Season1 第1話

『登場!極悪戦隊』

(挿絵:ワルクリーム隊員)

──ファンファンファンファン………

真夜中にパトカーのサイレンが鳴り響くオオサカシティ。
そして警官たちは巨大なライトを照らしながら何者かを探している。

「クソッ!10日連続銀行強盗とはこれは相当なプロの仕業だぞ」
「目撃証言によりますとどうやら犯人は少年のようです」
「何?少年だと!?馬鹿な………」

その時、ライトがビルの上の何者かの影を捉えた。
光に照らされた影は徐々にこちら側に近づき次第にその姿はハッキリして行く。

「………オイ、馬鹿な警察共。お前たちにこのオレを捕まえる事など不可能だ」

赤い体の少年がこちらを冷酷な瞳で見下ろしている。

「き、貴様は誰だ!」

警官たちが下でなにやら騒いでいるのをよそに少年は叫んだ。

「悪の組織ダークシャドウの赤い悪魔、ダークレッドとはオレ様の事だ!ハーッハッハ!!」








「ハーッハッハ………………イデッ!!」

この物語の主人公になるであろう少年の朝は床下から始まった。
目を開けるとゴミだらけの床が視界全体に広がっている。

「………夢か。最高の夢だったのに……フザケんなよ」

目覚めて最初に飛び込んでくるのがゴミと言うのは気分が悪い。
特にこの少年にとってはすこぶる気分が悪かった。

少年の名前はワルレッド。組織に入っていた頃はダークレッドの名で所属していた。
人生を捧げるつもりで入っていた悪の組織ダークシャドウが解散して早半年。
悪への想いを捨てきる事が出来ず自ら立ち上げたのがこの極悪戦隊ワルレンジャーだった。

「目覚めたか……?」

突然の声に驚いてレッドは後ろを振り返った。
ベッドにはフードを被った紫色の少年が座っていた。
目深に被っているフードでその表情を細かく読み取る事はできない。

「なんだ、パープルかよ……驚かせんなよ」
「笑い声が聞こえたから、様子を見に来た。寝るときくらい静かに出来ないのか?」
「……一睡もしないような奴に言われたくねぇよ」
「フ…………寝る必要が無いからな。貴様と俺は違う」

彼の名前はワルパープル。
どこから来たのかはレッドも知らないがいつの間にか部屋にいることがある。
パープルは人間離れしているというか一睡も寝なければ食事もしない。
レッドは密かに彼は実は宇宙人の様な普通の奴ではないのではないかと思っている。

「………で?例の件は順調に進んでいるのか?」
「例の件だと……?」
「オレたちの使命は世界に悪の華を咲かせる事だ!人々の心を悪に変えると言う使命が!」
「俺は他人にはあまり興味は無い……」
「少しは興味持てよ……」

