Season1 第11話

『苦悩!極悪戦隊』

(挿絵:ワルベニウスト隊員)

『……ドンドンドン!』

錆びたドアを激しくノックする音がしたのは7月のある日の早朝のこと。
誰も出るわけが無い。皆、遅寝遅起きだから。なぜならばここは極悪戦隊のアジトだから。
唯一起きているパープルは出ない。めんどくさいから。

「オイ、レッド。お前行け」

ベッドの上にバカみたいに口を開けて寝ているレッドを蹴り落としたパープルだったが、
さすがに早朝すぎたのか怒りと共に起きることなくグーグーと相も変わらず寝ていた。

パープルは仕方ないのでドアを開けて床に転がっているレッドを足で転がしながら玄関へと向った。
レッドは面白いようにグルグル転がりながら心地良さそうに眠っている。パープルは思わずほくそ笑んだ。

「ホント馬鹿だぜ、コイツ……」

レッドの頭や顔に床の砂埃が徐々に付き始めると、玄関にやって来た。
相変わらずノックの音は続いている。パープルはレッドの体を踏んで何度も何度も助走を付け、思い切り蹴飛ばした。
ぐるぐるぐるぐるぐる……ドカッ。レッドの顔面がドアにぶつかりゆっくりとドアが開いた。

「うぁ、イテぇ……な、なんだ……うぇっ、ぺっぺっ、口に砂が入ってやがるぜー!」
「…………」

砂まみれほこりまみれで顔はただでさえ赤いのにさらに赤くなってとんでもない状態のレッド。
ドアの向こうにいる訪問客は、そんなレッドを愕然とした表情で見つめていた。

「ん、だ、誰だ!?」

ようやくレッドも気付き訪問者の顔を見た。一瞬、朝日のせいで視界がぼやけたが徐々に見えてきた。

「だ、ダークレッド……お前」

訪問客の表情は、驚きとも哀しみともつかぬ顔をしていた。
レッドは、久々に再会した元仲間にどんな顔を知ればいいか解らず、ただただ苦笑いをした。











「よっ、コイツはな。このオレを一人前の悪人にしてくれたダークシャドウの仲間だぜ!」
「カイザーだ。よろしく」

目付の鋭い男は、僅かに起きている隊員達を嫌悪しているかのように睨みながら見回した。
ただ、隊員一目つきの悪い男、ワルパープルの事は多少気に入ったのか彼を見た時だけは少し目元が緩んだ。

「カイザーはオレと同期なんだ。一緒に悪事の訓練とか色々やったよなー。懐かしいぜー!」
「確かに、ダークシャドウは素晴らしい組織だった。今となっては解散が惜しまれるな」

レッドは初めて隊員らに見せる安心しきった顔を見せた。やはり旧友と言うのは誰にとっても嬉しい物なのだろう。
いつもは独り占めしている缶ビールまでカイザーに差し出しているのはよっぽどだ。

「そー言えば、このバカはそのダークシャドウで優秀な悪人だって言ってるんだがホントなのか?」

パープルは、常日頃から疑問に思っていたレッドの事をカイザーに聞いてみた。
この男なら嘘はつかないだろうとパープルはすぐに見抜いていた。カイザーは眉一つ動かさずまっすぐパープルを見て応えた。

「あぁ、本当だ。次にダークシャドウを動かすのは、ダークレッドかダークカイザーかと言われたくらいだからな」
「ほら見ろ! だから言っただろ? オレは一流の悪人なんだぜ! あと、誰がバカだこのヤロー!」

カイザーの言葉は本当みたいだが、遠い世界の人間の話を聞かされているようでパープルはレッドのバカさ加減を打ち消すほどまでには至らなかった。

「なぁ、カイザー、覚えてるか? 初めて悪人デビューした日のこと」
「当たり前だろ。お前が赤色になった瞬間は今でも覚えてる」
「そーいや、俺の格好はお前が決めてくれたんだよな。お前は赤にしろって」
「そーいうお前こそ、なんか目の所にガーッて感じで入れるとカッコイイとか言っただろう。お陰でこのザマだぜ」

カイザーは右目の所に付いているカミナリみたいな模様を撫でながら微笑んだ。

「何だよ。オレのこのトゲトゲしてるのだってお前のせいだぞ。お陰でますますカッコよくなっちまったぜー」
「フン、よく言うぜ」

いつものワルレン本部にはない、ほのぼのとした穏やかなムードが漂っていた。
その気持ち悪さに数名の隊員が部屋を後にするほど和やかな光景だった。そして遂にパープルも何だか嫌気が差してその場を去った。

「で、今日は何の用で来たんだよ」
「…………」

レッドの言葉に、突然カイザーの表情は硬くなった。

「何だよ。まさか、オレの所に入れてくれとか言うんじゃねーだろうなー」
「……逆だ」
「あ?」
「ダークレッド。お前、俺の所に来ないか」

ふざけるなよ。と茶化しそうになったレッドだったが、カイザーの目は真剣だった。
長年の付き合いなだけあって、レッドは真面目な顔をして、彼に向き合った。

「オレ、一応持ってるんだぞ。ワルレンジャーってな」
「……前から噂は聞いていたんだ。新しい組織を作ったってな」
「だろ。そんで、結構な活躍を」
「評判は最悪だ。ダークシャドウのOBらもかなり苛立っていると聞く」
「……え?」
「悪者の友のランキングでも常に最下位。数年前のオオカミ軍団とか言う組織の記録。
あれを更新しているんだぞ。お前の所のワルレンジャーは」

