな目をした操猫が立った
「俺は操猫。元々の俺は、頭も良くてそれなりに信頼もあったかナ。でも、優秀すぎてどいつもこいつも、
俺の言う事を聞かないからムカついてたけど、改造猫になったお陰で、催眠術が使えて、俺の思い通りで超助かるネ」
操猫は炎猫と目を合わせ、眠そうな目をグワッと見開いた。ギョロっとした不気味な目を見た炎猫は、
すぐさま立ち上がり、パンと隣の雷猫にビンタした。それを見届けると、操猫の目は再び元のように戻る。
「ま、こんな感じだネ。写猫よりも結構、便利な能力だと俺は思うナ~♪」
炎猫が我に帰り、泣いている雷猫にすがりついた頃、恐る恐る、直線の縞模様の入った青い体に、
ツンツンヘアーと言う変猫がすっと座席から浮かび上がった。
「ども。俺は変猫。"カワリネコ"だから間違えないで欲しい。俺は元美大生で、結構才能もあった。
改造されても、絵がかけるのは一応ありがたい事だな。それに空中浮遊も出来るし」
そう言って、変猫は、筆のようになっている尻尾の先を皆に見せた。
「俺の能力は、絵を実体化させたり、誰かを悪人に変える事が出来る。でも、結構センスがいるし、傑作も出来にくいから、
最近は全然使ってない。今は、ラクーンドッグスってバンドやってます」
椅子に降りてくると、すぐさま立ち上がったのは、白地に、目の周りのタヌキの模様、頬のヒゲのような模様に加え、
ピアスやブレスレットなどをジャラジャラ付けた化猫だった。
「ボクの名前は化猫。元々のボクは、超オシャレな若きカリスマ美容師だったのさ」
「カリスマって、死語じゃん」
闇猫の突っ込みに、化猫は露骨にムッとした顔を見せたが、フッと笑って話を続けた。
「ボクの魅力は何と言っても、この白い毛並みと、このツヤツヤした茶髪。そして、このアクセのチョイス」
完全に自画自賛している化猫は、ポーズを付けて自分がいかにオシャレでカッコイイかを語り始めた。
そのたびに、アクセがジャラジャラと音を立てている。
「で、ボクの能力は、幻覚を見せる事。このバックルについた葉っぱ型のアイテムを使って……」
「タヌキだけに化かすってかニャ」
「ボクはタヌキじゃないぃっ!」
物凄い大きな声で化猫は叫んだ。こうなると手がつけられない事は判っているので、変猫はすぐに口を抑え、影猫に合図をした。
見るからにクールそうな影猫は、青地に黒の虎縞が入った猫で、音もなく立ち上がり一同を見渡した。
「オレの名は影猫。昔の事はどうでも良いから話す必要もないだろう。オレの能力は影を操る事、
そして、影と同化する事。今はバンド等をやってはいるが、趣味に過ぎない。いずれは、再起の機会を狙うつもりだ」
明瞭な口調で語り終えた影猫が座ると、これで一巡した事になり、猫猫が再び立ち上がって仕切り始めた。
改造猫たちが勢ぞろいしたこの場、皆の視線がこちらの方に向けられる。

「……では、全員の自己紹介もすんだみたいニャので、本題に入りたいと思いますニャ」
猫猫は、背後にあるホワイトボードをバンと叩き裏面にひっくり返した。勢いをつけすぎてまた元に戻ってしまったが、
今度は、ゆっくり裏面にひっくり返すと『打倒!OFFレンジャー 改造猫合同作戦会議!!』と言う文字がデカデカと書かれていた。
「ズバリ、今日皆様に来てもらったのは、あの憎っくきOFFレンジャーを倒す作戦会議のためだニャ!」
「何で今更?」
2期の改造猫以外は皆、歓声をあげることなく、冷めた態度をとっていた。
しかし、そんな改造猫を嘆くかのように、猫猫は首を振り、目頭を押さえるといった"いかにも"なジェスチャーをしたかと思えば、
バンバン!と思い切りテーブルを叩いた。
「オレ様は嘆かわしいニャ! BC団の改造猫として第2の人生を歩むことになってしまった我々の目的は、BC団の繁栄、
そしてあの、小憎たらしいOFFレンジャーをぶち倒すことだニャ。今にして思えば、
オレ様が、戦闘員や掃除のアルバイトで生計を立てて居ると言うのに、ヤツらは冷暖房完備の豪邸でぬくぬくだニャ。
それもこれも、みんなあの生意気でムカつくOFFレンジャーが、オレ様達を倒したせいだニャ!
普通のヒーロー物だと一度やられた悪者はほぼ復活する事は、まずニャい。だが、それは所詮フィクション。絵空事だニャ。
オレ様達は、現にこうして、元気でやってるニャ。ヤツらは、バカだからまさか一度倒したヤツらに倒されるとは思ってないニャ。
そこをバシッ!と倒せば、オレ様達の天下だし、BC団の繁栄にも繋がるニャ。そして、復帰もありえるかもしれないニャ。
だからこそ、思い立ったが吉日でOFFレン必勝法を皆で考えるべきなのニャーーー!」
長々と一部私怨のこもった演説を繰り広げると、2期のメンバーから拍手が起こり、
3期の子らも気を使ってか、パチパチと拍手を始めたが、初代の改造猫達はただただ猫猫を見ているだけだった。
「ハァ、ハニャぁ……判ってもらえましたかニャ。先輩方」
「最もだと思います。再起のチャンスは悪者にだってあって当然の権利でしょう」
光猫が頼もしいほどに眩い光を発しながら猫猫に同調すると、雷猫も頷き、
「確かに、アイツらを倒せばこんな風になってしまった恨みを晴らせるってもんだ」
「雷猫がそう言うなら、俺様も協力するぜ」
「フッフッフ。OFFレンを倒す……面白い。俺も賛成だ」
「先輩方……あっ、ありがとうございますニャ~!」
とうとう、全員が納得してくれ、猫猫も目にうっすらと涙を浮かべながら深々と頭を下げた。
「じゃぁ、早速OFFレンを倒す方法を考えるニャ。挙手して欲しいニャー」
「ただ、闇雲に考えてはダメだろう。ここは、一度、物事を整理する必要がある」
スッと立ち上がった影猫がホワイトボードの前に出て来、いくつかのブロックを書き始めた。
ブロックの数はちょうど人数分、そして、そこに『敗因』と書き、改造猫達の方を振り返った。
「……まずは、敗因を分析する所から始めるべきだ」
「ニャるほど。それも一理あるニャぁ……。よし、ここは影猫に任せて、敗因の分析を始めるニャ」
「一応、順番に言ってもらえば良いって感じ?」
「そうだニャ。じゃぁ、雷猫先輩から、お願いしますニャ」
またも一番手の雷猫は腕組みをし、目線を右上にやって自分が敗れた勝負を語り始めた。
「ブラックキャット団とは何者だ!?」
とっさにタイガが雷猫に問いかけた。
PCが既に持ち去られているのに全く気づいていない。
「質問している暇はない!……だが冥土の土産に教えてやろう」
雷猫はお決まりの流れに乗るとさっそく質問に答え始めた。
「略してBC団……ブラックキャット様が率いる悪の組織だ。目的はもちろんこの国の征服だ」
「ほぉ……。じゃ、じゃぁなんでオレ達がいるのにわざわざ来たんだ!?他にもいいところがあるだろっ!」
「何処か良い拠点は無いかと考えてな……大阪を発見したのだ。敵も味方もろくでもない奴ばかり……こんな楽に征服できる所もない」
OFFレンとオオカミの顔がムッとする。
タイガは良くわからなかったのか真顔を保っている
「もういいだろう……そろそろいくぞ!」
「ままま……待ってください。改造猫とは一体……?」
雷猫が攻撃態勢に入ろうとした瞬間今度はグリーンが待ったの合図をして問いかけた
すると再び雷猫は攻撃態勢を解き
「……フン。そんな事はどうでもいい……だが、冥土の土産に教えてやろう」
と、再び流れに乗り出した。
「改造猫とは改造人間同様、一般人を特殊改造、脳改造を施しBC団の戦士に仕立て上げているのだ」
「では、あなたは……」
「もちろん……元は普通の市民だったが……そんな事は関係ない!今の俺はBC団に忠誠を誓ったのだ」
答え終わると早速雷猫は指先から雷をグリーンめがけて発射した。
グリーンは間一髪でそれを避けるがこのままでは当たるのも時間の問題だった。
「ちょ、ちょっとすいません……。あなたはどの様な経緯でその……BC団に?」
再びグリーンが待ったの合図をして雷猫に質問しようとした。
しかし、さすがに仏の顔も三度までとは言うものの相手は悪の組織。何度も親切に答えてくれるはずはない。
「……残念だが俺はそこまで親切な奴ではない……しかし、どうせ最後だ。冥土の土産に教えてやろう」
「あ、ありがとうございます」
「……俺は普通の青年だった。しかしある日ウィック様により俺はBC団へと連れて来られた……」
雷猫は自分の経緯を語り始めたが、どうも聞いた感じだと少し時間がかかるようだった。
これは絶好のチャンス。早速OFFレンボックスを投げつけたい所だがこちらをじっと見て話しているので下手をすればこのチャンスを台無しにしてしまう。
ということで、グリーンは話を聞いているふりをしながら何を出すか隊員たちと相談する事にした。
「……そして俺を改造し電気を自由に操れる雷猫へと生まれ変わらせてくれたのだ。最初は……」
雷猫の話はまだまだ続いていた。
会議(?)は約10分にも及んだが依然雷猫の話は終らなかった。
軽く聞いた感じだと特訓がどうこうと話していたが別に聞かなくても差し支えはもちろんない話だった。
早速、ボックスを打ち込ませていただいた。
「……だから、俺は悪に目覚め、こうしてBC団の一員としてなったわけだ」
「OFFレンボックス!いきますよ!」
ボックスを雷猫の足元に打ち込むと早速ボックスの中から地面から延びた長いひも状の物が姿を現した。
「フン……。何をしようとしていたのかは知らないが冥土の土産は十分もたせてやった!こっちもいくぞ!」
「待ってください!……えーと……そのウィックとか言う猫について教えてくれませんか?」
「何!?……まぁいいだろう冥土の土産は多い方が良い……。ウィック様はだな……」
何故か嬉しそうに放し始めた雷猫。多分元は話好きな猫だったのだろうと思われる
しかし、だんだん真横のアースがどんどん電気を吸い取っていったのに彼は気づかなかった
「ウィック様の顔の模様は、我がBC段では最高幹部の証で……またブラックキャット様が最も信頼を寄せる……」
しだいに、雷猫の周りに飛び散る火花の勢いがだんだん弱まっていった。
そして、数分間話し続けると既に雷猫の疲労は頂点に達していた。
「そして……ぐ、な、何故だ……体に力が入らない……」
雷猫からはなにやら汗が流れて、その汗すら弱々しく流れていった。
「お話は終わりですか……?」
「……ま、まだ……話は終っていないぞ……ぐぅぅぅ」
ガクッと雷猫は膝を突いた。
そしてキッとこちらを睨んで消え入りそうな声で呟いた。
「……こ、これで勝ったつもり……か。俺のほかにもまだ改造猫は存在する……せいぜい俺の話を冥土の土産に持っていくが良い……」
雷猫の目から正気が消えていく。
「ぶ、ブラックキャット団……万歳!!!!!」
突然雷猫が倒れた。
すると物凄い爆発がその場に起こった。ここまで王道を貫かれると嬉しいような哀しいような複雑な心境だ。
「……とまぁ、そう言うわけで、俺はアイツらの巧みな話術に引っ掛かったのが敗因だったと思う」
雷猫の勝負の話を聞いて、炎猫以外は、ぽかーんとしていたが、それを気にする事無く雷猫は悔しそうに舌打ちをした。
「つまり、話好きな所に問題があったと、そう言いたいわけだ」
影猫はあくまでも冷静に淡々と判断し、改造猫側の問題と書き入れた。
ここに至るまで、炎猫の「雷猫は悪くなんかないっ!」と言う反抗等色々あったのだが割愛する。
そして、いよいよ炎猫の番が回ってきた。炎猫は、今にも燃え出しそうな程、怒りをむき出しにしながら拳を握った。
「俺様は今でも覚えてるぜ……! あいつらに復讐するつもりが、返り討ちに会った時の事はな……!」
「……さぁ、言え。焼き加減は? それとも……俺様のお好みで宜しいのかな?OFFレンジャー!」
「冗談はやめてください。敵なんですから倒されるのはあたりまえじゃないですか」
「(イエロー……刺激するような事言っちゃ駄目ですよ)」
炎猫は真っ先にイエローめがけて炎の玉を投げつけた
間一髪でイエローはそれを避けるが隙を見せれば再び炎の玉が飛んできそうだった。
「(こ、ここはやはり……)OFFレンボックス!スタートしますよ!」
イエローの掛け声と共に誰が持っていたのかは知らないがボックスがイエローの手元に回ってきた。
「えーとえーと……。中華料理屋の主人!」
ボックスを炎猫に向って投げつけるがそれを軽く炎猫の攻撃によりかわされてしまった。
ゴトッと言う音が燃え盛る炎の渦の中でしたのを最後にボックスの姿は見えなくなった。
「無駄な事を……俺様は炎猫だ。この炎の中は俺様にとって最も戦いやすい環境……」
「し、しまった……」
イエローは応援を呼ぼうとして携帯PCを見た。皮肉な事にこの炎で電波が届かないようだった。
文字通り絶体絶命……。真っ赤な炎と炎猫が被ってもはやどこにいるのかすら解らなくなってきていた。
「……業火と共に……消え去れ!OFFレンジャー!」
大蛇のような動きをした炎が女子隊員たちに向って襲い掛かった。
その炎が女子隊員たちを包むのを目にしたとき、炎猫は知らないうちに涙していた。
「(……雷猫……俺様のチョコを……俺様の想いと共にあげたかったぜ……)」
炎猫は燃え盛る炎に雷猫との思い出を写しながらじっと炎を見ていた。
初めて一緒に食べた食事、転びそうになったときに支えてくれた日……。
どれも機能のように炎猫は覚えていた。
しかし、炎を見ているうちにその炎がだんだん小さくなっているのに炎猫は気が付いた。
消火活動は一時中断しているし、自然に火が消えていっているとも思えない。
「!」
炎猫は目の前に女子隊員でもないおかしな奴が立っているのに気が付いた。
「炒飯お待ちっ!餃子お待ちっ!」
コック帽を被った男性が渦巻く炎の中で一生懸命料理を作っていた。
「な、なんだ、このありえない展開は!?」
「フフフ!火力にこだわる中華料理屋の主人の手にかかればこんな大火災あっと言う間に鎮火ですよ!」
料理の皿を手に持った女子隊員(とホラン)が中華料理屋の主人の背後から顔を出した。
「馬鹿な……!俺様の炎が……こんな料理に!」
「火力が足らん!もっと火だ!」
「フ……。焼肉が少し増えただけの事!俺様の炎は最高に熱いぜ!!」
炎猫は両手から炎を主人に向って飛ばした。
しかし、焼き豚炒飯を作っている主人のフライパンの下にもぐりこむとあっと言う間に炎は消えていった。
「料理の心は火の心!中華料理をなめるではないぞ!」
「(なんかどっかで聞いたような言葉……)凄い!凄いわ!さすが火力にこだわる中華料理屋の主人!」
中華料理が一品ずつ増えていくたびに辺りの炎が減っていった。
いままで炎意外見えなかったのが、ついに周りの会場が見渡せるほどまで炎は少なくなっていった。
「火力!火力が足らんぞ!」
「くっ……炎など、いくらでも!」
炎猫の手から小さな炎がゆっくりと宙に浮かび出て、そして消えていった……
「!?……馬鹿な……」
「中華料理は火が命……。愚か者め!」
何故か偉そうに中華料理屋の主人が炎猫を一括した。
ガクッと炎猫は膝を突き消え入りそうな声で呟いた。
「……か、雷猫……俺様も……そっちへ行くぜ……」
閃光が走り炎猫は姿を消した。
「今思い出しただけでも腹が立つぜ!!」
炎猫はテーブルを叩いたが、横の雷猫が宥めたおかげで落ち着いた素振りを見せた。
影猫は、ふんふんと頷き、敗因は「OFFレンボックスによる物」と書き入れた。
「では、次は私になるでしょうね」
光猫の周囲を取り巻く明度がグッと増すと嫌がおうにも注目の的になった。
「私の作戦は非常に完璧な物でした。しかし、一見、完璧な理論にも穴はある物です」
「私の名前は光猫……。ブラックキャット団改造猫四人衆の一人……」
「……この前の炎猫とかいうやつの仲間か」
「その通り……。ウィック様監修の元様々な伏線を張り巡らしこのような結果に導き出すために……」
「……つまり、完璧な作戦を考えたと言いたいようだがあいにく詰めが甘かったようだな」
光猫は手の上で浮かんでいる水晶をじっと見つめていた。
「……確かに……BC団に入る前は学校一の秀才として名高い私でしたがそれも過去の話。詰めが甘い所は改造されても直りませんね」
「……まだ詰めが甘いところがある」
ホランはマイクを取り出すと観客席に向って思いっきり叫んだ。
「……OFFレンのみんな!この光猫の退治に協力してくれるかな?」
倒れている観客の中からもぞもぞと数人が立ち上がり始め舞台に向って走ってきているのが見えた。
愛するグリーンも舞台に飛び乗り早速ホランの元へと駆け寄ってきた。
「あぁ……グリーン……こんなに近くにいるんだね……♪」
「それよりもホラン!話は大体流れで解りました!あいつを倒せばいいんですね!」
グリーンが急いでボックスを取り出すと再び目の前がチカッとして何やら体中に激痛が走り始めた。
かと思えば他の隊員やホランまでが痛そうにうずくまっていた。
「……ムダですよ。私は光の力を持つ身。この水晶から物凄い勢いで光線が発射されるのです」
「そ、それではこちらの攻撃のできるチャンスが……」
「……それでは、そろそろ私が攻撃し、あなた方の攻撃のできる機会を奪いつつじわじわとあなた方を苦しめながら水晶を使い……」
「あぁもうっ!ようするにお前達を倒してやるっていえないのかしらっ!ほんと回りくどいわねっ!」
どうしようもなく光猫は水晶を浮かばせながらこちらの隙を窺ってきていた。
こうなったら一か八かにかけるしか方法はない……。
「……OFFレンボックス行きますよ!!」
「ムダだというのに……」
再び目の前がチカッとした。しかし、グリーンはボックスを思いっきり頭上へと投げていた。
痛さで立つ事が出来なくなっていたが後はボックス次第で勝負の命運が決まる……。
「マジック!……太陽光発電に憧れる中流家庭の若夫婦!」
ボックスが着地した瞬間。10組の若夫婦が自分達の背丈くらいある太陽電池を掴んで光猫の側に走りよってきた。
「貴方!太陽光発電よ!余れば電気会社に売れるわ」
「これで首をつらずに済むなぁ!うん」
「やっと御母さんを納屋に行かせる口実が出来るわぁ~♪」
光猫の周りを太陽電池が覆い、あっという間に光猫から洩れる光の輝きが薄くなっていった。
「も……もう勘弁してください……太陽光発電は太陽でやってください……」
「何言ってるのよ!」
「あんた、日本国民舐めてんの!?」
「若い時は無理が利くもんなのよ」
光猫のうめき声がだんだん小さくなっていくと10組の若夫婦たちもぞろぞろと家路に着き始めていた。
「……うぅ……若夫婦が太陽光発電に憧れている事を利用するとは……」
すっかり光猫はげっそりとして倒れこんでいた。
「……情けないな。光猫」
舞台袖からウィックがマントに身を包みながら変わり果てた光猫のそばに寄ってきていた。
「……ウィック様……も、申し訳ありませんでした……」
「……もう貴様に用はない……消えろ」
光猫は何か言おうとしていたのか数言葉に鳴らない声を上げると物凄い閃光を残して消えていった。
「……太陽光発電に憧れる家庭が多かった事、そして私が明るすぎた事が敗因でしょう」
「いや、この場合は、やはりOFFレン側のボックスの存在もある」
影猫はホワイトボードに炎猫と同じ文面を書くと、次に影猫がまだ呼んでもないのに立ち上がり、
ニヤッと笑って、勝手に勝負の出来事を語り始めた。
「俺の時のバトルはこんな感じだ……」
「……これで、わかりました……。闇猫!貴方はレッドではありませんね?」
「……フ……鑑定士にお墨付きを貰ってしまったのだから、仕方がない」
闇猫は観念したのかニヤリと微笑んで開き直ったように言った
バサッと闇猫がマントを翻すと先ほどまでのレッドの顔をしていた物から黒猫の顔をした闇猫が姿を表せた。
「……せっかくいい作戦だと思ったんだが……残念だ……だが、何故俺がレッドではないとわかった?」
「長年の勘がそうさせたとでも言いましょうか」
「訳のわからないことをほざきやがって……だが、グリーンはまだ俺のいうことを聞くんだぜ……?」
闇猫が再びマントから手を伸ばそうとする所を見計らってシルバーは再びボックスを指を鳴らさせる前に投げつけた。
再び白煙が上がりシルバーは叫んだ
「……闇猫の恩師の先生!」
白煙が止み、中から30代後半ぐらいだろうか?そこそこ綺麗な小柄の女性が姿を現した。
シルバーはその女性の前で闇猫を指差して言った。
「……彼はどんな生徒でしたか?」
「そーねぇ……」
先生は首をかしげて思い出し始めた。闇猫は慌てて先生の口を塞ごうと走り寄ってきていた。
「……とてもイケメンで、みんなの人気者だったわ。皆のまとめ役って感じかしら?」
闇猫はその言葉を聞いた瞬間、動揺したのか転んでしまった。
「……ふむふむ……それで?」
「……いつも東大の勉強をしていて、私、教えてあげる事ができなくてないちゃったの」
「もっとやれーーー!!」
闇猫は嬉しそうに叫んだ。しかし、哀しいかな先生のベタ褒めはまだ続いている。
「……それで、他には?」
「……そうねぇ……女の子にもモテモテで、私、悔しくて夫と離婚まで決意したわ」
「ギャ!ウワ! 照れくさい! や、やめてくれー!!!!」
先ほどの様子とは打って変わってゴロゴロと闇猫はのた打ち回っている。
「他には……?」
「先生~。って美少年振りを発揮しながらやってきて……」
闇猫は恥ずかしさのあまり、心臓を押さえて苦しそうにうめき始めた。
グリーンをけし掛けようとするのだが手が震えてなかなか指を鳴らす事が出来ない。
「で、先生はそれをどう思っていたんですか?」
「はっきり言って一人イケメンパラダイスだったわね……」
闇猫は『グッ!』と一声うめいて心臓をかきむしりながらその場に倒れてしまった。
シルバーは先生に一礼をすると先生も頭を下げて消えてしまった。
「……闇猫は、ジャニーズも真っ青なほどの超美形少年だったんですね。嗚呼、カッコイイ……」
影猫の話が終わると、一同は首をかしげて影猫を見ていた。
「何か、うそ臭いのさ」
化猫が、アクセをジャラジャラ言わせながら闇猫に突っかかったが、闇猫は悠然と構えていた。
「残念ながら、真実だ」
「ボクも、カッコイイって言われてたから判るのさ。恥ずかしさに悶絶する事はまずない!
