Season1 第4話
『拾う!極悪戦隊』
(挿絵:ワルベニウスト隊員)
──ファンファンファンファン………
その夜もオオサカシティの街はサイレンに包まれていた。
警察官たちは造幣局を悔しそうに見つめていた。
「くそぅ!またあのイケメン悪党にやられてしまったのか!」
「もう、警察辞めたくなりましたよ」
「今から署に行って退職願出してくる!もうあんな天才大悪党を逮捕できるわけねぇよ!」
「やはり何でも出来る超人っているんすね」
警察官たちが帰るのを見届けながらレッドはニヤリと笑った。
「フン。この世紀の大悪党のオレ様に歯向かうなんて10年早いぜ。さてと……」
レッドはいつの間にか羽織っていたマントをバッと広げて叫んだ。
「これからはお札の顔はこのダークレッド様になるのだー!ハーハッハッハ!!」
「ハーハッハッハ…………ぐぇぇっ!!」
口内に突然異物を感じたレッドはパッと目を覚まして思い切りそれを床に向かって吐き出した。
するとチョロチョロと小さなヤモリが床を張ってあたりに散らばったゴミの中へとまぎれた。
「うげーっ!なんて目覚めだっ!せっかくオレの顔が印刷された一万円札を見れる所だったのによ!」
目覚めも最悪だったらその目覚めた後も最悪だったりするドカンとデカイ音を立てて天井を突き破った何かが頭に直撃したのだ。
「ぎぇぇぇっ!」
脳天の中心に良い感じに直撃した物が何かを見る前にレッドは白目を向いてバタリと倒れてしまった。
それから何時時間たったのか解らない。どの隊員もレッドを心配する様な事はしないので、発見がかなり遅くなった。
発見された理由は、何かメモ用紙になる様な物がないか探しに来たブラックが部屋に来た事だ。
「あー……いってぇ……」
チラと時計を見ると既に夜中の8時。実に12時間も気絶していた事になる。
「最初、新しい睡眠法かと思ったよ」
「なわけねーだろ……もっと早く見つけろよ……ったくー」
「隕石が当たるなんてずいぶんと不幸だよなレッドって」
「……どうせ当たるなら宝くじがよかったぜ……」
レッドはベッドの上に置かれている黒い隕石に目をやった。
野球ボール並の大きさのそれはゴツゴツとした岩肌のところどころが赤くチカチカと光っていた。
「くそー……コイツのせいでー!!」
レッドが隕石を思い切り蹴飛ばそうとしたときだった。
「待てレッド。コイツどっかで見たことがあるぞ」
「あ?隕石だろ?コレ」
「……いや、以前親父に見せてもらったことがある。確か……そう、極悪石だ」
「極悪石?なんだそりゃ」

ブラックは石を手に持ち、裏返してみたりコンコンを叩いてみたりして何やら調べ始めた。
「……オイ、これは極悪石は極悪石でも飛びぬけて良い極悪石だぞ」
「だからなんなんだよ!極悪石ってのはよー!」
「全宇宙の悪のオーラを浴びてどんどん大きくなる石のことだ。これは純度80%物だぜ?」
「それで?」
「この石を持つだけでその悪の力を全部自分のものに出来るってことだ」
「…………っつーことは」
レッドは腕組みをして考え始めた。
レッドはわかりきった事でもまず自分で考えて結論を出さなければいけないのだ
「……オレが宇宙一の悪者になれるって事か!?」
「まぁそういうわけだ。でも……これは俺が貰うぜ」
ブラックはパタパタと石を持って飛んで行こうとした。その尻尾をグイとレッドが引っ張った。
「待てよ。なんでてめーの物になるんだよ!」
「これさえあれば俺は修行の成果として悪魔界に帰られるだろ? い加減帰りたいんだよ」
「てめーの事なんてしらねーよ!オレは宇宙一の悪者になりたいんだ」
「俺だってレッドの事なんてしらねーよ!」
二人は石の両端を掴んで引っ張り合っている。
「はーなーせーよーー!」
「そーっちーこーそー!」
どっちの力も同じくらいなのか引っ張り合ったままどちらにも寄らない。
「……あ、プチトマトだ!」
「えっ!」
プチトマト嫌いのブラックがびっくりして石から手を離した。
こんな古典的なことに引っかかるとはバカなのか、悪魔界にはこういう引っ掛けをする奴がいないのか。
「もーらいっ!」
レッドは石を掴んで部屋から飛び出した。
慌ててブラックが追いかけるが動揺していた分の時間だけ差が空いてしまった。
ブラックは大声で叫んだ
「だれかー!レッドを捕まえろー!凄い物持ってるぞー!」
