Season1 第7話
『忍ぶ!極悪戦隊』
(挿絵:ワルベニウスト隊員)
──ファンファンファンファン………
「……うるせぇなぁ……何だこの目覚まし」
ワルレッドはベッドに置かれたパトカー型の目覚まし時計を床に放り投げた。
鈍い音がして音は止まったがレッドの不機嫌極まりない眠気は治まらなかった。
「……ねみー……ねみみぃー……」
外を見るとまだ夜明け前。チラ、と横を見ればパープルが椅子に座ってコチラを見ている。
「……お前何で朝になるといっつもいっつもオレの部屋にいるんだよ……」
「別に……朝ここに来れば退屈しないだろ」
「あー! うるせぇうるせぇ! オレは見せもんじゃねー……ゲホッ! っぁー!」
「……ホラな」
叫びすぎてむせてしまったレッドの側でパープルはニヤリと笑う。
「……チッ。オレの部屋に来る暇があるんなら少しは何か良い話とか探せよな」
「例えばどんな話だ?」
「ぁーそうだな。楽して金儲けできる話とか。こう、世の中の善人共をぶっ潰せるような話とか」
「……普通あると思うか?」
「うっせー! オレが探せっつーんだから探しとけば良いんだっつーの!」
側にあった枕をレッドはパープルに投げつけようとしたとき、もう一人誰かが立っていた。
黒い彼はますますその薄暗さに溶け込んでしばらく目が慣れるまで時間が掛かった。
「何だ。ブラックか……。驚かせやがって!」
「そんな事言うなよ。オレがせっかく良い話持ってきてやったのにさ」
「良い話? 本当に良い話だろーな? くだらねー話だったらぶん殴るぞ」
「まぁ、聞くだけ聞いてみろ。今日は七夕って日らしい」
ワルレッドは、記憶の彼方にあった「七夕」と言うワードが引っかかり、ポンと手を打った。
「おぉ! そういえば昔、ガッコーで聞いた事あるな」
「俺は始めて聞いたぜ」
「ヘッ! オレより馬鹿だな。バーカバーカ!」
ワルパープルを指差してはしゃいでいるワルレッドだったが、哀れんだ目をしているパープルに気づいて
何だか非常にこっちが負けている気がした。
「……で、その七夕って日なんだが。織姫と彦星っつーヤツと関係があるらしい」
「あー。何か聞いたなぁ……」
「織姫と彦星は何か色々あって、一年に一度しか会えないんだとよ。で、今日がその日なんだ」
「あーーっ!」
レッドは、そこまで聞くと小学校時代のかすかな記憶が完全に蘇り、バンバンと布団を激しく叩いた
「完全に思い出したぜ! なんか草に紙くっつけてその辺に刺しとくんだよな!」
「まぁ、詳しく言えば笹に願い事を書いた紙をつるすんだ」
「ぁー。で? それのどこが良い話なんだよ」
「ここからが重要なんだ。織姫と彦星は一年に一度会えるのが嬉しいとかで、その願いを叶えてくれるんだ」
レッドは、ブラックのその言葉に口を開けて驚いた顔をしたままぷるぷると震えていた。
「…………マジかよ」
「あぁ、さっきテレビで言ってるのを聞いてきた」
「じゃぁ、笹と紙をいっぱい盗ってオレも願い事かなえてもらうぜ!」
「……お前は馬鹿か」
部屋から飛び出そうとしたレッドの背後からパープルが声をかけた。
「……そんなめんどくさい事しなくても。ソイツらをさらって来れば良いだけだろ」
「あ?」
「そいつらをさらって来ればオレ達だけが願いを叶えて貰える。それに、他のヤツラの願いは永遠に叶わない」
フードの奥の口元に悪者らしい笑みを浮かべてパープルは言った。
レッドは、そうだそうだと納得し、部屋から出て行こうとするが肝心の居場所を知らずすぐ戻ってきた。
「で、そいつらはどこにいるんだ?」
「あそこだよ。あそこ」
ブラックが部屋の窓を指差すとレッドは勢い良くその窓に突っ込んで外へと飛び出し、辺りをキョロキョロと見回した。
「どこだ!? 隠れてないでさっさとでてきやがれ!」
「違う違う」
ブラックは呆れ顔で窓から身を乗り出してクイクイと上を指差した。
「あ~?」
