Season1 第8話

『嘲笑!極悪戦隊』

(挿絵:ワルベニウスト隊員)

──ファンファンファンファン………

──ファンファンファンファン………

──ファンファンファンファン………

──ンフンフンフン………

──フフフフフフフ………

ワルレッドはトリハダを立てながら目を開けた。目覚めの悪い朝。
横を向くと不敵な笑みを浮かべているグリーンが顔を近づけていた。

「フフフフ……」
「何やってんだ?」
「フフフフ……」
「何やってんだっつってんだよ!」

グリーンを殴ろうと渾身の力で右腕を振るがアッサリと交わされレッドはベッドから落っこちる。
アゴを強打してのたうちまわっているレッドを見つめながらグリーンは部屋を出て行った。

「ガーッ! 何だー! 来るならきやがれー!」
「朝から元気だな。オマエ」

横を見ればパープルがデンとベッドの上に座って呆れた目でレッドを見ている。

「うるせーよ!」

側の椅子を蹴飛ばしてレッドはパープルの横にごろんと横になる。

「ドイツもコイツもよー。オレをキレさせてばっかでよー。オレは隊長だぞ!」
「隊長なんて肩書きはあってないようなもんだろう」
「そうだ。オレが偉いって事をアピールしよう! オレの偉さが判ればアイツらも尊敬するだろ」
「まーたバカ言い出したぞ……」

ボソッと呟いたパープルの言葉さえレッドには届かなかった。
一つの物事しか考えられないレッドは、早速紙とペンを用意して『オレが偉いアピールさくせん』と書いた。

「何か良い方法はねーかな~。パープル、何かあるか?」
「バカを治したらどうだ」
「もっと、オレがカッコよくてさすが悪者だぜ! って感じの作戦だ!」
「……正義を倒すとかがいいんじゃーねの?」
「そうだ。そう言うのだよ!」

レッドは紙にすぐさま『せいぎをたおす(かっこよくわるくたおす)←だいじ!』を書き込んだ。
すると急に背後に嫌な気配を感じレッドが振り返るとそこには紙を覗き込んで嘲笑しているグリーンがいた。

「フフフフ……」
「だぁっ! 何だよテメーは! どっか言ってろ。オラッ!」

当たらない足蹴りをしながらレッドはグリーンを追い払うとグリーンは部屋の隅で相変わらず笑っている。
イライラしながらもレッドは紙に目を落とした。

「とりあえず次だ。倒す正義の味方を誰にするか決めないとな」
「強い奴が良いんじゃないか」
「だろ。オレもそう思ってたんだ。強い正義っつーと……誰だ?」
「強いやつにお前一人で勝てんのかよ」
「そうだな。じゃ~強そうで弱い奴はどうだ?」
「あぁそうだな。そいつを倒せばいいな」

感情の無い台詞を吐くパープルの言葉を真摯に受け止めながら紙には書き込みが増えていく。
悪者の友を見てみるがそれでも良い正義の味方がいない。どうすれば良いか。レッドは10秒考える。

「ダメだ。頭痛くなってきた……。パープル考えろよ」
「……本物じゃなくても偽者の正義の味方でいいじゃないのか。パフォーマンスなんだしよ」
「それだ! お前、オレの次くらいに頭いいな!」

レッドはポンと手を打ってパープルの頭をパンと叩いた。

「じゃぁ、誰か正義の味方に変装させないとな。お前やれ」
「断る」
「オレが決めた!」

紙には、しっかりと『ぱーぷる』の文字が書かれた。

一人じゃなんだか寂しいと、レッドが辺りを見回すと相変わらず笑っているグリーンが目に入る。

「グリーン。テメーもやれよ。隊長命令だからな。ぐりーん……っと」

レッドの目はイキイキとしていた。さっそく紙を裏返してなにやら台詞を描いていく。
どうやら台本らしい。パープルは冷めた目でそれを見て、グリーンはただ笑っているだけ。

