第0話
『ワルレンジャー誕生!』
(挿絵:ワルパープル隊員)
──彼らの結成に関しては、10年以上前から説明を始めなければならない。
『くっ…俺達が負けるとは…正義は必ず勝つ…んだ…!』
『ヌハハハハ!!正義だと?笑わせてくれる!!』
当時、子供達の間に一大ブームを巻き起こした『善良戦隊イイヒトファイブ』
とにかく善を基本としたストーリー展開。劇中に毎回200ほど出る教訓。
放送当時は男の子のなりたいものランキングの上位が「警察官」「ヒーロー」を席巻していた。
ただ善を教えるのではなく、善を利用した犯罪、善にまつわる複雑な解釈の存在を扱うなど、
子供向けとは思えない完成度の高い脚本と演出に現在でもこれを名作と讃える声は少なくない。
『……グハハハハ!これで最後だイイヒトファイブ!』
『くっ…自身を持つのは良い事だ…!これからもキラキラした自信を持とう!!』
『フハハハ。首領に教訓を投げかけるとはどこまでも良い人だな貴様らは!!』
そんな、イイヒトファイブを見ていない子はいじめの対象となるのも仕方がなかった。
実際は、いじめというよりも大人数に囲まれて口々に劇中で出てきた教訓を叫ぶという物。
中には3時間以上に及ぶ時があり、意識不明で運ばれた事例も少なくない。
『…良いか!正義などという物は所詮自己満足!愚かな物なのだ!』
『く…多方面からの解釈が出来るそんな君は今日もキラキラだ!』
『フハハハ!そんな風に何でも肯定できるのもこれが最後だ!この爆弾で消えろ!』
その教訓責めの被害にあった子がここにも居た。
ずっと見ていなかったせいで教訓責めに連日会い泣きながら帰るとちょうど例の番組が放送していた。
『ぐぁぁぁぁっ!!』
『フハハハハ!これで解っただろう!正義など信ずる物は愚か者!悪こそ世界を制するに相応しいのだ!』
『し、将来に向って頑張る君は…輝いているっ!……ガクッ』
その少年はその回を見て衝撃を受けた。
彼らが言っていたヒーローよりも強い存在。少年はすっかり敵側の虜になったのだ。
実際、この次の回で新たな武器をゲットし、敵はわずか開始3分で消えるのだが…
少年はそれ以来ヒーロー番組を見なくなった。少年の心がすっかり変わった瞬間だった。
──その後、少年は日々悪を信仰し悪の道へと突き進んでいった。
学校でも、家でも…少年は悪を貫き通し続けた。もちろん、その筋の目にも留まりやすくなる。
『…我が組織に来ないか?』
小学校卒業を間近に控えた頃、少年は多感な時期を悪の組織の一員として過ごした。
だが少年は確実に悪者としての経験を身に付け、組織に入ってから5年がたった。
少年は組織の重役からも期待される存在となり、幹部昇進は目前だったその時…。
『組織は解散だ…赤字でどうしようもない』
組織は解散。少年は絶望の淵に立たされた。
今まで自分が尽くしてきた場所はもう無い。当然帰る所などない。
しかし、少年は諦めなかった。無い物は作ればいいのだ。
──極悪戦隊ワルレンジャー秘密基地。
組織に入っていた頃のコネを使い某所地下に作られたこの秘密基地。
だが、隊員がいない為、少年は隊員募集の為に日夜奮闘することとなった…。
ある月夜の晩。空から現れた黒い影が山の方へと飛んでいった。
『…なんで俺がこんな所に…』
コウモリの様な羽を畳んだ彼はため息混じりに呟いた。
彼は、悪魔界の優秀な家系に生まれ、何不自由なく暮らしてきたが、界の掟により人間界へ。
今までの夢のような暮らしが風呂敷包み一つも持たずに見知らぬ世界へ。
彼が不服に思うのも無理はなかった。
『ま、適当にその辺飛んでみるか…』
某研究室。3名の研究員ととある有名な博士はある研究に携わっていた。
中国の妖怪と言われるキョンシーの遺伝子を現地で入手し、
その遺伝子でキョンシーを製造しようと言う研究であった。
その遺伝子を組み込まれた生物は大きな水槽の中ですくすくと成長していた。
『博士。研究結果のレポートが出来上がりました』
『ご苦労。明日の学会で発表しよう。』
『では、そろそろ自動発育促成装置の電源を落としましょう。』
『そうだな…』
研究員は電源のレバーに手をかけた。
だが、研究員のつかんだ物は覚醒装置だった。案の定水槽の中の生物は目を覚ました。
『…!!!!!』
その生物は水槽のガラスをぶち破り開いていた窓から外へと逃げ出した。
慌てて研究員が追いかけようにもすでに生物は逃げた後だった…。
『あぁーっ!!まただーっ!!ムカツクー!!!』
あちこちから聞こえる怒りの声。その原因は様々。
住宅が密集するこの一本道に立っただけでも相当似たような言葉が聞こえる。
道の向うが一瞬歪んだ。そのゆがみの向うから人の影…
『……こっちだってムカツクっつーの…』
様々なストレスの声の中誕生したその影は辺りを睨むようにその道を進んでいった…。
『…なんだこの点は。こんな事では一流の忍者になれないぞ』
『ガーン!!』
どこかの学校から逃げ出した一人の忍者。
同期の生徒が次々と進級していく中で一人留年3回目を迎えていた。
『くそぅ…やさぐれてやるっ!!』
闇雲に逃げ出した先にあるのはとある街だった。
彼の中ではもう、二度とあそこにはもどらないと言う事を決心していた。
某政府中枢機関。
様々な情報を記録、演算しているコンピューター。
当然重要情報も多数記録しておりハッカーやウイルスの良い標的にもなっている。
そしてその日もまた新種の悪質なウィルスの対処で所員たちが大忙しだった。
『…なんてしぶといウィルスだ!』
『いかん。他のファイルに感染し始めたぞ。』
『マザーコンピューターの方に負担をかける前に…なんとかするんだ!』
『ダメだ!マザーの方に感染を始めている!』
全てのコンピューターを統治するマザーコンピューター。
耐性のないウィルスを削除しようとするが感染の早さにマザー自信も追いつかない
次第にマザーから火花が出始める…
『いかん!マザーのCPUが異常をきたしたのか!』
『まずい!爆発するぞ!』
小さな爆発だった。だが、大きな痛手には違いなかった。
天井には大きな穴が開き辺りには煙が立ち込めていた。
その煙の向うから怪しげな影がゆっくりと出てくる…。
『………だ、誰っ…』
所員たちが言葉を書ける前にすでに彼は所員たちを倒していた。
『…フ。雑魚はそうやってくたばってろ。俺は外へ出る…』
彼のニヤリとした顔はまさしく悪意に満ちていた顔だった。
『…異常なし』
ごそごそと山奥で動くダンボール。その中には一人の少年が入っていた。
何をするわけでもなく隠れているだけ。
何が目的なのかは誰にも解らない。ただ、言えるのは普通とは違うと言う事。
「ん?」
山の中に落ちている謎のチラシ。
広げてみるとそこに書いてあったのは『ワルレンジャー隊員募集』
同時刻に同じくチラシを見ている物が一人
「面白そう…参加しようかな♪」
包帯を体に巻いた彼女が向った先…チラシに書いてある基地の住所。
今まで話した彼らも同じようにチラシを目に留め基地へと向っていた。
こうして彼らはワルレンジャーとして活動していくのだ。