上にあるのはまだ明け方前の空。レッドは目を細めて空を眺めるがカラスすら飛んでいない。
「星。ソイツら星なの。それに今日の晩じゃなきゃ出てこねーぞ」
「はぁ~!? ざけんなーっ!降りてきやがれーっ!」
レッドは空に向って爪を立てながら飛び上がるが当然、届くわけも無く数十回目のジャンプによる顔面着地で諦める事となった。
「クソーッ! この宇宙一の悪者になるオレ様を馬鹿にしやがって!」
「お前は元々馬鹿だ」
「うるせーっ!」
パープルに蹴りを入れようとレッドは駆け出したがそこが外だと言う事も忘れて壁面に思い切り頭をぶつけその場に倒れこんだ。
目を廻しているレッドを部屋の中からあざけるようにパープルは見下ろしていた。
「……やっぱりお前の部屋に来るのは正解だぜ」
それから、朝になってもレッドは奇跡的に七夕の事を覚えていたようで、どうすれば織姫と彦星を誘拐できるか考えていた。
「お前の頭で考え付くわけ無いだろ」
「う、うるせっ……ゲホゲホッ……ぁー……叫びすぎて喉イテぇ……オイ、ブルー、水だ水……」
レッドはパンパンと手を叩いた。だが、いつも天井裏から出てくるはずのブルーが現れない。
念のためもう一度叩いてみたがやはりブルーは現れない。
「……お前の不甲斐なさに嫌気が差したんだぜ、きっと」
「んなわけねーだろ! オイ!ブルー! ウゲホッ!!……ちょっと、お前見て来いよぉ……」
「何で俺が」
「みものりょーだよ、みものりょー」
「見物料だろ」
「いいから行けよオラ!」
ワルパープルはめんどくさそうに、ひょいと飛び上がって天井板を外し天井裏に入っていった。
しばらくすると天井からパープルが顔を出した。
「……風邪引いたらしい」
「はぁ!? ちょっと連れて来いよ」
舌打ちをしながらワルパープルが引っ込むと天井裏から布団の塊がボトンと落ちてきた。
中を見ようとワルレッドが布団をめくっていると赤い顔のワルブルーがぜぇぜぇ言っている姿が現れた。
「オイ、起きろ。ちょっと織姫と彦星って奴をさらって来いよ」
「……み、みず…………みず……」
「ミミズなんてどうでも良いんだよ! 早く起きろよ、オラッ!」
レッドはブルーを蹴飛ばした。ブルーはゴロゴロを布団と一緒に床に落ちた。

「ったくー! こんなときに限って風邪なんか引きやがってよ。オレなんか生まれて一度も風邪引いたこと無いぜ!」
「……だろうな」
「っつーか、ブルーが起きねーとオレの宇宙一の悪者になる夢が叶わねーだろ。お前も起こせよ」
レッドはブルーに足蹴りを何度も食らわせていたがブルーはびくともしなかった。
「……げ、月光草……」
「あ?」
「月光草……」
「何言ってんだ?コイツ」
「月光草って草が欲しいんじゃないのか?」
ブルーは何度も月光草と言う言葉を口にしていた。
口にするたびに、何か特別な思いを意味に含んでいるようだった。
「甘えるんじゃねぇ! オレだって欲しい物があるんだ! まずオレの頼みを聞いてから自分で取れよな!」
「……どうしてそうなるんだ」
「もう、ブルーはつかえねぇな。こうなったらオレがなんとかするか! パープル来い!」
「……めんどくせぇな」
ブルーを置いてけぼりにしたままレッドとパープルは部屋を飛び出して行った。
意識がぼやけていく中でブルーはふと昔を思い出していた。
それは、ワルレンジャーに入る数年前。
忍者になるために忍者学校に入学して1年。学期末試験に落ちた頃。
「月光草?」
「そう。この学校の裏山に一年に一回だけ咲く花らしい。その日が今日さ。その花を手に入れると願いが叶うんだ」
「本当か~?」
「それが本当なんだ。校長も昔それを手に入れて今は立派な忍者になっている訳だしな」
「へぇ」
落ちこぼれグループにいたブルーはどうしても忍者になりたかった。
その晩、こっそり寮を抜け出しブルーは落ちこぼれ仲間の友人と共に裏山に向っていた。
「まだか?」
「この先だ」