この場合は、もっともっと言われたくてたまんなくなるのが人の常ってヤツなのさ」
「俺は、真実を述べただけだ。タヌキ顔は黙ってろ」
「ボクは断じてタヌキなんかじゃないっ!」
闇猫と化猫がケンカを始めそうになったが、すんでの所で両側の改造猫が押さえつけ、自体は収束した。
「俺も、どうも今の話は疑わしい。例えば、担任がイジメなどの辛い過去をバラしてたとかだと……」
「ぐっ! うっ、うるさい! そんな事はない! 俺はそんなことはなかった! 黙れ!!」
闇猫が急に慌て始めたが、影猫は仕方なく、OFFレン側の問題と書いた。
これで初代メンバーは全員完了。次は2期のトップバッター猫猫が立った。
「オレ様の敗因は、ハッキリ言ってオレ様本人にはこれっぽっちも無いニャ。これはヤツらが卑怯だから負けたのニャ」
「にゃんにゃかビーーーーーム!!」
「ギャァァ!!」
猫猫の額の模様から放たれた黄色い光線がタイガを直撃した。
するとタイガは再びゴロゴロと地面で猫のような仕草をとる。
「ニャッハッハ!!オレ様は猫ビームでどんなヤツでも猫にすることが出来るのニャ!」
「にゃ~ん……ゴロゴロ…」
「さ・ら・に」
猫猫はどこからかねこじゃらしを取り出しタイガの前で降り始めた。
「にゃ…にゃーーー!!」
するとタイガは我慢できず飛びかかろうとする。まさに猫そのもの。
「オレ様は元ペットショップ店員!猫の扱いはお手の物なのニャ~♪」
「むぅ……まずいですね…あのビームを当てられたら…」
「さー!次はお前たちが猫になる番ニャ!」
猫猫は額に手を持っていくと再びビームを発射する準備を取った。
「にゃんにゃかビーーーーー…」
「危ないっ!」
猫猫に体当たり…というかドロップキックをかまして瞳さんがビームをそらす。
「い、痛いニャ!!なにするニャー!!」
「危ないっ!!」
猫猫の顔面に瞳さんの回し蹴りが炸裂する。
「な、なんなのニャ~~!!!」
「みんな伏せて!!」
猫猫の後頭部に瞳さんのストレートパンチが直撃する。
「いっ!痛いニャー!オレ様まだ何もしてないのニャー!!」
「危ないっ!」
「そうはいかないニャ!にゃんにゃかビーーーム!!」
瞳さんの過剰な助けにもよらずビームは瞳さんを直撃。
瞳さんまで猫じゃらしの魔の手にかかってしまった。
「あー痛かったニャ…後で覚えてろニャ…さーて。次は今度こそお前たちニャ!」
「残念でした!OFFレンボックス!!」
「甘いニャ…にゃんにゃかビーーム!!」
床に当たる直前にボックスにビームが当たりBOXは可愛い猫になってしまった。
「にゃーにゃー」
「よしよし。可愛いニャー。さぁ、もうお前たちは手も足も出ないニャ~?」
「グリーン!BOXもう無いんですか!?」
「す、すいません…最近つかってなかったんであれ一個しか……」
猫猫はニヤリと嫌な笑みを浮かべながらじりじりとこちらへと近づいてくる。
「さーいくニャ!!にゃんにゃか……」
ドゴッ!!と、猫猫の後ろで誰かが猫猫を殴る音がした。
「いだっ!!」
「よくもこのオレ様に二度も恥をかかせてくれたなぁ……」
猫猫が後ろを振り返ると凶悪な顔をしたタイガが指をボキボキならしていた。
「おっ!おかしいニャ!!オレ様のビームで猫になったはずニャー!」
「…オレはなぁ…猫になんてなんねーんだよっ!!」
「ニャ…ニャー!!!」
タイガは怒り狂って猫猫に爪で全身を引っかくは、牙で腕だの足だのを噛み付くは、
タイガのほうが悪者なのではないかと思うらいボコボコにしていた。
「いっ!いたいのニャー!なんでオレ様がこんな目に会わないといけないのニャ~!!」
「お前がオレを怒らせたからに決まってんだろーーーっ!!!」
「ニャ~~~~~~~!!!!」
それから1時間か2時間が経ったくらいにタイガはようやくすっきりしたのか満面の笑みを浮かべていた
「あー!すっきりしたぜー!!」
「ひどいのニャ~!なんで今日はこんなに殴られたりしなきゃなんないのニャー!」
「あ~?またオレにボコボコにされてーのか?」
「ニャ…」
猫猫はじわじわ目に涙を浮かべてきた。
「お、お、覚えてろニャー!!!!BC団に盾突くとどうなるか後で思い知らせてやるニャー!」
猫猫はそう言うと一目散にダッシュし、逃げていった。
「あんなボコボコにされたら、絶対泣くに決まってんのニャ」
後頭部をさすりながら、猫猫は遠い日の苦痛に顔をゆがめていた。
「だっせ……超だせぇ。猫猫ってばそんな負け方してた訳?」
まさかの身内、第2期の操猫から侮蔑の目と共に心無い一言が発せられた。
猫猫は、毛を逆立てながら何やらガヤガヤと罵倒していたがこれも長くなるので割愛する。
「じゃ、次は俺だな。ハッキリ言って、気持ち悪かった事しか覚えてないって感じ……」
写猫が立ち上がると、ぶるっと震えながら昔の出来事を語り始めた。
写猫はポチッとベルトのバックルを捻るとその姿はピンクの物へと変化する。
「にゃ!?」
「さぁ、だ~いすきな女の子と勝負できるかな?できるならかかってこいって感じ~」
「うぬぬ…………」
「さぁさぁ?どうしたどうした?」
タイガはピンクの姿の写猫がだんだん本物のように思えてきた。
すると挑発するポーズがなんだかタイガを誘っているように見えてくる。
「にゃ……にゃぁ……ぁ……」
だんだん現実と虚構の境目がわからなくなってくる。
タイガは既にピンクがこちらを見て微笑み、「早く~タイガくん♪」と言うイメージばかりが目の前に広がる。
「ぴ、ピンクちゃんっ!!」
タイガは写猫に飛びつきぎゅぅぅと抱きしめる。
「馬鹿馬鹿!!オレオレ!写猫だって!も~!気持ち悪いっ!!」
「ピンクちゃん♪ピンクちゃん♪」
「ひぇぇっ!」
急いで写猫は変身を解く。すると目の据わっているタイガはキッと写猫を睨む。
「またでやがったなぁ……邪魔をするんじゃねーーーーっ!!!!」
タイガはおもいきり写猫を投げ飛ばす。写猫の体はガラス張りの窓を突き破り真っ逆さまに落ちていった。
「正直、あれ以来、女に変身するのは控えてる感じ……」
「ダセぇ……なんでこうも2期のヤツラはだせぇんだろう。笑っちゃうネ」
操猫の嘲笑気味な態度を苛立ちながらもスルーして写猫が語り終えると、
影猫は、敗因-別組織との衝突による。と書き入れた。
そして、次は獣猫が立ち上がり、俯き加減に喋り始めた。
「俺、勝負、ほぼ、覚える、ない。少し、覚えてる」
「ね、ねぇ獣猫。タイガ先輩もいるんだからあんまりレッドを痛めないでね? ね?」
「さいぼぐ、黙る、みんな、死ぬ、か、生きる、か、だけ、倒す、は、殺す、こと」
「だ、ダメだよ! そこまでしたらオレ、先輩に会えなくなるじゃん! オレ、先輩から教えてもらう事がいっぱい……」
「お前、黙る、邪魔、するな」
獣猫はエコを思い切り突き飛ばした。エコはカッとして立ち上がると思い切り獣猫に体当たりした。
「!!」
「先輩を殺しちゃダメダメダメ!!!ダメだーーーーー!!!」
「止める! お前! 邪魔!」
獣猫の異変に気づいて動物たちはエコに飛び掛った。
噛み付かれたり引っかかれたりされながらもエコは獣猫に圧し掛かっていた。
「今だ!」
レッドはPCを開くとBOXの転送要請メールを本部に送った。
「離れる! さいぼぐ! 離れる!」
「ダメだダメだダメだーーーーーーーーーっ!!!」
すぐさまグリーンからBOXが転送されて来た。
「離れる!!!!!!!」
「あの、後、記憶ない、確か、絵本、読んで、頭痛、した、負けた」
「超断片的だし。やっぱりださいし。どうにかなんないのかナ。この人ら」
しょぼんとしながら獣猫が座り込むと、影猫は「OFFレンによる物」と書き入れた。
身内を敵に廻していながら順番に回ってきた操猫は、自信ありげに立ち上がり、敗因を語りだした。
「かなり、俺の場合は良いセン言ってたヨ。ホントにネ」
レッドは、ブルーからボックスを受け取るとパッとそのまま手を離し地面に落とした。
煙がモクモクと中から噴出した。操猫はレッドが煙の中で何かを言うのが聞こえたがハッキリとは解らなかった。
そして、煙の中から一冊のノートを持ったレッドが現れると操猫はまたも馬鹿笑いをした。
「キヒャヒャヒャヒャ! 何だ。やっぱりハッタリだったんだネ。それに遺書でも書く気かナ~?」
「……コホン」
レッドは、咳払いをすると数分前の操猫の様に余裕の素振りを見せながらノートを開いた。
すると、レッドは拡声器を取り出し操猫に向ってノートの文面を読み始めた。
「流星に何をお願いするかって? そんなの決まっているだろう」
隊員達は、ぽかーんとしながらレッドの声を聞いていた。
一方の操猫も、何をやってるんだかといった風に馬鹿にした様子でそれを聞いていた。
「お前は俺の物、お前は俺の物、お前は……あ、消えちまった。多すぎるんだよな……。
え? 願い事の回数? 違うよ。お前への想いがだよ。I LOVE YOU FOREVER」
隊員達は、変な照れくささを覚えて耳を塞いでしまいそうな感覚に陥った。
操猫もそうかと思いきや、耳を塞ぐどころか何か気がつく所があったのかワナワナと震えていた。
「ど、どうしてそれが……」
「……コホン。俺は気まぐれな野良猫さ。甘えてほしいのか?気が向いたらな。
でも、どうしてもって言うんなら、お前の未来を俺にくれ。……そしたら俺もお前の物だ」
隊員達は目頭を押さえてこのやり場の無い感情をどうすれば良いのかと言う苦悩に直面していた。
と、操猫は余計震えながら耳を押さえていた。レッドは、拡声器のボリュームを上げてさらにページを捲った。
「絶望なんてぶち壊せ、暗黒の世界は俺には似合わない。……め、メガシャイントルネード?を喰らいやがれ
さぁ、お前も一緒に飛び出そう。大丈夫、未来は俺たちの手の中さ」
操猫は、地面に座り込んで震えながら何か言っているようだった。
だが、レッドは気にしない、さらにさらにページを捲っていく。
「や、やめっ、もうやめてくれヨー!」
「……えーと。ボクはドコにいるの。誰か教えてよ。ボクは心のない不完全生命体」
「ギャーーー!」
操猫は、耳を押さえたまま地面に倒れ足をバタバタと動かして悶え苦しんでいた。
「全てプログラム通りに動くだけのただの機械仕掛け。ボクに愛をちょうだい。信じる心をちょうだい」
「え、それ、マジで書いてるんすか?」
「……ぼ、ボクは心が無い不完全生命体。ボクは不完全生命体」
「自分に酔っててすこぶる気持ち悪いですー」
隊員達は、レッドの意図している事が面白がってノートにワッと飛びつき面白そうなポエムを探し始めた。
「我は神ではない。─我、信じるは我のみ。(中略)泣け。――嘆け。喚け。――喰らえ。もはやこの声も、 届かない」
「うわっ、最後の間がまた痛いっすね……」
操猫は、生きも絶え絶えにやめろやめろと叫んでいたが、そんなの関係ない。
「あ、これmy sweet flowerのスウィートがsweatになってる!」
「わー俺の汗の花って臭そうっすね」
隊員の馬鹿笑い返しに操猫は口から泡を吹きながらビクビクと痙攣していた。
もう少し責めれば失禁ぐらいまで行くかもしれない。レッドは衝撃度が強そうなポエムを探すべくページをどんどん捲った。
「あー! これだ。これにしよう」
レッドはボリュームを最大にしてイチバン最後のページに書かれたポエムを読み上げた。
既に、操猫はその声を認知できる状態なのか怪しかったがレッドは楽しかったからどうでもよかった。
「ぱんぱんぷー。お腹がいっぱい。お腹の中は大宇宙。トウモロコシもニンジンも漂っている」
「妙に可愛いですー」
「ぱんぱんぷー。ぱんぱんぷー。何か小さな音がする。葉っぱかな? 葉っぱじゃないよカエルだよ(?)」
操猫の口からは何か白いモヤみたいな物が出てきた。
レッドは、あれがうわさに名高いエクトプラズムかとシャメで撮りながら関心していた。
「わっ、全部大爆発。みんなみんな一緒になって最後に全部出て行った」
「なんすかそりゃ」
操猫は、エクトプラズムに引っ張られて宙を漂っていた。もはや意識すらないだろう。
レッドは、最後に最終行を優しく読み上げた。
「……執筆、2008年1月25日」
「ゲッ、超最近」
なにやらブチッと言う音と共に操猫とエクトプラズムが分離した。
操猫は音も無く地面に落ち、ビクともしなかった。シェンナが鉄パイプで突いてみたが完全にダウンしていた。
「沈黙ですー」
「テメェも他のヤツらと変わらねーし」
「何だとォ!」
トラブルメーカーの闇猫の意見は今回ばかりもっともだった。猫猫は思わず拍手していた。
影猫は、情け容赦もなくバッサリと「改造猫本人による物」と書き入れた。
「さ、いよいよ次は若いヤツらの台頭だニャ。3期のヤツら、とっととやるニャ」
「じゃ、俺から」
ツンツンヘアーがトレードマークの変猫がふわりと浮かび上がった。
「レッドを悪者に変えて、上手いところまでは言ってたんだがなぁ……」
「出でよ、代議士とその応援団!」
突如、巻き起こった白煙と共に現れたのは少々頭の薄いスーツで決めた50代後半の男性と、
数十人はいようかと思われる同じくスーツで決めている初老の男女。
その後ろには薔薇の花に似せたペーパーフラワーを付けたホワイトボードが一つ。
「辻先議員、当選バンザーイ」
「バンザーイ」
白煙が消えようかとするとき、すぐさま彼らが万歳を始めた。紙ふぶきを投げている者もいる。
レッドも変猫も何事かと首をかしげているとレッドの首ねっこを応援団の一人が掴み、議員の側に持っていく。
「先生、どうぞ目をお入れください」
「うむ」
大きな筆を渡された議員さんは、満面の笑みでレッドの右目の上に大きな目玉を描いた。
レッドは突然の事に動揺したのか暴れていたが応援団に挟まれてなかなか逃げ出せずにいる。
「苦節12年。遂に、遂に当選したぞ。友子」
「あなた……」
涙涙に議員とその妻が抱き合っていたが、レッドの赤への思いが強かったと見えてポンと議員らが消えてしまった。
レッドの右目がけ真っ黒で犬みたいになっていた。
「……フ、フッ。そんな事で」
「まだまだ、出でよ、心根の優しい母親っ!」
再びボックスを投げつけると白煙と共に小汚い茶封筒を抱えた年老いた女性がよろよろとレッドに向って歩いてきた。
「あぁ、貧乏暮らしで苦労をかけた我が息子、必死で勉学に懸命に励んでいる我が息子。このお金で良い物を食べて頂戴」
女性は涙を拭きながらレッドの口に封筒を突っ込む。
しかし、レッドが吐き出すと女性は拾い上げてレッドの口を押さえながら無理やりに奥へと突っ込み始める。
「ん、んがぁっ、ぼ、ぼかぁ、ポストじゃないよぉっ!」
密かに聞こえたレッドの正気の声、途端に女性が消えるとレッドは地面にバタリと倒れた。
目を廻して「赤はイだぁァ、イヤだぁ」と呟いている。
「オイ、どうした! 目を覚ませ!」
「さーどうですか。もう肝心のレッドは敗れましたよ。ここが年貢の納め時ですねぇ」
変猫は唇を悔しそうに噛締めながら隊員らを睨んだ。
「……覚えていろっ。次こそは必ずBC団の勝利だと言う事をなっ」
変猫は回転と共に空中で消え去った。
「何か、フツー……」
「でしょ? ま、俺も自分でわかってんすけどね。でも、悔しかったのは確かだな」
2期のメンバーが突飛すぎたせいか、3期の反応は冷ややかだった。
初代は特にそれが顕著で、早くも世代間の隔たりがあると言ってもいいだろう。
「じゃぁ、次はボクなのさー。ハッキリ言って、あの時の事を話すのは心苦しいけど、
これもあのOFFレンを倒すため。あの時の恨みを晴らすにはぐっと我慢してお話するのさ」
茶髪を丁寧にブラッシングしながら、化猫は語り始めた。
クシで茶色に染めている髪を優しくときながら化猫は、機嫌良さそうにふゅーと口笛を吹いた。
「全くバカだよね。本当に叶ってるわけじゃないのに大明神様大明神様ってさ。
ま、お陰で街はこんなに滅茶苦茶だし? バカはバカなりに利用させてもらったしね」
髪を優しく撫でて、化猫は髪をさっとかきあげた。腕のアクセがジャラジャラと金属音をたてた。
「女をバカにすると怖いわよ! 絶対ボコボコにしてやる!」
炎の中でもがきながら怒りで血管が浮き出ているホワイトが食いつくように叫んだ。
しかし、明らかに手出しできないのは解っているので、化猫はフンと鼻で笑う。
「やれる物ならやってみれば良いのさ。全然怖くなんて……」
化猫はチラと目線を少し上にあげた。クレープ大明神のお社の周りにいるギャラリーらが、
こちらに向って、鬼の様な物凄い形相で睨みつけている。化猫もさすがに動揺して体を仰け反らせた。
「な、なんなのさ。ボクは間違った事言ってないじゃん。引っ掛かった方が悪いじゃん!
