Season1 第9話

『対決!極悪戦隊』

(挿絵:ワルベニスウト隊員)

「ファンファンファンファン………」

レッドは珍しく早起きをして発声練習をしていた。
今日はなんと言っても負けるわけにはいかないのだ。

パープルが一日隊長を兼任するのだから、どうせみんな嫌になって自分に泣きついてくる。
その時、カッコイイ一言を言ってやってみんなからの尊敬を集めるのだ。
そう、一晩寝ないで考え付いたこの決意のための発声練習がこれなのだ。

「よぉ、お前が早起きなんて珍しいな」

アンニュイなパープルの肩からは一日隊長のタスキがかかっている。
そもそもパープルはあまりこの一日隊長には乗り気ではない。
彼にとっては、レッドの一日正義の味方を見るのが楽しみなのである。

「ゼッテーオレは負けないからな! 土下座の練習をしといた方がいいかもな。ケッ」

敵意まんまんの血走った目でパープルに中指を突きたてたレッド。
パープルは冷めた目でそれを見ながら頭をポリポリとかいた。

「ま、俺は隊長とかそんなの興味ねーし、何か適当に事件起こして早めに終わらせるぜ。めんどくせーしな」
「んだとんだとぉ……! ガルルルルルル……!」

レッドは、猛獣の様に唸りながらパープルを睨んでいた。
もはや怒りを通り越して理性とかそんな物を失いつつあるようだ。

「とりあえず、もう俺動くからな。早く来いよ」

パープルが部屋から出て行くと、レッドの全身は炎に包まれた。

「絶対負けねぇぇぇ! あいつが隊長にむくはずがねええええ!!!!!」














「うわぁぁぁぁん。うわぁぁぁぁん」

早速、外へ飛び出したワルパープルは公園に来た時、目に付いた子供3人組を泣かすように隊員らに命じた。
隊員らはあの手この手で子供らを泣かしだした。もちろん、めんどくさそうなのもいたが。

「ヘッ、やっぱりな。あんな事しかできねーんだ。パープルの奴」

変な介入を避けるためと言う事でレッドはパープルらから2メートルほど離れて眺めることになっている。
命じたパープルは木陰の下のベンチに座って俯いたままぼけーっとしていた。

「やっぱりそうだぜ。オレの方が隊長に向いてるな」

独り言を何度も何度も口にしながらレッドはニヤニヤと紫隊長の活動とやらを眺めていた。
隊員達は弱いものが相手のせいか実に楽しそうにいじめている。

「次行くぜ……」

しばらくするとパープルが立ち上がった。隊員らはぽかんぽかんと子供を叩いてパープルの後ろを付いて行った。
相変わらずめんどくさそうにポケットに手を突っ込んでフードを被り公園を出て行った。

「なんだアイツ。あんな程度で悪事気取りか。ヘッ、やっぱオレじゃないとダメなんだよなぁ」

安心したレッドはニヤニヤしながら隊員らの後を付いていく。
次にパープルらは、自転車が横を通りがかるたび蹴飛ばして転ばせながら歩いていった。
少し倒れたくらいで別に怪我もしていない。せいぜいかすり傷だろう。

「プッ、あんな誰にでも出来る様な事やって隊長気取ってやがるぜ。バカすぎて面白れーな」

レッドのキモチも足取りもすっかり軽くなりながら、尾行というより遅れて付いてきているかのような状況になっていた。
相変わらずうだうだと適当な事をやりながら歩いている。そして、今度は道端に落ちていたバックをパクった。
と、そこへ持ち主らしき男性が現れてパープルに返してもらうように頼みだした。

「お、お願いします。それ返してください! それがないと困るんです!」
「あーもう解ったよ。勝手にしろ」

うんざりした様子でパープルはバックを放り投げて歩き出した。
こんな光景を見てしまってはレッドも腹を抱えて爆笑してしまいそうになった。

「あ、あのバカ……! ま、マジかよ。何親切してんだよ。オレならゼッテー返さねーのに。ギャハハハ」

もう余りにも自分に有利すぎてレッドは一足先にアジトに帰る事にした。
勝負は既に見えていた。幸せすぎて帰るまでに10人カツアゲして、3つの店から現金を盗んで浮かれ気分で帰った。














