Season1 第3話
『会う!極悪戦隊』
(挿絵:ワルブラック隊員)
──ファンファンファンファン………
真夜中にパトカーのサイレンが鳴り響くオオサカシティ。
警察たちは宝石店の前で警戒態勢を取っていた。
「クソッ!なんて鮮やかな作戦なんだ。こんな事ができるのはきっとIQ一億万円五百の天才に違いない!」
「ホントですね!きっと顔もハリウッドスター似に違いない極悪党ですよ」
人影が宝石店からゆっくりと出てくる。
警官たちはもう手の内どころが無く黙ってその人影を出迎えていた。
「ハーッハッハ!このダークレッド様の前に無能なお前たちは手も足も出ないみたいだな!」
「ハハーッ!おっしゃるとおりです。もう世界は貴方様のものです」
「オウ!有難くいただかせてもらうぜ!」
「そうだ!レッド様がこの世界の王になった記念に餅投げをしよう!」
「おー!オレは餅好きだから有難いな!」
すると警官たちは餅をたくさんかかえてレッドに投げつけ始めた。
「イテテテ!何するんだよ!どうなってもいいのか!?」
しかし尋常でない数の餅を投げつけられてレッドはだんだん餅の山の中へと埋もれて行く。
だが餅は許してくれない。餅の重みは海を作り山河を越え、一つの国を作くりあげたのだった……。
「お、重い……重い…………」
パッと目をあけるとそこには大きなワニの顔。
「オイ、起きろよ。シェンナが用事なんだってよ」
良く見ればワニはぬいぐるみ。その上に乗っている茶色い子供。
彼女はワルシェンナ。何故か彼女は喋らず代わりにワニが喋っている。
ワニの声は腹話術というのが隊員の中での噂だがこんなゴツイ声はさすがにしてないはずだ。
「よ、用事?なんだ?金と命に関る事以外なら聞いてやってもいいけどよ」
「あのな。今日、駅前に宝石店がオープンするんだってよ。シェンナがいきたいってさ」
「………宝石店」
レッドは思わず身震いしてしまった。夢とこうも偶然に重なると身震いせずにはいられない。
しかし、オープンしたてという時は実は意外と狙いやすかったりするのである。
「………よ、よし。挨拶がてらちょっと宝石戴いていこうぜ」
シェンナは口だけでニコリと笑ってピョンとベッドから飛び降りて走って行った

「玄関で待ってるってよー。早く来いよ」
「………ヘイヘイ」
レッドは首飾りを付けると机の上のコンパクトに目をやった。
レッドには自身があった。盗みは一番のレッドの得意分野でなのである
「(今までのオレとは違うぜ……見てろよ。今日こそ悪の心をゲットしてやるからな!)」
外に出ると清清しい天気。しかしドイツもコイツも楽しそうなのがなんだか癪に障る。
「………あーなんかムカつくぜぇ……さっさと宝石盗って帰ろうな?」
「…………………」
シェンナは不敵な笑みを浮かべているだけで一言も喋らない。
「(……なんだコイツ………)」
「今、なんだコイツって思っただろ?え?」
心の中を見透かされてレッドはびっくりした。本日二回目のサプライズである。
「……お前思ってることすぐ顔にでてるよなー」
「うっせぇ!ワニ公!ハンドバックにされてぇのか!」
「ハンドバックを作る方法もしらねーくせに」
「んだとコラー!!」

相変わらず笑みを浮かべているシェンナも相まって短気なレッドの堪忍袋を緒は緩む。
シェンナが言わせていることは判っている。レッドはシェンナの頭を叩こうと手を上げた時だった。
「やめなさいっ!」
体が宙に浮いた。と、思いきや体が地面の上。しかも手が変に捻られていて痛い。
「こんな小さな子に手を出してっ!あっ、あなた最近流行の性犯罪者って奴ね!」
レッドの視界には一人の女が思い切り手を捻っているのが入ってきた。
どうやらレッドを投げ飛ばしたのは彼女らしい。女は手をレッドの背中の方へと捻る。
「女の敵っ!覚悟しなさいよ!」
「ギィヤァァァァ!!!イテテテテテテテ!!!やめてくれぇぇぇぇ!!!」
レッドから手を離すとグッタリしたレッドの頭を女は踏んづけた。
「次にこんな事やったら許さないわよ!解ったらハイとおーきな声でっ!」
「………は、はい……」
「解ればよろしい」
グッタリしたレッドの傍でやはり不敵な笑みのシェンナの頭を女は撫でる。
それ以上はレッドの視界が涙か何かでぼやけて良く見えない。
「お嬢ちゃん大丈夫?怖い人多いから気をつけてね」
「………………」
「かっ、かわいそうに!よほど怖かったのね。話すこともできないなんてっ!」
「………………そいつは元から無口なんだよぉ………」
「こんな男のせいで一生物のトラウマを背負っていくことになるんだわ。かわいそうに……」
「だから違うってぇ……」
女はキッと睨んでレッドに掴みかかる。
「あなたね!いくらなんでもこんな子を餌食にして何が嬉しいわけ?一時の快楽が一生の苦痛になるのよ!」
「だからオレは何もしてねぇんだってぇ……」
「大体みんな犯罪者ってのはそーやって………………ん?」
彼女は突然レッドの顔をじろじろと舐め回す様に見つめ始めた。
「アンタどーっかで会った事ない?」
「お、オレはお前みたいな奴なんか知らねーよ……」
「ううん。ぜーったい知ってる」
「なんでわかんだよ」
「………………女の勘よ」
あまりにもジロジロ見るのでレッドはシェンナに目で合図を送った。
シェンナはそのまま目的地の方へ向う道を歩いていった。
