Season1 第6話

『回想!極悪戦隊』

(挿絵:ワルピンク隊員)

──ファンファンファンファン………
やはりサイレンが闇を引き裂くオオサカシティ。


「ハーハッハッハッハ……………………ってありゃ?」



レッドが高笑いをしているビルの反対側のビルが燃えていた。
そちらに全ての警察や消防車が集まって救出活動をしていた。

「オイコラ!オイに注目しろー!! 凄い悪事やってるんだぞー!!」

だが、火事の騒ぎで気づく物は誰も居ない。
しまいには上の階で爆発が起こりレッドのいるビルへと火は燃え移った。
だが、上の階で起こったために気づかず、さらにここが廃ビルであった事が消防隊員の優先順位を決めさせる結果と成った。


「オイオイ!!早く消せ!この俺様がいるんだぞ!!水だ!水かけろ!!」











バシャン!とレッドの体を冷たい水が包んだ。
2月はまだまだ寒い。おかげで暖かい布団までがすっかり冷たい布の塊になってしまった。

「……ホラよ」

水をかけたのはパープルだった。

「ってめぇ!!」
「水をかけろと言ったのはお前だ。何か文句あるか」
「そ、それは夢で……」
「それ以前にお前は少し頭を冷やした方がいいんだ。俺様に感謝しろ」

フンと鼻で笑うとパープルはタオルを差し出した。

「だが、風邪を引かれたら色々と面倒だ……早く拭け」

レッドはパープルの差し出したタオルを叩き落とした。

「……ケッ!!水かけておきながら、んな事すんじゃねーよ!!」

タオルを何度も踏んづけてレッドは冷えた体のまま外へと飛び出していった。

「クソクソクソッ!!……ヘックシュン!!!」

レッドは外に出た瞬間は怒りの炎のお陰でなんとか寒さをしのげていた物の、
だんだん冷静になってくると怒りの炎も消えただ寒さだけが残っていた。
ただでさえ冷え性なレッドにとって冷えた体に北風に当たるのは自殺行為。
気がつけば電柱の隅にうずくまってガタガタ震えていた。手足の指の感覚がなくなって眠くなって来る……。

「(あぁ……なんか気持ちいい……なんか……あぁ……寝る……オレは……寝るぞぉ……)」
















レッドは、ぽかぽかとした暖かい夢を見ていた。
まるで誰かに抱かれているかのような揺りかごの中にいるような暖かい夢だった。

「…………?」

レッドはふと目を覚ました。真っ白な天井が見えた。
辺りを見回してみると、どこかで見た覚えのある部屋の中にいるようだった。

「……ここは…………うぉっ!」

レッドは上体を起こした瞬間グラッと何か得体の知れない力で後方へと地面が傾いた。

「お、コースケ。ついに起きたか」
「んぁっ!?……お前……」

目の前にいたのはレッドの幼馴染のトルテだった。
相変わらずニコニコしているのがレッドには気に食わない。

「お、おぃ! テメェ! オレをどうした!?」
「コースケがアタシの部屋に来るなんて何年ぶりだろーねー」
「聞けよ! オレを誘拐しやがってー!!」
「何よ。電信柱の隅で震えてたから幼馴染のよしみで部屋に上げてあげたんじゃない。
コースケこーんな白目向いてたんだからねー! 」

瞼をグッと挙げてトルテは思い切り白目を向いて見せた。

「お、オレがそんなカッコ悪い事するわけねーだろ! オレはなー。宇宙一の悪を目指す……」
「どーでもいいけどー早くそこから降りたら?」
「へ?」

レッドは地面に座っているはずなのにさっきから立ちっ放しのトルテと目線が同じ位置にあるのに気がついた。
よく見ると何やら大きな布団を詰め込んだカゴの上にいるらしい。