レッドは、物凄く恥ずかしい気持ちになった。これが隊員だったらキレてごまかすことも出来ただろう。
しかし、ここにいるのはかつての旧友。ただ、俯き加減に赤い顔をさらに赤くして押し黙ることしかできなかった。

「お前は、個人で行動するのが上手いからな。まとめ役にはまだ向かないのかもしれない。
それに、隊員もバラバラで、ダークシャドウみたいに統率も取れていない。お前をこんな所に置くのは忍びない。
お前がよければ、俺はいつでもお前をウチの組織に迎え入れてやる。どうだ」

レッドは、チラとカイザーを見た。今更頼れるか。と言いたくもあるが、

「……見るだけ。なら、見てやろっかな?」
「そう言うと思った。なら、早速行こうじゃないか」
「お、おう」

レッドは、カイザーに連れられて、すぐに席を立った。
実際、ワルレンジャーの隊員は自分の言う事は聞かないし、レッド自身も困っていたのだ。

「じゃ、先に行っといてくれ。すぐに追うから」
「おー。OKOK」

レッドが外に向うと、カイザーはゆっくりと出口とは反対側の方に歩き出した。














「げげーっ!?」

カイザーの組織に付くなり、レッドは物凄く汚い声を発して驚いた。
何故ならば、レッドが来たのはある程度の年季のある悪者なら知らない物はいないと言う……

「あぁ、ロイフェル団なんだ。俺の組織」
「一流の老舗じゃねーか。オイ!」
「中途採用で何とか受かったんだよ」

何事もなかったかのように中に入っていくカイザー。
レッドはただただ、その老舗の内装を物珍しそうに眺めながら彼の後を付いていった。
すると、カイザーがふと立ち止まり、廊下の隅で作業をしている戦闘員らしき奴らに声をかけた。

「オイ、そこのお前達」
「あ? 何だヨ! 偉そうに!」
「休んでないで、少しは仕事しろ。それじゃバイト代は出せないぞ」
「フザけんなって感じー。少しは休まないとやってられないし」
「俺、たくさん、した」

明らかに反抗している紫や黒の猫たち。レッドならブチ切れている所だったが、
カイザーは実に落ち着いて、対応する。

「なるほど、じゃぁ次にここに来た時は必ずやっているんだろうな?」
「あー。本当にうっさいナ。言われなくてもするヨ。するヨ」
「お前たちーーーーーーーーー!!!」


すると、奥の方からまたも黄緑色をした彼らの仲間(額に同じ模様があるのですぐに判断が付いた)が、一人
叫びながらやってきた。かと思うと3人の頭を引っぱたき、すぐさま土下座を始めた。

「ごめんなさいニャ。本当に、コイツらバカで仕方がないのニャ。お許しくださいニャ」
「まぁ、判れば良い。日当ははずむんだからちゃんとやれよ」
「ハハッ。幹部様じきじきにおっしゃっていただけるとはあり難いですニャ」
「幹部!?」

驚いたのは戦闘員だけではなかった。レッドまでも彼らと声を揃えて。

「ごめんなさいって感じ。謝りますって感じ」
「俺、悪い。許す。頼む」
「俺も謝ります。すいません」
「うん。しっかりやれよ」

カイザーは、悠々と土下座する彼らの前を通り過ぎて行った。
レッドは慌てて彼を追いかけ、

「オイ、お前幹部だったのかよ。聞いてねーぞ」
「ソツなくこなしていったら順調に出世しただけさ。だから、お前を引き入れる事も出来るんだぞ」
「……そ、そーだけどよ」

レッドは、複雑な心境だった。まさか旧友がこんな所で出世していたなんて……。
ボケボケな団体の隊長を気取っている自分よりも、相当良い地位だ。

「……とりあえず、この部屋で待っていてくれ」

レッドは、既にカイザーが自分を部屋に案内していてくれたことになかなか気付かなかった。
すっかり、考え込んでしまっていた。レッドは、いつになくオドオドとしながら言われるがまま中に入った。

中には、ベッドと小さな椅子とテーブルがあるだけだった。
その上にごろんと横になると、カイザーはドアを閉めた。レッドは天井を見つめたまま、どうした物かと考える。
ここに来た方がいいか。このままワルレンジャーの隊長でなんとかやっていくか。

「……あー。わかんね。頭痛くなってきた」


その部屋の前のカイザーは、薄暗い廊下を歩き、首領のいる部屋にやって来た。
低い地を這うような声が、部屋に響く。

「……カイザーよ。計画は順調に進んでいるようだな」
「もちろんです」

首領の足元に跪くカイザーは、ニヤリと微笑んだ悪人の顔で応え、
青や緑などの球が入った袋を頭上に高く掲げた。

「いよいよお話していた計画を始める時が来ました。奴がどうするか……見物です」











『PPPPPPPPPPPPPPP……PPPPPPPPPP……』


レッドの部屋のコンパクトが鳴り響く。しかし、誰も出ることは無い。
レッドがいないからではない。アジトには、出る人も、そして出ない人すらいないのだ……。