その声に今まで無気力そうに廊下に座っていた隊員や見えなかった隊員がレッドを追いかけ始めた。
「へへーん!オレは逃げ足だけは速いんだぜー!捕まえてみなー!」
「……レッド。よくわからないけど凄い物と言う奴くれないか?」
突然の声に横を見るとブルーがレッドと同じ速さで走っている。
さすが忍者。しかもどこか速度を弱めている感じだ。擬音で言えばシュタタタタって感じだ。
「ブルー……ふんどし見えてるぞ?」
「えっ!」
ブルーは恥ずかしそうに床に座り込み自分の下腹部を見回す。
実は結構そう言うのを気にするブルーの性格を理解したレッドならではの作戦(?)だろう。
「第一段階突破っと!」
すると今度は前方になよなよとした歩き方でこっちにやってくるクリームが居た。
「隊長……それいただけないかしら……凄い物、アタシも見たいのよぉ」
レッドは包帯を思い切り引っ張るとクリームは宙を舞うたくさんの包帯の中で倒れた。
「ウフフ……素敵ね……荒々しくて」
それが原因で後ろから追ってきた隊員たちは大いに転んだ。これでかなり絞られた。
「よーし!もう追ってこないだろ!」
「レッド…………」
目の前にフッと影のように現れたパープルがレッドの前に立ちはだかった。
コイツは意外と強敵だ。
「な、なんだよ……お前何でも無関心のくせによー……」
「何故だかわかんねぇけどな……その石が俺を呼んでるんだよ。波長が合うって言うのか?」
「……お、オレは……宇宙一の悪人になりたいんだ……」
「それは解ってる……でも俺はソイツに興味がある……さぁ、寄こせレッド……」
「………………」
すぐそこまで隊員たちが追いかけてきている
パープルのあの痺れるほど悪者らしい鋭い目で見られると悪者に憧れるレッドも思わずいう事を聞いてしまいそうだ。
だが、脳裏にパッと今日の夢が思い出され、レッドは決心した。
「お、オレは…………宇宙一の大悪党になるんだーっ!!」
持っていた石をゴクリとレッドは飲み込んだ。
パープルは驚いたのか解らなかったがただしばらくの間固まっていた。
「……げっぷ……ハァハァ……これで石はオレの物だぁ……」
「バカな奴だなお前って……」
他の隊員が追いついて悔しそうにしているとレッドの体に異変が置き始めた。
腹の中からなんだか悪々しいオーラが一気に盛り上がってきた。
「ぐ……ぐぅぅ…………」
思わずレッドは地面に手を突いた。
するとレッドの爪は異常に伸び、牙が生え、目もパープルの比でないほど鋭くなる。
だんだん顔つきも変わり始めレッドはまるで悪の化身のような姿になってしまった

「ハァ……ハァ……な、なんだこれ……」
「胃液で石が溶けて一気にレッドの中にオーラが溢れたんだろうな。その反動で姿も変わってしまった……」
「で、でもなんだか悪者らしくて良いな……カッコイイぜ」
傍の割れた鏡に向って他の皆よりも等身が高くなってしまったレッドはポーズをつけ始めた。
「よし、オレはもう無敵だぜ。ちょっと銀行でも荒らしてくるぜ」
レッドはぴょんと飛び上がって天井を突き抜けてどこかへと消えていった。
『ピコピコピコピコピコピコ………』
レッドが出て行ってしばらくしてピコピコとコンパクトが鳴ったのに隊員は気づいた。
「レッドもう悪事やってるのかな……」
「とりあえず採点やってもらっとこうか」
隊員が宝石を押すと採点が始まった
『ワルイコワルイコドレダケワルイ………………ジャン!95点です』
いきなりの高得点。よほどレッドはがんばったのだろうと隊員が感心していた。が、
『ピー……90点。ピー……85点。ピー……80点。ピー……75点。ピー……70点』
突然どんどん点数が下がって行き始めた。そして最後には
『ピー……-50点です』
過去最低記録を樹立してしまった。
どうした事だろうかと隊員は不信に思うとコンパクトの鏡に何やらレッドの姿が映された
それは警備員にボコボコにされてダウンしているレッドの姿だった。
『レッドさんはどうやら悪に憧れる余りオーラが全部外見に行ってしまったようですね。
見掛け倒しと言うのは悪者にとっても物凄い恥です。次は頑張ってくださいね』
コンパクトの光が消えると共に呆れ顔の隊員は部屋から出て行く。
当然、これからレッドを探しに行く隊員は誰一人もいなかった。