文句を言うなら自分のバカさ加減に言えばいいのさ! だ、だいたい女はボクのファッションセンスを理解しようとしないし……」
小学生からはたまたお婆さんまで、化猫に怒りの目を向けてのしのしと地響きを立てて迫ってくる。
たらーと汗が化猫の頬を滑っていく、彼の瞳に映った背の高いOL風のお姉さんはグーで顔を殴ってきた。
「ぎゃん!」
まともに食らった近距離攻撃により、彼の体が地面に倒れたのを合図に合戦の如く女性達が走り出した。
化猫はもみくちゃにされながら殴る蹴る殴る蹴る噛み付く殴る蹴る痴漢冤罪蹴る蹴る蹴る……。
あまりもの酷い光景に化猫は悲鳴すら上げる事ができなかった。
一方、ダメージを受けているせいで幻覚が消え、隊員達は無事、炎の悪夢から逃れる事ができた。
念のため足や手を見てみるがもちろんヤケドの跡なんかもない。痛みも一瞬でなくなっている。
「何はともあれ、女を敵に廻してくれたお陰で助かりましたね。レッド」
「うん……。でも、なんか同じ男としてなんか可哀相と言うか」
「えぇ、まぁ、それはそうですけど」
土煙を上げてその惨劇の詳細はハッキリとは見えなかったが、重低音を響かせているサウンドを聞くだけで、
自然と彼がどのような事になっているか想像する事は難くない。無関係なはずの男子隊員らも冷や汗をかかずにはいられない。
その地獄はおよそ20分ほど続いた所で、終わりを迎えた。
「後で、裁判所からの通達が届くから覚悟しときなさいよ! 散々慰謝料搾り取ってやるから覚悟しとけっ!」
弁護士らしいすらっとしたスーツの女性が指差しながらそう言い放つと、女性達はぞろぞろと退散して行った。
今後は法廷で争うつもりらしい。団体訴訟と言う奴だろう。
「うぅ……うぅ……」
地べたには、ボロ雑巾をさらにボロボロにして30年ほどほったらかしにしたような化猫が横たわっていた。
相当な攻撃だったが改造猫なだけあって意外と頑丈なのか、鼻血が出ているくらいの流血加減だった。
「ボクの髪がぁぁぁ……ボクの毛並みがぁぁぁ……こんな汚い格好なんて耐えられないよぉぉぉ……」
化猫は次第にポロポロと涙をこぼしながら、攻撃を受けた痛みよりも自分の格好がボロボロになった事を嘆いていた。
「2時間かけてセットしたのにぃ……辛いよぉぉぉー! あーんあんあん! あーんあんあん!」
終いには子供みたいにわんわんと泣き始めた。
敵でありながらレッドもつい同情して、優しく声をかけてやる。
「狸猫くん、これも自業自得って事でね。僕ら、一応正義の味方だから、一応、ケリはつけとかないとね」
「ボクはタヌキじゃなぁぁぁーい! あーんあんあん!」
「ブルー、OFFレンボックス貸して」
ブルーは怪訝な顔で、レッドにボックスを渡した。
レッドはポンと化猫の側にボックスを投げて、ボソボソと何か言うと白煙が噴出した。
白煙が消えると何も現れなかった。ただ、相変わらずボロボロになった化猫が、目を輝かせているだけだ。
「あ、治ってる! ボクの髪も毛並みも元通りオシャレになったのさー!」
レッドは大きく頷きながら、さっさとどこかへ行くように払う仕草をした。
化猫は、レッドに照れくさそうな様子で、
「礼は言うけど、次は絶対倒してやるのさー! 覚えてろっ!」
と言うなり走り去っていった。
「結局、幻覚返しをされたのさ。無様な格好のまま歩いていたと考えるだけで、
もう、OFFレンへの恨みの炎がメラメラとボクの中に出てくるのさー!」
わなわなと震えながら化猫が話し終えると、影猫は「改造猫本人による物」と書いた。
いよいよ、最後になったのが書記の影猫だ。
「俺の敗因は、思慮の浅い俺自身にあったと言えるだろう……」
影猫の表情が徐々に曇っている。さっきからエコの影に手を入れながらその目的の物が何も出て来て無いらしい。
「ど、どういう事だ……確かに、ここにあると……」
「ふぐーーー!」
突然、影猫の腕に、エコの金属製の歯がガブリと噛付いた。ふぐのあまりもの焦らされ方に、目が『食』になっている。
さすがの改造猫でも、金属のよぉく尖った歯に噛付かれ、平気なわけはなかった。
「つっ!」
エコの体は影猫の腕を離れ、どんと尻餅をつく。だが、そのまま急いでビルの中へと駆け込んでいった。
同時に、気も途切れたのか隊員たちを縛っていた影が元に戻り、ただの影へと帰っていった。
「クソッ! コイツ……」
腕を押さえたままよろける影猫に、隊員達は武器を取り出して突進していった。
さすがの影猫も危機を感じて、さっと飛び上がると、影の中へと溶け込んでいく。
足で踏みつけようにも単なる影なので、ダメージを受けない。それに、どこかの影へと移動しているだろう。
尾布市内のどこかの影にいるはずだ。グリーンは手を後ろに廻した。
「逃がしませんよ。ブルー、OFFレンボックスを出しなされ!」
「はいっす。グリーン」
「オレンジ、地味な隊員であるあなたの武器がいよいよメルマガ初登場ですよ。用意してますね」
「オッケー」
オレンジが細かい作りの剣を掲げるのを見ると、手渡されたボックスを掴み、グリーンは飛び上がった。
「あぁ、私、美味しいところばっかりとってますね。取ってるんですね。99号なのにカッコイイですね私。
と、まぁ、そんな事はどうでも良いんです。いきますよ、出でよ、世界的なマジシャン!」
ボックスをアスファルトに投げつけ、白煙が湧き上がる。その中から、サングラスをかけた黒ずくめの怪しげなオジサンが現れる。
何やら手をうねうねと上下左右に動かして、胡散臭さも世界的だ。
「Look at this...」
マジシャンはそう言うと、1枚のストライプのハンカチを取り出し、それを手の中へ入れた。
そのまま、3数えて取り出すと、ハンカチの柄がストライプからボーダーになっていた。
「オー。凄い凄い」
「This is a penですー」
「やんや。やんや」
世界的な手品に改造猫まで拍手し、マジシャンもまんざらではない様に微笑んだ。
次はセクシーな水着を着たパツキンのお姉さんが大きな箱と共にやって来、箱の中へと入って行った。
「Surprise...」
銀色の剣を取り出し、皆に見せるマジシャン、箱の中で「Oh...」と怖そうな演技をするパツキンさん。
思わず見入ってしまうが、彼らを出した本当の理由を思い出し、グリーンが、マジシャンの足をトントンとつつく。
「あのすいません。マジシャンさん。我々を暖めるのは良いので、とっととやってくれませんか」
「Hmm.....」
がっかりしたようにマジシャンは肩を落とし、箱に剣を突き刺して、別のパツキンさんに箱を持って行かせた。
赤い物が点々と続いているが、気にせず手を払い、シルクハットを頭から下ろした。
「Surprise...」
「言われなくても驚いてやるですー」
マジシャンは、太陽の見える方角に歩いていき、沈もうとしている太陽が出ている左側に立った。
シルクハットをその太陽の上に持って行き、さっと太陽に被せる形に置く。手を離すと帽子が宙に浮かんでいる。
本当に太陽をシルクハットの中に入れたように見えるが、マジシャンは空を指差し、
「look...」
隊員達も空を見上げると、星一つない暗闇になっていた。辺りの電気が消えて、本当の暗闇だった。
光が一切ないこの街。全ての影が一つに繋がった。
「行くよー!」
真っ暗で見えないが、オレンジが剣を振り上げたらしい声を上げた。
すぐさまアスファルトを滑るジャリジャリと言う金属音がしたかと思うと、うめき声が聞こえた。
「Bye...」
マジシャンの声がして辺りは再び明るくなって来た。マジシャンは煙の様に消えてしまったが、
代わりに、オレンジの剣で思い切りダメージを受けた影猫が隊員らの足元に倒れていた。
「クッ……オレは……オレは……」
暗闇で相当オレンジが攻撃をしたのか、影猫は立てないほどボロボロになっていた。
「その先はいいたくないが、ヤツの名前を口に出すだけでも反吐が出そうだ……」
「何かよく判んないが、そう自分を責めるニャよ? 影猫」
猫猫はポンポンと影猫の肩を叩いて、ホワイトボードに目をやった。
ほとんどがOFFレン側か改造猫側に問題がある物ばかりだった。この二つが大きな問題だろう。
ハッキリと敗因の主な原因がわかってくると、議論も実にスムーズに進行できる。
「改造猫側の問題は、それぞれ単体で行うからダメなんじゃないか」
「その辺は皆でカバーし合えばどうってことないだろうな」
「となると、問題はOFFレン側になっちまうか……」
改造猫達は、ほぼ同時にうーんと唸った。しばらくして、猫猫が皆の思いを代弁するように一番に口を開いた。
「やっぱり、あれだよニャ。あの箱だよニャ?」
「だなー」
「あれは卑怯にもほどがあるよなぁ……」
「何でも出せるなんてな。ゲームで言う無敵状態だよな」
「つまり、あれさえ使わせなければ、かなりラクになるニャ」
「その辺が問題だけど、さすがに、俺らとのバトル回数が少ないって感じだしー」
「そう、データが足りない。たかだか10数件のデータだと、さすがに細かい分析は難しい」
影猫がそう言うと、おもむろに獣猫がすくっと立ち上がった。そうかと思うと窓を開け、
外に向って何やら野獣の様な、ターザンの様な抑揚のある声を発した。
「な、何だニャ?」
「ついに、おかしくなったかナ。コイツ」
驚きと呆れの二種類の視線を集めながら獣猫は、「すぐ、来る」とだけ言って再び席に着いた。
しばらくすると物凄い地響きと共に会議室のドアが開かれ、そこから数百匹物ネズミが雪崩の如く飛び出してきた。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
思わず、改造猫はテーブルの上に飛び上がりテーブルの周りをぐるぐると流れていくネズミ達を見た。
灰色のうねりは、さすがに猫といえども気持ちの良い物ではなかった。気が付くと、ネズミはいなくなっていた。あっと言う間だった。
「な、何をしてくれたんだニャ獣猫! 会議が嫌なら外に出とけニャ!!」
「違う、よく、見る」
獣猫が部屋の隅を指差すと、肉まんに齧りついたまま呆然と座り込んでいるエコの姿があった。
目が点になった状態とは的確で、まるで置物の様に正座したまま改造猫たちを点の目で見ている。
「おぉ! オオカミ軍団のバカネコだニャ。ニャるほど、獣猫も考えたニャ~?」
「あ、あれ、オレ、テレビ見てたはずなのに……」
肉まんを地面に落とすと、エコはようやく事態を把握し始めていた。
改造猫の中では一番エコとそれなりに仲の良い獣猫が、彼に近づき手を引いた。
「さいぼぐ、こっち、来る。協力、しろ」
「え、きょ、協力? オレが?」
「誰ですか、その子は」
エコが急遽用意されたパイプ椅子に座ると同時に、光猫が眩しい光を放ちながらポツリと尋ねた。
「オオカミ軍団に居候しているヤツだよ。時々、戦うし、一応、悪者だ」
「そ。オレ、結構なワルなんだ」
エコがへらへらと笑ってみたが、彼を知らない初期の改造猫達は、半信半疑の目を向ける。
と、こういう時に限ってちょっかいを出すのが闇猫だ。
「見るからにバカそうな顔だな。オイ、ここはクソガキが来る所じゃねーんだよ」
「なんだとー!」
ここまで言われると、さすがのエコも元ヤンの血が騒ぐのか、闇猫をキッと睨んだ。

「オレはなぁー! ワイルドキャットって言うデカイ暴走族にいたんだぞ。ただのガキじゃないんだ!」
「俺だってな、今では立派な悪魔様だぞ。お前を不幸な目に合わせる事だって出来るんだぜ?」
睨み合いが続く二人だったが、再びそこは猫猫が取り直させ、なんとか再び会議が出来る様に持って行った。
エコは、猫猫から大体の話を聞き、おおむね理解してくれたようだった。
「そう言う事ならオレも協力するよ。この前もOFFレンのヤツらに酷い目に合わされて、いつか仕返ししてやろうと思ってたんだ」
「敵の敵は味方とはこの事だネ」
「じゃ、さっそく聞きたい事があるんだが、良いかニャ?」
「良いけど……オレもピザ食べたいなー」
チラと、初期メンバー達の前にあるピザの空箱を見ると、エコは獣猫にねだる様な顔を向けた。
「猫猫、頼む」
「何でだニャ。何でコイツだけに食わせなきゃいけないのニャ。オレ様だって食べたいのニャ」
「じゃぁ、猫猫も頼めば良いじゃん」
エコの発言は至極全うな物だったが、極貧のワープアである猫猫にとってこの発言は上から目線の何者でもなかった。
しかし、エコの隣にいる獣猫が、さりげなくその鋭い瞳を猫猫に向けて、拒否するには難しい状況だった。
「……仕方ないニャ。その代わりSサイズにしろよニャ?」
「えー、小さい奴ぅ? だったら良いや。ケチ」
「このクソ野郎がぁぁぁぁぁぁ!」
エコに飛び掛っていこうとした猫猫を獣猫が適当に処理し、事は一応穏便に済んだ。
それから猫猫が気を取り戻して、なんとか話は再び元の路線に戻ってきた。
「では、この中で最もOFFレンと接触経験のあるキミに聞かせてもらおう。ズバリ、OFFレンの弱点は何だと思う?」
影猫の問いに、エコは眉を寄せて"考えている風"のポーズを取った。
しばらくすると、自信のなさそうな顔をして口を開いた。
「えぇと、多分だけど、すっごい強い敵じゃないかなぁ……?」
「強い敵?」
「うん。だって、オレの所もそっちの所もやられてばっかだし。だから強い敵と戦わせれば勝てる!」
「……ちょっと質問の仕方が悪かったようだな。キミ達は今までOFFレンを苦戦させた事はあるかい?」
「えーと。あったと思う」
「じゃぁ、その事の話を聞かせてもらおうか」
「判った」
エコは、両手で頭を抱えて少ない脳みそからその時の事を思い出そうとした。
「確か……あれは」
「クソッ……テメーら一人残らずぶっ殺してやる!」
悪エコは、急いでリモコンを操作し、マシンを隊員の方に向けて発信させた。
急発進したマシンは砂を撒き散らしながら突っ込んできた。
隊員達は間一髪で避けるが巨体なマシンだと言うのに小回りが利き、すぐにまた突っ込んでくる。
「ハーッハッハッハ! 逃げろ逃げろ!」
マシンから延びた幾本ものアームからはノコギリや刃物等の危なっかしい物が出ている。
まさに走る殺人兵器といった危険な代物。隊員達は逃げるだけで精一杯だった。
「ぶ、ブルー! ボックスを出してください!」
「そ、それが本部に忘れてきちゃったんすよー!」
「はー!? 何やってんのさ! 隊長として恥ずかしいよ!」
「レッドがそんなの置いてって良しって言ったんじゃないすかー!」
「おぉ、お前結構やるんだニャ!」
「違うよ。これはオレじゃなくて悪エコの話。前に悪エコと話が出来た時に聞いたんだー」
「巨大な物はシンプルながら確かに脅威だ。その悪エコと言う人物は割と計算しているんだね」
「頭良いからねー。悪エコ。性格すっごい悪いけど」
「それにもう1つ、良い話を聞くことが出来た」
「いやー、それほどでもないよー。なんてったってオレはサイボーグだもん!」
エコの話が思ったよりも好評だったせいか、エコも満更ではなさそうにしていた。
「で、影猫。もう1つの良い話って何なのさ?」
「ボックスの管理者がOFFブルーだと言う事だ。これは、意外と気付かれていない事実だからな」
「なるほど。言われて見ればアイツからボックスが良く出てくるって感じ……」
「だったら、ブルーを何とかすれば案外スムーズに行くんじゃね?」
「それが一番良いかも知れないニャ」
「でも、たまに違う隊員が持ってたりするよ」
エコの言葉に、せっかく方向性が見えかけていた話題にズブリと刃物が差し込まれた。
するとそのエコの言葉を後押しするかのように獣猫がポツリと言う。
「俺、OFFレン、転送装置、ボックス、出す、見た」
「ニャぁぁ! そうだニャ。ヤツら、携帯型PCとか言うフザケた物を持ってたニャ」
「だとすると、ブルー一点集中してもほとんど無意味か」
会議室は、無言になった。どっちにしろ、向こうは正義の味方としては整いすぎているのだ。
どうしようもないのだ。もう、こんな会議は無意味だ。そんな空気が漂っていた。
「何とか、ひねりだすニャ。皆は一般人じゃないニャ? 改造されて特殊能力を身に付けているんだからニャ」
「そう言ってもなー」
「やっぱり、ここはトコトンOFFレンの分析をするしかないでしょうね」
光猫の言葉に影猫も静かに頷いた。
「分析分析って、これ以上、何を分析するんだニャ?」
「色々あるじゃないですか。例えば、彼らの戦い方のパターンとか」
「だーかーらー、分析するにはサンプルが少ないんだっつーの」
「簡単に分析するには十分な数があるかと」
光猫は、スクッと立ち上がるとホワイトボードに何やら不可解な計算式や図形を書きながら、
「例えば、ここにいる全員とのバトルにはある共通点が存在しています。皆、バトルが始まって、
大体30分以内に倒されています。ボックスが登場するのはやられる5分前」
「そうか。アイツら最初はボックスを出さずに普通に戦ってくるな」
「ボクの時もそうだったのさ!」
「ヤツらは異端っぽく見えても、結局は王道パターンを踏襲してたって事だネ」
光猫はコクリと自信満々げ(どう見ても無表情だが、頑張ればそう見える)に頷いた。
「そうです。こんな風に僅かなサンプル数でもこういう事を割り出すことは可能なのです。
大事なのは、仮定を出し、それを実際に検証して行く事。科学はそうして発展したんですよ、皆さん」
光猫がそう言うと、改造猫らも最もだとばかりにウンウンと頷いた。
「じゃぁ、とにかく開始5分で決着をつけるようにすれば良いんだニャ?」
「そう言う訳にもいかないでしょう。我々全員向かっても人数的にはトントンです」
「何だニャ……」
「使えさせないような状況に持っていけば良いんじゃないか?」
「だったら、俺様の灼熱の炎で塵にしてやるぜ!」
炎猫が自信満々にボッと手のひらに火の玉を出して見せたが、闇猫が嘲笑気味にそれを否定した。
「でも、お前は炎で負けてるからな。余計早くボックスを使われたらどうする」
「ぐっ……」
「人質を取れば良い。悪としては、基本中の基本だろ。隊員を適当にさらうなり、そうだ。お前の催眠術で操るとかな」
闇猫は、眉をくっと上げ、いかにも"冷静的に的確な意見を出す人物"らしい表情で操猫を見た。
だが、操猫は突然お腹を抑えながらキヒャキヒャと笑い出した。
「馬鹿だネー。この人。俺がその戦法を取らないと思った訳? ってか、俺はそれで負けちゃったんだヨ?」
「それは、お前の能力が未熟だからだ。途中で催眠が切れたりでもしたんだろう」
闇猫は内の怒りを抑えながら、なおも冷静的に発言し、操猫よりも優位に立とうとしていた。
しかし、今度は操猫が床を転げまわって笑い出したので、我慢の限界だった。何よりも笑い方が腹が立つ。
「何だお前は! 俺の力でとんでもない目に会わせてやるぞ!!」
「あー、あーぁー。笑った笑った」
操猫がテーブルによじ登ると、いかにも馬鹿にした顔で闇猫を見た。
