Season1 第10話

『善良!極悪戦隊』

(挿絵:ワルスカイ隊員)

「ファンファンファンファン………」
「うるせーーー!!」

外で鳴く怪しげな鳥に石を投げつけるほどレッドは苛立っていた。
今日は、前回の勝負で負けた為の罰ゲーム。ワルレッドの一日正義の味方の日なのだ。

「……準備は出来たか」

いつの間にかやってきたワルパープルの方を向く気にもなれず肩を震わせながらレッドは苛立っていた。
と、急にレッドの頭に何やらワッカがはめられた。キれる寸前のレッドはすぐさまパープルに殴りかかろうとすると……

「グギャァァァァァァァ!」

頭に電撃が走り黒コゲとなったレッドがベッドの上にコテンと倒れた。
ヒクヒクと動いているレッドの耳元で低~い声でパープルが呟く。

「……このリングわざわざ作ったんだぜ。今日一日悪事をしたらこうなるんだ。俺が見張っててやるからな」
「く、クソォ……」

レッドは涙がポロポロと意思に反して流れていた。
こうして、地獄の一日が始まったのである。











「……オレは極悪非道のワルレッド様だ……オレは悪の心を持つ最強の……」

ブツブツと自分を無くさないように何度も何度も自分に言い聞かせながらオオサカシティの町並みをレッドは歩いていた。
たまに辺りを見回すがどこかの影になっている所にワルパープルが潜んで様子を窺っているのだ。
とにかく、何もしなければ悪事も善行もしなくて済む。レッドは平穏無事に一日が過ぎることを祈った。

「うわーん。私の風船がー」

その時、目の前に泣いている女の子が現れレッドは思わず足を止めた。
街路樹に風船がひっかかっているのだ。チラと女の事目が合ってしまい余計レッドはしまったと思った。

通り過ぎようと足を出すと何だか頭にチカッと痛みが走ったような気がする。
本当だったら散々この子をバカにしてからかって大笑いしてついでに風船を割ってやるのだがレッドは、歯を食いしばりながら木に向った。

「お、お、オレ、は……史、上最悪の……悪人……で……」

自分を励ましながらレッドは木にかかった風船を手に取った。
その瞬間、放してやりたい!放して悲しませてやりたい!と狂おしいほどに思った。
だが、レッドは仕方なくそのまま地面に降りた。そして女の子に風船を手渡そうとする時、全身鳥肌が立った。
何て自分はカッコ悪い事をしているんだとガンガン頭の中で警鐘がなっているかのようだ。

「お、おれ……は……」

そして、ブルブルと痙攣している手からするりと風船の紐がすり抜けた。

「あっ」
「おっ!……ギャァァァァァァァ!」

思わぬ結果に一瞬レッドが喜んだ瞬間、全身に電撃が走る。
本日2回目の真っ黒コゲになったかと思うと女の子からとび蹴りを食らわされた。

「サイテー、このごくつぶし、消えてなくなれ! 昼食ぬかれろ!」

散々罵詈雑言を吐いて行き、女の子は去っていった。結果的に悪事になって嬉しいような悲しいような。
レッドはまだ痺れののこる手足を動かしてヨロヨロと歩いていった。








なるべく道の隅を歩くようになったレッド。と、そこへ目の前に財布が落ちていた。

「おぉー! ラッキー! いくらはいってるかなー♪」

すぐに財布に飛びついた瞬間レッドは中身を確認した。50万はありそうだった。
早速抜き取ろうとするとまたもレッドの体を電気が駆け抜けた。

「ウギェェェェェェェ!!」

地面に倒れこむレッドの視界に交番が見えた。絶対イヤだとレッドは思った。
何で大金を落とすバカの得にならないといけないのか。落としたやつが悪いのに全部貰って何が悪い。何度も何度も思った。

「クソォ……ゼッテー後でパープルのヤツ半殺しにしてやる……」

ポロっと涙のこぼれるレッドは、ゆっくりと交番に歩いていった。
警官に財布を投げてそのまま走って逃げていった。少しでも自分が良い事をした事を自覚しないために。

だが、自分が良い事をしたと言う事は紛れも無い事実でレッドの胃はキリキリと痛んだ。
良い事なんてくだらないはずなのに。レッドは頭を掻き毟ってボサボサになりながら道の隅で狭そうに歩いた。

かと思えば目の前に怪しげな二人連れがやってきてレッドはさっと物陰に隠れた。
何だか非常に嫌な予感がしたのだった。

「どこ行ってたのよシェンナ」
「ボスにパンチして来たですー」
「全くこの子は……買い物中にうろうろするなって言ってるでしょ」
「ですですー」

女の二人連れがいなくなった後レッドは急いで走って逃げた。直感的にあの二人は正義の味方の様なオーラを感じたのだった。
と、その時急ぎすぎたレッドは思い切り転んで側にある喫茶店のガラス張りの窓に体当たりした。

