Season1 第2話
『学ぶ!極悪戦隊』
(挿絵:ワルグリーン隊員)
──ファンファンファン………
オオサカシティの真夜中の静寂を破るパトカーのサイレン。
それらは全てオーサカ銀行本店前から聞こえてきていた。
「クソッ!人質を使って立てこもるとはいい度胸じゃねーか!」
「あっ、警部。犯人らしき人物が正面玄関の前に現れました」
ガラス張りの自動ドアの前には赤色をした少年が立っていた。
「貴様らの目的は何だ!?」
赤い少年はマイクを取り出して警察に向って叫んだ
「ここの金を全て奪う。それだけだ!」
「馬鹿な真似はやめろ。何か別な要求を呑もう。さぁ、早く人質を解放しろ」
「全員はダメだ」
「くっ……ならば、そこにいる人質の中の女性を7割、60歳以上の老人の7割、社員の3割を開放してくれ」
警察の言葉にその赤い少年はポカンとした顔で固まっていた。
「……も、もっと解りやすく言え!」
「つまり、人質の中の女性全員のうち70%を、60歳以上の老人100%のうちの70%を、
さらにそれ以外の全人質を100%とし、そのうちの30%を開放してくれと言うことだ!!」
その少年のポカンとした表情はまだしっかりと顔に張り付いていた。
すると、警官の中の一人がハッと気がつく。
「あ、アイツ馬鹿なんじゃないか?」
すると他の警官たちもそれに気づかされ次々に伝染して行く。
「馬鹿だ」
「馬鹿だぜアイツ」
「こんな簡単な事も理解できないでやんの」
「やっぱガキだからなぁ」
『バーカバーカバーカバーカバーカバーカバーカバーカバーカバーカバーカバーカ………』

「ち、ちがぁーう!!オレは馬鹿じゃなーーーい!!!!!」
午前7時40分。レッドは自分の声で目が覚めた。
「ま、また夢か………」
「いい加減自分の馬鹿さ加減気づいたらどうだ……」
フードを被ったままレッドのデスクの上に座っていたのはパープルだった。
いつも眠らないヤツだから時々勝手に部屋にいて何をするでもなくそこにいたりするのだ。
「うるせぇな……いい夢だったんだよ。……………………途中までは」
「この調子じゃ悪の心を集める事など夢だな」
「あー!うるせーー!!どっか行ってろ!!」
枕を投げつけるレッドだったがパープルはいつの間にか扉の前に立っていた。
「少しは勉強でもするんだな」
「……………チッ」
レッドはなんだか朝からイライラが止まらない。
確かに夢の中の問題は難しかったが、あんな物は学者とか大学教授ぐらいしか解けない問題だとレッドは思った。
しかし、以前コンパクトに言われたように知力も悪者には必要なのだ。
「………ぃよっし!!やってやろーじゃねーか!!このオレ様だってやれば出来るんだ!」
パンパンと手を鳴らすと天井からするするとワルブルーが降りてきてサッと書類を渡してくれる。
その書類とは塾への入学手続き。しかし、難しい漢字があって読めない。
「………こ、これはお前にまかせる」
ブルーは承知と呟いてさっと天井裏へと消えていく。
これで準備は整った。とりあえず塾へ行けば頭がよくなる。簡単な事だ。
「さぁ、みなさん!お勉強を始めましょうね」
見事、レッドは塾へと入学できたもののここは小学校3年生用クラスである。
本人は年齢にあったクラスを希望していたが隊員全員の判断で
ワルレッドが割と小柄なお陰で『ちょっと発育の良い子供』と言うことで潜入に成功しのであった。
「では、まず国語の12ページの『ニコニコ遠足』を皆で読みましょう」
「はーーーい!!」
レッドは机の上に足を乗せて腕を組み椅子を前後にギコギコ……。
だが、先生はレッドを「アナタはアナタでいいのよ」とでも言いたそうな仏のように微笑んでいる。
「(なんなんだコイツら……オレの嫌いなタイプばっかだぜ……)」
すっかり授業放棄寸前のレッドを他所にみんなは本を声を出して読み始めた。
『そこでタケシくんはお弁当を忘れてしまいました。だけど誰もお弁当をくれませんでした。