「じゃ、採点するぜ♪」
「おー。適当にやれ」

ワクワクしているレッドと、どうでも良い風なパープルが揃うと早速コンパクトのスイッチを押した。
今日は赤い光の点滅も幸せを運んできている希望の光の様だ。

『ワルイコワルイコドレダケワルイ……ジャン! レッドさん75点です。惜しい』
「んー。ま、ちょっと手抜きしたからな。楽勝だしな」

レッドがヘラヘラと笑いながらパープルの肩を叩いた。パープルはめんどくさそうにその手を払いのける。

『では、次はパープルさんですね』
「やるだけ無駄だと思うけどな」
『ワルイコワルイコドレダケワルイ………………ジャン! パープルさん。1不可思議点です』
「ギャハハー。たったの1点かよ。だせー。超だせー。さー土下座しろよ。土下座だぞ土下座!」

レッドは大笑いしながらパープルの背中をバンバンと叩いた。
もうレッドは嬉しくて楽しくてしょうがないのだった。

『あ、違いますよ。レッドさんの負けです。レッドさんは75点。パープルさんは1不可思議点ですからね』
「……えぁ?! な、何でだよ! 75と1だろ」
『1点じゃなくて1不可思議点です。一不可思議は10の64乗です』
「……億より多いのか?」
『億どころか京、垓、穣、溝、澗、正、載、極……と、その先の先すぎて、とにかくめちゃくちゃ高いです』
「な、何でだよコラー!」

レッドは怒りのキモチでパープルの背中をバンと叩いた。パープルが睨んできたのでやめた。

『パープルさんがいじめた子供は、いじめられたせいで性格がひねくれ、将来、極悪人となって多数の悪人を生み出すようになります』
「な、なんだよそれ!」
『さらに、自転車を転ばせた時期は市役所への通勤ラッシュでした。チコクしたストレスで所内に汚職が蔓延し行政が腐敗します』
「お、お食事……!?」
『そして、あのカバンは某国の産業スパイが集めた日本の企業秘密の書類群です。他国に秘密が漏れ経済に大打撃を受けさせました』
「……な、なんだ。何の話だ!?」

レッドの頭には難しすぎて、さらに混乱してしまった。そんな彼の肩をパープルが無言で叩いた。
なんだか、ヒヤリとしていて気持ち悪かった。


『パープルさんは先見性があって、レッドさんよりも隊長向きかもしれませんね』
「……だそうだ。ま、俺は隊長なんて興味ねーしめんどくせーからやんねーけど」
「だ、だよな! 俺もこんなバカな勝負はやんねーし、一日正義の味方もやんねーけど」
「いや、一日正義の味方はやってもらうぜ」

レッドの体は一瞬のうちに汗でびっしょりと濡れた。
そんな事は死んでも嫌なのだ。じんましんがでそうになる。反吐が出る。

「おっ、オレの方が時間短かったぜ! だ、だからオレ、まだ悪事は終わってねーんだ!」

レッドは、そう叫びながら外へ飛び出した。
とにかく何かしなければ。焦りに焦りながらレッドは辺りを見回す。すると、警官らしき男がレッドの方を見てきた。

「あっ、アイツだ! 駅前で暴れていた赤い猫だ!」
「へ?」

警官は一人二人と増えてレッドを取り囲んだ。まだ何もやっていないのに何故かとりかこまれていた。

「正義を守ってくれていたキミがどうしてあんな破壊活動をしたのか、我々は悲しい!」
「へ、いや、な、なんだよ……それ」
「問答無用! 逮捕だー!」

いっせいに取り押さえられたレッドは、もがいてもがいてもがきまくっていた。

「な、なんなんだよー!!!」

遠くではマスコミらしき人々がその光景を写していた。その光景はもちろんTVで放送され、様々な地域のTVに映し出されていた。

「僕もね。見た目じゃなくてオーラで赤っぽい感じにしていこうと思うよ!」
「やっぱり赤くないレッドが一番ですー」
「そうですよ。っていうか赤い猫なんてそう見ませんしね」
「へへー」

ワルレッドは、談笑している一般の視聴者に見向きもされないまま取り押さえられ、パトカーに連行されて行くのだった。