「グギェギャァァァァァァァァ!!!!!!」

しっかりそれを見ているパープルからの電撃攻撃にレッドはもがいていると、

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

誰かの足に当たった感触がし、そいつにも感電しているようだった。
レッドは思い切りしびれている中で他のヤツにも危害を加えている事に快感を感じていた。
長い長い電撃を終えて真っ黒になったレッドは立ち上がりながらニヤーと嫌な笑みを浮かべながら変な快感に酔いしれていた。
これで先ほどの財布騒動がチャラになった気がした。ガラスは割ったし客にも電撃をまきぞわせた。

「あ、ありがとう!」

しかし、レッドが予期していた言葉とは全く予想だにしない言葉が他の客から叫ばれた。
ありがとう等と言われて鳥肌が立った。

「そいつは強盗だったんだ。あやうく立てこもられて大事態になる所だった!」
「窓から入ってくるなんて考えたねキミ。神様みたいな人だよ。ありがとう」
「見た目は不良っぽいのに、心は正義感に満ち溢れているんだね。えらい!」

レッドはぞわぞわと全身の毛が逆立つような気がしてきた。みんなが自分に感謝している……耐えられない。

「良い人だわあなたって。辛い浮世に現れた正義の人ね」
「私の知り合いに警官がいるんだが、表彰してもらうように頼んで見るよ! 奇跡の善人だからね」
「勇気ある行動、立派だったよ。是非、キミの写真をこの店に飾りたい。命を救った大恩人!」

レッドは、すっかり顔を青くして眩暈がし始めていた。自分が善人だとかそんな風に言われてレッドは死んでしまいそうだった。涙がぽろっとこぼれてきた。

「や、やめろ! やめろぉぉぉぉ!!!」

レッドは頭を抱えながら、その場から立ち去った。頭がおかしくなりそうだった。
飛び出した瞬間、外にいる少年にレッドはぶつかり地面に倒れた。またビリビリと電撃が走った。何か頭の中でプチンと何か切れた音がした。

「いたたたた……な、なんだよぉー。ぶつかってきてー」
「オレは……赤い悪魔……と……呼ばれた男……ケケケ……」

レッドはニヤニヤと笑いながらフラフラとその場で揺れていた。
少年は不気味に思いながら、パンパンとホコリを払いながら立ち上がった。と、急に少年は明るい顔をした。

「あ、飴玉が取れてる。喉につまってて困ってたんだー。ありがとー」

ありがとう。その言葉にレッドの目はギラリと光り、少年に飛び掛った。

「オレ様は極悪非道のレッド様だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

その瞬間ビリビリと電撃が走った。しかしレッドは笑いながらガンガンと少年を殴りつけた

「ケケケケケケ!!! オレ様は赤い悪魔だぁぁぁぁぁ!!!」
「ギャァァァァァ!」

電撃は何十分も流れ続けた。真っ黒コゲになりながらも狂気の赤い目だけはギラギラ光りながら
少年を何度も何度も殴り続けていた。完全に頭がおかしくなってしまっていた。

「ケケケ! オレ様は世界一の極悪人だぞぉぉぉぉぉ!!」

その様子を見ていたパープルはさすがに引いてしまい。電撃ボタンのスイッチを切り、
レッドが気絶するその瞬間までその光景を正視することはできなかった。










『ワルイコワルイコドレダケワルイ……ジャン! レッドさん0点です』
「ケケ……ケケケ……」

ベッドの上でぺしゃんと座りながら悪どい笑みを浮かべているレッドはコンパクトの言葉など聞いていなかった。
パープルは少し気まずそうにその横に座っていた。

『かっこ悪すぎです。レッドさん。悪人はあんな狂っちゃいけません』
「……ずいぶんと薬が過ぎたみたいだったな」
『パープルさん。レッドさんのアイデンティティは悪なんですから気をつけてくださいよ』

パープルは、内心レッドに申し訳なさを感じてしまった。あんな光景を見せられてはさすがのパープルもそう思わされた。

『一日寝れば治るでしょう。では、今日の採点はここまでっ』

コンパクトの光が消えるとパープルはポンとレッドの頭を叩いた。

「……お前ってヤツはバカだな。ホントに」












ちょうどその頃、とある悪の組織のアジトの中でパラパラと悪者の友を見ている男が一人。

「……ん!? こ、コイツは……!」

黒い光に照らされた男の鋭い目がキラリと光った。
男は雑誌を置くとすぐさま、外へと飛び出した。

誰もいなくなったそこに置かれた雑誌のページ。
それは、今月のダメダメ悪人特集。その隅っ子にさりげなく載っているワルレンジャーの写真だった。
一番大きく写っているレッドがやけに目立っていた。