でも、たった一人、ミチコちゃんだけがお弁当を分けてくれました。ミチコちゃんは言いました。
「幼稚園のときタケシくんが私がお弁当を忘れたとき分けてくれたでしょ?そのお返しだよ!」
タケシくんはミチコちゃんと仲良くなりましたとさ。めでたしめでたし!』
先生はこぼれそうな涙をそっと手で拭い去ると声を詰まらせながら生徒に問いかけた。
「何故、ミチコちゃんはタケシくんにお弁当をあげたんでしょうか?理由は解る人いますか?」
「はーい!はーい!」
レッド以外の生徒全員が元気良く手を上げ、先生がその一人を当てる。
「タケシくんに子供の頃の恩を返そうと思ったからです!」
「そうですね。良い事をすると自分に帰ってくるんですね」
するとクラスのアチコチがワイワイと騒ぎ始める。
「私も良いことしたらね!みんな喜んだから毎日しようって思うの!」
「僕も僕も!空き缶を拾ったらスッキリするんだよね!」
「私なんかこの前おばちゃんが困ってたから家中お掃除しちゃったもんね!」
クラス中から飛び出す善のオーラにレッドは鳥肌が立ってきた。
善意の塊が耳に入ってくるたびぞわぞわとレッドの嫌悪感をチクチク突いて来る。
「っだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!うぜーーー!!!!マジうぜーーーーーー!!!!」
ついにガマンできなくなってレッドは思い切り机を蹴飛ばして暴れだした。
窓のガラスに机を投げつけ割るだの、椅子を黒板に投げつけるだの暴れ放題。
だったが……。生徒のみんなは温かい目でレッドを見ていた。
「ぜぇ……ぜぇ……」
「レッドくんはきっと孤独を抱えて生きているんだわ!」
「あ、そうだ!ねぇみんな?明日からレッドくんと一緒に授業の前に歌を歌いましょうよ」
「いいね!歌は人の心を豊かにするって言うもんな!」
「レッドくん!あなたは一人じゃないのよ!元気出して!」
生徒、果ては先生まで肩を組み、みんなは歌を歌いだした。

「ぼーくらはみんなーいーきているー♪いきーているからうたうんだー♪」
レッドはおかしな状況と善意だらけの人々のWコンボに頭がおかしくなりそうだった。
「あ、あ、あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
ついにレッドは気絶し床に倒れてしまった。
悪しかなかった世界で何年も生きてきた彼にとって無菌と言うのは衝撃的だったのだろう。
『ガシャーン!!!ガシャーーン!!!』
レッドは落ち着くまで部屋中の物を壊していた。
部屋中ボロボロになって来た頃、ようやく気分が落ち着いてきた。
「はぁ……はぁ……あー気持ち悪りー………もう二度といかねーぞあんな所!」
『ピコピコピコピコピコピコ………』
ちょうど、良いタイミングでコンパクトが音を立てた。
悪事ポイントが溜まったのだろう。レッドは急いでコンパクトを開いた。
「あーでも、今日は何もやってねーから点数低いだろうなぁ……」
『じゃぁ、採点しますのでボタンを押してください』
レッドはボタンを押すとコンパクトはピカピカと点滅を始める。
『ワルイコワルイコドレダケワルイ……ジャン!0点です』
「……やっぱし」
『あなたは何もやってません。もっと隊員たちとしっかり協力するべきです』
「……協力ねぇ」
『じゃぁ、次回こそ頑張ってくださいね。ではまた~』
パタンとコンパクトを閉じるとレッドはゴロンとベッドの上へ横になった。
「……………あーあ。悪者もらくじゃないな」
と、ゴロンと寝返りをしたレッドの前に見知らぬ初老の男性の姿が目に入った。
しかも近い。
「近っ!!だっ!誰だお前っ!!」
「フンボルト曰く、たいていの人々は、運命に過度の要求をすることによって、自ら不満の種をつくっている」
「は!?」
謎の男はそのまま部屋を出て行った。レッドはますますワケが解らなかった。
「………ぺ、ペンギンがどうしたんだ?」