Season1 第5話

『空腹!極悪戦隊』

(挿絵:ワルピーターパン隊員)

──ファンファンファンファン………

正月だとしても、やはりオオサカシティにはサイレンが止む日は訪れない。

「くそー!なんて事だ。お雑煮用の餅を全部盗む不届き者が現れるとは」
「餅の入っていない雑煮なんて雑煮じゃありません!あんまりだこりゃぁ!」
「しかし、餅とは言えあんな短時間で盗むとはきっと歌って踊れるジャニーズ系の奴に違いない」
「マッチもトシちゃんも落ちぶれましたが、ヨッちゃんは一体どこへ行ったんでしょうね」

と、その時ビルの上に立つ謎の影。奴が犯人だ。

『お前たちには悲しみのどん底の正月を味あわせてやるぜー!ハーハッハー!』

「くそー!なんてよく通る素敵な声なんだ!」
「一緒にカラオケ行きたいですね」
「よし、あれを持って来い!」

警官たちは馬鹿みたいに大きな土鍋を運んでビルの前にでーんと設置した。
中には昆布だしのよくきいた汁がぐつぐつと煮えている。しかし具は無い

「これは餅のない雑煮の鍋だ。どうだ。なんか切ないだろ!」
『…………くっ』
「お前も一応日本人の端くれならば中に餅がないと居ても立っても座っても居られないだろ!」
『…………そ、そんな事は……』
「そうか。だが強がっても無駄だぞ。いつまでガマンできるかな?」

ようやくレッドの鼻にだしのいい香りがやってきた。
なんともお腹のすく匂いだ。だが何かが足りない。そうお餅だ。もちっとした白い宝石。
あの中に餅を入れてバクリと食べたらどれだけ美味しいだろう。どれだけ空腹が満たされるだろうか。

レッドは気がつくと餅を抱えて宙に飛び出していた。

「雑煮が食いてーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」













「…………だぁっ! なっ!? アッチー!!! アチチチチチチチチチチチ!!!!」


レッドは夢から覚めた瞬間、全身に熱湯を浴びながら床をごろごろとのた打ち回っていた。

「……まーた何かバカやってる」

そんなレッドを横目に隊員たちはトランプゲームをしてくつろいでいた。

「あーあ。レッドが雑煮食いたいっつーから残しといてやったのにもう無いぞー」

ぜぇぜぇ言いながらレッドはようやく熱さが消えてきて立ち上がれた。

「……う、うるせぇな……」

しかし、床で裏返っていた鍋を踏んづけてかっこ悪く尻餅をついた。

「いでーー!!!」

臀部のヒリヒリした痛みがレッドを襲った。荒いコンクリートの床のせいで摩れているようだ。
しかも、押し殺したような声で笑うグリーンの声が聞こえてますますレッドの怒りに拍車が掛かった。

「だーーー!!ムカつくぜーーーーーーーーー!!!!!!」

レッドは鍋を掴んで投げようとしたが勢い余って天井に向って鍋は飛んでいった。
ガンと鈍い音がして天井に跳ね返りレッドの頭に直撃する。

「いでーーー!!!!」

レッドは頭を抑えたままその場にうずくまった。
フツフツと沸いた怒りは抑えきれず、隊員はほとんど馬鹿笑い。
新年早々、こんなお笑いショーがやっているとは世界の人々は可哀相だ。

「何、コントやってるんだバカ」
「うっせぇな!仕方ねーだろ!!」
「どこをどうすれば仕方ねーんだよ」
「あー!ムカつくぜ!!!餅ぐらいどっかで盗って食ってくる!!」

レッドはそばの椅子を蹴飛ばしてアジトから飛び出していった。蹴った側の足を引きずっていた。
もちろん隊員は相手にしないのだが、ふと、パープルが立ち上がった。

「……また馬鹿しないように見てくるぜ」








「あームカつくぜ!なんだアイツら!ちくしょ~!オレは隊長様だぞっ!」

蹴り上げた足が宙を切る。既に色んな物を蹴飛ばしすぎて、あたりには石ころのひとつも残ってない。

「オイ」

声のした方を向くと、フードを被ったパープルがぼーっと正面に立っていた。
レッドはその姿を見るなりプイッと顔を背け、

「な、なんだよ、お前もオレを馬鹿にしに来たのか?」
「……お前が馬鹿を……イヤ、お前が可哀想だと思ってな」

レッドを変に刺激したらろくな事が無い事をパープルはよく解っていた。
また変な行動をして悪の心を集めるどころかワルレン解散とでもなれば非常に迷惑するのだ。
しかし、そんな裏があるとは知らずレッド嬉しそうにパープルの肩をポンと叩いて笑った。

「そうか。やっぱりパープルはオレが認めているだけのことはあるな!」
「……あぁ」
「正直、オレはワルレンの中で一番お前に期待してるんだぜ? よし、じゃぁ一緒に雑煮食おうぜ」
「……俺は、物は食わない」
「あぁ、そうだったな。まぁ、いいじゃんいいじゃん!」