「……とにかくオレはお前なんか知らねーから早く失せろ。オレは用事があるんだよ」
先に行かせたシェンナを追ってレッドは走っていく。
女はその姿を見つめながら記憶の断片を整理しようとしていた。
「ぜーったい知ってる。絶対………」
オープンした宝石店には購入目的の客以外にも物珍しさで入っている客やただの冷やかしも多く入っていた。
その人ごみの中で従業員も整理に追われている。まさしく好都合の状況である。
「……とりあえず高い奴を1つ戴いて後は小物って所だな」
「じゃぁ、小物は俺とシェンナでなんとかするからお前は高額商品を盗ってこい。ヘマすんなよ」
「ヘイヘイ。そんなの俺の得意中の得意だっつーの」
シェンナはいつの間にか人ごみに隠れていた。
レッドも急いで人ごみを書き分けてそっとカウンターの方へと近づいた。
組織に所属していた頃の技を使ってバレないように上手くケースの裏側に回りこみそっとガラス戸を開ける。
「(へっ、チョロイもんだぜ……元ダークシャドウ所属のオレ様を舐めんなよ)」
200万のダイヤの指輪をさっと見事に自然に抜き去るとケースを元に戻す。
所要時間3分。さすが悪の組織で育っただけあって華麗だった。
仕事を終えて、するすると人ごみを抜けて店から出たその時である。
「ちょーっと待ちなさい。あなた」
レッドの肩を誰かが掴む。
「私の記憶が正しければその指環……お金払ってませんよねぇ~?」
「(……お、俺の完璧な盗みのテクニックが………バレた……?)」
レッドは思わずビクッとして弱気な顔になってしまった。
ワルレンジャーの隊長とはいえ一応弱い所だってある。
しかし、女の目つきが途端に代わる。ハッと何かに気づいた表情だ。
「…………あーーー!あんたコースケじゃない!!」
その言葉にレッドもハッと彼女のことを思い出した。
「……お、お前……トルテか……?」
「ヤダー!どしたのその顔の模様?なんか目つきもすっかり悪くなっちゃってさぁ。赤に染めてるからわかんなかったー」
レッドは冷や汗をかいていた。
「お、オレはそんな奴じゃ……」
「嘘、私の名前知ってたじゃない?あんたは幼馴染のコースケ!
あの頃私の飼ってた犬のコースケくらい可愛かったからそうあだ名付けたのよねー。あー懐かしい♪」
「知らないっ!オレはそんなの知らないっ!」
「いじめられてて私がよく慰めててあげてたよねー……家出したって聞いてたけどやーっぱグレちゃった?
赤く染めてるなんてそれオシャレのつもり?ピアスまで開けちゃってやっぱコースケも男の子ね
でも、いくらグレちゃったからって宝石泥棒なんてちょ~っと見過ごせないのよね。ん~悪いけどぉ~逮捕?」
突然、ガチャリと手錠をかけられるレッド。何の事だか解らないでいると彼女はツンとレッドの頬をつついた。
「やっぱりコースケは私がいなきゃダメなのよね。大丈夫!立派に更生してあげるからね」
「な、なにすんだよっ!お前ケーサツじゃねーだろが!」
「あれ?覚えてない?私のおじいちゃん警視総監でお父さんも刑事なのよ?」
「あ……あの偏屈ジジイ……か」
「ホラ、やっぱりコースケだ♪」
ツンツンと2回頬を付かれたレッドはガチャガチャと手錠を外そうとするがガッチリはまってしまっている。
「あーもー!いくら家族が警察だからってお前はまだ警察でもなんでもねーだろっ!手錠を外さねーと殺すぞ!」
「知らないの?刑事訴訟法第213条、現行犯人は、何人でも逮捕状なくしてこれを逮捕することができる!」
「えーーーー!?」
「ハイハイ、じゃぁ、警察行きましょうね。コースケ♪」
「嘘だあああああああああああああああああああ!!!!!!」
「あああああ!!嫌なやつに出会ってしまったぜ……」
シェンナが知らせたお陰でワルブルーにより救出されたレッドは落ち込みながらベッドに座っていた。
まるで燃え尽きて真っ白な灰になったジョーである。そこへコンパクトが音を鳴らす。
『ピコピコピコピコピコピコ………』
「はぁ……今日も低いんだろうなぁ……いや、でもシェンナはいっぱい盗って来たし……80点って所だな」
レッドはポチッとボタンを押す。
『ワルイコワルイコドレダケワルイ……ジャン!40点です』
「はぁ………微妙」
『隊長ともあろう方が逮捕されるなんて無様にも程があります。上手く行けば200点でしたのに』
「……仕方ねぇよ……ああああ!!まさかトルテの奴にまた会うなんてよおおお!!」
『このままじゃ悪の心なんて手に入りませんよ?しっかりやってくださいね』
コンパクトの光が消えるとレッドは何度もため息を吐いてベッドに根っころがる。
「………ボードレール曰く、女と猫は呼ばないときにやってくる」
ガバッとベッドから起き上がると布団の上に座ったあの変なおじさんが立っていた。
「だ、誰だよお前はっ!いっつもいっつも!」
良く見ると男の胸元には『飯尾先生』と張り紙がしてある。
「……いいおせんせー?」
男はベッドから降りるとそばにあった棚の物を全て床に落として部屋から出て行った。
「だーっ!なにすんだてめーっ!オイコラー!!」
「どうしたの?レッド」
天井裏からブルーが垂れ下がってくる。
「いいいい、今変なオッサンが!」
「……あぁ。飯尾先生ね」
「あぁって……オイ!何者なんだアイツはよ!」
「……じゃ、拙者はこれで」
「オイ!なんなんだ!なんでオレばっかりこんな目に会わなきゃイケねーんだよぉぉぉぉぉ!!!」