レッドは首飾りを付けながらブツブツと文句を言う。
自分の目指している理想の悪の組織の実現はまだ遠い先の話のようだ。

「あっ」

ついレッドが首飾りを落として拾おうとした時、シュッと風が横切り首飾りは真っ二つ。

「……やめろよパープル」
「俺に赤色の球体を見せるな。ただでさえ貴様を切り裂かないだけ奇跡だというのに」

パープルは何故か赤色の球体を見ると破壊したくなる癖があるようで、
レッドも度々被害に会いかけた事がある。

「あーイライラするぜ……クソ。ダークシャドウの頃が懐かしい」
「オイ、レッド。そろそろ集合の時間じゃないか?」
「解ってるよ……うっせぇな」
「先に行ってるぞ」

不敵な笑みを浮かべながらパープルは部屋を後にする。
レッドはため息をつくとパンパンと二度手を叩いた。

「お呼びですか隊長」

天井にさかさまに張り付いた青い忍者がレッドの背後に現れる。

「………集合だ。多分ブラックがまだ寝ているだろうから起こして来い」
「承知」

彼の名前はブルー。隊員の中では一番礼儀正しい奴かもしれない。
幼少の頃から忍として生活してきたお陰で隠密行動で非常に役立ってくれる。

「さー。今日から本格的に行動するぞ……!」

普通ならばここで生き生きとした顔になるがワルレンジャー隊長は違う。
ニヤリと悪者特有の笑みを浮かべるのだ。









「オレは学校を攻めてガキらに悪の教育をして下僕にさせるって計画がいいな」
「俺はとりあえず銀行襲撃とかがいいな」
「俺は何でも良い……」

悪事の企みは積極的なもの、無気力な者の2つに分かれる。
しかし、レッドは気にしない。悪者とは自由なのだ。それが悪者なのだ。

「さーて。話も落ち着いてきたしどうすっかなー」
「とりあえず今日の悪事を決めなきゃどうにもならねーよなー」
「オレめんどくせーから何か面白い作戦あったら言ってくれ。読書の時間だ」

レッドは机の上に足を乗せたまま最新号の『悪者の友』を手に取り読み始める。
悪の組織に配られる雑誌であり、これを読む首領と読まない首領では全く意味が違ってくる
特にレッドが憧れるのは悪の組織レベルランキングと言うランキングである。
様々な悪の組織の人気、悪事、隊員数等などから算出した

「あー。オレもこのランキングの上位に入りてー……」

思わずつぶやいてしまうだが、まだポッと出のこの組織のワルレンのワの字も出ていない。
せめて最下位の「オオカミ軍団」とか言う馬鹿そうなやつらには負けたくは無い。
確か、虎猫の馬鹿なボスのまとめているくだらない組織だ。

「レッド。だいたい決まったよ」
「お。そっか」

パタンと雑誌を閉じてレッドは隊員の決定を聞く。
一体何なのか。自分をしびれさせてくれるほどの作戦なのか……。

「子供を拉致して悪人に教育する!」
「……なんかオレの考えパクってないか?」
「なわけないだろ~」
「そうそう。一生懸命考えたの俺らだぜ?」
「あぁ……なんで隊長のオレがこんな事で偏頭痛を起こさなけりゃいけねーんだ……」

しかし、そのときであった。
レッドの偏頭痛が良い感じに脳細胞を刺激し、脳の片隅の一片の記憶を思い出させたのだ。

「そうだ!今から極悪神社にお参りに言ってこよう」
「極悪神社?」
「あぁ、オレが前の組織に入っていたときに何度かお参りに言った事がある。そこで毎年お参りすると、
悪の組織は繁栄すると言われてる。俺の組織はお参りを忘れてしまった年に解散したんだ!
オレたちが世界一の悪の組織になるにはここでお参りするしかない!!!」

レッドは話していて興奮し始めたのかだんだん拳を握って大声で隊員に話していた。

「じゃぁ、レッド一人でいけばいいじゃん」
「ダメだ。全員で行かないと効果がないんだ。オラ、行くぞ」
「イデッ!!」

レッドは早速部屋を出て行こうとしたとき足元に何かやわらかい物を踏んだ感覚があった。
レッドが踏んだのはワニ。正確に言うとワニのぬいぐるみらしき物だった。

「いってねぇなぁ」
「…………………」
「オイ、コイツがオレに乱暴しないでくれだとよ」

ワニはレッドに向かって怒りの態度を見せた。
これはワニが喋っているのではなく多分、持ち主であるワルレンシェンナの腹話術だと思われる。
ワニはシェンナの変わりに色々と発言するが時々うるさいこともある。

「わかったわかった。いいからお前もいくぞ!オラ!」

すると再びレッドの足元になにやら別の感覚がやってくる。
それを踏んだ瞬間バタンと別な隊員が前のめりに倒れている。

「お、悪いなグリーン」
「……ククク……足元にも注意を払わない様では到底隊長など……クク」
「悪かったな」

彼はワルグリーン。人を見下してばかりだが本人も自分の事を棚に上げている時がある。
しかし彼の服はビロビロと長くて時折踏んづけてしまう。

「さ、早くいくぞー!行くんだー!!」

ようやく隊員が重い腰を上げてくれた。
なんとかして隊長らしさを見せ付けなければならないとレッドは改めて思った






極悪神社と言うだけ合ってずいぶんと寂れた場所にそれは存在していた。
古めかしい色をした神社。恐ろしい顔をした狛犬。灰色の土。
辺りの木は枯れ、そこへとまったカラスたちが訪問者を見つめている。