「……良し。完璧だぜ……! すげー! オレってすげぇ!」











「よっ! お前ら。オレは隊長だ。すっげー偉いぞ」

ブレスレットで少しばかりスマートでカッコ良く、悪の首領らしい格好をしたレッドが
突然、広間にやってきたが、隊員達はほとんど無視をしていた。

「あー。オレは隊長で偉いし、ワルレンジャーの隊長だぜ。な、ブラック!」

椅子に腰掛けて側にいたブラックに話しかけるレッド。
しかし、ブラックはクロスワードパズルをしている。まったく相手にされていないがレッドは気にしない

「あーあ……! なんか体がなまってるな~。こういう時は正義の味方をボッコボコにしてやりてーな!。隊長だし」

すると、向こうから首から上をフードで覆ったパープルがトボトボと歩いてやってくる。
フードには、キラキラした正義っぽい顔が下手に描かれている。

「せいぎだーたおすぞーかくごしろーたいちょうなんてよわいーかっこいいけどー」
「あ! クソー! 正義の奴がアジトにやってきちまったぜ!」

椅子から立ち上がってレッドはさも悔しそうにパープルを見る。
隊員は「何か始まったな」と言う程度にチラと見るとそのまま元の位置に視線を戻した。

「くらえせいぎびーむ」
「ケッ!そんなもの、このオレには効かねーんだよ! 隊長だからな!」
「しまつたきかないなんてこのたいちようはばけものだひえーたすけてくださいごめんなさい」
「そうはいかねーぞ! オレは極悪戦隊ワルレンジャーで一番偉いワルレッド隊長様だぜ!」
「たすけてー」

トボトボとパープルが部屋から出て行くとレッドは自信満々の笑みで中指を立てた。

「フン! 参ったか! このオレ様に勝とうなんざ100億万年早いぜ!」
「ククク……」

すると奥からお面をつけたグリーンが現れた。
レッドはヘンテコなファイティングポーズを取る。

「きたな。正義の二番目! このオレがボコボコにしてやるぜ!」

レッドはとぉ!と掛け声をかけてグリーンを蹴飛ばした。他の隊員は誰も見ていない。
ここでグリーンは逃げていくはずなのだが全く動こうとしない。レッドはイラッとした。

「さっさと消えろ、オラッ!」
「ククク……」

しかし、グリーンは全く動こうとする様子は見られない。
レッドは苛立ち紛れに、グリーンの顔に一発パンチをお見舞いしてやった。
……つもりだったのだが、寸前の所で避けられてレッドの空振りの拳は自分の顔に当たった。

「げふっ!」

腹が立ったので次は蹴りをお見舞いしようとする。
しかしこれも寸前で避けられたので勢い余ってバランスを崩して地面に倒れる。

「んがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

こうなるとレッドはもはや手がつけられない。
そこらじゅうにある物を投げてグリーンに当てようとするが、全部跳ね返って自分のオデコにリズム良く命中する。

「うがぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁあぁ!!!!」

遂には、側にあったパイプ椅子まで持ち上げてグリーンに殴りかかった。
グリーンは動かない。今度こそいける、と思ったときだった。さっと避けたグリーンの後ろは壁。

バンッ!と思い切り顔面を強打し、無様、ワルレッドは地面にパイプイスごと倒れた。
様々な条件下の下気絶したレッドの腹部にパイプイスが綺麗に乗っていた。そこにグリーンは座ってただただレッドを嘲笑していた。






『ワルイコワルイコドレダケワルイ……ジャン! 採点不能です』

レッドは、ベッドをガンガンガンガン悔しそうに叩きながらうつ伏せになっていた。

「オレは隊長なんだー偉いんだーオレこそが悪者にふさわしいんだー」
「コンパクト、このかわいそうなバカに言ってやってくれ」

パープルがレッドの横に座ってコンパクトと対峙していた。

『ハイ。レッドさん。あなたは自分が思っている以上にバカですよ』
「うるせー!」
「ちゃんと聞け。お前はいい加減理解した方が良い」
『私が先日調査したデータによると、最も隊長に相応しいのはパープルさんと出ました』
「んだとー!」

さすがのレッドも聞き捨てなら無いとばかりに起き上がった。

『パープルさんは、一定の悪さを持ってますし、何より雰囲気も悪者っぽいです』
「ぱ、パープルは、確かにオレより悪者っぽいけどよ。でも、能力はオレの方が!」
『残念ながらお二人の能力は、チリとスペースシャトルほどの違いがあります』
「そうだろ? オレの方が強いって事だろ?」
『いえ、レッドさんはチリのほうです』

レッドの顔が青くなった。

「お、オレが、チリ……? こ、このオレ様が……?」
『ハイ』
「嘘だ! 嘘だ嘘だ嘘だ! オレの方がすげーんだ!」
「いい加減、現実を見ろ」

パープルの手を振りほどいてレッドはパープルをビシッと指差した。

「よ、よーし。じゃぁこうしようぜ。お前に一日隊長をやらせてやる!」
「めんどくせぇ、断る」
「やるんだ! 絶対やるんだ! で、オレの方が良い点だったら土下座しろよな!」
「……しゃぁねーな。じゃぁ、俺が買ったら、お前は一日正義の味方をやれよ」
「よ、よし。やってやるぜ」

遂にレッドとパープルのデコボココンビの決戦の火蓋が斬って落とされた……!