「……コースケってば。よくこの揺りかごで昼寝してたでしょー。小学校上がる前までだったっけ?」
「な、ななななな……なんだとっ! お、オレは赤ん坊じゃねーぞ!!」

思い切り立ち上がったレッドは体重の配分を間違えて再び後方へと倒れ勢い良く揺りかごから転落した。
ちょうど後ろに本棚があった為に頭からそこに突っ込んでしまう。

「もー散らかしちゃって。どこが赤ん坊じゃねー!……よ」
「うるせぇうるせぇ!! オレに口答えするなー!! このアマ!」

レッドがトルテに殴りかかろうとするとひょいと簡単にトルテに拳は掴まれてしまった。

「あ、クッキー食べる? コースケ好きだったでしょ?」
「………………い、いらねぇよ」
「今の間は何よ」
「お、オレのパンチをキャッチしたからビックリしただけだ!」
「ふーん。 ま、いいけどね。ハイ」

レッドの目の前に高そうなクッキー缶をトルテは差し出した。
フタに描かれた絵を見るだけでもかなり美味しそうだ。そういえば昨日から何も食べてない。

「……い、いらねぇ!」
「遠慮しなくて良いのよ。警察やってるとね、お中元とかでいっぱい貰うから」
「……警察の奴のなんか貰えねー!!」
「あっそ。じゃぁ、あげない」

トルテがクッキー缶を引っ込めようとしたときだった。
レッドは一瞬の隙を突いてクッキー缶を奪い取った。

「もーらい♪」
「ちょっと! さっきいらないって言ったくせに!」
「オレは、もらうのは嫌って言ったんだ! 盗むのはべーつー!」

憎たらしいほどの皮肉めいた顔でレッドはトルテを挑発した。
トルテも怒っているようだったが、諦めたのかしばらくして大息を付いた。

「……ま、いいわ。どうせおいといても腐っちゃうだけだし……美味し?」
「まぁな」

黙々と周囲にカスをこぼしながらレッドはクッキーを食べていた。
そんなレッドを見てトルテの顔はどこか懐かしそうな物になる。

「……コースケ。もう悪い事やめようよ」
「ヤだね」
「昔はコースケ良い子だったじゃない…………今では見る影も無いケド」
「…………」
「勝手に家飛び出して。どこ行ってたのか知れないけど……すっかりグレちゃってさ。
毛も染めて、そのほっぺの奴も全然イケてないよ! もーピアスまで付けちゃってカッコつけて~。
悪者なんてクズのする事だよ。そんなの止めて更正した方が良いって。ね?コースケ」

レッドの持っていたクッキーがぐしゃっと潰れた。
トルテが顔を覗き込もうとする前にレッドは顔を上げた。顔は物凄く怒っていた。

「オレは……オレは……。オレは、生まれたときから大悪党ワルレッド様だ! 」
「ちょ、ちょっとコースケ……」
「お前なんかにオレの何が解るって言うんだよ! オレは悪者に命かけてんだよ!! こんなもん!」

レッドが蹴飛ばしたクッキー缶はバラバラと中身を撒き散らしながらトルテの額に命中した。

「うっ」

強く蹴りすぎたのかトルテは額を押さえたまま動かない。

「……ふ、フン。じごーじごくだ!」

レッドは走ってトルテの家を出た。トルテは泣いていた様な気がした。











『ワルイコワルイコドレダケワルイ………………ジャン!93点です。
『他人の精神も肉体もダメージを負わせてさらに自分の信念を貫き通す。悪者らしさに溢れてましたね。』

コンパクトの中央の宝石の周囲にある小さな宝石の一つが赤色に染まった。
悪者ポイントを始めてゲットした事になる。

「……やったな。レッド。今度は俺も一緒にやってやるぜ?」

今日の採点は初めて高得点を取ることが出来た。
いつの間にかお目付け役のパープルがいるのもレッドが布団にもぐりこんだまま出てこなかったからだった。

「……どうしたレッド……」
「なんでもねぇよ!」

怒りとは違う感情を含めたトーンだった。


「……だらしねぇな」


パープルは小さく舌打ちをした。