「悪者らしくていいだろ?さぁ、お参りするぞ」
「ただ手入れしてないだけじゃねーの?」
「いいんだよ。悪者ってのはそんな事しねーんだよ。だから早く参ろうぜ」

隊員を一列に並ばせ、レッドのみが前に出てガラガラと鐘を鳴らした。
そして、来る途中に盗ってきた500円玉を賽銭箱に入れてパンパンと二拍手した。
続いて隊員も同じようにする。レッドは手を合わせてペコッと頭を下げた。隊員も同じだ。

「どうか、ワルレンジャーが世界一の悪の組織になれますよーに!」
「よーに……」

隊員があっさり顔を上げるとレッドはまだ深々と頭を下げていた。
よほどワルレンジャーを立派な団体にしようと考えているに違いない。

「………っよし!これでオレたちは世界一の悪の組織に一歩近づいたぜ!」
「だといいけどな」
「オイ、さっきから何茶々いれてんだよブラック」

パタパタと空を飛んでいる隊員はワルブラック。
優秀な悪魔の家系の出らしいがそんな事は誰も信じていない。
時々、レッドの発言に茶々を入れたり揚げ足を取ったりする良い意味で嫌なやつだ。

「だーてさ。俺、悪魔じゃん?神頼みってどーも性に合わないって言うかさ」
「ここに奉ってあるのはな……神様じゃねーよ……色んな奴らの悪の心をだな……あ、あれ?」

ブラックがいつの間にか居なくなっている。
キョロキョロとあたりを見回してみるとブラックが賽銭箱の上に乗って社の中を覗いている。

「コラ、ブラック!罰あたるぞ!早くそこを降りろ!」
「なんだこれ。変な壷が一個置いてるだけじゃん。馬鹿馬鹿しい」
「オイ!きいてんのか!コラ!」

レッドは足元の石を拾い上げ、ブラックに焦点を定めた。

「降りろっつってんだよーっ!!!」

レッドが思い切り振りかぶってブラックに投げた石は簡単に目標物を逸れ、社の格子戸に命中した。
格子戸はメキメキと嫌な音を立てて内側へと倒れガチャンと何かが割れる音がした。

「ヤベッ!!」

しかし、そう思ったときには既に遅く、レッドが中へと駆け込んでみると壷の中にあったらしき、
黒真珠のような崇高な輝きをした玉が綺麗に真っ二つに割れていた。

「レッド。ヤバイ雰囲気じゃねーの?あーあ」
「う、うるせえな!と、とりあえず逃げるぞ!!」

と、レッドが逃げようとした時背後から『待て!』と大声が聞こえた。
いや、正式に言うと聞こえたというより脳内に響いたと言うのが正しいかもしれない。

『お前たち、よくもやってくれたな』
「な、なんだ?お前は誰だ?」
『ワシはこの神社の守り神みたいな者だ。姿はないから声だけで伝える事しかできない。』

レッドは他の隊員を見るとどうやら他の隊員も同じ様に聞こえているようだった。

『あの玉はな、この神社に奉っていた悪の心たちだ。それをお前たちは壊した。』
「何!?」
「あの悪の心たちがなければこの神社の効果は無い。お前たちが世界一になれることは一生ない」
「そんな!な、なんとか方法は無いのか?なんでもするからさ!!」
『1つある。新しく悪の玉を作れば良い。』
「ほんとか!?でもどうやればいいんだ?」
『これを使え』

社の中から出てきた赤い光がゆっくレッドの前に下りてくる。
その光は徐々に形を現し始めた。それは小さなコンパクトだった。
全体が薄黒い色をしており、蓋の表面には赤い字で『悪』と書かれてある。
コンパクトの蓋が自然に開き中を見ると中央にルビーよりも赤い宝石が一つはめ込まれている。

『人々の心を悪でいっぱいにすればそこに悪の心が溜まっていく。最大まで貯めれば悪の心が完成する』
「お、おぉ……」
『じゃぁ、がんばれ。早くするんだぞ。世界一になりたいならな』