「あのさー。そんな事で倒すことが可能だったら、こんな悩んでない訳ヨ。奴らを普通の固定観念的ヒーロー像で見ない事が大事。
一般人がヒーローごっこしている様なもんなんだから、フィクションの作られた正義のヒーローじゃない事ぐらい知っとこうネ」
「キヒャヒャヒャヒャ……! 歓迎するヨ」
パチンと指を鳴らすとクリームはレッド達の方を向いた。その虚ろな目を見るだけで隊長は悔しくなった。
クリームはグリーン達同様に素早くガトリングを乱射しながら隊員達に攻撃をしてきた。
「わっつ! クリーム、しっかりするんだー!」
頼りの綱が敵に操られているとなると、もはや全てはレッドの判断だ。
無駄な労力を使う前にOFFレンボックスを使うしかないとレッドは即断したが、問題が山積みなのにすぐ気付いた。
攻撃を避けるので精一杯で、しかも下手に近づけばクリームの様に操られる。何かを召還しても操られるだろう。
飛び道具を使うにも距離が遠くて難しい。それ以前に隊員達がいる。何だ。倒すのは不可能なんじゃないか!とレッドはまたもやパニックになりそうだった。
「キヒャヒャヒャヒャ……! 仲間同士で相打ちだネ。愉快だネ~。もっともっとやればいいヨ!」
操猫の狂ったような笑い声が金属音に混じって廃工場に響く。
「キミらは黙って俺の言う事だけ聞いておけばいいのにネ」
仲間を倒す訳には行かない。敵はそこを突いてきている。卑怯だ、卑怯すぎる。レッドは歯痒さに顔を歪めた。
その時、レッドの頭の中にある考えが閃いた。何だ。解決策があるじゃないか。簡単じゃないか。レッドはこの考えに勝機を見出したのだ。
「皆、隊員達を攻撃して!」
「え! で、でもそんな事をしたらグリーン達が……」
「大丈夫! 僕に任せて!」
レッドの声に隊員達は一斉に防御を解き、隊員達に攻撃を始めた。
隊員達は攻撃を食らって奥へと吹っ飛んでいった。
「今だ!」
レッドは、側に落ちていた鉄パイプを掴んで隊員達に突っ込んでいった。
そして、起き上がろうとする隊員達の頭部を鉄パイプでこれでもかと殴りつけた。
「うおおおおおおおおおおお!」
グリーン達は、さすがに頭部は弱かったのか白目をむいて気絶してしまった。
ヒクヒクと痙攣しているグリーン達を満足げに見るとレッドは操猫をキッと見た。レッドは怒っていた。
「……ば、バカな。お、お前らの仲間になんて事をするんだヨ!」
初めて動揺の色を見せた操猫(もちろん隊員も動揺していた)は、後ずさりをしていた。
「……僕らの仲間を操って、そんでもって僕らを苦戦させようとするなんて酷すぎる……でもね」
レッドは鉄パイプを放り投げて操猫に向って大声で叫んだ。
「正義の味方も最後の最後には我が身可愛さだって事を忘れるな!」
怒りの叫びを放つレッドの言葉に隊員達は一瞬、正論の様に聞こえてしまったが、
よくよく考えれば滅茶苦茶カッコ悪い事を言ってるぞと思っていた。
「……ネ? こんな事されたら、もうどうしようも無いでしょ?」
操猫の話を聞いて、全員改造猫達はドン引きしていた。
エコのみが、ぽかーんと口を開けて窓の外を眺めているだけだ。
「どうすりゃ良いニャ! アイツら正義の味方だからって好き勝手やりすぎだニャ!!」
「ここまで来ると相当面倒な事になりそうだな」
「やっぱり、大まかに見ないで個々の分析が必要になってくるでしょうね……」
「めんどくさそうだニャ……」
「行動パターンを把握するには、隊員の分析が必要です。と言う事で、これから各隊員を考察してみましょう」
「俺もそれには賛成だ。何と言っても人間の行動は不可解だからな」
同じ知的メンバーの影猫が同意すると、特に異議を唱えるものは出なかった。操猫が少々悪態をついていたくらいだが。
「そうですね。まずは、サブメンバーから行きましょう。先ほども話題に出たブルー隊員」
「だから、あんまり知らないってー」
「何でも良いんですよ。些細な事でも、他愛のない事でも、こういう場では質より量が基本です」
そういわれても困ると言う顔の改造猫らだったが、真っ先に獣猫が口を開いた。
「……アイツ、青い」
皆、獣猫を呆れた顔で見ていたが、光猫は「ほぉ」と言う顔(頑張れば見えます)で、
「影猫、書いて下さい」
と、ボードに情報を書き入れるように命じた。ホワイトボードには「青い」と書き込まれる。
「そんな、どーでも良い事でも良いのかニャ?」
「だったら、男。とか、哺乳類とか、別に何でも良いんじゃね?って感じー」
「発言することが大事なのです。印象でも構いませんよ。そこのアナタは如何ですか?」
今まで黙っていたエコは、突然自分を指されてビクッとし、恐る恐る発言をした。
「えぇと。いっつもマンガ読んでるような……」
「なるほど、マンガ好きですか。これは良い発言かもしれません」
「別に、マンガくらい誰でも読むニャー。オレ様だって時々読むしニャ」
「会議中は他人の発言にダメ出しをしない事」
「ハイハイ、判りましたニャ。じゃー、オレ様も1つ言わせてもらうニャ。ヤツは語尾に良く"っす"を付けるニャ」
改造猫は、猫猫の発言によほど同感したのか、激しく頷いて同調した。
写猫までもが、ブルーの姿に変身して「そうなんすよー」等と口調を真似し始めた。
すると、エコがまたも大げさに「あぁっ!」と叫びながら立ち上がる。
「忘れてた! オレ、ドラマ見なきゃー!」
「そんなの録画しとけばいいだろー」
「ダメだよ、アジトにビデオデッキ無いし、DVDは見るだけのしかないもん」
エコが椅子から飛び降りて部屋を出ようとすると、サッと光猫がその前に立ちはだかった。
「な、なにすんだよー。オレ、急いでんだぞー」
「……ただで返す訳にはいきませんよ。何か良い情報、またはそれに変わる物が無ければね」
「そんな事言ったってなぁ……あ、この前、OFFレンジャーが「カシツキ」ってのを買いたいって話してたらしいよ! じゃ!」
満足げに帰ろうとするエコだったが、光猫はさっと身を動かしてエコを通せんぼする。
「それはさすがにどうでもよさ過ぎます」
「なんなんだよぉー! オレちゃんと言ったのにー!」
「じゃぁ、こちらから質問させてもらいましょう。加湿器購入の話をしてた"らしい"と言う事ですが、誰に聞いたんですか?」
光猫としては、情報を導き出すための導入口に過ぎない質問のはずだった。
しかし、エコはその質問をされるなり、ハッとした顔を一瞬見せた。明らかに「マズイ」と言う表情だった。
「……えーと、えーと。オレが自分で聞いた。さっきのは、間違い」
「明らかに何かを隠してますね。私には判ります。秀才ですからね」
「ホントだよ。オレ、ってバカだからさー」
光猫は、何やら悪戯っぽい笑みを浮かべ(何とか見えます)フッと鼻で笑った。
「では、さっきからあなたのしっぽが左右に振られているのは何故ですか?」
「ふぇ?」
「アナタは嘘をつくと、しっぽをつい動かしてしまう。自分では気付いてないかもしれませんが、判りやすいクセです」
「オレには、そんなクセなんかない!」
「ホラ、次は鼻がヒクヒクしてますよ。これは、嘘がバレそうになった時に無意識にアナタがやるクセです」
「うぅ……」
エコが心配げな顔で鼻を触った。息を吸うたびに鼻が動いている。
遂に観念したのか、シュンとして、
「お、オレにそんなクセがあったなんて……何で知ってたの?」
「私は頭が良いから判るのです」
「そっかぁ……オレ、バカだからなぁー」
と、完全に自分が今まで嘘を付いていた事を認めた。
光猫は、エコのおバカさに逆に関心しつつ、さっきの質問を再びエコに尋ねてみた。
すると、エコは何やら笛みたいなのがいると言い始めた。
「それがないと呼べないんだよ」
「縦笛ですか?横笛ですか?」
「草笛じゃね?」
「犬笛、俺、出来る」
その場は、笛の正体が何かであるかで一時騒然となった。
エコに聞いてみてもチグハグで、説明が下手で何が何だか判らない。
「だからー。白いんだよ。穴があるんだよ」
「もっと具体的に!」
「"ぐたいてき"って意味が判んないよー!」
「もっと詳しくって事ですよ」
「えぇと、吹いたらピョーとかピィーとか音がするんだよ」
「それはどの笛も大抵そうなのさ」
このままでは拉致が開かないと判断したのか、ふわっと浮かび上がった変猫。
突然、空中に尻尾の筆でさらさらと絵を描き、それを実体化させていった。
パラパラちとテーブルの上に落ちてくるのはリコーダー、フルート、ホイッスル、
ラッパやトランペット……尺八まであった。
「こんだけありゃ、どれかは当たってるだろ」
「さすが変猫だニャ! オイ、この中に例の笛はあるかニャ?」
エコは床の笛を拾い上げ見て言った。それにしても精巧に出来ている。
変猫の画力も相当高いと見えて、改造猫達までも拾い上げて関心するほどだった。
「あ、あった。これだよコレ!」
エコが机の下から拾い上げたのはオカリナだった。白い陶器で出来ており、
裏面のデフォルメ化された変猫がVサインしている絵を見ると変猫の余裕さが窺える。
「これで、何か曲を吹けばいいんだニャ?」
「うん。えーと、~♪~♪」
エコが何やら下手なリズムでハミングを始めた。これを吹けと言う事らしい。
しかし、改造猫らも元々は普通の一般人。オカリナなんて吹いたことが無い。
「影猫、どうだニャ? 吹けるんじゃないかニャ?」
「残念ながら、俺が出来る楽器はバイオリンだけだな」
「お前は金持ちかニャ!……写猫はどうだニャ?」
「俺はリコーダーすら覚えてるかどうかって感じー」
「ボクは、ピアノなら少し習ってたのさ」
「そんなんじゃダメなのニャ! オカリナじゃなきゃダメなのニャー!」
全く適任者がおらず、困っている所へ、獣猫が恐る恐る手を挙げた。
「俺、出来る、多分」
「おぉ、さすがだニャ! やっぱりワイルド派は違うニャー」
獣猫はオカリナを手に取りそっと口をつけた。獣猫の外見とオカリナは妙にマッチしていた。
ジャングルの奥地にでもこんな人物がいそうな印象だ。
「似合うニャー。獣猫」
「スナフキンっぽいなー」
「それはハーモニカだよ。バカだネ」
「獣猫、カッコイー!」
まだ一吹きもしないうちから、エコまでも一緒になって獣猫を褒めていると、
本人も少し照れているのか、怖い顔のまま少し顔を赤らめていた。変な光景だった。
「良いから、早く吹けよ」
と、闇猫が言うと、ようやく獣猫も落ち着きを取り戻しエコのハミングした曲を吹き始めた。
実に綺麗な音色で、例えるならば青い海をカモメが渡っていくような雄大かつゆったりとした曲調だった。
「上手いじゃねーか、獣猫」
「それで、食ってけば良いんじゃねーの?」
「で、これ吹いたら何が来るのさ?」
「んーもうすぐ来ると思う」
エコがそう言うので、皆は突然息を殺し、じっと聞き耳を立てた。
外を通る車の音が聞こえる。何やら遠くでどこかの小学校のチャイムの音がする。休み時間だろうか。
今、この場では、改造猫十数名が、耳をピンと立てて少しでも何かを聞こうとしている。皆、子供みたいな状態だ。
と、外で何やらコツコツと階段を昇る音がした。それは徐々に近づいてくる。
廃ビルな訳だから、誰か部外者が来る事はない。となれば、それが例の人物なのだろうか。
皆、どんな奴が来るのか、表には出していないが内心ワクワクしていた。
ある者は、マトリックスの登場人物みたいな男を、またある者は、怪しげな呪術師の様な姿を想像する。
と、足音が会議室の前で止まった。エコ以外の全員が同時に息を呑んだ。
「あ、入っていいよー」
エコの間延びした声の数秒後、ドアノブがガチャと廻った。ゆっくり軋んだ音を立てながら開いた。
ドアが開き、ゆっくりとその人物は入ってくる……。
「えぇーーーーっ!?」
入ってきたのは、今まで話をしていたOFFレンジャーの一隊員、ライトブルーであった。
ナウなアロハシャツが妙にこの場に映える。ライトブルーを見るなり、改造猫達はさっと身構えた。
しかし、ライトブルーは、「あっ、大丈夫だよ」と言うと顔の前で否定の意味で手を左右に振った。
「何が大丈夫なのニャ! お前、OFFレンジャーだニャ? オレ様達の敵だニャ、敵!」
「本当に、大丈夫なんだよー」
エコが言うと、ライトブルーもニコッと笑った。
「実はね、オイラも仲間なんだよ」
「えぇっ!?」
「オオカミ軍団のスパイのシアンって言ってさ。数年前からお世話になってんだよねー」
「もー。どうしてそんなにみんなオイラを疑うのさ~!あんなに謝ったじゃないか……」
「……上手く隠したつもりかもしれませんが虎柄……うっすらと見えますよ?ライトブルー
い、言えない……元に戻るのが怖くて結局ドリンクを飲ませてもらったなんて……。
やっほー!オイラ、ライトブルー!
今オオカミ軍団の一員になってたりするけど結構頑張ってるんだなぁ。これが。
さてと、今日もOFFレン本部へ向うとしますか……。
「最初は、気まずくて通ってたんだけど、何か気が付いたらオオカミ軍団の一員として教育されててさ。
で、オオカミ軍団のスパイ部隊に入れてもらったんだ。悪者組合にもちゃんと登録されてるよ」
ライトブルーはそう良いながら、再びポケットからドリンクを出し、ゴクゴクと飲んだ。
「ぷはー。ウマイ」
「それ、何だニャ?」
「虎化ドリンクだよ。定期的に飲まないと、力が発揮できなくって。……で、オレを呼んだ理由は?」
「ねぇ、シアン。オレ、ドラマ見に帰るからさー。代わりにみんなにOFFレンの事教えてあげててよ。
何か、OFFレン倒す為の計画を練ってるんだってー。じゃ、後はよろしくー」
エコは、ごくごく自然にそう言うとトコトコと急ぎ足で部屋を出て行った。
改造猫らはまだ信じられないのか、すっかり悪者風のライトブルーをまじまじと見ていた。
「さーてと。OKOK。このシアン様が来た以上、安心して良いよ。スパイと言っても、
単にOFFレンの情報を横流しするだけだから。怪しまれても無いしね」
ライトブルーこと、シアンはフフッと笑って、椅子に腰掛けた。
「ニャるほど……だったら、OFFレンの事は……」
「ま、ライトブルーが知ってる事は、知ってるね。そうだな。例えば、パープルの弱点はどう?」
「な、何だニャ。それは」
「彼女、極度の方向音痴なんだよ。で、たまに変な所に迷い込んだりするのさ」
「私は全然……ただでさえ方向音痴ですから……」
パープルも困ったように肩を落とす。しかし、その言葉にグリーン隊長の脳みそが大幅にフル回転することとなった。
「……そ、それです!パープル隊員!」
「え……?」
「いいですか?パープルと一緒にこの街を探索するのです」
「はぁ……」
「パープルは方向音痴。普通な道を歩くはずがありません!きっと冥王星気が付けば冥王星にくことが出来ますよ」
喜んで良いのか解らないパープルと同じく他の隊員も少し不安そうだったがこの際かけてみるしかないという事になった。
「それでは今から準備しますね」
なんだか変な成り行きで、パープルを先頭に他の隊員の体を荒縄を巻き付け汽車ごっこの要領で尾布市を歩いて回ってみることにした。
女子隊員からの猛烈な抗議があったが次第に眠気が襲ってきたようで別段恥かしさも薄れた頃ようやくOKが出た。
「しゅっぽしゅっぽしゅっぽっぽー♪」
とぼとぼと尾布市内を歩き回るOFFレン。シェンナだけが妙に嬉しそうに汽車ごっこをやっていた。
途中でクスクスという笑い声や罵声が飛んでき始めてつい先頭のパープルは走り始めた。
「わっ!パープルどうしたんですかっ!」
慌てて後ろの隊員たちが引きずられそうになりながらもパープル同様走り始めた。
確か商店街を走っていたはずなのになぜか紫色のぐにゃりと曲がったアーチや、
金色に光る粉がキラキラと光を反射しながら飛び回る花畑など見たこともないような場所をOFFレン達は走っていた
「あっ!ストップ!ストップ!!」
明らかに地球ではない紫色のでこぼこした土地に気が付いて誰かが声を上げた。
慌ててパープルが足を止めるがこの星にも慣性の法則が適応するようで見事将棋倒しになってしまった。
「……イタタ。 まさか本当に冥王星に来てしまうなんて」
「方向音痴ってある意味超能力なんですねぇ……」
「判った! ボクの時もきっとソレだったのさ! じゃなきゃ突然にお社に来れるわけが……」
その話を聞いて化猫が、意外な事の真相に驚きつつ、恐怖していた。
「そんな、能力(?)って言うか、方向音痴もそこまで行くとまさに才能だニャ」
「でも、その間に、どこか行ってくれれば万々歳だぜ!」
「意外な弱点だネ……」
「でしょ? オレの事信用してくれた?」
改造猫達はお互いに顔を見合わせて、一様に頷くと、猫猫はガシッとライトブルーこと、シアンの手を握った。
「OFFレンジャー自身が協力してくれるなら、これ以上、心強いことはないニャ。よろしく頼むニャ?」
「OKOK。ま、オレに任せてよ。OFFレンを倒すのは、ライトブルーならともかく、シアンにとっては嬉しいことなんだからね」
ニヤリとシアンが微笑むと、思わず周りの改造猫達もフフフと怪しげな笑みを浮かべた。
まさか、ここでとんでもない事になっているとはOFFレン達もお釈迦様でもご存知あるまい。
「じゃ、早速、OFFレン隊員をどんどん分析して行くニャ!」
「オー!」
改造猫達は急いで席に着いて、今すぐにでもOFFレンを倒す計画を早くも始めようとして内なる力がみなぎっていた。
「あ、ちょっとSTOP」
「何だニャ!? どうしたニャ!?」
「ドリンク飲み終わるまで待ってて」
「そんなのほっとけニャー!」
「切れたら、ライトブルーに戻っちゃうけど? それでも良いの?」
さすがにそう言われたら猫猫も文句の良い様がない。
シアンは再びドリンクをゴクゴクとストローで飲み始めた。
「あー。美味しい……」
ドリンクを飲み終えたシアンが、立ち上がると彼の姿は水色の虎猫へと変化していた。
「これが俺の本当の姿さっ」

ニヤッと微笑むシアンの姿を見ると、改造猫達はとても安心した気がした。
それは、悪者同士にしか感じられない一種のシンパシーのような物だった。
「……で、ここに、俺が集めたデータの数々がある。これで一人ずつ分析して行こうじゃないか」
そしてホワイトボードの前に立つと、彼はどこからか一枚のDVDを取り出した。
シアンはDVDをデッキに入れると、すぐさま映像が始まる。
改造猫たちは皆、身を乗り出してその画面に注目する。まず最初に登場したのはグリーンだ。
「OFFグリーン。一時は隊長代理を務めるほどの実力を持つ。性格は大人びてドライな所がある」
「グリーンはニャー。結構、キツい事平気で言う時があるからニャ…」
「美的感覚が狂ってるんじゃないんですか」
「私が本気になればあなたなんてどうにでもなるんですよ!!」
「感受性が死滅してるんじゃないですか!」
「馬鹿ですか」
「眼中からいなくなってくださいよ」
「……ぶち殺すぞテメェ」
「オイそこの虎」
etc...etc...