裏山にはボウっと光る一輪の花が咲いていた。二人は嬉しそうに駆け寄って月光草を見た。
「これで一人前の忍者になれるかもな!」
「そうだな。じゃぁ、俺が」
「待てよ俺だろ俺」
一つしかない花で二人は喧嘩になってしまい。どんどんその喧嘩はエスカレートするハメになった。
そして、とうとうブルーは手裏剣を投げつけてしまったのだった。手裏剣は相手からそれて月光草に。
月光草はバラバラになり、弱弱しい光さえも消えうせてしまった。
「あーっ、知らねーぞ! 月光草を折ったり千切ったりすると一生願いが叶わなくなるんだぞ!」
「……え?」
「お前はずっと落ちこぼれだ! お、俺しーらないっと!」
ブルーは目を覚ました。思い出したくない悪夢の出来事。
まだ少し体が重かったが、ブルーは外を見た。
「コラ! もっと石を遠くに投げるんだよ!」
「届くわけないだろ」
「だ~か~ら~! すっげー遠くまで投げればいいだろ!」
レッドとパープルが空に向って石を投げていた。
パープルはめんどくさそうに座り込んでいた。
「今日中に織姫と彦星を連れてこねーと願いが何も叶わねーだろ!」
「!」
ブルーは窓を開け外に飛び出した。何か心の奥底の嫌な記憶の中の感情が溢れてきているようだった。
「お、ブルー! 良い所に来たぜ! 早速なんだけどよ~」
「……俺だけ叶わないのに」
「は?」
「……叶えさせてたまるかぁ」
「何、訳わかんねー事いってんだよ! ホラ、ぴょーんと高く飛び上がってさ」
ブルーはレッドに向って猛突進した。手裏剣、刀、その他諸々を両手に構えて
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
『ワルイコワルイコドレダケワルイ……ジャン! 0点です』
気休め程度の枯れ木に吊るした『宇宙一の悪者にしねーとボコす!』の短冊を見ながら
包帯だらけのレッドの悪者採点は始まっていた。そしてコンパクトから異例のお説教。
『いい加減、悪者らしくしてもらわないと困ります』
「んな事いったってよー。仕方ねーだろ」
『言っちゃ悪いですがここまで酷いと、よくあるへっぽこ悪者のポジションになりますよ』
「ば、馬鹿言うんじゃねーよ! オレは、宇宙一の大悪党になるワルレッド様だぜ!」
『ところで、せっかく渡したそのブレスレット使っていますか?』
レッドの腕にはまっている腕輪。レッドはアクセサリー感覚で付けたまますっかり忘れていた。
「あ、でもよー。これどうやって使うか聞いてねーぞ?」
『……ブレスレットをつけた腕を高く上げてください』
レッドは腕を高く上げた。腕輪に付いた赤い宝石が怪しく光っていた。
『そして、ワルチェンジと言って自分が変身したい物の名前を言ってください』
「何だ。ホントに変身する道具だったのか」
『はい?』
「あ、何でもないない。えっと……ワルチェ~ンジ!ネズミっ!」
ブレスレットが光ると同時に、黒い光がレッドの周りを包み込んだ。
その光がポンと消えるとレッドは赤いネズミになっていた。首飾りも顔も同じだか姿はネズミだった。
「おぉ! すっげー! ちゅーちゅー」
『上手く使えば悪事がぐっと楽になります。せめて週一くらいは使ってくださいね』
「おー! ちゅーちゅー!」
その時、ワルレッドは、壁にあった小さな穴を見つけた。
そういえば以前あの穴の中に500円を落としたまま忘れているのを思い出した。
「そうだ。こんなちいせーんだもんな。楽に入れるよなー!」
レッドは穴の中にひょいと首を突っ込んだ。奥の方にキラリと光る500円玉。
「やったぜ! ワルチェンジってすげーなぁー! ちゅーちゅー」
その時、突然ネズミレッドの体を光が包んだ。
ボコンと言う鈍い音がした時、ワルパープルが部屋に入ってきた。
「何やってんだ?」
壁に頭を突っ込んだままピクリとも動かないワルレッドの姿をパープルは見つけた
『あ、忘れてました。ワルチェンジって2回言ったら変身解除しますからね~』