すっかり気分がよくなったレッドの後をトボトボとパープルが付いて行く。
辺りを探してみるがもう昼も過ぎた為かお雑煮を食べ終わった家庭ばかりだった。
しかし、ちょうど良い所に餅をついている奴等が空き地にいるのをレッドは見つけた。
しかも、見た感じチョロそうな奴らだ。ちょっと脅せば簡単に餅が食えるだろう

「オイ、パープル。アイツら脅すぞ。お前の凶悪顔にかかってるんだからな」
「……何で俺が」
「隊長命令だ! やれ!」
レッドは、だるそうな表情のパープルの手を引っ張って、空き地に向かう。 そっと、楽しげに餅つき中の二人に近づいていくが、夢中になっているのかこちらの接近には気づいていないらしい。
「よっ……はっ……そりゃぁ!……ふー! 先輩、餅つきって楽しいですねー」
「そうだろそうだろ。ちゃんと水入れてるか?」
「ハイ!美味しいお餅作るためですもん! 美味しいお雑煮食べましょうねー!」
「にゃはーw オレ雑煮大好きだぜー♪」

和気藹々としている二人だ。なんだか癪に障る。レッドは大声を張り上げた

「オイ、お前ら。餅寄こせ!」

レッドの声にピタリと二人の手が止まった。
杵を持った方がなんだか明らかに反抗的な顔をしているのがレッドを逆撫でした。

「なんだお前!」
「そう言うお前もなんだコラァ!」

お互いガンの付け合いをしている。パープルと相手方の連れもただぼーっと見ている。

「餅寄こせコラ」
「オレも餅食いてーんだよコラ」
「なんだとコラァ!」
「やるかコラァ!」
「先輩っ!落ち着いてください!ちょっとくらお餅くらいあげましょうよー」

お互いがお互いを掴みかかった瞬間、相手方の連れが止めに入った。
パープルはただ木陰の隅で見ていた。

「だ、だってオレたちがついたんだぞ!?」
「だーかーら!二人につかせた分の少しあげればいいじゃないですか。もち米たくさん買っちゃいましたし。それに……」

何やら二人はごにょごにょと内緒話をしていた。ここからじゃ良く聞こえない。

「……なるほど……だったらオレも楽できるし……よし!お前らに餅つかせてやるその半分やるぜ!どうだ?」
「……わ、わかった。絶対半分だぞ!?」

レッドは杵を。パープルは餅をこねる方……と思いきやパープルは木陰から動かない。

「オイ!こねろよ!!」
「……俺は日光の下に長くいたくない」
「あーもー……じゃぁ、そこのお前。手伝え」
「ハーイ」

トロそうな連れの方をレッドは指名して餅をこねさせた。
最初はうまくできないものの、慣れてくるとリズムに乗ってうまくなってきた。
こねる方もプロ並のスピードになっている。

「…………っよーし!できたぜー」

ずいぶん強く打ったのかみているだけでそのモチモチ感が伝わってくるほど見事な餅が出来上がっていた。

「じゃぁ、半分やるな。ちゃんと食えよ」
「言われなくても食うに決まってんだろ」

相手の方は早速薄い紙に粉をまぶしその上に餅を置き包んでくれた。
少し熱いがこれならば持って帰られる。

「サンキューなー! オイ、いつまで休んでんだよ行くぞ!」

パープルを引きずりながらレッドはホクホク顔で空き地を後にした。
暖かいお餅に時折頬ずりしながら、レッドの足取りは軽かった。














『ピコピコピコピコピコピコ………』

餅をすっかり平らげてお腹いっぱいになった頃、レッドはコンパクトが光っているのに気がついた。

「お、早速採点かぁ。今日はオレ餅つきがんばったもんなー」

隊員が宝石を押すと採点が始まった。正月のまったりした雰囲気のせいか満腹感のせいか緊張感は無かった。

『ワルイコワルイコドレダケワルイ………………ジャン!判定不能です』
「ありゃ?なんでだ?壊れたのか?」
『貴方は何か勘違いしてませんか?悪事の採点であって日々のがんばりを採点するわけじゃないのですよ』
「…………あっ!すっかり忘れてた。そーかそーか。オレ悪事してねーや」
『新年早々思いやられますね。仕方ない。特別に良いものをあげましょう。』

コンパクトから赤い光が飛び出しレッドの右腕にくっつく。
すると右腕には小さな赤い宝石の付いた黒い腕輪がついていた。

「おーかっけー!」
『これは一日一回だけ使用できる闇の腕輪です。これを使えば悪事がぐっとやりやすくなるでしょう』
「へー。じゃぁ、オレがんばるぜ!」
『……ホントに頑張ってくださいよ……?』
「何か言ったか?」
『いえいえ。それではそれでは』

レッドは早速腕輪をコツコツと叩いたりしてみたが特に何も反応が無い。

『変身!ワルレッドぉ!』

と、馬鹿みたいに大げさなポーズをつけてポーズを取って見ても何も起こらない。

だんだん恥ずかしくなってきたレッドの後ろにいつの間にかパープルが立っていた。


「何やってるんだバカ」