それっきりその声はしなくなった。
だが、目の前には戸が壊れた社があるし、手には小さなコンパクトがある。

「………夢じゃないんだよな……。でも世界一の悪の組織になれるかもしれない……!」


レッドは希望に満ちた顔でコンパクトを見た。












『すいません。そこの交差点で財布を拾ったんで届けに来ました。』

ある日の午後ポッと交番にやってきた一人の青年。
財布を届け警官が書類を書くと青年は交番から立ち去る。
交番から少し西に進んだところで角を曲がり再び角を曲がったところで青年は立ち止まった。

『黙って貰えばいいのにわざわざ財布を警察に届けるとはお前、善良な青年だな!?』

赤い奴がこちらを指差している。
青年が無視しようとすると奴は思い切り青年の足元を蹴飛ばし転んでしまった。

「今だ!やれ!!」

どこからか飛び出した仲間らしきヤツラが青年をボコボコにする。
次第に青年は無抵抗になる。気絶しているのだろうか?

「な、なぁ……これってさ。善良な市民を悪人にするってのと違うんじゃねーの?」
「あっ!」

レッドは気絶した青年を見下ろしながらやっと気がついた。

「レッド、知能指数が小3止まりだからなぁ」
「う、うるさい!!とにかくあれだ。基地に帰って悪者に教育しよう」
「またそんな成功するかどうかわかんない企画を……」
「うるさいうるさい!!オレが隊長だぞ!!オレの命令を聞けばいいんだ!!オラ、起きろ!」

レッドが青年のわき腹を蹴飛ばすと青年はよろよろと立ち上がってレッドを見た。

「オイ、オレたちとちょっと良い所いこうぜ」
「・・・・・・・・・・・」
「オイ!聞いてギャッ!」

レッドの右頬に青年のパンチが炸裂する。
青年は無言でレッドにリンチを食らわせる。次第にその顔は楽しげになっていく。
レッドが目を回したところで青年は大きく背伸びをした

「あーすっきりした。フフ。ストレスの解消法にこれは良い」

青年はスキップをしながら帰って行った。すると、レッドはニヤリと笑った。

「お……ぉぉ……あいつに悪の心が芽生えたな……」

レッドの嬉しそうな顔とは対照的に隊員たちはあきれた顔をしていた。

「や、やった……やった……これで世界一の……悪者に……近づいた……ぜ」














「……フー。一仕事終えた後のタバコはうまいな」

包帯を巻き終え一人で部屋に篭ったレッドはプカプカとスモーキングを楽しんでいた。
あまりタバコは好きではないが、なんだかその日は吸いたい気分だった。

『ピコピコピコピコピコピコ………』

と、そこで机の上に置いておいたコンパクトから電子音が聞こえてきた。
レッドはコンパクトを手に取り、蓋を開けると宝石が点滅していた。
恐る恐る宝石を押すとコンパクトから声が聞こえてきた。

「悪事ポイント獲得おめでとうございます」
「あ?悪事ポイント?悪の心じゃねーのか?」
「いえいえ、まずは悪いことをすると悪事ポイントがたまります。
それがどれだけ悪いかを採点し、見事85点以上になれば悪の心をゲットすることが出来るのです。
採点する場合は宝石を押してください。採点が開始されます」

レッドには自身があった。今日の悪事はかなり良い物だと。120点は間違いないとレッドは思った。

「んじゃ、ポチっと……」
『ワルイコワルイコドレダケワルイ………………ジャン!30点です』
「なんでだよ!」

レッドはコンパクトを投げそうになって慌てて机の上に置きなおした

『あれは偶然であり、あなた達の手柄じゃありません。悪人は偶然に頼ってはいけないのです』
「なんだよ、運も実力のうちだろ!?」
『悪人は知力体力、両方必要なのです。インフルエンザよりインテリヤクザが怖いのと一緒です』
「………でもオレの作戦で……アイツに悪の心が芽生えて……」
「暴力に頼るだけでは悪人とはいえません。貴方に必要な物は知力です。ではまた次回」

宝石の点滅はすっかり消えてしまった。レッドはコンパクトを掴んで何度も揺さぶってみるが返事が無い。



「オイ!待てよ!オレが馬鹿だってのかよ!オレはそれなりの頭は持ってるぞ!ににんが2!ににんが2!」