「昔は、かなり純粋な感じって聞いたけど、ホントかね……」
「コイツに弱点なんかあるか?」
シアンはその言葉を聞くと、ニッと笑って強く頷いた。
「BC団は知らないだろうが、OFFレンならば誰もが知っている。最大の弱点。それは……」
シアンは画面を指差すと、そこには、白と黒の縞模様の猫が一匹映っていた。
「コイツだ!」
「ぐ、グリーン……」
真っ白な体になっているホランが真横に立っていた。
ホランは恥ずかしそうに枕で顔を書くし側のデスクにあるドウランを手に取り模様を書き始める
今のうち逃げたいのだが体が思うように動かない。
「白虎さんが言ってた通りだ♪グリーンの方が来てくれるなんて……」
「あ、あのー……」
「今夜は寝かさないよ……♪」
ホランは布団を被りグリーンの方へ体を寄せていく。
「グリーン……♪」
「ちょ!ちょっと!?ホランさん!?」
ホランの手はグリーンの顔から段々下の方へと移動していく。
ホランの荒い呼吸が聞こえてくる。グリーンの顔が引きつっていくのが解る
「あ、コイツ!」
「そう、奴の名はホラン。会社を経営するほどの優秀な頭脳、猛獣とも互角に戦える体力を持ちながら、
実はショタコンのホモで、グリーンにゾッコン。しかも、相当クレイジーなド変態だ!」
ボロクソに言うシアンだったが、改造猫の中には、意外そうに見る者もいた。
「黙ってれば、腹立つくらい良い男なのにネ」
「でも、こんな秘密兵器があれば、グリーン攻略は楽勝そうだネ」
「いや、待てよ。ソイツが苦手なのはわかったけど、どうやって使うんだよ?」
「それは、写猫に頑張ってもらうニャ」
写猫の能力を使えば、確かにホラン本人でなくても相手に相当なダメージを与えることができる。
「ま、運良く俺のネガの中にコイツの物もあるし? 任せとけって感じ」
「ただ、本物はドが付く変態だからネ。写猫、ホモプレイ頑張ってくださぁ~い」
「操猫。もうちょっとオブラートに包めニャ。ホモごっこぐらいにしとくニャ」
「ホモる、これ、良い」
「……もう良いよ。気乗りしないが、倒すためには仕方ないって感じ」
「では!……一人目は攻略って事で良いですね?」
シアンはパンパンと手を叩いて、ホワイトボードに『グリーンの弱点-〇」と書き入れた。
「おぉ、何か簡単に感じてきたな」
「これならOFFレンを倒すのも朝飯前だぜ!」
幸先が良いと改造猫のモチベーションも見るからに上がってくる。
と、次に画面に現れたのはイエロー隊員だ。
「次はイエロー。OFFレンの中では最年長。理系人間で、薬品やメスの扱いに慣れている」
「刃物とクスリかー。マッドだぜ」
「趣味は解剖」
「趣味が解剖!?」
「今日は何するんですか?」
「肋骨に作りかけの彫刻があったから、今日、どうしても完成させたくて。イエローって彫ってるの」
「はぁ……」
早速麻酔が効いてきたようで、手っ取り早くメスを入れる。
久々の感触にイエローの興奮は高まる。
早速肋骨が姿をあらわにし、肋骨の上を丁寧に彫刻等で「イエロー」の「ろ」の字で仕上げにかかる
意外と彫刻は早く出来上がり、シルバーの肋骨にはイエローの文字がうっすらと見える。
「……そうだそうだ」
ついでにその下に文字を彫っておく事にした。
『ごめんね。シルバー』と。
軽く彫るだけだから楽だった。
「データでは、学校で動物を解剖中に腹の中の赤ん坊まで解剖して周囲にドン引きされたらしい(実話)」
「末恐ろしい女だニャ……勝てる気がしないニャ」
「そんな事ないでしょう」
光猫がそう言うと、影猫も同感らしくコクリと頷く。
「解剖が趣味で相当のめり込むと言う事は、その間は無防備」
「でも、メスを持ってるニャ?危ないニャ?」
「後ろから襲えばなんとかなる。俺の力を使えばそれも可能だ」
影猫がクイと指先を曲げると隣の席にいた化猫の影が伸び、本人を羽交い絞めにする。
「ぐぇっ!?」
「……こんな風にな」
素早い動きのおかげであっと言う間に化猫の身動きを封じる。
影さえあれば良いのだから、これなら相手がメスだけでなく拳銃を持っていても平気だろう。
「んじゃ、イエローの弱点もこれでOKと」
「シルバーもよく実験台にされるそうだ。つまり、シルバーの解剖中に襲えば一石二鳥だ」
「それもそうだニャ! じゃ、二人いっぺんに攻略だニャ!」
イエローの弱点を書き込むと、改造猫のテンションもどんどん上がる。
猫猫などは、ぎゅっと握りこぶしを作って、全身で貧乏揺すりしながらワクワクしている。
「次は……オレンジ」
「オレンジって……あの銀髪かニャ?」
「……それじゃぁ今年の抱負は何にしますか?オレンジ」
「えーと。えーと。廊下を走らな……い?」
「ホント最高。聞きましたか皆さん。今時廊下を走らないですって」
「……ぅぅ」
「誰かこの奇形銀髪と違う考えの方いませんか?」
「(き、奇形銀髪……)」
「あぁ、あの変な髪の」
「あぁ、あの髪のヤツね!」
「へー。あの変な髪のヤツオレンジって言うんだなぁ」
「あーもしもし、今開けてあげますからね。逃げ出さないでくださいよ?」
グリーンの声を聞きドアを叩く音がピタリと止まった。
それを確認するとグリーンはオレンジに目配せをする。オレンジは黙ってドアのまん前に立つ。
「……オレンジ、隊員たちの配置は終わりましたか?」
「う、うん」
「じゃ、あけますよ」
グリーンが針金をゆっくり外していく。
するとまだ完全に取り払わないうちにドアが勢い欲開いて少年が飛び出してきた。
「オレンジ!」
「あ、う、うん」
しかし、少年のタックルを受け切れなかったオレンジは壁に激突して頭を打った。
「チッ!やはり銀髪小僧は使えませんね!」
「で、弱点は何だよ。えーと髪の弱点」
「そりゃ、髪だぜ」
「あぁ、髪を掴めばなんとかなるだろ」
「ゲームでも、大抵目立つ部分が弱点だからな」
全改造猫が同意見のようで、議論も無いままオレンジの弱点は髪にされてしまった。
実際、本当にあの髪の毛が弱点かどうかは判らないが、そう思わせるだけの何かがあると言うことだろう。
「サクサク進むな~サクサク。やっぱ先輩の知恵が必要ってことだな」
雷猫が、背伸びをしながら椅子にもたれ掛かると後輩の改造猫たちは何も言わなかった。
当然、身も心も悪者の彼らにとって、一番貢献しているのは自分達だと思っているからだ。
「いや、俺だろ。俺」
空気を読まずに、闇猫が立ち上がって、自信満々の表情を皆にアピールし始める。
隊員の考察が始まって、まだ彼はろくに意見をだしていないのにこの自信。狙っているのだとしたら天才的だろう。
「ろくに意見を言ってないヤツがバカなこと言ってるネ」
似たもの同士の操猫が、ニヤニヤしながら闇猫に突っ込みを入れる。
闇猫は「やっぱコイツ嫌いだわ俺」と言う顔でチラと操猫を見返す。
「……そんな話はどうでも良い。くだらない事を言っている暇があれば次に進めるべきだろ」
今度は影猫が立ち上がってさらに場の空気を悪化させる。
どの期の改造猫も、4人目は皆、傾向として同じように性格が多少キツくて口が悪いらしい。
操猫と闇猫が正論を言い放った影猫に噛付こうとした時、ドン!と獣猫が机を叩き二人を黙らせた。
「……それ、終わる、話、進める」
ギロッ、と名前通りに獣の目を光らせられると、さすがの二人も思わず口をつぐんだ。
そして、お互いに「こんなバカを相手にするほど俺はバカじゃないよな」と言いたげに、フッと鼻で笑うと同じタイミングで席に着いた。
「じゃ、次は、ホワイトのだ」
「あのオトコ女かニャ…弱点なんか全然なさそうだニャ?」
「アイツの武器知ってるか? ブーツにナイフを仕込んでんだぜ。マジヤバイだろ」
「馬鹿っ!何やってんのよっ!」
ホワイトはシャンプーを足で蹴り上げるとグリーンのほっぺたに氷水の入った袋をそっと当てた
「なんですか……このシャンプーは……」
あまりの痛さの為だろうかすこし暗い声でホワイトに言いかかった。
「えっと、その……用心棒の押し売りって言うか……」
「あっしは今!恩返し中なんだ!わかったこの緑野郎!」
「あんたはうるさいのよ!黙ってなさい!火ぃつけるよ!」
「す、すいやせん……」
グリーンはすこし考え込むとホワイトにこう言った
「私は、腫れが引くかその乱暴なシャンプーがいなくなるまで!ホワイトの側から消え去るまで!ここに来ませんから」
「え!ちょっと、隊長……」
「私が来なくても貴方にはブルーがいるでしょうが!ブルーがぁぁ!」
そういうとブツブツ文句をたれながら帰っていった。
こういうときのシャンプーの態度が非常にムカつくのであった
「おととい来やがれ!……グエッ!!」
足でシャンプーを踏みつけたら少し中身が出た。
「……荒っぽいからな~。どうすれば良いか」
「正攻法じゃキビシイかもネ」
「それなら、ご安心を」
シアンはそう言うと、もったいぶるようにしばし間を置いた後、ニッと笑った。
「対象を攻めるのが難しい場合、どうすれば良いか。みんなは悪者なんだから判るよね?」
「そりゃ…家族とか友達とか、身近な者を攻める」
「悪の鉄則なのさ」
シアンは、100%の答えにうんうんと頷いた。
「では、ここにブルーを入れましょう」
「は?」
「オレの予想した所、ブルーはホワイトに気がある感がある」
「ホントか?」
「あくまで本部内のたわいも無い噂だが。少なくともブルーがホワイトに弱いのは確かだ」
「じゃ、ホワイトもブルーに気があるかもしれないって事だニャ!?」
「いや、それは違うと思う」
「何だよ…」
「みつからないなぁ……」
「あ、そういえばあの後自分のペンダントにしまいこんでたような」
女子隊員が思い出したようだ。そういうことはできれば早く言って欲しいと傷だらけの男子達は思った。
「とりあえずタイガの暴走を止めるには!女子隊員のみんなしかないだろう」
「えぇ~!?私達が!?」
「とりあえずセクシーポーズでも熱い吐息でもなんでいいからやってよ」
「何でグリーンそんなことしか思いつかないわけぇ……」
「何でもいいから!!」
女子隊員はしぶしぶとタイガに歩み寄った
「ハイハイタイガくん~いい子だからそのペンダントみせてくださいね~♪」
ホワイトが今まで聞いた事のない優しい声を出したので男子隊員は鳥肌が立つ。
ホワイトがキッとにらむと逆に冷や汗が出てきたが……
「にゃ~ん♪」
タイガがホワイトのひざでゴロゴロと甘え始める。
「(ぶ、ぶっ殺す……)」
このときブルーは彼に殺気だった。
「フン、男って本当にウブだな」
雷猫が一笑に付すと、そんな彼に炎猫がそっともたれ掛かる。
「俺様も実はウブなんだぜ。雷猫」
「どこがだよ。炎猫」
「いじわる言うなよ雷猫」
「お前が可愛いからいじわるしたくなるんだよ炎猫」
「俺様もそんな雷猫にいじわるしたくなるぜ」
「じゃ俺も……」
「ハイハイハイハイ! 雷猫先輩も炎猫先輩もイチャつかないでくださいニャ!」
放っておけばいつまでもバカップルになっていそうな二人を制止すると、
猫猫は完全に場が静まったのを確認してシアンに「続けて」と手を差し伸べた。
「ま、つまりこんなベッタベタなヤツがいるのかってほど判りやすいわけだ」
「確かにどう考えてもホの字のシチュエーションだしな」
「ホワイトを先に捉えて、後からそれを利用しブルーを狙う……この2段飛びで青の攻略は可能になる」
シアンがスパッと言い切ると、思わず一部の改造猫からは拍手が巻き起こった。
攻略困難と思われていたOFFレンにも多くの死角が存在している。これがもはや確実な物として改造猫に感じられていた。
「さらにブラックだが、こいつもブルーとセットになっていることが実に多いんだな。これが」
「ブラックってあの小さくてなんか寡黙な黒いやつか?」
「待ちたまえ!!」
突然部屋のなかで誰かが大声を上げた。
ドラマでよく見るトレンチコートをかぶり、頭に何か載せている男性がテーブルの上に立っていた。
「フッフッフ……ここはこの俺が犯人を見つけようじゃありませんか」
「……なにやってんの?ブルー……」
「頭にブラックなんか乗っけてさぁ……」
ブルーは手で「黙れ」といわんばかりのジェスチャーをする。
今、彼は探偵漫画にハマっているのだ。
「お、俺は名探偵ブルーっすよ……。そんなブルーなんて素敵な人は知りませんな」
「上のブラックは?」
「これは助手の名助手ブラック!」
「(ダメだ……すっかりなりきっている……)」
「そういや、どういう体勢になってんのか時々疑問って感じだったな」
「あんなの乗っけてて首痛まないのかナ」
「……噂ではキレると怖いらしいが、ま、俺も真偽はわからない」
シアンがボソリといった一言に一同は一瞬静かになったが、猫猫はそれを鼻で笑う。
「どうせ大した事無いに決まってるニャ! 無視無視!」
「次は誰だ?」
「次は……そうだな。ピンクはどうだ?」
「ピンクか。別に弱そうだけどな見た感じはさ」
「そうそう、普通の女の子って感じ」
「ボクでも簡単に倒せそうなのさ」
完全にピンクを甘く見ている改造猫らを見てシアンは思わずフッと鼻で笑ってしまった。
「シアン! 何がおかしいんだよ」
「いや、あんまり皆がピンクの恐ろしさを知らないから、ついな」
「ピンクの恐ろしさ??」
改造猫たちはお互いに顔を見合わせた。どう考えてもあの風貌から恐ろしいイメージは沸かない。
「わかりました。 生物学的にどう考えてもあの色はあり得ないのが恐ろしいってことですね」
光猫がわざわざ身振り手振りを付けて言うと、シアンは「バカか」という目をして首を振った。
「そんな細かい話じゃない。単純に怖いってことだ」
「まさか、極道がバックについてるとか?」
「変身するんじゃね? 何か人食い怪物みたいな」
「実は、ウィック様の仮の姿とか」
「それは怖いな」
「あぁ、さすがに改造猫にとっては一番の恐怖かも知れねーな」
「実はショッキングピンクだとかじゃね?」
次第に、大喜利みたくなってきたため、シアンがホワイトボードをバンバンと叩いた。
「OFFレンの方がまだ統制が取れてる。バカな話に時間を取ってばっかりじゃ倒せないよ?」
「…………」
OFFレンでもあり今は悪者でもあるシアンの一言は改造猫たちの心にズシッと重く圧し掛かった。
そうだった。OFFレンを倒すのが最重要課題じゃないか。そう思ったためか、改造猫の顔にも少しだけ真剣さが表れ始めた。
「シアンの言う通りだニャ……オレ様たちはただの悪者じゃないニャ!
偉大なるブラックキャット団によってとてつもない力を与えられた改造猫。いわば精鋭部隊だニャ!」
「俺達、悪人、誇り、持つ」
「そうだ。やってやろうぜ!」
「YES WE CAN! YES WE CAN!」
またも変な方向に盛り上がってしまう改造猫を見ながら、シアンは「大丈夫かコイツら…」と思わずにはいられなかった。
「じゃ、もう答え合わせするぞ。正解はマータ…あの熊のぬいぐるみだ」
「別にフツーのぬいぐるみじゃないのか?」
「普通じゃないから怖いんだよ」
「隊長、これを使ってください!」
ピンクがマータから取り出した爆弾をレッドに渡した。
するとレッドもピンと来て、それをペンダントのヒモでクルクルと撒き始めた。
「くらえーっ!」
レッドは、コマの要領で爆弾を撒いた方を放り投げると、爆弾は綺麗にエコの方へと飛んでいった。
そのまま、爆弾は悪エコの足元に落ち、瞬く間に爆発した。
「ギャァァァーーーッ!」
爆風と共に悪エコは海の中へと落ちて行ったと共に、空から悪エコの持っていたリモコンが落ちてきた。
それをレッドはすかさずキャッチすると電源ボタンを押した。ガタガタと動き始めていたマシンはその瞬間ただの鉄の塊になった。
「ふぅ……間一髪」
「恐ろしい女だな……」
「なんか法律に引っ掛かるんじゃねーのそれは」
「正義の味方だからって何でも許されると思ったら大間違いだよネ」
「爆弾持ってたらヤベぇよ……さすがにコイツはヤバすぎだろ」
「どうすれば良いんだよ一体。爆弾は痛いぜ?」
さすがにぬいぐるみ爆弾は改造猫の予想の斜め上をいっていたようで、動揺を隠し切れなかった。
それを見かねて先輩の威厳たっぷりに雷猫が言う。
「待て待て。お前ら、ここにはOFFレンでもあるシアンがいるんだぜ?
当然、この件についてはちゃんと解決策があるに決まってんだろ」
「フン、俺はわかってたぜ。言わなかっただけだ」
「常識ですね」
「さすが雷猫…。俺様の恋人だぜ」
同期の改造猫も雷猫に便乗して妙な威張り方をした。
そうなれば、さっそく改造猫たちの注目はシアンに集まる。
シアンは、ニッと笑って黙ったまま頷いた。
「……次、ピーターパン隊員」
「えぇっ!?」
さすがに全ての改造猫が叫んだが、シアンは臆することなく会議を進行させる。
「ピーターは、大阪出身の難波っ子だが、とにかく隊員で一番女の子らしい」
「……あーあ。今日も野球中継。今日の試合はなんか見る気しないなぁ……」
ピーターは薄暗くなった部屋に1人留守番をしている。
野球中継……。昨日はこの中にピーターもいたかもしれなかったのに。
「ピーター……ちゃん?」
ドアの向こうからタイガの声が聞こえてきた。
居留守を使おうとして思わず息を殺してしまおうとしたが、すでにドアノブに手をか
けていた。
「……何か用?」
わざと口調を強めてピーターは聞いた。
「ちょっと来て!」
タイガはピーターの手を掴んで走った。
理由も聞かずにピーターはタイガに身を任せて走った。
着いたのはタイガの部屋。
一瞬嫌な予感がしたが、タイガの顔を見るとそんな思いも相殺された。
タイガに手を引かれて中に入ると虎柄の小物に身を包んだ部屋の中に大きなTVモニ
ターが置かれていた。
「さ、座って♪」
綺麗なベッドの上にピーターを座らせるとタイガもその場に座ってピーターの
手を握った。
「昨日はゴメン……お詫びしたいんだ」
タイガはこちらの顔色を窺いながら真剣な顔で言った。
画面には大きく映し出された野球中継。
「行けなかった代わりに、今日はずーーっとオレと……野球見ようよ」
柄にも無く少してれた顔でタイガは言った。
「…………うん。見ようか」
ピーターはそっとタイガに寄りかかる。
すこし変な気を起こしそうだったが、タイガもそっとピーターに寄りかかった
「CSで最後まで見られるからいいよね♪」
「……うん♪今日は帰えさないよ♪」
「一番女の子らしいってことは弱いってことだよニャ」
「ってか、まさか、爆弾を腹に巻いてるわけじゃねーだろうな?」
「それは無い」
シアンが言うと改造猫の中にもホッとした表情を浮かべる者が出てくる。
「短剣は持ってるけどね」
「そっちもかなりキケンだニャー!?」
「大丈夫。今までピーターが短剣を使ったことは一度も無い」
「そんなんで安心できるかー!」
「いいよいいよ。俺の催眠術でどうにかなるからネ」
操猫が言うと、意気揚々と化猫も立ち上がった。
「ボクの幻覚能力の方が、便利なのさ。操猫の能力は目を見なければ終わりだからね。
その点、ボクはフッと一息かければそれで済むから使い勝手100%なのさ」
余裕満々で化猫は毛並みを掻き揚げた。耳のピアスがジャラジャラと鳴った。
「それを言えば、影猫の能力なんか影さえありゃ良いんだから同じ事だろ」
「うっ……」
「雷猫だって、短剣に雷を落とせば超余裕じゃん!」
「そ、それは……」
化猫も妙にカッコつけたために何か反論したいのだが、その反論が思いつかない。
とうとう、化猫は適当に二言三言呟き、お茶を濁して席に着いた。
「じゃ、次はシェンナとクリーム。この二人は結構手ごわいよ」
「あー、あの親子」
「親子じゃないって」
「はいはいはーい!私バーントシェンナにしますっ!」
「え?」
「茶色っぽい色ですっ!」
「では、わかりにくいのでブラウンにしていただければ……」
「え~!?やだやだー!バーントとしてシェンナしてるこの色のほうがいいですー!」
バーントシェンナなる者はだだをこね始めた。
「わかりましたわかりました。じゃぁ、シェンナで」
「やったー!やったね~?」
「(変な子……)」
もう1人のほうは特に考えている様子もなく、腕をくんでいた。
「クリームにしようよー。肌の色と同じー♪」
「……別にいいけど」
「……では、シェンナとクリームでよろしいですね?ふー。これでやっと流れが乗ってきましたね」
「何かちょっと初めの方はキャラ違うニャ」
「過去には色々あるのさ」
「シェンナはとにかく、子供だ。幼稚園児並みだ。でも、時々大人びている。
隊員でもその全貌はよく把握できていない。とにかく行動が謎だらけだからな」
「あ、エコくんですー」
くるくる道の真ん中で回っているシェンナがエコの行く手を邪魔しながら声をかけた。
「な、何やってるの……?」
「シェンナ、コマ回しやってるんですー。でもコマがないから代わりにシェンナが回ってるんですよー」
「ふ、ふーん……オレ急ぐからちょっと退いてくれない?」
シェンナゴマは結構速い速度で左右に動いていて通るにも通れない。
ここを通らなければアジトに帰れない。同じように向こう側にも家族連れが困った顔でシェンナを見ていた。
「コマは自然に止まるまでとまれないんですよー。だからシェンナ止まれないんですー」
「い、いつ止まるの?」
「自然に止まった時ですよー。それまでシェンナ涙をのんで回り続けるしかないんですー」
「そんなシェンナを最も知り尽くしているのがクリームだ。冷静沈着。頭脳明晰……
これは俺の勝手なイメージだけど、とにかく女スナイパーって感じだ」
「確かに、目にガトリングを装着するとかマジありえないぜ……」
「あれは、ホントに怖いんだニャ! マジで舐めないほうがいいニャ!」
「ニャッハッハッハ。無駄無駄無駄ニャー!」
猫猫が高笑いをすると、その口の中にガトリングがすっぽりと嵌った。
一瞬何が起こったのかわからない猫猫はガトリングを半分ほど飲み込みそうになった。鉄の味だ。
「……私達。ろくに正義の味方やってないの」
「ふぁ……ふぁふぃ……ふやふぃいファ……」
「猫猫」
「動かないで。さもないと後ろにも大きなお口ができるわよ」
獣猫を牽制しながらクリームは、青い顔の猫猫と一緒に歩き出す。
「後はみんなでやっておいて頂戴。アタシは……ちょっと彼と話があるから」
唖然としている隊員にクリームが声をかけるとそのまま猫猫とクリームはグラウンドの隅に向かい始めた。
隊員達は、ようやくオオカミを片付けるのを思い出して一気に攻め始めていた。
隅に到着するとクリームは口からガトリングを抜き、猫猫の顔のまん前に突きつけた。
「さてと……BC団は何を企んでいるのか言いなさい」
「ニャ、そうだ。お、面白い話聞きたくないかニャ? け、獣猫が夜中にトイレに行ったまま帰ってこなくて……」
クリームのガトリングが猫猫の顔にめり込んでいく。
猫猫の口が変な形に曲がって喋りにくそうにしている。
「あなた顔がレンコンみたいになりたいの?」
「ニャ……ニャ……」
「3、2、1」
「わ、わかったニャぁ!」
メリメリと音を立てて猫猫の顔に引込まれて行くガトリングにさすがに猫猫も生命の危機を感じたのか
下半身をガクガクと震わしながらゆっくりと両手を挙げた。
クリームは一旦思い切りガトリングをめり込ませて猫猫の顔から離した。猫猫は顔面を押さえて地面をのた打ち回っていた。
「痛いっ! 痛いニャぁ……コイツ悪魔だニャぁ……」
「何とでも言いなさい。早く言わないともっかいやるわよ」
「ニャニャニャ……! や、やめてくださいニャ!」
「あの時はホントに、ちょっとチビっちゃったニャ!」
「一番の強敵かもしれないな~」
「そんなことは無いよ。クリームはシェンナに弱いんだよ」
イマイチ信じられないといった顔で改造猫は言うがシアンは笑顔のままだった。
「君らも悪者ならわかるでしょ。敵のウィークポイントが特に無い場合は、
家族や恋人や友人を狙う。クリームもこれに当てはまるんだよ」
「……俺の好きな作戦だな」
ニヤリと悪どい笑みを浮かべて闇猫は言った。が、皆は無視した。
「シェンナは比較的ラク。飴でも何でもやって捕まえておけば良い。結構簡単でしょ?」
「確かに……」
残る隊員も後数名となった頃、すっかり黒く埋まりつつあるホワイトボードを一同は眺めた。
「……何か変な感じだよな」
「何が?」
「よくよく考えれば、俺ら結構凄い能力持ってるぜ? 十分OFFレンと台頭に戦えそうじゃね?」
「そうだな。意味わかんないのは猫猫くらいで」
「コラー! オレ様の能力だってかなり凄いニャ!」
「まーでも、オレたち、12人力を合わせれば凄いことになるかもな!」
「一ダースですね」
「ちょっと待てよ。ここにいる改造猫は11人だろ。12人ってコイツ入ってるじゃん!」
雷猫はシアンを指差したが、2期、3期の改造猫はハッとして気まずそうな顔をした。
「え、コイツも改造猫なのか……?」
「いや、そういうわけじゃ……」
「何だよ。ウゼー。俺たちに隠し事かよ」
闇猫が悪態をつくと、光猫も「気になりますねぇ」とボソッと呟いた。
さすがに状況が気まずくなってきたせいか、ゆっくりとした口調で写猫が口を開いた。
「あの…オオカミ軍団に“タイガ”ってヤツがいたって感じだったじゃないですかぁ」
「あぁ、いたな。あの見るからにバカそうな虎猫だろ?」
「そういえば、タイガくん親も兄弟もいないし、一応は天涯孤独だよね」
「うん。オレって孤独なんだ……だからピンクちゃんオレのお母さんになってくれる?」
「えっ……」
今度はピンクに飛びついて、タイガはヘラヘラと笑った。顔で笑って心で泣いて……。
ピンクは冗談だと気づかずに、タイガに同情してしまいそうになった。
「うん……私でよかったらタイガくんの母親代わりになっても」
「ピンク。これ冗談。タイガくんの常套手段じゃん」
「ちぇ、残念! じゃぁ、やっぱりホワイトちゃんにしようかなぁ~♪」
「私は子供には厳しいぞ?」
リアルな意味を含みながらホワイトは苦笑していた。
「じゃー決まりっ! オレ、お母さんがいたらやってもらいたい事あったんだー!」
「何々? 掃除?洗濯?」
「え、えーっとね……」
タイガはいつにも無く顔を赤くしてもじもじし始めた。
女子達は「あぁ、甘えてみたいけどちょっと照れくさいのだろうな」と思った。
「いいよ。遠慮しなくて」
ホワイトは、優しい顔を作ってタイガを受け入れてやる準備をした。
タイガもそれを見て頼みやすくなったのかニコッと笑って嬉しそうに言った。
「母乳ちょうだい!」
「ソイツがですね……その……ウィック様に認められてですね……改造猫になったんですよ」
「へぇ。アイツがね。なんて名前?」
「虎猫と言う名前です」
「ふーん。まんまだね。でも何で今日来てないわけ? 少なくとも俺より後輩じゃん」
「なってないよな。ちょっとシめるか?」
第一期の改造猫は後輩を見下したようなニュアンスを含んで微妙な威厳をチラつかせた。
しかしそんな態度がますます後輩たちをざわつかせる。
「ま、ここにも来れないって事はよほど使えないヤツか、よほど無様な負け方をしてさ、
ブラックキャット団の名前に泥を塗ったヤツに決まってるよ」
「あ~だったらBC団どころか、改造猫すら語れないよね」
「額の紋章外せっつー話。だろー? 一期は額の紋章すらねーってのによ?」
好き勝手にいいまくる雷猫達にあわせるように後輩たちは苦笑いをした。
ただ唯一例外を除けば、猫猫は終始真顔のままだった。
「ちょっと誰か呼んで来いよ。俺がヤキ入れてやるからよ」
闇猫が立てた中指をクイっと曲げて偉そうに言った。
「いや、でも、結構強いっすよ。虎猫」
「バカ、俺は悪魔だぜ? この羽見ろよ。虎猫なんか、小指一本で倒せる!」
「………………っ!!!!」
突然、後輩たちの目が点になった。あの影猫や操猫さえも目をまんまるく開いている。
「誰か虎猫呼んで来いって~。俺がボコボコにしてやるからさ~!」
その時、ポンと闇猫の手に何か冷たい物が触れた。普段ならば、無視して振り払うのだが、
第六感と言うべきか、この時は何かとても嫌な冷たさだと言う事を感じ、彼は恐る恐る後ろを振り返った。
「……来てやったぞ」
まず目に入ってきたのは、一目見ただけで全身が固まりそうな鋭く冷たい瞳。
闇猫の知っているタイガとは180度違う、完全な悪の化身のようなウィックとも似た邪悪なオーラ。
そして、この場にいる改造猫の誰もが付けていない“BC団幹部の証”である頬の模様……。
「あ……ぁ……」
闇猫は何か言おうとしたが口をついて出た言葉は言葉になっていなかった。
その闇の色のような赤い瞳を細めて、その虎縞の男は言った。
「俺は虎猫……そして今の名はブラックキャット団幹部、タイガーアイ」
「すみませんでしたっ!!!!」
タイガーアイを見るなり、闇猫は思わず土下座をしていた。
さきほどの態度が嘘の様に、地面に顔をめり込ませたいのかと思うほど強く頭をつけていた。
「……と、虎猫。お前、幹部に昇進したのか!?」
虎猫がBC団幹部となった事を知らないかつての同僚達は、ただただ目を丸くしたまま、
別人のような悪者の風格を見に付けたタイガーアイを見ていた。
「虎猫……貴様……」
誰よりも歯がゆそうにタイガーアイを見つめていたのはかつてのライバル、影猫だった。
影猫の手柄を横取りした結果の昇進であることは影猫自身がよく判っている。
「言葉に気をつけろ…俺を誰だと思っている」

「フン、偉そうに!」
操猫がイライラしながらタイガーアイに暴言を吐くと、タイガーアイはキッと睨み返す。
すると、操猫は突然態度を変え、闇猫同様に土下座してしまった。
「操猫!?」
ウィック、そしてタイガーアイの頬にある赤と黄色の模様はBC団内では地位の高い者の証。
それを見ると、どんな改造猫であろうと逆らうことは出来ない。そう改造される段階からインプットされているのだった。
タイガーアイは改造猫たちによく見えるように自分の頬の模様を見せるように近づいた。
「た、タイガーアイ様!」
残りの改造猫たちは皆、彼の前で跪いた。ただ一人、耐えるようにして影猫が立っている。
タイガーアイは彼の傍に近づき、その瞳をじっと見つめた。
「影猫…。この紋章が見えないのか?」
「…………」
「俺はブラックキャット団幹部なんだぞ……?」
影猫は苦悶の表情を浮かべながらもとうとう、タイガーアイの前に跪いた。
「…タイガーアイ様、ご無礼をお許し下さい」
「フン……わかればいい」
内心は少々不服に思っていた物の、この瞬間から既に彼らの虎猫の認識は完全に幹部のソレへと書き換えられた。
チラとタイガーアイはホワイトボードの前に立っているシアンを不審そうに見つめた。
「…誰だお前は」
「タイガ様。お久しぶりです。オオカミ軍団スパイ部隊のシアンです」
「シアン……?」
タイガーアイは記憶にないと言うような顔でシアンを見た。
「お忘れかもしれませんが、タイガ様がオオカミ軍団にいた頃…」
「何の話だ。俺はオオカミ軍団などにいた事は無い」
「え、しかし……」
「俺は生まれた頃からブラックキャット団と共にいた。これは確固たる事実。
この記憶は確かな物……この記憶と少しでも異なる事は全て偽り……信じてはならない……」
シアンには、まるでタイガーアイがその言葉を自分自身に言い聞かせているように聞こえた。
まるで誰かに催眠術でもかけられた時に催眠術師の言葉を復唱しているかのようだ。
「そうですね。申し訳ありません。タイガーアイ様」
シアンは、なんとなくだが事情を飲み込み、他の改造猫同様に跪いた。
「この度はブラックキャット団幹部への昇進おめでとうございます。私は現在オオカミ軍団所属ですが、
今後は組織の隔たり関係なく、ブラックキャット団にも一つお力添えをしたいと思っています。
タイガーアイ様、OFFレンの情報が知りたければいつでもシアンにどうぞ」
タイガーアイは、しばしシアンを見るとそのまま歩き出し、ホワイトボードとは正反対の上座の席に腰を下ろした。
すると、早速手もみしながら猫猫が擦り寄ってきた。
「タイガーアイ様、お早いお着きですニャ! お待ちしておりましたニャ!」
「あぁ…全員集まっているようだな」
「えぇ、そりゃもう! タイガーアイ様からのお願いですから、頑張りましたニャ!」
「どういうことだ。猫猫。タイガーアイ様のお願いって何なんだ?」
タイガーアイと猫猫が何やら通じているような会話をしているのが聞こえ、炎猫が口を挟んだ。
猫猫は、『よくぞ聞いてくれました』と言うもったいぶった笑みを浮かべ、タイガーアイに手を差し出した。
「実は! 今回の会議はOFFレンの弱点を研究するだけの会議じゃないんだニャ。これが!」
「え!?」
「もう一つ、凄い計画がこの会議にはあるのニャ。ズバリ、敗者復活戦!!!」
「敗者復活戦!?」
「…その通り」
猫猫はタイガーアイに猫のようにゴロゴロと甘えながら擦り寄る。完全にゴマをすっている。
「数日前、新たな改造猫部隊の担当をウィック様から直々に任命された。しかし、予算が無い。
そこで確実な者を改造猫にして後々役立てようと思っていたのだが適任はいない。
……だが、俺は気付いた。お前たち、“無能”の烙印を押された改造猫の中にも、
そのまま組織から捨て去っておくには惜しい人材がいるだろう。そこで……」
タイガーアイは立ち上がり、その場の改造猫たちの顔を一人一人眺めていった。
「今回の会議の様子を見せてもらい、この中から一人、改造猫をBC団に復帰させたいと思う」
改造猫たちはしばし沈黙していた。幹部であるお方の話す意味は判っていた。
しかし、その意味を完全に全身に行き渡らせるまで長い長い時間がかかっていた。
「ほっ、本当ですか!」
「ブラックキャット団に復帰だなんて! 俺っ、俺にやらせてください!」
「それよりも俺に!」
「俺も!」
改造猫たちの騒ぎ方は半端ではなかった。改造猫にとってのホームはBC団なのだから。
そんな騒ぐ改造猫たちをタイガーアイは手を払う仕草をして沈める。
「今の所、有力な候補者が数名、俺の中にいるが、勿論これからの流れ次第で状況は変わる」
「あの、本当に復帰できるんですよね?」
「勿論……ただ、場合に寄っては0と言うこともありうる。全てこれからのお前たち次第だ」
改造猫たちは、今までの「ぼやーん」とした態度を一変し、真剣な目付きで座席に着いた。
何せBC団に復帰できれば現在の状況から脱出できるのだ。第二期のメンバーは特に頑張っていた。
「じゃ、後は“この企画を一から全て進めてきた”このオレ様、猫猫から説明させてもらいますニャ!」
完全に自己アピールに全力を注いでいる猫猫は有無を言わさず立ち上がり、勝手に発言を始めた。
「残り数名のOFFレンの考察後、各改造猫が思い思いの作戦をまとめて発表する。
その最中、多少の自己PRはOK。全員の発表が終わった後、タイガーアイ様からの質疑応答、
その後、最終候補者が選ばれ、最終的に一人が選ばれると、こういうことだニャ!」
猫猫はタイガーアイの方をチラっと見た。「わかりやすい説明でしょ?」と言いたげな瞳だった。
しかし、当の本人は頬杖を付いたまま目を閉じて何かを思案していたため、猫猫の説明もあまり聞いていなかったようだ。
と、真っ先に今まで良い所なしだった第三期の改造猫が、とにかくタイガーアイの事を褒め始めた。
「いやぁ、タイガーアイ様、素敵な毛並みで!」
「ボクのオシャレセンスもなかなかだけど、タイガーアイ様には負けるのさ」
「……幹部の風格が感じられます」
少しもニコリともせず、うっとおしいのか、果たして内心満足しいるのかタイガーアイの心中は判らない。
チヤホヤする事もしてない、第一期の改造猫は、悠々と席に着いたままタイガーアイの周りには寄らなかった。
その中の雷猫は、キッと椅子をシアンの方に向けて、タイガーアイほか、全員に聞こえるように言った。
「シアン、タイガーアイ様は少しでも早くOFFレンを倒す計画を練りたいはずだ。俺たちはあんなゴマをする必要はない。
肝心なのは確実に成果を出すこと。タイガーアイ様もその方が喜ばれるはずだ。さっさと先へ進めよう」
この言葉に後輩達は固まった。「上手いこと利用されてしまった!」皆がそう思った。
さらに悪いことに、タイガーアイの傍にいた改造猫たちは幹部の「フッ…」と言ういかにも肯定的な笑みを見逃さなかった。
「とりあえず、タイガーアイ様がわざわざお越しくださったことですし、会議を続けよう」
「異議なし!」
改造猫は先ほどまでとは打って変わったハキハキとした返事をした。
シアンがちょうどホワイトボードの前に立つとタイガーアイと目が会う。
表情一つ変えず、じっと見つめてくる彼に、シアンは不気味さを感じた。
「タイガーアイ様、お茶をどうぞ!」
「いやいや、ちょっと暑いですよね。ウチワがありますから仰ぎましょう!」
「肩、ゴミ、払う」

操猫に先を越されてしまった2期の改造猫たちは、巧みなフォーメーションで上司にゴマをすっていた。
3期のヤツラは皆悔しそうに、ゴマのすり方の上手い先輩達を眺めていた。
「えー、じゃ残すところあと隊員も2名となりましたので、改造猫の皆さんも
この辺で計画をある程度まとめておいてください」
「りょーかい!」
なんだか教師のような気分になるシアン。苦笑いを浮かべながら画面にガーネットを映し出した。
「ガーネット隊員。台湾からイカダに乗ってやって来たオタク少年。性格はいたってクソ真面目」
「不法入国じゃないのかニャ?」
「その辺は、まぁ色々あったんだけど、最終的には事なきを得たんだ」
「で、その台湾ボーイの弱点は?」
「さっきも言ったとおりだけど、人畜無害すぎて人を疑わなず騙されやすい」
「フン、気に入らねぇタイプだぜ」
闇猫が吐き捨てる様に言うと、シアンは映像のチャプターを変更した。
「悪かった。お、俺、兄貴が怖くて、お前の事、お前の事……謝っても許してもらえることじゃねえのは解ってるけど」
「…………」
「とにかく、本当に……ごめん」
ガーネットは、ニッコリしたまま少年を見て言った。
「許すのだ!」
その言葉に少年は顔を上げてガーネットを見つめた。本当に心の底から笑っていた。
「俺を友達と言ったのだ。友達の為にやってくれたのだ」
「……イヤ、お、俺はもうお前の友達なんかじゃ無いさ。俺はお前らに酷いことしたんだ」
「そんな事ない!」
ガーネットは笑って少年の手を握った。
「俺は言ったのだ。謝って許せば友達だ」
「!」
「俺は許した。だからやっぱり友達なのだ!」
「OFFレン一、いや、世界で一番騙しやすいヤツかもしれないな」
「その代わり悪者だとわかると、お終いだ。顔が割れてないヤツがどうにかすれば良いだろう」
「じゃ、これもクリアだニャ。んじゃ、残るは……」
改造猫たちの顔は、より一層引き締まった。タイガーアイも少し顔をあげてシアンを見る。
ホワイトボードには「レッド隊長」と書き込まれ、映像もレッドのものへと切り替わる。
「レッド隊長。隊長のくせにガキっぽい所がある。で、特撮ヒーローが大好き」
「この平和な街を荒らすヤツラは俺達が許さない!」
「すっスターふぁいbhfgdgsdbd!!!!」
一列に並んでロボを見上げている彼らを間近に見てレッドは声にならない叫び声を上げて大興奮。
もはやこの瞬間から我らがレッド隊長はただの特撮マニアに成り下がってしまった。
「フフフ……面白い。この俺に挑んでくるとは命知らずなヤツラだぜ」
「みんな、行くぞ!」
「おぅ!スターダストボンバーだな」
スターファイブは前回のように必殺技を繰り出すべく例の大砲を組み立て始めていた。
しかし、いくらその作業が俊敏かつ迅速であったところで、特撮ヒーローの常識が通用しない悪エコの前では意味が無かった。
あっと言う間に銀色に輝く大砲は巨大ロボに踏み潰されてただの銀板になってしまった。
「そんな、スターダストボンバーが潰されるなんて!」
ピンクスターの悲痛な声が周囲の緊張感を一気に張り詰めさせた。
「ハーッハハハ! そんなガラクタで俺様の自信作をどうにかできると思ってたのか。ほんっとバカだな」
悪エコは微笑を浮かべながら両腕に付いた一際大きなドリルをスターファイブらに向けた。
耳が痛くなる様な金属音が体に響いてくる。スターファイブらは、その巨大ドリルの前に成す術が無く立ち尽くしていた。
「がっ、がんばれー! 負けるなスターファイブ!」
しかし、ギャラリーの中の誰かが叫んだこの言葉がみんなの心に火をつけた。
連鎖反応で次々と見ている子供達がスターファイブらを応援し始めたのである。それは子供から大人へ、レッドまで移って行った。
「負けるなー! スターファイブー!」
「レッド、辞めてください。やめてください!」
身を乗り出しながら熱烈に応援しているレッドを必死に止めていた隊員らの中にも少々心に熱い物を感じていた。
「ってか、俺らレッド会った事ないしな」
「私もお互いの存在を確認しあった記憶はありませんね」
第一期改造猫の面々が、口々にレッドと聞いてピンと来ない旨を伝える。
確かに彼らの全盛期の頃はまだレッドはOFFレンに復帰してなかったのだから。
「オレ様たちは、普通に面識があったニャ」
「俺も、ニャンニャンランドの時は利用させてもらったって感じ」
二期の面々は、手ごたえたっぷりにレッドとの思い出を口にする。
その中で、化猫が髪を掻き揚げて、アクセをジャラジャラ鳴らしながら彼らに続く。
「ボクらも知ってるのさ。レッドのおかげで今、バンド活動できてるしね」
「オイ……化猫!」
変猫から突かれて、化猫はあっと口を押さえたが既に遅く、
先輩たちからは、物凄く冷たい視線を浴びてしまっていた。
「……初耳だニャ?」
「いや、ってゆーか、ジョークなのさ?」
「ブラックキャット団の改造猫のクセに、敵に情けをかけられるとはな……」
完全に第三期改造猫の立場は危うくなっていた。影猫のみが、腕組みをして、
考え事をしているのか黙ったまま目を閉じている。
「オレ様達が、完全にワープア生活の中、お前らは、バンドかニャ! 恥を知れニャ!」
「……だ、だって、どっちみちBC団は辞めさせられるのさ……」
「OFFレン、恩、仇で、返す、これ、悪者、鉄則」
「わ、判ってますって……」
先輩らの強い風当たりをなんとか堪えようとしていながらも、さすがに変猫も化猫も心にキていた。
確かに、OFFレンを倒すべきである悪の改造猫が、そのOFFレンに助けられているのだから。
「そのウチ、OFFレンの仲間になるんじゃないの?って感じ~」
「どうせ、バンド活動に明け暮れて、悪者としての自覚が無くなったんじゃないの? マヌケだよネ」
「……俺は違う」
しょぼんとうな垂れる二人をよそに、影猫がカッと目を見開いて先輩らを見回した。
「オレは、一度もブラックキャット団の改造猫である誇りを忘れた事は無い」
「じゃぁ、何でバンドやってるんだニャ! オレ様にもやらせろニャ!」
「猫猫、嫉妬するなよ……」
影猫はスクッと立ち上がり、キッと先輩である猫猫を睨みつけた。
「オレがバンド活動をしているのは、ただ行くアテが無いからじゃない。
オレ達の住処、ライブハウスには、レッドも所属しているビーストズも暮らしている。
いつか、再起の時のためにヤツを油断させて少しでも倒すための情報を引き出しておく。そのためだ!」
「そうなのさ! ボクもそのつもりでバンドをやっているのさ! 緻密な計画と言って欲しいのさ!」
影猫と、それに便乗した化猫の発言に、誰も反論する者はいなかった。
強がりだの何だのと反論できなくは無かったが、何より影猫の目が真実を物語っている目だったからだ。
「コホン、そろそろ本題に戻ってもいいかな?」
バツグンのタイミングでシアンが改造猫に声をかけると、改造猫はきちんと着席する。
「レッドの弱点はズバリ、特撮ヒーロー。何だかんだでこれには弱いな。後、おだてにも相当弱い」
「白い月が闇を照らすぜ ~♪ お前の紅い瞳の奥の闇さぁぁ♪」
レッドは爽快げな顔で、悪く言えば自分に酔っている様な顔で歌っていた。
多分、昨日の晩メンバーに褒めちぎられたのだろう。
『ぜぇっつぼぉっとほっきょくぅ~のじょけぇぁくがぁ~♪」
「なんかだんだん歌い方がアーティストのソレになってきたような……」
「レッドは今、きっとBzとかダルクとかになってるんです。なってるんですよ!」
『いむぅぁ くぁなでるぅへぁ~んきょくぅのシィンフォヌィィィィ!!!♪』
するとレッドはブンブン頭を振りながらマイクスタンドを蹴飛ばし始めた。
そこまで過激なバンドじゃないんだろうがどうやらスイッチが入ってきたらしい。
『AHHHHH!!! 切り裂かれたこのぉうくらぁ!!滴る血がご馳走だぜっっっ!! ComeOn!』
「あーあ。カモンとか言っちゃったよ。絶対あれアドリブだー」
「うん、なんか解るよね」
「レッド……」
調子に乗ると止まらないレッドのスタンドプレーはこれからさらに増えていくが、
本人の事も考えここでは割愛させていただく。だが、意外と客層には受けがよかったみたいだ。
妙な恥ずかしさの中、気がつけば会場にはエレキのビィィンと言う音だけが響いていた。
「……ありがとう。野獣の宴はこれで終わりだ。次の宴までにせいぜい生きておくんだな!」
よく解らないセリフを喋るとメンバーたちはステージ袖へとはけていった。
「ホント、レッドはちょっと褒められるとすぐその気になるのさ。ボク、間近で見てるからね」
「実際、隊長の器かどうかと言われると疑問って感じ」
「案外、悪者の方が向いてるかもニャー」
「あぁ、レッドは以前、なんと悪者だったよ」
「!?」
さすがにこのシアンの発言には改造猫全員が動揺したようで、
飲んでいたコーラを吹き出す者、椅子から転げ落ちる者、目を見開いたまま固まっている者、様々だ。
「信じられないのさ……。OFFレンの隊長ともあろう者が元悪者だったなんて」
「ど、どうせ、大した事ないニャ。だってあのレッドだニャ?」
「……いや、あんな隊長でも俺達、敗れちゃたんだヨ? それも相当な悪人経験の賜物かもネ」
相当な悪人……。改造猫達の頭の中であの子供っぽいレッドとは180度かけ離れた、
"極悪人レッド"のイメージが膨らみ、皆青ざめる。きっと、牙が尖ってたり、悪魔のように残酷で……
「いや、そうじゃない」
「そうだ……オレは……悪者……強い……正義嫌い……」
ぐんぐんこちらの思いのままになるレッドは可愛いものだった。
「……お前はOFFレンジャーを倒す為に生まれたんだ。いいな……倒すんだ」
「……OFFレン……倒す……」
洗脳装置を外し、俺は言った。
「それでは、もう一度聞く……お前は誰だ?」
「オレは……」
するとタイガはゆっくり起き上がって言った。
「オレはタイガ!オオカミ軍団のボス代理、タイガだ!」
「……とまぁ、色々あって、最初はレッドが悪者になっていたわけだ」
改造猫は、とんでもない話すぎて信じられないようで、ぽかーんとタイガーアイを見た。
しかし、タイガーアイは表情一つ変えずに、シアンを見つめている。自分とは関係ないと確信しているのだろう。
「でも、ぶっちゃけ別人格なわけだよニャ?」
「ま、そうだけど。ヤツとレッドは基本、性格が似てるからな。軸が同じだから」
「意外な経歴だぜ……」
「ま、とりあえずレッドは特撮物のおもちゃでも与えた隙に捕まえればいいって感じで」
「異議なーし」
レッドの知られざる過去を聞いて、複雑な表情の改造猫達。
しかし、これでひととおり、隊員の事はリサーチ完了だ。
「……じゃ、以上でオレからの情報提供は終了ってことで」
シアンがペコッと頭を下げると改造猫たちからパチパチとまばらな拍手が送られた。
タイガーアイはチラと、雷猫を見た。最初は何の意味があるのかわからなかったが、どうやら
「自分の作戦を発表しろ」と言う意味合いであると言う事がわかり、慌てて立ち上がった。
「そ、そうですね……えーと……OFFレンの弱点をついて弱ったところを一気に叩く……」
「コラ! オレ様のアイデアをパクるニャ!」
「いやいや! それはボクが考えていた作戦なのさ」
雷猫が適当に話した作戦に対する抗議だけで改造猫のほとんどが立ち上がった。
どう考えても、あの会議でこれ以外の作戦を思いつけと言うのが不可能だ。
全員の弱点を見つけるだけの内容だ。弱点を突いて、倒すと誰もが思いついてもしかたがない。
とうとう、タイガーアイがじっと座っている光猫を見つめ久々に口を開いた。
「では、光猫。お前は他の奴と違う作戦らしいから、言ってみろ」
「はい、まずOFFレンジャー隊員の行動を探ります。そして、都合のよい時間帯を探り、
各々が最も苦手とする状況、展開を我々が用意し、隊員の精神・体力を弱め、そこへ攻撃をし、倒します」
「……まわりくどい言い方してるけど、お前も他の奴と同じじゃん」
雷猫の突っ込みに不服そうな顔をして(そう見えます)光猫はふてくされた。
結局、皆同じ考えと言うことらしい。残るは、操猫と影猫の秀才派の二人だ。
闇猫も、もったいぶったような笑みを浮かべているが、誰も相手にはしなかった。
「……操猫、お前の意見を聞こう」
「はっ、了解しました」
操猫はフフンと余裕の笑みを浮かべながら立ち上がると、ホワイトボードの前に向かった。
「良いですかー? OFFレンの弱点を突く…今更だけど、こんなの俺から言わせればバカの考えだネ。
どう考えても手間がかかるでしょ? それぞれの弱点のシチュエーションを用意するだけでサ。
みんなバラバラだもん。 めんどくさいよネ。タイガーアイ様もそういう事を望んでないと思うんだよネー」
操猫は、半目をガッ!と開いてあのギョロっとした目を皆に向けた。2期以外の改造猫はその怖さに思わずのけぞる。
「ここは、やっぱり俺の催眠能力を使う。これを使うだけで…手間は大幅にカット出来るからネ」
そういうと、彼は再び瞼を閉じて再びいつもの半目状態に戻った。
「まず、そうだネ……。今までみて来て最適なのはクリーム。良い動きをしそうじゃない?
アイツを操る。そして、上手く動いてもらって、徐々に操る人数を増やしていく。最終的には、レッドだけを残して…
操られた隊員たちと共に潰す……! これで後は似るなり焼くなり、好きにしろって感じかナ?」
タイガーアイは小さく頷き、怪しく微笑した。その微笑を向けられた操猫に改造猫の嫉妬の視線が注ぐ。
影猫も、「俺も、使う能力は影だが、似た様な物だ」と答えた。確かにアバウトなあの作戦よりかはマシそうだ。
「クリームは操りにくいですー。練りこみ不足ですー」
良い所で、シェンナからも突っ込みが入るが、操猫は首を振ってそんなバカな突っ込みを打ち消す。
「って、何故お前がここにいる!!!」
改造猫は、操猫の隣にいるシェンナを化物を見るかのような目で見つめた。まるで猛獣扱いだ。
「シェンナ、Wiiで遊んでたらリモコンがこっち飛んじゃったですー」
シェンナは手のWiiリモコンを見せたが、改造猫はそれで納得しようとはしなかった。
しかし、そんなシェンナは何事もなかったかのようにトコトコと歩きながら部屋を出て行った。
「…お前達! 何をしている! あのガキを捕まえろ!」
タイガーアイに言われて、改造猫はやっとこの状況に気付いた。作戦を知られてしまった以上、
放っておく訳にも行かない。しかし、いっぺんに改造猫が動いたせいで入り口に突っかかり将棋倒しになる。
「イテテテテ!」
「どけよコラ!」
「お前がどけ!」
「……何をしている! 早くしろ!」
タイガーアイの叱咤によってなんとか改造猫が外へ出た時には、既にシェンナの姿はなかった。
部屋に戻ると、タイガーアイは物凄く不機嫌そうな顔を皆に向けていた。
「お前たちは、欠陥品だ……BC団の恥さらしだ!」
さすがにこういわれてしまっては改造猫も返す言葉がなかった。
「クソッ、まさかシェンナに見つかるとはな」
「どんな遊び方をすればWiiリモコンが……あんな場所に……」
悔やんだところで幹部からの好感度が思いっきり下がってしまった以上、仕方がない。
改造猫たちの表情も当初より、暗くなっている。希望の光が消えたのだ。
「……どうやら、お前たちに少しでも期待しようとしたのが間違いだったようだな。
この話はなかったことにする。お前たちは結局BC団を名乗る資格すらないクズどもだ」
タイガーアイはそう言って、ドアに向かって歩き出した。もう愛想を突かして出て行こうとしている。
改造猫は引きとめようと思う物の、そんな咄嗟に良いアイディアが浮かぶはずは無い。
「あれ、みんなもう終わったの?」
そんな時、ひょっこりドアからエコが顔を出した。もうドラマは終わったらしい。
タイガーアイを見て、エコは何か気付いたらしいが、ペコッと軽く頭を下げただけだった。
「お前には関係ないことだニャ。もう帰っていいニャ」
「えー。せっかく来たのに」
「部外者は帰れよ。邪魔だよ。バカ」
エコはムッとして、ドアを軽く蹴った。
「何だよー。せっかくレッドを騙して連れて来たのに。判ったよー。帰ってやるよー!」
「え!?」
背中を向けたエコを改造猫は慌ててとどめた。獣猫がさっと窓を覗いた。
レッドが所在無さげに建物の前に立っている。どうやら本物のようだ。
「ど、どうして!」
「たまたま会ったから。上手いこと言って連れて来たんだー。オレだって、ワルだからね!」
へらへら笑いながらエコはVサインを皆に見せた。これは願っても無いチャンス。
タイガーアイも、「お前にしては良くやった」とエコを褒めたが、エコはあまり嬉しそうではなかった。
「んじゃ、ちょっと行って来ま~す」
早速、操猫が機転を利かせ、玄関を降り、レッドを催眠状態にして部屋へと連れて来た。
早くもポイントを稼がれて改造猫たちは悔しそうに舌打ちをしていた。
「あ、レッドを改造しちゃいましょ! それが一番って感じ!」
写猫が真っ先にレッドの使い道を提案したが、タイガーアイは「当然だろう」と言う様子で写猫を見た。
「じゃ俺、デザイン担当します!」
すると入れ替わりに、筆状の尻尾を掴んで変猫がふわりと浮かんだ。
タイガーアイは、しばし思案するように口元に手をやり、改造猫たちを見回した。
「……最も優れたレッドの改造案を出した者だ」
「え?」
「最後のチャンスをやる。一人一回までだ」
改造猫たちの顔がパァァァと明るくなった。最後のチャンス。これは負けられない!
真っ先に、猫猫が手を挙げた。
「犬なんてどうですかニャ? 意外性みたいで!」
「没。次」
「そんニャー!」
無残にも切り捨てられる猫猫。彼にとって希望の光は一瞬のきらめきであった。
そんな彼をよそに、獣猫がゆっくりと手を挙げる。
「野生、猫、ワイルド」
「ほぉ……」
タイガーアイが変猫に目をやると、サラサラとレッドに色が塗られ、野生児レッドの完成予想体が出来上がる。
操猫がまたも気を利かせて、少し動かす。ターザンの鳴きまねまでやらせた。辱めとはこのことか。
「……クドいな。次」
「ぼ、ボクも考えたのさ。すっごくオシャレでカッコイイな猫なのさ」
「次」
「き、聞いてくださいよー!」
次々と改造猫がアイディアを出す。メカメカしい物、クリーチャーのような物、よくわからない物……。
結局、改造猫全員を一周してしまった。と、タイガーアイはエコにも目をやった。
「お前にも特別にチャンスをやろう。レッドを連れて来た褒美だ。くだらん意見を聞くぐらいはしてやる」
エコは突然話を降られたので、ドギマギしながら辺りを見回した。どうせ良い意見はでないだろうと言う顔だ。
そんな目を向けられるとさすがにエコもプライドがあるので、ムッとした。ここは良い意見を出さなくては。
「えぇと、えぇと……ヤンネコ……とか」
「何だそれは」
「ヤンキーのネコ。竹刀片手にバイク乗ってて……あ、バイクは750(ナナハン)が良いなぁー」
タイガーアイは、やっぱりこいつに聞くのは間違いだなと言う顔をすると、
他の改造猫たちの意見を頭の中で整理しはじめた。どれもベタではあるがベタなだけで実戦的ではある。
が、せっかくOFFレンを改造猫にするには、あと一歩何かが足りない。改造するのが誰でも良い様な案ではダメなのだ。
チラと、横目でまだヤンキー猫とやらのアイディアを語っているエコを見る。
「あと、決め台詞は"俺に触るとヤケドするゼ"が良いな。オレ、いっぺん言ってみたい台詞なんだー」
「……さいぼぐ、お前、もう終わってる」
「えぇっ、オレいつ終わったのぉ!?」
「おい」
タイガーアイは、エコに呼びかけた。エコはマヌケ面を向けて?顔をする。
「何ですか? タイガ先輩」
「俺は……まぁ、いい。もう一度だけチャンスをやろう。ただし、意見を採用してももうBC団には加えない」
「はぁ」
「タイガーアイ様ぁ、何でまたこのバカ猫にチャンスあげるんですニャ!?」
「……バカと天才は紙一重と言うだろう」
改造猫達は、内心「エコなんか紙一枚すら越えないだろ」と思いつつも、幹部の言う事に納得したように黙り込んだ。
エコは、今度こそと言う表情で腕組みをしながらうーんうーんと声を出し始めた。見かねて獣猫がアドバイスする。
「さいぼぐ、逆転、発想、だ」
「ぎゃ、逆転ハッソーって何?」
「逆、見方、する」
「わかった。ありがと獣猫」
エコは頭を下げて股の間から顔を出した。そこにいる全員が「オイオイ」と心の中で突っ込んだのは言うまでもない。
アドバイスした獣猫までも、しばしその光景を見て固まっていた。股の間から見える景色を見ながらエコは考え続けている。
「(……そうだ、逆さま猫はどうだろ……頭で歩く猫……ダメか。アイディアって難しいなぁ……)」
エコはだんだんめんどくさくなってきた。興味のある事以外すぐに飽きるのが現代っ子、褒美も無いんだから別に良いかと思う。
プライドもあっさりと捨てて、エコは頭を本来ある位置に戻した。
「思いついたか?」
「えぇと、全然思いつきませんでした」
逆さま猫の事を話そうかと思ったが、さすがのエコでもくだらないアイディアだと思うので辞めにしておく。
タイガーアイも「やっぱりこいつに聞くのが間違いだったか」と言う表情を露骨に表した。
「パクリOKだったら、シアンみたいなスパイにするとかもどうかなぁって思うんですけどー」
エコが何気なく言ったその一言がタイガーアイの脳裏に一筋の光をもたらした。
「……今、スパイと言ったか」
「ふぇ? 言いましたよ。オオカミ軍団みたいにスパイを作れば良いんじゃないかなーって。パクリですけど」
「悪の組織でパクリは大いに結構……」
ニヤリを微笑むタイガーアイの表情を見て、改造猫達は皆「やられた!」と感づいた。
一斉に改造猫たちがエコを睨むと、当の本人は何故急に皆がこっちを睨んでいるのか判らず、首をかしげた。
「何故こんな簡単な事を思いつかなかったんだ……フフ……俺としたことが」
「タイガーアイ様! オレ様がレッドのスパイ化案を考えますニャ!」
少しでも、手柄を自分の物にしようと猫猫が手を挙げると、他の改造猫達も次々を手を挙げ始めた。
しかし、タイガーアイはそんな改造猫たちを一瞥すると、ゆっくり首を振った。
「その必要は無い」
「ニャ!?」
「……レッドは改造しない」
タイガーアイの発言に改造猫達は一様に「えっ!?」と言う声をあげた。
「たたた、タイガーアイ様! どういうことですか、このまま帰しちゃうんですか!?」
「てっきり、レッドをスパイに改造するのかと思った感じです」
「まぁ、待てお前達」
タイガーアイが待ったと言う風に手を出して改造猫達を鎮めさせた。
何か考えがあるのか、果たして放棄したのか判らないため、改造猫の間にも動揺の色が浮かぶ。
「……黙ってはいたが、実は俺にはある作戦がある。その為に必要な改造猫を探していたんだ。
が、気が変わって新たな改造猫を作る気にした。しかし、それはレッドではない」
「よくわかりませんが、スパイにするのは他の隊員と言う事ですか?」
タイガーアイはゆっくりと頷いた。
「……皆、ご苦労だったな。会議は終わりだ」
「えっ!?」
席を立ち、帰り始めたタイガーアイに改造猫達は腰を浮かした。
「あの、タイガーアイ様」
「……そうだ。忘れていた」
幹部タイガーアイは、改造猫たちの方を振り返った。
BC団に復帰できるのか、それとも否か、復帰できるとしたらそれは誰なのか。緊張が走る。
「猫猫」
「ニャァッ! ハッ、ハァイッ、ニャァッ!」
彼の口から名前を呼ばれた瞬間、猫猫はかつてなかったほど奇声にも近い声で返事をした。
周囲から羨望と嫉妬の眼差しが一気に集中する。
「…この事は内密にするように言っておけ。判ったな」
「ニャッ……え……あ、え?」
タイガーアイは猫猫から目線を逸らし、その横の操猫に目を止めた。
「操猫」
「はい」
操猫は名前が呼ばれても、"やっぱりね"と言う余裕のある表情を見せた。
再び羨望、嫉妬(特に猫猫からの)の視線が再び彼に集まった。
「レッドを返しておくように。記憶も消しておくんだ。わかったな」
「……それだけですか?」
「重大なことだ」
タイガーアイはそれだけ言うと、次は化猫に目線を向けた。
一瞬本人は、「えっ」と言う表情を見せたが、言われた言葉は期待はずれだった。
「化猫、お前はアクセサリーがチカチカして鬱陶しい。目障りだ」
「なっ……」
タイガーアイは背を向けて、会議室を後にした。まだ何か言ってくれるかと期待する者もいたが、結局戻って来る事は無かった。
結局、誰もBC団には復帰できなかった。一同はしゅんとして、椅子に座り込むしかなかった。
「……なんだニャ。オレ様、頑張ったのにニャ……ニャニャニャ……」
「あーもー。なんかムカつくから、今からみんなでカラオケいかねー?」
「そうだな。全部吹っ飛ばそうぜ。せっかく集まったんだし」
雷猫の提案に、他の改造猫達も賛同した。皆はもうすっかりカラオケムードになっていた。
どうせ皆、BC団から捨てられた身、復帰できなくてもさほど気にすることはなかった。
「じゃぁ、全員で親睦会しようって感じ♪」
「あ、すいません。俺……」
変猫がおずおずと立ち上がり、申し訳なさそうにぽりぽりと頭をかいた。
「ちょっと、用事があって」
「なんだニャ! 先輩との付き合いを優先しろニャ!」
「いや、結構大事な用事なんで」
「あーもー、変猫はほっとくニャ。コイツだけ抜きで行くニャ」
「ねぇねぇ、オレも行って良いー?」
「ダメだニャ! シアンもバカ猫も、改造猫じゃないから来ちゃダメニャ」
「ちぇー……」
空気の読めないヤツと言う感じで変猫はスルーされる。皆の意識はカラオケ大会の方に行っている。
だが、実は変猫は違っていた。実は彼の手の中には一枚の紙切れが握られていたのだ。
『BC団アジト地図』
隣に座っていたタイガーアイが机の下から彼に差し出した物である。
そう、BC団に復帰できることとなった改造猫は、変猫だったのだ……。
「……準備は出来たか?」
タイガーアイが入ってくると、変猫は「は、ハイ!」と部屋中に響き渡る声で返事をした。
洗脳カプセルの中には、BC団のスパイとして生まれ変わった改造猫が入っていた。
「……改造費がかさむからな、変猫の能力はちょうど良い」
「あ、ありがとうございます。結構、デザインも頑張りましたから」
「……カメレオンか」
虚ろな目で遠くを見つめているその改造猫は、緑色の縞模様。
オレンジの瞳、黄色い爪、まさにカメレオンを思わせる姿だった。
「え、えぇ。スパイだから、カメレオンって言うモチーフを思いつきまして」
「フフ、お前にしてはなかなか洒落が効いているな。きっとウィック様もお喜びになるだろう」
「えぇ、俺も嬉しいです」
「……ところで」
タイガーアイはチラと変猫に目をやった。何故だか妙に不気味な光を瞳に宿していた。
「お前には、今後BC団の改造猫担当係を任命する。格上げだ」
「は、はぁ、ありがとうございます……」
「では、入れ」
「は?」
タイガーアイは奥にあるカプセルを顎で示した。
「お前の能力をより一層高めるためだ」
「わ、わかりました!」
変猫はワクワクしながらカプセルの中に入った。改造猫で2番目に出世したことになる。
みんな悔しがるだろうなぁ、などと色々と考えながらカプセルの扉を閉めた。
タイガーアイは、こっそりとダイヤルを廻し、微妙に改造するだけでなく、洗脳も施す事にした。
ふと、自分も洗脳カプセルに入っていた様な記憶が蘇る。だが、自分は元からBC団に忠誠を誓っていると打ち消す。
数十分が経過した。その間、タイガーアイは自分の計画が着々と進んでいることの喜びでいっぱいだった。
その時、両方の洗脳カプセルの扉が開いた。白煙と共に、変猫ともう一人の改造猫は一歩ずつ、タイガーアイの方へと向ってきた。
「……気分はどうだ」
タイガーアイが尋ねると、二人はゆっくりと頷いた。
「素晴らしい気分です」
「俺も……」
体の青い模様が赤に変わった変猫は、まだ夢を見ているかのような目で呟く。
「お前たちは今よりブラックキャット団の一員として生まれ変わった。まず、今日新たに加わった
お前には特別にスパイ任務を命ずる。名前はそうだな……カメレオンだから、カオンでどうだ」
「……カオン」
改造猫の焦点がゆっくりと定まってくる。
「……カオン、お前はもう正義の味方ではない。これからは悪の一員として、
ぐるぐる戦隊OFFレンジャーにスパイとして潜伏するのだ」
「はい、お任せ下さい。タイガーアイ様」
カオンは黄色い爪を光らせながら、その妖しげな瞳を向けてニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
変猫も、体中にみなぎる悪の力を感じながら同じように笑みを浮かべた。
「全ては、我が首領、ウィック様の為に……」
そんな事になっているとは露知らず、改造猫達はカラオケショップで二次会に突入していた。
皆、すっかりハイテンションになってしまい、酒だ飯だの乱痴気騒ぎ。
今はちょうど一際酔っ払った猫猫が、5年ほど遅れた流行歌を絶唱している所だ。
「それにしても、改造猫増えたよなぁ……」
焼酎片手に、どっしりと椅子に座りながら、偉そうな態度で雷猫は呟くと、
周囲にいる化猫や写猫たちが「確かに」と口々に答えた。
「俺も改造猫になって……結構経つもんな。オイ、タヌキ」
「あの、ボクはタヌキじゃないんで……」
いささか不機嫌そうに言葉を返す化猫だったが、雷猫は赤い顔で人差し指を彼に向けた。
「タヌキじゃないなら、その顔なんだ。お前はタヌキだろ。タヌキ」
「……うぅ」
「オイ、タヌキ。お前、改造猫にならなかったら、今どうしてたと思う?」
「え?」
「俺、この頃いっつもそういうこと考えてんだ。普通、悪の組織に改造されないだろ。パンピーは。
だから、何かな。俺は多分、専門学校卒業して工場とかで働いてると思うんだ」
化猫は考えるようにチラと右斜め上に視線を写し、ニヤッと笑ったかと思うと、
いつもの無駄に自信満々な表情で答える。
「ボクは、おしゃれなカリスマ美容師になっているのさ。ボクのセンスはピカイチだからね」
「今時カリスマとか、素晴らしいセンスだよネ」
遠くで野菜スティックを齧っている操猫が突っかかってくると、化猫の表情もムッとする。
彼は、一滴もお酒を飲まなずにさっきからあぁやって野菜の棒ばかりを食べている。カッコつけているが単に下戸なのだそうだ。
「そういう操猫は何やってると思うのさ」
「フフン、俺は決まってるヨ。会社を起こして社員をこき使っている」
「すぐに潰れるな」
雷猫の言葉に他の改造猫はドッと笑った。報復とばかりに化猫はひときわ大げさに手を叩いて笑っていた。
「そんなの判んないヨ。でも、俺は人をこき使うの好きだしネ。会社員にはなってないのは確実サ。
ウィック様だって俺のそう言う所を見込んで俺をスカウトしたんだヨ。ファミレスでネ」
「そこのメガネはどうだ」
雷猫は、右側にいた写猫を指差した。彼はこめかみの辺りをコツコツとしばし叩いて考えていた。
「……そうっすね。普通に出版社とかで写真撮ってる感じじゃないですか?」
「何でメガネ屋じゃねえんだ」
「いや、俺のコレ、一応カメラなんです」
「紛らわしいんだよ」
雷猫はより一層横柄な態度で残っていた焼酎をぐっと飲み干すと、
悪酔いしてきたのか、反対側の席で猫猫の歌を聞いている獣猫を見るなり、ビシッと指差した。
「オイ、そこのぶすーっとしたヤツ! 楽しいパーティで仏頂面してんじゃねーぞ!」
「……俺、楽しむ」
「もっと笑えよ! せっかくの酒がまずくなんだろうがぁ!!!」
雷猫がグラスを床に投げつけてテーブルの上に乗りかかろうとするところを、他の改造猫が必死に止める。
「先輩、獣猫は元々、あぁ言う顔なんですよ!」
「あんな無愛想な顔でも、中身は結構ピュアなんですから!」
必死に周りの改造猫が雷猫を椅子に押さえつける。獣猫は俯きながら暗いオーラを放っていた。
表情を見るだけだと、イライラを我慢しているようにも見えるが、実際はかなり落ち込んでいるのだ。
「け、獣猫は改造猫にならなかったら何になっていたと思うんだ?」
フォローするつもりで写猫が尋ねると、獣猫は軽く目線を上げて、こちらをじっと見つめた。
「……俺、全部、忘れる」
「あ、そっか。お前、カプセルに半年も入ってたもんな」
「半年!?」
雷猫と化猫が驚くように獣猫を見た。実際の所、彼らが入っていたのは数時間程度なので、
半年と言うのは物凄く長期間であることは明白である。
「何で、半年も入ってるんだよ。あれか、ウィック様忘れちゃってたのか?」
「いや、何かいくらやっても、洗脳されなかったそうなんですよ。意志が強かったとかなんとか」
「ふーん。野生のパワーってヤツだな」
「だから、まぁその副作用で以前の記憶は無いし、言葉も微妙にカタコトなんすよ。でも、良いヤツなんで」
「じゃ、想像でいいや。お前が改造猫にならなかったら何したい?」
獣猫は手にしたグラスをじっと見つめて黙っていた。
「……俺、動物、暮らす」
「動物園で働きたいって事か?」
「たぶん、動物とどこかの島で暮らしたいって意味かと。獣猫、動物大好きって感じなんすよ」
「じゃ、仏頂面。好きな動物は何だよ」
「さいぼぐ!」
獣猫は、(なんとなく)明るい表情で、顔を上げて即答した。
「……ぜんっぜん知らねえ。マニアかコイツ」
「いや、コイツ、あのサイボーグ猫を動物と同類と見なしている感じなんですよ」
「どの猫だ?」
「あの、ホラ、なんかマヌケそうな顔の」
「……あぁ! あの何かいかにもバカですって感じのヘラヘラしたヤツ!」
「くしゅん……!」
ちょうどその頃、くしゃみをしたエコはオオカミ軍団で食事中であった。
「くしゅん……!」
「っおい! 汚ねえだろ! くしゃみする時は手で押さえろよバカ!」
「仕方ないだろー。オレ、何か鼻がムズムズするんだからさー」
「誰かお前のこと噂してんじゃね?」
「えぇ? ホントに? 誰だろー。オレの事カッコイイって言ってくれてたらいいなぁー」
ヘラヘラ笑いながら、噂の場所に思いを馳せるエコ。しかし、実際は思い切りバカにされているとは夢にも思わないだろう。
しかし、まだまだ改造猫たちの間では、エコの話が続けられていた。
「……まぁ、そう言う訳で、ほぼ人間と見なしてない感じなんですよ」
「判る。判るな。俺の飼ってた犬もバカだったけど人なつっこくて可愛かった」
「何だニャ? 犬なら、オレ様も買ってたニャ?」
マイク片手にテーブルの上のチューハイを取りに来た猫猫が、突然話しに入り込んできた。
スピーカーからは、やっぱり数年遅れの流行歌が流れている。
「あ、そうだ。雷猫先輩、猫猫は前はペットショップに勤めてたんですよ」
「へぇー。意外だな」
「オレ様、特に猫の扱いはお手の物だったニャ。だからスカウトされちゃったニャ」
「じゃぁ、お前。改造猫にならなかったら何やってたと思う?」
自慢げに答える猫猫に、雷猫は再び例の質問をすると、猫猫は考えるまでもないと言う顔をした。
「そんなのペットショップの店員に決まってるニャ」
「つまんねぇの」
「何だニャ! どうせつまんない人生送ってるニャ! もう良いニャー!」
猫猫はぷりぷりと怒りながらグラスのチューハイを一気に空にして、流れている歌を再び熱唱し始めた。
「結構みんな、色々やってんだな」
「そうすね。バラエティ豊かって感じです」
「他は……と」
雷猫は、イチバン離れた場所にいる光猫と影猫に目を付けた。
二人は何やら難しい議論をしているようで、光猫の発光のせいか、近寄れないオーラの様な物を感じた。
「おーい、光猫、影猫。お前ら改造猫にならなかったら、何してたと思う?」
声をかけると、二人はすぐさま雷猫の方を向いた。光猫の発光がより強くなった。
「何ですか。雷猫」
「いや、ちょっと皆に聞いてんだ」
「……私は東大に進学して、一流企業に入っていたでしょう」
「影猫はどうだ?」
「さぁな。そんなのわからん」
「おいー」
「雷猫、申し訳ありませんが今、時間と言う概念についてお互いに議論している最中なのです。話しかけないで下さい」
二人とも素っ気無い回答だし、光猫にキッパリ黙ってろと言われてしまったので、雷猫は内心イラッとした。
とりあえず、イチバン近かった化猫を蹴飛ばしてウサ晴らしをする。
「後は、炎猫かな…」
雷猫は愛おしそうな目で席一つ分向こうで酔いつぶれている炎猫の側に向った。
「炎猫は、改造猫にならなかったら何になってたと思う?」
「わかんない……」
「想像でいいからさ」
「俺様……雷猫に会えない人生なんて考えたくない」
「炎猫……」
炎猫は赤い顔をさらに赤くして、潤んだ瞳を向けた。
「雷猫……俺様、我慢できない……体が火照って……」
「おいおい、やめろよ。こんな所で」
「雷猫は俺様の事好きじゃないんだ……じゃぁ、もう良い」
「待てよ。判った判った……愛してるぞ炎猫」
「雷猫……」
二人の唇が重なりあった時、「うぉぉ!?」と言う声が改造猫たちから漏れる。
好奇心からか何故か皆、ニヤニヤとした笑みを浮かべたままその光景を見てしまう。男とはそう言う物だ。
すっかり、炎猫の気が済むと、雷猫は席に戻ってきた。
「いやぁ、臆せずに凄い物見せ付けてくれますね。先輩」
「まぁな。もう気にする世間体もないし。さてと……これで全部かな」
「まだ闇猫さんが……」
「闇猫は別にイイヤ」
「オイ!」
闇猫の声がしたかと思うと、彼は雷猫達が座っているソファの後ろに立っていた。
どうやら、自分に振られるのをこっそり待っていたらしい。
「だって、コイツの事だから、いじめられて屈折した感情がキッカケで犯罪でもして人生終わってただろ」
「黙れ黙れ黙れ!」
「じゃぁ、何になってたと思うんだ?」
「教えない」
愉快そうにニヤリと笑う闇猫だったが、雷猫は「ふーん」とだけ呟いて誰かのグラスを手に取った。
「何か言えよ!」
「な。こう言うヤツなんだ。闇猫って。悪人になれて調子乗ってるんだな」
「フフン、言うなら勝手に言え。俺はなんせ、悪魔になったんだからな。試験にも合格して、この翼だって手に入れた」
「あっそ」
「あっそってなんだよ! 俺は悪の中の悪なんだぞ! この翼が見えないのか。俺は一流の悪魔様だぞ!」
闇猫の肩をトントンと操猫が叩いた。口元を押さえながら何か笑いを堪えているようだ。
「あの、ちょっと良い?」
「何だ。何がおかしい!」
「いえね……」
操猫は闇猫の耳にそっと耳打ちをした。
「悪魔の翼って中国で作ってるノ?」
「は!?」
「MADE IN CHINAって、翼に、ふふっ……ふっ……」
そう言うなり操猫は顔を抑えて大爆笑。闇猫が羽を見ると、翼の先の方に小さい字で確かに
『MADE IN CHINA』と言う文字が描かれていた。せっかく、見栄のために購入したのに……!
闇猫は今までないほど顔を真っ赤にして、わなわなと震えたか思うと、
「帰る!!!」
と言って、その場を飛び出していった。どうやら、また試験に落ちてたらしい。
しかし、そんな闇猫を誰も気にはせず、部屋の中ではアンニュイな時間が訪れ始めていた。
「……あーあ、OFFレンジャーさえ現れなきゃな……」
「ホントホント。OFFレンさえいなければボクらだってBC団で大活躍してるのさ!」
「威勢良いなタヌキ」
「あの、だから、ボクはタヌキでは……」
「あぁ……クソー……」
雷猫は気だるそうにソファーに大の字になると、そのままずり落ちていった。
「……こうなりゃ、OFFレンを倒すためにさらに悪の道を突き進むしかねえな」
「雷猫センパイは良いこと言いますニャ~!」
「よし!」
雷猫は勢い良く立ち上がると、テーブルの上に飛び乗って、周囲にいる改造猫達の顔を見渡した。
「これからもOFFレンジャーを倒すため、俺ら精一杯頑張っていくぞー!」
「オー!」
「よぉぉぉし、今日は朝まで騒ぎまくるぜええええええ!!!」
「オオオオーーーーーー!!!!」
その時の、改造猫達の歓声は全てのカラオケ部屋にまで聞こえるほど大きく、迫力のあるものだったと言う。
改造猫達は自分の使命である『打倒OFFレン』を胸に一晩中歌い続けたのであった。
戦え!改造猫! 結局リストラされたことには変わりは無いけどなんとかなるさ!
今後登場するかどうかもあんまり考えてないみたいなこともあるにはあるが、
時々思い出したときにも登場するようになるからめげるな改造猫!
行け、改造猫他悪者の諸君。OFFレンを倒すその日まで!!
≪悪者座談会 おしまい≫